説明

音響パラメータ測定方法、及び音響パラメータ測定装置

【課題】被検査物の音響パラメータを正確に求めることができる音響パラメータ測定装置を提供すること。
【解決手段】超音波顕微鏡2の超音波プローブ6は、樹脂フィルム9aを介して生体組織8に超音波を照射するとともに、生体組織8からの反射波を受信して電気信号に変換する超音波トランスデューサ13と、超音波の照射点を二次元的に走査させるX−Yステージ14と、超音波の焦点位置を調整するZ軸ステージ15とを備える。パソコン3のCPUは、複数の照射点にて取得した反射波の位相差を、所定の基準点にて取得した反射波の位相を基準として検出し、反射波の位相が複数の照射点にて同位相となるようにZ軸ステージ15を移動させることで、樹脂フィルム9aの第1面9cと超音波トランスデューサ13との距離を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を利用して被検査物における音響パラメータを測定する音響パラメータ測定方法、及び音響パラメータ測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療分野では、生体組織の診断を行う装置として、超音波顕微鏡を応用した製品の開発が進められており、高解像度で生体組織の観察が可能なものが実用化されている。光学顕微鏡では生体組織における化学的性質の違いを例えば染色によって区別するのに対し、超音波顕微鏡では物理的性質の違いを無染色で区別することができる。つまり、超音波顕微鏡を用いる場合には、染色を行わなくても生体組織診断を行うことができるといった利点がある。
【0003】
具体的には、超音波顕微鏡を用いる場合、生体組織などの試料に超音波を照射しその反射波を検出することにより、音響パラメータ(音響インピーダンス、音速、減衰などのパラメータ)を算出して、その算出値に応じた超音波像(音響インピーダンス像、音速像、減衰像など)を表示する。本発明者らはパルス励起型の超音波顕微鏡を利用して生体組織の音響インピーダンス像を表示する超音波画像検査装置をすでに提案している(例えば、特許文献1参照)。この超音波画像検査装置では、超音波Sが走査される範囲内において生体組織41の周縁となる位置にリファレンス部材42を設け、超音波振動子43から樹脂プレート44を介して生体組織41及びリファレンス部材42に超音波Sを照射する(図7参照)。
【0004】
ここで、リファレンス部材42においてその表面と直交する角度で照射される超音波(入射波)Sと反射波Sとは次式(1)の関係が成り立つ。
【数1】

【0005】
ただし、Zは樹脂プレート44の音響インピーダンスであり、Zはリファレンス部材42の音響インピーダンスである。
【0006】
また、生体組織41においてその表面と直交する角度で照射される超音波Sと反射波Sとは次式(2)の関係が成り立つ。
【数2】

【0007】
ただし、Zは生体組織41の音響インピーダンスである。
【0008】
従って、上記式(1),(2)から生体組織41の音響インピーダンスZは、次式(3)により求められる。
【数3】

【0009】
この超音波画像検査装置において、音響インピーダンスZを測定しながら超音波Sの照射点を二次元走査することにより、二次元の音響インピーダンス像が得られる。音響インピーダンスZは、組織の硬さに関連するパラメータであり、音響インピーダンス像によって生体組織41の性状を観察することができる。
【特許文献1】特開2006−78408号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上記超音波画像検査装置において、音響インピーダンス像の解像度を高めるためには超音波Sの周波数を高める必要がある。例えば、従来のパルス励起型超音波顕微鏡では、中心周波数が80MHzの超音波Sが使用されていたが、現在では、300MHz以上の超音波Sを使用したパルス励起型超音波顕微鏡が開発されている。この超音波顕微鏡を用いれば、生体組織41を細胞レベルで観察することが可能となる。
【0011】
ところが、超音波Sの周波数を高めると、超音波Sが樹脂プレート44を通過する際に生じる減衰が大きくなる。そのため、音響インピーダンスZを算出するのに十分に大きな信号強度の反射波Sを取得することが困難となる。この対策としては、樹脂プレート44をフィルム状に薄く形成することが考えられる。しかし、それに伴い樹脂プレート44の平坦性が確保できなくなるため、樹脂プレート44の表面と超音波振動子43との間隔にバラツキが生じてしまう。この場合、超音波Sの走査位置によって、焦点ボケを生じ、例えば、同じ音響インピーダンスZの部分に超音波Sを照射したとしても、反射波Sの信号強度が異なることがある。その結果、上記式(3)によって求められる音響インピーダンスZに誤差が生じてしまう。
【0012】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、音響パラメータを正確に測定することができる音響パラメータ測定方法、及び音響パラメータ測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、超音波を被検査物に向けて照射するとともに、前記被検査物からの反射波を受信して電気信号に変換する焦点型超音波振動子と、前記超音波の照射点を二次元的に走査させる二次元走査手段とを備えた超音波顕微鏡を用い、前記焦点型超音波振動子と前記被検査物との間に、前記被検査物とは異なる既知の音響パラメータを有する超音波透過薄膜を持つ超音波透過部材を配置し、前記超音波透過薄膜の第1面に前記被検査物を接触させた状態で、前記超音波透過薄膜の第2面側から前記被検査物に向けて超音波を照射するとともに、その反射波に基づいて前記被検査物の音響パラメータを求める音響パラメータ測定方法であって、複数の照射点にて取得した前記反射波の位相差に関する情報に基づき、前記反射波の位相が前記複数の照射点にて同位相となるように前記超音波透過薄膜の第1面と前記焦点型超音波振動子との距離を調整する制御を行い、前記距離を調整した状態で取得した前記反射波の強度を検出し、前記反射波の強度と前記超音波透過薄膜の音響パラメータとに基づいて前記被検査物の音響パラメータを求めることを特徴とする音響パラメータ測定方法をその要旨とする。
