説明

音響式測定装置及び音響式測定方法

【課題】精度よく特性を合わせたマイクロホンを用いることなく被測定対象の体積、表面積、リークなどの測定を行うことができる音響式測定装置及び音響式物理量方法を提供すること。
【解決手段】基準容器10内を駆動手段30により音響的に駆動すると共に被測定対象Mを収納した被測定容器20内を駆動手段40により音響的に駆動して、基準容器10内の圧力と被測定容器20内の圧力との間の差圧ゼロになるように駆動手段30及び駆動手段40をそれぞれ駆動する駆動信号Sig1,Sig2を制御する。そして、このときの基準容器10と被測定容器20の音響インピーダンスの比又はそれに対応する値に基づいて、被測定対象Mの体積、表面積、リークなどを測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響インピーダンスを利用して被測定対象を測定する技術に関わる。
【背景技術】
【0002】
従来から音響インピーダンスを利用して被測定対象の表面積、体積、リーク、変位、速度などの物理量の測定値を測定する方法及び装置が提案されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、容器の音響インピーダンスが容器の内表面積によって変化する現象を利用して被測定対象の表面積を測定する音響式表面積測定装置が提案されている。この音響式表面積測定装置は、基準容器と被測定容器とに交番的体積変化を差動的に与えるスピーカーと、基準容器及び被測定容器のそれぞれの内部の圧力変化を検出する複数のマイクロホンと、これらのマイクロホンから出力される信号間の位相差を測定する信号処理部とを備えており、被測定容器に被測定対象を入れたときの位相差により被測定対象の表面積を算出するものである。
【0004】
また、下記特許文献2には、容器の音響インピーダンスが容器容積によって変化する現象を利用して、被測定対象の容積ないしは体積を測定する音響式体積測定装置が提案されている。この音響式体積測定装置は、基準容器と被測定容器とに交番的体積変化を差動的に与えるスピーカーと、基準容器及び被測定容器のそれぞれの内部の圧力変化を検出する複数のマイクロホンと、これらのマイクロホンから出力される信号レベルの比(圧力変化の大きさ)を測定する信号処理部とを備えており、被測定容器に標準物を入れたときの圧力変化の大きさの比と、被測定容器に被測定対象を入れたときの圧力変化の大きさの比とから、標準物と被測定対象との体積差を求めるものである。
【0005】
また、下記特許文献3には、容器の音響インピーダンスが容器のリークによって変化することを利用して被測定対象のリークを測定する音響式リーク測定装置が提案されている。この音響式リーク測定装置は、リークを測定すべき被測定容器に音響的に結合される基準容器と、被測定容器内の空気と基準容器内の空気とを差動的に駆動するスピーカーと、被測定容器と基準容器のそれぞれの内部の音圧を検出するマイクロホンとを備えており、マイクロホンの出力信号をとり込んでこれらの信号の間の位相差により被測定容器のリークを測定するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−30551号公報
【特許文献2】特開平10−038658号公報
【特許文献3】特開平11−211606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した従来の音響式測定装置及び方法では、被測定容器と基準容器のそれぞれの内部の音圧を検出するために2つのマイクロホンを用いる必要がある。これら2つのマイクロホンの特性の相違があると誤差が生じてしまうことになることから、精度よく特性を合わせたマイクロホンが必要となる。
【0008】
しかし、精度よく特性を合わせたペアのマイクロホンは、その選別などのコストがかかってしまうことから、結果的に、コスト的な問題が生じてしまうことになっていた。また、特別に選別したペアのマイクロホンを使用しても、温度特性などを完全に揃えることは困難であり、従って、温度によって測定精度が変化してしまうことになる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、基準容器と、被測定対象をその一部の構成とする被測定容器と、前記基準容器内及び前記被測定容器内をそれぞれ音響的に駆動する複数の駆動手段と、前記基準容器内と前記被測定容器内との差圧を検出する差圧センサと、前記複数の駆動手段段をそれぞれ駆動する複数の駆動信号のうち少なくとも一つの駆動信号を前記差圧センサで検出する差圧がゼロになるように制御し、このときの前記駆動信号の状態に基づいて、前記基準容器と前記被測定容器との音響インピーダンス比又はその等価値を判定し、当該判定値から前記被測定対象の測定値を算出する信号処理部と、を備えることを特徴とする音響式測定装置とした。
【0010】
また、請求項2に記載の発明は、前記駆動信号は、正弦波信号であり、前記信号処理部は、前記差圧がゼロの状態での前記駆動信号の振幅と位相に基づいて、複素数で表される前記音響インピーダンス比又はその等価値を判定することを特徴とする。
【0011】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の音響式測定装置において、前記信号処理部は、前記駆動信号として、複数の周波数の正弦波信号を用いて、前記音響インピーダンスの周波数特性を検出し、前記音響インピーダンス又はその等価値に加え、前記音響インピーダンスの周波数特性に基づいて、前記被測定対象の測定値を算出することを特徴とする。
【0012】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の音響式測定装置において、前記信号処理部は、前記音響インピーダンスの周波数特性に基づいて、前記被測定容器の形状誤差を補正することを特徴とする。
【0013】
また、請求項5に記載の発明は、基準容器を用いて被測定容器の少なくとも一部を構成する被測定対象を測定する音響式測定方法であって、前記基準容器内を音響的に駆動する駆動手段と前記被測定容器内を音響的に駆動する駆動手段のうち少なくとも一つの駆動手段を駆動する駆動信号を制御して、前記基準容器内と前記被測定容器内との差圧をゼロにするステップと、前記差圧がゼロの状態での前記駆動信号の振幅と位相に基づいて、前記基準容器と前記被測定容器との音響インピーダンス比又はその等価値を判定し、当該判定値から前記被測定対象の測定値を算出するステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、精度よく特性を合わせたペアのマイクロホンを用いる必要が無く、コスト的に安価な音響式測定装置及び音響式測定方法を提供することができる。しかも、駆動手段(アクチュエータ)は、温度に対する特性変化を抑えることが容易であり、ペアのマイクロホンを使用する場合に比べ、温度特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】音響インピーダンスの第一次形状効果を複素平面上で説明した図である。
【図2】第二次形状効果とその周波数特性を説明した図である。
【図3】本発明の一実施形態にかかる音響式測定装置の構成を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態にかかる誤差補正の原理を説明するための図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかる誤差補正の原理を説明するための図である。
【図6】本発明の一実施形態にかかる音響式測定装置の構成を示す図である。
【図7】第1具体例の音響式測定装置の構成を示す図である。
【図8】第2具体例の音響式測定装置の構成を示す図である。
【図9】第3具体例の音響式測定装置の構成を示す図である。
【図10】第4具体例の音響式測定装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための形態(以下、「実施形態」とする)について説明する。なお、説明は以下の順序で行う。
1.音響式測定装置及び方法の概要
2.音響式測定装置及び方法の第1具体例
3.音響式測定装置及び方法の第2具体例
4.音響式測定装置及び方法の第3具体例
5.音響式測定装置及び方法の第4具体例
【0017】
[1.音響式測定装置及び方法の概要]
[1.1.音響式測定の基本原理]
まず、本実施形態における音響式測定の基本原理を図面を参照して説明する。
【0018】
ある容器の音響インピーダンスZaは、その容器の壁面での熱伝導がなければ「容量性」であり、次式を用いて表わすことができる。なお、この音響インピーダンスZaは、容器内の圧力変動Pと体積速度U(容器に加えられた容積変動の時間微分)との複素比である。
【0019】
【数1】

