説明

顔料分散液の製造方法、顔料分散液、及びインクジェット用顔料インク

【課題】良好な吐出特性を示し、保存安定性に優れ、かつ低粘性の顔料分散液及びインクジェット用顔料インクを提供すること。
【解決手段】酸性基を有する樹脂で分散された顔料を含有するインクジェット用顔料分散液の製造方法において、酸性基を有する樹脂と、顔料と、塩基とを含む混合物を分散する分散工程、該分散工程により得られた分散液に、分散液中の塩基の総モル数が該樹脂の酸性基の総モル数に対して過剰になるように塩基を添加する塩基添加工程、及び該塩基添加工程により得られた分散液から過剰な塩基の少なくとも一部を除去する工程を有することを特徴とするインクジェット用顔料分散液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インク及びその製造方法に関し、具体的には吐出特性や保存安定性に優れ、かつ低粘性化が可能な顔料分散液、インクジェット用顔料インク及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は比較的簡単な装置で高精細な画像の記録が可能であり、各方面で急速な発展を遂げている。広範囲の分野でインクジェット記録方式を採用したプリンターが製造されており、また、その使用用途に応じてインクの種類も多岐に及んでいる。
【0003】
従来、インクジェット記録用に用いるインクの着色剤として水溶性の染料が多く用いられてきた。しかし、このような染料系インクを使用して印字を行った場合、次の如き課題があった。すなわち、色の重ね合わせ時ににじみが生じたり、記録媒体上の記録箇所に紙の繊維方向にフェザリングと言われる現象が生じたり、耐光性が悪いため、記録部分に光が当ると色調変化や濃度低下が発生するという課題があった。これらを改善するために顔料分散インクを使用することが、特許文献1に開示されている。
【0004】
顔料を用いたインクジェット用インクは、水不溶性である顔料を、水性媒体に分散して得られる。一般的には顔料及び水溶性高分子などを分散剤として、水性溶媒に添加し、サンドミルやビーズミルなどの分散機を使用して、顔料粒径を微細化する方法が行われている。しかし、顔料インクは、染料インクと比較してインクの保存安定性や吐出安定性に劣り、満足な顔料インクが得られていない。
【0005】
一方、インクジェット用顔料インクの保存安定性や吐出安定性を向上させる技術としては、分散剤として使用する水溶性高分子の含有量を増やす方法などが一般に知られている。しかし、水溶性高分子などの樹脂の含有量を増やすことによって、インクの保存安定性や吐出安定性は向上するが、インクの粘度が増大し、高速印字時に問題を発生させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第5,085,698号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、良好な吐出特性を示し、保存安定性に優れ、かつ低粘性の顔料分散液及びインクジェット用顔料インクを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は以下の本発明によって達成される。すなわち、本発明の第一は、酸性基を有する樹脂で分散された顔料を含有するインクジェット用顔料分散液の製造方法において、酸性基を有する樹脂(以下「分散樹脂」という場合がある)と、顔料と、塩基とを含む混合物を分散する分散工程、該分散工程により得られた分散液に、分散液中の塩基の総モル数が該樹脂の酸性基の総モル数に対して過剰になるように塩基を添加する塩基添加工程、及び該塩基添加工程により得られた分散液から過剰な塩基の少なくとも一部を除去する塩基除去工程を有することを特徴とするインクジェット用顔料分散液(以下単に「顔料分散液」又は「分散液」という場合がある)の製造方法である。
【0009】
本発明の第二は、酸性基を有する樹脂で分散された顔料を含有するインクジェット用顔料分散液の製造方法において、酸性基を有する樹脂と、顔料と、該樹脂の酸性基の総モル数に対して過剰なモル数の塩基とを含む混合物を分散する分散工程、及び該分散工程により得られた分散液から過剰な塩基の少なくとも一部を除去する塩基除去工程を有することを特徴とするインクジェット用顔料分散液の製造方法である。
【0010】
本発明の第三は、前記の第一発明及び第二発明の製造方法に製造された顔料分散液である。
本発明の第四は、前記の第三発明の顔料分散液を用いて製造されたインクジェット用顔料インク(以下単に「インク」という場合がある)である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、優れた保存安定性や吐出特性を示し、さらに、粘性が低いインクジェット用顔料分散液及びインクジェット用顔料インクを製造することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す縦断面図である。
【図2】インクジェット記録装置のヘッドの一例を示す横断面図である。
【図3】図1に示したヘッドをマルチ化したヘッドの外観斜視図である。
【図4】インクジェット記録装置の一例を示す概略斜視図である。
【図5】インクカートリッジの一例を示す縦断面図である。
【図6】記録ユニットの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。従来のインクにおいて、保存安定性や吐出安定性を向上させるためにイオン性の分散樹脂を添加すると、インクの粘度の増加が起こる。これはインク溶液中で分散樹脂の分子鎖が大きく広がっていること、及びカルボキシル基のような酸性基が分散樹脂間の水素結合を形成することによって生じる。
【0014】
このことから、酸性基を有する分散樹脂間の水素結合をできるだけ少なくすること、つまり分散樹脂の酸性基の総モル数をできる限り中和し、水素結合を形成させにくくすることが顔料分散液の低粘性化にとって重要である。しかし、分散樹脂が有する酸性基を中和するために当量の塩基を添加しても、高分子の立体効果などにより全ての酸性基を中和することは困難である。特に、分子量が大きく、エチレンオキサイド鎖のような非イオン性の親水部と酸性基とを有する樹脂は、その酸性基の完全な中和が困難である。そこで中和されていない酸性基を最小限にするために、酸性基の総モル数に対して総添加量として過剰となるようなモル数の塩基を加え、より多くの酸性基を中和して粘度を低下させる。その後、顔料分散液やインクの保存安定性やヘッドの部材の耐久性に悪影響を与え得る過剰の塩基を分散液から取り除くことによって、良好な吐出特性を示し、保存安定性に優れ、かつ低粘性の顔料分散液及びインクが製造できるとの知見を得て、本発明に至った。
【0015】
