説明

顕微鏡装置

【課題】顕微鏡のAF制御において、安定した合焦の追従性を実現させることが可能な顕微鏡装置を提供すること。
【解決手段】2つの領域で受光した光強度信号に基づいて評価関数を算出し、評価関数の傾きが一定となるように調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対物レンズを用いて試料移動ステージ上の観察試料を光学的に観察する光学顕微鏡等の顕微鏡装置に関し、特に、観察試料のピント位置の調整を自動的に行うことのできる自動焦点(オートフォーカス(AF:Auto Focus))機能を有する顕微鏡装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、微細な試料を観察したり、観察した観察像をビデオ画像として記録したりすることのできる顕微鏡は、生物分野の研究をはじめ、工業分野の検査工程まで幅広く利用されている。このような顕微鏡は、観察試料のピント位置の調整を自動的に行うことのできるAF機能を有している。
【0003】
通常、AFを行なうためには赤外光(AF光)を用い、試料を観察するためには可視光(観察光)を用いている。そのため、両光の波長差や、複数の対物レンズを使用した場合の対物レンズ毎の色収差により、自動焦点検出位置がバラついてしまう。このようなバラつきを補償するための手段として、色収差補正用オフセットレンズを合焦検出光学系に配置し、対物レンズ毎に設けた調整部で、対物レンズ毎に合焦位置からのオフセット値を設定し、色収差補正用オフセットレンズの位置を調整する事で、観察光と、AF光の色収差をキャンセルする技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、AF光は、反射率が比較的高いカバーガラスと観察試料との界面、またはカバーガラスの表面での反射光を検出しており、他方、観察光は、観察試料そのもの、例えば液体中の標本に照射される必要があり、両光の光路長が異なっている。これを補正するために、AF光の光学系と照明光の光学系の共通の光路、またはいずれか一方の光路上に焦点調節用オフセットレンズを配設し、この焦点調節用オフセットレンズでAF光の結像位置を調節することにより、対物レンズの焦点に観察試料の位置を合わせる技術が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0005】
このようなAF機能は、例えば、光を検出するフォトダイオードの領域を反射光の光軸を中心にして2つの領域(A領域、B領域)に分け、2個のセンサ(センサA、B)がそれぞれの領域の光強度を検出信号として検出する。そして、これらの差(A−B)をこれらの和(A+B)で除算した値((A−B)/(A+B))を評価関数値(EF値)として算出し、そのEF値を用いて合焦判定を行なっている。すなわち、対物レンズと観察試料の距離を相対的に変化させ、EF値が0となる箇所を合焦位置と判定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4097761号公報
【特許文献2】特開2004-70276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような光強度の検出信号は、色収差補正オフセットレンズ、あるいは焦点調節用オフセットレンズの位置により、対物レンズの瞳位置におけるAF光のビーム径が異なり、これにより対物レンズからの出射光のNAが異なるため、合焦近傍でのEF値の傾きにバラツキが発生してしまう。EF値の傾きが急峻なもの程、合焦判定を行う際の合焦閾値の範囲が狭くなるため、色収差補正オフセットレンズ、あるいは焦点調節用オフセットレンズの位置により、EF値の傾きが急峻になる場合には、環境温度や振動の影響により合焦の追従が収束しにくくなる、という問題点があった。
【0008】
本発明は、上述のような実状に鑑みたものであり、顕微鏡のAF制御において、安定した合焦の追従性を実現させることが可能な顕微鏡装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するため、下記のような構成を採用した。
