説明

頭部装着型の画像表示装置

【課題】観察者が、ヘッドマウントディスプレイ(HMD)の頭部装着状態において、そのHMDから感じる閉塞感を軽減する。
【解決手段】画像光を観察者の両眼のうちの一方である観察眼16に投射するために観察者の頭部に装着される単眼式のHMD12と、観察者の頭部に装着されている被装着部材70に装着され、HMD12を保持するホルダとを含む画像表示装置において、観察眼16の視野は、観察者の両眼のうち観察眼16ではない眼である非観察眼18の視野と重なり合う重複領域と、非観察眼の視野と重なり合うことなく単独で存在する非重複領域とを有しており、前記ホルダは、HMD12のうち重複領域内に存在する部分を観察眼から見た場合の第1投影面積が、HMD12のうち非重複領域内に存在する部分を観察眼から見た場合の第2投影面積以上であるという条件を満たす位置においてHMDを保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、観察者に画像を表示するために観察者の頭部に装着されるヘッドマウントディスプレイ(以下、「HMD」と略称する。)を有する画像表示装置に関するものであり、特に、観察者が、HMDの頭部装着状態において、そのHMDから感じる閉塞感を軽減する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表示すべき画像を表す画像光を観察者の眼に投射するために観察者の頭部に装着されるHMDを有する画像表示装置が既に知られている。この画像表示装置によれば、観察者は、画像が投影されるスクリーンを媒介にすることなく、画像を直接的に観察することができる。
【0003】
HMDを、画像光形成方式によって分類すると、空間変調型、すなわち、画像信号に応じて作動する空間変調素子(例えば、液晶または有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス))を用いて、光源からの出射光から前記画像光を形成する方式と、走査型、すなわち、光源からの出射光であって、前記画像信号に応じた強度を有するものを走査することによって前記画像光を形成する方式とに分類される。
【0004】
また、HMDを、表示画像の観察方式によって分類すると、シースルー型、すなわち、観察者が、当該HMDによる表示画像に重ねて、現実外界を観察することが可能である方式と、密閉型、すなわち、現実外界を表す外光の入射を完全にまたは部分的に(例えば、片眼についてのみ)遮断し、観察者が、主に、HMDによる表示画像のみを観察することを可能である方式とに分類される。
【0005】
いずれにしても、この種の画像表示装置は、一般に、HMDと、観察者の頭部に装着される被装着部材(例えば、眼鏡のフレーム、眼鏡型の専用フレーム、バンド、ゴーグルなど)に装着され、HMDを保持するホルダとを含むように構成される。
【0006】
特許文献1は、HMDを観察者の頭部に装着するために、HMDを、観察者の頭部に装着される眼鏡のフレームに引っ掛ける技術を開示しており、また、特許文献2は、HMDを、観察者の頭部に装着される眼鏡のレンズに、吸盤または接着剤により、装着する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−061804号公報
【特許文献2】特開2006−054618号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
HMDを用いて画像を観察者に表示する場合には、HMDの本質的機能、すなわち、画像光を眼に投射するという機能を果たすために、HMDという物理的存在を観察者の視界内に配置することを避け得ない。例えば、HMDは、頭部装着型であるため、観察者の眼に接近した位置に配置される傾向が強い。また、HMDがシースルー型である場合には、観察者の眼の正面にハーフミラーなどの光学部品が配置される。
【0009】
これに対し、本発明者らは、HMDの実用性等について種々の研究を行った結果、HMDの、上記のような基本的なレイアウトが原因で、観察者が、HMDの頭部装着状態において、そのHMDから閉塞感や圧迫感を感ずる可能性があるということに気が付いた。そして、本発明者らは、HMDの位置、向き、大きさ、形状、色等の条件を変えてHMDを観察者の頭部に装着するという実験を行い、その結果、その条件次第で、観察者がHMDから感じる閉塞感や圧迫感が軽減したり、増加することが判明した。
【0010】
