説明

音源の寄与診断装置およびこれを用いた寄与診断方法

【課題】一度の測定で直接音と反射音の寄与の度合いを求めることによって、迅速かつ適切な騒音診断および効果的な騒音対策の実施を可能にする。
【解決手段】音源からの騒音を検出する騒音検出手段と、前記音源の所定位置における音圧信号を計算する音圧計算手段と、音圧信号の大きさから音源の位置を識別する音源識別手段とを有し、一つの音源を分離対象音源に選定する分離音源選定手段と、分離音源選定手段で選定された分離対象音源の音圧信号を目標信号とし、分離対象音源以外の音源の音圧信号を対応する適応フィルタに入力し、適応フィルタの出力と前記目標信号との差が最小になるように前記各適応フィルタの係数を更新する音源分離手段と、寄与度出力手段を有し、適応フィルタの出力と前記目標信号との差がある一定値に収束したときの前記各適応フィルタの出力信号と残差信号により、前記分離音源選定手段で選定された音源位置からの反射音の寄与度と直接音の寄与度を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源の寄与診断装置およびこれを用いた寄与診断方法に関し、特に、構造物表面や機器表面などでの音の反射面において、反射面と異なる位置にある音源から発生した騒音が反射面で反射して作業者位置等の騒音を評価すべき評価点に伝播する反射音の寄与度と、反射面自体から発生した騒音が評価点に伝播する直接音の寄与度を診断する寄与診断装置およびこれを用いた寄与診断方法に適したものである。
【背景技術】
【0002】
従来の音源または振動の寄与の度合いを調べる診断方法として、特許文献1に示す診断方法が用いられている。これは音源または振動源の近傍に振動センサを設けて騒音または振動を検出し、各検出信号を適応フィルタに入力し、評価点に設けたマイクロホンの騒音または振動出力と適応フィルタ出力との差が最小になるように適応フィルタの係数を更新制御し、両者の差がある一定値に収束した時点での適応フィルタの出力信号により、各音源または振動源の寄与の度合いを診断する。
【0003】
また、従来の音源探査方法として、複数のマイクロホンで構成されるマイクロホンアレイを用いたビームフォーミング手法がある。これは、各マイクロホンで検出した音圧に遅延和などの演算を施して指向性を形成し、指向性の主極方向からの音圧を計算するものであり、様々な方向に指向性を向けることによって音圧マップを作成し、音源がどの方向またはどの位置にあるか把握することができる。
【0004】
その他、構造物の壁面や機器表面などから音が発生しているかどうかを確認するため、構造物の壁面や機器表面に振動センサを設けて直接振動を検出する方法がある。これは、検出された振動の大きさによって振動センサの設置位置から音が発生しているかどうかを調べる方法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−267122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した従来の寄与診断方法では、評価点における各音源の寄与度を診断できるものの、ある音源から発生した騒音が直接評価点まで伝播する直接音と、構造物の壁面や機器表面などで反射して評価点まで伝播する反射音とを分離できないため、反射音の到来方向および反射音の寄与の度合いを診断できず、適切に騒音を診断し効果的に騒音対策をすることが困難であるという問題がある。
【0007】
また、上記の音源探査方法では、直接音と反射音とをそれぞれ異なる方向または異なる位置にある音源として検出できるが、検出した音源が直接音源であるのか、実際には騒音を発生しておらず反射面に対して直接音源と鏡像関係にある反射音源であるのかの区別ができない。
【0008】
直接音源と反射音源とを区別する従来の方法として、上記の音源探査方法で検出された音源位置に振動センサを設置して、音源の振動の大きさを測定して振動の大きさが大きければ直接音源であり、振動の大きさが小さければ反射音源であるとする判断方法、あるいは上記寄与診断方法を用いて振動の寄与を調べ、寄与が大きければ直接音源であり寄与が小さければ反射音源であるとする判断方法もあるが、音源の数に応じて測定回数を増やすか予め多数のセンサを設置する必要があり、いずれの場合も測定に時間がかかるため迅速な騒音診断および騒音対策が困難であった。
【0009】
