説明

音色評価支援方法および音色評価支援装置

【課題】本発明は、騒音等の音の音色の評価に好適な情報を提供する音色評価支援方法および音色評価支援装置に関し、音色の評価に好適な情報を提示する。
【解決手段】集音して得た音信号を音の高低が異なる複数の信号成分に分離し、それら複数の信号成分のそれぞれについて、信号成分の振幅変調周波数および振幅変調幅を求め、信号成分の周波数と信号成分の振幅変調周波数を軸にとり、対応する座標点に信号成分の振幅変調幅を表示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、騒音等の音の音色の評価に好適な情報を提供する音色評価支援方法および音色評価支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より騒音の大きさを評価する装置として騒音計が知られている。この騒音計は、評価対象とする音を集音して得た音信号に、人間の耳に大きな音として聞こえる周波数の信号成分ほど大きな重みを与える聴感補正を施し、その聴感補正を施した音信号の音圧をdB等で表示するものである。この一般的な騒音計の場合、同じ周波数の信号成分であれば、その信号成分の音圧レベルの時間的な変動量にかかわらず同じ重みとなっているが、同じ周波数の信号成分であってもその信号成分の音圧レベルの時間的な変動速度によっても聴感特性が変化することから、各周波数の信号成分に、その信号成分の周波数のみでなくその信号成分の音圧レベルの変動速度も考慮して重み付けをして評価値を求めることが提案されている(特許文献1、2参照)。人間が音の高さを認識できる周波数領域は、一般的には40Hzから20kHz程度と言われ、さらに、人間が聴感的に違いを感じる、すなわち音色の違いとして認識できる、信号成分の音圧レベルの変動速度は、相対的に低い周波数成分(例えば1Hz)から高い周波数成分(例えば200Hz)まで広く分布している。
【0003】
上記の特許文献1,2における提案によれば、信号成分の周波数だけでなくその信号成分の音圧レベルの変動速度も考慮して重み付けをしているため、人間の聴感に一層適合した評価値が求められる。
【特許文献1】特開平3−82922号公報
【特許文献2】特開平6−117912号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の提案によれば、人間の聴感に適合した評価値が求められるもののその評価に至った原因を追求するには不充分である。例えばその評価値を下げる(騒音のレベルを下げる)には音圧レベル自体を抑えることが有効なのか、あるいは音圧レベルの変動を抑えるのが有効なのかは不明である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、騒音等の音の音色の評価に好適な情報を提示する音色評価支援方法および音色評価支援装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の音色評価支援方法は、
評価対象とする音を集音して音信号を得る集音ステップと、
集音ステップで得られた音信号を音の高低が異なる複数の信号成分に分離する音高分離ステップと、
音高分離ステップで得られた複数の信号成分のそれぞれについて、信号成分の振幅変調周波数および振幅変調幅を求める変調検出ステップと、
一方の軸に信号成分の周波数をとるとともに他方の軸に信号成分の振幅変調周波数をとり、対応する座標点に信号成分の振幅変調幅を表示する表示ステップとを有することを特徴とする。
【0007】
本発明の音色評価支援方法によれば、信号成分の周波数と信号成分の振幅変調周波数を軸にとり、対応する座標点に信号成分の振幅変調幅を表示するため、どの周波数の信号成分がどの変調周波数で変動しているかがひと目で分かり、その評価対象の音の分析に極めて有効である。
【0008】
ここで、上記本発明の音色評価支援方法において、上記集音ステップで得られた音信号を聴感補正する聴感補正ステップを有し、上記音高分離ステップは、集音ステップで得られて、さらに聴感補正ステップで聴感補正された音信号を音の高低が異なる複数の信号成分に分離するステップであることが好ましい。
【0009】
聴感補正ステップを置くことにより、人間の聴感に適合した分析を行なうための表示が行なわれる。
【0010】
また、上記本発明の音色評価支援方法において、上記表示ステップが、信号成分の振幅変調幅を、その振幅変調幅に応じた濃淡もしくは色で表示するステップであることが好ましい。
