説明

顔料分散物の製造方法

【課題】フロー式リアクターを用いた再沈法による有機顔料微細粒子の分散物の製造方法を提供する。
【解決手段】有機顔料分散物の製造方法であって、該製造方法が(1)該顔料の良溶媒に少なくとも顔料を溶解した有機顔料溶液と、該有機顔料の貧溶媒とを代表径が1mmより大きいフロー式リアクター内で連続的に混合し、前記有機顔料の粒子を析出させる工程、及び、(2)生成した有機顔料粒子を結晶化させる工程、を含む、有機顔料分散物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散物の製造方法に関し、特に色相に優れた顔料粒子を含む顔料分散物を、高効率で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)の画質は向上してきており、すでに普及した方式のディスプレイであるCRT(ブラウン管)との代替が広い用途で進みつつある。これを受け、LCDの市場では色再現範囲や輝度において一層高品質の画像表示性能を有する製品が求められ、この要求に応えるためにはカラーフィルタの性能改良がきわめて重要となっている。これは、カラーフィルタがLCDパネル等の表示画像に着色する役割を果たし、LCDパネルの色特性を直接左右するからである。
カラーフィルタに要求される特性として、高光透過性、色純度、高コントラスト、低反射化などが挙げられる。特にコントラストが低いと光が減衰して表示画面が暗くなったり、明暗が不明瞭になったりするため、コントラストはできる限り高いことが望まれる。また高い光透過率を得るため、波長に対する透過率の変化が鋭く、所望の波長に選択的に高い吸収を持つことも求められる。
【0003】
カラーフィルタを着色するに当たっては、微細な粒子とした有機顔料を色材として用い、これの層を支持体上に形成することで行われることが多い。この際、前述のコントラストを向上させる目的からは、この顔料粒子の粒径ができる限り小さく、かつ粒径の単分散性が高いことが求められる。この観点から、ニーダー、ビーズミル、コロイドミル、アトライターといった分散機を用いてバルク物質を砕いて微細粒子を生成する粉砕法(ブレイクダウン法とも)を中心として、顔料微細化の技術開発が従来から進められてきている。
【0004】
顔料粒子を微細化させる手法としては、前述の粉砕法以外にも近年さまざまな研究がなされている。一例を挙げると、気相法(不活性ガス雰囲気下で試料を昇華させ、粒子を基板上に回収する方法)、液相法(例えば、良溶媒に溶解した試料を撹拌条件や温度を制御した貧溶媒に注入することにより、微粒子を得る再沈法。ビルドアップ法ともいう)、レーザーアブレーション法(溶液中に分散させた試料に、レーザーを照射しアブレーションさせることにより粒子を微細化する方法)などがある。この中でも液相法は、溶媒種、撹拌条件、注入速度を変化させることにより、顔料粒子の粒径分布を操作することが可能であることから、微細な顔料粒子を効率よく生産するための有効な手段とされている(例えば特許文献1、2参照)。
【0005】
液相法での粒子形成手段の中でも特に注目されているものの一つが、いわゆるマイクロリアクターを用いた手法である。従来の連続流通式のリアクターよりもはるかに小さい(代表径が数μm〜数百μm)マイクロ流路内で反応などを行わせ、マイクロ流路特有の現象、例えば混合の均一性や迅速性を利用するマイクロ化学プロセスは近年その重要性を特に増してきている。例えば特許文献3では、マイクロリアクター内で顔料溶液とその顔料の貧溶媒を混合することで微細な顔料粒子を生成する技術が紹介されている。
【0006】
しかしながら、マイクロリアクターはその小さい代表径のために生産量に制約を受けやすく、トンスケールの製品を処理するためには非常に高い流量が必要となる。これは耐圧配管や高圧ポンプの設置に要するコスト等の問題がある上、あまり高い流量で処理しようとするとマイクロ場反応の特徴とされる層流での分子拡散を阻害するなど、実際のプラント作成に際して障害となる可能性がある。この問題を解決するために多数のマイクロリアクターで並列処理する、いわゆるナンバリングアップによる生産量向上も提案されているが、多数のリアクターを用いることによる管理コスト増大や送液系の複雑化などの問題があり、実際のプラントにおいて必ずしも適しているとは限らないと言える。
【0007】
一方、前述の高い光透過率を得るためには、フィルターに供される顔料が所望の結晶性を有していることが重要である。アモルファス性が強い粒子、あるいは結晶化していても好ましくない結晶型の粒子が混在していることは、吸収波長が異なる粒子が混在していることになるため、結果として色特性に好ましくない影響を与える。この点において、粉砕法は既に結晶となっている粒子を砕くことで所望の結晶性を持った粒子を得やすいのに対し、液相法、ことに再沈法ではアモルファス性の粒子が生成しやすい。この原因は完全に明らかではないが、有機顔料が多くの溶媒に対して難溶性であるため、液中での顔料粒子生成速度が極めて速く、結晶化が十分に行われないうちに粒子生成が終了してしまうためではないかと考えられる。前述の特許文献1〜3に示される手法においても、非常に微細な顔料粒子が生成するもののアモルファス性が強く、良好な色特性を得るという要求には必ずしも答えられていなかった。
【0008】
高い結晶性を持った粒子を得る手法としては、例えば特許文献4に示されるように、マイクロリアクター内で粒子形成を行う際、粒子形成場に第3溶媒を供給することで成長速度を鈍化させ、結晶化させた粒子を得る手法が提案されている。しかしながら、この手法では成長速度を鈍化させることが粒子サイズの増大に繋がりやすく、粒子の微細化との両立が困難となることが多い。また、マイクロリアクターを用いているため、前述の生産量に関する問題を生じる可能性がある。
【0009】
さらに特許文献5ではジケトピロロピロール顔料を液相法で粒子形成した後、結晶化工程を経ることで所望の粒子を得る手法が紹介されているが、この技術では顔料溶液を貧溶媒にゆっくり滴下するか、あるいはイジェクターなどの中に流した貧溶媒に同じく顔料溶液をゆっくり添加して粒子形成しており、生産量を上げるのは比較的容易であるものの、粒子の微細化という観点では不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平6−79168号公報
【特許文献2】特開2004−91560号公報
【特許文献3】特開2006−342304号公報
【特許文献4】特開2005−206666号公報
【特許文献5】特許第4144655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の点に鑑み、本発明はフロー式リアクターを用いた再沈法による有機顔料微細粒子の分散物の製造方法の提供を目的とする。特に、高い結晶性を持った有機顔料微細粒子の分散物を、高い生産性、低製造コストで安定的に供給可能な製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題に対し本発明者らが鋭意研究を重ねた結果、下記の製造方法により上記課題が解決されることを見出した。
<1>有機顔料分散物の製造方法であって、該製造方法が(1)該顔料の良溶媒(第1溶媒)に少なくとも顔料を溶解した有機顔料溶液と、該有機顔料の貧溶媒(第2溶媒)とを代表径が1mmより大きいフロー式リアクター内で連続的に混合し、前記有機顔料の粒子を析出させる工程、及び、(2)生成した有機顔料粒子を結晶化させる工程、を含むことを特徴とする、有機顔料分散物の製造方法。
<2>前記フロー式リアクターが3つ以上の原料流入用流路と、1つ以上の生成物流出用流路と、それらが合一する少なくとも1つの混合場とを備えていることを特徴とする、<1>に記載の有機顔料分散物の製造方法。
<3>前記フロー式リアクターが5つ以上の原料流入用流路を有することを特徴とする<2>に記載の有機顔料分散物の製造方法。
<4>前記有機顔料溶液と貧溶媒のうちの少なくとも一方を、前記原料流入用流路のうちの2つ以上から分割して前記混合場に供給し混合することを特徴とする、<2>または<3>に記載の有機顔料分散物の製造方法。
<5>前記工程(2)をフロー式リアクター内で行うことを特徴とする<1>〜<4>のいずれか1項に記載の有機顔料分散物の製造方法。
<6>前記工程(2)を前記工程(1)を行ったフロー式リアクター内の下流側で行うことを特徴とする<5>に記載の有機顔料分散物の製造方法。
