説明

音場形成装置

【課題】複数の音場を形成する際に、再生音量が小さかったり、再生音の高域特性が調整されていたりしても、設計者が意図したように音場の立体感が得られる音場形成装置を提供する。
【解決手段】音場形成装置1は、操作部67が複数の音場の生成指示を受け付けた際に、電子ボリューム51の出力音量が閾値以下であれば、出力音量に応じて効果レベル可変アンプ89に音場の効果レベルを補正させる。また、操作部67が複数の音場の生成指示を受け付けた際に、パラメトリックイコライザ47が高域特性を低下させるターゲットカーブに基づいて調整されていると、反響音生成部の各ローパスフィルタのカットオフ周波数を所定量高域側に移動させる。これにより、聴取者に、音場の広さが変化していないように感じさせたり、抜けの良い音により音場が形成されているように感じさせたりすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、利用者の周囲に音場を形成する音場形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、マルチチャンネルサラウンドサウンドを再生できるAVシステムをリビングルームやリスニングルームなどに設けて、家の中で映画や音楽等のコンテンツを楽しむユーザが増加している。ユーザは、映画や音楽等のDVDをこのAVシステムで再生すると、複数のスピーカからマルチチャンネルのサラウンドサウンドが再生されるので、ユーザは周囲から音に包まれる感覚を体感しながら映画や音楽等を楽しむことができる。
【0003】
また、従来のAVシステムには、単にマルチチャンネルサラウンドサウンドを再生するだけでなく、マルチチャンネルサラウンドサウンドから複数の反射音を生成して複数の音場を形成することで、さらに立体感のあるサウンドを再生する音場制御装置があった(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特許第2755208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の音場制御装置では、複数の音場を形成するように設定した際に、再生音量を小さくすると、音場が狭くなったように感じられて、設計者が意図したような広さの音場とならない場合があった。
【0005】
また、音場制御装置に接続したスピーカの特性を自動的に調整する処理を行って、高域特性を抑制するように出力段で調整した状態で、複数の音場を形成するように設定すると、高域がこもったような音になるため、設計者が意図したような周波数特性の音場にならないことがあった。
【0006】
そこで、本発明は、複数の音場を形成する際に、再生音量が小さかったり、再生音の高域特性が調整されていたりしても、設計者が意図したような音場効果が得られる音場形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記の課題を解決するための手段として、以下の構成を備えている。
【0008】
(1)複数チャンネルの音声信号に基づく音声と、前記複数チャンネルの音声信号から生成した反射音及び残響音と、を聴取位置の周囲に配置した複数のスピーカから放音させて、聴取位置の周囲に複数の音場を形成する音場形成装置であって、
複数の音場の生成指示を受け付ける操作手段と、
前記操作手段が複数の音場の生成指示を受け付けると、前記複数チャンネルの音声信号から反射音及び残響音を生成する反響音生成手段と、
前記反響音生成手段が生成した反射音及び残響音による音場の効果レベルを調整する効果レベル調整手段と、
前記音声、反射音及び残響音の出力音量を一括して調整する主音量調整手段と、
前記操作手段が複数の音場の生成指示を受け付けており、前記主音量調整手段の出力音量が閾値以下であれば、前記効果レベル調整手段に出力音量に応じて音場の効果レベルを補正させる制御手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
この構成においては、音場形成装置は、操作手段が複数の音場の生成指示を受け付けた際に、主音量調整手段の出力音量が閾値以下であれば、効果レベル調整手段に出力音量に応じて音場の効果レベルを補正させる。したがって、この発明の音場形成装置は、聴取位置の周囲に複数の音場を形成する際に、出力音量が閾値より小さくても、反射音と残響音により形成される音場が狭くなったように感じさせることがなく、音場の広さが変化していないように聴取者に感じさせることができる。
【0010】
(2)前記複数のスピーカに放音させるテスト音信号を生成するテスト音源手段と、
前記複数のスピーカが接続され、前記テスト音信号が出力されるスピーカ端子と、
ユーザの聴取位置において前記スピーカが放音したテスト音を収音してテスト収音信号を出力するマイクロフォンが接続されるマイク端子と、
