音響機器及び音響機器に用いる制振材
【課題】再生音の音質を向上させた音響機器及び音響機器に用いる制振材を提供する。
【解決手段】音響機器を構成する部品と、前記部品に設置される制振材とを備え、前記制振材は、互いに対向する第1及び第2の板材と、前記第1及び第2の板材の間に介在する中空の金属体を備える。
【解決手段】音響機器を構成する部品と、前記部品に設置される制振材とを備え、前記制振材は、互いに対向する第1及び第2の板材と、前記第1及び第2の板材の間に介在する中空の金属体を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響機器及び音響機器に用いる制振材に関する。
【背景技術】
【0002】
関連のオーディオの増幅器は、電源トランスと、電源トランスを支持するシャーシと、筐体の底板と、シャーシと底板の間に介在する制振板を有する(特許文献1参照)。この制振板は、電源トランスの振動が底板へ伝達するのを抑止する。
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2513127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、関連の音響機器は、振動を十分に除去できないので、高音質の再生音を得ることができなかった。
【0005】
本発明の課題の一例は、再生音の音質を向上させる音響機器及び音響機器に用いる制振材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係わる音響機器は、音響機器を構成する部品と、前記部品に設置される制振材とを備え、前記制振材は、互いに対向する第1及び第2の板材と、前記第1及び第2の板材の間に介在する中空の金属体を備える。
【0007】
請求項4に記載の発明に係わる音響機器に用いる制振材は、音響機器を構成する部品に設置されると共に互いに対向する第1及び第2の板材と、前記第1及び第2の板材の間に介在する中空の金属体を備えた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
先ず、実施形態に用いられる振動吸収板について説明する。
【0009】
I 振動吸収板の代表的な構造
制振材としての振動吸収板は、板面を互いに対抗させると共に平行に配された複数枚の平板と、隣り合う平板間に層状に介在する複数の中空の金属体(以下、中空金属体と称する。)とからなる。
【0010】
II 中空金属体
中空金属体の形状は、中空にして比重を軽減できれば、球形に限定されるものではなく、立方体、直方体、円柱、角柱等の形状であってもよい。
【0011】
中空金属体は、例えば、球状の場合の外径は1〜5mm程度である。中空金属体の素材は特に限定しないが、加工のしやすさの点で鉄系金属(たとえば鉄、炭素鋼、ステンレス鋼など)を用いてもよい。中空金属体と平板の素材は、同じでも、異なってもよい。
【0012】
中空金属体の製造方法は特に限定されない。例えば、特開2007−9278号公報や特開2008−24958号公報に記載されているように、球状樹脂の表面に金属粉や金属酸化物粉を付着させ、加熱して、樹脂を分解、除去後、焼結や還元を行うことで、中空金属球を製造する。立方体、直方体、円柱、角柱等の形状の中空金属体は、上記の方法を利用して任意の形状に製造する。また、中空金属球を製造後、圧力をかけて所定の形状を得てもよい。
【0013】
III 平板
板材として平板の厚みは、2mm以下である。平板が厚すぎる場合、振動吸収板が重くなるからである。平板の素材は特に限定しない。例えば、鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウムなどの金属、セラミックス、樹脂などを用いてもよい。中空金属体と平板の素材は、同じでも、異なってもよい。
【0014】
IV 振動吸収板の実施態様
図1を参照して、振動吸収板10では、複数の中空金属体11aを1層とし、平板12a、12bで中空金属体11を狭持する構造を有する。すなわち、振動吸収板10は、板面が互いに平行になるように対向して配置された一対の平板12a、12bと、隣り合う平板12a、12bの間に層状に介在する複数の中空金属体11aとを有する。中空金属体11aは、円柱に近い形状を用いる。
【0015】
