説明

顕微鏡システム

【課題】液浸媒体の不足を検出する技術を提供することを課題とする。
【解決手段】合焦手段は標本Sを含む標本ユニットSUに液浸対物レンズ10bを合焦する。エンコーダ21及び座標検出部25は合焦された液浸対物レンズ10bの標本Sに対する光軸方向の相対的な座標である合焦座標を検出し、合焦座標記録部41は検出された合焦座標を記録する。液浸媒体充填判定部42は合焦座標記録部41に記録された合焦座標に基づいて標本ユニットSUと液浸対物レンズ10bの間が液浸媒体で満たされているか否かを判定する。これにより、顕微鏡システム1は液浸媒体の不足を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡システムに関し、特に、液浸対物レンズを含む顕微鏡システムに関する。
【背景技術】
【0002】
標本を保持するカバーガラスやガラスボトムディッシュなどの保持部材と対物レンズとの間を水や油などの液体(以降、液浸媒体と記す)で満すことで、光学系の開口数を高め、分解能と輝度の向上を実現する技術が知られている。このような液浸技術を利用した液浸対物レンズは、現在、広く普及しており、例えば、タイムラプス観察などでも利用されている。
【0003】
しかしながら、長時間にわたって生細胞等の標本を観察するタイムラプス観察に液浸対物レンズを用いる場合、観察期間中に液浸媒体が蒸発することにより、保持部材と液浸対物レンズの間に液浸媒体で満たされていない空間(以降、ギャップと記す)が生じることがある。
【0004】
また、標本中の複数の部位を観察する多点タイムラプス観察などでは、液浸対物レンズに対して標本の相対的な移動が発生するが、倒立顕微鏡の場合には、保持部材の下面に液浸媒体の一部が残ってしまう。このため、移動後の液浸対物レンズ上の液浸媒体が不足し、保持部材と液浸対物レンズの間にギャップが生じることがある。
【0005】
このようなギャップが生じると、液浸対物レンズの光学性能は著しく低下してしまう。このような技術的な課題を踏まえ、例えば、特許文献1では、液浸媒体を自動的に供給する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2004−531765公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1で開示される技術では、液浸媒体を自動的に供給することが可能である。しかしながら、保持部材と液浸対物レンズの間のギャップを検出することはできず、液浸媒体が不足していることを検出することはできない。
【0008】
従って、液浸媒体の不足による光学性能の低下を防止するためには、液浸媒体が不足しているか否かに関わらず、撮影毎に常に液浸媒体を供給しなおす必要がある。
【0009】
以上のような実情を踏まえ、本発明では、液浸媒体の不足を検出する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、液浸対物レンズと、標本と標本を保持する保持部材とを含む標本ユニットに液浸対物レンズを合焦する合焦手段と、合焦手段により合焦された液浸対物レンズの、標本に対する光軸方向の相対的な座標である、合焦座標を検出する合焦座標検出手段と、合焦座標検出手段により検出された合焦座標を記録する記録手段と、記録手段に記録された合焦座標に基づいて、保持部材と液浸対物レンズの間が液浸媒体で満たされているか否かを判定する判定手段と、を含む顕微鏡システムを提供する。
【0011】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の顕微鏡システムにおいて、さらに、判定手段による判定に用いられる閾値を設定する閾値設定手段を含み、判定手段は、現在の合焦座標と記録手段に記録された合焦座標との差が閾値未満であるときに、保持部材と液浸対物レンズの間が液浸媒体で満たされていると判定し、現在の合焦座標と記録手段に記録された合焦座標との差異が閾値以上であるときに、保持部材と液浸対物レンズの間が液浸媒体で満たされていないと判定する顕微鏡システムを提供する。
【0012】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の顕微鏡システムにおいて、記録手段に記録された合焦座標は、現在の合焦座標が記録される直前に記録された前回の合焦座標である顕微鏡システムを提供する。
【0013】
本発明の第4の態様は、第2の態様または第3の態様に記載の顕微鏡システムにおいて、閾値は、保持部材の光軸方向の厚さを用いて算出される値である顕微鏡システムを提供する。
【0014】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様のいずれか1つに記載の顕微鏡システムにおいて、さらに、ユーザに液浸媒体の不足を通知する通知手段を含み、通知手段は、判定手段により保持部材と液浸対物レンズの間が液浸媒体で満たされていないと判定されたときに、ユーザに液浸媒体の不足を通知する顕微鏡システムを提供する。
【0015】
本発明の第6の態様は、第1の態様乃至第4の態様のいずれか1つに記載の顕微鏡システムにおいて、さらに、液浸媒体を供給する供給手段を含み、供給手段は、判定手段により保持部材と液浸対物レンズの間が液浸媒体で満たされていないと判定されたときに、液浸媒体を供給する顕微鏡システムを提供する。
【0016】
本発明の第7の態様は、第1の態様乃至第6の態様のいずれか1つに記載の顕微鏡システムにおいて、さらに、標本の撮影を行う撮影手段を含み、判定手段は、撮影手段により標本の撮影が行われる前に、保持部材と液浸対物レンズの間が液浸媒体で満たされているか否かを判定する顕微鏡システムを提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、液浸媒体の不足を検出する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例1に係る顕微鏡システムの構成を例示した図である。