このような知見に基づき、本発明は、HMDを有する画像表示装置であって、観察者が、HMDの頭部装着状態において、そのHMDから感じる閉塞感を軽減するものを提供することを課題としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によって下記の各態様が得られる。各態様は、項に区分し、各項には番号を付し、必要に応じて他の項の番号を引用する形式で記載するが、このように、各項を他の項の番号を引用する形式で記載することにより、各項に記載の技術的特徴をその性質に応じて適宜独立させることが可能となる。
【0012】
(1) 観察者に画像を表示する頭部装着型の画像表示装置であって、
画像信号に応じた画像光を観察者の両眼のうちの一方である観察眼に投射するために観察者の頭部に装着される単眼式のヘッドマウントディスプレイ(HMD)と、
観察者の頭部に装着されている被装着部材に装着され、前記HMDを保持するホルダと
を含み、
前記観察眼の視野は、観察者の両眼のうち前記観察眼ではない眼である非観察眼の視野と重なり合う重複領域と、前記非観察眼の視野と重なり合うことなく単独で存在する非重複領域とを有しており、
前記ホルダは、前記HMDのうち前記重複領域内に存在する部分を前記観察眼から見た場合の第1投影面積が、前記HMDのうち前記非重複領域内に存在する部分を前記観察眼から見た場合の第2投影面積以上であるという条件を満たす位置において前記HMDを保持する画像表示装置。
【0013】
(2) 前記ホルダは、前記被装着部材が眼鏡または眼鏡型フレームであり、かつ、それら眼鏡または眼鏡型フレームに前記HMDが装着されることを想定した場合にそのHMDが前記観察眼に対して接近することとなる距離と実質的に同じ距離で接近するように前記HMDを前記観察眼に対して位置決めする(1)項に記載の画像表示装置。
【0014】
(3) 前記HMDは、概して直線的に延びる外形を有するハウジングを備えている(1)または(2)項に記載の画像表示装置。
【0015】
(4) 前記ホルダは、前記HMDを、水平方向に延びる姿勢で保持する(3)項に記載の画像表示装置。
【0016】
(5) 前記ホルダは、前記HMDを、前記観察眼の瞳孔を通過する水平面上において、その水平面に沿って延びる姿勢で保持する(4)項に記載の画像表示装置。
【0017】
(6) 前記ホルダは、前記HMDのうちの実質的な全部が、前記観察眼の瞳孔を通過して前後方向に延びる垂直面の位置より、観察者の両耳のうち前記観察眼に近いものの側に偏った位置に位置するという条件を満たす位置において前記HMDを保持する(1)ないし(5)項のいずれかに記載の画像表示装置。
【0018】
(7) 前記HMDは、入射光を2次元空間的に変調して前記画像光を生成する空間変調素子と、その空間変調素子から出射する前記画像光が通過する複数の光学素子と、前記画像信号に応じて空間変調素子を駆動する駆動回路とを含む複数の部品が前記ハウジング内に収容されることによって構成されており、
前記複数の部品は、前記ハウジングの長手方向に沿って一次元配列を成している(1)ないし(6)項のいずれかに記載の画像表示装置。
【0019】
(8) 前記駆動回路および前記空間変調素子は、いずれも、平面板状を成しており、
前記駆動回路は、前記一次元配列の両端部のうちの一方に配置されるとともに、前記ハウジングの両端部のうち、対応する端部に配置され、
前記駆動回路および前記空間変調素子は、互いに正対する姿勢で配置されている(7)項に記載の画像表示装置。
【0020】
(9) 前記画像光は、前記ハウジングの両端部のうち、前記駆動回路が配置されている端部とは反対側の端部から出射し
前記HMDは、さらに、前記ハウジングから出射する前記画像光を曲げて前記観察眼に誘導する反射部材を含み、
その反射部材は、前記ハウジングの、前記反対側の端部に装着されている(8)項に記載の画像表示装置。
【0021】
(10) 前記非重複領域は、その非重複領域の後方限界線が、前記観察眼の補助視覚の後方限界線に実質的に一致するように設定される(1)ないし(9)項のいずれかに記載の画像表示装置。
【0022】
(11) 前記ホルダは、前記HMDが、前記観察眼の前方に位置する使用位置と、前記観察眼の前方位置から退避した退避位置との間において回動可能であるように前記HMDを保持し、
前記使用位置と前記退避位置とのいずれも、前記条件を満たすように設定される(1)ないし(10)項のいずれかに記載の画像表示装置。
【0023】
(12) 前記被装着部材は、観察者の前側において、観察者の頭部の左側面に接する左端垂直面と、右側面に接する右端垂直面との間を延びるフロント部を有し、