前記マイク端子から入力されたテスト音信号を解析して、前記マイクロフォンが収音したテスト音声の音圧を算出する解析手段と、
リファレンス環境において測定された基準音圧を記憶する記憶手段と、
を備え、
前記主音量調整手段は、設定されている出力音量の値を出力する機能を有し、
前記制御手段は、前記基準音圧と前記テスト音声の音圧の比率である実測音圧比を算出し、この実測音圧比と、前記主音量調整手段から取得した音量の値と、から実際の出力音圧を算出することを特徴とする。
【0011】
この構成においては、音場形成装置は、基準音圧とテスト音声の音圧の比率である実測音圧比を算出し、この実測音圧比と、主音量調整手段から取得した音量の値と、から実際の出力音圧を算出して、この出力音圧が閾値以下であれば、効果レベル調整手段に出力音圧に応じて音場の効果レベルを補正させる。したがって、実測音圧比を算出することにより、再生環境における出力音圧を、リファレンス環境の出力音圧に補正することができるので、聴取位置の周囲に形成する複数の音場が狭くなったように感じないように、出力音圧に応じた音場の効果レベルをより正確に補正できる。
【0012】
(3)複数の周波数特性補正パターンを記憶する記憶手段と、
前記複数の周波数特性補正パターンのいずれかの選択を受け付ける操作手段と、
前記操作手段が受け付けた周波数特性補正パターンを前記記憶手段から読み出して、この周波数特性補正パターンに基づいて、前記複数の音声、反射音及び残響音の周波数特性を調整する特性調整手段と、
遮断周波数を変更可能で所定のスロープ特性を有し、前記反射音及び前記残響音の高域を遮断して、空気減衰及び壁面反射による周波数の変化を演出する高域遮断手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記操作手段が複数の音場の生成指示を受け付けた際に、前記特性調整手段が高域の利得を低下させる周波数特性補正パターンに基づいて調整されていると、高域遮断手段の遮断周波数を所定量高域側に移動させることを特徴とする。
【0013】
この構成においては、制御手段は、操作手段が複数の音場の生成指示を受け付けた際に、特性調整手段が高域の利得を低下させる周波数特性補正パターンに基づいて調整されていると、高域遮断手段の遮断周波数を所定量高域側に移動させる。したがって、この発明の音場形成装置では、音声、反射音及び残響音の高域の利得が低下するように設定されている状態で複数の音場を生成しても、高域がこもったような音と感じさせることがなく、抜けの良い音により音場が形成されているように感じさせることができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明によれば、音場形成装置では、音場プログラムが選択・設定された際に、各スピーカの高域特性が低下するように補正されていたり、再生音量が一定値以下であったりすると、反射音及び残響音の効果レベルを補正したり、反射音及び残響音にその特有の効果を付与するための高域遮断手段(ローパスフィルタ)の遮断周波数を高域側に変更したりするので、設計者が意図したような音場効果が保たれるので、ユーザはその設定にかかわらず複数の音場による立体感を楽しむことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、音場形成装置の概略構成及びリスニングルームでのスピーカの配置状態を示す図である。図2は、反響音生成部の構成を示すブロック図である。図3は、音場形成装置により4つの音場を形成した状態のイメージを示す上面図及び斜視図である。
【0016】
音場形成装置1は、一例として、5チャンネルのサラウンド音を出力するとともに、図3に示すように、プレゼンス音場93、左サラウンド(LS)音場95、右サラウンド(RS)音場97、及び背面サラウンド(BS)音場99の4つの音場を形成する。プレゼンス音場93は、聴取位置90のユーザUの前方に奥行き感及び立体感を与え、ユーザUを前方から包み込む音場である。左サラウンド音場95及び右サラウンド音場97は、聴取位置90のユーザUの左右に奥行き感及び立体感を与え、ユーザUを側方から包み込む音場である。背面サラウンド音場99は、聴取位置90のユーザUの後方にサラウンド感を与え、ユーザUを後方から包み込む音場である。
【0017】
図1に示すように、音場形成装置1は、信号入力端子31、DIR(Digital audio Interface Receiver)33、A/Dコンバータ35、及びHDMI(High Definition Multimedia Interface)(登録商標)レシーバ37、DSP(Digital Signal Processor)デコーダ39、テスト音生成部41、パラメータメモリ43、信号処理部45、遅延処理部46、パラメトリックイコライザ47、D/Aコンバータ49、電子ボリューム51、パワーアンプ53、スピーカ端子55、マイク端子57、マイクアンプ59、A/Dコンバータ61、制御部63、メモリ65、操作部67、及び表示部69を備えている。また、音場形成装置1の信号入力端子31には、デジタルテレビチューナ5及びCDプレーヤ7が接続され、スピーカ端子55には、スピーカ11〜18が接続されている。マイク端子57には、オプティマイザマイク3(以下、単にマイク3と称する。)が接続されている。