図2を参照して、振動吸収板10Aは、一例として、中空金属体11a、11b、11cと平板12a、12b、12c、12dとを振動吸収板10Aの厚み方向に多層に積層した構造を有する。すなわち、第一層の複数の中空金属体11aは隣り合う平板12a、12bの間に配置される。第二層の複数の中空金属体11bはと隣り合う平板12b、12cの間に配置される。第三層の中空金属体11cは隣り合う平板12c、12dの間に配置される。
【0016】
図1,2では、中空金属体11a、11b、11c同士、及び、中空金属体11a,11b、11cと平板12a、12b、12c、12dとは接着剤13で互いに固定されている。中空金属体11a、11b、11cと平板12a、12b、12c、12dの固定は接着剤13に限らない。例えば、中空金属体11a、11b、11cを平板12a、12b、12c、12dで挟持した後、所定の温度(例えば約1000℃)に加熱して、金属拡散接合してもよい。
【0017】
図1,2に示した振動吸収板10、10Aは、例えば、次のようにして製造される。
【0018】
振動吸収板10の場合、球状の中空金属体(例えば、外径3mm)を得た後、これに圧力を加えて円柱形状(例えば、高さ1.6mm)にする。次に、該円柱形状の中空金属体11aを平板12a(例えば、厚み0.2〜0.6mm)に敷き詰める。中空金属体11aの上に平板12bを重ねる。中空金属体11a同士、中空金属体11aと平板12a、12bとを接着剤13で固定し、振動吸収板10を得る。
【0019】
振動吸収板10Aの場合、平板12aの上に第一層の中空金属体11aを配置し、中空金属体11aの上に平板12bを載せる。次に、平板12bの上に第二層の中空金属体11bを配置し、中空金属体11bの上に平板12cを載せる。次に、平板12cの上に第三層の中空金属体11cを配置し、中空金属体11cの上に平板12dを載せる。中空金属体11a、11b、11c同士、中空金属体11a、11b、11cと平板12a、12b、12c、12dとを接着剤13で固定し、振動吸収板10Aを得る。
【0020】
なお、中空金属体11a、11b、11cとして、立方体、直方体、円柱、角柱等の平面部を有する形状のものを用いたほうが、中空金属体11a、11b、11cと平板12a、12b、12c、12dの接触面積が増加し、振動吸収板10、10Aの強度が向上する。また、平板12a、12b、12c、12dの厚みは互いに同じであっても、異なってもよい。平板の代わりに、例えば、斜めの板面を有した板材、湾曲した板面を有した板材、板面に孔を画成した板材を用いてもよい。
【0021】
第1の実施形態
図3を参照して、音響機器としての増幅器20は、脚21で支持されたシャーシ22と、シャーシ22の上に配置された電源トランス23、ケミカルコンデンサ24、放熱器25、及び回路基板26と、電源トランス23とシャーシ22との間に介在する振動吸収板10(図1参照)とを有する。回路基板26はプレーヤーからの音声信号を増幅し、スピーカーへ増幅した音声信号を出力する。ここで、脚21、シャーシ22、電源トランス23、ケミカルコンデンサ24、放熱器25、回路基板26は、本発明の部品に該当する。
【0022】
次に、増幅器20の動作を説明する。電源は電源トランス23に電力を供給する。電源トランス23は、電源電圧を所定の電圧に変換し、ケミカルコンデンサ24、回路基板26へ所定の電圧を供給する。このとき、電源トランス23は振動する。振動吸収板10はこの振動を吸収し、振動は回路基板26へ伝わらない。これにより、回路基板26は、前記振動に起因する静電誘導、電磁誘導によるノイズ信号を有しない。よって、回路基板26は、振動の影響を受けずに、低域から高域の音信号を増幅する。増幅器20は増幅した音信号をスピーカーへ出力する。
【0023】
この実施形態によれば、振動吸収板10は電源トランス23の振動を除去するので、再生音の低音成分を豊かにすると共に高音成分の響きを良くし、音質の向上した音が再生される。
【0024】
第2の実施形態
図4を参照して、増幅器20Aの振動吸収板10は、ケミカルコンデンサ24とシャーシ22との間に介在する。この実施形態によれば、振動吸収板10は、ケミカルコンデンサ24の振動を吸収するので、回路基板26は、振動の影響を受けずに、音信号を増幅する。よって、本実施の形態は第1の実施形態と同様な効果を達成する。
【0025】
第3の実施形態
図5を参照して、増幅器20Bの振動吸収板10は、放熱器25とシャーシ22との間に介在する。この実施形態によれば、振動吸収板10は放熱器25の振動を吸収するので、回路基板26は、振動の影響を受けずに、音信号を増幅する。よって、本実施の形態は第1の実施形態と同様な効果を達成する。
【0026】
第4の実施形態