本発明の顔料分散液及びインクの着色剤としては顔料が用いられる。顔料としては、従来公知の有機及び無機顔料が使用できる。例えば、無機顔料としては、酸化チタン及び酸化鉄、コンタクト法、ファーネスト法、又はサーマル法などの公知の方法によって製造されたカーボンブラックを利用することができる。また、有機顔料としては、アゾ顔料、例えば、アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、又はキレートアゾ顔料;多環式顔料、例えば、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ベリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料が挙げられる。また、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、又はキノフタロン顔料;染料キレート、例えば、塩基性染料型キレート、又は酸性染料型キレート;ニトロ顔料、ニトロソ顔料、又はアニリンブラックなどが挙げられる。これらの顔料のうち、水と親和性の低い顔料を用いるのが好ましい。
【0016】
より具体的には、黒色インク用顔料として、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、若しくはチャンネルブラックなどのカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類が挙げられる。また、銅酸化物、鉄酸化物(C.I.ピグメントブラック11)、若しくは酸化チタンなどの金属類、アニリンブラック(C.I.ピグメントブラック1)などの有機顔料を挙げられる。
【0017】
さらに、カラーインク用顔料としてはC.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG)、3、12(ジスアゾイエローAAA)、13、14、17、23、24、34、35、37、42(黄色酸化鉄)。53、55、74、81、83(ジスアゾイエローHR)、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、128、138、153;C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17。22(ブリリアントファーストスカーレット)、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3(パーマネントレッド2B(Sr))、48:4(パーマネントレッド2B(Mn))。49:1、52:2、53:1、57:1(ブリリアントカーミン6B)、60:1、63:1、63:2、64:1、81(ローダミン6Gレーキ)、83、88、92、101(べんがら)、104、105、106、108(カドミウムレッド)。112、114、122(キナクリドンマゼンタ)、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219。又はC.I.ピグメントブルー1、2、15(フタロシアニンブルーR)、15:1、15:2、15:3(フタロシアニンブルーG)、15:4、15:6(フタロシアニンブルーE)、16、17:1、56、60、63;などが挙げられる。前記の顔料は1種類で用いられるか、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0018】
前記顔料の含有量は、顔料分散液又はインク全体の、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましく、0.5質量%以上5質量%以下である。含有量を0.1質量%以上にすることにより、インクによる充分な印字濃度を確保することができ、含有量を10質量%以下にすることにより、分散液又はインクの粘度特性に構造粘性を生じさせずに、一層充分な吐出安定性を確保することができる。また、含有量を0.5質量%以上5質量%以下とすることにより、特にインクの吐出安定性を向上させることができる。
【0019】
また、前記顔料の粒径は、特に限定されるものではないが、粒径(平均粒径)は、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは100nm以下である。粒径が0.5μm以下の顔料を用いることにより、インクの目詰まりの発生を抑制することができ、一層充分なインクの吐出安定性を実現することができる。また、顔料の平均粒径は、光散乱法、電気泳動法、レーザードップラー法などを用いた市販の粒径測定機器により求めることができる。
【0020】
本発明に用いる顔料を分散する分散樹脂としては、酸性基を有するものであればいずれのものでも使用可能である。具体的には、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステルなど、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸。イタコン酸誘導体、フマール酸、フマール酸誘導体から選ばれた少なくとも2つの単量体(このうち少なくとも1つは酸性基を有する単量体)からなるブロックポリマー、或いは、ランダム、グラフトポリマー、また、これらの塩などが望ましい。より望ましくは、疎水性ブロックセグメント及び親水性セグメントを有し、ミセル形成しやすい構造である。さらに望ましくは疎水性セグメント(Aセグメント)、非イオン性親水セグメント(Bセグメント)及び酸性基を有するセグメント(Cセグメント)がこの順に並ぶ構造を有するABCトリブロックポリマーである。なお、ブロックポリマーとは異なる繰り返し単位構造からなるポリマーセグメントが共有結合で結合したポリマーで、ブロックコポリマー、ブロック共重合体とも呼ばれる。
【0021】
また、分散樹脂として、後述するポリビニルエーテル構造を繰り返し単位構造として含有するトリブロックポリマーなどが好適に用いられる。これらの分散樹脂は、塩基を溶解させた水溶液に可溶で、アルカリ可溶型樹脂である。なお、前記分散樹脂は分散液又はインク全量に対して0.1質量%以上10質量%以下の範囲で含有されることが好ましい。
【0022】
上記ブロックポリマーの酸性基を有するブロックセグメント(Cセグメント)の具体的構造としては下記の一般式(1)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0023】

【0024】
(式中、R0は−X−(COOH)r、−X−(COO−M)r又は−X2−(COO)2−M2を表す。Xは炭素数1乃至20までの直鎖状、分岐状又は環状のアルカンジイル若しくはアルカントリイル基を表す。また、Xは−(CH(R5)−CH(R6)−O)p−(CH2m−CH3-r−若しくは−(CH2m−(O)n−(CH2q−CH3-r−、又はそれらのメチレン基の少なくとも一つがカルボニル基又は芳香環構造で置換された構造を表す。rは1乃至2を表す。X2はXのうちrが2の基を表す。pは1乃至18までの整数を表す。mは0乃至35までの整数を表す。nは1又は0を表す。qは0乃至17の整数を表す。Mは一価のカチオンを表す。M2は二価のカチオンを表す。R5及びR6はアルキル基を表す。R5、R6は同じでも又は異なっていてもよい。)