前記ホルダは、前記HMDを、前記フロント部の左右端部のうち前記観察眼に近いものに配置された軸線まわりに回動可能に保持する(11)項に記載の画像表示装置。
【0024】
(13) 前記ホルダは、前記HMDを、垂直軸線まわりに回動可能に保持する(11)または(12)項に記載の画像表示装置。
【0025】
(14) 観察者に画像を表示する頭部装着型の画像表示装置であって、
画像信号に応じた画像光を観察者の両眼のうちの一方である観察眼に投射するために観察者の頭部に装着される単眼式のヘッドマウントディスプレイ(HMD)と、
観察者の頭部に装着されている被装着部材に装着され、前記HMDを保持するホルダと
を含み、
観察者の両眼の2つの瞳孔を同時に通過して垂直に延びる基準面が設定されており、
前記ホルダは、前記HMDの全体が前記基準面より前方の領域に存在するという条件を満たす位置において前記HMDを保持し、それにより、観察者が、前記HMDの装着状態において、そのHMDの物理的存在から受ける閉塞感を軽減する画像表示装置。
【発明の効果】
【0026】
本発明者らは、HMDの位置をいろいろ変えてHMDを観察者の頭部に装着するという実験を行った。その結果、種々の知見を得た。
【0027】
例えば、観察眼の視野は、観察者の両眼のうち前記観察眼ではない眼である非観察眼の視野と重なり合う重複領域と、前記非観察眼の視野と重なり合うことなく単独で存在する非重複領域とを有している。前記HMDのうち前記重複領域内に存在する部分を前記観察眼から見た場合の第1投影面積が、前記HMDのうち前記非重複領域内に存在する部分を前記観察眼から見た場合の第2投影面積以上である場合には、そうでない場合より、観察者が、前記HMDの装着状態において、そのHMDの物理的存在から受ける閉塞感が軽減されることが判明した。
【0028】
また、観察者の両眼の2つの瞳孔を同時に通過して垂直に延びる基準面を設定した場合に、HMDの全体が、前記基準面より前方の領域に存在する場合には、そうでない場合より、観察者が、HMDの物理的存在から受ける閉塞感が軽減されることも判明した。
【0029】
それらの知見に基づき、本発明によれば、観察者が、前記HMDの頭部装着状態において、そのHMDの物理的存在から受ける閉塞感が軽減される位置に、HMDが観察眼に対して保持される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に従う画像表示装置を、それのHMDを観察者の頭部に装着するために使用されるフレームと共に示す正面図である。
【図2】図2(a)は、図1に示すHMDを示す部分断面平面図であり、図2(b)は、図2(a)におけるHMDのA−A線に沿った断面図である。
【図3】図3(a)は、図1に示すHMDを前記フレームと共に、使用位置と退避位置とについて示す平面図であり、図3(b)は、図1に示すHMDを前記フレームと共に、使用位置と退避位置とについて示す側面図である。
【図4】図4は、図1に示すHMDが観察者の眼の視界の角度範囲に対する相対的な位置を説明するための平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のさらに具体的な実施の形態のうちの一つを例として図面に基づいて詳細に説明する。
【0032】
図1には、本発明の一実施形態に従う画像表示装置10が、観察者の頭部に装着された状態で、正面図で示されている。この画像表示装置10は、シースルー型のHMD12と、ホルダ14とを備えている。HMD12は、単眼式であり、画像を表す画像光を観察者の両眼のうちの一方である観察眼16(他方の眼は、非観察眼18)に投射するように構成されている。
【0033】
観察者の頭部に被装着部材としてのフレーム20が装着され、そのフレーム20にホルダ14が装着され、そのホルダ14にHMD12が装着される。ホルダ14は、HMD12を、図1に示すように、垂直に延びる回動軸線まわりに回動可能に支持する。その結果、HMD12がホルダ14を介して、フレーム20に装着される。フレーム20は、観察者の両耳にかけられる状態で観察者の頭部に装着される。このフレーム20は、HMD12に専用のフレームである。
【0034】
このフレーム20は、それの基本的形状が、観察者の頭部に装着される通常の眼鏡に形状に似ていることに着目し、眼鏡型フレームと称することができる。通常の眼鏡は、一対のレンズと、それらレンズを接合するブリッジと、それらレンズとブリッジによって構成されるフロント部から延びる一対のテンプルとを含むように構成される。しかし、フレーム20に代えて通常の眼鏡に、ホルダ14を介してHMD12を装着してもよい。