【0018】
図1に示すように、リスニングルーム91内には、聴取位置90の前方左・前方中央・前方右に、それぞれ左チャンネル(Lch)用のスピーカ11・センタチャンネル(Cch)用のスピーカ12・右チャンネル(Rch)用のスピーカ13が設置されている。また、聴取位置90の前方に、低音用のスピーカとしてサブウーハチャンネル(LFEch)用のスピーカ18が設置されている。さらに、聴取位置90の前左右上方に音場制御用スピーカとして、それぞれプレゼンス左チャンネル(PLch)用のスピーカ14・プレゼンス右チャンネル(PRch)用のスピーカ15が設置されている。加えて、聴取位置90の後左右にサラウンド左チャンネル(SLch)用のスピーカ16・サラウンド右チャンネル(SRch)用のスピーカ17が設置されている。また、聴取位置90には、マイク3が設置されている。
【0019】
DSPデコーダ39は、信号入力端子31及びHDMI(登録商標)レシーバ37を介して接続されたデジタルテレビチューナ5や、信号入力端子31及びA/Dコンバータ35を介して接続されたCDプレーヤ7などのAV機器から出力されたアナログ音信号やデジタルビットストリームを、Lch(チャンネル)、Rch、Cch、SLch、及びSRchの5チャンネルのデジタル音信号(PCM信号)に変換して、信号処理部45へ出力する。また、DSPデコーダ39は、AAC(登録商標),Dolby Digital(登録商標),DTS(登録商標),MPEG−1/2,MPEG−2マルチチャンネル,MP3など多様なデータフォーマットをサポートしており、外部入力信号を図外のデコーダにより5チャンネルのデジタル音信号(PCM信号)にデコードする。また、DSPデコーダ39は、例えばデジタルテレビチューナ5から5チャンネルのデジタル音信号(PCM信号)が直接入力された場合には、これらの信号をそのまま信号処理部45へ出力する。
【0020】
信号処理部45は、主信号線71、反響音生成部73、テスト音解析部75、及び加算器77・79を備えている。また、反響音生成部73は、プレゼンス(P)反射音生成部80、左サラウンド(LS)反射音生成部81、右サラウンド(RS)反響音生成部82、背面サラウンド(BS)反響音生成部83、及びリバーブ音生成部84を備えている。
【0021】
主信号線71は、DSPデコーダ39が出力した5.1チャンネルのデジタル音信号をパラメトリックイコライザ47へ送出するラインであり、途中に設けた加算器77・79で反射音生成部73で生成されたEBL信号・EBR信号が加算される。
【0022】
反響音生成部73は、ユーザUが選択した音場プログラムに応じたパラメータをパラメータメモリ43から読み出して、プレゼンス音場93、左サラウンド音場95、右サラウンド音場97、及び背面サラウンド音場99を形成するための反射音及び残響音の信号を生成し、さらに、これらの反射音及び残響音の信号からEFL信号・EFR信号・EBL信号・EBR信号を生成する。そして、反響音生成部73は、EFL信号をPLch用のスピーカ14から放音させる信号として遅延処理部46に出力し、EFR信号をPRch用のスピーカ15から放音させる信号して遅延処理部46に出力し、EBL信号をSLch用のスピーカ16から放音させる信号として加算器77に出力し、EBR信号をSRch用のスピーカ17から放音させる信号として加算器79に出力する。さらに、詳細な構成は後述する。
【0023】
パラメータメモリ43は、複数の音場プログラムに応じた音場を反射音及び残響音により形成するためのパラメータを記憶している。パラメータメモリ43は、例えば、コンサートホールやライブハウスや教会等で実測したデータに基づいて世界の著名なコンサートホールやライブハウスや教会等の音場がリアルに再現される音楽再生用の音場プログラムや、映画のジャンル毎に異なる音響効果が得られるできる映画再生用の音場プログラムを複数記憶している。これらの音場プログラムのパラメータは、4つの音場制御用のスピーカ14〜17から反射音を放音してリスニングルーム91内に4つの音場93・95・97・99を形成するように、遅れ時間とゲインの組み合わせにより構成されている。
【0024】
加算器77は、反響音生成部73が出力したEBL信号と、入力信号であるSLch用の音声信号と、を加算して遅延処理部46へ出力する。
【0025】
