説明

音響用プッシュプル増幅装置

【課題】負帰還経路を設けない音響用増幅装置を提供することを目的とする。
【解決手段】信号源10から出力された音響信号S1に応じた電圧が正電源増幅部14の接続点CPに現れる。差動増幅器16によって、接続点CPの電圧とNPN型トランジスタ18のエミッタ電極の電圧とが同一に保持される。これによって、出力電流決定抵抗器Reおよび出力抵抗器RLには音響信号S1に応じた電流が流れる。 負電源増幅部14Nについても、正電源増幅部14と同様の原理により、出力電流決定抵抗器ReNおよび出力抵抗器RLには音響信号S1に応じた電流が流れる。正電源増幅部14によって出力抵抗器RLに流れる信号電流Si2、および、負電源増幅部14Nによって出力抵抗器RLに流れる信号電流Si4に基づく信号電圧が信号出力端子TOから出力される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響用プッシュプル増幅装置に関し、半導体素子を用いた音響用プッシュプル増幅装置の特性改善に関する。
【背景技術】
【0002】
チューナ、CDプレーヤ、携帯メディアプレーヤ等から出力された音響信号を増幅する装置が広く用いられている。このような増幅装置には、それぞれに半導体素子が用いられた複数段の増幅回路を備え、最終段回路から初段回路に至る負帰還経路が設けられたものがある。負帰還経路が設けられた増幅装置では、増幅率(利得)が減少するものの、広い周波数帯域に亘って増幅率が平坦化されると共に、出力信号の歪が低減される。なお、以下の特許文献1には、最終段回路から初段回路に負帰還経路が設けられた増幅装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−276037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
負帰還経路が設けられた増幅装置については、負荷が純抵抗であるという条件の下、増幅対象の信号が単一周波数の正弦波信号である場合に上記のような利点が得られることが立証されている。しかしながら、増幅装置の負荷は常に純抵抗であるとは限らない。また、音響信号は、連続的な周波数スペクトラムを有し、各周波数成分の大きさが常時変化する信号である。したがって、負帰還経路が設けられた増幅装置の利点が常に得られるとは限らない。
【0005】
また、人間の聴覚によって感じられる音質は、増幅率の平坦化や、出力信号の歪の低減のみによって改善することは困難である。さらには、負帰還経路を用いることで、聴覚によって感じられる音質に弊害が生じることがある。例えば、負帰還経路を用いた場合には、負帰還経路を用いない場合よりも、聴覚によって感じられる音質が劣化することが多くのユーザの間で認識されている。
【0006】
本発明は、このような課題に対してなされたものである。すなわち、負帰還経路を設けずに音響特性を向上させた音響用増幅装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、互いに相補的な電気的特性を有する第1増幅部および第2増幅部を備える、音響用プッシュプル増幅装置において、前記第1増幅部および前記第2増幅部のそれぞれは、第1電極、第2電極、および制御電極を有し、前記制御電極に与えられた信号に応じて前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流が制御される半導体素子と、信号入力端子と電圧基準端子との間に設けられ、直列接続された第1入力抵抗器および第2入力抵抗器と、前記第1入力抵抗器と前記第2入力抵抗器との接続点の電圧と前記第2電極の電圧との関係を一定に保持すると共に、当該接続点の信号を前記制御電極に与える電圧保持回路と、前記第2電極と接地導体との間に設けられる出力電流決定抵抗器と、接地導体との間に出力抵抗器が接続される信号出力端子と、前記電圧基準端子から前記第1電極に第1の電流を流すと共に、前記電圧基準端子から前記出力抵抗器を経て接地導体に至る経路に当該第1の電流に応じた第2の電流を流すカレントミラー回路と、を備え、前記第1増幅部が備える前記電圧基準端子および前記第2増幅部が備える前記電圧基準端子には、互いに極性の異なる直流電圧が接地導体との間に印加され、前記第1増幅部および前記第2増幅部のそれぞれの前記信号入力端子は共通に接続され、前記第1増幅部および前記第2増幅部のそれぞれの前記信号出力端子は共通に接続されている、ことを特徴とする。
