説明

顔料ペースト混合物組成の決定方法

【課題】メーキャップ化粧品として同一色を維持するための色合わせを簡便に実施できる方法を提供する。
【解決手段】原化粧料に対して少なくとも一つの顔料又は顔料ペーストが異なる新たな化粧料を原化粧料に色合わせするための組成を決定するにあたり、原化粧料における顔料ペースト混合物の光学スペクトル(目標光学スペクトルという)と、新たな化粧料で使用する顔料又は顔料ペーストを原顔料ペースト混合物の組成に基づいて配合した調色顔料ペースト混合物の光学スペクトル(以下、調色開始光学スペクトルという)を測定し、これらの差が所定の範囲を超える場合には、新たな化粧料で使用する顔料又は顔料ペーストの光学スペクトル(以下、顔料ペースト光学スペクトルという)を測定し、目標光学スペクトルと顔料ペースト光学スペクトルとに基づいて、目標光学スペクトルを有することとなる顔料ペースト混合物の組成を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配合する顔料ペーストの調合により化粧料を色合わせする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
口紅などのメーキャップ用の化粧品においては、色が重要な製品性能である。多くの場合、消費者は見本品や試供品を見て、購入する色を番号や記号などで指定する。従って、同じ番号や記号が付された製品の化粧料は同色に維持されていることが求められる。
【0003】
そこで、従来より、化粧料の色を所定の範囲に維持するために、抜き取り検査が行われ、検査品と限度見本との肉眼による対比や、各種測定器による測色が行われている。
【0004】
通常、抜き取り検査で異常が認められることはないが、原料のバルクのロットが変わったり、品番の変更等により異常が認められた場合には、配合組成の変更と、限度見本との対比や測色を、化粧料が目標とする色となるまで繰り返して新たに配合組成を決定し直すという作業が行われる。そのため、新たな配合組成が決定するまでの間、製品の製造を数時間から数日間中止しなければならない場合がある。
【0005】
一方、特許文献1などにみられるように、電子計算機により、原料とする各成分の色と目標色とから、各成分の比を求めるCCM(コンピュータカラーマッチング)が試みられている。
【0006】
CCMは、原料とする各成分の色と目標色とから、目標色を生成する各成分の配合比を連立方程式で求める方法であり、塗料やインキなどでは一定の成果が挙げられている。
【0007】
【特許文献1】特開2001−258640号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、口紅などのメーキャップ化粧品において、例えば、顔料ペーストのロットや品番が変わった場合に、色振れを防止するためにCCMを用いて色合わせを行うときには、微妙な色艶の差異も問題となるため、顔料等の色材だけでなく、オイルやワックス等も含む全ての原料成分についてそれぞれ測色データをとり、また、メーキャップ化粧品の実製品についても測色データをとり、それらの測色データに基づいて色合わせをする必要があり、多くの時間が費やされる。
【0009】
また、製品の色合わせはできても、実際に肌の上などに塗布すると、そのときの発色が異なったものとなることもあり、その場合は、再度試行錯誤を繰り返すことが必要とされる。そのため、色合わせをより簡便に行える新たな手法が求められていた。
【0010】
本発明は、メーキャップ化粧品として同一色を維持するための色合わせを、より簡便に実施できると共に、実際に塗布したときの発色も色の差が出にくいようにする新たな色合わせの手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するため、本発明は、原化粧料に対して少なくとも一つの顔料又は顔料ペーストが異なる新たな化粧料を原化粧料に色合わせするための組成の決定方法であって、
原化粧料で使用する、複数種の顔料又は顔料ペーストから調製した顔料ペースト混合物の光学スペクトル(以下、目標光学スペクトルという)を測定し、
新たな化粧料で使用する顔料又は顔料ペーストを原顔料ペースト混合物の組成に基づいて調製することにより調色顔料ペースト混合物を得、その調色顔料ペースト混合物の光学スペクトル(以下、調色開始光学スペクトルという)を測定し、