加算器79は、反響音生成部73が出力したEBR信号と、入力信号であるSRch用の音声信号と、を加算して遅延処理部46へ出力する。
【0026】
遅延処理部46は、後述する視聴空間自動設定モードによる設定に基づいて、信号処理部45が出力したLFEch、Lch、Rch、Cch、SLch、SRch、PLch、PRchの合計8(7.1)チャンネルの音声信号を遅延させる。
【0027】
パラメトリックイコライザ47は、周波数、レベル、Qファクタの3つのパラメータをそれぞれ独立して可変することで、遅延処理部46が出力した8チャンネルの各音声信号の周波数特性を補正する。
【0028】
D/Aコンバータ49は、パラメトリックイコライザ47が出力した8チャンネルの各デジタル音信号をそれぞれアナログ音信号に変換する。
【0029】
電子ボリューム51は、操作部67で設定されたボリューム量に応じてパワーアンプ53の増幅量を調整する。また電子ボリューム51は、現在設定されているボリューム値を出力する。
【0030】
パワーアンプ53は、D/Aコンバータ49が出力した8チャンネルの各アナログ音信号を増幅して各スピーカ11〜18へ出力する。
【0031】
スピーカ11〜18は、パワーアンプ53から出力されたアナログ音信号に応じた音を放音する。すなわち、スピーカ11はLch、スピーカ12はCch、スピーカ13はRch、スピーカ14はPLch、スピーカ15はPRch、スピーカ16はSLch、スピーカ17はSRch、及びスピーカ18はLFEchの音をそれぞれ放音する。
【0032】
制御部63は、操作部67で行われた操作に応じて各部を制御する。例えば、操作部67で音量の調整操作が行われると、制御部63はこの操作に応じた制御信号を電子ボリューム51に出力して、各スピーカ11〜18から放音する音の音量を変更する。制御部63としては、CPUやMPUが好適である。
【0033】
メモリ65は、制御部63で行うプログラムやターゲットカーブを記憶している。
【0034】
操作部67は、音場形成装置1に対してユーザが各種の操作・設定などの入力を行うためのものである。
【0035】
表示部69は、音場形成装置1からユーザに対する伝達事項等を表示するためのものである。
【0036】
また、音場形成装置1は、テスト音生成部41で生成して各スピーカ11〜18から放音させたテスト音をマイク3で収音し、このテスト音を放音してからマイク3で収音するまでの時間を計測したり、マイク3で収音したテスト音の音圧や周波数特性等を測定・解析したりすることで、各スピーカ11〜18の配置、能力、リスニングルーム91の音響特性を測定し、最適な視聴空間を自動的に設定する機能を備えている。
【0037】
テスト音生成部41は、操作部67が操作されて、視聴空間自動設定モードが設定されると、テスト音信号を生成してDSPデコーダ39に出力する。このテスト音信号は、信号処理部45、パラメトリックイコライザ47、D/Aコンバータ49、パワーアンプ53、スピーカ端子55を介して、各スピーカ11〜18に出力されて、各スピーカ11〜18からテスト音が放音される。
【0038】
マイク3は、各スピーカ11〜18から放音されたテスト音を収音して、マイク端子57を介してマイクアンプ59に収音信号を出力する。
【0039】
マイク端子57は、マイク3を接続するための端子である。
【0040】
マイクアンプ59は、マイク3が出力した収音信号を増幅する。
【0041】
A/Dコンバータ61は、マイクアンプ59が出力したアナログ収音信号をデジタル収音信号に変換する。
【0042】
テスト音解析部75は、各スピーカ11〜18からテスト音を放音してからマイク3で収音するまでの時間を計測したり、マイク3で収音したテスト音の音圧や周波数特性等を測定したりして、測定結果を制御部63に出力する。
【0043】
制御部63は、テスト音解析部75が出力した解析結果に基づいて、遅延処理部46及びパラメトリックイコライザ47に対して、各チャンネルの信号に対するパラメータを設定する。
【0044】
次に、反響音生成部73の詳細な構成について説明する。図2に示すように、反響音生成部71は、プレゼンス反射音生成部80、左サラウンド反射音生成部81、右サラウンド反響音生成部82、背面サラウンド反響音生成部83、リバーブ音生成部84、加算器85〜88、効果レベル可変アンプ89を備えている。
【0045】
また、プレゼンス反射音生成部80は、Lchアンプ101、Rchアンプ102、Cchアンプ103、SLchアンプ104、SRchアンプ105、加算器106、ローパスフィルタ107、ハイパスフィルタ108、アンプ109、畳み込み処理部110を備えている。
【0046】
Lchアンプ101・Rchアンプ102・Cchアンプ103・SLchアンプ104・SRchアンプ105は、それぞれ主信号線71を介して入力されたLch・Rch・Cch・SLch・SRchの各音声信号(以下、5chの音声信号と称する。)を増幅して、加算器106へ出力する。