<7>前記工程(2)を撹拌槽内で行うことを特徴とする、<1>〜<4>のいずれか1項に記載の有機顔料分散物の製造方法。
<8>前記工程(2)が前記第1および第2溶媒と異なる溶媒(第3溶媒)を析出後の粒子と接触させることによって行われる<1>〜<7>のいずれか1項に記載の有機顔料分散物の製造方法。
<9>前記工程(2)の後、残溶剤を除去し、得られた顔料粒子を溶媒に再分散することを特徴とする<1>〜<8>のいずれか1項に記載の有機顔料分散物の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造法によれば、フロー式リアクター内で有機顔料粒子を生成させ、さらにこれを結晶化することで、色特性に優れた有機顔料分散物を得ることが可能である。また、フロー式リアクターを、大量処理可能で、かつ微細な粒子を得るのに適した構造とすることで、色特性に優れ、かつ微細な有機顔料粒子が分散した分散物を大量製造するのに適したプロセスを構築することが可能である。したがって、高効率、高生産量で優れた品質の有機顔料分散物が製造でき、製造コストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に用いることのできるフロー式リアクターの流路の形状の一例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に用いることのできるフロー式リアクターの流路の形状の他の一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施態様について説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。
[有機顔料]
有機顔料は、色相的に限定されるものではなく、例えば、ペリレン、ペリノン、キナクリドン、キナクリドンキノン、アントラキノン、アントアントロン、ベンズイミダゾロン、ジスアゾ縮合、ジスアゾ、アゾ、インダントロン、フタロシアニン、トリアリールカルボニウム、ジオキサジン、アミノアントラキノン、ジケトピロロピロール、チオインジゴ、イソインドリン、イソインドリノン、ピラントロンもしくはイソビオラントロン化合物顔料、またはそれらの混合物などが挙げられる。
【0016】
さらに詳しくは、たとえば、C.I.ピグメントレッド190(C.I.番号71140)、C.I.ピグメントレッド224(C.I.番号71127)、C.I.ピグメントバイオレット29(C.I.番号71129)等のペリレン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ43(C.I.番号71105)、もしくはC.I.ピグメントレッド194(C.I.番号71100)等のペリノン化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット19(C.I.番号73900)、C.I.ピグメントバイオレット42、C.I.ピグメントレッド122(C.I.番号73915)、C.I.ピグメントレッド192、C.I.ピグメントレッド202(C.I.番号73907)、C.I.ピグメントレッド207(C.I.番号73900、73906)、もしくはC.I.ピグメントレッド209(C.I.番号73905)のキナクリドン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド206(C.I.番号73900/73920)、C.I.ピグメントオレンジ48(C.I.番号73900/73920)、もしくはC.I.ピグメントオレンジ49(C.I.番号73900/73920)等のキナクリドンキノン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー147(C.I.番号60645)等のアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド168(C.I.番号59300)等のアントアントロン化合物顔料、C.I.ピグメントブラウン25(C.I.番号12510)、C.I.ピグメントバイオレット32(C.I.番号12517)、C.I.ピグメントイエロー180(C.I.番号21290)、C.I.ピグメントイエロー181(C.I.番号11777)、C.I.ピグメントオレンジ62(C.I.番号11775)、もしくはC.I.ピグメントレッド185(C.I.番号12516)等のベンズイミダゾロン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー93(C.I.番号20710)、C.I.ピグメントイエロー94(C.I.番号20038)、C.I.ピグメントイエロー95(C.I.番号20034)、C.I.ピグメントイエロー128(C.I.番号20037)、C.I.ピグメントイエロー166(C.I.番号20035)、C.I.ピグメントオレンジ34(C.I.番号21115)、C.I.ピグメントオレンジ13(C.I.番号21110)、C.I.ピグメントオレンジ31(C.I.番号20050)、C.I.ピグメントレッド144(C.I.番号20735)、C.I.ピグメントレッド166(C.I.番号20730)、C.I.ピグメントレッド220(C.I.番号20055)、C.I.ピグメントレッド221(C.I.番号20065)、C.I.ピグメントレッド242(C.I.番号20067)、C.I.ピグメントレッド248、C.I.ピグメントレッド262、もしくはC.I.ピグメントブラウン23(C.I.番号20060)等のジスアゾ縮合化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー13(C.I.番号21100)、C.I.ピグメントイエロー83(C.I.番号21108)、もしくはC.I.ピグメントイエロー188(C.I.番号21094)等のジスアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントレッド187(C.I.番号12486)、C.I.ピグメントレッド170(C.I.番号12475)、C.I.ピグメントイエロー74(C.I.番号11714)、C.I.ピグメントイエロー150(C.I.番号48545)、C.I.ピグメントレッド48(C.I.番号15865)、C.I.ピグメントレッド53(C.I.番号15585)、C.I.ピグメントオレンジ64(C.I.番号12760)、もしくはC.I.ピグメントレッド247(C.I.番号15915)等のアゾ化合物顔料、C.I.ピグメントブルー60(C.I.番号69800)等のインダントロン化合物顔料、C.I.ピグメントグリーン7(C.I.番号74260)、C.I.ピグメントグリーン36(C.I.番号74265)、ピグメントグリーン37(C.I.番号74255)、ピグメントブルー16(C.I.番号74100)、C.I.ピグメントブルー75(C.I.番号74160:2)、もしくはC.I.ピグメントブルー15(C.I.番号74160)等のフタロシアニン化合物顔料、C.I.ピグメントブルー56(C.I.番号42800)、もしくはC.I.ピグメントブルー61(C.I.番号42765:1)等のトリアリールカルボニウム化合物顔料、C.I.ピグメントバイオレット23(C.I.番号51319)、もしくはC.I.ピグメントバイオレット37(C.I.番号51345)等のジオキサジン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド177(C.I.番号65300)等のアミノアントラキノン化合物顔料、C.I.ピグメントレッド254(C.I.番号56110)、C.I.ピグメントレッド255(C.I.番号561050)、C.I.ピグメントレッド264、C.I.ピグメントレッド272(C.I.番号561150)、C.I.ピグメントオレンジ71、もしくはC.I.ピグメントオレンジ73等のジケトピロロピロール化合物顔料、C.I.ピグメントレッド88(C.I.番号73312)等のチオインジゴ化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー139(C.I.番号56298)、C.I.ピグメントオレンジ66(C.I.番号48210)等のイソインドリン化合物顔料、C.I.ピグメントイエロー109(C.I.番号56284)、もしくはC.I.ピグメントオレンジ61(C.I.番号11295)等のイソインドリノン化合物顔料、C.I.ピグメントオレンジ40(C.I.番号59700)、もしくはC.I.ピグメントレッド216(C.I.番号59710)等のピラントロン化合物顔料、またはC.I.ピグメントバイオレット31(60010)等のイソビオラントロン化合物顔料が挙げられる。なかでも、キナクリドン化合物顔料、ジケトピロロピロール化合物顔料、ジオキサジン化合物顔料、フタロシアニン化合物顔料、またはアゾ化合物顔料であることが好ましく、ジケトピロロピロール化合物顔料又はジオキサジン化合物顔料がより好ましい。