【0020】
ここで、γは気体の比熱比(空気:約1.4)、Pは閉空間の平均圧力(大気圧)、jは虚数単位、ωは音源の角周波数(以下、「音源角周波数」という。)、Vは容器の容積(容器内の体積)をそれぞれ表す。複素平面上で音響インピーダンスを表現すれば、容器の音響インピーダンスZaは、偏角が−90度で、絶対値が容器の容積に反比例するベクトルとなる。
【0021】
上述のように断熱的な容器の音響インピーダンスZaは容量性であることから、その電気等価回路は、その静電容量がV/γPで表されるコンデンサとなる。従って、このように音響インピーダンスZaの絶対値ないしは虚数部が容器の容積に反比例することを利用することにより、音響インピーダンスZaから、容器の容積を知ることができる。容積既知の容器内に物体を置いた場合にも、既知容積から物体の体積を差し引いた「余積」が音響インピーダンスの測定から分かるので、容器内に置いた物体体積を知ることができる。これが、音響式体積測定の基本原理である。
【0022】
しかし、現実の容器は、完全には断熱的でなく、壁面において若干の熱伝導が起こる。この影響を考慮に入れると、容器の音響インピーダンスZiは以下の式(2)に示すように表すことができる(「鳥越一平、石井泰、「音を利用した表面積測定」、計測自動制御学会論文、34巻、3号、pp.182-188、1998年」参照)。
【0023】
【数2】

なお、ε、δtは、以下の式(3),(4)に示すように表される。
【0024】
【数3】

【0025】
ここで、εは容器の壁面における熱伝導の影響の大きさを表す無次元のパラメータ、Sは容器の内表面積、δtは温度境界層の厚さ、κは空気の熱伝導率、ρは空気の密度、cpは定圧比熱である。
【0026】
現実の容器のインピーダンスZiは、上記式(2)〜式(4)から分かるように、熱伝導の影響によって、実数部及び虚数部に影響を及ぼすことになり、その影響の程度は容器内表面積Sに比例している。この現象を利用して、測定した音響インピーダンスから表面積を知るのが、音響式表面積測定の基本原理である。
【0027】
容器にリークがある場合、等価回路で考えると、インピーダンスZiに並列接続されたリークインピーダンスZlが現れることになる。リークを、半径がa、長さがlの円断面パイプで等価表現すると、そのインピーダンスZlは、空気の粘性係数をμとして以下の式(5)に示すように表すことができる。
【0028】
【数4】

なお、δは、以下の式(6)に示すように表される。
【0029】
【数5】

ここで、Jnは第一種ベッセル関数、δは振動流の境界層の厚さをそれぞれ表す。
【0030】
リークが小さく等価半径aが小さいときは、式(5)は抵抗性となり、リークインピーダンスの虚数部がゼロに近づくとともに、実数部Rは下記式(7)に示す値に近づく。なお、実際のリークの断面形状は円ではなく、軸も真っ直ぐではないが、リークの断面積が小さくなるにつれてリーク内の流れのレイノルズ数が小さくなり、インピーダンスが抵抗性に近づくという傾向は、リーク形状に無関係に共通する。
【0031】
【数6】

【0032】
式(7)のリークインピーダンスが並列接続されている場合、容器の音響インピーダンスは、リークが無いときより実数部が大きくなり、インピーダンスベクトルは、偏角が増大する(0度に近づく)方向に回転する。このような音響インピーダンスの変化を利用してリークを検知しようとするのが、音響式リークテスターの基本原理である。
【0033】
次に、音響インピーダンスの周波数特性について考える。容器の音響インピーダンスZiは、式(2)から明らかなように、その絶対値が周波数に反比例している。以下においては、容器の音響インピーダンスZiにおける熱伝導の影響が周波数変化に伴ってどのように変化するかの把握を容易にするために、断熱容器の音響インピーダンスZaの絶対値で容器の音響インピーダンスZiを除したZi/|Za |という量を考える(この量を容器の「規格化音響インピーダンス」と呼びZnと書く)。
【0034】
【数7】

【0035】
温度境界層の厚さδtは、音源角周波数ωの関数である。例えば、常温大気圧の下では、音源周波数ω/2πが40Hzのとき温度境界層の厚さδtは約0.4mmである。この値は、通常、容器の寸法より遙かに小さいからことから、εは1よりも十分に小さい量と見なすことができる。このとき、規格化音響インピーダンスZnは、次式(9)で近似することができる。
【0036】
【数8】

