説明

顔料分散物、インク組成物、インクジェット記録方法、および印刷物

【課題】分散時間が短く、顔料の分散性が良好な顔料分散物を提供し、長期間保存或いは繰り返し温度変化を経た後であっても顔料の分散安定性、硬化性に優れ、インクジェット用途にも好適なインク組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも、(A)顔料、及び、(B)オキセタン環を含む構造単位と顔料吸着性基を含む構造単位とを有する高分子分散剤を含む顔料分散物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散物、該顔料分散物を用いたインク組成物、該インク組成物を用いたインクジェット記録方法、印刷物に関するものである。
詳しくは、分散性及び保存安定性に優れた顔料分散物、及び該顔料分散物を含み、高画質の画像を形成することが可能で、活性放射線の照射により硬化しうるインクジェット印刷に好適なインク組成物に関し、これを用いたインクジェット記録方法、及び印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種着色組成物において、顔料を着色剤として用いる場合、固体である顔料の分散性、分散安定性を確保することが重要である。顔料の分散性、分散安定性に優れた顔料分散物を用いることで、均一な色相を有する硬化性組成物やインク組成物を得ることができる。特に、インク組成物には、耐光性に優れた顔料が着色剤として汎用されるが、顔料の分散性に問題がある場合には、色調が不均一になることや、インクジェット記録方法に用いるインク組成物の場合には吐出性が低下することなど、種々の問題が引き起こされる。
【0003】
近年、画像データ信号に基づき、被記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、インクジェット記録方法が注目されている。インクジェット記録方法は、騒音が少なく、非常に微小な液滴を打滴することにより、高精彩な画像を低いランニングコストで記録できるといった利点をも有するものである。
【0004】
インクジェット記録方法によれば、普通紙のみならずプラスチックシート、金属板など非吸液性の被記録媒体にも印字可能であるが、印字する際の高速化及び高画質化を実現するために、乾燥、硬化に要する時間を短縮することが望まれている。このため、インクジェット方式の一つとして、活性エネルギー線の照射により短時間に硬化可能なインクをインクジェット記録用インクとして用いた記録方式がある。この方法によれば、印字後直ちに活性エネルギー線を照射し、インク液滴を硬化させることで鮮鋭な画像を形成することができる。このような硬化性インクジェットインク組成物には、発色性に優れた高精細画像の形成や、インク組成物を安定に吐出するために、高い顔料分散性及びその経時的な安定性が求められる。
【0005】
インク組成物に鮮明な色調と高い着色力を付与するためには、顔料の微細化が必須である。特に、インクジェット記録用に用いられるインク組成物では、吐出されるインク液滴が画像の鮮鋭度に大きな影響を与えるため、吐出液滴も少量となり、且つ、該インク組成物より形成されるインク硬化膜の膜厚よりも微細な粒子を用いることが必須となる。しかし、このように、高い着色力を得るために顔料粒子をより微細化していくと、顔料粒子の分散が困難になり、顔料粒子の凝集体が発生しやすくなる。また、これを防止するため分散剤の過剰な添加によりインク組成物の粘度が上昇するといった問題も生じる。顔料の凝集体の発生やインク組成物の粘度上昇は、いずれもインク吐出性に悪影響を与えるので、顔料の凝集や増粘などが生じたインク組成物をインクジェット記録用として用いるのは好ましくない。
【0006】
また、インク組成物をインクジェット記録用として用いる場合には、ヒートサイクル性に優れていなければならない。インクジェット記録用のインク組成物は、カートリッジ内に収納され、吐出時には液粘度を低下させるために加熱されるが、非吐出時、保存時には降温するため、加熱−冷却の繰り返し温度変化を受ける。この温度変化もまた、顔料の分散性に悪影響を与え、経時的に顔料の分散性が低下し、顔料の凝集や増粘などが生じやすくなるという問題もあった。
【0007】
経時的に安定なインク組成物を得るための分散剤については、以下のような種々の提案がなされている。即ち、顔料との親和性を向上させるため、顔料誘導体を分散剤として使用したインク組成物(例えば、特許文献1及び2参照。)や、フタロシアニン、キナクリドン系などの特定の顔料に対し、分散剤として塩基性基を有するポリマーを用いたインク組成物(例えば、特許文献3参照。)、ポリ(エチレンイミン)−ポリ(12−ヒドロキシステアリン酸)グラフトポリマーなどの分散剤と該分散剤を溶解させる特定のモノマーとを含有する有機溶剤を用いないインク組成物(例えば、特許文献4参照)や、有機顔料を形成する複素環残基を有するグラフト共重合体を分散剤として用いたインク組成物(例えば、特許文献5参照)が開示されている。
【0008】
また硬化性インクジェットインク組成物においては、重合性基を有さない顔料分散剤が多量に存在すると、硬化感度を低下させる原因となる。これに対して、レジスト分野において顔料分散剤に重合性基としてエチレン性不飽和二重結合を導入した分散剤(例えば、特許文献6参照)が開示されている。
【0009】
これらの文献に開示される顔料分散剤やインク組成物は、確かに顔料を微細に分散でき、従来よりもインク組成物の安定性は高まるが、インク組成物の安定性、特に、長期間経過後、乃至、繰返しの温度変化後の分散安定性、また、インク組成物の硬化感度にはなお改良の余地はあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−119414号公報
【特許文献2】特開2004−18656号公報
【特許文献3】特開2003−321628号公報
【特許文献4】特開2004−131589号公報
【特許文献5】特開2007−9117号公報
【特許文献6】特開平11−209554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明の目的は、分散時間が短く、顔料の分散性が良好な顔料分散物を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、長期間保存或いは繰り返し温度変化を経た後であっても顔料の分散安定性に優れ、かつ、硬化性に優れ、インクジェット用途に好適なインク組成物を提供することにあり、さらに該インク組成物を用いたインクジェト記録方法、印刷物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、顔料とともに、オキセタン環を含む構造単位と顔料吸着性基を含む構造単位とを有する高分子分散剤を使用することにより、顔料の分散性に優れ、長期間保存、或いは、繰返し温度変化を経た後でも分散安定性の低下が効果的に抑制された顔料分散物が得られることを見出した。また、オキセタン環を含む構造単位と顔料吸着性基とをそれぞれ一つ以上有する高分子分散剤を使用することにより分散進行が速く、短時間の分散で、分散安定性に優れた顔料分散物が得られることを見出した。
【0013】
即ち、前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
<1> 少なくとも、(A)顔料、及び、(B)オキセタン環を含む構造単位と顔料吸着性基を含む構造単位とを有する高分子分散剤を含む顔料分散物。
<2> 前記オキセタン環を含む構造単位が、下記一般式(1)で表される構造単位である<1>に記載の顔料分散物。
【0014】
【化1】

【0015】
一般式(1)中、Rは、水素原子、又はメチル基を表す。Wは、−CO-、−COO-、−CONR-、−OCO−、又はフェニレン基を表す。Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。Yは、下記一般式(2)で表される基を表す。
【0016】
【化2】

【0017】
一般式(2)中、R21〜R26は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。R21〜R26のうちいずれか1つの位置で、単結合又はR21〜R26の水素原子が外れた連結基を介して一般式(1)のXと結合している。
【0018】
<3> 前記顔料吸着性基を含む構造単位が、下記一般式(3)で表される構造単位である<1>または<2>に記載の顔料分散物。
【0019】
【化3】