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、焦点型超音波振動子と被検査物との間に超音波透過薄膜を持つ超音波透過部材を配置し、超音波透過薄膜を介して被検査物に超音波を照射するようにした。この場合、超音波透過薄膜が薄いため、その透過薄膜における反射波の減衰が抑制される。よって、焦点型超音波振動子で変換される反射波の信号強度は、音響パラメータを求めるのに十分な大きさとなる。また、超音波透過薄膜を用いると、その透過薄膜の表面がうねりその平坦性が確保できなくなる場合がある。そのため、本発明では、複数の照射点にて取得した反射波の位相差に関する情報に基づき、反射波の位相が複数の照射点にて同位相となるように超音波透過薄膜の第1面と焦点型超音波振動子との距離が調整される。その結果、超音波透過薄膜の第1面と焦点型超音波振動子との距離を各照射点で一定に保つことができる。そして、被検査物の表面からの反射波の強度が検出され、その反射波の強度と超音波透過薄膜の音響パラメータとに基づいて、被検査物の音響パラメータが求められる。このようにすると、超音波透過薄膜と焦点型超音波振動子との距離のバラツキによる測定誤差がなくなり、被検査物の音響パラメータを正確に求めることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明は、超音波を被検査物に向けて照射するとともに、前記被検査物からの反射波を受信して電気信号に変換する焦点型超音波振動子と、前記超音波の照射点を二次元的に走査させる二次元走査手段とを備えた超音波顕微鏡を用い、前記焦点型超音波振動子と前記被検査物との間に、前記被検査物とは異なる既知の音響パラメータを有する超音波透過薄膜を持つ超音波透過部材を配置し、前記超音波透過薄膜の第1面に前記被検査物を接触させた状態で、前記超音波透過薄膜の第2面側から前記被検査物に向けて超音波を照射するとともに、その反射波に基づいて前記被検査物の音響パラメータを求める音響パラメータ測定方法であって、所定の基準点にて超音波の照射を行って、前記超音波透過薄膜の第1面からの反射波を取得するステップと、前記二次元走査手段により超音波の照射点を走査して、複数の照射点にて前記超音波透過薄膜の第1面からの反射波を取得するステップと、前記複数の照射点にて取得した反射波の位相差を、前記基準点にて取得した反射波の位相を基準として検出するステップと、前記反射波の位相差の検出結果に基づき、反射波の位相が前記複数の照射点にて同位相となるように前記超音波透過薄膜の第1面と前記焦点型超音波振動子との距離を調整する制御を行うステップと、前記距離を調整した状態で取得した反射波の強度を検出するステップと、前記反射波の強度と前記超音波透過薄膜の音響パラメータとに基づいて前記被検査物の音響パラメータを求めるステップとを含むことを特徴とする音響パラメータ測定方法をその要旨とする。
【0016】
請求項2に記載の発明によれば、焦点型超音波振動子と被検査物との間に超音波透過薄膜を持つ超音波透過部材を配置し、超音波透過薄膜を介して被検査物に超音波を照射するようにした。この場合、超音波透過薄膜における反射波の減衰が抑制されるため、反射波の信号強度は、音響パラメータを求めるのに十分な大きさとなる。また、超音波透過薄膜を用いると、その透過薄膜の表面がうねりその平坦性が確保できなくなる場合がある。そのため、本発明では、先ず、所定の基準点にて超音波の照射を行って、超音波透過薄膜の第1面からの反射波が取得される。その後、二次元走査手段により超音波の照射点が走査され、複数の照射点にて超音波透過薄膜の第1面からの反射波が取得される。それら複数の照射点にて取得した反射波の位相差が、基準点にて取得した反射波の位相を基準として検出される。そして、反射波の位相差の検出結果に基づき、反射波の位相が複数の照射点にて同位相となるように超音波透過薄膜の第1面と焦点型超音波振動子との距離が調整される。その結果、基準点における超音波透過薄膜の第1面と焦点型超音波振動子との距離を基準として、各照射点で一定の距離に保つことができる。そして、被検査物の表面からの反射波の強度が検出され、その反射波の強度と超音波透過薄膜の音響パラメータとに基づいて、被検査物の音響パラメータが求められる。このようにすると、超音波透過薄膜の第1面と焦点型超音波振動子との距離のバラツキによる測定誤差がなくなり、被検査物の音響パラメータを正確に求めることができる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、請求項2において、前記各ステップに先立ち、前記基準点において前記超音波透過部材及び前記焦点型超音波振動子の少なくとも一方を超音波の音軸方向に移動させて、前記超音波透過薄膜の第1面と前記焦点型超音波振動子との距離を前記焦点型超音波振動子の焦点距離と一致させるステップを実施することをその要旨とする。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、超音波透過部材及び焦点型超音波振動子の少なくとも一方が超音波の音軸方向に移動されることで、超音波透過薄膜の第1面と焦点型超音波振動子との距離が焦点型超音波振動子の焦点距離と一致するように調整される。このようにすれば、各照射点において、超音波の焦点を被検査物の表面に合わせることができる。よって、被検査物の音響パラメータを正確に求めることができ、その音響パラメータに応じた鮮明な超音波像を生成することができる。
【0019】
請求項4に記載の発明は、請求項2または3において、前記距離を調整する制御を行うステップでは、前記焦点型超音波振動子を超音波の音軸方向に微少移動させることをその要旨とする。
【0020】
請求項4に記載の発明によれば、焦点型超音波振動子を超音波の音軸方向に微少移動させることで、超音波透過薄膜の第1面と焦点型超音波振動子との距離が焦点型超音波振動子の焦点距離と一致するように調整される。このように、焦点型超音波振動子を移動させる場合、被検査物側を移動させる場合と比較して、被検査物に加わる振動等を防止することができ、被検査物の音響パラメータをより正確に測定することができる。
【0021】
請求項5に記載の発明は、超音波透過薄膜を持つ超音波透過部材を隔てて配置された被検査物に向けて超音波を照射するとともに、前記被検査物からの反射波を受信して電気信号に変換する焦点型超音波振動子と、前記超音波の照射点を二次元的に走査させる二次元走査手段とを備えた超音波顕微鏡を備え、前記被検査物とは異なる既知の音響パラメータを有する前記超音波透過薄膜の第1面に前記被検査物を接触させた状態で、前記超音波透過薄膜の第2面側から前記被検査物に向けて超音波を照射するとともに、前記超音波透過薄膜の第1面からの反射波に基づいて前記被検査物の音響パラメータを求める音響パラメータ測定装置であって、複数の照射点にて取得した反射波の位相差を、所定の基準点にて取得した反射波の位相を基準として検出する位相差検出手段と、前記反射波の位相差の検出結果に基づき、反射波の位相が前記複数の照射点にて同位相となるように前記超音波透過薄膜の第1面と前記焦点型超音波振動子との距離を調整する制御を行う距離調整制御手段と、前記焦点型超音波振動子で変換した電気信号に基づいて、前記超音波透過薄膜の第1面に接触する前記被検査物の表面からの反射波の強度を検出する信号強度検出手段と、前記反射波の強度と前記超音波透過薄膜の音響パラメータとに基づいて前記被検査物の音響パラメータを求めるパラメータ算出手段とを備えたことを特徴とする音響パラメータ測定装置をその要旨とする。