【0017】
以下、本発明で好ましく用いることのできるジケトピロロピロール化合物顔料又はジオキサジン化合物顔料についてさらに詳しく説明する。
C.I.P.R.254に代表されるジケトピロロピロール化合物顔料は、カラーフィルタを構成する赤画素の色純度を高めるのに適した吸収域を有し、色再現域を広げられるため、そのカラーフィルタへの利用が試みられている。しかしながら、例えばインクジェット用インクを転用したり、アシッドペースト法、ビーズ分散やソルトミリングによる方法で得たりしたものなどでは色純度やコントラスト等に対する要求に応えにくく、十分に良好なカラーフィルタは得難い。
本発明の製造方法によれば、ナノサイズのジケトピロロピロール化合物顔料微粒子を粒径分布がシャープな状態で生成させることができる。また、その顔料微粒子の分散物をカラーフィルタの製造に用いたとき、所望の色純度と高いコントラストを両立できる。そしてそのカラーフィルタを備えた液晶表示装置は、黒のしまりおよび赤の描写力に優れ、表示ムラが抑えられる。
【0018】
上記ジケトピロロピロール化合物顔料においては、中でもC.I.P.R.254(下記式(Z)で表される化合物)、255(下記式(W)で表される化合物)、264(下記式(V)で表される化合物)が好ましく、C.I.P.R.254が吸収スペクトルの観点でより好ましい。なお、C.I.P.R.254としては、Irgaphor Red B−CF、Irgaphor Red BT−CF、Cromophtal DPP Red BO、Irgazin DPP Red BO、Microlen DPP RED BP(いずれも商品名、Ciba Specialty Chemicals社製)など市販されているあらゆるものを用いることが可能である。C.I.P.R.255としては、Cromophtal Coral Red C、Irgazin DPP Red 5G(いずれも商品名、Ciba Specialty Chemicals社製)などを用いることができる。C.I.P.R.264としては、Irgazin DPP Rubin TR(商品名、Ciba Specialty Chemicals社製)などを用いることができる。
【0019】
【化1】

【0020】
【化2】

【0021】
【化3】

【0022】
次にジオキサジン化合物顔料について説明する。近年カラーフィルタ青画素の着色剤として、C.I.P.B.15:6が多用されるようになり、これによりカラーフィルタの色純度が高くなってきた。しかし、液晶表示装置に多用されている光源である冷陰極管などの光源は、青の発光ピークの長波側にも少し発光があり、これにより色度がNTSCに劣りがちなものとなっていた。
この問題は、C.I.P.V.23に代表されるジオキサジン化合物顔料を(例えば5%程度)添加することで改善することができる。そしてこの高い色純度のカラーフィルタで、コントラストを改善し、表示特性をさらに向上させることが考えられるものの、従来の粉砕法等では満足な結果が得られないことがある。
これに対し、本発明の製造方法によれば、ジオキサジン化合物顔料を粒径分布がそろったナノサイズの微粒子として分散させた分散物を得ることができる。しかも、本発明方法により製造されるジオキサジン化合物顔料微粒子を含有する分散物は、分散性および分散安定性に優れる。そのため、それ用いたカラーフィルタは、高い色純度と高いコントラストを両立でき、しかも耐光性に優れる。またそのカラーフィルタを備えた液晶表示装置は、黒のしまりおよび青の描写、再現性に優れ、表示ムラが抑えられる。
【0023】
本発明の有機顔料分散物の製造方法においては、2種類以上の有機顔料または有機顔料の固溶体を組み合わせて用いることもできる。この際、これら顔料を共に溶解可能な溶媒があれば、共溶解して本発明の製造方法に用いてもよい。また、顔料をそれぞれ別の溶媒に溶解し、フロー式リアクターに異なる流路から流入させて混合場にて共析出させることも好ましい。これら溶媒について、好ましい様態は次に述べる。
【0024】
[溶媒]
本発明において、有機顔料粒子は、有機材料を良溶媒(以下、これを第1溶媒ということがある)に溶解した有機材料溶液と、前記良溶媒に対して相溶性を有し、有機顔料に対して貧溶媒(以下、これを第2溶媒ということがある)となる溶媒とを混合することにより生成させる。以下、この方法を「再沈法」ということもあり、このとき得られる有機顔料粒子を含有する分散液を「顔料再沈液」ということもある。
先に、有機顔料の貧溶媒について説明する。貧溶媒は、有機顔料を溶解する良溶媒と相溶するもしくは均一に混ざるものであれば特に限定されない。貧溶媒としては、有機顔料の溶解度が0.02質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以下であることがより好ましい。貧溶媒に対する有機顔料の溶解度にとくに下限はないが、通常用いられる有機顔料を考慮すると0.000001質量%以上が実際的である。この溶解度は酸またはアルカリ存在下での溶解度であってもよく、特に水素イオン濃度(pH)によって溶解度が顕著に変化する顔料種の場合、酸またはアルカリを適宜貧溶媒に混合して用いることが好ましい。
良溶媒の貧溶媒に対する溶解量は30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。良溶媒の貧溶媒に対する溶解量に特に上限はないが、任意の割合で混じり合うことが実際的である。
貧溶媒としては、水性溶媒(例えば、水、または塩酸、水酸化ナトリウム水溶液)、アルコール化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、二硫化炭素溶媒、脂肪族化合物溶媒、ニトリル化合物溶媒、ハロゲン化合物溶媒、エステル化合物溶媒、イオン性液体、これらの混合溶媒などが挙げられ、水性溶媒、アルコール化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、エステル化合物溶媒、またはこれらの混合物が好ましく、水性溶媒、アルコール化合物溶媒またはエステル化合物溶媒がより好ましい。
アルコール化合物溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、1−メトキシ−2−プロパノールなどが挙げられる。ケトン化合物溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンが挙げられる。エーテル化合物溶媒としては、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどが挙げられる。芳香族化合物溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。脂肪族化合物溶媒としては、例えば、ヘキサンなどが挙げられる。ニトリル化合物溶媒としては、例えば、アセトニトリルなどが挙げられる。ハロゲン化合物溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、トリクロロエチレンなどが挙げられる。エステル化合物溶媒としては、例えば、酢酸エチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(MMPGAc)などが挙げられる。イオン性液体としては、例えば、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムとPFとの塩などが挙げられる。
貧溶媒は複数の溶媒を混合して用いても良く、系によっては良溶媒を混合して用いることも可能である。但しこの場合、顔料粒子の析出及び微細化、結晶化の妨げにならない範囲で混合することが必要である。