【0035】
いずれにしても、ホルダ14は、フレーム20が眼鏡であり、かつ、その眼鏡にHMD12が装着されることを想定した場合にそのHMD12が観察眼16に対して接近することとなる距離と実質的に同じ距離で接近するようにHMD12を観察眼16に対して位置決めする。
【0036】
図2(a)には、HMD12が、それの中空のハウジング30が破断された状態で平面図で示され、図2(b)には、HMD12の、図2(a)におけるA−A線に沿った断面図が示されている。ハウジング30は、概して直線的に延びる外形を有している。このハウジング30内に、板状の駆動回路40と、空間変調素子としてのLCD(複数の画素が2次元的に並んだ液晶ディスプレイ)42と、接眼光学系44とを含む複数の部品が、ハウジング30の長手方向に沿って一次元配列を成している。
【0037】
その接眼光学系44は、複数のレンズを有し、それらレンズは、同じ光軸を共有する。その光軸は、ハウジング30の長手方向に平行に、かつ、ミラーなどの部品によってその方向が曲げられることなく、一直線に延びて、LCD42の中心点を通過する。
【0038】
駆動回路40は、図示しないケーブルを介して、LCD42に電気的に接続されている。駆動回路40は、外部から入力される画像信号に基づいてLCD42を駆動し、それにより、観察者に表示すべき画像を表す画像光をLCD42から出射させる。LCD42は、バックライト光源を内蔵しているが、その光源に代えて、LCD42から独立した光源を用いてもよい。接眼光学系44は、複数の光学素子としての複数のレンズが直列に並んだ一次元配列として構成されている。
【0039】
なお付言するに、本実施形態においては、HMD12が空間変調型であるが、網膜走査型、すなわち、レーザ等、光源からの光束をスキャナによって走査し、その走査された光束を観察者の網膜に投射するものに変更してもよい。
【0040】
駆動回路40およびLCD42は、いずれも、平面板状を成している。駆動回路40は、前記一次元配列の両端部のうちの一方に配置されるとともに、ハウジング30の両端部のうち、対応する端部(図2(a)においては、右側の端部)に配置されている。それら駆動回路40およびLCD42は、互いに平行に正対する姿勢で配置されている。
【0041】
前記画像光は、ハウジング30の両端部のうち、駆動回路40が配置されている端部とは反対側の端部(図2(a)においては、左側の端部)から出射する。HMD12は、さらに、ハウジング30から出射する画像光を曲げて観察眼16に誘導する反射部材としてのハーフミラー50を有している。そのハーフミラー50は、ハウジング30の両端部のうち、駆動回路40が配置されている端部とは反対側の端部、すなわち、画像光が出射する端部(図2(a)においては、左側の端部)に回動可能に装着されている。
【0042】
接眼光学系44から出射する画像光は、ハーフミラー50で反射して、観察眼16の瞳孔60を通過して、網膜(図示しない)に入射する。それにより、観察者が2次元画像を虚像として観察することが可能となる。観察眼16には、ハーフミラー50で反射した画像光のみならず、現実外界からの光(外光)がハーフミラー50を透過して入射する。その結果、観察者は、画像光によって表示される画像の観察と並行して現実外界を観察することが可能である。
【0043】
図1ならびに図3(a)および図3(b)に示すように、フレーム20は、観察者の前側において、フロント部70を有する。そのフロント部70は、観察者の頭部の左側面に接する左端垂直面(観察者の左耳を通過する垂直面)と、右側面に接する右端垂直面(観察者の右耳を通過する垂直面)との間を延びている。このフロント部70にホルダ14が装着されている。
【0044】
具体的には、ホルダ14は、HMD12を、フロント部70の左右端部のうち観察眼16に近いものに配置された垂直軸線(図1ならびに図3(a)および図3(b)に示す回動軸線)まわりに回動可能に保持する。さらに、ホルダ14は、図3(a)および図3(b)ならびに図4に示すように、HMD12が、観察眼16の前方に位置する使用位置と、観察眼16の前方位置から退避した退避位置との間において、垂直な回動軸線まわりに回動可能であるようにHMD12を保持する。
【0045】