【0025】
さらに上記ブロックポリマーの疎水性セグメント(Aセグメント)或いは非イオン性の親水セグメント(Bセグメント)の繰り返し単位の具体例としては、下記の一般式(2)で表される繰り返し単位が挙げられる。
【0026】

【0027】
(式中、R1は炭素数1乃至18までの直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−(CH(R5)−CH(R6)−O)p−R7及び−(CH2m−(O)n−R7から選ばれる。芳香環中の炭素原子に結合している水素原子は炭素数1乃至4の直鎖状又は分岐状のアルキル基と、又、芳香環中の炭素原子は窒素原子とそれぞれ置換していてもよい基を表す。pは1乃至18の整数、mは1乃至36の整数、nは0又は1を表す。R5及びR6はそれぞれ独立に水素原子若しくは−CH3を表す。R5及びR6が複数ある場合はそれぞれ同じでも異なっていてもよい。R7は水素原子、炭素数1乃至18までの直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、−Ph、−Pyr、−Ph−Ph、−Ph−Pyr、−CHO、−CH2CHO、−CO−CH=CH2及び−CO−C(CH3)=CH2から選ばれる。R7が水素原子以外である場合、R7中の炭素原子に結合している水素原子は炭素数1乃至4の直鎖状又は分岐状のアルキル基又は−F、−Cl、−Brと、また、芳香環中の炭素原子は窒素原子とそれぞれ置換することができる。Phはフェニル基、Pyrはピリジル基を表わす。)
【0028】
さらに前記ブロックポリマーの酸性基を有するブロックセグメント(Cセグメント)を構成する一般式(1)で表される繰り返し単位構造の具体例を以下に挙げる。
【0029】

【0030】

【0031】
前記ブロックポリマーの疎水性セグメント(Aセグメント)を構成する一般式(2)で表される繰り返し単位構造の具体例としては、以下に記載したものが挙げられる。
【0032】

【0033】
前記ブロックポリマーの非イオン性の親水セグメント(Bセグメント)を構成する一般式(2)で表される単位構造の具体例としては以下に記載したものが挙げられる。
【0034】

【0035】
また、本発明に用いるブロックポリマーの各ブロックセグメントは、単一の繰り返し単位からなるものでもよく、複数の繰り返し単位構造からなるものでもよい。複数の繰り返し単位からなるブロックセグメントの例としては、ランダムポリマーや徐々に組成比が変化するグラデュエイションポリマーがある。また、本発明に用いるブロックポリマーは、ブロックポリマー構造が他のポリマーにグラフト結合したポリマーであってもよい。
【0036】
前記ブロックポリマー中に含有される一般式(1)或いは一般式(2)で表される繰り返し単位構造の含有量は、ブロックポリマー全体に対して0.01mol%以上99mol%以下、好ましくは1mol%以上90mol%以下の範囲が望ましい。含有量が0.01mol%未満では分散樹脂の酸性基或いは疎水性官能基或いは非イオン性親水基の働くべき高分子相互作用が不充分な場合があり、含有量が99mol%を超えると逆に上記相互作用が働きすぎて分散樹脂の機能が不充分な場合がある。
【0037】
本発明に用いるブロックポリマーの数平均分子量(Mn)は、200以上10,000,000以下であり、好ましく用いられる範囲としては1,000以上1,000,000以下である。分子量が10,000,000を超えると、高分子鎖内及び高分子鎖間の絡まりあいが多くなりすぎ、分散樹脂が溶剤に分散しにくかったりする。一方、分子量が200未満である場合、分子量が小さく高分子としての立体効果が出にくかったりする場合がある。各ブロックセグメントの好ましい重合度は、3以上10,000以下である。さらに好ましくは5以上5,000以下である。さらに好ましくは10以上4,000以下である。
【0038】
また、顔料の分散安定性向上や包接性(内包性)向上のためには、ブロックポリマーの分子運動性がよりフレキシブルであることが好ましい。ブロックポリマーの分子運動性がフレキシブルであることによって、ブロックポリマーが顔料の表面と物理的に絡まり親和しやすい点を有しているからである。さらには、後に詳述するようにインクが記録媒体上で被覆層を形成しやすい点でもフレキシブルであることが好ましい。このためには、樹脂の主鎖のガラス転移温度Tgは、好ましくは40℃以下であり、より好ましくは0℃以下であり、さらに好ましくは−20℃以下である。この点でもポリビニルエーテル構造を有するポリマーは、一般にガラス転移点が低く、フレキシブルな特性を有するため、好ましく用いられる。上記した繰り返し単位構造例の場合、そのガラス転移温度は−20℃くらいか、それ以下である場合が多い。
【0039】
本発明において好ましく用いられるポリビニルエーテル繰り返し単位構造を有するブロックポリマーの重合は、主にカチオン重合で行われることが多い。開始剤としては、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸、過塩素酸などのプロトン酸が例として挙げられる。また、BF3、AlCl3、TiCl4、SnCl4、FeCl3、RAlCl2、R1.5AlCl1.5(Rはアルキルを示す)などのルイス酸とカチオン源の組み合わせが例として挙げられる。該組み合わせのカチオン源としてはプロトン酸や水、アルコール、ビニルエーテルとカルボン酸の付加体などが挙げられる。
【0040】
これらの開始剤を重合性化合物(モノマー)と共存させることにより重合反応が進行し、ブロックポリマーを合成することができる。本発明において好ましく用いられるポリビニルエーテル繰り返し単位構造を有するブロックポリマーは、より好ましくはポリビニルエーテル繰り返し単位構造が50mol%以上、好ましくは70mol%以上、さらに好ましくは90mol%以上含有する。
【0041】
さらに好ましく用いられるブロックポリマーの重合方法について説明する。ポリビニルエーテル構造を含むポリマーの合成法は多数報告されている。例えば、特開平11−080221号公報、青島らによるカチオンリビング重合による方法(ポリマーブレタン誌 15巻、1986年、417頁)、特開平11−322942号公報、特開平11−322866号公報が代表的である。カチオンリビング重合でポリマー合成を行うことにより、ホモポリマーや2成分以上のモノマーからなる共重合体が得られる。さらにはブロックポリマー、グラフトポリマー、グラデュエイションポリマーなどの様々なポリマーを、長さ(分子量)を正確に揃えて合成することができる。また、他にHI/I2系、HCl/SnCl4系などでリビング重合を行うこともできる。