本発明の目的は、一度の測定で直接音と反射音の寄与の度合いを求めることを可能にし、迅速かつ適切な騒音診断および効果的な騒音対策を可能にする音源または振動源の寄与度分析方法およびその装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、評価点における音源からの騒音を検出する騒音検出手段と、前記騒音検出手段により前記音源の所定位置における音圧信号を計算する音圧計算手段と、前記音圧計算手段で計算した音圧信号の大きさから音源の位置を識別する音源識別手段とを有する音源の寄与診断装置において、前記音源識別手段で識別された音源のうち一つの音源を分離対象音源に選定する分離音源選定手段と、少なくとも一つの適応フィルタを有するとともに前記分離音源選定手段で選定された分離対象音源の音圧信号を目標信号とし、前記音源識別手段で識別された音源のうち前記分離対象音源以外の音源の音圧信号を対応する適応フィルタに入力し、前記各適応フィルタの出力の和と前記目標信号との差が最小になるように前記各適応フィルタの係数を更新する音源分離手段と、前記音源分離手段において前記各適応フィルタの出力の和と前記目標信号との差がある一定値に収束したときの前記各適応フィルタの出力信号と残差信号により、前記分離音源選定手段で選定された音源位置からの反射音の寄与度と直接音の寄与度を出力する寄与度出力手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
また、前記騒音検出手段は複数のマイクロホンで構成されるマイクロホンアレイを有することを特徴とする。
【0012】
また、音圧計算手段は、前記騒音検出手段で検出された各マイクロホンの音圧信号にビームフォーミング処理を施して、所定位置からの音圧信号を計算することを特徴とする。
【0013】
また、分離音源選定手段は、識別された全ての音源を順次分離対象音源に選定することを特徴とする。
【0014】
さらに、評価点における音源の騒音の音圧を検出し、前記検出された音圧信号にビームフォーミング処理を施して任意の位置からの音圧信号を計算し、前記音圧信号の大きさから音源の位置を識別して、識別された音源のうち一つの音源を逐次選択し、選択した音源の位置での音圧信号を目標信号とし、前記識別された音源のうち前記選択した音源以外の音源の位置での音圧信号を対応する適応フィルタに入力して、前記各適応フィルタの出力の和と前記目標信号との差が最小になるように前記各適応フィルタの係数を更新し、前記各適応フィルタの出力の和と前記目標信号との差がある一定値に収束したときの前記各適応フィルタの出力信号と残差信号により前記選定された音源位置からの反射音の寄与度と直接音の寄与度を出力する音源の寄与診断方法を特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の音源または振動源の寄与診断装置および寄与診断方法によれば、一度の測定で直接音と反射音の寄与の度合いを求めることが可能であり、迅速かつ適切な騒音診断および効果的な騒音対策を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明実施形態による寄与診断装置の適用例を示す模式図である。
【図2】本発明実施形態の寄与診断装置のブロック図である。
【図3】本発明実施形態の寄与診断装置における音源分離手段のブロック図である。
【図4】本発明実施形態の音源分離手段の動作例を示す波形図である。
【図5】本発明実施形態の音源分離手段の別の動作例を示す波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図を用いて説明する。図1は本発明を直接音および反射音の寄与診断に適用した実施形態を示す模式図である。図2は本発明の実施形態の寄与診断装置1のブロック図である。
【0018】
寄与診断装置1において、騒音検出手段10は評価点に複数のマイクロホンで構成されるマイクロホンアレイ13を有し、音源11からの直接音11aと、音源11から発生した騒音が音源12の表面で反射した反射音11bと、音源12から発生した直接音12aが混在した騒音を検出する。
【0019】