【0020】
一般式(3)中、Rは、水素原子、又はメチル基を表す。Wは、−CO-、−COO-、−CONR-、−OCO−、又はフェニレン基を表す。Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。Yは、複素環残基を表す。
【0021】
<4> 前記(B)高分子分散剤の重量平均分子量が、1,000〜200,000の範囲であり、且つ、該(B)高分子分散剤の含有量が、(A)顔料100質量部に対し、2質量部〜100質量部である<1>〜<3>のいずれか1項に記載の顔料分散物。
<5> <1>〜<4>のいずれか1項に記載の顔料分散物を含むインク組成物。
<6> 更に、(C)重合性化合物を含む<5>に記載のインク組成物。
<7> 前記(C)重合性化合物が、カチオン重合性化合物である<6>に記載のインク組成物。
【0022】
<8> 更に、(D)光重合開始剤を含む<5>〜<7>のいずれか1項に記載のインク組成物。
<9> インクジェット用途である<5>〜<8>のいずれか1項に記載のインク組成物。
<10> 被記録媒体上に、<5>〜<9>のいずれか1項に記載のインク組成物をインクジェット記録装置により吐出する工程、及び、吐出されたインク組成物に活性放射エネルギー線を照射して、該インク組成物を硬化する工程を含むインクジェット記録方法。
<11> <10>に記載のインクジェット記録方法によって記録された印刷物。
【0023】
本発明における作用機構は明確ではないが、本発明においては、高分子分散剤は顔料吸着性基を含む構造単位による顔料との吸着性、およびポリマー鎖部分の立体反発効果による保護コロイド性が高く、これによって微細な顔料でも高い分散性、且つ高い分散安定性が得られたものと考えられる。オキセタン環も弱いながら顔料吸着能を有し、顔料吸着性基による分散効果に相乗的に作用し、また、オキセタン環は分散媒と親和性が高く、顔料への濡れ性が良好であるため、さらに分散性を向上しているものと考えられる。オキセタン環の特徴として熱安定性に優れているため、顔料分散時におけるオキセタン環の開環、またインク経時による開環が抑制され、熱安定性に優れた顔料分散物、インク組成物が得られると考えられる。
さらに、高分子分散剤はオキセタン環を含む構造単位を有しているので、本発明の顔料分散物をインク組成物等の硬化性組成物に適用した場合の硬化性が高い。また本発明の顔料分散物を用いたインク組成物は、長期間保存或いは繰り返し温度変化を経た後であっても、顔料の凝集や沈殿に起因する粘度の上昇やインク吐出性の低下が効果的に抑制されるものと推定される。
【0024】
また、本発明の好ましい態様では、高分子分散剤が有する顔料吸着性基として、有機色素に含まれる複素環残基を選択することにより、さらに顔料の分散性、分散安定性が向上した。これは高分子分散剤が、有機色素に含まれる複素環残基を有することにより、顔料に対してさらに効果的に吸着するためと考えられる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、分散時間が短く、顔料の分散性が良好な顔料分散物を提供することができる。
また、長期間保存或いは繰り返し温度変化を経た後であっても顔料の分散安定性に優れ、かつ、硬化性に優れ、インクジェット用途に好適なインク組成物を提供することができ、さらに、該インク組成物を用いたインクジェト記録方法、印刷物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
〔顔料分散物〕
本発明の顔料分散物は、少なくとも、(A)顔料、及び、(B)オキセタン環を含む構造単位と顔料吸着性基を含む構造単位とを有する高分子分散剤(以下、適宜「特定分散剤」と称する。)と、を含むことを特徴とする。また、本発明の顔料分散物は、(C)重合性化合物、さらに、(D)光重合開始剤を含有することで、インク組成物に好適に使用しうる。
【0027】
本発明の顔料分散物は、微細な顔料を高濃度に含有する場合であっても、(B)特定分散剤を使用することによって、(A)顔料を短時間で分散可能であり、(A)顔料の分散性が高く、且つ分散安定性を維持することができる。さらに、(A)顔料として微細な顔料を選択することにより、発色及び着色性に優れた顔料分散物を得ることができる。
【0028】
本発明の顔料分散物は、(A)顔料の分散性及び分散安定性が良好であるため、希釈して様々な用途に利用することができる。例えば、インク組成物、着色硬化性組成物、カラーフィルタ用レジストなどへの種々の応用が可能である。また、本発明の顔料分散物を含むインク組成物は、低粘度でも分散安定性に優れているため、インクジェット記録方式に適用して画像を印刷した場合の吐出安定性に優れている。
【0029】
本発明の顔料分散物は、(A)顔料、(B)特定分散剤の他、所望により(C)重合性化合物や(D)光重合開始剤などを含有させることで、活性エネルギー線の照射により硬化しうる着色硬化性組成物として好適に用いることができる。このような、着色硬化性組成物は、活性エネルギー線の照射又は加熱により硬化するので、硬化性のインク組成物、特にインクジェット用インク組成物として好適である。本発明の顔料分散物を用いたインクジェット用インク組成物は、高感度で、鮮明な色調と高い着色力を有し、高画質な画像を形成することができる。また、このようなインクジェット用インク組成物は、非吸収性の被記録媒体上にも、高品質の画像をデジタルデータに基づき直接形成しうることから、大面積の印刷物の作製にも好適に使用することができる。
【0030】
本発明の顔料分散物は、インクジェット用インク組成物等のインク組成物以外にも、所望の性能を付与する化学物質と混合したインク組成物として調製することで、当該インク組成物を通常の印刷に使用して、発色性に優れた鮮鋭な画像を形成し、高品位な印刷物を得ることができる。即ち、本発明のインク組成物は、有機媒体中での分散性が優れているため、非硬化性のインクに使用した場合にも鮮鋭な色相を有する画像を形成することができる。例えば、被膜形成ポリマーと顔料と溶剤とを含有し、塗布後に溶剤が除去されることで被膜が硬化する一般的なインク組成物、例えば、溶媒としてシクロヘキサノンなどの揮発性溶剤を使用するソルベントインクも好ましい態様である。
【0031】
さらに、本発明の顔料分散物を用いた着色硬化性組成物は、インク組成物への適用のみならず、光造形材料としても有用であり、レジスト、カラーフィルタ、光ディスクの製造にも好適に使用することができる。また、本発明の顔料分散物は、良好な発色性を必要とする用途、耐光性に優れた着色を必要とする用途、例えば、ナノインプリント組成物、表面コート剤等の広範な分野に好適に使用しうる。
【0032】
以下、本発明の顔料分散物における各成分について詳述する。
【0033】
<(A)顔料>
本発明の顔料分散物は、(A)顔料を必須成分として含む。本発明の顔料分散物においては、この(A)顔料に、後述する(B)特定分散剤の作用により、粒径が小さい顔料粒子であっても、顔料分散物中に顔料が均一且つ安定に分散される。
【0034】
本発明の顔料分散物は、顔料を含むことから、耐光性を必要とする用途、例えば、インク組成物などの着色組成物などに好適に用いうる。また、この顔料分散物を各種組成物の着色成分として適用するに際しては、色相などを調整する目的で、染料を併用しても構わない。
【0035】
本発明の顔料分散物が含有する(A)顔料としては、特に制限はなく、目的に応じて公知の種々の顔料を適宜選択して用いることができる。例えば、一般に用いられる有機顔料、無機顔料、さらには、樹脂粒子を染料で染色したもの等も用いることができる。通常、市販されている顔料はいずれも使用でき、さらに、市販の顔料分散体や表面処理剤などで予め処理された顔料、例えば、顔料を分散媒としての不溶性の樹脂等に分散させたもの、あるいは顔料表面に樹脂をグラフト化したもの等も、本発明の効果を損なわない限りにおいて用いることができる。
【0036】
顔料としては、例えば、伊藤征司郎編「顔料の辞典」(2000年刊)、X.Herbst,K.Hunger「Industrial Organic Pigments」、特開2002−12607号公報、特開2002−188025号公報、特開2003−26978号公報、特開2003−342503号公報等に記載の顔料が挙げられる。
【0037】
有機顔料及び無機顔料としては、例えば、以下の顔料が挙げられる。
例えば、色相からは、イエロー顔料、マゼンタ顔料、青、シアン顔料、緑色顔料、オレンジ顔料、茶色顔料、バイオレット顔料、黒色顔料、白色顔料、などが挙げられる。
また、前記有機顔料の有する色素骨格からは、例えば、フタロシアニン系、不溶性アゾ系、アゾレーキ系、アントラキノン系、キナクリドン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、アントラピリミジン系、アンサンスロン系、インダンスロン系、フラバンスロン系、ペリノン系、ペリレン系、チオインジゴ系、キノフタロン系、など一般的に挙げられる。
【0038】
イエロー色を呈する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントイエロー1(ファストイエローG等),C.I.ピグメントイエロー74の如きモノアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー12(ジスアジイエロー等)、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー97、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー16、C.I.ピグメントイエロー83、C.I.ピグメントイエロー155、C.I.ピグメントイエロー219の如きジスアゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー100(タートラジンイエローレーキ等)の如きアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー95(縮合アゾイエロー等)、C.I.ピグメントイエロー93、C.I.ピグメントイエロー94、C.I.ピグメントイエロー128、C.I.ピグメントイエロー166の如き縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントイエロー115(キノリンイエローレーキ等)の如き酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントイエロー18(チオフラビンレーキ等)の如き塩基性染料レーキ顔料、フラバントロンイエロー(Y−24)の如きアントラキノン系顔料、イソインドリノンイエロー3RLT(Y−110)の如きイソインドリノン顔料、キノフタロンイエロー(Y−138)の如きキノフタロン顔料、イソインドリンイエロー(Y−139)、C.I.ピグメントイエロー185の如きイソインドリン顔料、C.I.ピグメントイエロー60(ピラゾロンイエロー等)の如きピラゾロン顔料、C.I.ピグメントイエロー153(ニッケルニトロソイエロー等)の如きニトロソ顔料、C.I.ピグメントイエロー150等の如き金属錯塩顔料、C.I.ピグメントイエロー117(銅アゾメチンイエロー等)の如き金属錯塩アゾメチン顔料、C.I.ピグメントイエロー120(ベンズイミダゾロンイエロー)、C.I.ピグメントイエロー154、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントイエロー151、C.I.ピグメントイエロー175、C.I.ピグメントイエロー180、C.I.ピグメントイエロー181、C.I.ピグメントイエロー194等の如きアセトロン顔料等が挙げられる。
【0039】
赤或いはマゼンタ色を呈する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントレッド3(トルイジンレッド等)の如きモノアゾ系顔料、C.I.ピグメントレッド1、C.I.ピグメントレッド4、C.I.ピグメントレッド6等の如きB−ナフトール顔料、C.I.ピグメントレッド38(ピラゾロンレッドB等)の如きジスアゾ顔料、C.I.ピグメントレッド53:1(レーキレッドC等)やC.I.ピグメントレッド57:1(ブリリアントカーミン6B等)、C.I.ピグメントレッド52:1、C.I.ピグメントレッド48(B−オキシナフト酸レーキ等)の如きアゾレーキ顔料、C.I.ピグメントレッド144(縮合アゾレッド等)、C.I.ピグメントレッド166、C.I.ピグメントレッド220、C.I.ピグメントレッド214、C.I.ピグメントレッド221、C.I.ピグメントレッド242の如き縮合アゾ顔料、C.I.ピグメントレッド174(フロキシンBレーキ等)、C.I.ピグメントレッド172(エリスロシンレーキ等)の如き酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド81(ローダミン6G'レーキ等)の如き塩基性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド177(ジアントラキノニルレッド等)の如きアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントレッド88(チオインジゴボルドー等)の如きチオインジゴ顔料、C.I.ピグメントレッド194(ペリノンレッド等)の如きペリノン顔料、C.I.ピグメントレッド149(ペリレンスカーレット等)、C.I.ピグメントレッド179、C.I.ピグメントレッド178、C.I.ピグメントレッド190、C.I.ピグメントレッド224、C.I.ピグメントレッド123の如きペリレン顔料、C.I.ピグメントバイオレット19(無置換キナクリドン)、C.I.ピグメントレッド122、C.I.ピグメントレッド42(キナクリドンマゼンタ等)、C.I.ピグメントレッド262、C.I.ピグメントレッド207、C.I.ピグメントレッド209の如きキナクリドン顔料、C.I.ピグメントレッド180(イソインドリノンレッド2BLT等)の如きイソインドリノン顔料、C.I.ピグメントレッド83(マダーレーキ等)の如きアリザリンレーキ顔料、C.I.ピグメントレッド171、C.I.ピグメントレッド175、C.I.ピグメントレッド176、C.I.ピグメントレッド185、C.I.ピグメントレッド208の如きナフトロン顔料、C.I.ピグメントレッド247の如きナフトールAS系レーキ顔料、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド21、C.I.ピグメントレッド170、C.I.ピグメントレッド187、C.I.ピグメントレッド256、C.I.ピグメントレッド268、C.I.ピグメントレッド269の如きナフトールAS顔料、C.I.ピグメントレッド254、C.I.ピグメントレッド255、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド27の如きジケトピロロピロール顔料等が挙げられる。
【0040】
青或いはシアン色を呈する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブルー25(ジアニシジンブルー等)の如きジスアゾ系顔料、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー15:1、C.I.ピグメントブルー15:2、C.I.ピグメントブルー15:3、C.I.ピグメントブルー15:4、C.I.ピグメントブルー15:6、C.I.ピグメントブルー16(フタロシアニンブルー等)の如きフタロシアニン顔料、C.I.ピグメントブルー24(ピーコックブルーレーキ等)の如き酸性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントブルー1(ビクロチアピュアブルーBOレーキ等)の如き塩基性染料レーキ顔料、C.I.ピグメントブルー60(インダントロンブルー等)の如きアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントブルー18(アルカリブルーV−5:1)の如きアルカリブルー顔料等が挙げられる。
緑色を呈する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントグリーン7(フタロシアニングリーン)、C.I.ピグメントグリーン36(フタロシアニングリーン)の如きフタロシアニン顔料、C.I.ピグメントグリーン8(ニトロソグリーン)、C.I.ピグメントグリーン10等の如きアゾ金属錯体顔料等が挙げられる。
【0041】
オレンジ色を呈する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントオレンジ66(イソインドリンオレンジ)の如きイソインドリン系顔料、C.I.ピグメントオレンジ51(ジクロロピラントロンオレンジ)の如きアントラキノン系顔料、C.I.ピグメントオレンジ2、C.I.ピグメントオレンジ3、C.I.ピグメントオレンジ5の如きΒ−ナフトール顔料、C.I.ピグメントオレンジ4、C.I.ピグメントオレンジ22、C.I.ピグメントオレンジ24、C.I.ピグメントオレンジ38、C.I.ピグメントオレンジ74等の如きナフトールAS顔料、C.I.ピグメントオレンジ61等の如きイソインドリノン顔料、C.I.ピグメントオレンジ43等の如きペリノン顔料、C.I.ピグメントオレンジ15、C.I.ピグメントオレンジ16等の如きジスアゾ顔料、C.I.ピグメントオレンジ48、C.I.ピグメントオレンジ49等の如きキナクリドン顔料、C.I.ピグメントオレンジ36、C.I.ピグメントオレンジ62、C.I.ピグメントオレンジ60、C.I.ピグメントオレンジ64、C.I.ピグメントオレンジ72等の如きアセトロン顔料、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ34等の如きピラゾロン顔料、が挙げられる。
【0042】
茶色を呈する顔料としては、例えば、C.I.ピグメントブラウン25、C.I.ピグメントブラウン32等のナフトロン顔料などが挙げられる。
黒色を呈する顔料としては、例えば、カーボンブラック、チタンブラック、C.I.ピグメントブラック1(アニリンブラック)等の如きインダジン顔料、C.I.ピグメントブラック31、C.I.ピグメントブラック32の如きペリレン顔料等が挙げられる。
【0043】
白色顔料としては、例えば、塩基性炭酸鉛(2PbCOPb(OH)、いわゆる、シルバーホワイト)、酸化亜鉛(ZnO、いわゆる、ジンクホワイト)、酸化チタン(TiO、いわゆる、チタンホワイト)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO、いわゆる、チタンストロンチウムホワイト)などが利用可能である。白色顔料に使用される無機粒子は単体でも良いし、例えば、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、チタン等の酸化物や有機金属化合物、有機化合物との複合粒子であってもよい。
【0044】
ここで、酸化チタンは他の白色顔料と比べて比重が小さく、屈折率が大きく化学的、物理的にも安定であるため、顔料としての隠蔽力や着色力が大きく、さらに、酸やアルカリ、その他の環境に対する耐久性にも優れている。したがって、白色顔料としては、酸化チタンを利用することが好ましい。もちろん、必要に応じて他の白色顔料(列挙した白色顔料以外であってもよい。)を使用してもよい。
【0045】
白色以外の顔料は、平均粒径が小さいほど発色性に優れるため、本発明の顔料分散物を白色以外の顔料分散物に適用する場合であれば、顔料分散物に含有される顔料の平均粒径は、0.01μm〜0.4μm程度であることが好ましく、さらに好ましくは0.02μm〜0.3μmの範囲である。また、顔料の最大粒径は、3μm以下、好ましくは1μm以下がより好ましい。顔料の粒径は、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件の設定などにより調整することができる。また、本発明の顔料分散物を、白色のインク組成物などに適用しうる白色の顔料分散物として調製する場合であれば、顔料分散物に含有される顔料の平均粒径は、充分な隠蔽性を与える観点から、0.05μm〜1.0μm程度であることが好ましく、さらに好ましくは0.1μm〜0.4μm程度である。白色の顔料分散物とする場合についても、顔料の最大粒径は、3μm以下、好ましくは1μm以下であることが好ましい。
【0046】
このような粒径管理によって、例えば、顔料分散物の保存安定性、顔料分散物の透明性、及び顔料分散物を硬化性組成物に適用した場合であれば硬化感度を維持することができ、また、顔料分散物をインクジェット用インク組成物に適用する場合でも、ヘッドノズルの詰まりを抑制しうる。
【0047】
本発明の顔料分散物は、後述する(B)特定分散剤を使用するため、微粒子の顔料を用いた場合であっても、均一で安定な顔料分散物となる。
【0048】
顔料分散物中における顔料の粒径は、公知の測定方法で測定することができる。具体的には、遠心沈降光透過法、X線透過法、レーザー回折・散乱法、動的光散乱法により、顔料の粒径を測定することができる。
【0049】
本発明の顔料分散物における顔料濃度は、該顔料分散物の全質量中の10質量%〜50質量%の範囲であり、10質量%〜30質量%の範囲が好ましく、15質量%〜30質量%の範囲がより好ましい。
【0050】
これらの顔料の分散には、例えば、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル等の公知の分散装置をいずれも用いることができる。後述する特定分散剤は顔料を分散する際に添加することが好ましい。
【0051】
<(B)オキセタン環を含む構造単位と顔料吸着性基を含む構造単位とを有する高分子分散剤(特定分散剤)>
本発明の顔料分散物は、(B)オキセタン環を含む構造単位と顔料吸着性基を含む構造単位とを有する高分子分散剤(特定分散剤)を必須成分として含む。
本発明においては、この(B)特定分散剤は、(A)顔料の分散剤として機能する。
このような(B)特定分散剤としては、オキセタン環を含む構造単位と顔料吸着性基を含む構造単位とを有するものであれば特に制限はない。
【0052】
〔オキセタン環を含む構造単位〕
特定分散剤は、分子中にオキセタン環を含む構造単位を有する。オキセタン環を含む構造単位としては、オキセタン環を含む構造単位であれば、どのような構造でもよい。
オキセタン環を含む構造単位としては、下記一般式(1)で表される構造単位が好ましい。
【0053】
【化4】