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、位相差検出手段により、複数の照射点にて取得した反射波の位相差が、所定の基準点にて取得した反射波の位相を基準として検出される。距離調整制御手段により、反射波の位相差の検出結果に基づき、反射波の位相が複数の照射点にて同位相となるように超音波透過薄膜の第1面と焦点型超音波振動子との距離を調整する制御が行われる。その後、焦点型超音波振動子で変換した電気信号に基づいて、信号強度検出手段により、被検査物の表面からの反射波の強度が検出される。そして、パラメータ算出手段により、反射波の強度と超音波透過薄膜の音響パラメータとに基づいて被検査物の音響パラメータが求められる。このようにすると、超音波透過薄膜の第1面と焦点型超音波振動子との間隔のバラツキによる測定誤差がなくなり、被検査物の音響パラメータを正確に求めることができる。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項5において、前記距離調整制御手段は、前記焦点型超音波振動子を超音波の音軸方向に微少移動させるピエゾアクチュエータと、そのピエゾアクチュエータを駆動制御するドライバ回路とを含むことをその要旨とする。
【0024】
請求項6に記載の発明によれば、ドライバ回路により、ピエゾアクチュエータが駆動制御され、焦点型超音波振動子が超音波の音軸方向に微少移動される。このように、ピエゾアクチュエータを用いる場合、10ナノメートルのオーダーで焦点型超音波振動子の位置を精度良くかつ迅速に調整することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上詳述したように、請求項1〜6に記載の発明によると、超音波透過薄膜と焦点型超音波振動子との距離のバラツキによる測定誤差がなく、被検査物の音響パラメータを正確に求めることができる音響パラメータ測定方法、及び音響パラメータ測定装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
[第1の実施の形態]
【0027】
以下、本発明を具体化した第1の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は音響パラメータ測定装置としての超音波画像検査装置を示す概略構成図である。図1に示されるように、本実施の形態の超音波画像検査装置1は、パルス励起型超音波顕微鏡2と、パーソナルコンピュータ(パソコン)3とを備える。
【0028】
パルス励起型超音波顕微鏡2は、試料ステージ4を有する顕微鏡本体5と、試料ステージ4の下方に設置された超音波プローブ6とを備える。そのパルス励起型超音波顕微鏡2の超音波プローブ6がパソコン3と電気的に接続されている。
【0029】
本実施の形態の試料ステージ4は、ユーザの手動操作により、水平方向(即ちX軸方向及びY軸方向)に移動できるように構成されている。この試料ステージ4の中央部には、生体組織8を載置した超音波透過部材9が固定されている。なお、生体組織8は、例えば、ラットの小脳から切り出した脳組織であり、300μm〜400μmの厚さを有する。また、超音波透過部材9は、超音波を透過する超音波透過薄膜としての樹脂フィルム9aと、その樹脂フィルム9aの縁部を支持するフレーム9bとを備える。この樹脂フィルム9aの上面(第1面)9cにおいて生体組織8のセット部の周縁にリファレンス部材10が設けられている。本実施の形態では、樹脂フィルム9aとして、例えば、厚さが50μmのポリエステルフィルムが用いられ、リファレンス部材10としては、エポキシ樹脂などが用いられる。
【0030】
超音波プローブ6は、水などの超音波伝達媒体W1を貯留可能な貯留部11をその先端部に有するプローブ本体12と、プローブ本体12の略中心部に配置される超音波トランスデューサ13と、プローブ本体12を前記試料ステージ4の面方向に沿って二次元的に走査するためのX−Yステージ14と、プローブ本体12をZ軸方向(音軸方向)に移動させるZ軸ステージ15とを備える。本実施の形態では、X−Yステージ14により二次元走査手段が構成され、Z軸ステージ15により距離調整制御手段が構成される。
【0031】
プローブ本体12の貯留部11は上部が開口しており、その貯留部11の開口側を上向きにした状態で超音波プローブ6が試料ステージ4の下方に設置されている。そして、プローブ本体12の下部がZ軸ステージ15上に固定され、Z軸ステージ15がX−Yステージ14上に固定されている。また、プローブ本体12と超音波トランスデューサ13との間にはゴムなどの吸音材(図示略)が設けられており、超音波トランスデューサ13は、X−Yステージ14やZ軸ステージ15に対して音響的に絶縁されている。
【0032】
超音波トランスデューサ13は、酸化亜鉛の薄膜圧電素子16とサファイアロッドの音響レンズ17とからなり、パルス励起されることで樹脂フィルム9aの下面(第2面)9d側から生体組織8に対して超音波を照射する。超音波トランスデューサ13が照射する超音波は、貯留部11の超音波伝達媒体W1を介して円錐状に収束されて樹脂フィルム9aの上面9c(生体組織8の表面)で焦点を結ぶようになっている。なお、超音波トランスデューサ13としては、口径1.2mm、焦点距離1.5mm、中心周波数320MHzの仕様のものを用いている。
【0033】
図2は、超音波画像検査装置1の電気的な構成を示すブロック図である。
【0034】
図2に示されるように、超音波プローブ6は、超音波トランスデューサ13と、X−Yステージ14と、Z軸ステージ15と、パルス発生回路21と、受信回路22と、送受波分離回路23と、検波回路24と、A/D変換回路25と、エンコーダ26と、X−Yコントローラ27と、Z軸コントローラ28とを備える。
【0035】
X−Yステージ14は、超音波の照射点を二次元的に走査させるためのXステージ14X及びYステージ14Yを備えるとともに、それぞれのステージ14X,14Yを駆動するモータ29X,29Yを備えている。これらのモータ29X,29Yとしては、ステッピングモータやリニアモータが使用される。また、モータに代えてピエゾアクチュエータでステージ14を駆動するよう構成することも可能である。
【0036】
各モータ29X,29YにはX−Yコントローラ27が接続されており、該X−Yコントローラ27の駆動信号に応答してモータ29X,29Yが駆動される。これらモータ29X,29Yの駆動により、Xステージ14Xを連続走査(連続送り)するとともに、Yステージ14Yを間欠送りとなるよう制御することで、X−Yステージ14の高速走査が可能となっている。
【0037】