図6を参照して、振動吸収板20Cは、回路基板26とシャーシ22との間に介在する。この実施形態によれば、振動吸収板10はシャーシ22の振動を除去するので、回路基板26は、振動の影響を受けずに、音信号を増幅する。よって、本実施の形態は第1の実施形態と同様な効果を達成する。
【0027】
第5の実施形態
図7を参照して、振動吸収板20Dは、シャーシ22と脚21との間に介在する。この実施形態によれば、振動吸収板20Dは、スピーカーからの振動を除去するので、回路基板26は、振動の影響を受けずに、音信号を増幅する。よって、本実施の形態は第1の実施形態と同様な効果を達成する。
【0028】
なお、本実施形態は本発明の趣旨の範囲で変更可能である。音響機器は、例えば、コンパクトディスク若しくはデジタルビデオディスクのプレーヤー、又は、スピーカーでもよい。また、振動吸収板10は、例えば、音響機器を設置するためのオーディオボード、又は脚21の下に配置されるインシュレータに用いてもよい。
【0029】
実施例
実施例について振動吸収板による振動減衰特性と音質との関係をテストした。
【0030】
図8を参照して、実施例に係わる増幅器20Eを説明する。増幅器20Eは、脚21で支持されたシャーシ22と、シャーシ22の上に配置された電源トランス23及び回路基板26と、回路基板26の上に配置された放熱器25と、電源トランス23とシャーシ22との間に介在する振動吸収板10Bとを有する。比較例は、振動吸収板10Bの代わりに、1.6mmの鉄板を用いた。
【0031】
図9を参照して、測定システム30を説明する。測定システム30は、上記増幅器20Eと、増幅器20Eの音信号に基づいて再生音を出力するスピーカー31と、この再生音を集音するマイク32とを有する。さらに、測定システム30は、マイク32及び増幅器20Eと電気的に接続したオーディオインターフェース33と、オーディオインターフェース33と電気的に接続したコンピュータ34とを有する。オーディオインターフェース33とコンピュータ34とは測定システム30の制御装置35を構成する。
【0032】
図10、11は、再生音の音質特性を示す。実施例の振動吸収板10Bは3層の中空金属体を用いた。
【0033】
図10に示すグラフは、再生音の音圧の周波数特性を示す。X軸が周波数(Hz)を示し、Y軸が音圧(dB)を示す。橙色の線が実施例の結果を示し、緑色の線が比較例の結果を示す。その結果、実施例及び比較例は、何れも音圧周波数特性についてほとんど同じ履歴を示した。
【0034】
図11に示すグラフは、再生音の音圧及び減衰時間の周波数特性を示す。X軸が周波数(Hz)を示し、Y軸が減衰時間(msec)を示し、Z軸が音圧(dB)を示す。同図(A)に示すグラフは比較例の結果を示し、同図(B)に示すグラフは実施例の結果を示す。実施例は、100Hz〜200Hzの低音領域B1及び400Hz〜10000Hzの高音領域B2で長い減衰時間を示した。一方、比較例は、100Hz〜200Hzの低音領域B1及び400Hz〜10000Hzの高音領域B2で実施例よりも短い減衰時間を示した。この結果から、実施例は、比較例と比較して低音成分が豊かになると共に高音成分の響きがよくなり、再生音の音質を向上させる。
【0035】
図12に示すグラフは、シャーシ22の振動について周波数と振動の大きさの関係を示す。X軸は振動の周波数(Hz)を示し、Y軸は振動の大きさ、つまり、振動の振幅(m)を示す。同図(A)は参照例の結果を示す。同図(B)は比較例の結果を示し、同図(C)は実施例の結果を示す。参照例及び比較例は、1.6mmの鉄板を用いた。実施例の振動吸収板10Bは2層の中空金属体を用いた。参照例では、増幅器はスピーカーへ音声信号を出力せず、増幅器に励磁電流が流れている状態でシャーシの振動を測定した。比較例及び実施例では、増幅器からスピーカーへ440Hzで50Wの音信号を出力した状態で、シャーシ22の振動を測定した。シャーシ22の振動は電源トランス23の脇で測定された。その結果、参照例では、50Hzに振動のピークが現れた。比較例及び実施例においては、50Hzに加えて100Hzに振動のピークが現れた。一方、実施例の50Hz、100Hzのピークは、参照例、比較例のそれぞれのピークよりも小さくなった。すなわち、実施例は、参照例及び比較例よりも、シャーシの振動の減衰について大きな効果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(A)は発明に係わる単層構造の振動吸収板を模式的に示す一部破断した斜視図であり、(B)は同振動吸収板の側面図である。