【0054】
一般式(1)中、Rは、水素原子、又はメチル基を表す。Wは、−CO-、−COO-、−CONR-、−OCO−、又はフェニレン基を表す。Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。Yは、下記一般式(2)で表される基を表す。
【0055】
一般式(1)中、Wは、−CO−、−COO−、−CONR−、−OCO−、又はフェニレン基を表し、これらのうち、Wとしては、−COO−、−CONH−、フェニレン基が好ましく、さらには−COO−、フェニレン基が特に好ましい。
ここでRは、水素原子、炭素数1〜8のアルキル基、炭素数1〜10のアリール基、又は炭素数1〜8のアラルキル基を表し、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−ヒドロキシエチル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基などが挙げられ、アリール基としては、例えば、フェニル基などが挙げられる。Rとしては、水素原子、メチル基、又は、エチル基が好ましい。
【0056】
が2価の連結基を表す場合の連結基としては、例えば、直鎖、分岐若しくは環状のアルキレン基、アラルキレン基またはアリーレン基が挙げられ、これらは置換基を有してもよい。さらに、これらの基を2以上組み合わせた連結基も挙げられる。
ここで、連結基Xに導入可能な置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン基、チオエーテル基、およびトリアルキルシリル基、アルコキシシリル基等の含シリル元素の官能基などが挙げられ、これらの中でも炭素数1〜6のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。
【0057】
前記Xがアルキレン基を表わす場合のアルキレン基としては、炭素数1〜10のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基がより好ましい。具体的には、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基等が挙げられ、なかでも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等は特に好ましい。
前記Xがアラルキレン基を表わす場合のアラルキレン基としては、炭素数7〜13のアラルキレン基が好ましく、具体的には、例えば、ベンジリデン基、シンナミリデン基等が挙げられる。
前記Xがアリーレン基を表わす場合のアリーレン基としては、炭素数6〜12のアリーレン基が好ましく、具体的には、例えば、フェニレン基、クメニレン基、メシチレン基、トリレン基、キシリレン基等が挙げられ、なかでもフェニレン基は特に好ましい。
【0058】
また、Xで表される2価の連結基中には、−NR11−、−COO−、−OCO−、−O−、−SONH−、−NHSO−、−NHCOO−、−OCONH−、−NHCONH−、又は複素環から誘導される基、が結合基として介在していてもよい。
ここで、R11及びR12は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表し、水素原子、メチル基、エチル基、及び、プロピル基等が好適に挙げられる。
前記Xで表される連結基の中でも、単結合、炭素数1〜8個のアルキレン基、−COO−、−O−、−NHCOO−、−OCONH−、若しくは−NHCONH−が結合基として介在した炭素数1〜8個のアルキレン基が好ましく、単結合、メチレン基、−COO−、−O−、−NHCOO−、−OCONH−、若しくは−NHCONH−が結合基として介在した炭素数1〜8個のアルキレン基がより好ましい。
また、Yは下記一般式(2)で表される基である。
【0059】
【化5】

【0060】
一般式(2)中、R21〜R26は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、R21〜R26のうちいずれか1つの位置で、単結合又はR21〜R26の水素原子が外れた連結基を介して一般式(1)のXと結合している。
【0061】
一般式(2)のR21〜R26がアルキル基を表わす場合のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜2のアルキル基が特に好ましい。具体的には、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、なかでも、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が好ましく、メチル基、エチル基が特に好ましい。
21〜R26がアリール基を表わす場合のアリール基としては、炭素数1〜12のアリール基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜8のアルキル基が特に好ましく、これらは置換基を有していてもよい。R21〜R26がアリール基を表す場合に導入可能な置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、ヒドロキシル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基等のアルコキシル基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン基、チオエーテル基、およびトリアルキルシリル基、アルコキシシリル基等の含シリル元素官能基などが挙げられ、これらの中でも炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシ基、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましく、メチル基、エチル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。
【0062】
前記一般式(1)で表される構造単位を有する(B)特定分散剤は、以下のモノマーを用いて好適に合成することができるが、本発明はこれらに限るものではない。
【0063】
【化6】

【0064】
(B)特定分散剤が有するオキセタン環を含む構造単位の含有量は、(B)特定分散剤に対して、1質量%〜30質量%であることが好ましく、1質量%〜20質量%がより好ましく、1質量%〜10質量%が最も好ましい。オキセタン環を含む構造単位の含有量が、この範囲において、分散進行が早く、また後述する顔料に対する特定分散剤における顔料吸着性基の含有量も十分に確保しうるので、分散性が良好で分散安定性にも優れた顔料分散物を得ることができる。さらに、オキセタン環を含む構造単位があるため、硬化した時に特定分散剤自体が硬化膜を形成するので、硬化感度に優れたインク組成物を得ることができると考えられる。
【0065】
〔顔料吸着性基を含む構造単位〕
本発明において(B)特定分散剤は、顔料吸着性基を含む構成単位を含有する。
ここで顔料吸着性基としては、顔料に吸着性を有する基であれば、どのような構造の基でもよい。
また、顔料吸着性基としては、有機色素に含まれる複素環と同一又は類似の骨格を有する複素環の残基、酸性基、塩基性基などが好ましく、分散安定性の観点から有機色素に含まれる複素環と同一又は類似の骨格を有する複素環の残基(以下、適宜「特定複素環残基」と称する。)であることがより好ましい。
また、これら顔料吸着性基は、特定複素環残基、酸性基、塩基性基を2種以上組み合わせることも好ましい態様である。
【0066】
顔料吸着性基としての特定複素環残基は、前記(A)顔料の項で挙げた有機顔料や併用される油溶性染料、水溶性染料等に由来する複素環残基が挙げられ、好ましくは有機顔料に由来する複素環残基である。
なお、本発明の顔料分散物が顔料として有機顔料を含有する場合には、当該有機顔料に含まれる複素環と同一又は類似の構造を有する複素環由来の複素環残基であることが効果の観点からは好ましい。
具体的には、例えば、本発明の顔料分散物が(A)顔料としてキナクリドン系顔料を用いた場合には、顔料吸着性基としての複素環残基は、キナクリドンが有する複素環構造と類似する構造であるアクリドン及びアントラキノン等から選択される複素環由来の複素環残基が特に好適に用いられる。これは、複素環残基に由来するVan-der-Waals相互作用が作用するため、顔料との吸着性が非常に良好であるものと考えられる。
【0067】
特定複素環残基としては、分子中に水素結合基を少なくとも1つ有する複素環残基が好ましく、具体例としては、例えば、チオフェン、フラン、キサンテン、ピロール、イミダゾール、イソインドリン、イソインドリノン、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、キナクリドン、アントラキノン、フタルイミド、キナルジン、及び、キノフタロン等から水素原子を1つ除いた残基が挙げられる。これらのなかでも、ベンズイミダゾロン、インドール、キノリン、カルバゾール、アクリジン、アクリドン、アントラキノン、キナクリドンおよびフタルイミドに由来する複素環残基が特に好ましい。
【0068】
このような特定複素環残基を有する構造単位としては、下記一般式(3)で表される構造単位であることが好ましい。
下記一般式(3)で示される構造単位を有する特定分散剤は、(A)顔料と(B)特定分散剤との間での強力な吸着効果、また顔料表面へ吸着した特定分散剤の高分子鎖間での立体反発効果による著しい分散安定性の向上が可能となる。
【0069】
【化7】

【0070】
一般式(3)中、Rは、水素原子、又はメチル基を表す。Wは−CO-、−COO-、−CONR-、−OCO−、又はフェニレン基を表す。Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。Yは複素環残基を表す。
【0071】
一般式(3)中、Wは、−CO−、−COO−、−CONR−、−OCO−、又はフェニレン基を表し、これらのうち、−COO−、−CONH−、フェニレン基が好ましく、さらには−COO−、フェニレン基が特に好ましい。
は、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表し、アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−ヒドロキシエチル基、フェニルメチル基、フェニルエチル基などが挙げられ、アリール基としては、例えば、フェニル基などが挙げられる。Rとしては、水素原子、メチル基、又は、エチル基が好ましい。
【0072】
一般式(3)中、Xは単結合又は2価の連結基を表す。
が2価の連結基を表す場合の連結基としては、例えば、直鎖、分岐若しくは環状のアルキレン基、アラルキレン基またはアリーレン基が挙げられ、さらに、これらの基を2以上組み合わせた連結基も挙げられる。
ここで、連結基Xに導入可能な置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基等のアルキル基、ヒドロキシ基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、ハロゲン基、チオエーテル基、およびトリアルキルシリル基、アルコキシシリル基等の含シリル元素官能基などが挙げられ、これらの中でもアルキル基、ヒドロキシ基、アルコキシ基が好ましい。
【0073】
がアルキレン基を表わす場合のアルキレン基としては、炭素数1〜10のアルキレン基が好ましく、炭素数1〜4のアルキレン基がより好ましい。具体的には、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基等が挙げられ、なかでも、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等は特に好ましい。
がアラルキレン基を表わす場合のアラルキレン基としては、炭素数7〜13のアラルキレン基が好ましく、具体的には、例えば、ベンジリデン基、シンナミリデン基等が挙げられる。
がアリーレン基を表わす場合のアリーレン基としては、炭素数6〜12のアリーレン基が好ましく、具体的には、例えば、フェニレン基、クメニレン基、メシチレン基、トリレン基、キシリレン基等が挙げられ、なかでもフェニレン基は特に好ましい。
【0074】
また、Xで表される2価の連結基中には、−NR14−、−COO−、−OCO−、−O−、−SONH−、−NHSO−、−NHCOO−、−OCONH−、−NHCONH−、又は複素環から誘導される基が連結基として介在していてもよい。
ここで、R14及びR15は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を表し、水素原子、メチル基、エチル基、及び、プロピル基等が好適に挙げられる。
【0075】
で表される連結基の中でも、単結合、炭素数1〜8個のアルキレン基、−COO−、−O−、−NHCOO−、−OCONH−、若しくは−NHCONH−が結合基として介在した炭素数1〜8個のアルキレン基、又は2−ヒドロキシプロピレン基が好ましく、単結合、炭素数1〜8個のアルキレン基がより好ましく、メチレン基、エチレン基、2−ヒドロキシプロピレン基が特に好ましい。
【0076】
一般式(3)中、Yは複素環残基を表すが、複素環残基は前述した特定複素環残基の具体例が挙げられ、好ましい範囲も同様である。
以下に、本発明の(B)特定分散剤が含む顔料吸着性基を含む構造単位として、前記一般式(3)で表される構造単位の好ましい具体例を以下に挙げるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0077】
【化8】