また、本実施の形態においては、Xステージ14Xに対応してエンコーダ26が設けられ、エンコーダ26によりXステージ14Xの走査位置が検出される。具体的に、走査範囲(例えば、縦横160μmの走査範囲)を200×200個の測定点(ピクセル)に分割した場合、1回のX軸方向(水平方向)の走査が200分割される。そして、各測定点の位置がエンコーダ26によって検出されパソコン3に取り込まれる。パソコン3はそのエンコーダ26の出力に同期して駆動制御信号を生成して、その駆動制御信号をX−Yコントローラ27に供給する。X−Yコントローラ27は、この駆動制御信号に基づいてモータ29Xを駆動する。また、X−Yコントローラ27は、エンコーダ26の出力信号に基づきX軸方向の1ラインの走査が終了した時点でモータ29Yを駆動して、Yステージ14YをY軸方向に1ピクセル分移動させる。
【0038】
さらに、X−Yコントローラ27は、駆動制御信号に同期してトリガ信号を生成してパルス発生回路21に供給する。これにより、パルス発生回路21において、そのトリガ信号に同期したタイミングで励起パルスが生成される。その励起パルスが送受波分離回路23を介して超音波トランスデューサ13に供給される結果、超音波トランスデューサ13から超音波が照射される。
【0039】
図3には、X−Yステージ14の移動に伴う超音波の走査範囲R1の一例を示している。この例では、走査範囲R1の左上の隅にリファレンス部材10が配置されるようになっており、その位置から走査が開始される。そして、矢印で示すように、生体組織8の表面に沿ってX軸方向及びY軸方向に二次元的に走査が順次行われる。
【0040】
本実施の形態のZ軸ステージ15は、粗動ステージ15aと微動ステージ15bとを備える。粗動ステージ15aにはモータ29Zが設けられ、該モータ29ZはZ軸コントローラ28に接続されている。また、微動ステージ15bにはピエゾ素子からなるピエゾアクチュエータ29Aが設けられ、該アクチュエータ29AもZ軸コントローラ28に接続されている。
【0041】
そして、Z軸コントローラ28の駆動信号に応答してモータ29Zが駆動されることにより、Z軸ステージ15とともに超音波トランスデューサ13がZ軸方向(図1では上下方向)に移動して、超音波トランスデューサ13から照射される超音波の焦点位置が調整される。また、Z軸コントローラ28の駆動信号に応答してピエゾアクチュエータ29Aが駆動されることにより、Z軸ステージ15とともに超音波トランスデューサ13がZ軸方向に微小移動して、超音波の焦点位置が微調整される。
【0042】
超音波トランスデューサ13の薄膜圧電素子16は、送受波兼用の素子であり、生体組織8で反射した超音波(反射波)を電気信号に変換する。そして、その反射波の信号は、送受波分離回路23を介して受信回路22に供給される。受信回路22は、信号増幅回路を含んで構成されていて、反射波の信号を増幅して検波回路24に出力する。
【0043】
検波回路24は、生体組織8からの反射波信号を検出するための回路(信号強度検出手段)であり、図示しないゲート回路やピーク検出回路などを含む。本実施の形態の検波回路24は、超音波トランスデューサ13で受信した反射波信号のなかから生体組織8またはリファレンス部材10の反射波信号を抽出する。超音波は、超音波トランスデューサ13と生体組織8またはリファレンス部材10との間で繰り返し反射されるものである。そのため、検波回路24は、最初に得られる反射波信号を検出するよう構成されている。また、検波回路24は、その反射波信号のピーク電圧を検出する。そして、検波回路24で検出された反射波信号やピーク電圧の電圧信号は、A/D変換回路25に入力されてA/D変換された後、パソコン3に転送される。
【0044】
パソコン3は、CPU31、I/F回路32、メモリ33、記憶装置34、入力装置35、及び表示装置36を備え、それらはバス37を介して相互に接続されている。
【0045】
CPU31は、メモリ33を利用して制御プログラムを実行し、システム全体を統括的に制御する。制御プログラムとしては、X−Yステージ14による二次元走査を制御するためのプログラム、Z軸ステージ15による超音波の焦点位置を調整するためのプログラム、音響インピーダンスを算出するためのプログラム、音響インピーダンス像を表示するためのプログラムなどを含む。
【0046】
I/F回路32は、超音波プローブ6との間で信号の授受を行うためのインターフェース(具体的には、USBインターフェース)である。I/F回路32は、超音波プローブ6に制御信号(コントローラ27,28への駆動制御信号)を出力したり、超音波プローブ6からの転送データ(A/D変換回路25から転送されるデータなど)を入力したりする。
【0047】
表示装置36は、例えば、LCDやCRTなどのカラーディスプレイであり、生体組織8の画像(音響インピーダンス像)や各種設定の入力画面を表示するために用いられる。入力装置35は、キーボードやマウス装置などであり、ユーザからの要求や指示、パラメータの入力に用いられる。
【0048】
記憶装置34は、磁気ディスク装置や光ディスク装置などであり、制御プログラム及び各種のデータを記憶している。CPU31は、入力装置35による指示に従い、プログラムやデータを記憶装置34からメモリ33へ転送し、それを逐次実行する。なお、CPU31が実行するプログラムとしては、メモリカード、フレキシブルディスク、光ディスクなどの記憶媒体に記憶されたプログラムや、通信媒体を介してダウンロードしたプログラムでもよく、その実行時には記憶装置34にインストールして利用する。
【0049】
次に、本実施の形態の超音波画像検査装置1において、超音波の焦点を調整するための調整方法について説明する。
【0050】
図4に示すように、所定の基準点(例えば、二次元走査の開始位置の照射点)において、超音波トランスデューサ13から樹脂フィルム9aに垂直に超音波Sを照射して、樹脂フィルム9aの上面9cからの反射波を検出する。なお、超音波Sは樹脂フィルム9aの下面9dでも反射するが、ここではゲート回路等を用いることにより、上面9cからの反射波のみを検出する。この反射波の音圧は、超音波Sの焦点が合った位置で最大になる。この反射波の音圧が焦点位置で最大となる特性を利用して、超音波Sの焦点を調整する。
【0051】
具体的には、粗動ステージ15aを駆動して超音波トランスデューサ13の焦点が樹脂フィルム9aの上面9c付近となるようZ軸ステージ15を設定した後、微動ステージ15bを駆動しつつ超音波トランスデューサ13から超音波Sを照射し、その際に検波回路24において反射波信号のピーク電圧を検出する。その検出結果に基づいて、反射波が最大音圧(反射波信号のピーク電圧が最大)となる位置を判定する。そして、その最大音圧となる位置でZ軸ステージ15を停止させることにより、超音波トランスデューサ13から照射される超音波Sが樹脂フィルム9aの上面9c(生体組織8との界面)で焦点を結ぶように超音波Sの焦点位置が調整される。つまり、超音波トランスデューサ13と樹脂フィルム9aの上面9cとの距離Lが超音波トランスデューサ13の焦点距離と一致するよう調整される。