すなわち、本発明の一態様によれば、本発明の顕微鏡装置は、光路に交換可能に設置される複数の対物レンズと、前記複数の対物レンズのうち前記光路に設置された1つの対物レンズを介して、照明用光源から出射された可視光を移動ステージ上に載置された試料に投光し、前記試料で反射した前記観察光を観察する観察光学系と、前記1つの対物レンズを介して、オートフォーカス用光源から出射された赤外光を前記試料に投光し、前記試料で反射した前記赤外光を検出する合焦光学系とを備えた顕微鏡装置であって、前記反射した前記赤外光を2つの領域でそれぞれ受光する受光手段と、前記受光手段によって受光した前記赤外光の光強度信号に基づいて、前記試料の合焦位置を調整する合焦位置調整手段と、前記受光手段によって受光した前記赤外光の光強度信号を用いて評価関数を算出する評価関数算出手段と、前記合焦光学系の光路上に配置された補正レンズ群の位置に基づき、前記評価関数算出手段によって算出される評価関数の傾きが一定となるように調整する調整手段とを備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の顕微鏡装置は、前記調整手段が、前記合焦光学系の光路上に配置された補正レンズ群の位置に対応付けられた傾き補正係数に基づき調整することが望ましい。
また、本発明の顕微鏡装置は、前記傾き補正係数を格納するメモリ手段を更に有し、前記傾き補正係数が、前記補正レンズ群の位置に応じて定めされ、前記メモリ手段に格納されることが望ましい。
【0011】
また、本発明の顕微鏡装置は、前記傾き補正係数が、前記複数の対物レンズ毎の倍率または開口数に応じて定められることが望ましい。
また、本発明の顕微鏡装置は、前記補正レンズ群の少なくとも異なる2つの位置における前記評価関数に基づき、前記傾き補正係数を算出する傾き補正係数算出手段を更に備え、前記調整手段が、前記傾き補正係数算出手段によって算出された前記傾き補正係数に基づき調整することが望ましい。
【0012】
また、本発明の顕微鏡装置は、前記オートフォーカス用光源から出射された赤外光の開口径を変動させる開口絞りを更に備え、前記調整手段が、前記開口絞りの開口径を変動させることが望ましい。
【0013】
また、本発明の顕微鏡装置は、前記評価関数算出手段が、前記受光手段の第1の領域で受光した前記赤外光の第1の光強度信号と前記受光手段の第2の領域で受光した前記赤外光の第2の光強度信号との差を、前記第1の強度信号と前記第2の強度信号との和で除算して算出することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、色収差補正オフセットレンズ、あるいは焦点調節用オフセットレンズの位置に関わらず、合焦近傍のEF値の傾きが一定となるため、合焦判定の際の合焦閾値の範囲が安定し、結果として合焦の追従が安定する、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した顕微鏡装置の全体構成を示す図である。
【図2】2分割PD14への結像の様子を説明するための図である。
【図3】2分割PD14の検出信号の強度をおよびEF値をグラフにして示した図である。
【図4】低NA、中NA、高NAの対物レンズの合焦近傍でのEF値を示す図である。
【図5】第1の実施の形態におけるコントロール部24の内部構成を示す図である。
【図6】第1の実施の形態におけるAF処理の流れを示すフローチャートである。
【図7】EF傾き補正係数記憶部209に格納された対物レンズ毎のEF値と傾き補正係数との対応例を示す図である。
【図8】焦準位置とEF値との関係を示す図である。
【図9】第2の実施の形態におけるコントロール部24Bの内部構成を示す図である。
【図10】第2の実施の形態におけるAF処理の流れを示すフローチャートである。
【図11】第3の実施の形態における顕微鏡装置の全体構成を示す図である。
【図12】第3の実施の形態におけるコントロール部24Cの内部構成を示す図である。
【図13】第3の実施の形態におけるAF処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】AS開口径記憶部212に格納されたオフセットレンズ位置毎の開口径データの対応例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、本発明を適用した顕微鏡装置の全体構成を示す図である。