【図2】集光位置と反射位置とが一致しているときに、図1に例示される顕微鏡システムに含まれる受光センサに入射するレーザー光を例示した図である。
【図3】集光位置と反射位置とが一致していないときに、図1に例示される顕微鏡システムに含まれる受光センサに入射するレーザー光を例示した図である。
【図4】集光位置と反射位置とが一致していないときに、図1に例示される顕微鏡システムに含まれる受光センサに入射するレーザー光を例示した図である。
【図5】対物レンズの各座標における受光センサの各受光領域で検出されるレーザー光の強度の総和を示すグラフを例示した図である。
【図6】図1に例示される顕微鏡システムで行われる合焦判定に用いられるグラフを例示した図である。
【図7】図1に例示される顕微鏡システムで行われる合焦判定に用いられる他のグラフを例示した図である。
【図8】図1に例示される顕微鏡システムに含まれる乾燥系対物レンズの合焦状態を例示した図である。
【図9】図1に例示される顕微鏡システムに含まれる液浸対物レンズの合焦状態を例示した図である。
【図10】液浸媒体の不足による、図1に例示される顕微鏡システムに含まれる液浸対物レンズの合焦状態の変化を例示した図である。
【図11】図1に例示される顕微鏡システムに含まれるオフセット補正レンズ群により、レーザー光の集光位置と励起光の集光位置とをずらした液浸対物レンズの合焦状態を例示した図である。
【図12A】図1に例示される顕微鏡システムによるタイムラプス観察の準備作業のフローを例示したフローチャートである。
【図12B】図1に例示される顕微鏡システムによるタイムラプス観察の処理フローを例示したフローチャートである。
【図13】図1に例示される顕微鏡システムによるタイムラプス観察時の時間と合焦状態の座標を例示した図である。
【図14】実施例2に係る顕微鏡システムの構成を例示した図である。
【図15】図14に例示される顕微鏡システムに含まれる電動ステージの観察ポジションを例示した図である。
【図16】図14に例示される顕微鏡システムに含まれる電動ステージの供給ポジションを例示した図である。
【図17】図14に例示される顕微鏡システムによるタイムラプス観察の処理フローを例示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0019】
図1は、本実施例に係る顕微鏡システムの構成を例示した図である。なお、本実施例では、図1の紙面に直交する方向をY方向として、各レンズの光軸方向をZ方向として、図1の紙面に平行で且つ光軸と直交する方向をX方向として、定義する。
【0020】
図1に例示される顕微鏡システム1は、ガラスディッシュ3に保持された標本Sを観察する倒立型の蛍光顕微鏡システムであり、対物レンズ10とガラスディッシュ3との間に液浸媒体が満たされている否かを判定して、液浸媒体の不足を検出することができる顕微鏡システムである。
【0021】
顕微鏡システム1は、電動レボルバ19に装着された複数の対物レンズ10(乾燥系対物レンズ10a、液浸対物レンズ10b)と、培養液2に浸された標本Sと標本Sを保持するガラスディッシュ3とを含む標本ユニットSUが固定された電動ステージ4と、標本Sを蛍光観察するための蛍光観察手段と、標本ユニットSUに対物レンズ10を合焦する合焦手段と、顕微鏡システム1全体を制御するコントロール部18と、ユーザからの指示の入力に用いられる操作部40と、を含んでいる。
【0022】
電動レボルバ19は、コントロール部18からの制御信号により、任意の対物レンズ10を光路上に挿入することができる。図1では、液浸対物レンズ10bが、光路上に挿入されて、標本ユニットSUに対向して配置されている。また、電動レボルバ19は、モータ22aを備えた架台23に固定されている。コントロール部18からの制御信号によりモータ制御部24aがモータ22aを駆動させることで、架台23は光路上に挿入された対物レンズ10の光軸方向(Z方向)に移動する。この架台23の移動により、対物レンズ10も移動するため、標本Sに対する対物レンズ10の光軸方向の相対的な座標(以降、単に対物レンズの座標と記す)を変化させることができる。また、対物レンズ10の座標は、モータ22aに取り付けられたエンコーダ21からの出力信号が入力される座標検出部25により検出することができる。
【0023】
ガラスディッシュ3が固定された電動ステージ4は、対物レンズ10の光軸に直交するX方向及びY方向に移動可能であり、ステージ制御部5は、コントロール部18からの制御信号により、電動ステージ4の移動を制御する。
【0024】
蛍光観察手段は、標本Sを励起する励起光を射出する光源6と、コレクタレンズ7と、標本Sの励起に適した波長の光を透過する励起フィルタ8と、励起光を反射し蛍光を透過するダイクロイックミラー9と、観察に不要な波長の光を分離する吸収フィルタ11と、標本Sから生じた蛍光の進行方向を切り換える光路切換え部12と、ミラーMと、接眼レンズ13と、光源6から射出される励起光を遮断する電動シャッタ17を含んでいる。電動シャッタ17は、コントロール部18からの制御信号により、励起光を遮断するON状態と励起光を遮断しないOFF状態とのいずれかの状態に制御される。
【0025】
光源6から射出される励起光は、コレクタレンズ7及び励起フィルタ8を介して入射したダイクロイックミラー9を反射して対物レンズ10に入射する。対物レンズ10は、励起光を標本Sに照射することで、標本Sを励起光で照明する。励起光の照射により励起された標本Sから生じた蛍光は、対物レンズ10を介してダイクロイックミラー9に入射する。さらに、蛍光は、ダイクロイックミラー9を通過し、吸収フィルタ11、光路切換え部12、ミラーMを介して、接眼レンズ13に入射する。従って、顕微鏡システム1では、蛍光観察手段を用いることで、標本Sを目視観察することができる。
【0026】