調色開始光学スペクトルと目標光学スペクトルとの差が所定の範囲内の場合には、調色顔料ペースト混合物の組成を、新たな化粧料の顔料ペースト混合物の組成とし、
調色開始光学スペクトルと目標光学スペクトルとの差が所定の範囲を超える場合には、新たな化粧料で使用する各顔料又は顔料ペーストの光学スペクトル(以下、顔料ペースト光学スペクトルという)を測定し、目標光学スペクトルと各顔料ペースト光学スペクトルとに基づいて、調色顔料ペースト混合物が目標光学スペクトルを有するように調色顔料ペースト混合物の組成を算出し、得られた調色顔料ペースト混合物の組成を、新たな化粧料での顔料ペースト混合物の組成とする方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、原料である顔料成分のバルクのロットや品番等の変更にかかわらず、化粧料自体の色や化粧料を肌等に塗布したときの色を、簡便な手法で同一に維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を、口紅の色を調整する場合を例として具体的に説明する。
【0014】
本例で示す口紅は、図1に示すように、顔料のオイル分散物である顔料ペーストの複数種(顔料ペースト1、顔料ペースト2、…、顔料ペースト6)をミキサーで混合して顔料ペースト混合物とし、この顔料ペースト混合物と、必要に応じて添加するオイルとパール剤とを、加熱し溶融化したワックス分に加え、型に流し込み冷却することで製造する。ここで、各顔料ペーストとしては、予め、顔料とオイルを予備混合機で分散させたものを使用する。
【0015】
図2は、目標色を呈する口紅であって、色材として顔料ペーストを用いた口紅が原製品として存在する場合に、原製品たる口紅に対して少なくとも一つの顔料ペーストが異なる新たな口紅を、本発明の方法により原製品に色合わせして製造する場合の配合組成の決定方法の流れ図である。
【0016】
この口紅の当初の製品設計時の目標色は、顔料ペーストその他の各成分の配合組成を適宜変更した試作を繰り返し調製し、口紅自体の色と実際に口紅を人工皮膚に塗って伸ばした色を調べることにより特定色に定める。
【0017】
この目標色については、限度見本を作製するか、あるいは後の製品との色差ΔEをとれるようにLab等を測定して記録しておくことが好ましい。
【0018】
また、製品としての色の同一性を本発明の方法により維持するため、予め、製品の光学スペクトルとは別に、目標色を得たときの顔料ペースト混合物の光学スペクトル(目標光学スペクトル)を測定しておく。
【0019】
即ち、まず、目標色を得たときの顔料ペースト(即ち、顔料ペースト1、顔料ペースト2、…、顔料ペースト6)を、目標色を得たときの組成(以下、原顔料ペースト混合物組成という)で混合したもの(以下、顔料ペースト混合物という)を調製する。この場合、各顔料ペーストは、目標色を得たときと同一ロットのものとする。また、この顔料ペースト混合物には、顔料ペースト混合物の成分ではないワックス等は配合しない。
【0020】
顔料ペースト混合物の調製においては、顔料が均一に分散するように、人手でガラス板やすり鉢などを用いて顔料ペーストを混合しても良いが、時間がかかるので、遊星式撹拌ミキサーで60秒間以上混練することが好ましい。
【0021】
次に、得られた顔料ペースト混合物の光学スペクトルを測定し、その測定結果を目標光学スペクトルとする。より具体的には、例えば、顔料ペースト混合物を所定のカラムに入れて分光計で計測し、各波長における反射率(Ref)及び吸収率(Abs)を350nmから700nmまで10nm毎に合計36波長で計測する。こうして得られる、都合72個の数値の組を目標光学スペクトルとする。目標光学スペクトルは36×2次元の配列を持つベクトル量である。
【0022】
口紅の製造を続けるにあたり、全ての顔料ペースト(顔料ペースト1、顔料ペースト2、…、顔料ペースト6)を当初と同じロットのバルク(生産ロット)から得ている場合は、原料の配合組成は当初の配合組成に従う。そこで、製品が目標色の範囲にあるかを抜き取り検査で検証する。なお、抜き取り検査では、色差(ΔE)等を測定することが好ましい。
【0023】
抜き取り検査で異常がでることは通常無いが、同じバルクでも何らかの原因で大きな偏差が生じることもある。また、いずれかの顔料ペーストのバルクのロットが変わった場合や品番が変わった場合にも異常がでることがある。