【0047】
加算器106は、5chの音声信号を加算して、加算信号をローパスフィルタ107へ出力する。
【0048】
ローパスフィルタ107は、空気減衰や壁面反射で周波数が変化する作用をシミュレートするためのフィルタであり、加算信号に対してカットオフ周波数(遮断周波数)以上を減衰させる。ローパスフィルタ107は、一例として、スロープ特性が−6dB/octであり、カットオフ周波数の標準値が7.1kHzで、カットオフ周波数を1/6オクターブずつ変更することが可能である。
【0049】
ハイパスフィルタ108は、ローパスフィルタ107が出力した加算信号に対して不要な低域成分をカットする。
【0050】
アンプ109は、ハイパスフィルタ108が出力した加算信号を増幅する。
【0051】
畳み込み処理部110は、FIRフィルタを備えており、畳み込み演算処理を行ってプレゼンス音場を形成するための初期反射音信号を生成し、EFL信号・EFR信号・EBL信号・EBR信号の4つに分けて出力する。
【0052】
このような構成により、プレゼンス反射音生成部80は、プレゼンス音場を形成するための初期反射音信号を生成して出力する。
【0053】
同様に、左サラウンド反射音生成部81は、左サラウンド音場を形成するための初期反射音信号を生成して出力し、右サラウンド反響音生成部82は、右サラウンド音場を形成するための初期反射音信号を生成して出力し、背面サラウンド反響音生成部83は背面サラウンド音場を形成するための初期反射音信号を生成して出力する。
【0054】
なお、左サラウンド反射音生成部81、右サラウンド反響音生成部82、及び背面サラウンド反響音生成部83は、プレゼンス反射音生成部80と同様の構成であるため、図2おいて詳細な構成の図示を省略している。
【0055】
リバーブ音生成部84は、Lchアンプ121、Rchアンプ122、Cchアンプ123、SLchアンプ124、SRchアンプ125、加算器126、ローパスフィルタ127、ハイパスフィルタ128、アンプ129、リバーブディレイ130、リバーブ処理部131、EFLアンプ132、EFRアンプ133、EBLアンプ134、及びEBRアンプ135を備えている。
【0056】
Lchアンプ121・Rchアンプ122・Cchアンプ123・SLchアンプ124・SRchアンプ125は、それぞれ主信号線71を介して入力された5chの音声信号を増幅して、加算器126へ出力する。
【0057】
加算器126は、5chの音声信号を加算して、加算信号をローパスフィルタ127へ出力する。
【0058】
ローパスフィルタ127は、空気減衰や壁面反射で周波数が変化する作用をシミュレートするためのフィルタであり、加算信号に対してカットオフ周波数(遮断周波数)以上を減衰させる。ローパスフィルタ127は、一例として、スロープ特性が−6dB/octであり、カットオフ周波数の標準値が7.10kHzで、カットオフ周波数を1/6オクターブずつ変更することが可能である。
【0059】
ハイパスフィルタ128は、ローパスフィルタ127が出力した加算信号に対して不要な低域成分をカットする。
【0060】
アンプ129は、ハイパスフィルタ128が出力した加算信号を増幅する。
【0061】
リバーブディレイ130は、リバーブ音(残響音)を反射音よりも遅れて放音されるように、加算信号を遅延させる。
【0062】
リバーブ処理部112は、複数のフィルタを内蔵しており、プレゼンス音場・左サラウンド音場・右サラウンド音場・背面サラウンド音場(4つの音場とも称する。)に対して付加する残響成分の信号を生成し、EFL信号・EFR信号・EBL信号・EBR信号の4つに分けて出力する。
【0063】
このような構成により、リバーブ音生成部84は、4つの音場に対して付加する残響成分(残響音)の信号を生成して出力する。
【0064】
加算器85〜88は、それぞれプレゼンス反射音生成部80、左サラウンド反射音生成部81、右サラウンド反響音生成部82、背面サラウンド反響音生成部83、及びリバーブ音生成部84が出力したEFL信号・EFR信号・EBL信号・EBR信号を加算して、効果レベル可変アンプ89に出力する。
【0065】
効果レベル可変アンプ89は、反射音及び残響音の効果レベルを調整するためのものであり、一例として、3dB〜−6dBの範囲で効果レベルを変更できる。なお、効果レベルの変更範囲は、この値に限るものではなく、他の値でも良い。
【0066】
ユーザUは、音場形成装置1や各スピーカ11〜18を図1に示したようにセッティングした際には、マイク端子57にマイク3を接続し、聴取位置90のユーザUの耳の高さにマイク3を設置する。そして、ユーザUは、操作部67を操作して視聴空間自動設定モードを選択することで、各スピーカ11〜18の配置、能力、リスニングルーム91の音響特性を測定し、最適な視聴空間を自動的に設定することができる。