【0078】
【化9】

【0079】
顔料吸着性基としての塩基性基は、塩基性を有する基であればよい。特に好ましい化合物の例としては、1級、2級、3級アミン構造を有する化合物、アミド構造を有する化合物、ピリジン、イミダゾールのような含窒素ヘテロ環構造を有する化合物などが挙げられ、これらの中でも1級、2級、3級アミン構造を有する化合物、アミド構造を有する化合物、ピリジン、イミダゾールのような含窒素ヘテロ環構造を有する化合物を含有するモノマーを共重合成分としていることが特に好ましい。
【0080】
前記塩基性基を有する化合物のモノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、1−(N,N−ジメチルアミノ)−1、1−ジメチルメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノヘキシル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジイソプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−n−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−i−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリノエチル(メタ)アクリレート、ピペリジノエチル(メタ)アクリレート、1−ピロリジノエチル(メタ)アクリレート、N,N−メチル−2−ピロリジルアミノエチル(メタ)アクリレート、及びN,N−メチルフェニルアミノエチル(メタ)アクリレート(以上、(メタ)アクリレート類);
【0081】
ジメチル(メタ)アクリルアミド、ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、ジ−n−ブチル(メタ)アクリルアミド、ジ−i−ブチル(メタ)アクリルアミド、モルホリノ(メタ)アクリルアミド、ピペリジノ(メタ)アクリルアミド、N−メチル−2−ピロリジル(メタ)アクリルアミド及びN,N−メチルフェニル(メタ)アクリルアミド(以上、(メタ)アクリルアミド類);
2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、2−(N,N−ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジエチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、1−(N,N−ジメチルアミノ)−1,1−ジメチルメチル(メタ)アクリルアミド及び6−(N,N−ジエチルアミノ)ヘキシル(メタ)アクリルアミド(以上、アミノアルキル(メタ)アクリルアミド類);
p−ビニルベンジル−N,N−ジメチルアミン、p−ビニルベンジル−N,N−ジエチルアミン、p−ビニルベンジル−N,N−ジヘキシルアミン(以上ビニルベンジルアミン類);2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾールを挙げることができる。これらのうち、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、3−(N,N−ジエチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル(メタ)アクリルアミド、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、などが好適に挙げられる。
【0082】
顔料吸着性基としての酸性基は、酸性を有する基であればよいが、特に好ましい例としてはカルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基などが挙げられ、これらの中でもカルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基を有するモノマーを共重合成分としていることが特に好ましい。
前記酸性基を有する化合物のモノマーとしては、例えば、不飽和カルボン酸(例、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸及びフマル酸)、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシプロピルヘキサヒドロフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルマレイン酸、(メタ)アクリロイロキシエチルアシッドホスフェート、3-クロロ-2-アシッドホスホキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイロキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイロキシポリプロピレングリコールアシッドホスフェート、(メタ)アクリロイロキシヘキシルアシッドホスフェート、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、などが好適に挙げられる。
【0083】
特定分散剤が有する顔料吸着性基を含む構成単位の含有量は、特定分散剤に対して、2質量%〜50質量%であることが好ましく、5質量%〜40質量%がより好ましく、5質量%〜30質量%が最も好ましい。顔料吸着性基を含む構成単位の含有量が、この範囲において、顔料に対する特定分散剤の吸着性が十分に得られ、また、顔料に吸着していない特定分散剤に起因すると考えられる粘度の増加も抑制され、顔料分散物の粘度も適正な範囲に維持される。
【0084】
本発明において、特定分散剤は、さらに構成単位として末端にエチレン性不飽和2重結合を有する重合性オリゴマーを共重合単位として含むグラフト共重合体であることが好ましい態様である。なお、このような末端にエチレン性不飽和二重結合を有する重合性オリゴマーは、所定の分子量を有する化合物であることからマクロモノマーとも呼ばれる。
【0085】
前記重合性オリゴマーは、ポリマー鎖部分と、エチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基部分とからなる。前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基部分は、前記重合性オリゴマーにおいて、前記ポリマー鎖の一端にのみ存在していることが、所望のグラフト重合体を得るという観点からは好ましい。
前記エチレン性不飽和二重結合を有する重合可能な官能基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基などが好適に挙げられ、(メタ)アクリロイル基が特に好ましい。
前記重合性オリゴマー(マクロモノマー)の分子量としては、ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)で、1000〜10000が好ましく、2000〜9000がより好ましい。
【0086】
前記ポリマー鎖部分としては、例えば、アルキル(メタ)アクリレート、スチレン及びその誘導体、アクリロニトリル、酢酸ビニル、並びに、ブタジエンからなる群より選ばれる少なくとも一種のモノマーから形成される単独重合体又は共重合体、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリカプロラクトン、などが好適に挙げられる。
【0087】
前記重合性オリゴマーの好ましい例としては、下記一般式(4)で表されるオリゴマーが挙げられる。
【0088】
【化10】

【0089】
一般式(4)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。Rは、炭素数1〜12のアルキレン基(好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基であり、置換基(例えば、水酸基)を有していてもよく、更にエステル結合、エーテル結合、アミド結合等を介して連結していてもよい。)を表す。Uは、フェニル基、炭素数1〜4のアルキル基を有するフェニル基、又は−COOR17(但し、R17は、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、又は炭素数7〜10のアリールアルキル基を表す。)を表し、フェニル基、又は−COOR18(但し、R18は、炭素数1〜12のアルキル基を表す。)であることが好ましい。nは、20〜200の整数である。
【0090】
前記一般式(4)で表されるオリゴマー(マクロモノマー)の好ましい例としては、ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリ−n−ブチル(メタ)アクリレート、ポリ−i−ブチル(メタ)アクリレート、ポリスチレンの分子末端の一個に(メタ)アクリロイル基が結合したポリマーなどが挙げられる。
このような重合性オリゴマーの市販品としては、例えば、片末端メタクリロイル化ポリスチレンオリゴマー(Mn=6000、商品名:AS−6、東亜合成化学工業(株)製)、片末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレートオリゴマー(Mn=6000、商品名:AA−6、東亜合成化学工業(株)製)及び片末端メタクリロイル化ポリ−n−ブチルアクリレートオリゴマー(Mn=6000、商品名:AB−6、東亜合成化学工業(株)製)などが挙げられる。
【0091】
本発明において用いられる重合性オリゴマーとしては、前記一般式(4)で表される重合性オリゴマーの他、下記一般式(5)で表されるオリゴマーも好ましい。
【0092】
【化11】

【0093】
上記一般式(5)において、Rは、水素原子又はメチル基を表す。
10は、炭素数1〜8のアルキレン基を表し、炭素数1〜6のアルキレン基が好ましく、炭素数2〜3のアルキレン基がより好ましい。
は、−OR19、又はOCOR20を表す。R19、及びR20は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基(炭素数1〜18のアルキル基が好ましい。)、又はアリール基(炭素数1〜18のアルキル基で置換されたフェニル基が好ましい。)を表す。
mは、2〜200の整数を表し、5〜100の整数が好ましく、10〜100の整数がより好ましい。
【0094】
前記一般式(5)で表されるオリゴマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレートなどが好適に挙げられる。これらは、市販品であってもよいし、適宜合成したものであってもよい。
【0095】
前記一般式(5)で表されるオリゴマーの市販品としては、例えば、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(商品名:NKエステルM−40G,M−90G,M−230G(以上、東亜合成化学工業(株)製);商品名:ブレンマーPME−100,PME−200,PME−400,PME−1000,PME−2000、PME−4000(以上、日本油脂(株)製))、ポリエチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーPE−90、PE−200、PE−350,日本油脂(株)製)、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーPP−500、PP−800、PP−1000,日本油脂(株)製)、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマー70PEP−370B,日本油脂(株)製)、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマー55PET−800,日本油脂(株)製)、ポリプロピレングリコールポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート(商品名:ブレンマーNHK−5050,日本油脂(株)製)などが挙げられる。
【0096】
特定分散剤は、更に、これらと共重合可能な他のモノマーを共重合成分としていてもよい。
前記他のモノマーとしては、例えば、芳香族ビニル化合物(例、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2−ビニルピリジン、4−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾールなど)、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレートなど)、(メタ)アクリル酸アルキルアリールエステル(例、ベンジル(メタ)アクリレートなど)、(メタ)アクリル酸置換アルキルエステル(例、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなど)、カルボン酸ビニルエステル(例、酢酸ビニル及びプロピオン酸ビニル)、シアン化ビニル(例、(メタ)アクリロニトリル及びα−クロロアクリロニトリル)、脂肪族共役ジエン(例、1、3−ブタジエン及びイソプレン)などが挙げられる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルキルアリールエステル、カルボン酸ビニルエステルなどが好ましい。
【0097】
特定分散剤は、前記一般式(1)で表される構造単位、前記一般式(3)で表される構造単位、および前記重合性オリゴマー(マクロモノマー)に由来する構造単位とからなる共重合体、あるいは、前記一般式(1)で表される構造単位、前記一般式(3)で表される構造単位、前記重合性オリゴマー(マクロモノマー)に由来する構造単位、および前記塩基性基を有するモノマーに由来する構造単位とからなる共重合体であるのが好ましい。
また、前記重合性オリゴマーに由来する構造単位としては、下記一般式(A)で表される構成単位を含む重合体が特に好ましい。
【0098】
【化12】

【0099】
上記一般式(A)において、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基を表す。Rは、炭素数1〜12のアルキレン基(好ましくは炭素数2〜4のアルキレン基であり、置換基(例えば、水酸基)を有していてもよく、更にエステル結合、エーテル結合、アミド結合等を介して連結していてもよい。)を表す。Uは、フェニル基、炭素数1〜4のアルキル基を有するフェニル基、又は−COOR17(但し、R17は、炭素数1〜6のアルキル基、フェニル基、又は炭素数7〜10のアリールアルキル基を表す。)を表し、フェニル基、又は−COOR18(但し、R18は、炭素数1〜12のアルキル基を表す。)であることが好ましい。nは、20〜200の整数である。
【0100】
また、前記重合性オリゴマーに由来する構造単位としては、下記一般式(B)で表される構成単位を含む重合体も好ましい態様の一つである。
【0101】
【化13】