【0037】
これを複素平面上のベクトルで表すと図1のようになる。熱伝導の影響がない断熱容器の規格化音響インピーダンスZnは−jに等しいが、壁面の熱伝導の影響がある現実の容器の規格化音響インピーダンスZnは、図1に示したように、−jから、実数部、虚数部ともにεだけ大きくなっている。このように規格化音響インピーダンスZnが−jから外れる現象が、複素音響インピーダンス平面上で表現した第一次の形状効果(以下、「第一次形状効果」という。)である。
【0038】
第一次形状効果しか存在しない場合には、音響インピーダンスZiの値を検出して、実数部の大きさ、あるいは偏角等からεの値を知れば、容器の内表面積を計算することができる(ただし、音響インピーダンス測定系に位相回転が存在する場合には、その位相回転を考慮した上で実数部や虚数部を考える必要がある。)。また、εの値に基づいて虚数部の大きさに補正を加えることで、表面積誤差を補正して、正しい容積・体積を知ることができる。体積測定における表面積誤差補正を複素インピーダンス平面上で考えれば、測定された音響インピーダンスZiに対応する点を通り、傾きが1の直線が、虚軸と交わる座標から、断熱容器の音響インピーダンスを推定することができる。特開2002−131111号公報や特開2006−284473号公報に記載の補正法も、数学的にはこれと等価な処理を行っている。
【0039】
ところで、温度境界層の厚さδtの値は、式(4)からわかる通り、音源角周波数ωの平方根に反比例している。音源角周波数ωが増大すると、温度境界層の厚さδtの値が小さくなり、εの値も小さくなる。第二次の形状効果(以下、「第二次形状効果」という。)が無い場合には、規格化音響インピーダンZnのベクトルは、音源角周波数ωを増大させたとき、45度の角度で−jに漸近する軌跡を描くことになる。しかし、実際には第二次形状効果が存在するため、規格化音響インピーダンZnの軌跡は傾き1の直線から外れる。これは、第二次形状効果が、一般に、音響インピーダンスZiの実数部と虚数部に異なる割合で現れるためである。規格化音響インピーダンZnの軌跡は、容器の形状に応じて異なる。例えば、球形容器の場合の軌跡は図2に示したものとなる。第二次形状効果が存在し、規格化音響インピーダンZnのベクトルが傾き1の直線から外れている状況では、一つの音源角周波数ωで測定した音響インピーダンスZiから、例えば、上述の表面積誤差補正をしようとすれば、当然、誤差が生じる。
【0040】
表面積誤差補正の観点から注目すべきことは、一般に、第二次形状効果の大きさ自体が、温度境界層の厚さδtの減少とともに小さくなることである。上述の通り、第二次形状効果は、温度境界層部分の体積と容器全体の容積の比が、容器壁面の形状の影響によって、Sδt/Vから外れることで生じると解釈できる。その外れの程度は、温度境界層の厚さδtの値がゼロに近づく極限で、やはりゼロに近づく筈である。図2においては、球形容器の規格化音響インピーダンZnの軌跡が、音源角周波数ωが小さい領域では直線から大きく外れているのに、音源角周波数ωが大きくなるにつれて傾き1の直線に漸近し、さらに−jに近づいていることが分かる。この性質を数式で表現すれば、以下のようになる。
【0041】
【数9】

【0042】
上記式(10)中のαおよびβは、容器の形状によって決まる係数であり、第二次形状効果とは、これらの係数の値が1から外れることに他ならない。そして、上述のように、αとβは、音源角周波数ωが大きくなる極限では1に漸近する。
【0043】
以上の性質を利用して、二つ以上の音源角周波数ωで音響インピーダンスZiを検出し、音響インピーダンスZiが音源角周波数ωの増大と共にどういう値に漸近するか、あるいは複素平面上でどのような軌跡を描くかということを推定することで、第二次形状効果が無い場合の音響インピーダンスを求めることが可能になる。これによって、表面積測定における第二次形状効果誤差の補正、体積・容積測定の表面積誤差補正における第二次形状効果の除去が可能になる。また、形状効果とリークインピーダンスの周波数依存性の違いを利用して、形状効果を除いたリーク検出が可能となる。
【0044】
なお、ここまで音響インピーダンスを用いて説明を行ってきたが、音響インピーダンスと等価な量を用いて、同様の誤差補正ができることは言うまでもない。例えば、音響インピーダンスの逆数である音響アドミッタンス領域でも、全く等価な処理を行うことができる。音響アドミッタンス領域では、規格化音響アドミッタンスYn =1/Znの軌跡は、jを通り傾き1の直線となる。(9)式が近似式であることから分かるとおり、音響インピーダンス領域では、第二次形状効果が無い場合でも、規格化音響インピーダンスZnの軌跡が傾き1の直線となるのはεが微小と見なせる範囲においてである。これに対して、規格化音響アドミッタンスYnの軌跡は、εの大きさに関わらず傾き1の直線となるので、アドミッタンス領域で補正処理を行う方がシンプルなアルゴリズムとなる場合もある。
【0045】
[1.2.音響式測定装置及び測定方法]
本発明の一実施形態にかかる音響式測定装置及び音響式測定方法の概要について、図面を参照して説明する。図3及び図5は本発明の一実施形態にかかる音響式測定装置の構成を示す図、図4は本発明の一実施形態にかかる表面積の測定方法を説明するための図である。
【0046】
図3に示すように、本実施形態にかかる音響式測定装置1は、基準容器10と、被測定容器20と、基準容器10内の体積変化を交番的に生じさせることで、基準容器10内を音響的に駆動する駆動手段30と、被測定対象Mを収納する被測定容器20内の体積変化を交番的に生じさせることで、被測定容器20内を音響的に駆動する駆動手段40と、基準容器10内と被測定容器20内との差圧変動を検出する差圧センサ50とを備えている。
【0047】
さらに、駆動手段30,40を駆動する駆動信号Sig1,Sig2と差圧センサ50の出力とに基づいて、基準容器10と、被測定容器20との音響インピーダンスの比又はそれに対応する値(等価量)を測定し、被測定対象Mの物理量を演算する信号処理部60を備えている。
【0048】
ここで、被測定容器20の音響インピーダンスをZm、基準容器10の音響インピーダンスをZrとしたとき、各音響インピーダンスZm,Zrは以下の式(12),(13)を用いて表すことができる。なお、被測定容器20自体の容積Voから被測定対象Mの体積Vtを差し引いた残りの体積(余積)を被測定容器20の体積Vmとし、基準容器10の容積をVrとする。また、被測定容器20自体の内表面積Soに被測定対象Mの表面積Stを加算した表面積を被測定容器20の表面積をSmとし、基準容器10自体の内表面積をSrとする。
【0049】
【数10】

なお、εm、εr、δtは、以下の式(14)〜(16)に示すように表される。ただし、εrは基準容器10壁面の熱伝導の影響を表すパラメータ、εmは、被測定対象M及び被測定容器20壁面の熱伝導の影響を表すパラメータである。
【数11】

【0050】
信号処理部60は、基準容器10の駆動手段30を駆動する駆動信号Sig1と被測定容器20の駆動手段40を駆動する駆動信号Sig2とを差圧センサ50の出力がゼロになるように制御する。これにより基準容器10内の圧力変動Prと被測定容器20内の圧力変動Pとが同じになるように制御する。従って、上記式(12),(13)は、下記式(17)を用いて表すことができる。
【0051】
【数12】