【0042】
本発明の顔料分散液は、前記の顔料及び前記の酸性基を有する分散樹脂を必須成分する。必要に応じてこれに水溶性有機溶剤、界面活性剤などを添加して混合することができる。
また、本発明における分散工程は、サンドミル、パールミル、ダイノーミル、ボールミル、ロールミル、ナノマイザー、ホモジナイザーなどの公知の分散手段を用いることによって行うことができる。
【0043】
本発明においては、前記分散手段での顔料の分散前、又は分散後に、塩基のモル数を分散樹脂が有する酸性基の総モル数に対して過剰となるようにする。使用する塩基としては、従来公知の有機及び無機塩基が使用できる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどの無機塩基や、トリエチルアミン、トリエタノールアミンなどの有機塩基である。水酸化カリウムや水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物がインクの吐出特性の面から好ましい。
【0044】
また、塩基の添加に当っては、あらかじめ塩基を水に溶かした水溶液とし、顔料分散液に添加するのが好ましい。塩基を直接に顔料分散液へ添加すると、顔料分散液中に局所的に極めて高いpH値の部位が短時間ではあるが発生するため、顔料分散液の分散破壊が起こり、顔料の粗大粒子が形成されるので好ましくない。
【0045】
塩基除去工程前の顔料分散液中の塩基量は、分散液のpHが11以上となる量である。好ましくは分散液のpHが11以上13以下、より好ましくはpHが12以上13以下になる量である。分散液のpHが11以上になるまで、塩基を加えることにより、分散樹脂中の酸性基の中和が十分に進み、それ以上の添加に対しては顔料分散液の粘度の低下が起こらなくなる。また、分散液のpHが13以上になるまで塩基を添加すると、分散樹脂の分解の可能性があり好ましくない。
【0046】
さらに、本発明においては、塩基除去工程によって過剰な塩基の少なくとも一部を分散液から取り除く。かかる塩基除去工程は、透析又は限外ろ過によって行われることが好ましい。限外ろ過又は透析に使用する膜孔の大きさはMWCOで300以上5,000未満が好ましい。MWCOが300未満の場合は、塩基の除去にかかる時間が大幅に増え、また、MWCOが5,000以上の場合は、分散樹脂も取り除かれるおそれがある。
【0047】
また、取り除く塩基の量としては、分散液のpHが8以上10以下になるまでの量が好ましい。より好ましくは取り除く塩基の量は、分散液のpHが8.5以上10以下になる量である。さらに好ましくは取り除く塩基の量は、分散液のpHが9以上10以下になる量である。pHが8.5より低くなると分散液の粘度の増加が起こり出し、pHが8より低くなると、分散液の急激な粘度の増加が起こりやすくなるので好ましくない。また、分散液のpHが10以上であると、インクとしたときのインクの保存安定性や、ヘッド部材の耐久性の面から好ましくない。
【0048】
本発明のインクは、塩基を取り除いた前記顔料分散液に、要求されるインク特性に適合するように必要に応じて水、水溶性有機溶剤、界面活性剤などを適宜選択して処方し、混合調製して得られる。
【0049】
本発明のインクは、必要に応じて水溶性有機溶剤を含有してもよい。好ましく用いられる水溶性有機溶媒の例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、セカンダリーブタノール、ターシャリーブタノール、ペンタノール、ヘキサノール。シクロヘキサノール、ベンジルアルコールなど)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール。ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコールなど)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル。エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル。エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル。プロピレングリコールモノフェニルエーテルなど)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、モルホリン、N−エチルモルホリン、エチレンジアミン。ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミンなど)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド。N,N−ジメチルアセトアミドなど)、複素環類(例えば、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2−オキサゾリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンなど)。スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシドなど)、スルホン類(例えば、スルホランなど)、尿素、アセトニトリル、アセトンなどが挙げられる。
【0050】
本発明のインクは必要に応じて界面活性剤を含有してもよい。本発明のインクに好ましく使用される界面活性剤としては、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類などのアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類。アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類などのノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類などのカチオン性界面活性剤が挙げられる。特にアニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。さらに、好ましくはアセチレングリコール類である。
【0051】
本発明のインクは必要に応じてpH緩衝剤を含有してもよい。pH緩衝液は、インクをpH8からpH10に調節することのできる緩衝剤であれば特に限定されない。具体例としては、フタル酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、四ホウ酸ナトリウム、酒石酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン。及び/又はトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸塩などを挙げることができる。その含有量は、ヘッドの部材の耐久性とインクの安定性の観点から、インクが概ねpH8からpH10になる量であるのが好ましい。