【0008】
本発明においては、半導体素子として、バイポーラトランジスタ、FET(Field Effect Transistor)等を用いることができる。バイポーラトランジスタを用いた場合、第1電極、第2電極および制御電極は、それぞれ、コレクタ電極、エミッタ電極およびベース電極である。また、FETを用いた場合、第1電極、第2電極および制御電極は、それぞれ、ドレイン電極、ソース電極およびゲート電極である。また、半導体素子として、第1電極、第2電極、および制御電極を備え、前記制御電極に与えられた信号に応じて前記第1電極と前記第2電極との間を流れる電流が変化するレギュレータ素子を用いてもよい。
【0009】
また、本発明に係る音響用プッシュプル増幅装置においては、望ましくは、前記第1増幅部が備える前記電圧基準端子と前記信号出力端子との間に設けられる出力安定用カレントミラー回路と、前記第2増幅部が備える前記電圧基準端子と前記信号出力端子との間に設けられる直流定電流源と、前記出力安定用カレントミラー回路に接続され、前記信号出力端子の電位と基準電位との差異に応じた電流を前記カレントミラー回路に流す比較回路と、を備え、前記出力安定用カレントミラー回路は、前記比較回路の動作によって自らに流れる電流に応じた電流を、前記信号出力端子に至る経路に流す。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、負帰還経路を設けずに音響特性を向上させた音響用増幅装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る音響用プッシュプル増幅装置の構成を示す図である。
【図2】本発明の応用例に係る電圧安定化・音響用プッシュプル増幅装置の構成を示す図である。
【図3】多電流型カレントミラー回路の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に本発明の実施形態に係る音響用プッシュプル増幅装置の構成を示す。音響用プッシュプル増幅装置は、互いに相補的な電気的特性を有し、信号入力端子TIおよび信号出力端子TOを共有する正電源増幅部14および負電源増幅部14Nを備える。
【0013】
信号源10の一端は接地導体に接続され、他端は結合コンデンサ12を介して信号入力端子TIに接続されている。この信号源10は、チューナ、CDプレーヤ、携帯メディアプレーヤ等に相当する。信号源10は、結合コンデンサ12を介して信号入力端子TIに音響信号を出力する。音響用プッシュプル増幅装置は信号入力端子TIに入力された音響信号を増幅し、増幅された音響信号を信号出力端子TOに出力する。信号出力端子TOと接地導体との間には、スピーカを駆動する電力増幅装置、イヤホン等の音響機器が接続される。信号出力端子TOに接続された音響機器は、増幅された音響信号に基づく音声の再生等を行う。
【0014】
正電源増幅部14の構成について説明する。正電源端子24と信号入力端子TIとの間には、直列接続された第1入力抵抗器Raおよび第2入力抵抗器Rbが接続されている。第1入力抵抗器Raと第2入力抵抗器Rbとの接続点CPは、差動増幅器16の正相端子に接続されている。差動増幅器16の出力端子は、NPN型トランジスタ18のベース電極に接続されている。差動増幅器16の逆相端子は、NPN型トランジスタ18のエミッタ電極に接続されている。NPN型トランジスタ18のエミッタ電極と接地導体との間には、出力電流決定抵抗器Reが接続されている。正電源端子24、NPN型トランジスタ18のコレクタ電極および信号出力端子TOには、カレントミラー回路20が接続されている。信号出力端子TOと接地導体との間には出力抵抗器RLが接続されている。正電源端子24と接地導体との間には、正電源端子24側が正極となるよう直流電圧源22が接続されている。これによって、正電源端子24と接地導体との間には、直流電圧源22によって正の直流電圧Eが印加される。