【0017】
図1において、顕微鏡装置100は、複数の対物レンズ3aおよび3bを取付可能なレボルバ本体2、レボルバ本体2を回転させて任意の対物レンズ3aまたは3bを光路中に挿入させるために電気的な駆動を行なうレボルバ用モーター15、並びにレボルバ本体2のどの対物レンズ取付け位置が現在光路中に挿入されているかを検出するためのレボ穴位置検出部21から構成される電動レボルバを備える。
【0018】
このような電動レボルバにおいて、コントロール部24からの信号を受けるレボルバ用モーター駆動部18の駆動制御により前記レボルバ用モーター15が回転駆動され、レボルバ本体2のどの穴位置に対物レンズ3aまたは3bが装着されているかを検出するレボ穴位置検出部21で検出された情報がコントロール部24へ送られる。
【0019】
コントロール部24は、周知のCPU回路であり、CPU本体、制御プログラムを格納したROM、制御に必要なデータを随時格納する揮発性メモリであるRAM、制御信号の入出力を行なうI/Oポート、およびこれらの各部を接続するデータバス、発振器、アドレスデコーダ等の周知の周辺回路から構成され、データバスおよびI/Oポートを介して周辺装置の制御を行なう。
【0020】
観察対象となる観察試料Sを載置する試料移動ステージ1は、焦準用モーター16によって電気的に、光軸方向に移動することが可能である。この焦準用モーター16は、コントロール部24によって焦準用モーター駆動部19が制御されることにより駆動する。
【0021】
AFに用いられる基準光源4としては、赤外線等の可視外光波長領域の光源が使用される。この基準光源4は、光源のパルス点灯等を行ない、光源の強弱をコントロールするレーザー駆動部22より制御される。基準光源4から発せられたAF光としての赤外レーザー光は、平行光を保つためのコリメートレンズ5を通り、光束の半分をカットする投光側ストッパー6を介して観察試料S側に導かれる。すなわち、集光レンズ群8により一旦集光された光束は、オフセットレンズ群9を通り、λ/4板10を通過する時に45度偏光され、ダイクロックミラー11により反射される。
【0022】
前記オフセットレンズ群9は、オフセットレンズ用モーター17により焦点距離を変更するズーム機構と、光軸方向への移動を行なう機構の両方を兼ね備えた構成になっており、オフセットレンズ用モーター駆動部20によって駆動される。また、オフセットレンズ群9の光軸方向における所定の範囲の両端には、リミット検出部27が設けられており、前記オフセットレンズ群9の光軸方向の移動範囲を制限している。
【0023】
前記ダイクロックミラー11は、赤外域のみが反射され、可視域は通過する性質をもっている。これにより、AF光は、ダイクロックミラー11で反射されるが、観察試料Sを視察するための可視光、すなわち観察光および照明光は、光路中に挿入された対物レンズ3aまたは3bを介して、不図示の接眼レンズに至り、観察試料Sを観察することが可能になる。
【0024】
ダイクロックミラー11により反射されたAF光は、対物レンズ3aまたは3bにより観察試料Sにスポット状の像を形成する。そして、観察試料Sにより反射されたAF光は、今度は逆に対物レンズ3aまたは3b、ダイクロックミラー11を介し、λ/4板10を再び通過する時に45度偏光される。その後、オフセットレンズ群9、集光レンズ群8を戻り、偏光ビームスプリッター(PBS:Polarization Beam Splitter)7へ入射する。PBS7で反射されたAF光の偏光成分は、受光側ストッパー12、集光レンズ群13を通過した後に2分割フォトダイオード(PD)14に結像される。
【0025】
2分割PD14は、光軸を中心に2個のフォトダイオード(センサAおよびB)が並ぶ光検出器である。2分割PD14で結像されたスポットの光強度に応じた電流信号は、電流/電圧変換された後に所定の増幅率をもって増幅され、その後A/D変換器23にてデジタル値に変換されてからコントロール部24で演算処理される。
【0026】