【0067】
また、ユーザUは、視聴空間自動設定モードを選択する際に、好みの周波数特性補正カーブ(ターゲットカーブ)を選択して、各スピーカの周波数特性がこのターゲットカーブとなるように補正させることができる。ここで、ターゲットカーブとは、パラメトリックイコライザ47を調整するときに目標とする周波数特性のカーブのことである。
【0068】
音場形成装置1は、各スピーカーの特性を均一にするフラットという名称のカーブ、高域特性を下げた状態にそろえるナチュラルという名称のカーブ、フロント側のL/Rスピーカの特性に、各スピーカの特性を合わるフロント近似という名称のカーブ等、複数のターゲットカーブをメモリ65で記憶しており、操作部67の操作によりいずれかのターゲットカーブが選択されると、各スピーカ11〜18の周波数特性がこのターゲットカーブに沿った特性となるように、パラメトリックイコライザ47を調整する。このように、ターゲットカーブを選択することで、部屋や装置の条件によっては一部の周波数が極端に補正されるのを防いだり、好みの周波数特性に調整したりすることができる。
【0069】
また、ユーザは、リファレンスルームで予め測定したリファレンス音圧レベルと、測定した音圧レベルと、により音圧を補正することができる実測音圧比測定を、視聴空間自動設定モードを行う際に実行するように設定することができる。音場形成装置1は、リファレンスルームで予め測定したリファレンス音圧レベルのデータをメモリ65に記憶しており、視聴空間自動設定モードを行う際に実測音圧比測定を実行するようにユーザが選択したことを検出すると、例えば、−20dB〜20dBまで0.5dBステップで、再生環境における音圧を測定する。この実測音圧比測定を実行することで、後述する反射音及び残響音の効果レベルの補正をより正確に行うことができる。
【0070】
また、ユーザUは、上記のように視聴空間自動設定モードにより最適な視聴空間を自動的に設定するのではなく、操作部67を操作して好みのパラメータを設定することも可能である。
【0071】
このように、ユーザUは、音楽を聴取したり映画を視聴したりする際に、操作部67を操作して好みの音場プログラムを選択・設定することで、図3に示すように、音場形成装置1は、ユーザUの周囲にプレゼンス音場93・左サラウンド音場95・右サラウンド音場97・背面サラウンド音場99を形成するので、ユーザUは、立体的に音場に包まれるような感覚を味わいながら、音楽や映画を楽しむことができる。
【0072】
次に、音場形成装置1における特徴的な動作について説明する。図4は、(A)が反射音及び残響音の効果レベルの補正カーブの一例を示す図であり、(B)がターゲットカーブの一例を示す図である。音場形成装置1では、音場プログラムが選択・設定された際に、音量がリファレンスレベル(一定値)以下であると、ボリューム値に応じて、反射音生成部73の効果レベル可変アンプ89の増幅率を変更して、反射音及び残響音の効果レベルを補正する。例えば、リファレンスレベルを−18dBとする。ここで、リファレンスレベルとは、ユーザが気持ちよく音声を聴取できる最適レベルであり、音場プログラムが選択・設定された状態で、違和感なく音楽や映画の音声を聴取できる最適のレベルとして、設計者が定義したものである。
【0073】
図4(A)に示すように、音圧が−18dB(リファレンスレベル)以下で、反射音及び残響音の効果レベルを補正するようにする。また、−18dB〜−48dBまでは、音量が小さくなるほど効果レベルを大きくし、−48dBで効果レベルの最大値である3dBとなるように設定する。さらに、音圧が−48dB未満では効果レベルを最大値である3dBに設定する。
【0074】
このように、音場プログラムが選択・設定された際に、音量に応じて反射音及び残響音の効果レベルを補正することで、音場毎の違いがわかり、音場プログラムによる設計者が意図した効果が得られる。
【0075】
なお、反射音及び残響音の効果レベルの補正カーブは、図4(A)に示したものに限られるものではなく、実験等を行って設定すると良い。また、補正カーブや傾きやリファレンスレベルは、音場プログラムによって、その値を設定する用にしても良い。
【0076】