【0052】
上記式(17)を変形すると、以下の式(18)が得られる。
【数13】

【0053】
m、Urは、駆動手段30,40を駆動する駆動信号Sig1,Sig2から知ることができる。すなわち、Um/Urは、駆動信号Sig1と駆動信号Sig2との振幅比及び位相差から求めることができる。
【0054】
信号処理部60は、駆動信号Sig1,Sig2の振幅及び位相角からUm/Urの値を求めた後、そのUm/Urの値に基づいて被測定容器20の体積Vm及び表面積Smを求め,被測定対象Mの体積Vt及び表面積Stを求める。なお、このUm/Urは、言い換えれば、被測定容器20の音響インピーダンスZrと基準容器10の音響インピーダンスZmの比(Zr/Zm)、又はこの比に対応する値、例えば、基準容器10の音響アドミッタンスYmと被測定容器20の音響アドミッタンスYrの比(Ym/Yr)となる。
【0055】
ここで、Um/Ur(=Zr/Zm=Ym/Yr)から被測定容器20の体積Vm及び表面積Smを求め、被測定対象Mの体積Vt及び表面積Stを求めるアルゴリズムの一例を以下に説明するが、このアルゴリズムに限らず他のアルゴリズムによって被測定対象Mの体積Vt及び表面積Stを求めてもよい。
【0056】
上記式(18)の右辺のεm及びεrは、通常1よりはるかに小さい微小量である。そこで、二次以上の微小項を無視すると、式(19)のように近似できる。
【0057】
【数14】

【0058】
この比(Um/Ur)を複素平面上で表現すると、図4におけるA点になる。図4においては、分かりやすいように(εmr)を拡大してあるが、通常は、(εmr)はかなり小さい量であるため、絶対値又は実数部の大きさからVm/Vrの近似値が求まる。Vrは既知(あらかじめキャリブレーションで求めておく)なので、これからVmが計算できる。
【0059】
しかし、測定精度を向上させるためには、(εmr)を考慮して、Vm/Vrを求める必要がある。
【0060】
ここで、被測定容器20のうち被測定対象M以外の熱伝導の影響を表すパラメータをεm1とし、被測定容器20のうち被測定対象Mの熱伝導の影響を表すパラメータをεm2とすると、上記式(19)は、以下のように表すことができる。
【0061】
【数15】

【0062】
被測定対象Mを除く被測定容器20や基準容器10等に比べて被測定対象Mの表面の曲率半径が小さく、第二次形状効果が無視できないとき、上記式(20)は、以下のように表すことができる。なお、αおよびβは、第二次形状効果を表す係数であり、添え字m2は被測定対象Mの表面に関する係数であることを表す。
【0063】
【数16】

【0064】
このときの複素比(Um/Ur)は、複素平面上で、点Aからずれた点Bとなる(この例は被測定対象Mが球形の場合である)。単純に従来の誤差補正法を適用すると、点Bを通り傾き−1の直線が実軸と交わるC点の座標をVm/Vrに等しいと推定することになり、誤差が生じる。
【0065】
そこで、本実施形態では、角周波数ωを変化させながら複素比(Um/Ur)を求めて複素平面上にプロットする。そして、その軌跡(図5で点Bを通る実線)が、ωが無限大になった極限で実軸と交わる点を推定し、その座標からVm/Vrを推定する。上記式(11)に示すように、αおよびβは、ωが大きくなる極限で1に収束する。従って、上記軌跡は、点Aを通り傾き−1の直線に漸近する曲線となり、正しいVm/Vrの値を推定することができる。
【0066】
このとき、信号処理部60では、あらかじめキャリブレーションを行って、αr、αm1、βrおよびβm1の効果を測定しておき、信号処理の際にその補正を施すようにしている。すなわち、あらかじめキャリブレーションを行って、駆動信号Sig1,Sig2の音源角周波数ωを2以上変えて、αr、αm1、βrおよびβm1の効果を測定しておき、その後、被測定対象Mを配置して、駆動信号Sig1,Sig2の音源角周波数ωを2以上変えて、各音源角周波数ωでの規格化音響インピーダンスZnを求める。そして、規格化音響インピーダンスZnに、傾き1で虚軸と交わるという拘束を入れて曲線フィッティングする。そして、この曲線の虚軸との交点座標を求めて、第二次形状効果が無い場合の規格化音響インピーダンスZnを求める。このように、第二次形状効果が無い場合の規格化音響インピーダンスZnを求めることで、被測定対象Mを含む被測定容器20の第二次形状効果の誤差補正ができ、かかる誤差補正により体積・容積測定において第二次形状効果の除去が可能になる。
【0067】
このように信号処理部60は、αr、αm1、βrおよびβm1を予めキャリブレーションで求めておき、駆動信号Sig1,Sig2の音源角周波数ωを2以上変えて、第二次形状効果が無い場合の規格化音響インピーダンスZnを求め、第二次形状効果の誤差補正を行って被測定容器20の体積Vm及び表面積Smを算出している。
【0068】
被測定対象Mを収納していない被測定容器20自体の容積Vo及び内表面積Soは既知であることから、信号処理部60は、演算して被測定容器20の体積Vmを被測定容器20自体の容積Voから減算して被測定対象Mの体積Vtを求め、演算して被測定容器20の表面積Smを被測定容器20自体の内表面積Soに加算して被測定対象Mの表面積Stを求めるようにしている。なお、Um/Urの比とVm、Smを関係づける計算式を用いることなく、Um/Urの比とVt、Stを関係づける計算式を用いるようにしてもよい。これにより、加算減算の処理負担を低減することができる。
【0069】
また、被測定対象Mのリークを測定する場合、リークの大きさが非常に小さいときには、その音響インピーダンスZm(ω)はほとんど純抵抗で近似でき、上記式(12),(13)は、以下のように表すことができる。
【0070】
【数17】