フォトダイオードの領域は、反射光の光軸を中心にして2つの領域(A領域、B領域)に分けられ、2個のセンサ(センサA、B)がそれぞれの領域の光強度を検出信号として検出する。そして、これらの差(A−B)をこれらの和(A+B)で除算した値((A−B)/(A+B))をEF値として算出し、そのEF値を用いて合焦判定を行なう。すなわち、対物レンズ3aまたは3bと観察試料Sとの距離を相対的に変化させ、EF値が0となる箇所を合焦位置と判定している。
【0027】
また、観察者が直接操作する不図示操作部として、レボルバ本体2を回転させて対物レンズ3aまたは3bを変更するための対物レンズ変換SW、AF動作の設定/解除を行なうAFスイッチ、並びに試料移動ステージ1の上下動およびオフセットレンズ群9の移動を指示するためのJOGエンコーダ26が設けられている。JOGエンコーダ26からのエンコーダ信号は、パルスカウンタ25にてパルス数に変換されてコントロール部24に送られる。コントロール部24は、このパルスカウンタ25からのパルス数を読込むことで前記JOGエンコーダ26がどちらの方向にどれだけ回転されたかを判断し、JOGエンコーダ26の回転量に応じて各々の駆動部を動かすようになっている。
【0028】
次に、顕微鏡装置100によって実行されるAF処理について説明する。
AF動作の設定/解除を行なうAFスイッチが押下されると、コントロール部24は、AF用の赤外光のスポットを観察試料Sに照射させるためにレーザー駆動部22に信号を与え、基準光源4の発振を開始する。
【0029】
基準光源4からの光束により観察試料Sにスポットが照射され、その反射光が2分割PD14に投影される。そして、この投影されたスポットの位置によりAF制御が行なわれる。
【0030】
図2は、2分割PD14への結像の様子を説明するための図であり、(a)が中NAの対物レンズ3aを用いた場合、(b)が高NAの対物レンズ3bを用いた場合、(c)が低NAの対物レンズを用いた場合である。
【0031】
まず、カバーガラス28の位置が合焦位置より上の場合、すなわちカバーガラス28が対物レンズ3aから近い位置の場合を考える。この場合、AF光は、カバーガラス28から早く反射されるので、図2(a)に示したように、2分割PD14に結像されるスポット像201(a)は、中心位置からセンサB寄りに結像される。他方、カバーガラス28が合焦位置より下にある場合、すなわちカバーガラス28が対物レンズ3aから遠い位置の場合には、2分割PD14に結像されるスポット像202(a)は、センサA寄りに結像される。
【0032】
また、カバーガラス28が正確に合焦位置にある場合のスポット像203(a)は、センサA、Bが共に均等な範囲でほぼ光軸の中心に結像する。さらに、この場合は焦点位置にあるために中心の光強度は最も高くなっている。
【0033】
焦点深度が小さい高NAの対物レンズの場合は、図2(b)に示したように、合焦位置より上、下のスポットの形状201(b)、202(b)は、中NAの対物レンズのスポット像201(a)、202(a)に比べて大きくなる。焦点深度が大きい低倍対物レンズの場合は、図2(c)に示したように、合焦位置より上、下のスポットの形状201(c)、202(c)は、中NAの対物レンズのスポット像201(a)、202(a)に比べて小さくなる。
【0034】
このように、2分割PD14のフォトダイオードに形成されるスポットは、中NA、高NA、低NAの対物レンズによって異なる。
上述したように2分割PD14は、フォトダイオードの領域を反射光の光軸を中心にして2つの領域(A領域、B領域)に分け、2個のセンサ(センサA、B)でそれぞれの領域の光強度を検出信号として検出する。コントロール部24は、EF値を算出して合焦判定を行なう。
【0035】
具体的には、対物レンズ3aまたは3bと観察試料Sとの距離を相対的に変化させ、EF値が0となるように試料移動ステージ1を移動することによりAF動作を行なう。すなわち、センサAの出力が大きい場合は試料移動ステージ1を上に駆動し、センサBの出力が大きい場合は下に移動する。これにより、観察試料Sに正確に合焦できることになる。
【0036】
このような補正移動量は、対物レンズ3aまたは3bの特性、基準光源4の使用波長により異なることから、予め対物レンズ3aおよび3b毎の補正移動値をROMあるいはその他の記憶媒体、例えば不揮発性メモリであるEEPROM等に格納しておく。