また、顕微鏡システム1は、顕微鏡システム1の外部に設けられた、CCDカメラユニット14とビデオキャプチャボード15とホストPC16に接続することができる。さらに、顕微鏡システム1は、光路切換え部12により蛍光をCCDカメラユニット14に導くことで、CCDカメラユニット14により標本Sを撮像し、さらに、撮像された標本Sの画像を、ビデオキャプチャボード15を介して、ホストPC16に保存することができる。即ち、顕微鏡システム1は、蛍光観察手段による目視観察のみではなく、標本Sの撮影を行うこともできる。
【0027】
図1では、CCDカメラユニット14、ビデオキャプチャボード15、及び、ホストPC16は、顕微鏡システム1の外部に設けられているが、特にこれに限られない。顕微鏡システム1が、CCDカメラユニット14、ビデオキャプチャボード15、及び、ホストPC16を含んでもよい。即ち、顕微鏡システム1は、蛍光観察手段と、CCDカメラユニット14と、ビデオキャプチャボード15と、ホストPC16とからなる撮影手段を含んでもよい。
【0028】
合焦手段は、標本ユニットSUに対物レンズ10を自動的に合焦する、いわゆるオートフォーカス機能を実現する手段である。合焦手段は、可視外領域の赤外光であるレーザー光を発光する赤外光半導体レーザー26と、コントロール部18からの制御信号により赤外光半導体レーザー26の発光を制御するレーザー駆動部27と、赤外光半導体レーザー26から発光されたレーザー光を略平行光に変換するコリメートレンズ28と、レーザー光の光束の一部を遮断する投光側ストッパ29と、P偏光を反射しS偏光を透過するPBS30と、集光レンズ群31と、オフセット補正レンズ群32と、λ/4板33と、赤外光を反射するダイクロイックミラー34と、集光レンズ群35と、受光センサ36と、標本ユニットSUに対物レンズ10が合焦されているか否かについての判定(以降、合焦判定と記す)を行う合焦判別部37と、を含んでいる。なお、受光センサ36は、それぞれ独立に入射光を検出する受光領域Aと受光領域Bを有する2分割フォトダイオードであり、光軸を中心に設置されている。
【0029】
合焦手段は、さらに、架台23を移動させるモータ22aと、モータ22aの駆動を制御するモータ制御部24aと、オフセット補正レンズ群32を移動させるモータ22bと、モータ22bの駆動を制御するモータ制御部24bを含んでいる。
【0030】
赤外光半導体レーザー26から照明光として発光されたレーザー光は、コリメートレンズ28により略平行光に変換されて、投光側ストッパ29に入射する。レーザー光の光束の半分は投光側ストッパ29により遮断されて、レーザー光の残りの半分はPBS30に入射する。その後、レーザー光のP偏光成分のみがPBS30を反射して、集光レンズ群31により集光され、オフセット補正レンズ群32を通過する。なお、オフセット補正レンズ群32の機能については、後に詳述する。
【0031】
オフセット補正レンズ群32を通過したレーザー光はλ/4板33に入射する。λ/4板33は、レーザー光の偏光方向を45度回転させて、P偏光であるレーザー光を円偏光に変換する。その後、レーザー光は、赤外光を反射するダイクロイックミラー34を反射し、対物レンズ10により集光して、標本ユニットSUに照射される。
【0032】
標本ユニットSUを反射したレーザー光は、対物レンズ10、ダイクロイックミラー34を介して、λ/4板33に入射する。λ/4板33は、レーザー光の偏光方向を45度回転させて、円偏光であるレーザー光をS偏光に変換する。S偏光であるレーザー光は、オフセット補正レンズ群32及び集光レンズ群31を通過して、PBS30に入射する。PBS30はS偏光を透過するため、レーザー光はPBS30を通過して、集光レンズ群35に入射し、受光センサ36に照射される。受光センサ36は、レーザー光を光電変換によりセンサ信号に変換して、合焦判別部37へ出力する。
【0033】
合焦判別部37は、受光センサ36から出力されたセンサ信号を受信し、受光領域Aからのセンサ信号(以降、センサ信号Sと記す)と受光領域Bからのセンサ信号(以降、センサ信号Sと記す)とを識別する。さらに、合焦判別部37は、受光領域Aへ入射したレーザー光の強度の総和(以降、強度I)をセンサ信号Sから算出し、受光領域Bへ入射したレーザー光の強度の総和(以降、強度I)をセンサ信号Sから算出する。その上で、合焦判別部37は、強度I及び強度Iに基づいて、合焦判定を行う。対物レンズ10が合焦されていないと合焦判別部37が判定した場合には、コントロール部18からの制御信号によりモータ制御部24aがモータ22aを駆動させて、対物レンズ10の座標を変化させる。
【0034】
合焦手段は、合焦判別部37により対物レンズ10が合焦されていると判定されるまで、対物レンズ10の移動と合焦判別部37による合焦判定を繰り返すことで、対物レンズ10を標本ユニットSUに合焦することができる。
【0035】
合焦判定では、対物レンズ10によりレーザー光が集光する集光位置(以降、単に集光位置と記す)とレーザー光が標本ユニットSUを反射する反射位置(以降、単に反射位置と記す)との位置関係によって、受光センサ36の受光領域A及び受光領域Bに入射するレーザー光の強度のバランスが変化することを利用する。なお、顕微鏡システム1では、受光センサ36は、集光位置とおよそ光学的に共役な位置に配置されている。
【0036】
図2は、集光位置と反射位置とが一致しているときに受光センサに入射するレーザー光を例示した図である。図2(a)は、受光センサ36に入射するレーザー光をY方向から見た図を示し、図2(b)は、受光センサ36に入射するレーザー光をX方向から見た図を示している。図3及び図4は、集光位置と反射位置とが一致していないときに受光センサに入射するレーザー光を例示した図である。図3(a)及び図4(a)は、受光センサ36に入射するレーザー光をY方向から見た図を示し、図3(b)及び図4(b)は、受光センサ36に入射するレーザー光をX方向から見た図を示している。
【0037】