【0015】
正電源増幅部14のバイアス電圧およびバイアス電流について説明する。正電源増幅部14と負電源増幅部14Nとを互いに相補的な電気的特性を有するものとした場合、信号入力端子TIのバイアス電位は0となる。そして、差動増幅器16の正相端子に流れる電流は、第1入力抵抗器Raおよび第2入力抵抗器Rbのそれぞれに流れる電流に対し微小である。そのため、差動増幅器16の正相端子のバイアス電圧VIは、次の(数1)のように表される。
(数1)VI=E・Rb/(Ra+Rb)
【0016】
また、差動増幅器16の正相端子の電圧と逆相端子の電圧とは等しいものとして扱ってよい。そのため、出力電流決定抵抗器Reに流れるバイアス電流Ieは、次の(数2)に表されるように、電圧VIを出力電流決定抵抗器Reの抵抗値で除した値となる。
(数2)Ie=VI/Re=E・Rb/(Ra+Rb)/Re
【0017】
NPN型トランジスタ18のベース電極からエミッタ電極へと流れる電流は、バイアス電流Ieに対して微小であるため、カレントミラー回路20からNPN型トランジスタ18のコレクタ電極に流れるバイアス電流Icは、
(数3)Ic=Ie
となる。
【0018】
カレントミラー回路20は、正電源端子24からNPN型トランジスタ18のコレクタ電極に流れる電流と等しいバイアス電流ILを、正電源端子24から出力抵抗器RLを経て接地導体に至る経路に流す。このバイアス電流ILは、次の(数4)のように表される。
(数4)IL=Ic=Ie=E・Rb/(Ra+Rb)/Re
【0019】
次に、負電源増幅部14Nの構成について説明する。負電源増幅部14Nは、信号入力端子TI、信号出力端子TO、出力抵抗器RLおよび接地導体を正電源増幅部14と共有し、バイアス電圧およびバイアス電流の極性を正電源増幅部14のバイアス電圧およびバイアス電流の極性に対し逆にしたものである。正電源増幅部14にNPN型トランジスタ18を用いるのに対し、負電源増幅部14NにはPNP型トランジスタ18Nを用いる。負電源増幅部14Nに含まれるデバイスについては、正電源増幅部14に含まれる相補的な関係にあるデバイスに付された符号の末尾に「N」を付する。
【0020】
負電源端子24Nと信号入力端子TIとの間には、直列接続された第1入力抵抗器RaNおよび第2入力抵抗器RbNが接続されている。第1入力抵抗器RaNと第2入力抵抗器RbNとの接続点CNは、差動増幅器16Nの正相端子に接続されている。差動増幅器16Nの出力端子は、PNP型トランジスタ18Nのベース電極に接続されている。差動増幅器16Nの逆相端子は、PNP型トランジスタ18Nのエミッタ電極に接続されている。PNP型トランジスタ18Nのエミッタ電極と接地導体との間には、出力電流決定抵抗器ReNが接続されている。負電源端子24N、PNP型トランジスタ18Nのコレクタ電極および信号出力端子TOには、カレントミラー回路20Nが接続されている。信号出力端子TOと接地導体との間には出力抵抗器RLが接続されている。負電源端子24Nと接地導体との間には、負電源端子24N側が負極となるよう直流電圧源22Nが接続されている。これによって、負電源端子24Nと接地導体との間には、直流電圧源22Nによって負の直流電圧−Eが印加される。
【0021】
ここでは負電源増幅部14Nが備える第1入力抵抗器RaN、第2入力抵抗器RbNおよび出力電流決定抵抗器ReNは、それぞれ、正電源増幅部14が備える第1入力抵抗器Ra、第2入力抵抗器Rbおよび出力電流決定抵抗器Reと同一の抵抗値を有するものとする。また、差動増幅器16と差動増幅器16N、カレントミラー回路20とカレントミラー回路20N、そして、NPN型トランジスタ18とPNP型トランジスタ18Nとは、互いに相補的な電気的特性を有するものとする。正電源増幅部14と同様、差動増幅器16Nの正相端子のバイアス電圧VINは、次の(数5)のように表される。