【0024】
一例として、顔料ペースト2のバルクのロットに変更があり、顔料ペースト2が顔料ペースト2’に変更になったとする。このバルク変更後の新たな口紅の調色開始時の配合組成は、当初の口紅の組成に基づいて定められ、まずは、当初の口紅の組成において、顔料ペースト2を顔料ペースト2’に代えたものとする。そして、この組成での新たな口紅の色と当初の口紅の色との同一性を調べるために、前述の顔料ペースト混合物と同様に、顔料ペースト1、顔料ペースト2’、…、顔料ペースト6を混合した調色顔料ペースト混合物を調製する。この段階で、顔料ペースト以外のワックス等も配合して口紅の調製まで行うことは不要である。
【0025】
次に、調製した調色顔料ペースト混合物の光学スペクトルを、顔料ペースト混合物の光学スペクトルを測定した場合と同様に測定する。具体的には、調色顔料ペースト混合物について、350nmから700nmまで10nm毎に合計36波長で反射率(Ref)及び吸収率(Abs)を計測し、調色開始光学スペクトルを得る。
【0026】
そして、調色開始光学スペクトルと目標光学スペクトルとを対比し、その色差がΔE1.0以内、好ましくは0.5以内であれば、実質的にこれらは一致しており、調色は不要である。したがって、調色顔料ペースト混合物における顔料ペーストの配合組成を、新たな口紅の顔料ペースト組成として維持する。
【0027】
調色開始光学スペクトルと目標光学スペクトルデータとの差が上記の範囲を超える場合には、実質的にもこれらは一致しているとはいえない。そこで、調色顔料ペースト混合物の調製に用いた各顔料ペーストの光学スペクトルを、顔料ペースト混合物の光学スペクトルを測定した場合と同様に測定して顔料ペースト光学スペクトルを得、目標光学スペクトルデータと顔料ペースト光学スペクトルに基づいて、調色顔料ペースト混合物の光学スペクトルが目標光学スペクトルとなるように各顔料ペーストの配合組成を算出し、得られた顔料ペースト混合物の組成を、新たな口紅での顔料ペースト混合物の組成とし、新たな口紅の組成を決定する。この新たな口紅の組成において、顔料ペースト混合物(各顔料ペーストの合計量)、必要に応じて添加するオイル、パール剤及びワックスの配合比率は、当初の口紅のまま維持する。
【0028】
こうして決定した組成で口紅を調製し、その口紅の色が目標色となっているか否かを検査し、色差(ΔE)が1.0以下であることを確認する。
【0029】
以上のように、この方法によれば、顔料ペースト2のバルクのロットが変更になった場合や品番が変更になった場合に、変更後の顔料ペースト2’を用いて口紅まで製造することなく、顔料ペースト混合物の段階で色合わせをするので、簡便に色合わせをすることができる。また、顔料ペースト2’以外の原料成分については原化粧料の成分をそのまま使用し、さらに、顔料ペースト以外の成分については組成も原化粧料に対して変更がない。したがって、生産ラインでの各原料の調整が容易であり、また、実際に唇に口紅を塗布したときの発色状態も、当初の口紅と同様となる。
【0030】
なお、原化粧料の製造で使用する個々の顔料ペーストが、顔料とオイルに加えてワックスも含有する場合には、顔料ペースト由来のワックスも含有する顔料ペースト混合物で、原化粧料と新たな化粧料との色合わせを行う。
【0031】
また、原化粧料の製造過程において、顔料ペースト混合物を、複数種の顔料ペーストの混合により得ることなく、複数種の顔料とオイルとの混合により、あるいは必要に応じてワックスも添加して得る場合には、そうして得られる顔料ペースト混合物について、原化粧料と新たな化粧料との色合わせを行う。
【0032】
本発明の方法を適用する化粧料は、口紅の他、ファンデーション、チーク、アイシャドウ等の色が重要な製品性能となるメーキャップ化粧品をあげることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0034】
表1の原料成分を、表2の調色基準の配合組成で混練することにより、目標色を呈する口紅を得た。
【0035】
次に、顔料ペースト1に使用した顔料のバルクのみをバルクaからバルクbに変更して調製した顔料ペースト1〜顔料ペースト6を混合した顔料ペースト混合物を調製した(調色1)。そして、この顔料ペースト混合物と、調色基準とする口紅の顔料ペースト混合物との色差を測定したところ、2.92であった。また、顔料ペースト混合物の外観色について、目視により次の基準で評価したところ、「×」評価であった。