【0011】
信号成分の振幅変調幅をその振幅変調幅に応じた濃淡もしくは色で表示することにより、一目でその振幅変調幅のレベルを知ることができる。
【0012】
尚、信号成分の振幅変調幅を表示するにあたり濃淡と色との双方を併用してもよく、あるいは三次元的に、例えば棒グラフ等で表示してもよい。
【0013】
また、上記目的を達成する本発明の音色評価支援装置は、
音信号を音の高低が異なる複数の信号成分に分離する音高分離部と、
音高分離部で得られた複数の信号成分のそれぞれについて、信号成分の振幅変調周波数および振幅変調幅を求める変調検出部と、
一方の軸に前記信号成分の周波数をとるとともに他方の軸に該信号成分の振幅変調周波数をとり、対応する座標点に該信号成分の振幅変調幅を表示する表示部とを有することを特徴とする。
【0014】
ここで本発明の音色評価支援装置においても、音信号を聴感補正する聴感補正部を有し、上記音高分離部は、聴音補正部で聴感補正された音信号を音の高低が異なる複数の信号成分に分離するものであることが好ましい。
【0015】
また、本発明の音色評価支援装置において、上記表示部が、信号成分の振幅変調幅を、その振幅変調幅に応じた濃淡もしくは色で表示するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、音色の評価に好適な情報が認識し易い形態で表示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1は、本発明の音色評価支援装置の一実施形態を示すブロック図である。
【0019】
この図1に示す音色評価支援装置10は、マイクロホン1、ラウドネス演算部2、周波数制限ラウドネス検出部3、複数の振幅変調波成分検出部4、複数の振幅量検出部5、およびマトリックス表示部6により構成される。自動車や産業機器などより発生する音がマイクロホン1により集音されて電気信号に変換される。ラウドネス演算部2は、物理量としての音の大きさにマスキングなどの聴感特性を加え、人間に実際に聞こえる音の大きさ、すなわちラウドネス量に変換する。周波数制限ラウドネス検出部3は、様々な周波数成分(音の高低)が含まれる音を、周波数フィルタを用いて、それぞれがある幅を持つとともに互いに異なる周波数帯域を持つ複数のラウドネス波形に分割するものである。各々の周波数帯域に分割されたラウドネス波形は、変調周波数の各帯域を受け持つ複数の振幅変調波成分検出部4に入力される。
【0020】
図2は、周波数制限ラウドネス検出部3での分割により得られた複数のラウドネス波形のうちの1つを模式的に示した図である。
【0021】
周波数制限ラウドネス検出部3での分割により得られたラウドネス波形は、例えば図2に実線で示すような波形であり、一般的には、この図2に破線で示すように、周期的に振幅変調されている。
【0022】
図1に示す複数の振幅変調波成分検出部4の各々は例えば1Hz〜200Hz等の周波数帯域をさらに複数に分割したときの各帯域を受け持つ変動成分抽出フィルタを用いて、ラウドネス波形(図2の実線)の包絡線である変動周波数成分(図2の破線)を抽出する。
【0023】
図3は、振幅変調波成分検出部の作用の説明図である。
【0024】
図3(a)は、ここでは略示されているが、例えば図2に実線で示すようなラウドネス波形である。ここでは、振幅が5Hzの速さで周期的に変動しているものとする。
【0025】
図3(b)は、複数の振幅変調波成分検出部4(図1参照)のそれぞれで採用されている各変動成分抽出フィルタの通過帯域特性を示している。すなわち、ここでは、各変動成分抽出フィルタは、5Hz,10Hz,15Hz,20Hz,25Hz,…のそれぞれを中心とした、ある幅の周波数成分を抽出するフィルタとして示されている。
【0026】
図3(a)のラウドネス波形をそれら複数の振幅変調波成分検出部を通過させると、中心周波数5Hzの変動成分抽出フィルタを用いた振幅変調波成分検出部を通過した波形は、図3(c)に示すように5Hzで変化するの包絡線が抽出され、5Hz以外の中心周波数の変動成分抽出フィルタを用いた振幅変調波成分検出部からは、図3(d)に示すように、変動成分は出力されないままとなる。
【0027】
図1に示す複数の振幅変調波成分検出部4では、周波数制限ラウドネス検出部3での分割により得られた各周波数帯域ごとのラウドネス波形それぞれについて、図3を参照して説明した処理が行なわれる。
【0028】