(数5)VIN=−E・RbN/(RaN+RbN)
【0022】
また、差動増幅器16Nの正相端子の電圧と逆相端子の電圧とは等しいものとして扱ってよい。そのため、出力電流決定抵抗器ReNに流れるバイアス電流IeNは、次の(数6)に表されるように、電圧VINを出力電流決定抵抗器ReNの抵抗値で除した値となる。ただし、接地導体からPNP型トランジスタ18Nのエミッタ電極に向かう電流の極性を正としている。
(数6)IeN=−VIN/ReN
=E・RbN/(RaN+RbN)/ReN
【0023】
PNP型トランジスタ18Nのエミッタ電極からベース電極へと流れる電流は、バイアス電流IeNに対して微小であるため、PNP型トランジスタ18Nのコレクタ電極からカレントミラー回路20Nに流れるバイアス電流IcNは、
(数7)IcN=IeN
となる。
【0024】
カレントミラー回路20Nは、PNP型トランジスタ18Nのコレクタ電極から負電源端子24Nに流れる電流と等しいバイアス電流ILNを、接地導体から出力抵抗器RLおよびカレントミラー回路20Nを経て負電源端子24Nに至る経路に流す。このバイアス電流ILNは、次の(数8)のように表される。
(数8)ILN=IcN
=IeN=E・RbN/(RaN+RbN)/ReN
【0025】
このように、正電源増幅部14および負電源増幅部14Nが相補的な電気的特性を有するという条件の下、負電源増幅部14Nによって出力抵抗器RLに流れるバイアス電流ILNは、正電源増幅部14によって出力抵抗器RLに流れるバイアス電流ILと同一の大きさであり、バイアス電流ILに対し逆向きの電流となる。これによって、信号出力端子TOのバイアス電位を0にすることができる。
【0026】
本実施形態においては、Ra=RaN、およびRb=RbNが成立するため、信号入力端子TIのバイアス電位は理論的には0となる。しかしながら、第1入力抵抗器RaおよびRaN、ならびに、第2入力抵抗器RbおよびRbNの実際の抵抗値にはばらつきが生じ、信号入力端子TIのバイアス電位は厳密には0とならないことがある。そこで、信号源10と信号入力端子TIとの間には結合コンデンサ12を接続することが好ましい。なお、実際の抵抗値のばらつきが十分小さいものであり、信号入力端子TIのバイアス電位の0からのずれが十分小さい場合には、結合コンデンサ12を用いずに信号源10と信号入力端子TIとを直接接続することができる。
【0027】
さらに、差動増幅器16および16N、カレントミラー回路20および20N、そして、NPN型トランジスタ18およびPNP型トランジスタ18Nを互いに相補的な電気的特性とすることで、正電源増幅部14および負電源増幅部14Nを相補的な電気的特性を有するものとし、信号出力端子TOのバイアス電位を0とすることができる。この場合、電力増幅装置、イヤホン等の音響機器を、結合コンデンサを介さずに直接信号出力端子TOに接続することができる。
【0028】
次に、本実施形態に係る音響用プッシュプル増幅装置が音響信号を増幅する動作について説明する。信号源10から結合コンデンサ12を介して信号入力端子TIに音響信号S1が出力されると、上記(数1)〜(数8)で表されるバイアス電圧およびバイアス電流を信号のゼロ値として、各箇所の電圧および電流が音響信号S1に応じて変化する。以下の説明では、バイアス電圧およびバイアス電流を除いた電圧および電流の変化分に着目して説明を行う。
【0029】
まず、正電源増幅部14の動作について説明する。第1入力抵抗器Raと第2入力抵抗器Rbとの接続点CPには、音響信号S1に応じた信号電圧S2が現れる。信号電圧S2は次の(数9)のように表される。
(数9)S2=S1・Ra/(Ra+Rb)
【0030】