【0052】
本発明のインクには、この他に防腐剤、防黴剤、消泡剤、保湿剤、粘度調整剤などを必要に応じて含有してもよい。保湿剤を含有する場合は糖類が好ましく、糖類の例としては、単糖類、二糖類、オリゴ糖類(三糖類及び四糖類を含む)及び多糖類が挙げられる。好ましくはグルコース、マンノース、フルクトース、リボース、キシロース、アラビノース、ガラクトース、アルドン酸、グルシシール、ソルビット、マルトース、セロビオース、ラクトース、スクロース、トレハロース、マルトトリオースなどが挙げられる。
【0053】
また、本発明においては、顔料分散液に塩基を添加し、その後、一部の塩基を取り除きインクを製造するものであるが、塩基を取り除いた後に必要により、最終的なpH値調整の目的でさらに塩基性物質や酸性物質を添加することを排除するものではない。
【0054】
次に、上記した本発明のインクを用いて記録を行うのに好適な、本発明のインクジェット記録装置の一例を以下に説明する。先ず、熱エネルギーを利用したインクジェット記録装置の主要部であるヘッド構成の一例を図1及び図2に示す。
【0055】
図1は、インク流路に沿ったヘッド13の断面図であり、図2は図1のA−B線での切断面図である。ヘッド13はインクを通す流路(ノズル)14を有するガラス、セラミック、シリコン又はプラスチック板などと発熱素子基板15とを接着して得られる。発熱素子基板15は酸化シリコン、窒化シリコン、炭化シリコンなどで形成される保護層16、アルミニウム、金、アルミニウム−銅合金などで形成される電極17−1及び17−2、HfB2、TaN、TaAlなどの高融点材料から形成される発熱抵抗体層18、熱酸化シリコン、酸化アルミニウムなどで形成される蓄熱層19、シリコン、アルミニウム、窒化アルミニウムなどの放熱性のよい材料で形成される基板20よりなっている。
【0056】
上記ヘッド13の電極17−1及び17−2にパルス状の電気信号が印加されると、発熱素子基板15のnで示される領域が急速に発熱する。この表面に接しているインク21に気泡が発生し、その圧力でメニスカス23が突出し、インク21がヘッドのノズル14を通して吐出し、吐出オリフィス22よりインク小滴24となり、記録媒体25に向かって飛翔する。図3には、図1に示したヘッドを多数並べたマルチヘッドの一例の外観図を示す。このマルチヘッドは、マルチノズル26を有するガラス板27と、図1に説明したものと同じような発熱ヘッド28を接着して作られている。
【0057】
図4に、このヘッドを組み込んだインクジェット記録装置の一例を示す。図4において、61はワイピング部材としてのブレードであり、その一端はブレード保持部材によって保持固定されており、カンチレバーの形態をなす。ブレード61は記録ヘッド65による記録領域に隣接した位置に配置され、また、本例の場合、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。
【0058】
62は記録ヘッド65の突出口面のキャップであり、ブレード61に隣接するホームポジションに配置され、記録ヘッド65の移動方向と垂直な方向に移動して、インク吐出口面と当接し、キャッピングを行う構成を備える。さらに、63はブレード61に隣接して設けられるインク吸収体であり、ブレード61と同様、記録ヘッド65の移動経路中に突出した形態で保持される。上記ブレード61、キャップ62及びインク吸収体63によって吐出回復部64が構成され、ブレード61及びインク吸収体63によって吐出口面に水分、塵埃などの除去が行われる。
【0059】
65は、吐出エネルギー発生手段を有し、吐出口を配した吐出口面に対向する記録媒体にインクを吐出して記録を行う記録ヘッド、66は記録ヘッド65を搭載して記録ヘッド65の移動を行うためのキャリッジである。キャリッジ66はガイド軸67と摺動可能に係合し、キャリッジ66の一部はモーター68によって駆動されるベルト69と接続(不図示)している。これによりキャリッジ66はガイド軸67に沿った移動が可能となり、記録ヘッド65による記録領域及びその隣接した領域の移動が可能となる。
【0060】
51は記録媒体を挿入するための給紙部、52は不図示のモーターにより駆動される紙送りローラーである。これらの構成により記録ヘッド65の吐出口面と対向する位置へ記録媒体が給紙され、記録が進行につれて排紙ローラー53を配した排紙部へ排紙される。以上の構成において記録ヘッド65が記録終了してホームポジションへ戻る際、吐出回復部64のキャップ62は記録ヘッド65の移動経路から退避しているが、ブレード61は移動経路中に突出している。その結果、記録ヘッド65の吐出口がワイピングされる。
【0061】
なお、キャップ62が記録ヘッド65の吐出面に当接してキャッピングを行う場合、キャップ62は記録ヘッドの移動経路中に突出するように移動する。記録ヘッド65がホームポジションから記録開始位置へ移動する場合、キャップ62及びブレード61は上記したワイピングの時の位置と同一の位置にある。この結果、この移動においても記録ヘッド65の吐出口面はワイピングされる。上述の記録ヘッドのホームポジションへの移動は、記録終了時や吐出回復時ばかりでなく、記録ヘッドが記録のために記録領域を移動する間に所定の間隔で記録領域に隣接したホームポジションへ移動し、この移動に伴って上記ワイピングが行われる。
【0062】
図5は、記録ヘッドにインク供給部材、例えば、チューブを介して供給されるインクを収容したインクカートリッジの一例を示す図である。ここで40は供給用インクを収納したインク収容部、例えば、インク袋であり、その先端にはゴム製の栓42が設けられている。この栓42に針(不図示)を挿入することにより、インク袋40中のインクをヘッドに供給可能にする。44は廃インクを受容するインク吸収体である。インク収容部としてはインクとの接液面がポリオレフィン、特にポリエチレンで形成されているものが好ましい。
【0063】
本発明で使用されるインクジェット記録装置としては、上述のようにヘッドとインクカートリッジとが別体となったものに限らず、図6に示すようなそれらが一体になったものにも好適に用いられる。図6において、70は記録ユニットであり、この中にはインクを収容したインク収容部、例えば、インク吸収体が収納されており、かかるインク吸収体中のインクが複数オリフィスを有するヘッド部71からインク滴として吐出される構成になっている。インク吸収体の材料としてはポリウレタンを用いることが本発明にとって好ましい。また、インク吸収体を用いず、インク収容部が内部にバネなどを仕込んだインク袋であるような構造でもよい。72はカートリッジ内部を大気に連通させるための大気連通口である。この記録ユニット70は図4に示す記録ヘッド65に換えて用いられるものであって、キャリッジ66に対して着脱自在になっている。
【実施例】