【0025】
次に、有機顔料を溶解する良溶媒について説明する。良溶媒は用いる顔料を溶解することが可能で、前記貧溶媒と相溶するもしくは均一に混ざるものであれば特に限定されない。有機顔料の良溶媒への溶解度は0.2質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。溶解度に特に上限はないが、通常用いられる有機顔料を考慮すると50質量%以下であることが実際的である。この溶解度は酸またはアルカリの存在下で溶解された場合の溶解度であってもよい。貧溶媒と良溶媒との溶解度もしくは相溶性の好ましい範囲は前述のとおりである。
良溶媒としては、例えば、水性溶媒(例えば、水、または塩酸、水酸化ナトリウム水溶液)、アルコール化合物溶媒、アミド化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、二硫化炭素溶媒、脂肪族化合物溶媒、ニトリル化合物溶媒、スルホキシド化合物溶媒、ハロゲン化合物溶媒、エステル化合物溶媒、イオン性液体、これらの混合溶媒などが挙げられ、水性溶媒、アルコール化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、スルホキシド化合物溶媒、エステル化合物溶媒、アミド化合物溶媒、またはこれらの混合物が好ましく、水性溶媒、アルコール化合物溶媒、エステル化合物溶媒、スルホキシド化合物溶媒またはアミド化合物溶媒が好ましく、水性溶媒、スルホキシド化合物溶媒またはアミド化合物溶媒がさらに好ましく、スルホキシド化合物溶媒またはアミド化合物溶媒が特に好ましい。
スルホキシド化合物溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキド、ヘキサメチレンスルホキシド、スルホランなどが挙げられる。アミド化合物溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリジノン、ε−カプロラクタム、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロパンアミド、ヘキサメチルホスホリックトリアミドなどが挙げられる。
また、良溶媒に有機顔料を溶解した有機顔料溶液の濃度としては、溶解時の条件における有機顔料の良溶媒に対する飽和濃度ないしこれの1/100程度の範囲が好ましい。有機顔料溶液の調製条件に特に制限はなく、常圧から亜臨界、超臨界条件の範囲を選択できる。常圧での温度は−10〜150℃が好ましく、−5〜130℃がより好ましく、0〜100℃が特に好ましい。
【0026】
本発明において有機顔料は、良溶媒に酸性でもしくはアルカリ性で溶解することも可能である。一般に分子内にアルカリ性で解離可能な基を有する顔料の場合はアルカリ性が、アルカリ性で解離する基が存在せず、プロトンが付加しやすい窒素原子を分子内に多く有するときは酸性が用いられる。例えば、キナクリドン、ジケトピロロピロール、ジスアゾ縮合化合物顔料はアルカリ性で、フタロシアニン化合物顔料は酸性で溶解される。
【0027】
アルカリ性で溶解させる場合に用いられる塩基は、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、もしくは水酸化バリウムなどの無機塩基、またはトリアルキルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、金属アルコキシドなどの有機塩基であるが、好ましくは有機塩基である。
使用される塩基の量は、顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、無機塩基の場合、好ましくは有機顔料に対して1.0〜30モル当量であり、より好ましくは1.0〜25モル当量であり、さらに好ましくは1.0〜20モル当量である。有機塩基の場合、好ましくは有機顔料に対して1.0〜100モル当量であり、より好ましくは1.0〜50モル当量であり、さらに好ましくは1.0〜20モル当量である。
【0028】
酸性で溶解させる場合に用いられる酸は、硫酸、塩酸、もしくは燐酸などの無機酸、または酢酸、トリフルオロ酢酸、シュウ酸、メタンスルホン酸、もしくはトリフルオロメタンスルホン酸などの有機酸であるが好ましくは無機酸である。特に好ましくは硫酸である。
使用される酸の量は、有機顔料を均一に溶解可能な量であり、特に限定されないが、塩基に比べて過剰量用いられる場合が多い。無機酸および有機酸の場合を問わず、好ましくは有機顔料に対して3〜500モル当量であり、より好ましくは10〜500モル当量であり、さらに好ましくは30〜200モル当量である。
【0029】
アルカリまたは酸を有機溶媒と混合して、有機顔料の良溶媒として用いる際は、アルカリまたは酸を完全に溶解させるため、若干の水や低級アルコールなどのアルカリまたは酸に対して高い溶解度をもつ溶剤を、有機溶媒に添加することができる。水や低級アルコールの量は、有機顔料溶液全量に対して、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましい。具体的には、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコールなどを用いることができる。
【0030】
有機粒子作製時、すなわち有機粒子を析出し、形成する際の貧溶媒の使用条件に特に制限はなく、常圧から亜臨界、超臨界条件の範囲を選択できる。常圧での温度は−30〜100℃が好ましく、−10〜60℃がより好ましく、0〜30℃が特に好ましい。
顔料溶液と貧溶媒の混合比(再沈液中の良溶媒/貧溶媒比)は体積比で1/50〜1/1が好ましく、1/40〜1/1がより好ましく、1/10〜1/1が特に好ましい。これは、フロー式リアクターの流路内における顔料溶液と貧溶媒の体積流量比と同じであっても良く、異なっていても良い。例えば、混合比を1/2とする場合、具体例として以下のような方法をとることができる。
(i)良溶媒と貧溶媒の体積流量比を1/2とする
(ii)貧溶媒にあらかじめ良溶媒を(良溶媒/貧溶媒の体積比)=(1/4)の割合で混合した溶媒Aを用いて、顔料溶液と溶媒Aの体積流量比を1/5とする。この場合、顔料溶液中の良溶媒と、溶媒A中の良溶媒を足した量は、1+1=2となり、一方で溶媒A中の貧溶媒量は4であるので、良溶媒と貧溶媒の最終的な混合比は1/2となる
顔料再沈液中の顔料濃度は顔料粒子を生成することができれば特に制限されないが、再沈液1000mlに対して顔料粒子が10〜40000mgの範囲であることが好ましく、より好ましくは20〜30000mgの範囲であり、特に好ましくは40〜25000mgの範囲である。
【0031】
本発明の製造方法においては、顔料を良溶媒に溶解させる際、顔料分散剤や顔料誘導体を共に溶解させることも行って良い。有機溶剤中では、分子鎖のエントロピー斥力を利用した反発作用により分散性を確保する観点から、分散剤としては高分子分散剤が好ましく用いられる。顔料誘導体の使用によっても粒子表面の修飾が可能であり、特に他の分散剤との相互作用力の向上、あるいは粒子の溶解性や結晶型などの制御が可能であることから、これらの観点で顔料誘導体も好ましく用いられる。
【0032】
用いることのできる分散剤として、例えば、アニオン性、カチオン性、両イオン性、ノニオン性もしくは顔料誘導体の、低分子または高分子分散剤を使用することができる。なお、高分子分散剤の分子量は溶液に均一に溶解できるものであれば制限なく用いることができるが、好ましくは分子量1,000〜2,000,000であり、5,000〜1,000,000がより好ましく、10,000〜500,000がさらに好ましく、10,000〜100,000が特に好ましい。
【0033】
以下、分散剤の例を列挙するが、ここに挙げない分散剤であっても再沈法に使用しうるものであれば良く、本発明は本項の記載に限定されるものではない。