差動増幅器16は接続点CPに現れる信号電圧S2に応じた信号電圧をNPN型トランジスタ18のベース電極に出力すると共に、NPN型トランジスタ18のエミッタ電極の信号電圧をS2とする。これによって、NPN型トランジスタ18のコレクタ電極およびエミッタ電極には、次の(数10)で表されるように、信号電圧S2を出力電流決定抵抗器Reの抵抗値で除した信号電流Si1が流れる。
(数10)Si1=S2/Re=S1・Ra/(Ra+Rb)/Re
【0031】
また、カレントミラー回路20は、正電源端子24からNPN型トランジスタ18のコレクタ電極およびエミッタ電極に流れる信号電流Si1と等しい出力信号電流Si2を、正電源端子24から出力抵抗器RLを経て接地導体に至る経路に流す。この出力信号電流Si2は、次の(数11)のように表される。
(数11)Si2=Si1=S1・Ra/(Ra+Rb)/Re
【0032】
次に、負電源増幅部14Nの動作について説明する。信号源10から結合コンデンサ12を介して信号入力端子TIに音響信号S1が出力されると、第1入力抵抗器RaNと第2入力抵抗器RbNとの接続点CNには、音響信号S1に応じた信号電圧S3が現れる。S3は次の(数12)のように表される。
(数12)S3=S1・RaN/(RaN+RbN)
【0033】
差動増幅器16Nは接続点CNに現れる信号電圧S3に応じた信号電圧をPNP型トランジスタ18Nのベース電極に出力すると共に、PNP型トランジスタ18Nのエミッタ電極の信号電圧をS3とする。これによって、PNP型トランジスタ18Nのエミッタ電極およびコレクタ電極には、次の(数13)で表されるように、信号電圧S3を出力電流決定抵抗器ReNの抵抗値で除した信号電流Si3が流れる。
(数13)Si3=S3/ReN
=S1・RaN/(RaN+RbN)/ReN
ただし、信号電流Si3は、PNP型トランジスタ18Nのエミッタ電極から出力電流決定抵抗器Reを経て接地導体に向かう電流の極性を正としている。
【0034】
カレントミラー回路20Nは、PNP型トランジスタ18Nのエミッタ電極およびコレクタ電極に流れる信号電流Si3と等しい出力信号電流Si4を、負電源端子24Nから出力抵抗器RLを経て接地導体に至る経路に流す。この出力信号電流Si4は、次の(数14)のように表される。
(数14)Si4=Si3=S1・RaN/(RaN+RbN)/ReN
ただし、信号電流Si4は、負電源端子24Nから出力抵抗器RLを経て接地導体に向かう電流の極性を正としている。
【0035】
このような正電源増幅部14および負電源増幅部14Nの動作により、出力抵抗器RLには次の(数15)によって表される出力信号電流IOが流れる。
(数15)IO=Si2+Si4
【0036】
ここでは、Ra=RaN、Rb=RbN、およびRe=ReNが成立するため、出力信号電流IOは、次の(数16)のように表される。
(数16)IO=2・Si2=2・S1・Ra/(Ra+Rb)/Re
【0037】
信号出力端子TOには、出力信号電流IOに出力抵抗器RLの抵抗値を乗じた出力信号電圧SOが現れる。
(数17)SO=RL・IO=2・S1・Ra・RL/(Ra+Rb)/Re
【0038】
電圧増幅率Aは、出力信号電圧SOを音響信号S1で除した値として定義され、次の(数18)のように表される。
(数18)A=SO/S1=2・Ra・RL/(Ra+Rb)/Re
【0039】
このような構成によれば、次のような作用効果により、音響用プッシュプル増幅装置に負帰還経路を設けることなく、信号出力端子TOから出力される信号の歪を低減することができる。すなわち、正電源増幅部14については、信号源10から出力された音響信号S1に応じた電圧が正電源増幅部14の接続点CPに現れる。そして、差動増幅器16によって、接続点CPの電圧とNPN型トランジスタ18のエミッタ電極の電圧とが同一に保持される。これによって、出力電流決定抵抗器Reおよび出力抵抗器RLには音響信号S1に応じた電流が流れ、音響出力端子TOから音響信号S1に応じた信号電圧が出力される。
【0040】