次に、図4(B)に示すターゲットカーブは、ナチュラルという名称のものであり、高域の利得を徐々に低下させる周波数特性である。音場形成装置1において、視聴空間自動設定モードを行う際にターゲットカーブとして”ナチュラル”が選択されると、部屋や装置の条件によって、一部の周波数が極端に補正されるのを防ぐことができる。しかし、音場形成装置1では、視聴空間自動設定モードの際に、図4(B)示すような高域特性を低下させるターゲットカーブが選択されて、各スピーカ11〜18の周波数特性が補正されている場合には、高域の音がこもったように聞こえることがある。そこで、本発明は、高域の音がこもったように聞こえるのを防止するために、いずれの音場プログラムが選択されても、プレゼンス反射音生成部80のローパスフィルタ107、左サラウンド反射音生成部81・右サラウンド反響音生成部82・背面サラウンド反響音生成部83の不図示のローパスフィルタ、及びリバーブ音生成部84のローパスフィルタ127のカットオフ周波数を1〜2ステップ高域側に移動させる。つまり、1/6オクターブ〜2/6オクターブ移動させる。例えば、各ローパスフィルタのカットオフ周波数の標準値が7.10kHzの場合には、カットオフ周波数を8.08kHz、または9.07kHzに変更する。これにより、複数の音場を形成するための反射音や残響音の高域を出力することができるので、ターゲットカーブとしてナチュラルを選択したことにより、高域がこもったような音になるのを防止できる。
【0077】
また、音場形成装置1では、選択された音場プログラムによって、各ローパスフィルタのカットオフ周波数を移動させるステップ数を変えるようにすることも可能である。例えば、視聴空間自動設定モードを行う際にターゲットカーブとして”ナチュラル”が選択されて補正が完了した状態で、教会をシミュレートした音場プログラムが選択された場合には、カットオフ周波数を高域側に3ステップ移動させるようにし、大ホールをシミュレートした音場プログラムが選択された場合には、カットオフ周波数を高域側に2ステップ移動させるようにし、ドラマ映画用の音場プログラムが選択された場合には、カットオフ周波数を高域側に1ステップ移動させるようにすると良い。音場プログラムによって高域のこもり感が異なる場合には、このように音場プログラムに応じてカットオフ周波数の変更量を変化させることで、再生する音声の高域を適正に補正することができる。
【0078】
なお、ローパスフィルタのカットオフ周波数は1/6オクターブステップで変更する構成に限るものではなく、任意の値に変更できるように構成しても良い。
【0079】
次に、音場プログラムが選択・設定された際に、音量に応じた反射音及び残響音の効果レベルの補正処理についてフローチャートに基づいて説明する。図5は、反射音及び残響音の効果レベルの補正処理を説明するためのフローチャートである。
【0080】
音場形成装置1の制御部63は、音場プログラムの選択が有るまで待機しており(s1:N)、操作部67が操作されて音場プログラムが選択されたことを検出すると、メモリ65の設定情報を確認して、視聴空間自動設定モードを行う際にターゲットカーブとしてナチュラルが選択されたか否かを確認する(s2)。制御部63は、ターゲットカーブとしてナチュラルが選択されていた場合には、プレゼンス反射音生成部80・左サラウンド反射音生成部81・右サラウンド反響音生成部82・背面サラウンド反響音生成部83・リバーブ音生成部84の各ローパスフィルタのカットオフ周波数を、2ステップ(2/6オクターブ)移動させる(s3)。そして、制御部63は、電子ボリューム51から現在のボリューム値を取得する(s4)。
【0081】
一方、ステップs2において、視聴空間自動設定モードを行う際にターゲットカーブとしてナチュラルが選択されていないか、または、視聴空間自動設定モードが行われていないし場合には、直ちにステップs4の処理を行う。
【0082】
続いて、制御部63は、視聴空間自動設定モードで実測音圧比の測定が実行されて、そのデータをメモリ65が記憶しているか否かを確認する(s5)。制御部63は、実測音圧比のデータをメモリ65が記憶していない場合には、ステップs2で取得した現在のボリューム値からスピーカ11〜18の再生音圧を算出する(s6)。
【0083】
一方、制御部63は、実測音圧比のデータをメモリ65が記憶している場合には、実測音圧比のデータと、ステップs4で取得した現在のボリューム値と、からスピーカ11〜18の実際の再生音圧を算出する(s7)。
【0084】
制御部63は、リファレンスレベル(−18dB)と、算出した実際の再生音圧と、の差分(リファレンスレベル−再生音圧)を算出する(s8)。
【0085】
制御部63は、差分が30dB以上の場合には(s9:Y)、効果レベルの最大値である3dBとなるように補正する(s10)。そして処理を終了する。
【0086】
また、制御部63は、差分が0dB以下の場合には(s9:N,s11:Y)、効果レベルの補正は行わずに(s12)、処理を終了する。
【0087】
また、制御部63は、差分が0dB〜30dBの場合には(s9:N,s11:N)、図4に示した補正カーブから補正値を算出し(s13)、反射音及び残響音の効果レベルをその補正値に補正する(s14)。そして、処理を終了する。
【0088】