【0052】
本実施の形態では、薄い樹脂フィルム9a上に生体組織8を載置しているため、その生体組織8やフィルム自体の重さによって樹脂フィルム9aが撓み、平坦性を十分に確保することができない。この場合、超音波Sの走査位置に応じて超音波Sの焦点位置が樹脂フィルム9aの上面9cからずれてしまう。そのため、本実施の形態の超音波画像検査装置1では、Z軸ステージ15の微動ステージ15bを駆動して超音波Sの焦点位置を微調整する。
【0053】
具体的には、走査範囲R1における各照射点で取得した反射波と基準点で取得した反射波とを比較して、各照射点での反射波の位相差を、基準点での反射波の位相を基準として検出する。そして、反射波の位相差の検出結果に基づいて、各反射波の位相が同位相となるように、Z軸ステージ15の微動ステージ15bを駆動する。これにより、各照射点において、超音波トランスデューサ13と樹脂フィルム9aの上面9cとの距離Lが超音波トランスデューサ13の焦点距離と一致するよう調整される。
【0054】
次に、本実施の形態において、生体組織8の音響インピーダンス像を生成するためにCPU31が実行する処理例について、図5のフローチャートを用いて説明する。
【0055】
先ず、CPU31は、制御信号を出力することでX−Yコントローラ27によってモータ29X,29Yを駆動し、超音波Sの走査位置が基準点(リファレンス部材10上の走査開始点)に位置するようにX−Yステージ14を移動する。そして、CPU31は、制御信号を出力することでZ軸コントローラ28によってモータ29Zを駆動し、Z軸ステージ15を移動して超音波Sの焦点位置を調整する(ステップ100)。
【0056】
具体的には、超音波Sの焦点域近傍となる初期位置(例えば、超音波トランスデューサ13の焦点距離よりも若干離れた位置)にZ軸ステージ15の粗動ステージ15aを移動させる。その後、励起パルスが超音波トランスデューサ13に供給されると、超音波トランスデューサ13から超音波Sが照射され、反射波信号のピーク電圧が検波回路24で検出される。そして、CPU31は、A/D変換回路25で変換されたデジタルデータをI/F回路32を介して取り込み、そのデータ(ピーク電圧)をZ軸ステージ15の位置(Z軸の座標データ)と関連付けてメモリ33に記憶する。
【0057】
次いで、超音波トランスデューサ13をガラス面20aに近づけるようにZ軸ステージ15(微動ステージ15b)が所定距離(例えば、0.01mm)だけ移動された後、超音波Sが照射され、反射波信号のピーク電圧が検波回路24で検出される。そして、CPU31は、A/D変換回路25で変換されたデジタルデータをピーク電圧としてZ軸ステージ15の位置と関連付けてメモリ33に記憶する。
【0058】
同様に、Z軸ステージ15をガラス面20aに徐々に近づけ、その都度、Z軸ステージ15の位置に対応する反射波信号のピーク電圧を取得してメモリ33に記憶する。そして、CPU31は、メモリ33に記憶された各ピーク電圧について、最大となる位置(Z軸の座標)を判定し、その位置にZ軸ステージ15を移動させることにより、樹脂フィルム9aの上面9c(樹脂フィルム9aとリファレンス部材10との界面)で焦点を結ぶように超音波Sの焦点位置を調整する。
【0059】
その後、励起パルスが超音波トランスデューサ13に供給される。すると、基準点において、リファレンス部材10に超音波Sが照射され、その反射波が検波回路24で検出される。そして、CPU31は、A/D変換回路25で変換されたデジタルデータをI/F回路32を介して取り込み、そのデータを基準点での反射波のデータとしてメモリ33に記憶する(ステップ110)。なお、このデータとしては、反射波の位相に関する情報や信号強度に関する情報を含む。
【0060】
次に、CPU31は、制御信号を出力することでX−Yコントローラ27によってモータ29X,29Yを駆動し、X−Yステージ14による二次元走査を開始させる。このとき、CPU31は、エンコーダ26の出力に基づいて、測定点(超音波Sの照射点)の座標データを取得する(ステップ120)。
【0061】
そして、生体組織8に超音波Sが照射されると、その反射波の信号が検波回路24で検出される。このとき、CPU31は、A/D変換回路25で変換されたデジタルデータをI/F回路32を介して取り込み、そのデータを測定点の座標データに関連付けてメモリ33に記憶する(ステップ130)。
【0062】
その後、CPU31は、基準点での反射波のデータをメモリ33から読み出す。そして、位相差検出手段としてのCPU31は、測定点での反射波の位相差を、基準点での反射波の位相を基準として検出し、その位相差の有無を判定する(ステップ140)。ここで、位相差があると判定された場合、CPU31は、反射波の位相差の検出結果に基づき、測定点での反射波の位相が基準点での反射波と同位相となるように、Z軸ステージ15の微動ステージ15bを移動させる(ステップ150)。すなわち、CPU31は、位相差に応じた制御信号をZ軸コントローラ28に出力し、そのZ軸コントローラ28からピエゾアクチュエータ29Aに所定の電圧信号を供給させる。この電圧信号に応じてピエゾアクチュエータ29Aが駆動することにより、Z軸ステージ15の微動ステージ15bがZ軸方向に微小移動される。その結果、測定点において、超音波トランスデューサ13と樹脂フィルム9aの上面9cとの距離Lが超音波トランスデューサ13の焦点距離と一致するよう調整される。
【0063】
このように、Z軸ステージ15を微小移動させて超音波Sの焦点を調整した後、CPU31は、ステップ130の処理に戻り、再度超音波の送受信を行うことでその測定点における反射波のデータを取得する。
【0064】
そして、測定点での反射波の位相が基準点での反射波と同位相となり、ステップ140において反射波の位相差がないと判定された場合、パラメータ算出手段としてのCPU31は、上記式(3)に対応した演算を行い、測定点での音響インピーダンスZを算出する(ステップ160)。具体的には、CPU31は、メモリ33に記憶した各反射波のデータ(リファレンス部材10における基準点での反射波の強度S、生体組織8における測定点での反射波の強度S)を読み出す。また、メモリ33には、リファレンス部材10の音響インピーダンスZと樹脂フィルム9aの音響インピーダンスZが予め記憶されており、CPU31は、それら音響インピーダンスZ,Zをメモリ33から読み出す。そして、CPU31は、各反射波の強度S,Sと各音響インピーダンスZ,Zとに基づいて、測定点における音響インピーダンスZを算出する。
【0065】
その後、画像生成手段としてのCPU31は、算出した音響インピーダンスZに基づいて、音響インピーダンス像を生成するための画像処理を行う(ステップ170)。詳しくは、CPU31は、音響インピーダンスZを用いてカラー変調処理を行い、音響インピーダンスZの大きさに応じた画像データを生成し、該画像データをメモリ33に記憶する。