前述のように、本実施形態においては、フレーム20が、観察者の頭部に装着される通常の眼鏡であり、かつ、その通常の眼鏡にHMD12が装着されることを想定した場合にそのHMD12が観察眼16に対して接近することとなる距離と実質的に同じ距離で接近するように、HMD12が観察眼16に対して位置決めされる。すなわち、HMD12が頭部装着型であるため、HMD12が観察眼16に接近した位置に配置されるのである。また、HMD12がシースルー型であるため、観察眼16の正面にハーフミラー50が配置される。
【0046】
このようなHMD12のレイアウトが原因で、観察眼16の視野のうちやや大きな領域が、HMD12によって遮蔽されてしまう。その結果、観察者は、HMD12の頭部装着状態において、そのHMD12から閉塞感および圧迫感を感じ易い。
【0047】
そこで、本発明者らは、本発明に先立ち、観察眼16に対するHMD12の位置および向きと、観察者が、HMD12の頭部装着状態において、そのHMD12の物理的存在から受ける閉塞感および圧迫感の程度との関係について実験を行った。その結果、本発明者らは、その閉塞感および圧迫感を軽減するためにHMD12が満たすべき4つの条件を知得した。
【0048】
1.第1条件
本発明者らの研究によれば、図3(a)に示すように、観察者の両眼16,18の2つの瞳孔60,60を同時に通過して垂直に延びる基準面を設定した場合には、HMD12の全体が基準面より前方の領域に存在するという第1条件を満たすことが、観察者がHMD12から受ける閉塞感および圧迫感を軽減するために望ましいことが判明した。
【0049】
2.第2条件
図3(a)に示すように、水平方向における最大片眼視野については、観察眼16についても非観察眼18についても、左右のうちの一方の後方限界線は、補助視野の後方限界線(各眼の眼球の中心点を通過する前後中心線から例えば100°だけ回転した位置)と一致し、左右のうちの他方の後方限界線は、観察者の鼻の位置および高さによって決まる。
【0050】
また、図3(b)に示すように、垂直方向における最大片眼視野については、観察眼16についても非観察眼18についても、各眼の眼球の中心点を通過する前後中心線から上側および下側にそれぞれ例えば67.5°だけ回転した位置として決まる。
【0051】
その結果、図3(a)に示すように、観察眼16の視野は、非観察眼18の視野と重なり合う重複領域と、非観察眼18の視野と重なり合うことなく単独で存在する非重複領域とを有する。
【0052】
本発明者らの研究によれば、HMD12のうち、重複領域内に存在する部分を観察眼16から見た場合の第1投影面積が、HMD12のうち、非重複領域内に存在する部分を観察眼16から見た場合の第2投影面積以上であるという第2条件を、前記第1条件と同時に満たすことが、観察者がHMD12から受ける閉塞感および圧迫感を軽減するためにさらに望ましいことが判明した。
【0053】
3.第3条件
本発明者らの研究によれば、HMD12のうちの実質的な全部が、観察眼16の瞳孔60を通過して前後方向に延びる垂直面の位置より、観察者の両耳のうち観察眼16に近いものの側に偏った位置に位置するという第3条件を、前記第1条件および前記第2条件のうち少なくとも一つと同時に満たすことが、観察者がHMD12から受ける閉塞感および圧迫感を軽減しつつ、観察者の視野を確保するためにさらに望ましいことが判明した。
【0054】
この第3条件は、観察者の視野のうち視機能が最も優れた弁別視野(観察者によって最も良好に視認される視野)内に存在しないようにHMD12を配置することにより、観察者の視野を確保するために重要な条件である。
【0055】
4.第4条件
本発明者らの研究によれば、HMD12の使用位置と退避位置とのいずれにおいても、前記第1ないし第3条件のうちの少なくとも一つを満たすことが、観察者がHMD12から受ける閉塞感を軽減するためにさらに望ましいことが判明した。
【0056】
本実施形態においては、観察者がHMD12から受ける閉塞感および圧迫感を最小化するために、上説明した4つの条件を同時に満たすように、HMD12の位置および向きが、観察眼16の位置に対して相対的に設定され、その相対位置関係が実現されるように、HMD12を保持するホルダ14の位置がフレーム20に対して相対的に設定されている。
【0057】
具体的には、図3(a)に示すように、HMD12の全体が、使用位置にあるか退避位置にあるかを問わず、基準面より前方に位置するように、ホルダ14がHMD12を保持する。これにより、HMD12のうちのいずれも部分も、基準面より後方の位置に存在せずに済む。
【0058】