【0037】
コントロール部24が上述のようにして合焦したと判断しても、AF動作を行なう基準光源4が出射するのは赤外光であり、可視光とは波長が異なるため、色収差により可視光領域ではピントがずれるという事態も生ずる。これを補正するのがオフセットレンズ群9である。
【0038】
コントロール部24は、オフセットレンズ用モーター駆動部20に駆動指示を与え、オフセットレンズ用モーター17を駆動してオフセットレンズ群9の光軸方向に対する移動量を調整し、2分割PD14の結像位置の補正を行なう。
【0039】
図3は、2分割PD14の検出信号の強度をおよびEF値をグラフにして示した図であり、(a)が低NA、中NA、高NAの対物レンズを用いて検出した場合のA、B信号を示し、(b)がこれらのA、B信号から算出したEF値((A−B)/(A+B))を示す。
【0040】
コントローラ24は、A、B信号の和(A+B)、およびEF値((A−B)/(A+B))を用いて以下のように合焦位置の判定を行う。
まず、対物レンズ3aおよび3b毎に設定されているノイズ判定閾値(NTH)を不図示の不揮発性メモリから読み出し、(A+B)の値と比較する。その結果、(A+B)の値が所定のノイズ判定閾値NTHより小さければ、すなわち、(A+B)<NTHであれば、コントロール部24は、カバーガラス28を補足していないと判定し、(A+B)の値がノイズ判定閾値NTH以上になるように、すなわち(A+B)≧NTHが成立するように、試料移動ステージ1を駆動する。
【0041】
カバーガラス28を補足する範囲は、図3(a)に示す通り、低NAの対物レンズの場合が範囲301であり、同様に中NAの対物レンズ3aが範囲302、高NAの対物レンズ3bが範囲303であり、高NA対物レンズ3bが最も狭く、対物レンズの倍率が小さくなるほどこの範囲は広くなる。
【0042】
そして、(A+B)≧NTHが成立すると、コントロール部24は、EF値が所定の合焦範囲内に入るように、試料移動ステージ1を駆動する。すなわち、下記の不等式(1)が成立するように、コントロール部24は試料移動ステージ1を移動させ、成立したところで試料移動ステージ1の動作を止める。
【0043】
−FTH<(A−B)/(A+B)<+FTH ・・・(1)
ここで、FTHは合焦判定閾値であり、試料移動ステージ1の位置が各対物レンズ3aまたは3bの焦点深度の範囲内に必ず移動されるように決められており、対物レンズレンズ3aまたは3b毎に設定されている値である。
【0044】
上記不等式(1)が成立する位置が合焦位置となり、合焦判定閾値FTHは各対物レンズ3aまたは3bの焦点深度以下になる値に決められている。
図3(b)に示したように、色収差補正オフセットレンズ、あるいは焦点調節用オフセットレンズの位置に起因して、また、対物レンズの倍率に起因して、低NA、中NA、高NAの対物レンズ毎に合焦近傍でのEF値の傾きが異なってしまう。
【0045】
図4は、低NA、中NA、高NAの対物レンズの合焦近傍でのEF値を示す図である。
図4に示したように、EF値の傾きが急峻なもの程、合焦判定を行う際の合焦判定閾値FTHの範囲が狭くなり、環境温度や振動の影響により合焦の追従が収束し難くなる。
【0046】
そこで、本発明を適用した顕微鏡装置100は、対物レンズ3aおよび3b毎にオフセットレンズ群9の位置に対応付けした傾き補正係数を設定し、常に、合焦近傍でのEF値の傾きが一定となるようにする。
【0047】
図5は、第1の実施の形態におけるコントロール部24の内部構成を示す図である。
図5において、コントロール部24は、入出力部200、検出信号記憶部201、EF値演算部202、AF処理部203、EF値補正部204、オフセットレンズ駆動指示部205、焦準部駆動指示部206、レボルバ駆動指示部207、レーザー駆動指示部208、およびEF傾き補正係数記憶部209を備える。
【0048】
入出力部200は、A/D変換器23にてデジタル値に変換された2分割PD14の検出値、パルスカウンタ25にてパルス数に変換されたJOGエンコーダ26からのエンコーダ信号、または現在光路中に挿入されているレボルバ本体2の対物レンズ取付け位置を入力したり、レボルバ用モーター駆動部18、焦準用モーター駆動部19、オフセットレンズ用モーター駆動部20、およびレーザー駆動部22を駆動するための駆動信号を各駆動部に対して出力したりする。