音圧計算出手段20は、騒音検出手段10で検出された騒音にビームフォーミング処理を施して、マイクロホンアレイ13からある距離だけ離れた仮想面上の各計算点の音圧信号を計算し音圧マップを生成する。計算された音圧信号の大きさは、仮想面上の各計算点のマイクロホンアレイ13に対する騒音の寄与度を表している。音源位置が異なっている音源についてはそれぞれの音源の寄与度が求められるが、音源位置が重なる場合にはそれぞれの音源は分離されず、各々の寄与度の合計値が求められる。したがって、本実施形態においては、音源11からの直接音11aの寄与度が得られるが、音源12からの反射音11bと直接音12aについてはそれぞれの寄与度の合成値として得られる。
【0020】
音源識別手段30は、音圧計算出手段20で計算された音圧信号の大きさがある一定値以上となる仮想面上の計算点を音源位置として識別する。本実施形態では、直接音源である音源11の位置と、直接音源と反射音源が重なった音源12の位置が音源位置として識別される。
【0021】
分離音源選定手段40では、音源識別手段30で識別された図1に示す2つの音源11、12のうち一つの音源を任意の順で分離対象音源に選定して音源分離手段50に移行し、各音源を全て選定するまで以降の処理を繰り返す。60は寄与度出力手段である。
〔診断ステップ1:分離対象音源11〕
まず、分離音源選定手段40で音源11の位置にある音源を分離対象音源に選定したときの寄与診断結果を示す。図3は本発明の実施形態の寄与診断装置1における音源分離手段50のブロック図である。
【0022】
図3において、音源分離手段50は、分離対象音源である音源11の位置の音圧信号すなわち音源11の直接音11aを目標信号とし、音源12の位置の音圧信号すなわち音源11の反射音11bと音源12の直接音12aが混在した音圧信号を入力信号として適応フィルタ51に入力する。次いで適応フィルタ51の出力信号と目標信号の差すなわち残差信号が最小になるように適用アルゴリズム52を用いて適応フィルタ係数を更新し、残差信号がある一定値に収束するまで係数の更新を続ける。
【0023】
寄与度出力手段60は、残差信号が収束した時点で、適応フィルタ51の出力信号を分離対象音源位置からの反射音の寄与度として出力し、残差信号を分離対象音源位置からの直接音の寄与度として出力する。
【0024】
残差信号が収束した時の適応フィルタ51の出力信号は、目標信号である音源11の直接音11aに対する、入力信号である音源11の反射音11bと音源12の直接音12aが混在した音圧の因果的影響の度合いを表しており、分離対象音源11においては0になる。また残差信号は、目標信号から入力信号の因果的影響の度合いを差し引いたものになり、直接音11aがそのまま残る。したがって上記の寄与診断により、分離対象音源である音源11の位置からの反射音の寄与度は、適応フィルタの出力信号の大きさすなわち0であり、直接音の寄与度は残差信号の大きさすなわち直接音11aの大きさとして求められる。
【0025】
図4に、診断ステップ1における目標信号と、入力信号、残差信号の具体例を波形図として示す。説明を簡略化するために、音源11からはランダム騒音が発生し、音源12からは正弦波騒音が発生しているものとする。図4から明らかなように、各信号波形は上記説明の通りに以下のように現れている。
【0026】
目標信号:11a(ランダム)
入力信号:11b(ランダム)+12a(正弦波)
残差信号:適応フィルタの係数更新後、11a(ランダム)になる
出力信号:適応フィルタの係数更新後、ほぼ0になる(図示省略)
平均二乗誤差:入力信号(11b+12a)の平均パワーは一定値のままで、減少しない。
〔診断ステップ2:分離対象音源12〕
次に、分離音源選定手段40で音源12の位置にある音源を分離対象音源に選定したときの寄与診断結果を示す。図3において、音源分離手段50は音源12の位置の音圧信号すなわち音源11の反射音11bと音源12の直接音12aが混在した音圧信号を目標信号として選択し、音源11の位置の音圧信号である直接音11aを入力信号として選択し、診断ステップ1と同様に適応フィルタ51の係数の更新を行う。
【0027】
寄与度出力手段60で出力される適応フィルタの出力信号は、目標信号すなわち音源11の反射音11bと音源12の直接音12aが混在した音圧に対する、入力信号すなわち音源11の直接音11aの因果的影響の度合いを表しており、音源11の反射音11bになる。
【0028】
また残差信号は、目標信号から入力信号の因果的影響の度合いを差し引いたものになり、音源12の直接音12aになる。
【0029】