接続点CPの電圧とNPN型トランジスタ18のエミッタ電極の電圧とは同一に保持されているため、NPN型トランジスタ18のベース・エミッタ間の非線形特性に関わらず、出力電流決定抵抗器Reの抵抗値に応じた出力信号電流Si2が決定される。ここで、ベース・エミッタ間の非線形特性とは、ベース・エミッタ間の電圧の変化に対し、ベース電極およびコレクタ電極に流れる電流が非線形に変化する特性をいう。
【0041】
また、負電源増幅部14Nについても、正電源増幅部14と同様の原理により、PNP型トランジスタ18Nの非線形特性に関わらず、出力電流決定抵抗器ReNの抵抗値に応じた出力信号電流Si4が決定される。
【0042】
したがって、本発明の実施形態に係る音響用プッシュプル増幅装置によれば、出力信号電流IO=Si2+Si4、および出力信号電圧SOの歪成分を低減することができる。
【0043】
次に、応用例に係る音響用プッシュプル増幅装置について説明する。図2には、電圧安定化・音響用プッシュプル増幅装置の構成が示されている。この装置は、図1に示される音響用プッシュプル増幅装置に、信号出力端子TOのバイアス電位を0に維持する回路を付加したものである。図1に示される構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
上記のように、正電源増幅部14および負電源増幅部14Nを互いに相補的な電気的特性とすることで、信号出力端子TOのバイアス電位を0とすることができる。しかしながら、一般に半導体素子は、温度変化に応じて電気的特性が変動する。また、半導体素子ごとに電気的特性のばらつきがある。そのため、正電源増幅部14および負電源増幅部14Nの電気的特性を完全に相補的とすることは困難であり、信号出力端子TOのバイアス電位は0とはならず、ゆらぐことがある。そこで、電圧安定化・音響用プッシュプル増幅装置は、出力安定用カレントミラー回路26、比較回路28、および直流定電流源30の動作によって、信号出力端子TOのバイアス電位を0に維持する。
【0045】
出力安定用カレントミラー回路26は、正電源端子24、信号出力端子TOおよび比較回路28に接続されている。比較回路28は、信号出力端子TO、出力安定用カレントミラー回路26、および接地導体に接続されている。直流定電流源30は、信号出力端子TOと接地導体との間に接続されている。
【0046】
比較回路28は、検出端子Dに与えられた信号出力端子TOの電圧に対しローパスフィルタ処理を施し、直流出力電位を検出する。比較回路28は、接地導体に接続されたリファレンス端子Refの電位よりも直流出力電位が高いときは、出力安定用カレントミラー回路26から電流入力端子Fに流入し、電流出力端子Gから接地導体へと流れる電流Iαを減少させる。他方、リファレンス端子Refの電位よりも直流出力電位が低いときは電流Iαを増加させる。そして、リファレンス端子Refの電位と直流出力電位とが等しいときは、電流Iαの値を保持する。比較回路28は、トランジスタ、FET等を用いたアナログ回路によって構成することができる。
【0047】
出力安定用カレントミラー回路26は、正電源端子24から比較回路28に至る経路に流れる電流Iαと同一値の電流Iβを、正電源端子24から出力抵抗器RLと信号出力端子TOとの接続点Oに至る経路に流す。
【0048】
直流定電流源30は、接続点Oから接地導体に一定の電流Iγを流す。これによって、接続点Oから出力抵抗器RLを経て接地導体に至る経路には電流Iδが流れる。電流Iδ、IβおよびIγの間には、Iδ=Iβ−Iγの関係がある。ここで、電流Iγは一定であるため、電流Iβが増加したときは電流Iδもまた増加し、電流Iβが減少したときは電流Iδもまた減少する。
【0049】
このような構成および動作によれば、信号出力端子TOのバイアス電位が0より大きくなった場合には、電流IαおよびIβが減少し、さらに、電流Iδが減少する。これによって、出力抵抗器RLにおける電流Iδに基づく電圧降下分が減少し、信号出力端子TOのバイアス電位が0に近づけられる。他方、信号出力端子TOのバイアス電位が0より小さくなった場合には、電流IαおよびIβが増加し、さらに、電流Iδが増加する。これによって、出力抵抗器RLにおける電流Iδに基づく電圧降下分が増加し、信号出力端子TOのバイアス電位が0に近づけられる。したがって、信号出力端子TOのバイアス電位を0に維持することができる。