【0049】
検出信号記憶部201は、A/D変換器23にてデジタル値に変換された2分割PD14の検出値を格納し、EF値演算部202は、検出信号記憶部20に格納された2分割PD14の検出値に基づいて、EF値を算出する。
【0050】
AF処理部203は、EF値演算部202で算出したEF値を用いて、上述のAF処理を実行する。
EF値補正部204は、対物レンズ3aおよび3b毎にオフセットレンズ群9の位置に対応付けた傾き補正係数に基づき、EF値の傾きが一定となるようにする。
【0051】
オフセットレンズ駆動指示部205は、オフセットレンズ群9の駆動を指示し、焦準部駆動指示部206は、焦準用モーター駆動部19の駆動を指示し、レボルバ駆動指示部207は、電動レボルバの駆動を指示し、レーザー駆動指示部208は、レーザー駆動部22の駆動を指示する。
【0052】
そして、EF傾き補正係数記憶部209は、対物レンズ3aおよび3b毎にオフセットレンズ群9の位置に対応した傾き補正係数を格納する。
図6は、第1の実施の形態におけるAF処理の流れを示すフローチャートである。
【0053】
まず、ステップS601において、コントロール部24が、AF用の赤外光のスポットを観察試料Sに照射させるためにレーザー駆動部22に信号を与え、基準光源4の発振を開始すると、ステップS602において、2分割PD14が、反射光の光軸を中心に分けたフォトダイオードの2つの領域(A領域、B領域)それぞれの光強度を検出信号として検出する。
【0054】
そして、ステップS603において、2分割PD14の検出値に基づいて、EF値を算出する。
次に、ステップS604において、合焦近傍であるか否かを判断し、未だ合焦近傍でない場合(ステップS604:No)は、ステップS605において、焦準用モーター16を駆動することにより、合焦するように試料移動ステージ1が光軸方向に上下動する。
【0055】
他方、ステップS604で合焦近傍であると判断した場合(ステップS604:Yes)、ステップS606において、EF傾き補正係数記憶部209に格納された傾き補正係数を読み出す。なお、このステップS606は、例えば、同一の対物レンズを用いている場合には、1度実行すれば2度目以降は1度目に読み出したデータを用いることができるので、スキップすることもできる。
【0056】
図7は、EF傾き補正係数記憶部209に格納された対物レンズ毎のEF値と傾き補正係数との対応例を示す図である。
図7に示した例では、オフセットレンズ群9の光軸方向の位置が「−4mm以上0mm未満」を基準にして、「0mm以上5mm未満」「5mm以上10mm未満」「10mm以上15mm未満」「15mm以上20mm未満」「20mm以上22mm以下」の場合に、それぞれの傾き補正係数が「1.0」「1.1」「1.2」「1.3」「1.4」「1.5」となっている。
【0057】
これらの傾き補正係数は、次にようにして決定する。
図8は、焦準位置とEF値との関係を示す図である。
図8に示す実線および破線は、計測値から求めた近似式である。図8中の実線は、60倍の対物レンズにおける、オフセットレンズ群9の位置が光軸方向に−4mmの場合の、焦準位置とEF値との関係を示し、破線は、オフセットレンズ群9の位置が22mmの場合を示す。
【0058】
図8に示したように、60倍の対物レンズにおいて、オフセットレンズ群9の位置が−4mmと22mmとのEF値の傾きを比較すると、対物レンズから遠い方向にある−4mmの位置の傾きの方が急である。なお、−4mmの時の傾きは、22mmの時の傾きに対して1.5倍である。
【0059】
この時のEF値が−1000から1000までにおける閾値範囲は、−4mmの時で174nmであり、22mmの位置では、261nmとなっており、その差は約100マイクロメートルとなる。すなわち、−4mmの位置の方が、振動の影響を受け易い事が分る。ここで、−4mm時のEF値に対して1.5の逆数を掛けるとこの差は無くなる。
【0060】
そこで、図6のステップS607において、EF値に傾き補正係数を乗算した値に算出する。これにより、オフセットレンズ群9に位置に関係なく、合焦近傍のEF値の傾きは一定となる。