【0066】
CPU31は、全ての測定点での処理が終了し、1画面分の画像データが取得されたか否かを判定する(ステップ180)。ここで、全データが取得されていない場合、CPU31は、ステップ120に戻って、ステップ120〜ステップ180の処理を繰り返し実行する。そして、1画面分の全データが取得された場合には、各データを表示装置36に転送し、該各データに応じた音響インピーダンス像を表示させた後、図5の処理を終了する。
【0067】
この処理により、生体組織8表面での音響インピーダンスの大きさに応じて色分けされた音響インピーダンス像が表示され、その音響インピーダンス像によって、生体組織8における音響インピーダンスの分布が確認される。
【0068】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0069】
(1)本実施の形態の超音波画像検査装置1では、超音波トランスデューサ13と生体組織8との間に、厚さが50μmの薄い樹脂フィルム9aを持つ超音波透過部材9を配置し、その樹脂フィルム9aを介して生体組織8に超音波Sを照射するようにした。この場合、樹脂フィルム9aにおける反射波の減衰を抑制することができ、反射波を確実に検出することができる。また、樹脂フィルム9a表面のうねりに応じて、Z軸ステージ15をZ軸方向に移動させることができ、各測定点で超音波トランスデューサ13と樹脂フィルム9aの上面9cとの距離Lを一定に保つことができる。従って、超音波トランスデューサ13と樹脂フィルム9aの上面9cとの距離Lのバラツキによる測定誤差を回避することができ、生体組織8の音響インピーダンスZを正確に求めることができる。
【0070】
(2)本実施の形態の場合、基準点において、Z軸ステージ15によりで超音波トランスデューサ13の位置を超音波SのZ軸方向に移動させ、その超音波トランスデューサ13と樹脂フィルム9aの上面9cとの距離Lを超音波トランスデューサ13の焦点距離と一致させるようにした。このようにすれば、各測定点において、超音波Sの焦点を生体組織8の表面に合わせることができ、音響インピーダンスZを正確に求めることができる。そして、その音響インピーダンスZを用いることにより、解像度の高い鮮明な音響インピーダンス像を生成することができる。また、Z軸ステージ15によりで超音波トランスデューサ13の位置を移動させているので、試料ステージ4側を移動させる場合と比較して、生体組織8に加わる振動等を防止することができ、音響インピーダンスZをより正確に求めることができる。
【0071】
(3)本実施の形態の超音波画像検査装置1では、Z軸ステージ15の微動ステージ15bを超音波Sの音軸方向に微少移動させるピエゾアクチュエータ29Aと、そのピエゾアクチュエータ29Aを駆動制御するZ軸コントローラ(ドライバ回路)28とを備える。このように、ピエゾアクチュエータ29Aを用いる場合、10ナノメートルのオーダーで超音波トランスデューサ13の位置を精度良く、かつ迅速に調整することができる。
【0072】
(4)本実施の形態の超音波画像検査装置1では、超音波透過薄膜として樹脂フィルム9aを用いた。樹脂フィルム9aは、超音波Sが透過しやすく、生体組織8よりも大きな音響インピーダンスを持つ。従って、樹脂フィルム9aの上面9c(生体組織8との界面)で超音波Sを反射させることができ、反射波を確実に検出することができる。
【0073】
(5)本実施の形態の超音波画像検査装置1では、超音波トランスデューサ13の圧電素子16とピエゾアクチュエータ29Aのピエゾ素子が音響的に絶縁されている。そのため、Z軸ステージ15の振動が超音波トランスデューサ13に伝達されることが防止され、生体組織8の音響インピーダンスZを正確に測定することができる。
【0074】
(6)本実施の形態におけるパルス励起型超音波顕微鏡2は、生体組織8の下方から超音波Sを照射してその組織下面の画像を可視化するよう構成された倒立型の顕微鏡である。この場合、特別な固定部材を設ける必要がなく、樹脂フィルム9a上面に生体組織8を載せるだけで、その音響インピーダンスZを容易に測定することができる。従って、生体組織8を生かした状態でその組織構造を迅速に確認することができる。言い換えると、生体組織8のありのままの様子を観察することが可能となる。
【0075】
(7)本実施の形態の超音波画像検査装置1では、従来よりも周波数が高い320MHzの超音波Sを使用することにより、音響インピーダンス像の解像度を高めることができ、生体組織8を細胞レベルで観察することが可能となる。
[第2の実施の形態]
【0076】
次に、本発明を具体化した第2の実施の形態を説明する。
【0077】
上記第1の実施の形態では、反射波の位相差を検出したタイミングで、Z軸ステージ15により超音波Sの焦点を調整していたが、本実施の形態では、位相差の検出とは異なるタイミングで、超音波Sの焦点を調整するようにしている。具体的には、本実施の形態では、超音波Sの1回目の二次元走査(プレスキャン)を行うことで測定点毎の反射波の位相差を求め、各反射波の位相差に応じたデータをメモリ33に記憶する。その後、超音波Sの2回目の二次元走査時に、測定点毎に位相差のデータをメモリ33から読み出し、そのデータに基づいてZ軸ステージ15を微小移動させ超音波の焦点を調整した後、音響インピーダンスZを測定する。なお、本実施の形態の超音波画像検査装置1の構成は、第1の実施の形態と同一であるので、ここではその説明を省略する。
【0078】
以下、本実施の形態において、生体組織8の音響インピーダンス像を生成するためにCPU31が実行する処理例について、図6のフローチャートを用いて説明する。
【0079】
先ず、CPU31は、制御信号を出力することでX−Yコントローラ27によってモータ29X,29Yを駆動し、超音波Sの走査位置が基準点に位置するようにX−Yステージ14を移動する。そして、CPU31は、制御信号を出力することでZ軸コントローラ28によってモータ29Zを駆動し、Z軸ステージ15を移動して超音波Sの焦点位置を調整する(ステップ200)。
【0080】
その後、励起パルスが超音波トランスデューサ13に供給されると、基準点において、リファレンス部材10に超音波Sが照射され、その反射波が検波回路24で検出される。そして、CPU31は、A/D変換回路25で変換されたデジタルデータをI/F回路32を介して取り込み、そのデータを基準点での反射波のデータとしてメモリ33に記憶する(ステップ210)。
【0081】
次に、CPU31は、制御信号を出力することでX−Yコントローラ27によってモータ29X,29Yを駆動し、X−Yステージ14による1回目の二次元走査(プレスキャン)を開始させる。このとき、CPU31は、エンコーダ26の出力に基づいて、測定点の座標データを取得する(ステップ220)。
【0082】