【0102】
上記一般式(B)において、Rは、水素原子又はメチル基を表す。R10は、炭素数1〜8のアルキレン基を表し、炭素数1〜6のアルキレン基が好ましく、炭素数2〜3のアルキレン基がより好ましい。Xは、−OR19、又はOCOR20を表す。R19、及びR20は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基(炭素数1〜18のアルキル基が好ましい。)、又はアリール基(炭素数1〜18のアルキル基で置換されたフェニル基が好ましい。)を表す。mは、2〜200の整数を表し、5〜100の整数が好ましく、10〜100の整数がより好ましい。
【0103】
特定分散剤において、前記重合性オリゴマー(マクロモノマー)に由来する構造単位の含有量としては、特定分散剤に対して、30質量%〜95質量%が好ましく、50質量%〜90質量%がより好ましい。この範囲とすることにより、顔料吸着性と高分子鎖の立体反発による分散安定性とを両立できる。
また、特定分散剤中の前記窒素含有基を有するモノマーに由来する構造単位の含有量としては、特定分散剤に対して、1質量%〜30質量%が好ましく、2質量%〜20質量%がより好ましい。前記窒素含有基を有するモノマーは顔料への吸着性が良好で、分散安定性がさらに良好となるが、カチオン重合系インクにおいては、前記窒素含有基を有するモノマーの量が多すぎると感度低下の原因となる。
特定分散剤が更に、これらと共重合可能な前記他のモノマーを構成成分として含む場合、特定分散剤に対する前記他のモノマーに由来する構造単位の含有量は、5質量%〜30質量%が好ましい。
【0104】
特定分散剤の重量平均分子量(Mw)としては、1000〜200000が好ましく、10000〜200000がより好ましく、10000〜150000が最も好ましい。特定分散剤の重量平均分子量がこの範囲であることにより、分散安定性に優れ、かつ分散剤自体によるインク粘度上昇を抑制したインク組成物を得ることができる。
重量平均分子量(Mw)は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(キャリア:テトラヒドロフラン)により測定することができ、ポリスチレン換算重量平均分子量として算出される。
【0105】
以下に、特定分散剤の好ましい具体例を示す。なお、本発明は、これらの具体例に何ら制限されるものではない。なお、以下の具体例において、「/」の前後に表示される化合物は、該重合体を構成する各構成成分であることを意味している。
【0106】
1)例示化合物M−1/例示構造単位M−11/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:125,000)、
2)例示化合物M−1/例示構造単位M−14/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:120,000)、
3)例示化合物M−1/例示構造単位M−16/2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:105,000)、
4)例示化合物M−3/例示構造単位M−14/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:140,000)、
5)例示化合物M−5/例示構造単位M−13/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:145,000)、
6)例示化合物M−5/例示構造単位M−15/2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:10/10/10/70、Mw:170,000)、
7)例示化合物M−6/例示構造単位M−22/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:140,000)、
8)前記例示化合物M−7/前記例示構造単位M−23/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/15/5/75、Mw:180,000)、
9)前記例示化合物M−8/前記例示構造単位M−15/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/10/10/75、Mw:175,000)、
10)前記例示化合物M−10/前記例示構造単位M−11/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:3/20/10/68、Mw:120,000)、
【0107】
11)前記例示化合物M−10/前記例示構造単位M−14/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/10/5/80、Mw:190,000)、
12)前記例示化合物M−10/前記例示構造単位M−16/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:120,000)、
13)前記例示化合物M−10/前記例示構造単位M−19/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/30/10/55、Mw:80,000)、
14)前記例示化合物M−1/前記例示構造単位M−11/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:10/20/70、Mw:140,000)、
15)前記例示化合物M−1/前記例示構造単位M−14/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:10/20/70、Mw:145,000)、
16)前記例示化合物M−1/前記例示構造単位M−16/末端メタクリロイル化ポリブチルアクリレート共重合体(組成質量比:10/20/70、Mw:130,000)、
17)前記例示化合物M−1/前記例示構造単位M−12/ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート共重合体(組成質量比:10/20/70、Mw:70,000)、
18)前記例示化合物M−1/前記例示構造単位M−13/末端メタクリロイル化ポリカプロラクトン共重合体(組成質量比:10/20/70、Mw:80,000)、
19)前記例示化合物M−1/前記例示構造単位M−17/メタクリル酸/末端メタクリロイル化ポリブチルアクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:120,000)、
20)前記例示化合物M−1/前記例示構造単位M−24/2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート/ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/35/30、Mw:132,000)、
【0108】
21)前記例示化合物M−1/前記例示構造単位M−14/2−ビニルピリジン/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:110,000)、
22)前記例示化合物M−3/前記例示構造単位M−15/p−ビニルベンジル−N,N−ジメチルアミン/ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:100,000)、
23)前記例示化合物M−3/前記例示構造単位M−16/2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート/末端メタクリロイル化ポリn−ブチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:140,000)、
24)前記例示化合物M−3/前記例示構造単位M−16/スチレン/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/5/70、Mw:124,000)、
25)前記例示化合物M−6/前記例示構造単位M−14/N,N−ジメチルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:150,000)、
26)前記例示化合物M−6/前記例示構造単位M−16/メタクリル酸/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:100,000)、
27)前記例示化合物M−6/前記例示構造単位M−19/2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:135,000)、
28)前記例示化合物M−10/前記例示構造単位M−11/4−ビニルピリジン/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:120,000)、
29)前記例示化合物M−10/前記例示構造単位M−14/2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート/ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:60,000)、
30)前記例示化合物M−10/前記例示構造単位M−16/2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成重質比:5/20/10/65、Mw:120,000)、
31)前記例示化合物M−10/前記例示構造単位M−23/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/10/65、Mw:120,000)、
32)前記例示化合物M−1/2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート共重合体(組成質量比:5/20/75、Mw:146,000)
【0109】
前述した特定分散剤の好ましい具体例は、いずれもグラフト重合体であるが、このようなグラフト重合体は、例えば、以下のようにして合成することができる。即ち、前記重合性オリゴマーと、所望により併用される前記窒素原子含有基を有するモノマーや前記他のモノマーとを、溶媒中でラジカル重合させることにより得ることができる。該ラジカル重合の際、一般に、ラジカル重合開始剤が使用されるが、該ラジカル重合開始剤に加えて、更に連鎖移動剤(例、2−メルカプトエタノール及びドデシルメルカプタン)を使用してもよい。
【0110】
本発明においては、(B)特定分散剤としては、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0111】
本発明の顔料分散物における(B)特定分散剤の含有量としては、(A)顔料に対して、2質量%〜100質量%が好ましく、5質量%〜50質量%がより好ましい。(B)特定分散剤の(A)顔料に対する含有量が、上記範囲内であると、顔料の分散性が良好であり、顔料の凝集が防止されて分散安定性が良好である。また、顔料分散物の粘度上昇が抑えられ、顔料分散物の粘度を好ましい範囲に維持することができる。
【0112】
なお、本発明の顔料分散物又はインク組成物においては、本発明の効果を害さない限りにおいて、特定分散剤に加えて、公知の顔料分散剤を併用することができる。この場合の公知の顔料分散剤の顔料分散物における含有量としては、特定分散剤の含有量の50質量%以下であることが好ましい。
【0113】
<分散媒>
本発明の顔料分散物において、顔料などの諸成分を分散させる際に使用する分散媒としては、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、後述する重合性化合物のうち、低分子量の重合性化合物を分散媒としてもよいし、溶剤を分散媒としてもよい。
分散媒として溶剤を用いる場合、該溶剤としては、公知のアルコール系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤などが好ましく用いられる。具体的には、アルキレンオキシドモノアルキルエーテル、アルキレンオキシドモノアルキルエーテルアセテート、アルキレングリコールジアセテート、ジカルボン酸ジアルキルエステルが好ましい。また、分散媒として用いられる低分子量の重合性化合物としては、(メタ)アクリレート類、ジビニルエーテル類、オキセタン類などが好ましく、ジビニルエーテル類、オキセタン類などが特に好ましい。
ただし、本発明の顔料分散物を後述する放射線硬化性のインク組成物等の着色硬化性組成物に適用する場合には、例えば、インク組成物は、被記録媒体上に付与後、硬化させるので、非硬化性の溶剤を含まないことが好ましい。これは、硬化された画像中に溶剤が残留すると、画像の耐溶剤性が劣化する懸念が生じるためである。このため、インク組成物においては、分散媒として、後述する(C)重合性化合物を用い、その中でも、粘度が低い重合性化合物を選択して分散媒として用いることが、分散適性やインク組成物のハンドリング性の点で好ましい。
また、本発明の顔料分散物をインク組成物に適用する場合には、揮発性溶剤を含まないことが好ましいが、沸点が180℃以上の高沸点溶剤であれば、少量を添加してもよい。
【0114】
〔インク組成物〕
本発明のインク組成物は、本発明の顔料分散物を含有することを特徴とする。
本発明のインク組成物は、特定分散剤を含有する顔料分散物を含むことから、顔料の分散性、および分散安定性が良好で、粒子径の小さい顔料粒子を用いた場合でも、均一で安定なインク組成物とすることができる。
このようなインク組成物においては、(A)顔料が色材として機能するものであり、また、粒子径の小さい顔料粒子が、(B)特定分散剤の機能によりインク組成物中に、均一、且つ、安定に分散された状態となる。その結果、本発明のインク組成物は、発色性に優れ、鮮明な色調を有すると共に、高い着色力を有し、高画質の画像を得ることが可能となる。
【0115】
本発明のインク組成物は、油性インク、水性インク、硬化型インクなど、種々の用途に適用することができる。
中でも、顔料の分散性及び分散安定性に優れることから、硬化型インクに適用することが好ましく、特に、硬化型インクの中でもインクジェット用途に適用することが好ましい。
【0116】
本発明のインク組成物中の顔料は、その含有量が以下の範囲となるように用いることが好ましい。
即ち、顔料が有機顔料である場合には、インク組成物中の有機顔料の含有量は、インク組成物の固形分に対して、1質量%〜20質量%が好ましく、2質量〜15質量%がより好ましい。
また、顔料が無機顔料である場合には、インク組成物中の無機顔料の含有量は、インク組成物の固形分に対して、1質量%〜30質量%が好ましく、2質量%〜25質量%がより好ましい。
【0117】
以下、本発明のインク組成物について、好適な用途である硬化型インクに適用した場合を具体的に説明する。なお、本発明のインク組成物はこの用途、態様に限定されるものではない。
【0118】
本発明のインク組成物には、本発明の顔料分散物の他に、必要に応じて、適宜、選択したその他の成分を含有させることができる。含有させることが好ましい成分としては、(C)重合性化合物、(D)光重合開始剤が挙げられ、これらの成分を含むことにより、活性エネルギー線の照射によりインク組成物が硬化することになる。
インク組成物を硬化させる活性エネルギー線としては、その照射によりインク組成物中で硬化反応の開始種を発生させ得るエネルギーを付与することができるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、400〜200nmの紫外線、遠紫外線、可視光線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、α線、γ線、X線、分子線、イオンビームなどが挙げられる。本発明においては、これらの中でも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点から、紫外線及び電子線が好ましく、特に紫外線が好ましい。
【0119】
<(C)重合性化合物>
本発明のインク組成物は、(C)重合性化合物を含有することが好ましい。(C)重合性化合物としては、何らかのエネルギー付与により重合反応を生起し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、モノマー、オリゴマー、ポリマーの種を問わず使用することができるが、特に、所望により添加される(D)光重合開始剤から発生する開始種により重合反応を生起する、カチオン重合性化合物として知られる各種公知の重合性のモノマーが好ましい。
【0120】
重合性化合物は、顔料分散物をインク組成物に適用する場合であれば、反応速度、硬化膜物性、インク物性等を調整する目的で、1種又は複数を混合して用いることができる。
また、重合性化合物は、単官能化合物であっても、多官能化合物であってもよい。単官能化合物の割合が大きいと硬化物は柔軟なものになりやすく、多官能化合物の割合が大きいと硬化性に優れる傾向がある。従って、単官能化合物と多官能化合物とを併用することが好ましく、単官能化合物と多官能化合物との割合は用途に応じて任意に決定されるものである。
【0121】
−カチオン重合性化合物−
本発明において用いうるカチオン重合性化合物は、後述する放射線の照射により酸を発生する化合物から発生する酸により重合反応を開始し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、カチオン重合性化合物として知られる各種公知のカチオン重合性モノマーを使用することができる。カチオン重合性モノマーとしては、例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892号、同2001−40068号、同2001−55507号、同2001−310938号、同2001−310937号、同2001−220526号などの各公報に記載されているエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、(B)特定分散剤に含まれない他の構造のオキセタン化合物などが挙げられる。
【0122】
本発明のインク組成物に用いることのできるエポキシ化合物としては、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、及び、脂肪族エポキシドなどが挙げられ、この中でも硬化性の観点で、芳香族エポキシド、脂環式エポキシドが好ましく、脂環式エポキシドが特に好ましい。
芳香族エポキシドとしては、少なくとも1個の芳香族核を有する多価フェノールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体とエピクロルヒドリンとの反応によって製造されるジ又はポリグリシジルエーテルが挙げられ、例えば、ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジ又はポリグリシジルエーテル、並びにノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。また、芳香族エポキシドとしてはスチレン類を過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することによって得られる、スチレンオキサイド類も使用することができる。
【0123】
脂環式エポキシドとしては、少なくとも1個のシクロへキセン又はシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することによって得られる、シクロヘキセンオキサイド又はシクロペンテンオキサイド含有化合物が好ましく挙げられる。
インク組成物に用いることのできるエポキシドの種類、具体的化合物、好ましい例としては、特開2008−13646号公報の段落番号〔0037〕〜〔0040〕に記載の化合物などを挙げることができ、これらを本発明にも適用することができる。
上記エポキシ化合物に加えて多官能エポキシ化合物の例として、エポリードGT−300(商品名、3官能、ダイセル化学工業(株)社製)、エポリードGT―400(商品名、4官能、ダイセル化学工業(株)社製)、エポリードPB―3600(商品名、ダイセル化学工業(株)社製)等も好ましく挙げられる。
【0124】
ビニルエーテル化合物としては、単官能、多官能のいずれのものも用いることができ、本発明の重合性組成物に用いることのできるビニルエーテルの種類、具体的化合物、及び好ましい例としては、特開2008−13646号公報の段落番号〔0042〕〜〔0044〕に記載の化合物などを挙げることができ、これらを本発明にも適用することができる。
このなかでも、ジ又はトリビニルエーテル化合物が、硬化性、被記録媒体との密着性、形成された画像の表面硬度などの観点から好ましく、特にジビニルエーテル化合物が好ましい。
【0125】
特定分散剤に含まれない他の構造のオキセタン化合物としては、単官能、多官能のいずれのオキセタン化合物も用いることができ、特開2001−181386号、特開2001−220526号、同2001−310937号、同2003−341217号、特開2004−91556号の各公報に記載される如き、公知のオキセタン化合物を任意に選択して使用できる。これらのうち、オキセタン環を1〜4個有する化合物が好ましい。このような化合物を使用することで、インク組成物の粘度をハンドリング性の良好な範囲に維持することが容易となり、また、硬化後のインク組成物と被記録媒体との高い密着性を得ることができる。本発明のインク組成物に用いることのできるオキセタン化合物の種類、具体的化合物、および好ましい例としては特開2003−341217号公報、段落番号[0021]〜[0084]、特開2004−91556号公報、段落番号[0022]〜[0058]、特開2008−13646号公報の段落番号〔0045〕〜〔0062〕に記載の化合物などを挙げることができ、これらを本発明にも適用することができる。
【0126】
また本発明のインク組成物には、カチオン性でない重合性化合物も使用可能であり、ラジカル重合性のエチレン性不飽和化合物を含有することも好ましい。エチレン性不飽和化合物は目的のインク組成物の粘度、顔料の分散安定性、硬化感度、硬化膜物性を鑑みて、本発明の効果を損ねない範囲で含有することができる。エチレン性不飽和化合物としては、公知のラジカル重合性モノマーを用いることができる。これらの例としては、たとえば、例えば特開2008−208190号公報や同2008−266561号公報に記載の(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、ビニルエーテル化合物、スチレン化合物、N−ビニル化合物などのモノマーが挙げられる。
これらのうち、本発明においては、ラジカル重合性モノマーとしては、(メタ)アクリレート化合物、(メタ)アクリルアミド化合物、から選ばれる1種または複数のモノマーを用いることが好ましい。硬化速度、インク組成物の粘度、印字サンプルの膜物性の観点から重合性官能基を複数有する多官能の重合性モノマーと単官能の重合性モノマーを併用することも好ましい。
【0127】
本発明のインク組成物は、カチオン重合性モノマーを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよいが、硬化時の収縮を効果的に抑制する観点からは、オキセタン化合物とエポキシ化合物をともに1種以上併用すること、あるいはオキセタン化合物とエポキシ化合物とから選ばれる少なくとも1種の化合物と、ビニルエーテル化合物とを併用することが好ましい。また、特開2005−2191号公報等に記載される同一分子内にエポキシ基とオキセタン基をともに有する化合物も好ましく用いられる。
【0128】
インク組成物における(C)重合性化合物の含有量としては、硬化性の観点から、インク組成物全質量に対し、50質量%〜95質量%が好ましく、60質量%〜92質量%がより好ましく、70質量%〜90質量%が特に好ましい。
【0129】
<(D)光重合開始剤>
本発明のインク組成物は、硬化感度向上の観点から、(D)光重合開始剤を加えることができる。
光重合開始剤としては、(C)重合性化合物に応じて、選択されればよく、カチオン重合の光重合開始剤であるのが好ましく、下記の(D−1)光重合開始剤が特に好ましい。
【0130】
(D−1)光重合開始剤は、光の作用、又は、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、化学変化を生じ、ラジカル、酸、及び塩基のうちの少なくともいずれか1種を活性種として生成する化合物である。
前記光重合開始剤としては、照射される活性光線、例えば、400〜200nmの紫外線、遠紫外線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線、イオンビームなどに感度を有するものを適宜選択して使用することができる。
本発明のインク組成物においては、先に述べたように、紫外線照射が好適なことから、紫外線に感応性を有する重合開始剤を選択することが好ましい。
【0131】
(D−1)光重合開始剤の具体例としては、Bruce M.Monroeら著、Chemical Revue,93,435(1993).や、R.S.Davidson著、Journal of Photochemistry and biology A :Chemistry,73.81(1993).や、J.P.Faussier”Photoinitiated Polymerization−Theory and Applications”:Rapra Review vol.9,Report,Rapra Technology(1998).や、M.Tsunooka et al.,Prog.Polym.Sci.,21,1(1996).などに記載の化合物、有機エレクトロニクス材料研究会編「イメージング用有機材料」ぶんしん出版(1993年)の187〜192ページ参照)に記載の化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物、などが挙げられる。更には、F.D.Saeva,Topics in Current Chemistry,156,59(1990).、G.G.Maslak,Topics in Current Chemistry,168,1(1993).H.B.Shuster et al,JACS,112,6329(1990).I.D.F.Eaton et al,JACS,102,3298(1980).などに記載の、増感色素の電子励起状態との相互作用を経て、酸化的又は還元的に結合解裂を生じる化合物なども挙げられる。
【0132】
このような光重合開始剤としては、放射線の照射により分解して酸を発生する、ジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩などのオニウム塩化合物、イミドスルホネート、オキシムスルホネート、ジアゾジスルホン、ジスルホン、o−ニトロベンジルスルホネート等のスルホネート化合物などを挙げることができる。本発明の重合性組成物に用いることのできる光カチオン重合開始剤の種類、具体的化合物、および好ましい例としては、特開2008−13646号公報段落番号〔0066〕〜〔0122〕に記載の化合物などを挙げることができる。
【0133】
(D)重合開始剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
本発明のインク組成物中の(D)光重合開始剤の含有量としては、インク組成物全質量に対し、0.1質量%〜20質量%が好ましく、0.5質量%〜10質量%がより好ましく、1質量%〜7質量%が更に好ましい。
【0134】
<その他の成分>
本発明のインク組成物は、(A)顔料、(B)特定分散剤、(C)重合性化合物および(D)光重合開始剤の他に、目的に応じて、適宜選択したその他の成分を含有することができる。
その他の成分としては、例えば、増感色素、安定剤、樹脂、界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、褪色防止剤、吐出安定剤、密着性向上剤、レベリング添加剤、マット剤、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0135】
[増感色素]
インク組成物には、光重合開始剤の感度を向上させる目的で、増感色素を添加してもよい。増感色素としては、以下の化合物類に属しており、かつ350nmから450nm域に吸収波長を有するものが好ましい。
【0136】
増感色素としては、例えば、多核芳香族類(例えば、ピレン、ペリレン、トリフェニレン、アントラセン)、キサンテン類(例えば、フルオレッセイン、エオシン、エリスロシン、ローダミンB、ローズベンガル)、シアニン類(例えばチアカルボシアニン、オキサカルボシアニン)、メロシアニン類(例えば、メロシアニン、カルボメロシアニン)、チアジン類(例えば、チオニン、メチレンブルー、トルイジンブルー)、アクリジン類(例えば、アクリジンオレンジ、クロロフラビン、アクリフラビン)、アントラキノン類(例えば、アントラキノン)、スクアリウム類(例えば、スクアリウム)、クマリン類(例えば、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン)が挙げられる。
【0137】
また、増感色素としては、特開2008−214395号公報の段落番号〔0085〕〜〔0098〕に記載の化合物、下記記載の化合物(A−1)〜(A−4)が好ましく挙げられる。
【0138】
【化14】