【0061】
そして、ステップS608において、ステップS607で算出した値と、対物レンズ3aおよび3b毎に設定されているノイズ判定閾値NTHとを用いて焦点深度内か否かを判断し、焦点深度内であれば(ステップS608:Yes)、ステップS602に戻る。他方、環境温度の変化や振動等により焦点深度内でなくなるような場合は(ステップS608:No)、ステップS605に進む。
【0062】
以上により、対物レンズ3aおよび3b毎にオフセットレンズ群9の位置に対応した傾き補正係数によりEF値を補正することで、オフセットレンズ群9の位置に関係なく、合焦近傍のEF値の傾きは一定になり、振動等の外乱による影響が軽減される。
【0063】
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
本発明の第2の実施の形態は、上述の第1の実施の形態がEF値を補正するための傾き補正係数を予め格納しているのに対して、AF処理の中で傾き補正係数を求めることを特徴としている。
【0064】
顕微鏡装置の全体構成は、コントロール部24の代わりにコントロール部24Bを備えることを除き、図1に示した第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
図9は、第2の実施の形態におけるコントロール部24Bの内部構成を示す図である。
【0065】
図9において、コントロール部24Bは、入出力部200、検出信号記憶部201、EF値演算部202、AF処理部203、EF値補正部204、オフセットレンズ駆動指示部205、焦準部駆動指示部206、レボルバ駆動指示部207、レーザー駆動指示部208、およびEF傾き補正係数演算部210を備える。
【0066】
EF傾き補正係数演算部210は、予め決められた間隔でEF値をサンプリングし、傾きが一定となるようにEF値の傾き補正係数を算出する。例えば、上述したように、60倍の対物レンズにおいて、オフセットレンズ群9の位置が−4mmと22mmとのEF値をそれぞれ算出し、それらのEF値の傾きを求める。
【0067】
なお、コントロール部24Bにおいて、コントロール部24と同様の構成については、その説明を省略する。
図10は、第2の実施の形態におけるAF処理の流れを示すフローチャートである。
【0068】
図10のフローチャートは、図6のフローチャートのステップS606の代わりに、ステップS1001乃至S1005を実行する。
すなわち、図10のステップS604で合焦近傍であると判断した場合(ステップS604:Yes)、ステップS1001およびS1002において、サンプリングの回数nが規定の回数に達するまで、ステップS603のEF値を算出する。
【0069】
ステップS1001で所定回数に達したら(ステップS1001:Yes)、ステップS1003において、現在のEF値を一時的にメモリに保持した後、ステップS1004でnを0にする。
【0070】
そして、ステップS1005において、目標とする傾きになるようなEF値の傾き補正係数を算出し、ステップS607に進む。
これにより、第1の実施の形態では必要であった、図7に例示したようなテーブルを格納しておくメモリが不要となるとともに、合焦近傍のEF値の傾きは一定になり、振動等の外乱による影響も軽減される。
【0071】
なお、コントロール部24Bが第1の実施の形態と同様のEF傾き補正係数記憶部209を備え、ステップS1005で傾き補正係数を算出後、算出した傾き補正係数をEF傾き補正係数記憶部209に格納するようにすれば、ステップS1005での算出を毎回実行する必要がなくなり、その後はその格納した傾き補正係数を用いるようにしてもよい。
【0072】
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。
図11は、第3の実施の形態における顕微鏡装置の全体構成を示す図である。
【0073】
本発明の第3の実施の形態の顕微鏡装置100Cは、上述した第1の実施の形態の顕微鏡装置100の構成に加え、開口絞り(AS:Aperture Stop)29、AS用モーター30およびAS用モーター駆動部31を備えることを特徴とする。図1に示した顕微鏡装置100と同様の構成に関しては、その説明を省略する。