【0071】
音圧PrとPmが等しい場合、上記式(12),(13)及び(23)から以下の式(24)の関係式を導くことができる。
【0072】
【数18】

【0073】
従って、被測定対象を用いて被測定容器を形成、すなわち被測定対象を被測定容器自体としたとき、この被測定容器の体積Vm(=被測定容器自体の容積Vo)及び表面積Sm(=被測定容器自体の内表面積So)が既知の被測定容器のリークを測定する場合、Um/Urの比からリークの大きさを導くことができる。
【0074】
このとき、図5に示すように、音響式測定装置1’は、例えば、一側面が開口21した被測定容器20’のリークを測定するように構成できる。
【0075】
音響式測定装置1’の信号処理部60’では、上記式を直接用いるのではなく、リークの無い第1のキャリブレーション用被測定容器と、既知のリークを持つ第2のキャリブレーション用被測定容器を用いてキャリブレーションを行い、Um/Urの比とリークの大きさを関係づける計算式を決定する。
【0076】
その後、信号処理部60’は、基準容器10’の駆動手段30と被測定容器20’の駆動手段40とを駆動する駆動信号Sig1’,Sig2’を差圧センサ50の出力がゼロになるように出力制御し、駆動信号Sig1’,Sig2’の振幅及び位相角からUm/Urの値を求めた後、決定した計算式に基づき、被測定容器20’のリークの大きさを演算している。
【0077】
このように、本実施形態では、精度よく特性を合わせたペアのマイクロホンを用いる必要が無く、コスト的に安価な音響式測定装置及び音響式測定方法を提供することができる。しかも、駆動手段(アクチュエータ)は、温度に対する特性変化を抑えることが容易であり、ペアのマイクロホンを使用する場合に比べ、温度特性を向上させることができる。なお、駆動手段(アクチュエータ)を精密に動作させるには、駆動手段に変位センサや速度センサを取り付けてフィードバック制御することで容易に実現することができ、変位センサや速度のセンサも温度特性変化がほとんど無いものを選択可能である。
【0078】
上述では、音響式表面積測定、音響式体積測定、音響式リーク測定の例について説明したが、本音響測定装置及び方法はこれに限られず、音響式変位測定(マイクロメータ)や音響式流速測定など、音響インピーダンスの測定に帰着する全ての測定装置及び測定法に適用可能である。
【0079】
また、上述においては、駆動手段30,40は共に、駆動信号により振幅と位相が制御できるものとして説明したがこれに限られない。例えば、駆動手段30,40のうち一方の駆動手段を振幅や位相が変化しない固定駆動機構(例えば、モータとカムで構成したメカニカルなもの)とし、他方の駆動手段を駆動信号で振幅と位相を制御して、差圧をゼロとすることができる構成を用いてもよい。
【0080】
また、駆動手段30,40を制御する駆動信号は、単一正弦波信号を用いるようしているが、複数の周波数の正弦波信号を組み合わせて複合正弦波信号で駆動したり、周波数が時間的にスイープされる信号(チャープ信号など)で駆動したりするようにしてもよい。また、不規則な信号で駆動するようにしてもよい。ただし、この場合には、一方の駆動手段は不規則な信号で駆動し、他方の駆動手段は、その不規則な信号をフィルタに通した信号で駆動することになる。このとき、音響インピーダンス比の情報は、フィルタの特性に含まれることになる。
【0081】
[2.音響式測定装置及び方法の第1具体例]
以下、本発明の具現形態を実施例に基づいて説明する。図6は、第1具体例の音響式測定装置100の構成を示す。この音響式測定装置100は、被測定対象Mの体積Vtと表面積Stとを測定可能な装置である。
【0082】
図6に示すように、音響式測定装置100は、筐体部101と制御部102とを備えて構成される。
【0083】
筐体部101は、2つの凹部105a,105bを形成した下筐体103と上筐体104とを備えており、下筐体103に上筐体104を取付けることにより、凹部105a,105bが閉塞されてそれぞれを音響的に閉じた空間である基準容器110と被測定容器120とが形成される。すなわち、下筐体103に形成された凹部105a,105bと上筐体104の底面106a,106bとにより基準容器110及び被測定容器120が形成される。
【0084】
被測定対象Mは、被測定容器120に収納されて、その体積Vt及び表面積Stが計測される。この被測定対象Mを被測定容器120に出し入れする際には、上筐体104を持ち上げて上筐体104を下筐体103から取り外す。なお、被測定対象Mの全周を可及的に空気に触れさせ圧力変動にさらして、被測定対象Mの体積Vt及び表面積Stの測定を精度よく行うために、下筐体103における被測定容器120の底部107には、被測定対象Mを保持するためのニードルを配置することが望ましい。
【0085】
なお、以下において、基準容器110及び被測定容器120の体積Vr,Voとはその内部空間の体積(容積)を意味し、基準容器110及び被測定容器120自体の表面積Sr,Soとはその内部空間を仕切る壁面の総面積(内表面積)を意味する。
【0086】
下筐体103には、基準容器110と被測定容器120との間に差圧センサ116が設けられており、基準容器110内の圧力と被測定容器120内の圧力との差を検出する。さらに、下筐体103には、基準容器110と被測定容器120との間に、通気孔117が設けられており、この通気孔117によって測定前の初期状態において基準容器110内の圧力と被測定容器120内の圧力との間の差(圧力差)をゼロにする。
【0087】
上筐体104には、基準容器110と被測定容器120を形成する底面106a,106bにそれぞれダイヤフラム131,132が配置されており、さらに、これらのダイヤフラム131,132によって遮蔽される上筐体104の内部空間111,121にそれぞれ積層型圧電素子141,142が配置される。積層型圧電素子141,142の一端はそれぞれダイヤフラム131,132に接続され、他端は上筐体104に固着されて、ダイヤフラム131,132を駆動可能とし、駆動手段である積層圧電アクチュエーターが構成される。
【0088】
制御部102には、信号処理部118と、高電圧アンプ151,152とが設けられている。信号処理部118から出力された駆動信号Sig101,Sig102は、高電圧アンプ151,152によりそれぞれ積層型圧電素子141,142を駆動するのに十分な電圧に増幅され、積層型圧電素子141,142に印加される。これにより、基準容器110と被測定容器120とに交番的体積変化を差動的に与えて、基準容器110と被測定容器120とを音響的に駆動する。
【0089】