【0139】
[安定剤]
インク組成物には、経時安定性の向上を目的として安定化剤を含有していても良い。安定化剤としては、カチオン重合性化合物を含有する場合にはアミン化合物等の塩基性化合物、ラジカル重合性化合物を含有する場合にはフェノール化合物、ニトロキシド化合物、ヒドロキノン化合物、金属含有化合物等が挙げられる。特に、カチオン重合性化合物を含有する場合には、経時安定性の向上に加え、吐出不良の原因となるヘッド内およびノズルプレート上などでの硬化の抑制を目的として塩基性化合物を添加してもよい。用いることのできる塩基性化合物の例としては、特開2003−341217号公報に記載の化合物などが挙げられる。また特開2008−189776号公報に記載のヒンダードアミン化合物は、高感度を維持しながら安定性を向上させることができるため、特に好ましく用いることができる。
【0140】
[樹脂]
本発明のインク組成物は、記録した画像の膜物性を調整する目的で、(B)特定分散剤とは異なる樹脂を含有していてもよい。
この樹脂としては、例えば、アクリル系重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂、などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、本発明においては、樹脂に代えて公知のワックス類を使用してもよい。
【0141】
[界面活性剤]
本発明のインク組成物は、インク組成物の液物性を調整する目的で、界面活性剤を含有していてもよい。
界面活性剤としては、例えば、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、ベタイン性界面活性剤などが挙げられ、また、有機フルオロ化合物なども挙げられる。
【0142】
[紫外線吸収剤]
本発明のインク組成物は、記録画像の耐候性向上、退色防止の観点からは、紫外線吸収剤を含有していることが好ましく、また、インク組成物の安定性向上の観点からは、酸化防止剤を含有しているのが好ましく、また、記録画像の退色防止の観点からは、退色防止剤(例えば、各種の有機系及び金属錯体系化合物)を含有しているのが好ましく、また、インクジェット記録用途の場合には吐出安定性の観点から、吐出安定剤(例えば、チオシアン酸カリウム、硝酸リチウム、チオシアン酸アンモニウム、ジメチルアミン塩酸塩などの導電性塩類)を含有しているのが好ましく、また、被記録媒体との密着性を向上させる観点からは、密着性向上剤(例えば、極微量の有機溶剤や重合を阻害しないタッキファイヤー)を含有していてもよく、更に必要に応じて、レベリング添加剤、マット剤などを含有していてもよい。
【0143】
[インクジェット用インク組成物]
本発明のインク組成物の好ましい態様の一つは、インクジェット用インク組成物である。インクジェット用インク組成物は、活性エネルギー線硬化型のインク組成物として調製することができ、この場合、インク組成物を被記録媒体上に適用後、放射線を照射して硬化させるため、溶剤を含まないか、或いは、含んでも極少量であることが好ましい。これは、硬化されたインク画像中に、溶剤が残留すると、耐溶剤性の劣化、ブロッキング性の低下、硬化不良、残留する溶剤によるインク画像の経時的な物性の変化が懸念されるためである。このような観点から、分散媒として、重合性化合物を用い、なかでも、粘度が低い重合性化合物を選択することが分散適性やインク組成物のハンドリング性向上及びインクジェット吐出適性の観点から好ましい。
本発明の顔料分散物を適用してなるインク組成物は、活性放射線により高感度で硬化するとともに、顔料の分散安定性の低下に起因する増粘や着色性の低下の懸念がないため、後述するように、粘度安定性を要求されるインクジェット記録方法に適用されるインクジェット用インクに好適に使用される。
【0144】
<インク組成物の物性>
[粘度]
本発明のインク組成物の粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、吐出安定性を考慮すると、吐出時の温度において、2mPa・s以上30mPa・s以下が好ましく、20mPa・s以下がより好ましい。
また、インク組成物の室温(25℃)における粘度としては、10mPa・s以上200mPa・s以下が好ましく、100mPa・s以下がより好ましい。
前記室温(25℃)における粘度を高く設定することにより、多孔質な被記録媒体を用いた場合でも、該被記録媒体中へのインク浸透を防ぎ、未硬化モノマーの低減、臭気低減が可能となり、更に、インク液滴着弾時のドット滲みを抑えることができ、その結果として高画質が得られる点で有利である。
一方、前記室温(25℃)における粘度が、200mPa・sを超えると、インク組成物のデリバリーに問題が生じることがある。
なお、前記粘度は、例えば、円錐平板型回転粘度計(E型粘度計)を用いて測定することができる。
【0145】
[表面張力]
本発明のインク組成物の表面張力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、20〜30mN/mが好ましく、23〜28mN/mがより好ましい。
また、本発明のインク組成物を、ポリオレフィン、PET、コート紙、非コート紙等の各種被記録媒体に記録する場合には、滲み及び浸透の点で20mN/m以上が好ましく、濡れ性の点で30mN/m以下が好ましい。
なお、表面張力は、例えば、Wilhelmy法の表面張力計やDu Nouyの表面張力計を用いて測定することができる。
【0146】
<インク組成物の調製>
本発明のインク組成物の調製方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、上述の各成分を混合することにより製造することができる。なお、混合は、公知の混合器等を使用して公知の方法に従って行うことができる。
【0147】
<使用態様>
本発明のインク組成物は、各種の画像記録のためのインクとして好適に使用することができ、硬化型インクである場合にはインクジェット用途に特に好適である。
本発明におけるインクジェット記録方法は、被記録媒体上に、本発明の顔料分散物を含むインク組成物をインクジェット記録装置により吐出する工程、及び、吐出されたインク組成物に活性放射エネルギー線を照射して、該インク組成物を硬化する工程を含むことを特徴とする。
本発明のインク組成物をインクジェット方式に適用することで、非吸収性の被記録媒体上にも高品質の画像をデジタルデータに基づき直接形成し得ることから、本発明のインク組成物は大面積の印刷物の作製にも好適に使用される。
【0148】
また、本発明のインク組成物を用いて得られた印刷物は、画像部が紫外線などの活性放射線が照射されることで硬化されているので、その強度に優れる。このため、画像記録(画像形成)以外にも、例えば、平版印刷版のインク受容層(画像部)の形成などの種々の用途にも好適に使用することができる。
例えば、本発明のインク組成物は、通常の印刷に使用して、発色性に優れた鮮鋭な画像を形成しうるため、高品位な印刷物が得られるのみならず、レジスト、カラーフィルタ、光ディスクの製造にも好適に使用することができ、光造形材料としても有用である。
【0149】
−インクジェット記録−
ここで、本発明のインク組成物を用いたインクジェット記録について説明する。
インクジェット記録の方法、条件としては、上記方法を満たしていれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、インク組成物を40〜80℃に加熱して、該インク組成物の粘度を30mPa・s以下に調整した後、インクノズルヘッドから吐出することが、吐出安定性に優れる点で好ましい。
一般に、本発明のインク組成物のような放射線硬化型インク組成物では、概して一般の水性インクよりも高粘度であるため、画像記録時(印字時)の温度変動による粘度変動幅が大きい。そして、このインク組成物の粘度変動は、そのまま液滴サイズ、液滴射出速度に対して大きな影響を与えるため、画質劣化を引き起こす原因となる。このため、画像記録時(印字時)のインク組成物の温度はできるだけ一定に保つことが必要である。インク組成物の温度の制御幅としては、設定温度±5℃が好ましく、設定温度±2℃がより好ましく、設定温度±1℃が特に好ましい。
【0150】
インクジェット記録に使用するインクジェット記録装置としては、特に制限はなく、公知の物の中から適宜選択することができ、市販品を好適に使用することができるが、例えば、前記インク組成物の温度の安定化手段を備えているのが好ましい。この場合、前記インク組成物を一定温度にする部位としては、インクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象とされているのが好ましい。
【0151】
インク組成物の温度コントロールの方法としては、特に制限はないが、例えば、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク組成物の流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。また、インク組成物を吐出するインクノズルヘッドは加熱されていることが好ましく、この場合、インクジェット記録装置本体を外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断若しくは断熱されていることがより好ましい。加熱に要するインクジェット記録装置(プリンター)の立上げ時間を短縮するため、或いは熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うとともに、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
【0152】
−インク組成物の吐出条件等−
本発明のインク組成物をインクジェット記録に用いる場合、本発明のインク組成物を一定温度に加温するとともに、インク組成物の吐出から活性放射線の照射までの時間を短時間とすることが好ましい。
インク組成物の吐出から活性放射線の照射までの時間(以下、「照射前時間」と称することがある)としては、例えば、0.01〜0.5秒間が好ましく、0.01〜0.3秒間がより好ましく、0.01〜0.15秒間が特に好ましい。
照射前時間を上述の範囲内に制御することにより、吐出されたインク組成物が硬化前に滲むことを効果的に防止することができ、また、多孔質の被記録媒体に対しても光源の届かない深部までインク組成物が浸透する前に活性放射線の照射を行うことができ、未反応モノマーの残留を抑えられ、その結果として、臭気を低減することができる、などの点で有利である。
【0153】
本発明のインク組成物を用い、上述の吐出条件等で吐出を行うことにより、表面の濡れ性が異なる様々な被記録媒体に対しても、液滴状に吐出したインク組成物のドット径を一定に保つことができ、高画質が得られる点で有利である。
なお、カラー画像を得るためには、インク組成物の明度の低い色のものから順に重ねていくことが好ましい。明度の低いインクを重ねると、下部のインクまで活性放射線が到達し難く、硬化感度の阻害、残留モノマーの増加、臭気の発生、密着性の劣化などが生じ易くなることがある。また、活性放射線の照射は、全色のインクを総て吐出した後で、一括して行ってもよいが、硬化促進の観点からは、1色毎に行われるのが好ましい。
【0154】
以上によれば、本発明のインク組成物は、加温、降温が繰り返されることになるものの、(B)特定分散剤の作用乃至機能により、このような温度条件下で保存された場合であっても、顔料の分散安定性低下が効果的に抑制され、長期間にわたり優れた発色性が得られ、かつ該顔料の凝集に起因する吐出安定性の低下も効果的に抑制される点で有利である。
【0155】
−硬化−
本発明のインク組成物は、画像記録がされた後、活性放射線の照射を受けて硬化するが、この場合の活性放射線の照射条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
活性放射線の照射方法としては、例えば、特開昭60−132767号公報に記載されており、具体的には、ヘッドユニットの両側に光源を設け、シャトル方式でヘッドと光源を走査する。活性放射線の照射は、インク着弾後、一定時間をおいて行われる。更に、駆動を伴わない別光源によって硬化を完了させる。また、国際公開99/54415号パンフレットには、活性放射線の照射方法として、光ファイバーを用いた方法やコリメートされた光源をヘッドユニット側面に設けた鏡面に当て、記録部へ紫外線を照射する方法が記載されている。本発明においては、これらの照射方法を採用することができる。
活性放射線の照射量としては、紫外線の場合は10〜10000mW/cmの範囲が使用できる。この範囲であれば光硬化性が良好である。
【0156】
−被記録媒体−
本発明のインク組成物が吐出されて画像が記録される被記録媒体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、通常の非コート紙、コート紙などの紙類、いわゆる軟包装に用いられる各種非吸収性樹脂材料、或いは、その各種非吸収性樹脂材料をフィルム状に成形した樹脂フィルム、などが挙げられる。なお、前記樹脂フィルムとしては、例えば、PETフィルム、OPSフィルム、OPPフィルム、ONyフィルム、PVCフィルム、PEフィルム、TACフィルム、ポリカーボネートフィルム、アクリルフィルム、ABSフィルム、ポリアセタールフィルム、PVAフィルム、ゴム類フィルム、などが挙げられる。また、前記被記録媒体として、金属類、ガラス類なども使用可能である。
【0157】
(印刷物)
本発明のインク組成物をインクジェットプリンターにより被記録媒体に印字し、その後、好ましくは、印字されたインク組成物に活性エネルギーを照射又は加熱して硬化することで、印刷物を得ることができる。本発明のインク組成物により作製された印刷物は、画像形成に用いられるインクが微細な顔料粒子を均一、且つ、安定に分散して含むため、発色性と鮮鋭度に優れた高品質な画像を有し、画像の耐候性にも優れることから、広汎な分野に適用しうる。
【実施例】
【0158】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例における形態に限定されるものではない。
【0159】
<特定分散剤の合成>
−例示化合物M−3(オキセタン環を含有するモノマー)の合成−
テトラヒドロフラン(120mL)、3−エチル−3−オキセタンメタノール12.8g(0.11mol)の混合溶液へ、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナート15.1g(0.11mol)を室温で滴下した。その混合溶液を室温で7時間攪拌した後、溶媒留去することにより、例示化合物M−3(オキセタン環を含有するモノマー)の粗生成物 27.1g(0.10mol、収率91%)を得た。
【0160】
−例示化合物M−6(オキセタン環を含有するモノマー)の合成−
3−メチル−3−オキセタンメタノール20g(0.20mol)、クロロメチルスチレン(m、p混合物)29.9g(0.20mol)、テトラブチルアンモニウムブロミド3.2g(9.8mmol)をヘキサン200mL、50%NaOHへ混合し、2時間加熱還流した。反応液を分液し、さらに酢酸エチル100mLで2回抽出した有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後ろ別し、減圧下溶媒を留去することにより、例示化合物M−6(オキセタン環を含有するモノマー)34.8gを合成した。
【0161】
−例示構造単位M−14を構成するモノマーの合成−
無水N,N−ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略称する)(500mL)にNaOH26.4g(0.66mol)を加え、室温で9(10H)−Acridanone100g(0.51mol)を加えた。30分攪拌した後、クロロメチルスチレン 85.5gを1時間かけて滴下し、その後60℃で12時間攪拌した。メタノール/水=1/1 200mLを加え、ろ過することにより、例示構造単位M−14を構成するモノマーの粗生成物 102.0g(0.33mol、収率65%)を得た。
【0162】
−例示構造単位M−16を構成するモノマーの合成−
アセトニトリル(120mL)、2−アミノアントラキノン24.1g(0.11mol)の混合溶液へ、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアナート15.1g(0.11mol)を室温で滴下した。その混合溶液を室温で7時間攪拌した後、溶媒留去することにより、例示構造単位M−16を構成するモノマーの粗生成物 39.0g(0.10mol、収率91%)を得た。
【0163】
−特定分散剤(例示化合物2)の合成−
〔例示化合物2:(例示化合物M−1/例示構造単位M−14/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(=5/20/10/65(質量比)によるグラフト共重合体))
例示化合物M−1(市販品:3-Ethyloxetan-3-ylmethyl methacrylate)1.25g、上記の合成で得た例示構造単位M−14を構成するモノマー 5g、3−(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)2.5g、末端にメタクリロイル基を有するポリメチルメタクリレート(数平均分子量6000、東亜合成化学(株)製、AA−6)16.25g、およびメチルエチルケトン46.4gを窒素置換した三口フラスコに加えて、攪拌機(新東科学(株):スリーワンモータ)にて攪拌し、窒素をフラスコ内に流しながら加熱して78℃まで昇温した。別に調製した下記の開始剤溶液A 2.05gを添加して3時間加熱攪拌した。滴下後、さらに開始剤溶液A 2.05gを添加し、78℃にて3時間加熱攪拌を行った。得られた反応液をヘキサン1500gに攪拌しながら注ぎ、生じた沈殿を加熱乾燥させることにより、特定分散剤(例示化合物2)を合成した。重量平均分子量は120000であった。
【0164】
(開始剤溶液A)
2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬(株)製V−65sw 0.05g
メチルエチルケトン 2g
【0165】
−特定分散剤(例示化合物3)の合成−
〔例示化合物3:例示化合物M−1/例示構造単位M−16/2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(=5/20/10/65(質量比)によるグラフト共重合体)
特定分散剤(例示化合物2)の合成例において、例示構造単位M−14を構成するモノマーを例示構造単位M−16を構成するモノマーに変更し、また、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミドを2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレートに変更した以外は、特定分散剤(例示化合物2)の合成と同様にして、特定分散剤(例示化合物3)を合成した。重量平均分子量は105000であった。
【0166】
−特定分散剤(例示化合物4)の合成−
〔例示化合物4:例示化合物M−3/例示構造単位M−14/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(=5/20/10/65(質量比)によるグラフト共重合体)〕
特定分散剤(例示化合物2)の合成例において、例示化合物M−1を例示化合物M−3に変更した以外は、特定分散剤(例示化合物2)の合成と同様にして、特定分散剤(例示化合物4)を合成した。重量平均分子量は140000であった。
【0167】
−特定分散剤(例示化合物32)の合成−
〔例示化合物32:例示化合物M−1/2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(=5/20/75(質量比)共重合体によるグラフト共重合体)〕
例示化合物M−1(市販品:3-Ethyloxetan-3-ylmethyl methacrylate)1.25g、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート5g、末端にメタクリロイル基を有するポリメチルメタクリレート(数平均分子量6000、東亜合成化学(株)製、AA−6)18.75g、およびメチルエチルケトン46.4gを窒素置換した三口フラスコに加え、攪拌機(新東科学(株):スリーワンモータ)にて攪拌し、窒素をフラスコ内に流しながら加熱して78℃まで昇温した。別に調製した上記の開始剤溶液Aを2.05g添加して3時間加熱攪拌した。滴下後、さらに開始剤溶液A 2.05gを添加し、78℃にて3時間加熱攪拌を行った。得られた反応液をヘキサン1500gに攪拌しながら注ぎ、生じた沈殿を加熱乾燥させることにより、特定分散剤(例示化合物32)を合成した。重量平均分子量は146000であった。
【0168】
<比較重合体1(オキセタン環を有さないグラフト共重合体)の合成>
〔比較重合体1:例示構造単位M−14/3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピルアクリルアミド/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(=20/10/70(質量比)によるグラフト共重合体)〕
例示構造単位M−14を構成するモノマー 5g、3−(N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド)2.5g、末端にメタクリロイル基を有するポリメチルメタクリレート(数平均分子量6000、東亜合成化学(株)製AA−6)17.5g、およびメチルエチルケトン46.4gを窒素置換した三口フラスコに導入し、攪拌機(新東科学(株):スリーワンモータ)にて攪拌し、窒素をフラスコ内に流しながら加熱して78℃まで昇温した。別に調製した開始剤溶液A 2.05gを添加して3時間加熱攪拌した。滴下後、さらに開始剤溶液A 2.05gを添加し、78℃にて3時間加熱攪拌を行った。得られた反応液をヘキサン1500gに攪拌しながら注ぎ、生じた沈殿を加熱乾燥させることにより、比較重合体1(オキセタン環を有さないグラフト共重合体)を合成した。重量平均分子量は136000であった。
【0169】
<比較重合体2(ビニル基を有するグラフト共重合体)の合成>
〔比較重合体2:2−(2−メタクリロキシ)−エチルメタクリレート/例示構造単位M−14/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(=5/20/75(質量比)によるグラフト共重合体)〕
2-(2-bromoisobutyryloxy)-ethyl methacrylate 1.25g、例示構造単位M−14を構成するモノマー 5g、末端にメタクリロイル基を有するポリメチルメタクリレート(数平均分子量6000、東亜合成化学(株)製AA−6)18.75g、およびメチルエチルケトン46.4gを窒素置換した三口フラスコに導入し、攪拌機(新東科学(株):スリーワンモータ)にて攪拌し、窒素をフラスコ内に流しながら加熱して78℃まで昇温した。別に調製した開始剤溶液A 2.05gを添加して3時間加熱攪拌した。滴下後、さらに開始剤溶液A 2.05gを添加し、78℃にて3時間加熱攪拌を行った。得られた反応液をヘキサン1500gに攪拌しながら注ぎ、生じた沈殿を濾過して乾燥させ、高分子化合物を得た。
【0170】
得られた高分子化合物を1−メチル−2−ピロリドン 100gへ溶解させた後、氷浴で冷却した。ここへ、DBU(和光純薬製、化合物名称:1,8-diazabicyclo[5.4.0]undec-7-ene)2gを滴下し、氷浴を外して8時間攪拌した。得られた反応液を、濃塩酸を加えてpH7とした後、水2Lへ投入し、高分子化合物を析出させた。析出した高分子化合物を濾過し、乾燥させることにより、比較重合体2(ビニル基を有するグラフト共重合体)を合成した。重量平均分子量は143000であった。
【0171】
<比較重合体3の合成>
〔比較重合体3:2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート/末端メタクリロイル化ポリメチルメタクリレート(=20/80(質量比)によるグラフト共重合体)〕
2−(N,N−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート5.0g、末端にメタクリロイル基を有するポリメチルメタクリレート(数平均分子量6000、東亜合成化学(株)製AA−6)20.0g、およびメチルエチルケトン46.4gを窒素置換した三口フラスコに導入し、攪拌機(新東科学(株):スリーワンモータ)にて攪拌し、窒素をフラスコ内に流しながら加熱して78℃まで昇温した。別に調製した開始剤溶液A 2.05gを添加して3時間加熱攪拌した。滴下後、さらに開始剤溶液A 2.05gを添加し、78℃にて3時間加熱攪拌を行った。得られた反応液をヘキサン1500gに攪拌しながら注ぎ、生じた沈殿を加熱乾燥させることにより、比較重合体3を合成した。重量平均分子量は105000であった。
【0172】
<顔料分散物の調製>
〔実施例1〕
合成した特定分散剤(例示化合物2) 4.0gを、重合性化合物であるオキセタン化合物(東亜合成(株)製 OXT−221、化合物名 3−エチル−3{[(3−エチルオキセタン−3−イル)メトキシ]メチル}オキセタン)66gに溶解し、キナクリドン顔料(PR122)30gと共に、モーターミルM50(アイガー社製)に入れて、直径0.65mmのジルコニアビーズを用い、周速7m/sで分散を行い、実施例1の顔料分散物1−1を得た。
【0173】
〔実施例2〕
実施例1において、特定分散剤(例示化合物2)を、特定分散剤(例示化合物3)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の顔料分散物1−2を得た。
【0174】
〔実施例3〕
実施例1において、特定分散剤(例示化合物2)を、特定分散剤(例示化合物4)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の顔料分散物1−3を得た。
【0175】
〔実施例4〕
実施例1において、特定分散剤(例示化合物2)を、特定分散剤(例示化合物32)に変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例4の顔料分散物1−4を得た。
【0176】
〔比較例1〕
実施例1において、特定分散剤(例示化合物2)を、比較重合体1に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例1の顔料分散物2−1を得た。
【0177】
〔比較例2〕
実施例1において、特定分散剤(例示化合物2)を、比較重合体2に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の顔料分散物2−2を得た。
【0178】
〔比較例3〕
実施例1において、特定分散剤(例示化合物2)を、比較重合体3に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例3の顔料分散物2−3を得た。
【0179】
〔実施例5〜8、及び比較例4、5〕
実施例1〜4、および比較例1、2において使用した「キナクリドン顔料(PR122)」を「縮合アゾ顔料(PY128)」に変更した以外は、実施例1〜4、および比較例1、2とそれぞれ同様にして、実施例5の顔料分散物1−5、実施例6の顔料分散物1−6、実施例7の顔料分散物1−7、実施例8の顔料分散物1−8、比較例4の顔料分散物2−4、及び比較例5の顔料分散物2−5を調製した。
【0180】
〔実施例9〜12、及び比較例6、7〕
実施例1〜4、および比較例1、2において使用した「キナクリドン顔料(PR122)」を「フタロシアニン系顔料(PB15:3)」に変更した以外は、実施例1〜4、および比較例1、2とそれぞれ同様にして、実施例9の顔料分散物1−9、実施例10の顔料分散物1−10、実施例11の顔料分散物1−11、実施例12の顔料分散物1−12、比較例6の顔料分散物2−6、及び比較例7の顔料分散物2−7を調製した。
【0181】
<顔料分散物の評価>
得られた各顔料分散物を下記の方法に従って評価した。結果を表1に示した。
【0182】
(顔料分散物の粘度)
各顔料分散物の40℃における粘度を、E型粘度計を用いて測定した。粘度の評価は、以下の基準に従って行った。顔料の凝集が生じると粘度が上昇するため、粘度が低いほど顔料分散性に優れると評価する。
A:300mPa・s未満
B:300mPa・s以上、700mPa・s未満
C:700mPa・s以上
【0183】
(平均粒子径)
各顔料分散物について、光散乱回折式の粒度分布測定装置(LA910、(株)堀場製作所製)を用いて体積基準平均粒子径D50を測定し、以下の基準に従って平均粒子径を評価した。顔料が凝集体を形成すると、平均粒子径が大きくなるため、平均粒子径が小さいほど、顔料分散性に優れると評価する。
A:D50が200nm未満
B:D50が200nm以上、300nm未満
C:D50が300nm以上
【0184】
(分散進度)
各顔料分散物をアイガーミルで分散する際に、30分おきに顔料分散物を採取し、平均粒経D50が300nm未満になるまで分散し、分散時間が2時間以内で平均粒経D50が300nm未満に到達したものに関しては、引き続き2時間まで分散した。平均粒経D50が300nm未満になるまでの分散時間が短いほど分散進度が優れると評価する。
A:分散時間が2時間以内
B:分散時間が2時間〜3時間
C:分散時間が3時間以上
【0185】
【表1】