そして、その測定点において超音波Sが照射されると、その反射波の信号が検波回路24で検出される。このとき、CPU31は、A/D変換回路25でデジタルデータに変換された反射波のデータをI/F回路32を介して取り込む。また、CPU31は、基準点での反射波のデータをメモリ33から読み出した後、測定点での反射波の位相差を、基準点での反射波の位相を基準として検出する。そして、CPU31は、その反射波の位相差を測定点の座標データに関連付けてメモリ33に記憶する(ステップ230)。
【0083】
次いで、CPU31は、全ての測定点での反射波の位相差を取得したか否かを判定する(ステップ240)。ここで、全ての測定点での位相差が取得されていない場合、CPU31は、ステップ220に戻って、ステップ220〜ステップ240の処理を繰り返し実行し、その結果、全ての測定点での位相差が取得された場合には、ステップ250以降の処理を実行する。
【0084】
具体的には、CPU31は、制御信号を出力することでX−Yコントローラ27によってモータ29X,29Yを駆動し、X−Yステージ14による2回目の二次元走査を開始させる。このとき、CPU31は、エンコーダ26の出力に基づいて、測定点の座標データを取得する(ステップ250)。
【0085】
そして、CPU31は、測定点の座標データに応じて反射波の位相差に関するデータをメモリ33から読み出し、測定点での反射波の位相が基準点での反射波と同位相となるように、Z軸ステージ15の微動ステージ15bを移動させる(ステップ260)。これにより、測定点において、超音波トランスデューサ13と樹脂フィルム9aの上面9cとの距離Lが超音波トランスデューサ13の焦点距離と一致するよう調整される。
【0086】
その後、その測定点にて超音波Sが照射されると、反射波の信号が検波回路24で検出される。このとき、CPU31は、A/D変換回路25で変換されたデジタルデータをI/F回路32を介して取り込み、そのデータを測定点の座標データに関連付けてメモリ33に記憶する(ステップ270)。
【0087】
CPU31は、メモリ33に記憶した各データに基づいて、上記式(3)に対応した演算を行い、測定点での音響インピーダンスZを算出する(ステップ280)。その後、CPU31は、算出した音響インピーダンスZに基づいて、音響インピーダンス像を生成するための画像処理を行う(ステップ290)。
【0088】
CPU31は、全ての測定点での処理が終了し、1画面分の画像データが取得されたか否かを判定する(ステップ300)。ここで、全データが取得されていない場合、CPU31は、ステップ250に戻って、ステップ250〜ステップ300の処理を繰り返し実行する。そして、1画面分の全データが取得された場合には、各データを表示装置36に転送し、該各データに応じた音響インピーダンス像を表示させた後、図6の処理を終了する。
【0089】
本実施の形態においても、上記第1の実施の形態と同様に、超音波トランスデューサ13と樹脂フィルム9aの上面9cとの距離のバラツキによる測定誤差を回避することができ、生体組織8の音響インピーダンスZを正確に求めることができる。
【0090】
また、本実施の形態では、1回目の走査(プレスキャン)によって各測定点における反射波の位相差を検出して、その位相差に関するデータをメモリ33に記憶するようにした。この場合、2回目の走査時には、メモリ33のデータを用いて超音波の焦点位置を調整できるので、各測定点での音響インピーダンスZを迅速に測定することが可能となる。
【0091】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0092】
・上記第2の実施の形態では、プレスキャンによって全ての測定点での位相差を検出してメモリ33に記憶するものであったが、これに限定されるものではない。例えば、X軸方向の1ライン分の走査を行う際に、各測定点で検出した反射波の位相差をメモリ33に記憶する。そして、次のX軸方向の走査ライン上における各測定点では、メモリ33に記憶した1ライン前の位相差に基づいて、Z軸ステージ15を移動させる。この場合、隣り合う走査ライン上では、位相差のデータに相関性があるため、その位相差のデータを用いることにより、超音波の焦点を調整することができる。
【0093】
・上記実施の形態では、距離調整手段としてのZ軸ステージ15上に超音波プローブ6を設け、超音波プローブ6とともに超音波トランスデューサ13をZ軸方向に移動させるものであったが、試料ステージ4側に距離調整手段を設け、生体組織8(樹脂フィルム9a)側をZ軸方向に移動させてもよい。また、X−Yステージ14の上方にZ軸ステージ15を設けるものであったが、X−Yステージ14の下方にZ軸ステージ15を設けてもよい。
【0094】
・上記実施の形態では、被検査物としての生体組織8の音響インピーダンスZを測定するものであったが、それ以外に、例えば樹脂表面などの音響インピーダンスZを測定してもよい。また、音響インピーダンスZ以外に、密度や体積弾性率などの音響パラメータを測定してもよい。
【0095】
・上記実施の形態において、パソコン3を用いて超音波画像検査装置1を構成したが、それ以外にワークステーションなどのコンピュータを用いてもよい。また、音響インピーダンス像を表示するための表示装置36は、パソコン3に一体的に設けられるものであったが、パソコン3と別体で設けてもよい。
【0096】
・上記実施の形態の超音波画像検査装置1では、カラー変調による音響インピーダンス像を生成するものであったが、それ以外に輝度変調した音響インピーダンス像として可視化してもよい。
【0097】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0098】
(1)請求項5または6において、前記超音波透過薄膜は樹脂フィルムであることを特徴とする音響パラメータ測定装置。
【0099】
(2)請求項5または6において、前記超音波透過薄膜は厚さ100μm以下であることを特徴とする音響パラメータ測定装置。
【0100】
(3)請求項5または6において、前記焦点型超音波振動子の圧電素子と、前記ピエゾアクチュエータのピエゾ素子とは、音響的に絶縁されていることを特徴とする音響パラメータ測定装置。
【0101】
(4)請求項5または6において、前記位相差検出手段が検出した複数の照射点の位相差に関するデータを記憶するためのメモリを備えたことを特徴とする音響パラメータ測定装置。
【0102】
(5)請求項5または6において、前記超音波顕微鏡は、前記被検査物の下方から超音波を照射してその被検査物における下面の画像を可視化するよう構成された倒立型の顕微鏡であることを特徴とする音響パラメータ測定装置。
【0103】
(6)請求項5または6に記載の音響パラメータ測定装置と、前記被検査物の音響パラメータに基づいて画像を生成する処理を行う画像生成手段と、前記画像を表示するための表示装置とを備えることを特徴とする超音波画像検査装置。