高分子分散剤としては、具体的には、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ビニルアルコール−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール−部分ホルマール化物、ポリビニルアルコール−部分ブチラール化物、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンオキシド/プロピレンオキシドブロック共重合体、ポリアクリル酸塩、ポリビニル硫酸塩、ポリ(4−ビニルピリジン)塩、ポリアミド、ポリアリルアミン塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、セルロース誘導体、澱粉誘導体などが挙げられる。その他、アルギン酸塩、ゼラチン、アルブミン、カゼイン、アラビアゴム、トンガントゴム、リグニンスルホン酸塩などの天然高分子類も使用できる。これら高分子は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの分散剤は、単独あるいは併用して使用することができる。顔料の分散に用いる分散剤に関しては、「顔料分散安定化と表面処理技術・評価」(化学情報協会、2001年12月発行)の29〜46頁に詳しく記載されている。
【0034】
アニオン性分散剤(アニオン性界面活性剤)としては、N−アシル−N−アルキルタウリン塩、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等を挙げることができる。これらアニオン性分散剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
カチオン性分散剤(カチオン性界面活性剤)には、四級アンモニウム塩、アルコキシル化ポリアミン、脂肪族アミンポリグリコールエーテル、脂肪族アミン、脂肪族アミンと脂肪族アルコールから誘導されるジアミンおよびポリアミン、脂肪酸から誘導されるイミダゾリンおよびこれらのカチオン性物質の塩が含まれる。これらカチオン性分散剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0036】
両イオン性分散剤は、前記アニオン性分散剤が分子内に有するアニオン基部分とカチオン性分散剤が分子内に有するカチオン基部分を共に分子内に有する分散剤である。ノニオン性分散剤(ノニオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、グリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。これらノニオン性分散剤は、単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
顔料誘導体型分散剤とは、親物質としての有機顔料から誘導され、その親構造を化学修飾することで製造される顔料誘導体型分散剤、あるいは化学修飾された顔料前駆体の顔料化反応により得られる顔料誘導体型分散剤と定義する。例えば、糖含有顔料誘導体型分散剤、ピペリジル含有顔料誘導体型分散剤、ナフタレンまたはペリレン誘導顔料誘導体型分散剤、メチレン基を介して顔料親構造に連結された官能基を有する顔料誘導体型分散剤、ポリマーで化学修飾された顔料親構造、スルホン酸基を有する顔料誘導体型分散剤、スルホンアミド基を有する顔料誘導体型分散剤、エーテル基を有する顔料誘導体型分散剤、あるいはカルボン酸基、カルボン酸エステル基またはカルボキサミド基を有する顔料誘導体型分散剤などがある。
【0038】
[フロー式リアクター]
本発明に用いられるフロー式リアクターとは、連続流通型の反応器(リアクター)を指す。連続流通型とは、リアクターに連続的に反応原料となる流体(液体または気体)を流入させ、内部で所望の変化、反応を起こさせた上で生成物を連続的に流出させる装置をいう。多くの場合、流入した流体を何らかの形で混合することで反応などを起こさせるが、流入する流体の流量及び組成に変化がなければ、通常、反応場、すなわち混合場での組成が定常となるため、反応開始から一貫して定組成の生成物が得られる。本発明においては生成する粒子の形状、径などが均一となりやすいという長所がある。
したがって本発明で用いるフロー式リアクターは、複数(良、貧溶媒用に少なくともそれぞれ1つ以上)の原料流入用流路と、流入された原料が混合される混合場と、そこで生成した生成物の流出用流路を有するものである。混合場からの各流路の長さは直前の流路の変化点からの助走距離やシステム全体の圧力損失などを考慮して適宜設定できる。
混合場に接続された、顔料溶液、貧溶媒等を供給する流路(原料流入用流路)の数については、少なくとも2つが必要であり、3つ以上が好ましい。3つ以上にすることにより、顔料溶液または貧溶媒の少なくとも一方を複数の流路から分割して流すことができるので、混合がより促進されるなどの利点があり、5つ以上であることがさらに好ましい。原料流入用流路の数の上限については特に規定されないが、あまり多すぎると多数のポンプが必要になるか、または一つのポンプから多数の分岐を設ける必要があることから、30以下とすることが実際的である。
混合場に接続された、生成物流出用流路の数は、少なくとも1つあればよく、生成物を異なったタンクに分取するなど場合に応じて必要な数を設ければよい。
【0039】
本発明に用いることのできるフロー式リアクターの流路の形状の一例を模式的に示す断面図を図1に示すが、本発明の実施はこのリアクターを用いた場合に限られるものではない。図1に示すリアクターは混合場1と、互いに60°をなして混合場1に連結する合計6本の円管路(流路11〜16)を備えている。流路11〜16のうちの原料流入用流路と生成物流出用流路の振り分けは適宜行えるが、使用法の一例として、例えば流路13および15から良溶媒に顔料を溶解した顔料溶液を、流路12、14および16から貧溶媒を流入させ、混合場で混合して流路11から流出させることができる(この場合、原料流入用流路は流路12〜16、生成物流出用流路は流路11となる)。流入された溶媒は混合場1で互いに衝突する形となり、微細な粒子を効率よく生成することが可能である。このように3つ以上の原料流入用流路を有するリアクターとする場合、複数の流路から分割して供給する顔料溶液、貧溶媒の濃度や組成、流量はそれぞれ同一でも良く、異なっていても良い。例えば、流路13には顔料のみを溶解した溶液を、流路15には顔料と分散剤を溶解した溶液を流入させる、といった使用法も好ましく、また同一組成の顔料溶液を、流路13と15から異なった流量で流入させる、といった使用法も好ましい。もちろん、各流路にどの溶液を流すかは系によって適宜選択できる。
【0040】
図2に示すように、図1で示したリアクターの構成に加えて、さらに第二の混合場2と、これに通ずる流路17を有するリアクターも用いることができる(図1と同符号は同義である)。図2に示すリアクターは、後述する結晶化工程(工程(2))をリアクター内で行う場合に好適に用いることができるものの一例であり、詳細は結晶化工程の説明の中で述べる。
【0041】
本発明で用いることのできるリアクターの代表径について説明する。本発明における代表径とは、後述する管レイノルズ数Reの算出における代表長さDと同義であり、流路が円筒管の場合は直径、そうでない場合は後述する計算式で算出される。本発明で用いるリアクターの流路の代表径は、1mmより大きく、2mm以上が好ましい。このような代表径であると、一度に大量の流体を流すことが可能であり、顔料粒子の生産量向上につながる。代表径が小さすぎると、生産量の問題のほか、系によっては析出した顔料によって流路が閉塞するといった問題が生じる場合がある。
代表径が大きいことによって、必ずしも微細な粒子の生成が妨げられることはなく、例えば図1に示したリアクターの例では、顔料溶液と貧溶媒を対向する流線方向から、かつ大流量で混合場に導入することで高い混合率を達成でき、微細な粒子を生成させることが可能である。すなわち、製造プロセスにおける大流量処理を念頭においた場合、粒子の微細化には原料溶液を高速流で衝突させ、高速で混合を行うことがきわめて重要であるため、代表径の大きなリアクターで反応を行うことは必須といえる。また代表径の大きなリアクターを使うことで、圧力損失が比較的小さく抑えられ、大流量での送液を高圧プランジャーポンプ等の特殊な機器を用いることなく容易かつ安価に行うことが可能である。
代表径の上限は特に規定されないが、あまり大きいと流速の低下により混合が妨げられる可能性があるため、10mm以下であることが実際的である。
流路の断面形状については、製作時の加工性、物質の不要な滞留の起こしにくさや、メンテナンス時の洗浄性の観点から円または楕円が望ましい。また、混合効率向上、閉塞防止などの観点から、流路途中において流路径や断面形状を変化させることも適宜行って良い。