【0064】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の実施態様はこれらに限定されるものではない。なお、以下の記載で「部」又は「%」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。また、残部とは、全体を100部とし、各成分を差し引いた残りをいう。
【0065】
<合成例1>
[分散樹脂Aの合成]
3元ブロックポリマー−{[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Ph−Ph)]0.5−[CH2−CH(O−CH2−CH(CH32)]0.583−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−OCH3)]41−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Ph−COOH)]10−をアルミニウム触媒を用いたリビングカチオン重合により合成した。
【0066】
具体的には、三方活栓を取り付けたガラス容器内を窒素置換した後、窒素ガス雰囲気下250℃に加熱し吸着水を除去した。系を室温に戻した後、二種類のAブロックモノマーをそれぞれ2.5mmol(ミリモル)、酢酸エチル16mmol、1−イソブトキシエチルアセテート0.05mmol、及びトルエン11mlを加え、反応系を冷却した。系内温度が0℃に達したところでエチルアルミニウムセスキクロリド(ジエチルアルミニウムクロリドとエチルアルミニウムジクロリドとの等モル混合物)を0.2mmol加え重合を開始した。分子量を時分割に分子ふるいカラムクロマトグラフィー(GPC)を用いてモニタリングし、Aブロックの重合の完了を確認した。
【0067】
次いで、Bブロックのモノマーを2.2mmol添加し、重合を続行した。GPCを用いるモニタリングによって、Bブロックの重合の完了を確認した後、Cブロックのモノマー(CH2=CH(O−CH2−CH2−O−Ph−COOCH2CH3))の5mmolのトルエン溶液を添加して、重合を続行した。20時間後、重合反応を停止した。重合反応の停止は、系内に0.3%のアンモニア/メタノール水溶液を加えて行った。反応混合物溶液をジクロロメタンにて希釈し、0.6M塩酸で3回、次いで蒸留水で3回洗浄した。得られた有機相をエバポレーターで濃縮・乾固したものを真空乾燥させたものを、セルロースの半透膜を用いてメタノール溶媒中透析を繰り返し行い、モノマー性化合物を除去し、目的物であるトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。
【0068】
さらにここで得られたブロックポリマーをジメチルフォルムアミドと水酸化ナトリウム水混合溶液中で加水分解し、Cブロックが加水分解され、ナトリウム塩化されたトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。さらに水分散液中で0.1Nの塩酸で中和してCブロックがフリーのカルボン酸になったトリブロックポリマーを得た。化合物の同定は、NMR及びGPCを用いて行った。これを用いて下記組成の分散液を調製した。
【0069】
<合成例2>
[分散樹脂Bの合成]
3元ブロックポリマー−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Ph)]90−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−O−CH2−CH2−OCH3)]40−[CH2−CH(O−CH2−CH2−O−Ph−COOH)]10−を合成例1と同様にしてアルミニウム触媒によるリビングカチオン重合により合成した。これを用いて下記組成の分散液を調製した。
【0070】
<実施例1>
(1)顔料分散液の作成
前記合成例1の分散樹脂Aを10部、5%水酸化カリウム水溶液を分散樹脂のカルボン酸基に対して1当量及びイオン交換水75部を10℃の条件下、完全溶解させた。次に銅フタロシアニン(東洋インキ製;BJ)を10部加え、プレミキシングを行った後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)で、顔料の平均粒径が100nmになるまで分散を行った。平均粒径の測定は動的光散乱装置(大塚電子製;FPAR1000)を使用した。その後、分散樹脂のカルボン酸基に対して2当量の1%水酸化カリウム水溶液を加え、pHを12.2にし、攪拌混合を行った。その分散液を透析膜(フナコシ(株)製;スペクトロポア3 MWCO3500)を利用し、分散液のpHが9.5になるまで水で透析を行い、ロータリーエバポレータ−で濃縮し5%顔料分散液を得た。
【0071】
(2)インクの調製
次に、前記の顔料分散液を用い、以下に示す組成でインクを調製した。
・前記の顔料分散液 50部
・ジエチレングリコール 5部
・グリセリン 7部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレングリコール界面活性剤 0.5部
・ノニオン性界面活性剤 0.5部
・イオン交換水 残部
前記の各配合成分を混合してインクとした。こうして得られたインクをガラスフィルター(ミリポア製;AP20)に通し、本発明の実施例1のインクを得た。
【0072】
<実施例2>
(1)顔料分散液の作成
前記合成例1の分散樹脂Aを10部、5%水酸化カリウム水溶液を分散樹脂Aのカルボン酸基に対して3当量及びイオン交換水75部を10℃の条件下、完全溶解させた。次に銅フタロシアニン(東洋インキ製;BJ)を10部加え、プレミキシングを行った後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)で、顔料の平均粒径が100nmになるまで分散を行った。平均粒径の測定は動的光散乱装置(大塚電子製;FPAR1000)を使用した。その分散液を透析膜(フナコシ(株)製;スペクトロポア3 MWCO3500)を利用し、分散液のpHが9.5になるまで水で透析を行い、ロータリーエバポレータ−で濃縮し5%顔料分散液を得た。
【0073】
(2)インクの調製
次に、前記の顔料分散液を用い、以下に示す組成でインクを調製した。
・前記の顔料分散液 50部
・ジエチレングリコール 5部
・グリセリン 7部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレングリコール界面活性剤 0.5部
・ノニオン性界面活性剤 0.5部
・イオン交換水 残部
前記の各配合成分を混合してインクとした。こうして得られたインクをガラスフィルター(ミリポア製;AP20)に通し、本発明の実施例2のインクを得た。
【0074】
<実施例3>