また、図5は、対物レンズの各座標における受光センサの各受光領域で検出されるレーザー光の強度の総和を示すグラフを例示した図である。なお、図5で例示されるグラフの縦軸は、受光センサ36の受光領域A及び受光領域Bの各々で検出されるレーザー光の強度の総和(強度I及び強度I)を示している。横軸は、対物レンズの座標を示している。ここでは、集光位置と反射位置とが一致する合焦状態での対物レンズ10の座標(以降、合焦座標と記す)を0としている。
【0038】
集光位置と反射位置とが一致している場合、即ち、対物レンズ10が標本ユニットSUに合焦している合焦状態にある場合には、図2に例示されるように、標本ユニットSUを反射したレーザー光は、光軸を中心とした受光センサ36上の極狭い領域に集光する。従って、図5に例示されるように、合焦座標では、強度Iと強度Iは略等しい値を示す。
【0039】
これに対して、集光位置と反射位置とが一致していない場合、即ち、非合焦点状態にある場合には、図3及び図4に例示されるように、標本ユニットSUを反射したレーザー光は、光軸に対して偏った状態で受光センサ36に照射される。
【0040】
具体的には、合焦状態から対物レンズ10が標本ユニットSU側(以降、標本側と記す。)に移動して集光位置が反射位置によりも標本側に位置する場合、即ち、前ピン状態にある場合、図3に例示されるように、標本ユニットSUを反射したレーザー光は、受光領域Aに偏って入射する。従って、図5に例示されるように、対物レンズ10が合焦座標より標本側に位置する場合には、強度Iが強度Iより大きな値を示す。
【0041】
また、合焦状態から対物レンズ10が電動レボルバ19側(以降、像側と記す。)に移動して集光位置が反射位置より像側に位置する場合、即ち、後ピン状態にある場合、図4に例示されるように、標本ユニットSUを反射したレーザー光は、受光領域Bに偏って入射する。従って、図5に例示されるように、対物レンズ10が合焦座標より像側に位置する場合には、強度Iが強度Iより大きな値を示す。
【0042】
図6及び図7は、合焦判定に用いられるグラフを例示した図である。図6は、対物レンズの各座標における強度Iと強度Iの和(=I+I、以降、第1の評価値と記す)を示す関数(以降、第1の評価関数と記す)のグラフである。図7は、対物レンズの各座標における強度Iと強度Iの和に対する強度Iと強度Iの差の比率(=(I−I)/(I+I)、以降、第2の評価値と記す)を示す関数(以降、第2の評価関数と記す)のグラフである。
【0043】
なお、図5に例示される強度Iが示す形状と強度Iが示す形状は合焦座標に対して互いに対称であるため、図6に例示される第1の評価関数は、合焦座標(縦軸)に対して軸対称な形状を有する。また、同様の理由から、図7に例示される第2の評価関数は、合焦座標(原点)に対して点対称な形状を示す。
【0044】
図6に例示されるように、合焦状態で第1の評価関数は最大となるため、合焦判別部37は第1の評価値が最大値を示しているか否かによって合焦状態を判定する。従って、第1の評価値を用いて合焦判定を実施する場合、合焦手段は、合焦判別部37により第1の評価値が最大値を示していると判定される位置に対物レンズ10を移動させることで、対物レンズ10を標本ユニットSUに合焦する。
【0045】
図7に例示されるように、合焦状態で第2の評価関数は0となるため、合焦判別部37は第2の評価値が0か否かによって合焦状態を判定する。従って、第2の評価関数を用いて合焦判定を実施する場合、合焦手段は、合焦判別部37により第2の評価値が0であると判定される位置に対物レンズ10を移動させることで、対物レンズ10を標本ユニットSUに合焦する。
【0046】
第1の評価関数、第2の評価関数のいずれを用いても対物レンズ10を標本ユニットSUに合焦することができるが、合焦するために対物レンズ10を移動すべき方向を容易に認識できる点で、第2の評価関数を用いることがより望ましい。
【0047】
図7に例示されるように、合焦座標に対して対物レンズ10が標本側にある場合、即ち、前ピン状態では、第2の評価値は正の値を示し、合焦座標に対して対物レンズ10が像側にある場合、即ち、後ピン状態では、第2の評価値は負の値を示す。従って、第2の評価値の正負により対物レンズ10の移動すべき方向が特定できる。具体的には、第2の評価値が正の値であれば、矢印1で示されるように対物レンズ10を像側に、第2の評価値が負の値であれば、矢印2で示されるように対物レンズ10を標本側に移動させればよい。
【0048】
次に、本実施例に係る顕微鏡システム1による液浸媒体の不足の検出方法について説明する。
図8は、乾燥系対物レンズの合焦状態を例示した図である。図9は、液浸対物レンズの合焦状態を例示した図である。ここで、図8に例示される乾燥系対物レンズ10aと図9に例示される液浸対物レンズ10bは、焦点距離が等しいものとする。
【0049】
乾燥系対物レンズ10aを使用する場合、図8に例示されるように、ガラスディッシュ3の底面(以降、界面IF1と記す)は、屈折率の異なる空気と接しているため、乾燥系対物レンズ10aから射出されたレーザー光は、界面IF1で反射する。従って、像側から標本ユニットSUに乾燥系対物レンズ10aを合焦する場合、集光位置が界面IF1に一致したときに、乾燥系対物レンズ10aは合焦される。
【0050】
一方、液浸対物レンズ10bを使用する場合、通常、液浸対物レンズ10bと標本ユニットSUの間は液浸媒体WTで満たされているため、図9に例示されるように、ガラスディッシュ3の底面は、液浸媒体WTと接している。液浸媒体WTとして例えばオイルを用いている場合、ガラスディッシュ3と液浸媒体WTの屈折率は略等しいため、対物レンズ10から射出されたレーザー光は、界面IF1で反射せず、ガラスディッシュ3と培養液2(または標本S)の界面(以降、界面IF2と記す)で反射する。従って、像側から標本ユニットSUに液浸対物レンズ10bを合焦する場合、集光位置が界面IF2に一致したときに、液浸対物レンズ10bは合焦される。
【0051】