【0042】
[流路内における溶液の混合]
本発明においては、顔料溶液と貧溶媒の混合を迅速に行うことが重要であり、特にこの部分においては混合を促進する手段が必要である。方法のひとつに、混合場を乱流化することで混合を促進する、例えば、高速の流体を対向流の状態で流し、狭い空間内で衝突させるような手法が考えられる。
ただし、本発明における混合様式は乱流支配下に限定されるものではなく、例えば特開2006−104448号公報に示されるようにY字型をなした流路の交点にて流体同士を層流状態で接触させ、分子拡散によって混合を図る手法も考えられる。例えば図1に示したリアクターの場合、流路13、14および15から顔料溶液を、流路12および16から貧溶媒を、小流量で流すことで層流による混合方式を取ることができる。
【0043】
本発明において流体の流動状態が乱流であるか層流であるかの判定は、管レイノルズ数をもって行う。すなわち、管代表長さ(本発明においては代表径という)をD[m]、流通する液の線流速をu[m/s](定義は後述)、液の密度及び粘度をそれぞれρ[kg/m]、η[Pa・s]とした場合、管レイノルズ数Re[−]は
Re=Duρ/η
によって定義される。本発明においては、Reが1000以上の状態が乱流、100以上1000未満の状態が遷移域、100未満の状態が層流であるとする。
上式の代表長さDとは、管内の流動に最も影響を与えるような管の物性のことであり、円筒管の場合はその直径、そうでない場合は以下の式によって定義される。
D=4A/p
ここで、A[m]は流路の断面積、p[m]は流路内において流体が壁に接する部分の長さ(浸辺長)である。
このDを用い、前述の線流速uは以下の様に定義される。
u=Q/{(D/2)2×π}
ここでQは線流速を定義する流路を流れる流体の体積流量[m]である
流路途中で直径や断面形状を変化させた場合の代表径はその変化させた後の断面形状に応じて算出し、その代表径に応じて線流速及びレイノルズ数を求めればよい。
なお、本発明においては混合場の流動状態が重要となるが、混合場の状態を適切に測定することは困難であるため、以下の2条件を共に満たす場合に混合場の状態を乱流支配と推定する。
(i)混合される流体それぞれの混合直前の管レイノルズ数Reから、少なくとも混合場に接続する一流路内の流動状態が乱流とみなされる。
(ii)混合後の流体の混合直後の管レイノルズ数Reから、混合直後の流動状態が乱流とみなされる。
【0044】
上記粒子形成工程において、析出した顔料粒子の平均粒径が5〜200nmとなるよう、リアクターの代表径、流量などを調整することが好ましい。本発明において平均粒径は、特に断らない限り、実施例で採用した方法により測定した値をいう。
本発明で用いるリアクターにおいては、各流路の流量を比較的大きくすることができ、かつ、このときに作られる混合場の混合状態が顔料粒子形成に適していると考えられる。リアクターの各原料供給用流路での顔料溶液および貧溶媒の線流速は、1〜30m/sであることが好ましい。
【0045】
[結晶化工程]
リアクターにより生成した顔料粒子は、前述のようにそのままでは結晶性が低いアモルファス状態であるか、またはこれに近い準安定状態であることが多く、固体としては不安定な状態にある。そのため、顔料粒子の結晶化度を高める操作を行う必要がある。これにより、顔料は色相、耐熱性、耐光性などの諸特性において所望の性質を安定して発現することが可能となる。
顔料粒子を結晶化させる手段は数多くあり、それらの中から目的とする顔料分散物と、所望の結晶性に応じて選択すればよい。結晶化させるには、顔料粒子を構成している分子の配列変更が必要であるため、分子にエネルギーを与えるか、溶解平衡を利用するか、あるいはこれらの併用が効果的である。具体的手段としては、物理的エネルギー(衝撃力、剪断力など)、温度、圧力、溶媒との接触が考えられる。たとえば、顔料粒子を液中で分散させておき、この分散液の温度を上昇させることで結晶化を促すことができるし、また、顔料粒子を溶媒に高濃度に分散したペーストを作り、これを混練することで結晶化することも可能である。
本発明における結晶化工程の好ましいもののひとつとしては、常温常圧で顔料粒子を溶媒と接触させることによる結晶化があり、この手段においても、結晶化の効率、コスト等の観点から適宜その手法を選択することができる。たとえば、顔料粒子を撹拌槽内に投入して液中で分散させておき、次いで結晶化のための溶媒を投入して撹拌することで溶剤と顔料粒子を接触させ、顔料を結晶化させることが可能である。
また、本発明においては結晶化工程を、フロー式リアクター内で行うことも好ましい。このときのフロー式リアクターは、粒子形成工程(工程(1))を行ったフロー式リアクターと同一であっても異なっていてもよいが、同一のリアクターの、粒子形成を行った混合場からの生成物流出用流路の下流において行われることがより好ましい。たとえば前述の図2に示すような流路を有するリアクターを使用し、図1を示して説明したと同様に流路12〜16から顔料溶液及び貧溶媒を供給して混合場1で粒子形成を行った後、流路11の下流側の第二の混合場2に流入してきた顔料粒子に、流路17より結晶化のための溶媒を流入させて衝突混合させ、結晶化させるような手法をとってもよい。このような手法を用いれば、顔料粒子の生成から結晶化までを一括して行うことができ、系によっては好適である。また、リアクター内で結晶化することにより、一旦系外に取り出してから結晶化を行う場合と比べて凝集しにくく結晶化が均一になりやすいほか、材料のロスが少なくなるという効果がある。
【0046】
[結晶化に使用する溶媒]
前記の結晶化に用いる溶媒は、良溶媒(第1溶媒)および貧溶媒(第2溶媒)のいずれとも異なる溶媒(以下第3溶媒)を用いることもある。第3溶媒としては、結晶化を促す観点から顔料粒子に対して濡れ性のよい溶媒を用いることが好ましい。この点では、第3溶媒は良溶媒に近しい性質を持つ溶媒群から選定されることが好ましい。
ただし顔料を過度に溶解させるような溶媒では、オストワルド熟成現象により顔料粒子の大粒径化が起こり、最終生成物であるカラーフィルタの性能に悪影響を与える可能性があるので好ましくないため、第3溶媒は濡れ性は持ちつつも顔料に対する溶解度が比較的小さいものが望ましい。しかしながら微細な顔料粒子と溶媒との濡れ性を精確に測定することは困難であり、また微小な溶解度を正確に測定することもまた困難であるため、候補となる溶媒の中から適したものを事前試験などにより選定することが実際的である。選定された溶媒は、得られた有機ナノ顔料粒子の最終生成物となる顔料分散物において顔料を分散するのに使用する溶媒と同一であってもよく、異なっていてもよいが、溶剤を除去し洗浄、置換する工程の負荷を考慮すると、最終分散物の溶媒と同一であることが好ましい。
第3溶媒としては、アルコール化合物溶媒、アミド化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、芳香族化合物溶媒、二硫化炭素溶媒、脂肪族化合物溶媒、ニトリル化合物溶媒、スルホキシド化合物溶媒、ハロゲン化合物溶媒、エステル化合物溶媒、イオン性液体、これらの混合溶媒などが挙げられ、アルコール化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エーテル化合物溶媒、スルホキシド化合物溶媒、エステル化合物溶媒、アミド化合物溶媒、またはこれらの混合物が好ましく、アルコール化合物溶媒、ケトン化合物溶媒、エステル化合物溶媒が特に好ましい。
【0047】
アルコール化合物溶媒としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−プロピルアルコール、1−メトキシ−2−プロパノールなどが挙げられる。ケトン化合物溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンが挙げられる。エステル化合物溶媒としては、例えば、酢酸エチル、乳酸エチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(MMPGAc)などが挙げられる。
【0048】