透析の代わりに限外ろ過(日本ポール製;メンブラロクスシングルチューブ用スタンド)を行った。50nmのポアサイズの限外ろ過膜を使用し、圧力0.1Mpa、流速5L/minの条件下、分散液のpHが9.5になるまで限外ろ過を行う以外は、実施例1と同様にして、本発明の実施例3のインクを得た。
【0075】
<実施例4>
透析の代わりに限外ろ過(日本ポール製;メンブラロクスシングルチューブ用スタンド)を行った。限外濾過膜に50nmのポアサイズのものを使用した。圧力0.1Mpa、流速5L/minの条件下、分散液のpHが9.5になるまで限外ろ過(日本ポール製;メンブラロクスシングルチューブ用スタンド)を行う以外は、実施例2と同様にして、本発明の実施例4のインクを得た。
【0076】
<実施例5>
前記合成例1の分散樹脂Aの代わりに前記合成例2の分散樹脂Bを用いる以外は、実施例1と同様にして、本発明の実施例5のインクを得た。
【0077】
<実施例6>
分散樹脂として分散樹脂Aの代わりにスチレンアクリル酸2:1ランダムポリマー−C(Mn=22,000、Mw/Mn=1.98)を用いる以外は、実施例1と同様にして、本発明の実施例6のインクを得た。
【0078】
<実施例7>
限外ろ過(日本ポール製;メンブラロクスシングルチューブ用スタンド)を用いて、分散液のpHが8.5になるまで限外ろ過を行う以外は、実施例3と同様にして、本発明の実施例7のインクを得た。
【0079】
<実施例8>
限外ろ過(日本ポール製;メンブラロクスシングルチューブ用スタンド)を用いて、分散液のpHが8.0になるまで限外ろ過を行う以外は、実施例3と同様にして、本発明の実施例8のインクを得た。
【0080】
<実施例9>
限外ろ過(日本ポール製;メンブラロクスシングルチューブ用スタンド)を用いて、分散液のpHが7.5になるまで限外ろ過を行う以外は、実施例3と同様にして、本発明の実施例9のインクを得た。
【0081】
<実施例10>
(1)顔料分散液の作成
前記合成例1の分散樹脂Aを10部、5%水酸化カリウム水溶液を分散樹脂のカルボン酸基に対して1当量及びイオン交換水75部を10℃の条件下、完全溶解させた。次に銅フタロシアニン(東洋インキ製;BJ)を10部加え、プレミキシングを行った後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)で、顔料の平均粒径が100nmになるまで分散を行った。平均粒径の測定は動的光散乱装置(大塚電子製;FPAR1000)を使用した。その後、分散樹脂のカルボン酸基に対して1%水酸化カリウム水溶液を加え、pHを11.0にし、攪拌混合を行った。その分散液を50nmのポアサイズの限外ろ過膜を使用し、圧力0.1Mpa、流速5L/minの条件下、分散液のpHが9.5になるまで限外ろ過(日本ポール製;メンブラロクスシングルチューブ用スタンド)を行った。ロータリーエバポレータ−で濃縮し5%顔料分散液を得た。
【0082】
(2)インクの調製
次に、前記の顔料分散液を用い、以下に示す組成でインクを調製した。
・前記の顔料分散液 50部
・ジエチレングリコール 5部
・グリセリン 7部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレングリコール界面活性剤 0.5部
・ノニオン性界面活性剤 0.5部
・イオン交換水 残部
前記の各配合成分を混合してインクとした。こうして得られたインクをガラスフィルター(ミリポア製;AP20)に通し、本発明の実施例10インクを得た。
【0083】
<実施例11>
(1)顔料分散液の作成
前記合成例1の分散樹脂Aを10部、5%水酸化カリウム水溶液を分散樹脂のカルボン酸基に対して1当量及びイオン交換水75部を10℃の条件下、完全溶解させた。次に銅フタロシアニン(東洋インキ製;BJ)を10部加え、プレミキシングを行った後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)で、顔料の平均粒径が100nmになるまで分散を行った。平均粒径の測定は動的光散乱装置(大塚電子製;FPAR1000)を使用した。その後、分散樹脂のカルボン酸基に対して1%水酸化カリウム水溶液を加え、pHを10.0にし、攪拌混合を行った。その分散液を50nmのポアサイズの限外ろ過膜を使用し、圧力0.1Mpa、流速5L/minの条件下、分散液のpHが9.5になるまで限外ろ過(日本ポール製;メンブラロクスシングルチューブ用スタンド)を行った。ロータリーエバポレータ−で濃縮し5%顔料分散液を得た。
【0084】
(2)インクの調製
次に、前記の顔料分散液を用い、以下に示す組成でインクを調製した。
・前記の顔料分散液 50部
・ジエチレングリコール 5部
・グリセリン 7部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレングリコール界面活性剤 0.5部
・ノニオン性界面活性剤 0.5部
・イオン交換水 残部
前記の各配合成分を混合してインクとした。こうして得られたインクをガラスフィルター(ミリポア製;AP20)に通し、本発明の実施例11のインクを得た。
【0085】
<比較例1>
(1)顔料分散液の作成
前記合成例1の分散樹脂Aを10部、5%水酸化カリウム水溶液を分散樹脂のカルボン酸基に対して0.9当量及びイオン交換水75部を10℃の条件下、完全溶解させた。次に銅フタロシアニン(東洋インキ製;BJ)を10部加え、プレミキシングを行った後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)で、顔料の平均粒径が100nmになるまで分散を行い、顔料分散液を得た。平均粒径の測定は動的光散乱装置(大塚電子製;FPAR1000)を使用した。
【0086】
(2)インクの調製
次に、前記の顔料分散液を用い、以下に示す組成でインクを調製した。
・前記の顔料分散液 25部
・ジエチレングリコール 5部
・グリセリン 7部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレングリコール界面活性剤 0.5部
・ノニオン性界面活性剤 0.5部
・イオン交換水 残部
前記の各配合成分を混合してインクとした。こうして得られたインクをガラスフィルター(ミリポア製;AP20)に通し、本発明の比較例1のインクを得た。
【0087】
<比較例2>
分散樹脂として分散樹脂Aの代わりに分散樹脂Bを用いる以外は、比較例1と同様にして、本発明の比較例2のインクを得た。
【0088】
<比較例3>
(1)顔料分散液の作成
前記合成例1の分散樹脂Aを10部、5%水酸化カリウム水溶液を分散樹脂のカルボン酸基に対して1当量及びイオン交換水75部を10℃の条件下、完全溶解させた。次に銅フタロシアニン(東洋インキ製;BJ)を10部加え、プレミキシングを行った後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)で、顔料の平均粒径が100nmになるまで分散を行った。平均粒径の測定は動的光散乱装置(大塚電子製;FPAR1000)を使用した。その分散液を透析膜(フナコシ(株)製;スペクトロポア3 MWCO3500)を利用し、水で透析を3日間行い、ロータリーエバポレータ−で濃縮し5%顔料分散液を得た。