【0050】
ここでは、比較回路28のリファレンス端子Refが接地導体に接続された構成について説明した。このような構成の代わりに、リファレンス端子Refと接地導体との間に出力電圧がVである直流定電圧源を接続した構成としてもよい。この場合、信号出力端子TOのバイアス電位はVに近づけられる。これによって、信号出力端子TOに接続される音響機器に応じたバイアス電位を設定することができる。
【0051】
なお、上記では、音響用プッシュプル増幅装置、および電圧安定化・音響用プッシュプル増幅装置について、差動増幅器を用いてトランジスタのベース・エミッタ間の非線形特性を回避する構成について説明した。このような差動増幅器を用いる代わりに、信号入力端子TIとエミッタ電極との間の電圧を一定に維持し、信号入力端子TIの電圧に応じた電圧をベース電極に出力する一般的な回路(電圧保持回路)を用いてもよい。
【0052】
また、半導体素子としては、トランジスタの代わりにFET(Field Effect Transistor)を用いてもよい。この場合、トランジスタのベース電極、コレクタ電極およびエミッタ電極が接続される箇所には、それぞれ、FETのゲート電極、ドレイン電極およびソース電極が接続される。
【0053】
次に、カレントミラー回路20および20Nの応用例について説明する。図3(a)には正電源・多電流型カレントミラー回路が示されている。このカレントミラー回路は、3個以上のトランジスタを用い、出力される電流を増大させるものである。
【0054】
正電源・多電流型カレントミラー回路は、NPN型の入力側トランジスタ32、およびNPN型の出力側トランジスタ34−1〜34−3を備える。これらのトランジスタのコレクタ電極は共通に接続され正電源端子24に接続されている。また、これらのトランジスタのベース電極は共通に接続されている。そして、入力側トランジスタ32のベース電極はエミッタ電極に接続されている。入力側トランジスタ32のエミッタ電極は、図1および図2に示されるNPN型トランジスタ18のコレクタ電極に接続されている。出力側トランジスタ34−1〜34−3のエミッタ電極は共通に接続され、図1および図2に示される信号出力端子TOおよび出力抵抗器RLの一端に接続されている。
【0055】
正電源・多電流カレントミラー回路では、入力側トランジスタ32のコレクタ電極およびエミッタ電極を流れる電流と同一値の電流が、出力側トランジスタ34−1〜34−3のそれぞれのコレクタ電極およびエミッタ電極に流れる。
【0056】
図3(b)には負電源・多電流型カレントミラー回路が示されている。負電源・多電流型カレントミラー回路は、正電源・カレントミラー回路に対し相補的な電気的特性を有する。負電源・多電流型カレントミラー回路は、PNP型の入力側トランジスタ32N、およびPNP型の出力側トランジスタ34N−1〜34N−3を備える。これらのトランジスタのコレクタ電極は共通に接続され負電源端子24Nに接続されている。また、これらのトランジスタのベース電極は共通に接続されている。そして、入力側トランジスタ32Nのベース電極はエミッタ電極に接続されている。入力側トランジスタ32Nのエミッタ電極は、図1および図2に示されるPNP型トランジスタ18Nのコレクタ電極に接続されている。出力側トランジスタ34N−1〜34N−3のエミッタ電極は共通に接続され、図1および図2に示される信号出力端子TOおよび出力抵抗器RLの一端に接続されている。
【0057】
負電源・多電流カレントミラー回路では、入力側トランジスタ32Nのエミッタ電極およびコレクタ電極を流れる電流と同一値の電流が、出力側トランジスタ34N−1〜34N−3のそれぞれのエミッタ電極およびコレクタ電極に流れる。
【0058】