図8及び図9に例示されるように、乾燥系対物レンズ10aと液浸対物レンズ10bでは、合焦位置が光軸方向にガラスディッシュ3の厚さtだけ異なるため、乾燥系対物レンズ10aと液浸対物レンズ10bを切り換えると、合焦座標は厚さtだけ変化する。
【0052】
図10は、液浸媒体の不足による液浸対物レンズの合焦状態の変化を例示した図である。図10は、液浸対物レンズ10bと標本ユニットSUの間に液浸媒体で満たされている状態を点線で、液浸対物レンズ10bと標本ユニットSUの間に液浸媒体で満たされていない状態を実線で示している。
【0053】
図10に例示されるように、液浸媒体が不足すると、界面IF1をまたがって屈折率の差異が生じることになるため、液浸対物レンズ10bから射出されたレーザー光は、界面IF1で反射する。従って、像側から標本ユニットSUに液浸対物レンズ10bを合焦する場合、乾燥系対物レンズ10aと同様に、集光位置が界面IF1に一致したときに、液浸対物レンズ10bは合焦される。
【0054】
このように、液浸対物レンズ10bと標本ユニットSUの間が液浸媒体で満たされている場合と満たされていない場合では、液浸対物レンズ10bと乾燥系対物レンズ10aとを切り換えた場合と同様に、合焦座標が厚さtだけ変化することになる。従って、合焦座標の変化を検出することで、液浸媒体の不足を検出することができる。
【0055】
図1に例示されるように、本実施例に係る顕微鏡システム1は、合焦座標を検出する合焦座標検出手段であるエンコーダ21及び座標検出部25と、合焦座標検出手段により検出された合焦座標を記録する記録手段である合焦座標記録部41と、合焦座標記録部41に記録された合焦座標に基づいて標本ユニットSUと液浸対物レンズ10bの間が液浸媒体で満たされているか否かを判定する判定手段である液浸媒体充填判定部42と、を含んでいる。顕微鏡システム1は、さらに、液浸媒体充填判定部42による判定に用いられる閾値を設定する閾値設定手段である閾値設定部43と、ユーザに液浸媒体の不足を通知する通知手段である液浸媒体不足通知部44と、を含んでいる。
【0056】
顕微鏡システム1は、撮影手段により標本Sの撮影が行われる前に、撮影毎に、合焦手段により液浸対物レンズ10bを合焦し、液浸媒体充填判定部42により充填判定を行う。なお、撮影とは、標本Sの1枚の画像を取得するために行われる一連の動作をいうが、合焦動作やステージの移動などは含まないものとする。また、充填判定とは、標本ユニットSUと液浸対物レンズ10bの間が液浸媒体で満たされているか否かの判定をいう。
【0057】
エンコーダ21は、液浸対物レンズ10bが移動すると移動量に応じた電気信号を座標検出部25へ出力する。座標検出部25は、合焦手段により液浸対物レンズ10bが標本ユニットSUに合焦されると、エンコーダ21から出力された電気信号に基づいて、液浸対物レンズ10bの標本Sに対する光軸方向の相対的な座標を算出し、それを合焦座標として検出する。座標検出部25は、合焦座標をコントロール部18へ出力し、合焦座標記録部41は、コントロール部18から入力される合焦座標を記録する。
【0058】
液浸媒体充填判定部42は、座標検出部25で検出された現在の合焦座標Zと前回の撮影時に合焦座標記録部41に記録された合焦座標Zn−1との差を算出し、その差が閾値設定部43に設定されている閾値TAを上回るか否かを判定する。
【0059】
閾値TAは、ガラスディッシュ3の厚さtを基準に閾値設定部43に算出されるもので値であり、予めユーザがガラスディッシュ3の厚さtを入力することにより自動的に設定される。例えば、閾値TAは、ガラスディッシュ3の厚さtと係数kの積であり、ここでは、k=0.8として算出されている。
【0060】
なお、係数kは、ガラスディッシュ3の厚さtの熱ドリフトを考慮して設定されるものであり、測定間隔、設定温度によって1未満の異なる値に設定され得る。
液浸媒体充填判定部42は、|Zn−1−Z|≦TAであれば、合焦座標の変化は小さいため、液浸対物レンズ10bと標本ユニットSUの間は液浸媒体で満たされていると判定する。この場合、顕微鏡システム1は、液浸媒体充填判定部42の判定結果を受けて、撮影動作を開始し、標本Sの画像を取得する。
【0061】
一方、液浸媒体充填判定部42は、|Zn−1−Z|>TAであれば、合焦座標の変化が大きいため、液浸対物レンズ10bと標本ユニットSUの間は液浸媒体で満たされておらず液浸媒体が不足していると判定する。この場合、液浸媒体充填判定部42は、液浸媒体不足通知部44へ液浸媒体の不足を示す信号を送信し、液浸媒体不足通知部44は、ユーザに液浸媒体の不足を通知する。具体的には、液浸媒体不足通知部44は例えばLEDであり、LEDの点灯により液浸媒体の不足をユーザに通知してもよい。
【0062】
さらに、顕微鏡システム1では、オフセット補正レンズ群32を用いて、合焦状態におけるレーザー光の集光位置と励起光の集光位置とをずらすことができる。図11は、オフセット補正レンズ群によりレーザー光の集光位置と励起光の集光位置とをずらした液浸対物レンズの合焦状態を例示した図である。
【0063】
図1に例示されるオフセット補正レンズ群32は、オフセット補正レンズ群32から射出されるレーザー光の状態を、収束状態や発散状態に調整するためのレンズ群であり、オフセット補正レンズ群32の光軸方向に移動可能に配置されている。コントロール部18からの制御信号によりモータ制御部24bがモータ22bを駆動させることで、オフセット補正レンズ群32が光軸方向に移動し、オフセット補正レンズ群32から射出されるレーザー光の状態が調整される。これにより、対物レンズ10へ入射するレーザー光の状態が変化してレーザー光の集光位置が変化する。一方で、オフセット補正レンズ群32の移動により、光源6から射出される励起光の集光位置は変化しない。
【0064】
このため、オフセット補正レンズ群32によりレーザー光の集光位置と励起光の集光位置をずらすことで、合焦状態で標本Sを観察する観察面(励起光の集光位置)を界面IF2からずらすことができる。図11では、オフセット補正レンズ群32により、観察面VPが界面IF2からZだけずれている状態が例示されている。従って、合焦状態で標本の内部を観察することができる。