以上のように、音場形成装置1では、音場プログラムが選択・設定された際に、各スピーカ11〜18の高域の利得が低下するように補正されていたり、再生音量が一定値以下であったりすると、反射音及び残響音の効果レベルを補正したり、反射音及び残響音にその特有の効果を付与するためのローパスフィルタのカットオフ周波数を高域側に変更したりするので、ユーザはその設定にかかわらず複数の音場による立体感を楽しむことができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】音場形成装置の概略構成及びリスニングルームでのスピーカの配置状態を示す図である。
【図2】反射音生成部の詳細な構成を示すブロック図である。
【図3】、音場形成装置により4つの音場を形成した状態のイメージを示す上面図及び斜視図である。
【図4】(A)が反射音及び残響音の効果レベルの補正カーブを示す図であり、(B)がターゲットカーブの一例を示す図である。
【図5】反射音及び残響音の効果レベルの補正処理を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0090】
1…音場形成装置 3…オプティマイザマイク(マイク) 9…操作部 11〜18…スピーカ 31…信号入力端子 39…DSPデコーダ 41…テスト音生成部 43…パラメータメモリ 45…信号処理部 46…遅延処理部 47…パラメトリックイコライザ 49…D/Aコンバータ 51…電子ボリューム 53…パワーアンプ 55…スピーカ端子 57…マイク端子 59…マイクアンプ 61…A/Dコンバータ 63…制御部 65…メモリ 67…操作部 69…表示部 71…主信号線 73…反響音生成部 75…テスト音解析部 80…プレゼンス反射音生成部 81…左サラウンド反射音生成部 82…右サラウンド反響音生成部 83…背面サラウンド反響音生成部 84…リバーブ音生成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数チャンネルの音声信号に基づく音声と、前記複数チャンネルの音声信号から生成した反射音及び残響音と、を聴取位置の周囲に配置した複数のスピーカから放音させて、聴取位置の周囲に複数の音場を形成する音場形成装置であって、
複数の音場の生成指示を受け付ける操作手段と、
前記操作手段が複数の音場の生成指示を受け付けると、前記複数チャンネルの音声信号から反射音及び残響音を生成する反響音生成手段と、
前記反響音生成手段が生成した反射音及び残響音による音場の効果レベルを調整する効果レベル調整手段と、
前記音声、反射音及び残響音の出力音量を一括して調整する主音量調整手段と、
前記操作手段が複数の音場の生成指示を受け付けており、前記主音量調整手段の出力音量が閾値以下であれば、前記効果レベル調整手段に出力音量に応じて音場の効果レベルを補正させる制御手段と、
を備えたことを特徴とする音場形成装置。
【請求項2】
前記複数のスピーカに放音させるテスト音信号を生成するテスト音源手段と、
前記複数のスピーカが接続され、前記テスト音信号が出力されるスピーカ端子と、
ユーザの聴取位置において前記スピーカが放音したテスト音を収音してテスト収音信号を出力するマイクロフォンが接続されるマイク端子と、
前記マイク端子から入力されたテスト音信号を解析して、前記マイクロフォンが収音したテスト音声の音圧を算出する解析手段と、
リファレンス環境において測定された基準音圧を記憶する記憶手段と、
を備え、
前記主音量調整手段は、設定されている出力音量の値を出力する機能を有し、
前記制御手段は、前記基準音圧と前記テスト音声の音圧の比率である実測音圧比を算出し、この実測音圧比と、前記主音量調整手段から取得した音量の値と、から前記複数のスピーカの実際の出力音圧を算出する請求項1に記載の音場形成装置。
【請求項3】
複数の周波数特性補正パターンを記憶する記憶手段と、
前記複数の周波数特性補正パターンのいずれかの選択を受け付ける操作手段と、
前記操作手段が受け付けた周波数特性補正パターンを前記記憶手段から読み出して、この周波数特性補正パターンに基づいて、前記複数の音声、反射音及び残響音の周波数特性を調整する特性調整手段と、
遮断周波数を変更可能で所定のスロープ特性を有し、前記反射音及び前記残響音の高域を遮断して、空気減衰及び壁面反射による周波数の変化を演出する高域遮断手段と、
を備え、
前記制御手段は、前記操作手段が複数の音場の生成指示を受け付けた際に、前記特性調整手段が高域の利得を低下させる周波数特性補正パターンに基づいて調整されていると、高域遮断手段の遮断周波数を所定量高域側に移動させる請求項1または2に記載の音場形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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