図1および図2のカレントミラー回路20および20Nとして、それぞれ、正電源・多電流型カレントミラー回路および負電源・多電流型カレントミラー回路を用いた場合、信号電流Si1に対して3倍の値を有する信号電流Si2が流れ、信号電流Si3に対して3倍の値を有する信号電流Si4が流れる。これによって、通常のカレントミラー回路を用いた場合に比べて、音響用プッシュプル増幅装置の電圧増幅率を3倍にすることができる。
【0059】
なお、ここでは、3個の出力側トランジスタを用いたカレントミラー回路について説明した。より一般的には、ベース電極、コレクタ電極およびエミッタ電極が共通に接続されたn個(n>2)の出力側トランジスタを用いた場合には、通常のカレントミラー回路を用いた場合に比べて、出力抵抗器RLに流れる電流をn倍とし、音響用プッシュプル増幅装置および電圧安定化・音響用プッシュプル増幅装置の電圧増幅率をn倍にすることができる。
【符号の説明】
【0060】
10 信号源、12 結合コンデンサ、14 正電源増幅部、14N 負電源増幅部、16,16N 差動増幅器、18 NPN型トランジスタ、18N PNP型トランジスタ、20,20N カレントミラー回路、22,22N 直流電圧源、24 正電源端子、24N 負電源端子、26 出力安定用カレントミラー回路、28 比較回路、30 直流定電流源、32,32N 入力側トランジスタ、34−1〜34−3,34N−1〜34N−3 出力側トランジスタ、Ra,RaN 第1入力抵抗器、Rb,RbN 第2入力抵抗器、Re,ReN 出力電流決定抵抗器、RL 出力抵抗器、TI 信号入力端子、TO 信号出力端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに相補的な電気的特性を有する第1増幅部および第2増幅部を備える、音響用プッシュプル増幅装置において、
前記第1増幅部および前記第2増幅部のそれぞれは、
第1電極、第2電極、および制御電極を有し、前記制御電極に与えられた信号に応じて前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流が制御される半導体素子と、
信号入力端子と電圧基準端子との間に設けられ、直列接続された第1入力抵抗器および第2入力抵抗器と、
前記第1入力抵抗器と前記第2入力抵抗器との接続点の電圧と前記第2電極の電圧との関係を一定に保持すると共に、当該接続点の信号を前記制御電極に与える電圧保持回路と、
前記第2電極と接地導体との間に設けられる出力電流決定抵抗器と、
接地導体との間に出力抵抗器が接続される信号出力端子と、
前記電圧基準端子から前記第1電極に第1の電流を流すと共に、前記電圧基準端子から前記出力抵抗器を経て接地導体に至る経路に当該第1の電流に応じた第2の電流を流すカレントミラー回路と、を備え、
前記第1増幅部が備える前記電圧基準端子および前記第2増幅部が備える前記電圧基準端子には、互いに極性の異なる直流電圧が接地導体との間に印加され、
前記第1増幅部および前記第2増幅部のそれぞれの前記信号入力端子は共通に接続され、前記第1増幅部および前記第2増幅部のそれぞれの前記信号出力端子は共通に接続されている、
ことを特徴とする音響用プッシュプル増幅装置。
【請求項2】
請求項1に記載の音響用プッシュプル増幅装置において、
前記第1増幅部が備える前記電圧基準端子と前記信号出力端子との間に設けられる出力安定用カレントミラー回路と、
前記第2増幅部が備える前記電圧基準端子と前記信号出力端子との間に設けられる直流定電流源と、
前記出力安定用カレントミラー回路に接続され、前記信号出力端子の電位と基準電位との差異に応じた電流を前記カレントミラー回路に流す比較回路と、
を備え、
前記出力安定用カレントミラー回路は、前記比較回路の動作によって自らに流れる電流に応じた電流を、前記信号出力端子に至る経路に流す、
ことを特徴とする音響用プッシュプル増幅装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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