【0036】
即ち、4名の口紅の調色技術者が、それぞれ次の4段階で評価した場合の、最多数の評価段階を評価結果とした。
◎;調色基準の口紅との違いが判別できない
○;調色基準の口紅との違いは認められるが、色調が異なるものではなく許容範囲
△;調色基準の口紅と色調が異なり、製品としては不合格
×;明らかに色が異なる
【0037】
次に、調色基準とする口紅の顔料ペースト混合物の光学スペクトル(目標光学スペクトル)と、調色1の顔料ペーストの光学スペクトル(顔料ペースト光学スペクトル)のそれぞれについて波長350〜700nmにおける10nm毎の反射率(Ref)と吸収率(Abs)を分光測色機により測定し、それらの測定値に基づいて、各顔料ペーストを混合して目標光学スペクトルを得るための顔料ペーストの配合組成を算出し、その配合組成における各顔料ペーストの配合比率を調色2とした。
【0038】
この調色2の顔料ペースト混合物と、調色基準とする口紅の顔料ペースト混合物との色差を測定したところ、0.61であり、目視による外観色の評価も「◎」評価であった。
【0039】
そこで、顔料ペーストの組成を、この調色2の顔料ペースト組成とする他は、調色基準とする口紅と同様にして調色2の口紅を製造し、その口紅と調色基準とする口紅との色差を測定したところ、0.79であった。また、各口紅製品の外観色と、各口紅を唇に塗布した場合の塗布色について、前述と同様の基準で評価したところ、いずれも「◎」評価であった。
【0040】
このように本発明の方法によれば、オイル、ワックス、パール剤の組成を変えることなく、顔料ペーストの組成を調整するだけで、製品の外観色も塗布色も同一の口紅を製造することができる。
【0041】
【表1】




















【0042】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、口紅、ファンデーション、チーク、アイシャドウ等のメーキャップ化粧品色について、色の同一性を維持しつつそれらを生産する技術として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】口紅の製造方法の流れ図である。
【図2】配合組成の決定方法の流れ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原化粧料に対して少なくとも一つの顔料又は顔料ペーストが異なる新たな化粧料を原化粧料に色合わせするための組成の決定方法であって、
原化粧料で使用する、複数種の顔料又は顔料から調製した顔料ペースト混合物の光学スペクトル(以下、目標光学スペクトルという)を測定し、
新たな化粧料で使用する顔料又は顔料ペーストを原顔料ペースト混合物の組成に基づいて調製することにより調色顔料ペースト混合物を得、その調色顔料ペースト混合物の光学スペクトル(以下、調色開始光学スペクトルという)を測定し、
調色開始光学スペクトルと目標光学スペクトルとの差が所定の範囲内の場合には、調色顔料ペースト混合物の組成を、新たな化粧料の顔料ペースト混合物の組成とし、
調色開始光学スペクトルと目標光学スペクトルとの差が所定の範囲を超える場合には、新たな化粧料で使用する各顔料又は顔料ペーストの光学スペクトル(以下、顔料ペースト光学スペクトルという)を測定し、目標光学スペクトルと各顔料ペースト光学スペクトルとに基づいて、調色顔料ペースト混合物が目標光学スペクトルを有するように調色顔料ペースト混合物の組成を算出し、得られた調色顔料ペースト混合物の組成を、新たな化粧料での顔料ペースト混合物の組成とする方法。
【請求項2】
顔料ペーストが、顔料のオイル分散物である請求項1記載の方法。
【請求項3】
顔料ペーストが、それぞれ顔料とオイルを遊星式撹拌ミキサーで混練したものである請求項1又は2記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−91390(P2010−91390A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261024(P2008−261024)
【出願日】平成20年10月7日(2008.10.7)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】