さらに、図4に示すように、使用位置にあるHMD12のうち重複領域内に存在する部分を観察眼16から見た場合の第1画角(平面視においては、θ1)が、使用位置にあるHMD12のうち非重複領域内に存在する部分を観察眼16から見た場合の第2画角(平面視においては、θ2)以上であるように、ホルダ14がHMD12を保持する。本実施形態においては、HMD12の断面積が、HMD12の長手方向におけるいずれの位置についても、ほぼ同一である。よって、第1画角θ1が第2画角θ2以上であることは、使用位置にあるHMD12のうち重複領域内に存在する部分を観察眼16から見た場合の第1投影面積が、使用位置にあるHMD12のうち非重複領域内に存在する部分を観察眼16から見た場合の第2投影面積以上であることを意味する。
【0059】
なお付言するに、平面視において、第1画角θ1の角度範囲と第2画角θ2の角度範囲との間の境界線は、前記重複範囲と前記非重複範囲との間の境界線(すなわち、右眼視界の後方限界線と一致する。)と、使用位置にあるHMD12のハウジング30の、実線で示す外形線との交点を通過するように決定される。
【0060】
さらに、退避位置にあるHMD12のうち重複領域内に存在する部分を観察眼16から見た場合の第1画角(平面視においては、ψ1)が、退避位置にあるHMD12のうち非重複領域内に存在する部分を観察眼16から見た場合の第2画角(平面視においては、ψ2)以上であるように、ホルダ14がHMD12を保持する。第1画角ψ1が第2画角ψ2以上であることは、退避位置にあるHMD12のうち重複領域内に存在する部分を観察眼16から見た場合の第1投影面積が、退避位置にあるHMD12のうち非重複領域内に存在する部分を観察眼16から見た場合の第2投影面積以上であることを意味する。
【0061】
なお付言するに、平面視において、第1画角ψ1の角度範囲と第2画角ψ2の角度範囲との間の境界線は、前記重複範囲と前記非重複範囲との間の境界線(すなわち、右眼視界の後方限界線と一致する。)と、退避位置にあるHMD12のハウジング30の、二点鎖線で示す外形線との交点を通過するように決定される。
【0062】
さらに、図1に示すように、HMD12のうちの実質的な全部が、観察眼16の瞳孔60を通過して前後方向に延びる垂直面の位置より、観察者の両耳のうち観察眼16に近いもの(本実施形態においては、左耳)の側に偏った位置に位置するように、ホルダ14がHMD12を保持する。
【0063】
さらに、図1に示すように、HMD12が、使用位置にあると退避位置にあるとを問わず、水平方向に延びるように、ホルダ14がHMD12を保持する。さらに、HMD12が、観察眼16の瞳孔60を通過する水平面上において、その水平面に沿って延びるように、ホルダ14がHMD12を保持する。
【0064】
以上の説明から明らかなように、本実施形態によれば、HMD12の、観察眼16に対する相対的な位置および向きが最適化されることにより、観察者が、HMD12が観察者の頭部に装着されている状態において、HMD12から受ける閉塞感および圧迫感が軽減される。
【0065】
以上、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明したが、これは例示であり、前記[発明の概要]の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察者に画像を表示する頭部装着型の画像表示装置であって、
画像信号に応じた画像光を観察者の両眼のうちの一方である観察眼に投射するために観察者の頭部に装着される単眼式のヘッドマウントディスプレイ(HMD)と、
観察者の頭部に装着されている被装着部材に装着され、前記HMDを保持するホルダと
を含み、
前記観察眼の視野は、観察者の両眼のうち前記観察眼ではない眼である非観察眼の視野と重なり合う重複領域と、前記非観察眼の視野と重なり合うことなく単独で存在する非重複領域とを有しており、
前記ホルダは、前記HMDのうち前記重複領域内に存在する部分を前記観察眼から見た場合の第1投影面積が、前記HMDのうち前記非重複領域内に存在する部分を前記観察眼から見た場合の第2投影面積以上であるという条件を満たす位置において前記HMDを保持する画像表示装置。
【請求項2】
前記ホルダは、前記被装着部材が眼鏡または眼鏡型フレームであり、かつ、それら眼鏡または眼鏡型フレームに前記HMDが装着されることを想定した場合にそのHMDが前記観察眼に対して接近することとなる距離と実質的に同じ距離で接近するように前記HMDを前記観察眼に対して位置決めする請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項3】