【図2】(A)は本発明に係わる多層構造の振動吸収板を模式的に示す一部破断した斜視図であり、(B)は同振動吸収板の側面図である。
【図3】第1の実施形態に係わる増幅器の模式図である。
【図4】第2の実施形態に係わる増幅器の模式図である。
【図5】第3の実施形態に係わる増幅器の模式図である。
【図6】第4の実施形態に係わる増幅器の模式図である。
【図7】第5の実施形態に係わる増幅器の模式図である。
【図8】実施例に係わる増幅器の模式図である。
【図9】測定システムの模式図である。
【図10】再生音の音圧の周波数特性を示すグラフである。
【図11】再生音の音圧及び残響時間の周波数特性を示すグラフであり、(A)は比較例の結果、(B)は実施例の結果を示す。
【図12】シャーシの振動の大きさ−周波数特性を示すグラフであり、(A)は参照例、(B)は比較例、(C)は実施例の結果を示す。
【符号の説明】
【0037】
10 振動吸収板(制振材)
11a 中空金属体
12a、12b 平板
20 増幅器
21 脚
22 シャーシ
23 電源トランス
24 ケミカルコンデンサ
25 放熱器
26 回路基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響機器及び音響機器に用いる制振材に関する。
【背景技術】
【0002】
関連のオーディオの増幅器は、電源トランスと、電源トランスを支持するシャーシと、筐体の底板と、シャーシと底板の間に介在する制振板を有する(特許文献1参照)。この制振板は、電源トランスの振動が底板へ伝達するのを抑止する。
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2513127号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、関連の音響機器は、振動を十分に除去できないので、高音質の再生音を得ることができなかった。
【0005】
本発明の課題の一例は、再生音の音質を向上させる音響機器及び音響機器に用いる制振材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明に係わる音響機器は、音響機器を構成する部品と、前記部品に設置される制振材とを備え、前記制振材は、互いに対向する第1及び第2の板材と、前記第1及び第2の板材の間に介在する中空の金属体を備える。
【0007】
請求項4に記載の発明に係わる音響機器に用いる制振材は、音響機器を構成する部品に設置されると共に互いに対向する第1及び第2の板材と、前記第1及び第2の板材の間に介在する中空の金属体を備えた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
先ず、実施形態に用いられる振動吸収板について説明する。
【0009】
I 振動吸収板の代表的な構造
制振材としての振動吸収板は、板面を互いに対抗させると共に平行に配された複数枚の平板と、隣り合う平板間に層状に介在する複数の中空の金属体(以下、中空金属体と称する。)とからなる。
【0010】
II 中空金属体
中空金属体の形状は、中空にして比重を軽減できれば、球形に限定されるものではなく、立方体、直方体、円柱、角柱等の形状であってもよい。
【0011】
中空金属体は、例えば、球状の場合の外径は1〜5mm程度である。中空金属体の素材は特に限定しないが、加工のしやすさの点で鉄系金属(たとえば鉄、炭素鋼、ステンレス鋼など)を用いてもよい。中空金属体と平板の素材は、同じでも、異なってもよい。
【0012】
中空金属体の製造方法は特に限定されない。例えば、特開2007−9278号公報や特開2008−24958号公報に記載されているように、球状樹脂の表面に金属粉や金属酸化物粉を付着させ、加熱して、樹脂を分解、除去後、焼結や還元を行うことで、中空金属球を製造する。立方体、直方体、円柱、角柱等の形状の中空金属体は、上記の方法を利用して任意の形状に製造する。また、中空金属球を製造後、圧力をかけて所定の形状を得てもよい。
【0013】
III 平板
板材として平板の厚みは、2mm以下である。平板が厚すぎる場合、振動吸収板が重くなるからである。平板の素材は特に限定しない。例えば、鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、アルミニウムなどの金属、セラミックス、樹脂などを用いてもよい。中空金属体と平板の素材は、同じでも、異なってもよい。
【0014】
IV 振動吸収板の実施態様