したがって上記の寄与診断により、分離対象音源である音源12の位置における反射音の寄与度は適応フィルタ51の出力信号の大きさすなわち音源11の反射音11bの大きさとして求められ、直接音の寄与度は残差信号の大きさすなわち音源12の直接音12aの大きさとして求められる。
【0030】
図5に、診断ステップ2における目標信号と、入力信号、残差信号の一例を波形図として示す。図5から明らかなように、各信号波形は上記説明の通り以下のように現れている。
【0031】
目標信号:11b(ランダム)+12a(正弦波)
入力信号:11a(ランダム)
残差信号:適応フィルタの係数更新後、12a(正弦波)になる
出力信号:適応フィルタの係数更新後、11b(ランダム)になる
平均二乗誤差:入力信号11aの平均パワーは漸減し、一定値に収束する。
【0032】
以上のように本実施形態によれば、直接音と反射音が混在していても、一度の測定で各音源毎に演算を繰り返すことにより直接音と反射音の寄与の度合いを求めることが可能であり、迅速かつ適切な騒音診断および効果的な騒音対策をする上で非常に有用である。
【符号の説明】
【0033】
1…寄与診断装置、10…騒音検出手段、20…音圧計算手段、30…音源識別手段、40…分離音源選定手段、50…音源分離手段、60…寄与度出力手段、11…音源、12…音源、13…マイクロホンアレイ、11a…音源11の直接音、11b…音源11の反射音、12a…音源12の直接音

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価点における音源からの騒音を検出する騒音検出手段と、前記騒音検出手段により前記音源の所定位置における音圧信号を計算する音圧計算手段と、前記音圧計算手段で計算した音圧信号の大きさから音源の位置を識別する音源識別手段とを有する音源の寄与診断装置において、
前記音源識別手段で識別された音源のうち一つの音源を分離対象音源に選定する分離音源選定手段と、少なくとも一つの適応フィルタを有するとともに前記分離音源選定手段で選定された分離対象音源の音圧信号を目標信号とし、前記音源識別手段で識別された音源のうち前記分離対象音源以外の音源の音圧信号を対応する適応フィルタに入力し、前記各適応フィルタの出力の和と前記目標信号との差が最小になるように前記各適応フィルタの係数を更新する音源分離手段と、前記音源分離手段において前記各適応フィルタの出力の和と前記目標信号との差がある一定値に収束したときの前記各適応フィルタの出力信号と残差信号により、前記分離音源選定手段で選定された音源位置からの反射音の寄与度と直接音の寄与度を出力する寄与度出力手段とを備えたことを特徴とする音源の寄与診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載された音源の寄与診断装置において、前記騒音検出手段は複数のマイクロホンで構成されるマイクロホンアレイを有することを特徴とする音源の寄与診断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載された音源の寄与診断装置において、前記音圧計算手段は、前記騒音検出手段で検出された各マイクロホンの音圧信号にビームフォーミング処理を施して、所定位置からの音圧信号を計算することを特徴とする音源の寄与診断装置。
【請求項4】
請求項1に記載された音源の寄与診断装置において、前記分離音源選定手段は、識別された全ての音源を順次分離対象音源に選定することを特徴とする音源の寄与診断装置。
【請求項5】
評価点における音源の騒音の音圧を検出し、
前記検出された音圧信号にビームフォーミング処理を施して任意の位置からの音圧信号を計算し、
前記音圧信号の大きさから音源の位置を識別して、識別された音源のうち一つの音源を
逐次選択し、
選択した音源の位置での音圧信号を目標信号とし、前記識別された音源のうち前記選択
した音源以外の音源の位置での音圧信号を対応する適応フィルタに入力して、前記各適応
フィルタの出力の和と前記目標信号との差が最小になるように前記各適応フィルタの係数
を更新し、
前記各適応フィルタの出力の和と前記目標信号との差がある一定値に収束したときの前
記各適応フィルタの出力信号と残差信号により前記選定された音源位置からの反射音の寄
与度と直接音の寄与度を出力することを特徴とする音源の寄与診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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