前記HMDは、概して直線的に延びる外形を有するハウジングを備えている請求項1または2に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記ホルダは、前記HMDを、水平方向に延びる姿勢で保持する請求項3に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記ホルダは、前記HMDを、前記観察眼の瞳孔を通過する水平面上において、その水平面に沿って延びる姿勢で保持する請求項4に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記ホルダは、前記HMDのうちの実質的な全部が、前記観察眼の瞳孔を通過して前後方向に延びる垂直面の位置より、観察者の両耳のうち前記観察眼に近いものの側に偏った位置に位置するという条件を満たす位置において前記HMDを保持する請求項1ないし5のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項7】
前記HMDは、入射光を2次元空間的に変調して前記画像光を生成する空間変調素子と、その空間変調素子から出射する前記画像光が通過する複数の光学素子と、前記画像信号に応じて空間変調素子を駆動する駆動回路とを含む複数の部品が前記ハウジング内に収容されることによって構成されており、
前記複数の部品は、前記ハウジングの長手方向に沿って一次元配列を成している請求項1ないし6のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項8】
前記駆動回路および前記空間変調素子は、いずれも、平面板状を成しており、
前記駆動回路は、前記一次元配列の両端部のうちの一方に配置されるとともに、前記ハウジングの両端部のうち、対応する端部に配置され、
前記駆動回路および前記空間変調素子は、互いに正対する姿勢で配置されている請求項7に記載の画像表示装置。
【請求項9】
前記画像光は、前記ハウジングの両端部のうち、前記駆動回路が配置されている端部とは反対側の端部から出射し
前記HMDは、さらに、前記ハウジングから出射する前記画像光を曲げて前記観察眼に誘導する反射部材を含み、
その反射部材は、前記ハウジングの、前記反対側の端部に装着されている請求項8に記載の画像表示装置。
【請求項10】
前記非重複領域は、その非重複領域の後方限界線が、前記観察眼の補助視覚の後方限界線に実質的に一致するように設定される請求項1ないし9のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項11】
前記ホルダは、前記HMDが、前記観察眼の前方に位置する使用位置と、前記観察眼の前方位置から退避した退避位置との間において回動可能であるように前記HMDを保持し、
前記使用位置と前記退避位置とのいずれも、前記条件を満たすように設定される請求項1ないし10のいずれかに記載の画像表示装置。
【請求項12】
前記被装着部材は、観察者の前側において、観察者の頭部の左側面に接する左端垂直面と、右側面に接する右端垂直面との間を延びるフロント部を有し、
前記ホルダは、前記HMDを、前記フロント部の左右端部のうち前記観察眼に近いものに配置された軸線まわりに回動可能に保持する請求項11に記載の画像表示装置。
【請求項13】
前記ホルダは、前記HMDを、垂直軸線まわりに回動可能に保持する請求項11または12に記載の画像表示装置。
【請求項14】
観察者に画像を表示する頭部装着型の画像表示装置であって、
画像信号に応じた画像光を観察者の両眼のうちの一方である観察眼に投射するために観察者の頭部に装着される単眼式のヘッドマウントディスプレイ(HMD)と、
観察者の頭部に装着されている被装着部材に装着され、前記HMDを保持するホルダと
を含み、
観察者の両眼の2つの瞳孔を同時に通過して垂直に延びる基準面が設定されており、
前記ホルダは、前記HMDの全体が前記基準面より前方の領域に存在するという条件を満たす位置において前記HMDを保持し、それにより、観察者が、前記HMDの装着状態において、そのHMDの物理的存在から受ける閉塞感を軽減する画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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