【0065】
次に、本実施例に係る顕微鏡システム1によるタイムラプス観察の処理フローについて説明する。図12Aは、本実施例に係る顕微鏡システム1によるタイムラプス観察の準備作業のフローを例示したフローチャートである。図12Bは、本実施例に係る顕微鏡システム1によるタイムラプス観察の処理フローを例示したフローチャートである。また、図13は、図1に例示される顕微鏡システムによるタイムラプス観察時の時間と合焦状態の座標を例示した図である。縦軸は合焦座標を、横軸は撮影時の時間を示している。
図13は、撮影時間ts6と撮影時間ts7の間で、合焦座標がZ6からZ7へ閾値TA以上に変化してオイル(液浸媒体)切れが発生した例を示している。
【0066】
図12Aに例示されるように、顕微鏡システム1では、タイムラプス観察の開始前に、閾値設定部43に閾値が設定される。まず、操作部40を介してユーザから観察に使用するガラスディッシュ3の厚さtが入力される(ステップS100)。次に、閾値設定部43は、入力された厚さtと係数kを掛けて閾値TAを算出し(ステップS101)、算出された閾値TAを記録する(ステップS102)。これにより、閾値設定部43に閾値TAが設定される。
【0067】
図12Bに例示されるように、顕微鏡システム1では、タイムラプス観察が開始されると、まず、操作部40を介してユーザから撮影間隔時間、撮影枚数、撮影オフセット値が入力される(ステップS200)。撮影間隔時間、撮影枚数、撮影オフセット値は、それぞれ、例えば、1時間、8枚、10μmである。次に、ステップS200で設定された撮影オフセット値に基づいてオフセット補正レンズ群32を駆動することで、観察面が調整される(ステップS201)。
【0068】
その後、ステップS202からステップS211で示されるタイムラプスサイクルが開始される。タイムラプスサイクルの各サイクルでは、まず、合焦手段により標本ユニットSUに対物レンズ10を合焦する(ステップS202)。次に、合焦座標検出手段であるエンコーダ21及び座標検出部25により合焦座標Zを検出して、合焦座標記録部41に記録する(ステップS203)。さらに、前回のタイムラプスサイクルで取得され合焦座標記録部41に記録されている合焦座標Zn−1を読み出し(ステップS204)後、液浸媒体充填判定部42により充填判定が行われる(ステップS205)。具体的には、現在の合焦座標Zと前回のタイムラプスサイクルで取得され合焦座標記録部41に記録されている合焦座標Zn−1との差が閾値設定部43に設定されている閾値TAを上回るか否かが判定される。
【0069】
液浸媒体充填判定部42が差は閾値TA以下であると判定すると、顕微鏡システム1は、標本ユニットSUと液浸対物レンズ10bの間は液浸媒体で満たされていると判断して、撮影動作を開始し、撮影手段により標本Sを撮影する(ステップS206)。
【0070】
一方、液浸媒体充填判定部42が差は閾値TAを上回っていると判定すると、撮影動作は開始されず、液浸媒体不足通知部44によりユーザに液浸媒体の不足が通知される(ステップS207)。ユーザは、液浸媒体不足通知部44からの通知を確認し、標本SUと液浸対物レンズ10bの間にオイル等の液浸媒体を供給し、標本SUと液浸対物レンズ10bの間を液浸媒体で満たす(ステップS208)。
【0071】
顕微鏡システム1は、その後、改めて合焦手段により標本ユニットSUに対物レンズ10を合焦し(ステップS209)、合焦座標検出手段であるエンコーダ21及び座標検出部25により合焦座標Zを検出して、合焦座標記録部41に記録する(ステップS210)。その後、顕微鏡システム1は、液浸媒体充填判定部42による充填判定を行うことなく、撮影動作を開始し、撮影手段により標本Sを撮影する(ステップS206)。なお、撮影動作を開始する前に、再度、液浸媒体充填判定部42により充填判定が行われてもよい。
【0072】
撮影後、顕微鏡システム1は、ステップS200で設定された撮影枚数だけ標本Sを撮影したか否かを判定し(ステップS211)、設定された撮影枚数だけ撮影が行われていれば、タイムラプス観察を終了する。
【0073】
撮影枚数に達していない場合には、ステップS200で設定された撮影間隔時間だけ待機(ステップS212)後に、ステップS202へ制御が遷移し、新たなタイムラプスサイクルが開始される。そして、設定された撮影枚数だけ標本Sを撮影するまでタイムラプスサイクルを繰り返して、タイムラプス観察を終了する。
【0074】
以上、本実施例に係る顕微鏡システム1によれば、液浸対物レンズ10bと標本ユニットSUの間は液浸媒体で満たされて否かを判定することで、液浸媒体の不足を検出することができる。このため、顕微鏡システム1は、観察期間中に液浸媒体が蒸発するなどとして、液浸媒体が不足することがある長期間にわたるタイムラプス観察などに、特に有効である。なお、図12Bでは、標本S中の一箇所のみを観察するタイムラプス観察を例示したが、特にこれに限られない。顕微鏡システム1は、標本S中の複数箇所を観察する多点タイムラプス観察にも好適である。
【0075】
また、顕微鏡システム1によれば、撮影動作を開始する前に液浸媒体の不足を検出することができるため、液浸媒体が不足した状態での標本Sの撮影を防止することが可能であり、撮影画像の画質の劣化を防止することができる。
【0076】
また、顕微鏡システム1によれば、液浸媒体不足通知部44を通じてユーザに液浸媒体の不足を通知することができるため、ユーザが適宜液浸媒体を供給し直すことで、常に液浸媒体が満たされた状態で標本Sを撮影することが可能となり、液浸媒体の不足に起因する光学性能の低下を防止し、常に良好な画像を撮影することができる。
【0077】
なお、本実施例では、合焦手段として、赤外光半導体レーザー26と2分割フォトダイオードである受光センサ36を含む構成を例示し、これらを用いた合焦方法を例示したが、合焦手段や合焦方法は、特にこれに限られない。合焦手段は、例えば、赤外光半導体レーザー26の代わりにLED光源を含んでもよく、例えば、2分割フォトダイオードの代わりに4分割フォトダイオード、ラインセンサ、またはCCD等を含んでもよい。また、合焦方法も既知の他の方法を利用しても良い。