この信号処理部118は、被測定対象Mの体積Vtと表面積Stとを測定し、その結果を出力する機能を有しており、UmとUrの比(Um/Ur)とVm、Smとを関係づける演算プログラムを内部の記憶部に記憶している。なお、演算プログラムに変えて、Um/UrとVm、Smを関係づけたテーブルを内部の記憶部に記憶するようにしてもよい。ここで体積Vmは、被測定容器120自体の体積Voから被測定対象Mの体積Vtを除いたものであり、差圧センサ116から出力される差圧信号Sig103を入力し、この差圧信号Sig103に基づいて、差圧センサ116による差圧検出レベルがゼロになるように駆動信号Sig101,Sig102を出力する。つまり、基準容器110内の圧力変動Prが被測定容器120内の圧力変動Pmと同じになるように駆動信号Sig101,Sig102を出力する。差圧センサ116による差圧検出レベルがゼロになったとき、信号処理部118は、このときの駆動信号Sig101,Sig102の振幅比及び位相差に基づいて、Um/Urの値を求め、このUm/Urに応じたVm、Smから被測定対象Mの体積Vtと表面積Stを検出する。
【0090】
なお、信号処理部118は、その内部にCPU、プログラムが記憶された記憶部、A/D変換器、D/A変換器などを備えており、この記憶部に記憶されたプログラムをCPUが読み出して実行することにより信号処理部118としての各種機能を実行して、差圧信号Sig103をD/A変換器を介して入力し、当該差圧信号Sig103に応じた駆動信号Sig101,Sig102をD/A変換器から出力する。
【0091】
このように構成された音響式測定装置100による被測定対象Mの体積Vtと表面積Stの測定動作について以下に具体的に説明する。
【0092】
まず、測定者は、下筐体103から上筐体104を取り外して、下筐体103の被測定容器120部分に被測定対象Mを配置し、図6に示すように下筐体103に上筐体104を取付ける。
【0093】
次に、信号処理部118は、例えば、互いに振幅及び位相が異なる駆動信号Sig101,Sig102を高電圧アンプ151,152に出力して、積層型圧電素子141,142によりダイヤフラム131,132を駆動させる。
【0094】
各容器110,120の体積(容積)は、ダイヤフラム131,132の変位により、それぞれΔVr=k・Sd・Xr、ΔVm=k・Sd・Xmだけ変動する。なお、kは比例定数、Sdはダイヤフラム131,132の有効断面積である。また、ダイヤフラム131,132の変位Xr,Xmは、駆動信号Sig101,Sig102の振幅に比例する。
【0095】
このとき、基準容器110内の圧力がPo+Pr(t)となり、被測定容器120内の圧力がPo+Pm(t)となるとすると、差圧センサ116は、基準容器110と被測定容器120の差圧Ps(=Pr(t)−Pm(t))に応じた信号を信号処理部118へ出力する。
【0096】
信号処理部118は、差圧Psがゼロとなるように、差圧センサ116を参照しつつ、駆動信号Sig102の振幅、位相を変更していく。なお、駆動信号Sig102ではなく駆動信号Sig101の振幅、位相を変更していくようにしてもよく、駆動信号Sig101及び駆動信号Sig102の両方の振幅、位相を変更していくようにしてもよい。
【0097】
信号処理部118は、駆動信号Sig101及び駆動信号Sig102を調整して、差圧Psがゼロとなったと判定すると、被測定対象Mの体積Vt及び表面積Stの測定を行う。
【0098】
体積速度Ur及びUmは、ΔVr及びΔVmの時間微分であり、Ur=jωΔVr、Um=jωΔVmと関係づけられる。駆動信号Sig101,Sig102は、ΔVr及びΔVmにそれぞれ比例しているから、駆動信号Sig101,Sig102の複素比をとることより、Um/Urが求まることが分かる。
【0099】
信号処理部118は、出力している駆動信号Sig101,Sig102の複素比により、Um/Urを検出し、上記演算プログラムに基づいて、被測定対象Mの体積Vt及び表面積Stを演算して出力する。これにより、被測定対象Mの体積Vt及び表面積Stが測定される。
【0100】
なお、ここでは、予め演算プログラムを信号処理部118の記憶部に記憶しているが、被測定対象Mの体積Vt及び表面積Stの測定前に、キャリブレーション用の物体を用いて上記Um/Urの検出を行って、演算プログラムのパラメータをキャリブレーションすることにより、被測定対象Mを精度よく測定することができる。
【0101】
以上のように、音響式測定装置100では、従来のように、精度よく特性を合わせた複数のマイクロホンを用意する必要が無く、コストを低減させた音響式測定装置を提供することができる。
【0102】
なお、音源(アクチュエーター)の振動速度を駆動信号に比例させる構成としてもよい。例えば、速度ピックアップを用いた速度サーボ制御などである。この場合は、駆動信号Sig101,Sig102は、位相差なしでUrとUmに直接比例することになる。
【0103】
[3.音響式測定装置及び方法の第2具体例]
次に、第2具体例の音響式測定装置及び方法を説明する。図7は第2具体例の音響式測定装置200の構成を示す。この音響式測定装置200は、第1具体例と同様に、被測定対象Mの体積Vt及び表面積Stを測定可能な装置である。なお、図7においては第1具体例の音響式測定装置100と同様の構成には同一符号を付している。
【0104】
この第2具体例の音響式測定装置200は、基本的に第1具体例の音響式測定装置100と同様の構成であるが、変位センサとフィードバック回路とを備えている点、上筐体内部に基準容器を設けた点で異なる。
【0105】
図7に示すように、音響式測定装置200の上筐体104’には、ダイヤフラム131,132、積層型圧電素子141,142に加え、基準容器110’と差圧センサ116とが設けられる。
【0106】
従って、下筐体103’の凹部105b’は、上筐体104’の底部106b’及び凹部108との間で被測定容器120’のみを形成することとなり、下筐体103’には基準容器110’は形成されないため、測定者は、被測定対象Mを基準容器110’に間違えて挿入することがなく、測定者の利便性を向上させることができる。
【0107】
また、上筐体104’の内部空間111,121には、変位センサ143,144が設けられており、これら変位センサ143,144により積層型圧電素子141,142の変位が検出される。例えば、変位センサ143,144として、検出対象に貼り付けて用いる歪みゲージや光学式変位センサを用いることができる。
【0108】
さらに、制御部102’には、フィードバック回路である演算器153,154が設けられており、変位センサ143,144から出力される信号に応じた信号を駆動信号Sig101,Sig102から減算して、駆動信号Sig101,Sig102を調整し、アクチュエーターである積層型圧電素子141,142の振動を制御するようにしている。このようにすることで、安定した容積(体積)変動を発生させることができる。
【0109】