図1を参照して、振動吸収板10では、複数の中空金属体11aを1層とし、平板12a、12bで中空金属体11を狭持する構造を有する。すなわち、振動吸収板10は、板面が互いに平行になるように対向して配置された一対の平板12a、12bと、隣り合う平板12a、12bの間に層状に介在する複数の中空金属体11aとを有する。中空金属体11aは、円柱に近い形状を用いる。
【0015】
図2を参照して、振動吸収板10Aは、一例として、中空金属体11a、11b、11cと平板12a、12b、12c、12dとを振動吸収板10Aの厚み方向に多層に積層した構造を有する。すなわち、第一層の複数の中空金属体11aは隣り合う平板12a、12bの間に配置される。第二層の複数の中空金属体11bはと隣り合う平板12b、12cの間に配置される。第三層の中空金属体11cは隣り合う平板12c、12dの間に配置される。
【0016】
図1,2では、中空金属体11a、11b、11c同士、及び、中空金属体11a,11b、11cと平板12a、12b、12c、12dとは接着剤13で互いに固定されている。中空金属体11a、11b、11cと平板12a、12b、12c、12dの固定は接着剤13に限らない。例えば、中空金属体11a、11b、11cを平板12a、12b、12c、12dで挟持した後、所定の温度(例えば約1000℃)に加熱して、金属拡散接合してもよい。
【0017】
図1,2に示した振動吸収板10、10Aは、例えば、次のようにして製造される。
【0018】
振動吸収板10の場合、球状の中空金属体(例えば、外径3mm)を得た後、これに圧力を加えて円柱形状(例えば、高さ1.6mm)にする。次に、該円柱形状の中空金属体11aを平板12a(例えば、厚み0.2〜0.6mm)に敷き詰める。中空金属体11aの上に平板12bを重ねる。中空金属体11a同士、中空金属体11aと平板12a、12bとを接着剤13で固定し、振動吸収板10を得る。
【0019】
振動吸収板10Aの場合、平板12aの上に第一層の中空金属体11aを配置し、中空金属体11aの上に平板12bを載せる。次に、平板12bの上に第二層の中空金属体11bを配置し、中空金属体11bの上に平板12cを載せる。次に、平板12cの上に第三層の中空金属体11cを配置し、中空金属体11cの上に平板12dを載せる。中空金属体11a、11b、11c同士、中空金属体11a、11b、11cと平板12a、12b、12c、12dとを接着剤13で固定し、振動吸収板10Aを得る。
【0020】
なお、中空金属体11a、11b、11cとして、立方体、直方体、円柱、角柱等の平面部を有する形状のものを用いたほうが、中空金属体11a、11b、11cと平板12a、12b、12c、12dの接触面積が増加し、振動吸収板10、10Aの強度が向上する。また、平板12a、12b、12c、12dの厚みは互いに同じであっても、異なってもよい。平板の代わりに、例えば、斜めの板面を有した板材、湾曲した板面を有した板材、板面に孔を画成した板材を用いてもよい。
【0021】
第1の実施形態
図3を参照して、音響機器としての増幅器20は、脚21で支持されたシャーシ22と、シャーシ22の上に配置された電源トランス23、ケミカルコンデンサ24、放熱器25、及び回路基板26と、電源トランス23とシャーシ22との間に介在する振動吸収板10(図1参照)とを有する。回路基板26はプレーヤーからの音声信号を増幅し、スピーカーへ増幅した音声信号を出力する。ここで、脚21、シャーシ22、電源トランス23、ケミカルコンデンサ24、放熱器25、回路基板26は、本発明の部品に該当する。
【0022】
次に、増幅器20の動作を説明する。電源は電源トランス23に電力を供給する。電源トランス23は、電源電圧を所定の電圧に変換し、ケミカルコンデンサ24、回路基板26へ所定の電圧を供給する。このとき、電源トランス23は振動する。振動吸収板10はこの振動を吸収し、振動は回路基板26へ伝わらない。これにより、回路基板26は、前記振動に起因する静電誘導、電磁誘導によるノイズ信号を有しない。よって、回路基板26は、振動の影響を受けずに、低域から高域の音信号を増幅する。増幅器20は増幅した音信号をスピーカーへ出力する。
【0023】
この実施形態によれば、振動吸収板10は電源トランス23の振動を除去するので、再生音の低音成分を豊かにすると共に高音成分の響きを良くし、音質の向上した音が再生される。
【0024】
第2の実施形態