【0078】
また、本実施例では、合焦手段が、対物レンズ10を光軸方向へ移動させることにより、対物レンズ10を標本ユニットSUに合焦する例を示したが、特にこれに限られない。合焦手段は、電動ステージ4を光軸方向へ移動させることにより、対物レンズ10を標本ユニットSUに合焦してもよい。なお、その場合、合焦座標検出手段は、電動ステージ4に備えられたエンコーダと座標検出部から構成されてもよい。
【0079】
また、本実施例では、液浸媒体充填判定部42が、判定式として、|Zn−1−Z|>TAを用いて、液浸対物レンズ10bと標本ユニットSUの間が液浸媒体で満たされているか否かを判定する例を示したが、判定式は特にこれに限られない。観察中にガラスディッシュ3に熱が加わることでガラスディッシュ3の厚さが変化する現象である熱ドリフトを考慮した判定式を用いても良い。
【0080】
例えば、判定式として、||Zn−1−Z|−|Zn−2−Zn−1||≦TAを用いても良い。なお、ここで、TAは閾値を、Zは現在の合焦座標、Zn−1は前回の撮影時の合焦座標、Zn−2は前々回の撮影時の合焦座標である。これにより、撮影間に生じる熱ドリフトによる合焦座標の変化を相殺することができるため、より高い精度の充填判定を行うことができる。
【0081】
また、本実施例では、液浸媒体不足通知部44としてLEDを例示したが、特にこれに限られない。ホストPC16が液浸媒体不足通知部44として機能してもよく、その場合、ホストPC16の画面上に液浸媒体の不足を示すメッセージ等を表示してもよい。また、液浸媒体不足通知部44として警告音を発する装置を用いても良い。また、液浸媒体不足通知部44は、タイムラプス観察中に合焦が不可能となった場合にも、ユーザに液浸媒体の不足を通知しても良い。
【0082】
また、本実施例では、顕微鏡システム1として、倒立顕微鏡を含むシステムを例示したが特にこれに限られない。顕微鏡システム1は、正立顕微鏡を含むシステムや、顕微鏡を含むインキュベータ装置などであってもよい。
【0083】
また、本実施例では、標本保持部材として、ガラスディッシュ3を例示したが特にこれに限られない。例えば、カバーガラスなどであってもよい。また、標本保持部材の材料もガラス材料に限られない。標本保持部材の材料は、液浸媒体の屈折率に近い屈折率を有する材料であればよい。
【0084】
また、本実施例では、液浸媒体として、オイルを例示したが特にこれに限られない。液浸媒体は、液浸媒体は、標本保持部材の屈性率に近い屈折率を有する媒体であればよい。
【実施例2】
【0085】
図14は、本実施例に係る顕微鏡システムの構成を例示した図である。図14に例示される顕微鏡システム45は、液浸媒体不足通知部44の代わりに、液浸媒体を供給する供給手段であるオイル供給制御部46及びオイル供給部47を含む点が、図1に例示される顕微鏡システム1と異なっている。その他の構成は顕微鏡システム1と同様であるため、同一の構成要素には同一の符号を付して説明を省略する。なお、オイル供給部47は、内部に液浸媒体であるオイルを保持している。また、オイル供給部47は、電動ステージ4に搭載されていて、電動ステージ4の移動によりオイル供給部47も移動するように構成されている。
【0086】
図14に例示される顕微鏡システム45では、液浸媒体充填判定部42により行われる充填判定の結果、標本SUと液浸対物レンズ10bの間が液浸媒体で満たされていないと判断された場合、コントロール部18からの制御信号により、オイル供給制御部46がオイル供給部47を制御して、自動的に標本SUと液浸対物レンズ10bの間を液浸媒体で満たす。
【0087】
より具体的には、まず、ステージ駆動部5が、標本ユニットSUと液浸対物レンズ10bが対向する図15に例示される観察ポジションから、オイル供給部47と液浸対物レンズ10bが対向する図16に例示される供給ポジションへ、電動ステージ4を移動させる。次に、オイル供給制御部46がオイル供給部47に液浸対物レンズ10b上へ適量のオイルを供給させる。オイル供給部47は、不図示の小型ポンプを用いることで、内部に保持されているオイルから適量のオイルを液浸対物レンズ10b上へ供給することができる。最後に、ステージ駆動部5が、電動ステージ4を図16に例示される供給ポジションから図15に例示される観察ポジションへ戻す。
【0088】
図17は、本実施例に係る顕微鏡システム45によるタイムラプス観察の処理フローを例示したフローチャートである。図17に例示されるタイムラプス観察の処理フローは、充填判定の結果、液浸媒体が不足していると判定された場合に行われる処理のみが、図12Bに例示される顕微鏡システム1によるタイムラプス観察の処理フローと異なっている。このため、顕微鏡システム1の処理と同一の処理には同一の符号を付して説明を省略する。なお、顕微鏡システム45によるタイムラプス観察の準備作業のフローは、図12Aに例示される顕微鏡システム1によるタイムラプス観察の準備作業のフローと同様である。
【0089】
図17に例示されるように、本実施例に係る顕微鏡システム45では、ステップS205の充填判定処理の結果、液浸媒体が不足していると判定されると、図16に例示される供給ポジションへ電動ステージ4が移動する(ステップS300)。そして、コントロール部18からの制御信号によりオイル供給制御部46がオイル供給部47を制御し、オイル供給部47が液浸対物レンズ10b上へ適量のオイルを供給する(ステップS301)。オイルの供給が終了すると、ステップS300での移動前に位置していた図15に例示される観察ポジションへ電動ステージ4が復帰する(ステップS302)。その後の処理は、実施例1に係る顕微鏡システム1の場合と同様である。
【0090】