なお、信号処理部118は、第1実施形態と同様に、差圧信号Sig103に基づいて、駆動信号Sig101及び駆動信号Sig102を調整し、差圧Psがゼロとなったと判定すると、このときの駆動信号Sig101,Sig102の振幅比及び位相差に基づいて、Um/Urの値を求め、被測定対象Mの体積Vt及び表面積Stを検出する。
【0110】
[4.音響式測定装置及び方法の第3具体例]
次に、第3具体例の音響式測定装置及び方法を説明する。図8は第3具体例の音響式測定装置300の構成を示す。この音響式測定装置300は、被測定対象Mの体積Vt、表面積St及びリークを測定可能な装置である。なお、図8においては第1具体例の音響式測定装置100と同様の構成には同一符号を付している。
【0111】
この第3具体例の音響式測定装置300は、基本的に第1具体例の音響式測定装置100と同様の構成であるが、基準容器と被測定容器とが物理的に分離した筐体に形成される点、基準容器の第1筐体部と被測定容器の第2筐体部とが通気管を介して接続される点、第2筐体部と被測定対象M’とで被測定容器が形成される点、リークを測定可能な点で異なる。
【0112】
図8に示すように、音響式測定装置300は、基準容器310が形成される第1筐体部305と、被測定対象M’と共に被測定容器320を形成する第2筐体部306とを備えている。
【0113】
第1筐体部305には、基準容器310内の体積(容積)を変動させるダイヤフラム131及び積層型圧電素子141に加え、基準容器310内の圧力を検出する差圧センサ116が設けられている。この差圧センサ116は、被測定容器120と連通する通気管307と接続されており、基準容器310内の圧力と被測定容器320内の圧力の差を検出する。なお、通気管307は、例えば、可撓性のチューブで形成することができる。また、チューブの変形に伴う体積(容積)変化があると誤差になることから、体積(容積)変化の少ないチューブを用いることが望ましい。
【0114】
第2筐体部306には、被測定容器320内の体積(容積)を変動させるダイヤフラム132及び積層型圧電素子142に加え、通気管307と連通するための開口311と、被測定対象M’の空間308と連通するための開口312が設けられる。被測定容器320は、被測定対象M’の空間308と第2筐体部306内の空間309とにより形成されることになる。なお、被測定対象M’の空間308が被測定対象の体積Vtとなり空間308を形成する被測定対象M’の面の面積が被測定対象の表面積Stとなる。
【0115】
このように通気管307により、被測定容器320を形成する第2筐体部306を基準容器310に連結するようにしているため、被測定容器320を基準容器310から離れた位置に配置したいときなどに好適である。差圧センサ116が第1筐体部305に配置されているため、例えば、第2筐体部306の温度が高くなるような場合に、差圧センサ116への影響を低減させることが可能となる。
【0116】
また、被測定対象M’の空間308と連通する開口312を第2筐体部306に設けて、被測定対象M’の空間308と第2筐体部306内の空間309とにより被測定容器320を形成することにより、被測定対象M’により形成される空間の体積(容積)Vt及びその空間を形成する側面の表面積Stを測定することが可能となる。従って、例えば、エンジンの燃焼室の容積なども容易に測定することが可能となる。
【0117】
なお、音響式測定装置300の信号処理部318は、第1実施形態の信号処理部118と同様に、差圧信号Sig103に基づいて、駆動信号Sig101及び駆動信号Sig102を調整し、差圧Psがゼロとなったと判定すると、このときの駆動信号Sig101,Sig102の振幅比及び位相差に基づいて、Um/Urの値を求め、被測定対象M’の体積Vt及び表面積Stを検出する。さらに、信号処理部318は、上述した原理に基づき、Vm/Vr(=Um/Ur)から被測定対象M’のリークを検出する。
【0118】
[5.音響式測定装置及び方法の第4具体例]
次に、第4具体例の音響式測定装置及び方法を説明する。図9に第4具体例の音響式測定装置400の構成を示す。この音響式測定装置400は、被測定対象のリークを測定可能なリークテスターである。なお、図9においては第1具体例の音響式測定装置100と同様の構成には同一符号を付している。なお、信号処理部は第3具体例における信号処理部318と同様の構成であり、一部処理が異なる。
【0119】
図9に示すように、第4具体例の音響式測定装置400は、リークテスター基台となる筐体部401と、被測定対象であるワークM”のリークを測定するための処理を行う制御部402とを備えて構成される。
【0120】
筐体部401は、下筐体403、上筐体404を備えており、上筐体404上にワークM”が取付けられる。ここでは一例としてダイキャスト製の部品をワークM”としている。また、図中の406は、ワークM”上のリークを模式的に表したもので、その音響インピーダンスはZl(ω)である。
【0121】
下筐体403は、上部を開口した凹部407が形成された箱状の筐体であり、上筐体404と凹部407とで囲まれた空間を基準容器410としている。
【0122】
上筐体404には、その底部にダイヤフラム131が形成され、このダイヤフラム131によって遮蔽される上筐体404の内部空間111には積層型圧電素子141が配置される。また、上筐体404の上部にダイヤフラム132が形成され、このダイヤフラム132によって遮蔽される上筐体404の内部空間112には積層型圧電素子142が配置される。積層型圧電素子141,142の一端はそれぞれダイヤフラム131,132に接続され、他端は上筐体404に固着されて、ダイヤフラム131,132を駆動可能とし、駆動手段である積層圧電アクチュエーターが構成される。
【0123】
また、上筐体404の上部には、ワークM”を取付けてリーク測定を行うときに、ワークM”と上筐体404に囲まれた空間の気密を保つためのシール材423が設けられており、このシール材423は、ワークM”の形状に合わせて、上筐体404の上部に固定される。ワークM”と上筐体404に囲まれた空間が被測定容器420の体積(容積)Vm及び表面積Smとなる。
【0124】
さらに、上筐体404には、基準容器410内の圧力と被測定容器420内の圧力との差(差圧)を検出する差圧センサ116が収納される。この差圧センサ116は、基準容器410側に近い位置に設けられており、これによりワークM”の温度が室温と異なる場合であってもその影響を避けることができる。
【0125】
制御部402には、信号処理部418と、高電圧アンプ151,152とが設けられている。信号処理部418から出力された駆動信号Sig101,Sig102は、高電圧アンプ151,152によりそれぞれ積層型圧電素子141,142を駆動するのに十分な電圧に増幅され、積層型圧電素子141,142に印加される。
【0126】