複数の振幅変調波成分検出部4のそれぞれから出力された各包絡線波形は、複数の振幅量検出部5のそれぞれに入力され、各振幅量検出部5では入力されてきた包絡線波形の振幅量(山谷の深さ;図2、図3に示す値d)が検出される。
【0029】
さらに、マトリックス表示部6は、周波数制限ラウドネス検出部3および振幅変調波成分検出部4で分割された、周波数(音の高低:f)および変動周波数(変動速度:F)を2軸上に配置し、各領域に対応して、振幅量検出部5により検出されたラウドネス波形の包絡線の山谷の深さを濃淡あるいはカラーの色別にレベル表示する。
【0030】
図4は、マトリックス表示部での表示形態の一例を示す図である。
【0031】
この図4は、横軸が音信号の周波数fが縦軸が各周波数帯域に分割したラウドネス波形の変動周波数Fであり、変動の振幅量(山谷の深さ;図2、図3に示す値d)が濃淡あるいはカラーの色別で表示されている。
【0032】
このように、この実施形態によれば、様々な音色の特徴量を濃淡のマップあるいはカラーマップで表現できるため、これまで聴感的には違いを聞き取れるが定量化できなかった変動音成分を認識できるようになる。したがって、より詳細な音色評価が可能となり、様々な産業分野における音質設計への技術的向上および開発期間の短縮、更には開発に要するコストの削減が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の音色評価支援装置の一実施形態を示すブロック図である。
【図2】周波数制限ラウドネス検出部での分割により得られた複数のラウドネス波形のうちの1つを模式的に示した図である。
【図3】振幅変調波成分検出部の作用の説明図である。
【図4】マトリックス表示部での表示形態の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 マイクロホン
2 ラウドネス演算部
3 周波数制限ラウドネス検出部
4 振幅変調波成分検出部
5 振幅量検出部
6 マトリックス表示部
10 音色評価支援装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
評価対象とする音を集音して音信号を得る集音ステップと、
前記集音ステップで得られた音信号を音の高低が異なる複数の信号成分に分離する音高分離ステップと、
前記音高分離ステップで得られた複数の信号成分のそれぞれについて、信号成分の振幅変調周波数および振幅変調幅を求める変調検出ステップと、
一方の軸に前記信号成分の周波数をとるとともに他方の軸に該信号成分の振幅変調周波数をとり、対応する座標点に該信号成分の振幅変調幅を表示する表示ステップとを有することを特徴とする音色評価支援方法。
【請求項2】
前記集音ステップで得られた音信号を聴感補正する聴感補正ステップを有し、
前記音高分離ステップは、前記集音ステップで得られて、さらに前記聴感補正ステップで聴感補正された音信号を音の高低が異なる複数の信号成分に分離するステップであることを特徴とする請求項1記載の音色評価支援方法。
【請求項3】
前記表示ステップが、前記信号成分の振幅変調幅を、該振幅変調幅に応じた濃淡もしくは色で表示するステップであることを特徴とする請求項1記載の音色評価支援方法。
【請求項4】
音信号を音の高低が異なる複数の信号成分に分離する音高分離部と、
前記音高分離部で得られた複数の信号成分のそれぞれについて、信号成分の振幅変調周波数および振幅変調幅を求める変調検出部と、
一方の軸に前記信号成分の周波数をとるとともに他方の軸に該信号成分の振幅変調周波数をとり、対応する座標点に該信号成分の振幅変調幅を表示する表示部とを備えたことを特徴とする音色評価支援装置。
【請求項5】
音信号を聴感補正する聴感補正部を備え、
前記音高分離部は、前記聴感補正部で聴感補正された音信号を音の高低が異なる複数の信号成分に分離するものであることを特徴とする請求項4記載の音色評価支援装置。
【請求項6】
前記表示部が、前記信号成分の振幅変調幅を、該振幅変調幅に応じた濃淡もしくは色で表示するものであることを特徴とする請求項4記載の音色評価支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−271485(P2007−271485A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98262(P2006−98262)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】