本発明の結晶化の程度は適宜顔料種や求められる特性等に応じて定められればよいが、例えばX線回折測定によって、所定の結晶構造が与える回折ピークと、その他の結晶構造与える回折ピークとの比率によって特定することができる。例えば、ジケトピロロピロール系の顔料においては、以下の式により結晶化の程度(以下、結晶化度)を定義する。
(結晶化度)={A/(A+B)}×100
ここで、A、Bはそれぞれ
A=波形分離後のスペクトルにおける、2θ=28.1±0.3°のピーク強度
B=波形分離後のスペクトルにおける、2θ=27.0±0.3°のピーク強度
【0049】
PR254はジケトピロロピロール系の顔料であり、通常はα型とβ型の2つの結晶型の混晶状態である。カラーフィルタとした際に通常好ましい色相を有するのはα型であるため、この用途を考慮したときには、α型およびβ型それぞれの特徴的なピークである2θ=28.1°および27.0°の強度をそれぞれの存在比率の指標として結晶化度、すなわちα型結晶の存在率によって評価することができる。このような事情からジケトピロロピロール系の顔料においては、上記結晶化度は65%以上が好ましく、68%以上がさらに好ましく、70%以上が特に好ましい。結晶化度が上記下限値未満であると、カラーフィルタ用の顔料とした際に色純度が低く、所望の色相を得るために多量の顔料が必要となるため、輝度が悪化するなどの悪影響が考えられる。上記ジケトピロロピロール系の顔料の結晶化度の測定方法は、特に断らない限り、下記実施例に記載の方法による。
【0050】
[顔料分散物]
本発明の製造方法による顔料分散物は、上記粒子形成工程(工程(1))及び結晶化工程(工程(2))を行って得られた組成物から、必要に応じ溶剤を除去し溶媒に再分散してなる。溶媒は、第3溶媒として例示したものがあげられ、さらに分散剤などを含有させることができる。分散剤については、顔料溶液に含有させてよいものとして例示したものがあげられる。顔料分散物の組成は、顔料分散物100質量%に対し、結晶化顔料粒子が1〜50質量%であることが好ましく、分散剤を含有する場合は1〜50質量%であることが好ましい。さらに必要に応じ他の成分を含んでもよい。
【実施例】
【0051】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに記載の内容に何ら限定されるものではない。また、記載中の「部」および「%」は、特に断らない限り質量部および質量%を意味するものとする。
【0052】
(実施例1)
図2に示したフロー式リアクターを用いて有機顔料分散物を製造した。流路断面は円管であり、全ての流路は内径が均一であって、代表径すなわち内径は2.0[mm]であった。
[顔料溶液の作成]
ジメチルスルホキシド(和光純薬工業(株)製)20部に、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド25%水溶液(東京化成工業(株)製)2.5部、C.I.ピグメント・レッド254(商品名:イルガフォア・レッド BT−CF、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製)2.0部を添加し、顔料を溶解させたものを20℃に保ち、顔料溶液とした。
[貧溶媒の作成]
イオン交換水200部と1N塩酸20部(和光純薬工業(株)製)を混合したものを用意し、これを5℃に冷却したものを貧溶媒とした。
[有機顔料粒子の作成]
ダブルプランジャーポンプ(商品名:NP−GXL−1000 日本精密化学(株)製)5台を使用し、顔料溶液を図2に示す流路13および15から、貧溶媒を流路12、14および16から流入させ、合流部1にて混合させて顔料粒子を形成した。このとき、顔料溶液、貧溶媒の流量はそれぞれ各流路毎に100mL/分、667mL/分であった(以下、特に断り無い場合は流量の記載は流路1本あたりの流量とする)。
[顔料粒子の結晶化]
上記の顔料粒子作成と同時に、ギアポンプ(商品名:TR9、タプフロー社製)を用い図2に示す流路17からプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下PGMEA、和光純薬工業(株)製)を流入させ、混合場2で混合して結晶化させ、流路11より生成物を得た。PGMEAの流量は2150mL/分であった。
【0053】
(実施例2)
図1に示したフロー式リアクターを用いて有機顔料分散物を製造した。流路断面は円管であり、全ての流路は内径が均一であって、代表径2.0[mm]であった。
[顔料溶液、貧溶媒の作成]
実施例1と同様にして各溶液を作成した。
[有機顔料粒子の作成]
ダブルプランジャーポンプ5台を使用し、顔料溶液を図1に示す流路13および15から、貧溶媒を流路12、14および16から流入させ、合流部1にて混合させて顔料粒子を形成した。このとき、顔料溶液、貧溶媒の流量はそれぞれ100mL/分、667mL/分であった。
[顔料粒子の結晶化]
上記で作成した顔料再沈液を流路11より採取し、これを撹拌槽に移液してプロペラ翼で室温撹拌した。この状態で再沈液100部に対してPGMEA50部を添加し、撹拌槽で撹拌混合することにより顔料を結晶化させた。
【0054】
(実施例3)
図1に示したフロー式リアクターを用いて有機顔料微粒子分散物を製造した。流路断面は円管であり、全ての流路は内径が均一であって、代表径3.0[mm]であった。フロー式リアクターの代表径が異なるほかは、実施例2と同様にして有機顔料分散物を得た。
【0055】
(実施例4)
図1に示したフロー式リアクターを用いて有機顔料分散物を製造した。流路断面は円管であり、全ての流路は内径が均一であって、代表径2.0[mm]であった。
[顔料溶液、貧溶媒の作成]
実施例1と同様にして各溶液を作成した。
[有機顔料粒子の作成]
顔料溶液、貧溶媒の流量をそれぞれ150mL/分、1000mL/分としたほかは、実施例1と同様にして顔料粒子を得た。
[顔料粒子の結晶化]
実施例2と同様にして結晶化した有機顔料分散物を得た。
【0056】
(比較例1)
特開2008−231415号公報(図2)に記載のY字型流路を有するリアクターを用いて有機顔料微粒子分散物を製造した。流路断面は円管であり、全ての流路は内径が均一であって、代表径0.3[mm]であった。
[顔料溶液、貧溶媒の作成]
実施例1と同様にして各溶液を作成した。
[有機顔料粒子の作成]
ダブルプランジャーポンプ(商品名:NP−KX−740 日本精密化学(株)製)2台を使用し、上記Y字型流路を有するリアクターを用いて、顔料溶液と貧溶媒を混合させて顔料粒子を形成した。このとき、顔料溶液、貧溶媒の流量はそれぞれ1.5mL/分、15mL/分であった。
[顔料粒子の結晶化]
上記で作成した顔料再沈液を流路21より採取し、実施例2と同様にして結晶化した有機顔料分散物を得た。
【0057】
(比較例2)
図1に示したフロー式リアクターを用いて有機顔料微粒子分散物を製造した。流路断面は円管であり、全ての流路は内径が均一であって、代表径1.0[mm]であった。
[顔料溶液、貧溶媒の作成]
実施例1と同様にして各溶液を作成した。
[有機顔料粒子の作成]
ダブルプランジャーポンプ(商品名:NP−KX−740 日本精密化学(株)製)5台を使用し、顔料溶液を図1に示す流路13および15から、貧溶媒を流路12、14および16から流入させ、合流部1にて混合させて顔料粒子を形成した。このとき、顔料溶液、貧溶媒の流量はそれぞれ30mL/分、200mL/分であった。
[顔料粒子の結晶化]
実施例2と同様にして結晶化した有機顔料分散物を得た。
(比較例3)
結晶化工程を行わなかったほかは実施例2と同様にして有機顔料分散物を作成した。
【0058】
[顔料粒子の結晶性評価]
各実施例、比較例にて得られた有機顔料分散物をろ過して顔料粒子を取り出し、減圧乾燥させた。この試料のX線回折スペクトルを測定し、下記<結晶化度の測定方法>の手順及び条件に沿って各試料の結晶化度を測定した。
<結晶化度の測定方法>
各実施例及び比較例ではジケトピロロピロール系の顔料を用いたので、上記のとおり、次の式により結晶化度が求められる。
(結晶化度)={A/(A+B)}×100
(A=波形分離後のスペクトルにおける、2θ=28.1±0.3°のピーク強度
B=波形分離後のスペクトルにおける、2θ=27.0±0.3°のピーク強度)