以上、本実施例に係る顕微鏡システム45によれば、実施例1に係る顕微鏡システム1と同様に、液浸媒体の不足を検出することができる。また、実施例1に係る顕微鏡システム1と同様に、撮影動作を開始する前に液浸媒体の不足を検出することができるため、液浸媒体が不足した状態での標本Sの撮影を防止することが可能であり、撮影画像の画質の劣化を防止することができる。
【0091】
さらに、本実施例に係る顕微鏡システム45によれば、液浸媒体の不足を検出した場合に、自動的に液浸媒体を供給することができる。このため、タイムラプス観察におけるユーザの負担を大幅に削減することができる。
【0092】
なお、本実施例では、供給手段として、オイル供給制御部46と電動ステージ4上に配置されたオイル供給部47とを含む構成を例示したが、特にこれに限られない。供給手段は、液浸媒体の不足を検出した場合に、液浸対物レンズ10b上に適量の液浸媒体を供給できれば良い。
【0093】
また、本実施例に係る顕微鏡システム45も、実施例1に係る顕微鏡システム1と同様に、合焦手段、顕微鏡、標本保持部材、液浸媒体、充填判定の判定式等を適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0094】
1、45・・・顕微鏡システム、2・・・培養液、3・・・ガラスディッシュ、4・・・電動ステージ、5・・・ステージ制御部、6・・・光源、7・・・コレクタレンズ、8・・・励起フィルタ、9、34・・・ダイクロイックミラー、10・・・対物レンズ、10a・・・乾燥系対物レンズ、10b・・・液浸対物レンズ、11・・・吸収フィルタ、12・・・光路切換え部、13・・・接眼レンズ、14・・・CCDカメラユニット、15・・・ビデオキャプチャボード、16・・・ホストPC、17・・・電動シャッタ、18・・・コントロール部、19・・・電動レボルバ、21・・・エンコーダ、22a、22b・・・モータ、23・・・架台、24a、24b・・・モータ制御部、25・・・座標検出部、26・・・赤外光半導体レーザー、27・・・レーザー駆動部、28・・・コリメートレンズ、29・・・投光側ストッパ、30・・・PBS、31、35・・・集光レンズ群、32・・・オフセット補正レンズ群、33・・・λ/4板、36・・・受光センサ、37・・・合焦判別部、40・・・操作部、41・・・合焦座標記録部、42・・・液浸媒体充填判定部、43・・・閾値設定部、44・・・液浸媒体不足通知部、46・・・オイル供給制御部、47・・・オイル供給部、S・・・標本、SU・・・標本ユニット、IF1、IF2・・・界面、VP・・・観察面、M・・・ミラー


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液浸対物レンズと、
標本と前記標本を保持する保持部材とを含む標本ユニットに前記液浸対物レンズを合焦する合焦手段と、
前記合焦手段により合焦された前記液浸対物レンズの、前記標本に対する光軸方向の相対的な座標である、合焦座標を検出する合焦座標検出手段と、
前記合焦座標検出手段により検出された合焦座標を記録する記録手段と、
前記記録手段に記録された合焦座標に基づいて、前記保持部材と前記液浸対物レンズの間が液浸媒体で満たされているか否かを判定する判定手段と、を含む
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微鏡システムにおいて、さらに、
前記判定手段による判定に用いられる閾値を設定する閾値設定手段を含み、
前記判定手段は、
現在の合焦座標と前記記録手段に記録された合焦座標との差が前記閾値未満であるときに、前記保持部材と前記液浸対物レンズの間が前記液浸媒体で満たされていると判定し、
現在の合焦座標と前記記録手段に記録された合焦座標との差異が前記閾値以上であるときに、前記保持部材と前記液浸対物レンズの間が前記液浸媒体で満たされていないと判定する
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項3】
請求項2に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記記録手段に記録された合焦座標は、現在の合焦座標が記録される直前に記録された前回の合焦座標である
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項4】
請求項2または請求項3に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記閾値は、前記保持部材の光軸方向の厚さを用いて算出される値である
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の顕微鏡システムにおいて、さらに、
ユーザに前記液浸媒体の不足を通知する通知手段を含み、
前記通知手段は、前記判定手段により前記保持部材と前記液浸対物レンズの間が前記液浸媒体で満たされていないと判定されたときに、ユーザに前記液浸媒体の不足を通知する
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の顕微鏡システムにおいて、さらに、
前記液浸媒体を供給する供給手段を含み、
前記供給手段は、前記判定手段により前記保持部材と前記液浸対物レンズの間が前記液浸媒体で満たされていないと判定されたときに、前記液浸媒体を供給する
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の顕微鏡システムにおいて、さらに、
前記標本の撮影を行う撮影手段を含み、
前記判定手段は、前記撮影手段により前記標本の撮影が行われる前に、前記保持部材と前記液浸対物レンズの間が前記液浸媒体で満たされているか否かを判定する
ことを特徴とする顕微鏡システム。

【図1】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図13】
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