【0186】
表1から、本発明に係る特定分散剤を用いて調製した各実施例の顔料分散物は、顔料の種類に依らず、いずれも良好な粘度、顔料の粒子径であり、分散進度が速いことが分かる。特に、複素環残基を有する特定分散剤を用いた実施例1〜3、実施例5〜7、および実施例9〜11は、いずれも顔料分散物も粘度が低く、顔料の粒子径も小さく、このことから、微細な顔料の凝集が抑制され、分散性に優れることがわかる。これに対し本発明の特定分散剤を用いない顔料分散物(2−1〜2−7)を用いた比較例1〜7は、顔料を充分に微細化するまでの分散進度が遅いことが分かる。このことから、比較例は実施例にくらべ、顔料の分散進度に劣り、分散性が劣ることがわかる。
【0187】
<インクジェット用インク組成物の調製>
〔実施例13〕
実施例1で得られた顔料分散物1−1に、下記の重合性化合物および光重合開始剤を加え、穏やかに混合した後、これをメンブランフィルタで加圧ろ過することで硬化型インクジェット用インク組成物1−1’を得た。顔料分散物1−1、重合性化合物、および光重合開始剤の量を以下に示す。
【0188】
・顔料分散物1−1 17g
・重合性化合物:オキセタン化合物(OXT−221:東亜合成(株)製) 52.0g
・重合性化合物:エポキシ化合物(化合物名 1,2:8,9ジエポキシリモネン:セロキサイド3000、ダイセル化学(株)製) 26.0g
・光重合開始剤:トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロリン酸塩(UVI−6992、ダウケミカル社製) 5.0g
【0189】
〔実施例14〜16、及び比較例8、9、10〕
実施例13において使用した顔料分散物1−1を、顔料分散物1−2、1−3、1−4、2−1、および2−2にそれぞれ変更した以外は、実施例13と同様にして、実施例14の硬化型インクジェット用インク組成物1−2’、実施例15の硬化型インクジェット用インク組成物1−3’、実施例16の硬化型インクジェット用インク組成物1−4’、比較例8の硬化型インクジェット用インク組成物2−1’、比較例9の硬化型インクジェット用インク組成物2−2’、および比較例10の硬化型インクジェット用インク組成物2−3’を調製した。
【0190】
〔実施例17〜20、及び比較例11、12〕
実施例13において使用した顔料分散物1−1を顔料分散物1−5、1−6、1−7、1−8、2−3、および2−4にそれぞれ変更した以外は、実施例13と同様にして、実施例17の硬化型インクジェット用インク組成物1−5’、実施例18の硬化型インクジェット用インク組成物1−6’、実施例19の硬化型インクジェット用インク組成物1−7’、実施例20の硬化型インクジェット用インク組成物1−8’、比較例11の硬化型インクジェット用インク組成物2−4’、および比較例12の硬化型インクジェット用インク組成物2−5’を調製した。
【0191】
〔実施例21〜24、及び比較例13、14〕
実施例13において使用した顔料分散物1−1を顔料分散物1−9、1−10、1−11、1−12、2−5および2−6にそれぞれ変更した以外は、実施例13と同様にして、実施例21の硬化型インクジェット用インク組成物1−9’、実施例22の硬化型インクジェット用インク組成物1−10’、実施例23の硬化型インクジェット用インク組成物1−11’、 実施例24の硬化型インクジェット用インク組成物1−12’、比較例13の硬化型インクジェット用インク組成物2−6’、および比較例14の硬化型インクジェット用インク組成物2−7’を調製した。
【0192】
<インクジェット用インク組成物の評価>
得られた各インク組成物(硬化型インクジェット用インク組成物)を下記の方法に従って評価した。結果を表2に示した。
【0193】
(インク組成物の粘度)
各インク組成物の40℃における粘度を、E型粘度計を用いて測定した。該粘度の評価を以下の基準に従って行った。
A:30mPa・s未満
B:30mPa・s以上、70mPa・s未満
C:70mPa・s以上
【0194】
(分散安定性)
各インク組成物を室温(25℃)で1ヶ月保存し、その後、目視及び粘度変化により以下の基準に従って室温保存での分散安定性を評価した。
また、各インク組成物を70℃で24時間保存後に、同様に分散状態を目視及び粘度変化により、以下の基準に従って70℃保存での分散安定性を評価した。
A:沈殿物の発生がなく、粘度の増加がない。
B:沈殿物の発生がなく、粘度が若干増加するが、吐出性に問題ないレベル。
C:沈殿物の発生はないが、粘度が増加し、吐出性が低下し、実用上問題になるレベル。
D:沈殿物の発生が認められる。吐出が問題となるレベル。
【0195】
(平均粒子径)
各インク組成物について、光散乱回折式の粒度分布測定装置(LA910、(株)堀場製作所製)を用いて体積基準平均粒径D50を測定し、以下の基準に従って平均粒子径を評価した。
A:D50が200nm未満
B:D50が200nm以上、300nm未満
C:D50が300nm以上
【0196】
(硬化性)
得られた各インク組成物をインクジェットプリンター(印字密度300dpi、打滴周波数4kHz、ノズル数64)を用いてアート紙上に画像記録(印字)した後、Deep UVランプ(ウシオ電機製、SP−7)を用いて、記録画像に50mJ/cmのエネルギーとなる条件で、活性放射線としての紫外線を照射し、画像記録物を得た。
得られた画像記録物を指で触れて、べたつきの有無につき、以下の基準に従って評価した。
A:べたつきがない。
B:僅かにべたつきがあるが、問題にならないレベル。
C:べたつきがあり、問題になるレベル。
D:著しくべたつく。
【0197】
【表2】