X線回折スペクトルの測定条件は以下の通りである。測定後、得られたスペクトルをWave Metorics社製データ解析ソフト Igor Proを用いてバックグラウンド除去後、波形分離し、ピーク抽出を行って上記式から結晶化度を計算している。なお、仮にα型結晶のみの状態であっても27.1°付近の強度がゼロになることはないため、27.1°付近に明瞭なピークが存在しない場合であっても、その部分の強度をもって上式Bの値としている。
【0059】
X線回折装置:(株)リガク社製 RINT2500(商品名)
ゴニオメーター:(株)リガク社製 RINT2000縦型ゴニオメーター(商品名)
サンプリング幅:0.01°
ステップ時間:1秒
発散スリット:2°
散乱スリット:2°
受光スリット:0.6mm
管球:Cu
管電圧:55KV
管電流:280mA
【0060】
[顔料分散物のコントラスト評価]
各実施例、比較例にて得られた有機顔料分散物をろ過して顔料粒子を取り出し、顔料ペーストを得た。このペースト中の顔料分1部に対して10部のPGMEAを加え、リスラリーして再度ろ過しペースト洗浄を行うことで、顔料濃度25質量%の洗浄ペーストを得た。この洗浄ペーストを用いて以下の処方で調液を行い、ビーズミル(商品名:サンドグラインダーミル、アイメックス製)と0.05mmmジルコニアビーズで分散してコントラスト評価用のPGMEA分散液を作成した。
【0061】
<コントラスト評価用分散液処方>
・PGMEA洗浄ペースト 10部
・PGMEA 12.5部
・分散剤(商品名:アジスパーPB821 味の素ファインテクノ(株)製)
2.5部
【0062】
得られた各分散液をそれぞれスピンコーター(ミカサ社製 1H−D7(商品名))を用いて75mm×75mmのガラス基板上に厚みが2μmとなるように塗布し、ホットプレートで100℃で2分乾燥することにより、膜試料を作製した。
得られた膜試料につき、バックライトユニットとして3波長冷陰極管光源(東芝ライテック(株)社製 FWL18EX−N(商品名))に拡散板を設置したものを用い、2枚の偏光板((株)サンリツ社製の偏光板 HLC2−2518(商品名))の間にこのサンプルを置き、偏光軸が平行のときと、垂直のときとの透過光量を測定し、その比をコントラストとした(「1990年第7回色彩光学コンファレンス、512色表示10.4”サイズTFT−LCD用カラーフィルタ、植木、小関、福永、山中」等参照。)。色度の測定には色彩輝度計((株)トプコン社製 BM−5(商品名))を用いた。
【0063】
[顔料粒子の平均粒子径評価]
上記コントラスト評価にて作成した顔料分散物を、シリコンウェハー上にスピンコーターにより塗布した。得られたサンプルを走査電子顕微鏡(商品名:S−5200、日立ハイテク社製)により粒子像を撮影し、画像からノギスで粒径を求め、平均粒子径を算出した。
【0064】
以上の手法により評価した顔料の性能を表1に示す。また、各実施例または比較例の条件によって製造可能な有機顔料ナノ粒子の量を、時間当たりの顔料再沈液中の顔料質量として、生産量の欄に記した。ただし、後述するように、これには例示の条件で製造し続けることが出来たと仮定した場合も含まれる。
【0065】
[表1]
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
生産量 結晶化度 コントラスト 平均粒子径
(kg/hr) (nm)
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実施例1 13.2 65.8 21,000 22.3
実施例2 13.2 70.1 21,500 26.4
実施例3 13.2 69.8 18,800 28.9
実施例4 19.8 69.9 23,000 20.4
比較例1 0.099 66.8 17,800 20.6
比較例2 4.0 63.0 20,100 26.6
比較例3 13.2 35.6 18,000 20.1
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
【0066】
実施例1〜4の結果に示されるとおり、本発明の製造方法により得られた分散物中の有機顔料ナノ粒子は、高い結晶化度と分散物にした際のコントラストを両立できている。代表径1mmより大きいフロー式リアクターを使用したことにより、効率よく粒径の小さい粒子が得られるとともに粒子形成後の結晶化が促され、コントラストの高い分散物が得られたと考えられる。比較例3に示されるように結晶化工程を経ない場合は顔料の結晶化度が非常に低く、カラーフィルタ用顔料に供した際の色相低下が起こりえる。
なお、有機顔料粒子の作成において、顔料溶液、貧溶媒の流量をそれぞれ50mL/分、167mL/分としたほかは、実施例2と同様にして顔料分散物を作製したところ、実施例1〜4に比べ粒子の粒径が若干大きくなり、分散物のコントラスト性能の低下がみられた。この原因は完全に明らかではないが、流量が低いために流体の線流速が低下し、粒子形成時の混合効率が低くなることが原因と推測される。
比較例1に記載の代表径が小さすぎるリアクターを用いた場合、生産量が極端に少なく大量製造に際しては問題となることが分かる。比較例1の実施条件で、流量が非常に小さいのは流路が狭く、高い圧力損失が避けられないため流量を落とさざるを得なかったためである。
また実際の実験では、比較例1の条件ではしばしば装置が生成した顔料による閉塞を起こし、平均して数分で装置の停止を余儀なくされた。また、実施例2と同型であっても比較例2のように代表径が小さい場合もやはり閉塞が起こり、長時間運転し続けることが出来なかった。
【符号の説明】
【0067】
1 混合場
2 第二の混合場
11、12、13、14、15、16、17 流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機顔料分散物の製造方法であって、該製造方法が(1)該顔料の良溶媒に少なくとも顔料を溶解した有機顔料溶液と、該有機顔料の貧溶媒とを代表径が1mmより大きいフロー式リアクター内で連続的に混合し、前記有機顔料の粒子を析出させる工程、及び、(2)生成した有機顔料粒子を結晶化させる工程、を含むことを特徴とする、有機顔料分散物の製造方法。
【請求項2】
前記フロー式リアクターが3つ以上の原料流入用流路と、1つ以上の生成物流出用流路と、それらが合一する少なくとも1つの混合場とを備えていることを特徴とする、請求項1に記載の有機顔料分散物の製造方法。
【請求項3】
前記フロー式リアクターが5つ以上の原料流入用流路を有することを特徴とする請求項2に記載の有機顔料分散物の製造方法。
【請求項4】
前記有機顔料溶液と貧溶媒のうちの少なくとも一方を、前記原料流入用流路のうちの2つ以上から分割して前記混合場に供給し混合することを特徴とする、請求項2または3に記載の有機顔料分散物の製造方法。
【請求項5】
前記工程(2)をフロー式リアクター内で行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機顔料分散物の製造方法。
【請求項6】
前記工程(2)を前記工程(1)を行ったフロー式リアクター内の下流側で行うことを特徴とする請求項5に記載の有機顔料分散物の製造方法。
【請求項7】
前記工程(2)を撹拌槽内で行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機顔料分散物の製造方法。
【請求項8】
前記工程(2)が前記良溶媒および貧溶媒と異なる溶媒を析出後の粒子と接触させることによって行われる請求項1〜7のいずれか1項に記載の有機顔料分散物の製造方法。
【請求項9】
前記工程(2)の後、残溶剤を除去し、得られた顔料粒子を溶媒に再分散することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の有機顔料分散物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26452(P2011−26452A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−173733(P2009−173733)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテクノロジープログラム「ナノテク・先端部材実用化研究開発」/「有機顔料ナノ結晶の新規製造プロセスの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】