図4を参照して、増幅器20Aの振動吸収板10は、ケミカルコンデンサ24とシャーシ22との間に介在する。この実施形態によれば、振動吸収板10は、ケミカルコンデンサ24の振動を吸収するので、回路基板26は、振動の影響を受けずに、音信号を増幅する。よって、本実施の形態は第1の実施形態と同様な効果を達成する。
【0025】
第3の実施形態
図5を参照して、増幅器20Bの振動吸収板10は、放熱器25とシャーシ22との間に介在する。この実施形態によれば、振動吸収板10は放熱器25の振動を吸収するので、回路基板26は、振動の影響を受けずに、音信号を増幅する。よって、本実施の形態は第1の実施形態と同様な効果を達成する。
【0026】
第4の実施形態
図6を参照して、振動吸収板20Cは、回路基板26とシャーシ22との間に介在する。この実施形態によれば、振動吸収板10はシャーシ22の振動を除去するので、回路基板26は、振動の影響を受けずに、音信号を増幅する。よって、本実施の形態は第1の実施形態と同様な効果を達成する。
【0027】
第5の実施形態
図7を参照して、振動吸収板20Dは、シャーシ22と脚21との間に介在する。この実施形態によれば、振動吸収板20Dは、スピーカーからの振動を除去するので、回路基板26は、振動の影響を受けずに、音信号を増幅する。よって、本実施の形態は第1の実施形態と同様な効果を達成する。
【0028】
なお、本実施形態は本発明の趣旨の範囲で変更可能である。音響機器は、例えば、コンパクトディスク若しくはデジタルビデオディスクのプレーヤー、又は、スピーカーでもよい。また、振動吸収板10は、例えば、音響機器を設置するためのオーディオボード、又は脚21の下に配置されるインシュレータに用いてもよい。
【0029】
実施例
実施例について振動吸収板による振動減衰特性と音質との関係をテストした。
【0030】
図8を参照して、実施例に係わる増幅器20Eを説明する。増幅器20Eは、脚21で支持されたシャーシ22と、シャーシ22の上に配置された電源トランス23及び回路基板26と、回路基板26の上に配置された放熱器25と、電源トランス23とシャーシ22との間に介在する振動吸収板10Bとを有する。比較例は、振動吸収板10Bの代わりに、1.6mmの鉄板を用いた。
【0031】
図9を参照して、測定システム30を説明する。測定システム30は、上記増幅器20Eと、増幅器20Eの音信号に基づいて再生音を出力するスピーカー31と、この再生音を集音するマイク32とを有する。さらに、測定システム30は、マイク32及び増幅器20Eと電気的に接続したオーディオインターフェース33と、オーディオインターフェース33と電気的に接続したコンピュータ34とを有する。オーディオインターフェース33とコンピュータ34とは測定システム30の制御装置35を構成する。
【0032】
図10、11は、再生音の音質特性を示す。実施例の振動吸収板10Bは3層の中空金属体を用いた。
【0033】
図10に示すグラフは、再生音の音圧の周波数特性を示す。X軸が周波数(Hz)を示し、Y軸が音圧(dB)を示す。橙色の線が実施例の結果を示し、緑色の線が比較例の結果を示す。その結果、実施例及び比較例は、何れも音圧周波数特性についてほとんど同じ履歴を示した。
【0034】
図11に示すグラフは、再生音の音圧及び減衰時間の周波数特性を示す。X軸が周波数(Hz)を示し、Y軸が減衰時間(msec)を示し、Z軸が音圧(dB)を示す。同図(A)に示すグラフは比較例の結果を示し、同図(B)に示すグラフは実施例の結果を示す。実施例は、100Hz〜200Hzの低音領域B1及び400Hz〜10000Hzの高音領域B2で長い減衰時間を示した。一方、比較例は、100Hz〜200Hzの低音領域B1及び400Hz〜10000Hzの高音領域B2で実施例よりも短い減衰時間を示した。この結果から、実施例は、比較例と比較して低音成分が豊かになると共に高音成分の響きがよくなり、再生音の音質を向上させる。
【0035】
図12に示すグラフは、シャーシ22の振動について周波数と振動の大きさの関係を示す。X軸は振動の周波数(Hz)を示し、Y軸は振動の大きさ、つまり、振動の振幅(m)を示す。同図(A)は参照例の結果を示す。同図(B)は比較例の結果を示し、同図(C)は実施例の結果を示す。参照例及び比較例は、1.6mmの鉄板を用いた。実施例の振動吸収板10Bは2層の中空金属体を用いた。参照例では、増幅器はスピーカーへ音声信号を出力せず、増幅器に励磁電流が流れている状態でシャーシの振動を測定した。比較例及び実施例では、増幅器からスピーカーへ440Hzで50Wの音信号を出力した状態で、シャーシ22の振動を測定した。シャーシ22の振動は電源トランス23の脇で測定された。その結果、参照例では、50Hzに振動のピークが現れた。比較例及び実施例においては、50Hzに加えて100Hzに振動のピークが現れた。一方、実施例の50Hz、100Hzのピークは、参照例、比較例のそれぞれのピークよりも小さくなった。すなわち、実施例は、参照例及び比較例よりも、シャーシの振動の減衰について大きな効果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(A)は発明に係わる単層構造の振動吸収板を模式的に示す一部破断した斜視図であり、(B)は同振動吸収板の側面図である。