信号処理部418は、ワークM”のリーク406を測定し、その結果を出力する機能を有しており、UmとUrの比(Um/Ur)とリーク値とを関係づける演算プログラムを内部の記憶部に記憶している。なお、演算プログラムに変えて、Um/Urとリーク値を関係づけたテーブルを内部の記憶部に記憶するようにしてもよい。
【0127】
信号処理部118は、差圧センサ116から出力される差圧信号Sig103を入力し、この差圧信号Sig103に基づいて、差圧センサ116による差圧検出レベルがゼロ(つまり、基準容器410内の圧力変動Prと被測定容器420内の圧力変動Pmとの差がゼロ)になるように駆動信号Sig101,Sig102を出力する。差圧センサ116による差圧検出レベルがゼロになったとき、信号処理部118は、このときの駆動信号Sig101,Sig102の振幅比及び位相差に基づいて、Um/Urの値を求め、このUm/UrからワークM”のリーク406を検出する。
【0128】
ここで、ダイヤフラム131及び積層型圧電素子141によって、基準容器410内に一定の体積(容積)変動Um(t)(体積速度)を加えたとき、基準容器410内に発生する圧力変動Pm(t)の大きさは温度に依存しない。そのため、ダイヤフラム131,132の振幅を精密に制御することで、温度に関係なく圧力変動と同じ音圧が発生し、ワークM”の温度に影響されることなく測定を行うことができる。なお、差圧センサ116の感度特性などは温度の影響を受けるが、基準容器410と被測定容器420との間の差圧がゼロとなるようにフィードバックする場合、温度の影響はほとんど受けない。
【0129】
このように音響式測定装置400では、温度に影響されることなく測定ができ、大きな利点である。すなわち、従来のようにマイクロホンを2個使用する測定法では、温度によってマイクロホンの特性が変化して誤差が生じる問題があり、ワークM”の温度が室温と異なる場合には測定が容易でないが、本実施形態では、ワークM”の温度が室温と異なる場合でもその影響を避けることができる。このことは上述した他の音響式測定装置1,100〜300についても同様である。
【0130】
また、同じ体積(容積)の容器であっても、表面積が異なると音響インピーダンスが異なることから、音響式測定装置400では、下筐体403の凹部407に中子422を収納可能としており、基準容器410と被測定容器420の音響インピーダンスを等しく合わせ込むことを可能としている。これにより、リークの無い健全なワークに対して、できるだけ基準容器410と被測定容器420の音響インピーダンスを近づけるように中子422の体積と面積をあらかじめ調整することができ、健全なワークと被測定対象であるワークM”の結果を比較して、リークを判定することができる。すなわち、信号処理部418は、健全なワークを上筐体404に取付けたときのUm/Urの値を求めておき、その後、ワークM”のリーク406を上筐体404に取付けたときのUm/Urを健全なワークのUm/Urと比較して、リークを判定する。
【0131】
なお、上述では、基準容器及び被測定容器を音響的に駆動する音源として、積層圧電素子とダイヤフラムを用いたが、ボイスコイルモーターとベローズを用いるようにしてもよい。また、リニアーアクチュエーターとダイヤフラム又はベローズの組み合わせ、磁歪効果を利用した音源、渦電流を利用する電磁音響トランスデューサー、オーディオ用スピーカーなどを用いることもできる。
【0132】
また、上述では、体積、表面積及びリークの測定を大気環境で行っているが、これに限られず空気と異なる組成の気体を用いるようにしてもよい。
【0133】
以上、いくつかの具体例を説明したが、上記具体例及びその組み合わせは限定されるものでなく種々の変形が可能である。
【0134】
本発明は、音を利用して、物体(容器)の体積(容積)、表面積(内表面積)などの基本的特性量、また、物体(容器)のリークなどを測定する方法であり、広く科学計測の分野、製造業を中心とする産業分野、設備の診断・保守などの分野において利用することができる。また、本発明の物理量測定方法は、測定量が上記した表面積、体積、リークの場合に限定されるものではなく、音響インピーダンスを利用する測定法のすべてに適用可能である。
【符号の説明】
【0135】
1 音響式測定装置
10 基準容器
20被測定容器
30,40 駆動手段
50 差圧センサ
60 信号処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準容器と、
被測定対象をその一部の構成とする被測定容器と、
前記基準容器内及び前記被測定容器内をそれぞれ音響的に駆動する複数の駆動手段と、
前記基準容器内と前記被測定容器内との差圧を検出する差圧センサと、
前記複数の駆動手段をそれぞれ駆動する複数の駆動信号のうち少なくとも一つの駆動信号を前記差圧センサで検出する差圧がゼロになるように制御し、このときの前記駆動信号の状態に基づいて、前記基準容器と前記被測定容器との音響インピーダンス比又はその等価値を判定し、当該判定値から前記被測定対象の測定値を算出する信号処理部と、を備えることを特徴とする音響式測定装置。
【請求項2】
前記駆動信号は、正弦波信号であり、
前記信号処理部は、前記差圧がゼロの状態での前記駆動信号の振幅と位相に基づいて、複素数で表される前記音響インピーダンス比又はその等価値を判定することを特徴とする請求項1に記載の音響式測定装置。
【請求項3】
前記信号処理部は、前記駆動信号として、複数の周波数の正弦波信号を用いて、前記音響インピーダンスの周波数特性を検出し、前記音響インピーダンス又はその等価値に加え、前記音響インピーダンスの周波数特性に基づいて、前記被測定対象の測定値を算出することを特徴とする請求項1又は2に記載の音響式測定装置。
【請求項4】
前記信号処理部は、前記音響インピーダンスの周波数特性に基づいて、前記被測定容器の形状誤差を補正することを特徴とする請求項3に記載の音響式測定装置。
【請求項5】
基準容器を用いて被測定容器の少なくとも一部を構成する被測定対象を測定する音響式測定方法であって、
前記基準容器内を音響的に駆動する駆動手段と前記被測定容器内を音響的に駆動する駆動手段のうち少なくとも一つの駆動手段を駆動する駆動信号を制御して、前記基準容器内と前記被測定容器内との差圧をゼロにするステップと、
前記差圧がゼロの状態での前記駆動信号の振幅と位相に基づいて、前記基準容器と前記被測定容器との音響インピーダンス比又はその等価値を判定し、当該判定値から前記被測定対象の測定値を算出するステップと、を有することを特徴とする音響式測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−286255(P2010−286255A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138030(P2009−138030)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】