【0089】
(2)インクの調製
次に、前記の顔料分散液を用い、以下に示す組成でインクを調製した。
・前記の顔料分散液 50部
・ジエチレングリコール 5部
・グリセリン 7部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレングリコール界面活性剤 0.5部
・ノニオン性界面活性剤 0.5部
・イオン交換水 残部
前記の各配合成分を混合してインクとした。こうして得られたインクをガラスフィルター(ミリポア製;AP20)に通し、比較例3のインクを得た。
【0090】
<比較例4>
前記合成例1の分散樹脂Aを10部、5%水酸化カリウム水溶液を分散樹脂のカルボン酸基に対して1当量及びイオン交換水75部を10℃の条件下、完全溶解させた。次に銅フタロシアニン(東洋インキ製;BJ)を10部加え、プレミキシングを行った後、ナノマイザーYSNM−2000AR(吉田機械興業社製)で、顔料の平均粒径が100nmになるまで分散を行った。平均粒径の測定は動的光散乱装置(大塚電子製;FPAR1000)を使用した。その後、分散樹脂のカルボン酸基に対して2当量の1%水酸化カリウム水溶液を加え、pHを12.2にし、攪拌混合を行い、ロータリーエバポレータ−で濃縮し5%顔料分散液を得た。
【0091】
(2)インクの調製
次に、前記の顔料分散液を用い、以下に示す組成でインクを調製した。
・前記の顔料分散液 50部
・ジエチレングリコール 5部
・グリセリン 7部
・トリメチロールプロパン 7部
・アセチレングリコール界面活性剤 0.5部
・ノニオン性界面活性剤 0.5部
・イオン交換水 残部
前記の各配合成分を混合してインクとした。こうして得られたインクをガラスフィルター(ミリポア製;AP20)に通し、比較例4のインクを得た。
【0092】
各実施例及び各比較例で得られたインクについて粘度、保存安定性、吐出安定性の評価を行った。
[インクの評価]
〔評価項目〕
<粘度の評価>
各インクをE型粘度計(東機産業(株)製RE100)にて測定した。評価結果を下記表1に示す。
◎:粘度が3.5mPa・s未満
○:粘度が3.5mPa・s以上4.5mPa・s未満
△:粘度が4.5mPa・s以上5.5mPa・s未満
×:粘度が5.5mPa・s以上
【0093】
<保存安定性の評価>
各インクを60℃の恒温槽中に30日保存し、保存前と保存後の動的光散乱法により得られる平均粒径を測定した。平均粒径の測定は動的光散乱装置(大塚電子製;FPAR1000)を使用した。評価は、以下の基準によって行った。評価結果を下記表1に示す。
◎:保存前と保存後の平均粒径の変化の割合が10%未満
○:保存前と保存後の平均粒径の変化の割合が10%以上20%未満
×:保存前と保存後の平均粒径の変化の割合が20%以上
【0094】
<吐出安定性の評価>
各インクを所定のインクタンクに充填しBJF800(キヤノン製)のヘッドを使用し、インク吐出周波数を10kHzで5時間の連続吐出を行い、吐出量変化を測定した。評価は、以下の基準によって行った。評価結果を下記表1に示す。
◎:連続吐出前と、連続吐出後の吐出量変化の割合が5%未満
○:連続吐出前と、連続吐出後の吐出量変化の割合が5%以上10%未満
×:連続吐出前と、連続吐出後の吐出量変化の割合が10%以上
【0095】

【0096】

【産業上の利用可能性】
【0097】
以上説明したように、本発明では、酸性基を有する樹脂と顔料とを含む混合物に、樹脂の酸性基に対して過剰の塩基を添加し、その後、塩基を一部取り除く。この構成によって、優れた保存安定性、吐出特性を示し、さらに、粘性が低いインクジェット用顔料分散液及びインクジェット用顔料インクを製造することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を有する樹脂で分散された顔料を含有するインクジェット用顔料分散液の製造方法において、酸性基を有する樹脂と、顔料と、塩基とを含む混合物を分散する分散工程、該分散工程により得られた分散液に、分散液中の塩基の総モル数が該樹脂の酸性基の総モル数に対して過剰になるように塩基を添加する塩基添加工程、及び該塩基添加工程により得られた分散液から過剰な塩基の少なくとも一部を除去する塩基除去工程を有することを特徴とするインクジェット用顔料分散液の製造方法。
【請求項2】
酸性基を有する樹脂で分散された顔料を含有するインクジェット用顔料分散液の製造方法において、酸性基を有する樹脂と、顔料と、該樹脂の酸性基の総モル数に対して過剰なモル数の塩基とを含む混合物を分散する分散工程、及び該分散工程により得られた分散液から過剰な塩基の少なくとも一部を除去する塩基除去工程を有することを特徴とするインクジェット用顔料分散液の製造方法。
【請求項3】
前記塩基除去工程前の分散液中の塩基量が、該分散液のpHが11以上になる量である請求項1又は2に記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項4】
前記塩基除去工程によって、分散液のpHを8から10にする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項5】
前記塩基除去工程が、透析又は限外ろ過によって行われる請求項1乃至4のいずれか1項に記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項6】
前記酸性基を有する樹脂が、疎水性ブロックセグメント、非イオン性親水セグメント及び酸性基を有するセグメントがこの順に並ぶ構造を有するブロックポリマーである請求項1乃至5のいずれか1項に記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項7】
前記酸性基を有する樹脂が、ポリビニルエーテル構造を繰り返し単位構造として含有するブロックポリマーである請求項1乃至6のいずれか1項に記載の顔料分散液の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の顔料分散液の製造方法により製造されたことを特徴とする顔料分散液。
【請求項9】
請求項8に記載の顔料分散液を用いて製造されたことを特徴とするインクジェット用顔料インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−174205(P2010−174205A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21239(P2009−21239)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】