【0104】
(7)技術的思想(6)において、前記画像生成手段は、輝度変調またはカラー変調して画像表示するための画像データを生成することを特徴とする超音波画像検査装置。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明を具体化した第1の実施の形態の超音波画像検査装置を示す概略構成図。
【図2】超音波画像検査装置の電気的な構成を示すブロック図。
【図3】超音波トランスデューサ側から見た超音波透過部材の平面図。
【図4】焦点位置と音圧との関係を示す説明図。
【図5】第1の実施の形態の音響インピーダンス像の生成処理を示すフローチャート。
【図6】第2の実施の形態の音響インピーダンス像の生成処理を示すフローチャート。
【図7】リファレンス部材及び生体組織での超音波の反射波を示す説明図。
【符号の説明】
【0106】
1…音響パラメータ測定装置としての超音波画像検査装置
2…パルス励起型超音波顕微鏡
9…超音波透過部材
9a…超音波透過薄膜としての樹脂フィルム
9c…第1面としての上面
9d…第2面としての下面
13…焦点型超音波振動子としての超音波トランスデューサ
14…二次元走査手段を構成するX−Yステージ
15…距離調整制御手段を構成するZ軸ステージ
24…信号強度検出手段としての検波回路
28…ドライバ回路としてのZ軸コントローラ
31…位相差検出手段及びパラメータ算出手段としてのCPU


【特許請求の範囲】
【請求項1】
超音波を被検査物に向けて照射するとともに、前記被検査物からの反射波を受信して電気信号に変換する焦点型超音波振動子と、前記超音波の照射点を二次元的に走査させる二次元走査手段とを備えた超音波顕微鏡を用い、前記焦点型超音波振動子と前記被検査物との間に、前記被検査物とは異なる既知の音響パラメータを有する超音波透過薄膜を持つ超音波透過部材を配置し、前記超音波透過薄膜の第1面に前記被検査物を接触させた状態で、前記超音波透過薄膜の第2面側から前記被検査物に向けて超音波を照射するとともに、その反射波に基づいて前記被検査物の音響パラメータを求める音響パラメータ測定方法であって、
複数の照射点にて取得した前記反射波の位相差に関する情報に基づき、前記反射波の位相が前記複数の照射点にて同位相となるように前記超音波透過薄膜の第1面と前記焦点型超音波振動子との距離を調整する制御を行い、
前記距離を調整した状態で取得した前記反射波の強度を検出し、
前記反射波の強度と前記超音波透過薄膜の音響パラメータとに基づいて前記被検査物の音響パラメータを求める
ことを特徴とする音響パラメータ測定方法。
【請求項2】
超音波を被検査物に向けて照射するとともに、前記被検査物からの反射波を受信して電気信号に変換する焦点型超音波振動子と、前記超音波の照射点を二次元的に走査させる二次元走査手段とを備えた超音波顕微鏡を用い、前記焦点型超音波振動子と前記被検査物との間に、前記被検査物とは異なる既知の音響パラメータを有する超音波透過薄膜を持つ超音波透過部材を配置し、前記超音波透過薄膜の第1面に前記被検査物を接触させた状態で、前記超音波透過薄膜の第2面側から前記被検査物に向けて超音波を照射するとともに、その反射波に基づいて前記被検査物の音響パラメータを求める音響パラメータ測定方法であって、
所定の基準点にて超音波の照射を行って、前記超音波透過薄膜の第1面からの反射波を取得するステップと、
前記二次元走査手段により超音波の照射点を走査して、複数の照射点にて前記超音波透過薄膜の第1面からの反射波を取得するステップと、
前記複数の照射点にて取得した反射波の位相差を、前記基準点にて取得した反射波の位相を基準として検出するステップと、
前記反射波の位相差の検出結果に基づき、反射波の位相が前記複数の照射点にて同位相となるように前記超音波透過薄膜の第1面と前記焦点型超音波振動子との距離を調整する制御を行うステップと、
前記距離を調整した状態で取得した反射波の強度を検出するステップと、
前記反射波の強度と前記超音波透過薄膜の音響パラメータとに基づいて前記被検査物の音響パラメータを求めるステップと
を含むことを特徴とする音響パラメータ測定方法。
【請求項3】
前記各ステップに先立ち、前記基準点において前記超音波透過部材及び前記焦点型超音波振動子の少なくとも一方を超音波の音軸方向に移動させて、前記超音波透過薄膜の第1面と前記焦点型超音波振動子との距離を前記焦点型超音波振動子の焦点距離と一致させるステップを実施することを特徴とする請求項2に記載の音響パラメータ測定方法。
【請求項4】
前記距離を調整する制御を行うステップでは、前記焦点型超音波振動子を超音波の音軸方向に微少移動させることを特徴とする請求項2または3に記載の音響パラメータ測定方法。
【請求項5】
超音波透過薄膜を持つ超音波透過部材を隔てて配置された被検査物に向けて超音波を照射するとともに、前記被検査物からの反射波を受信して電気信号に変換する焦点型超音波振動子と、前記超音波の照射点を二次元的に走査させる二次元走査手段とを備えた超音波顕微鏡を備え、前記被検査物とは異なる既知の音響パラメータを有する前記超音波透過薄膜の第1面に前記被検査物を接触させた状態で、前記超音波透過薄膜の第2面側から前記被検査物に向けて超音波を照射するとともに、前記超音波透過薄膜の第1面からの反射波に基づいて前記被検査物の音響パラメータを求める音響パラメータ測定装置であって、
複数の照射点にて取得した反射波の位相差を、所定の基準点にて取得した反射波の位相を基準として検出する位相差検出手段と、
前記反射波の位相差の検出結果に基づき、反射波の位相が前記複数の照射点にて同位相となるように前記超音波透過薄膜の第1面と前記焦点型超音波振動子との距離を調整する制御を行う距離調整制御手段と、
前記焦点型超音波振動子で変換した電気信号に基づいて、前記超音波透過薄膜の第1面に接触する前記被検査物の表面からの反射波の強度を検出する信号強度検出手段と、
前記反射波の強度と前記超音波透過薄膜の音響パラメータとに基づいて前記被検査物の音響パラメータを求めるパラメータ算出手段と
を備えたことを特徴とする音響パラメータ測定装置。
【請求項6】
前記距離調整制御手段は、前記焦点型超音波振動子を超音波の音軸方向に微少移動させるピエゾアクチュエータと、そのピエゾアクチュエータを駆動制御するドライバ回路とを含むことを特徴とする請求項5に記載の音響パラメータ測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−175661(P2008−175661A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−8702(P2007−8702)
【出願日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(000243364)本多電子株式会社 (255)
【Fターム(参考)】