【0198】
表2から、本発明に係る特定分散剤を用いて調製した各実施例のインク組成は、いずれも硬化性が良好であり、粘度、室温保存後および70℃での保存後の分散安定性、顔料の粒子径も良好であることが分かる。特に、複素環残基を有する特定分散剤を用いた実施例13〜15、17〜19、および21〜23はいずれも、粘度、室温保存後および70℃での保存後の分散安定性に優れ、顔料の粒子径も小さいことが分かる。
これに対して本発明の特定分散剤を用いない比較例8〜14は、いずれも硬化性が劣ることがわかる。特にオキセタン基の代わりにビニル基を有する比較重合体2を用いた比較例9、12、14は70℃での保存安定性が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(A)顔料、及び、(B)オキセタン環を含む構造単位と顔料吸着性基を含む構造単位とを有する高分子分散剤を含む顔料分散物。
【請求項2】
前記オキセタン環を含む構造単位が、下記一般式(1)で表される構造単位である請求項1に記載の顔料分散物。
【化1】


一般式(1)中、Rは、水素原子、又はメチル基を表す。Wは、−CO-、−COO-、−CONR-、−OCO−、又はフェニレン基を表す。Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。Yは、下記一般式(2)で表される基を表す。
【化2】


一般式(2)中、R21〜R26は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。R21〜R26のうちいずれか1つの位置で、単結合又はR21〜R26の水素原子が外れた連結基を介して一般式(1)のXと結合している。
【請求項3】
前記顔料吸着性基を含む構造単位が、下記一般式(3)で表される構造単位である請求項1または請求項2に記載の顔料分散物。
【化3】


一般式(3)中、Rは、水素原子、又はメチル基を表す。Wは、−CO-、−COO-、−CONR-、−OCO−、又はフェニレン基を表す。Rは、水素原子、アルキル基、アリール基、又はアラルキル基を表す。Xは、単結合、又は2価の連結基を表す。Yは、複素環残基を表す。
【請求項4】
前記(B)高分子分散剤の重量平均分子量が、1,000〜200,000の範囲であり、且つ、該(B)高分子分散剤の含有量が、(A)顔料100質量部に対し、2質量部〜100質量部である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の顔料分散物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の顔料分散物を含むインク組成物。
【請求項6】
更に、(C)重合性化合物を含む請求項5に記載のインク組成物。
【請求項7】
前記(C)重合性化合物が、カチオン重合性化合物である請求項6に記載のインク組成物。
【請求項8】
更に、(D)光重合開始剤を含む請求項5〜請求項7のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項9】
インクジェット用途である請求項5〜請求項8のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項10】
被記録媒体上に、請求項5〜請求項9のいずれか1項に記載のインク組成物をインクジェット記録装置により吐出する工程、及び、吐出されたインク組成物に活性放射エネルギー線を照射して、該インク組成物を硬化する工程を含むインクジェット記録方法。
【請求項11】
請求項10に記載のインクジェット記録方法によって記録された印刷物。

【公開番号】特開2011−207963(P2011−207963A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75547(P2010−75547)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】