【図2】(A)は本発明に係わる多層構造の振動吸収板を模式的に示す一部破断した斜視図であり、(B)は同振動吸収板の側面図である。
【図3】第1の実施形態に係わる増幅器の模式図である。
【図4】第2の実施形態に係わる増幅器の模式図である。
【図5】第3の実施形態に係わる増幅器の模式図である。
【図6】第4の実施形態に係わる増幅器の模式図である。
【図7】第5の実施形態に係わる増幅器の模式図である。
【図8】実施例に係わる増幅器の模式図である。
【図9】測定システムの模式図である。
【図10】再生音の音圧の周波数特性を示すグラフである。
【図11】再生音の音圧及び残響時間の周波数特性を示すグラフであり、(A)は比較例の結果、(B)は実施例の結果を示す。
【図12】シャーシの振動の大きさ−周波数特性を示すグラフであり、(A)は参照例、(B)は比較例、(C)は実施例の結果を示す。
【符号の説明】
【0037】
10 振動吸収板(制振材)
11a 中空金属体
12a、12b 平板
20 増幅器
21 脚
22 シャーシ
23 電源トランス
24 ケミカルコンデンサ
25 放熱器
26 回路基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響機器を構成する部品と、
前記部品に設置される制振材とを備え、
前記制振材は、
互いに対向する第1及び第2の板材と、
前記第1及び第2の板材の間に介在する中空の金属体を備えることを特徴とする音響機器。
【請求項2】
前記音響機器はプレーヤー、スピーカー、及び増幅器うちの一つであることを特徴とする請求項1に記載の音響機器。
【請求項3】
前記部品は電源トランスであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の音響機器。
【請求項4】
音響機器を構成する部品に設置されると共に互いに対向する第1及び第2の板材と、
前記第1及び第2の板材の間に介在する中空の金属体を備えたことを特徴とする音響機器に用いる制振材。
【請求項1】
音響機器を構成する部品と、
前記部品に設置される制振材とを備え、
前記制振材は、
互いに対向する第1及び第2の板材と、
前記第1及び第2の板材の間に介在する中空の金属体を備えることを特徴とする音響機器。
【請求項2】
前記音響機器はプレーヤー、スピーカー、及び増幅器うちの一つであることを特徴とする請求項1に記載の音響機器。
【請求項3】
前記部品は電源トランスであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の音響機器。
【請求項4】
音響機器を構成する部品に設置されると共に互いに対向する第1及び第2の板材と、
前記第1及び第2の板材の間に介在する中空の金属体を備えたことを特徴とする音響機器に用いる制振材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−14212(P2010−14212A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175218(P2008−175218)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(508203356)株式会社テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ (2)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000005016)パイオニア株式会社 (3,620)
【出願人】(508203356)株式会社テクニカル オーディオ デバイセズ ラボラトリーズ (2)
【出願人】(591006298)JFEテクノリサーチ株式会社 (52)
【Fターム(参考)】
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