【0074】
開口絞り29は、対物レンズ3aまたは3bの瞳位置におけるAF光のビーム径を調整するために、基準光源4とコリメートレンズ5の間に設ける。そして、コントロール部24Cの制御の元、AS用モーター駆動部31によってAS用モーター30が駆動され、開口絞り29の開口径を変動させる。
【0075】
基準光源4から発せされたAF光は、開口絞り29で絞られるので、開口絞り29の開口径に応じて2分割PD14の検出信号の電位が変化する。したがって、その電位を調整する必要がある。例えば、2分割PD14で結像されたスポットの光強度に応じた電流信号を、A/D変換器23Cで所定の増幅率をもって増幅させることにより調整する。あるいは、コントロール部24で、光源の強弱をコントロールするレーザー駆動部22を制御して調整する。
【0076】
図12は、第3の実施の形態におけるコントロール部24Cの内部構成を示す図である。
図12において、コントロール部24Cは、入出力部200、検出信号記憶部201、EF値演算部202、AF処理部203、オフセットレンズ駆動指示部205、焦準部駆動指示部206、レボルバ駆動指示部207、レーザー駆動指示部208、AS駆動指示部211、およびAS開口径記憶部212を備える。
【0077】
AS開口径記憶部212は、レボルバ駆動指示部207によって光路内へ移動される対物レンズ3aまたは3bの種類情報と、オフセットレンズ駆動指示部205によって移動されるオフセットレンズ群9の位置情報に従って、予め定められた開口絞り29の開口径を格納する。
【0078】
AS駆動指示部211は、AS開口径記憶部212に格納された開口径になるように、開口絞り29を変動させる。なお、AFの追従動作中にオフセットレンズ群9の位置が移動された場合であっても、AS駆動指示部211は、それに追従して開口絞り29を変動させてもよい。
【0079】
なお、コントロール部24Cにおいて、コントロール部24と同様の構成については、その説明を省略する。
図13は、第3の実施の形態におけるAF処理の流れを示すフローチャートである。
【0080】
まず、ステップS1301において、AS開口径記憶部212に格納された開口径データを読み出す。
図14は、AS開口径記憶部212に格納されたオフセットレンズ位置毎の開口径データの対応例を示す図である。
【0081】
図14に示した例では、オフセットレンズ群9の光軸方向の位置が「−4mm以上0mm未満」を基準にして、「0mm以上5mm未満」「5mm以上10mm未満」「10mm以上15mm未満」「15mm以上20mm未満」「20mm以上22mm以下」の場合に、それぞれの開口径が「3.4mm」「3.5mm」「3.6mm」「3.7mm」「3.8mm」「3.9mm」となっている。
【0082】
そして、ステップS1302において、対物レンズ3aまたは3bの種類情報とオフセットレンズ群9の位置情報に対応した開口絞り29の開口径になるように、AS用モーター30を駆動して開口絞り29を変動させる。
【0083】
次に、ステップS601において、コントロール部24Cが、AF用の赤外光のスポットを観察試料Sに照射させるためにレーザー駆動部22に信号を与え、基準光源4の発振を開始すると、ステップS602において、2分割PD14が、反射光の光軸を中心に分けたフォトダイオードの2つの領域(A領域、B領域)それぞれの光強度を検出信号として検出する。
【0084】
そして、ステップS603において、2分割PD14の検出値に基づいて、EF値を算出する。
そして、ステップS608において、対物レンズ3aおよび3b毎に設定されているノイズ判定閾値NTHを用いて焦点深度内か否かを判断し、焦点深度内であれば(ステップS608:Yes)、ステップS602に戻る。
【0085】
他方、環境温度の変化や振動等により焦点深度内でなくなるような場合は(ステップS608:No)、ステップS605に進み、焦準用モーター16を駆動することにより、合焦するように試料移動ステージ1が光軸方向に上下動する。
【0086】
このように、オフセットレンズ群9の位置毎に、開口絞り29の開口径を可変にすることで、対物レンズ3aまたは3bの瞳位置におけるAF光のビーム径が可変となり、合焦付近でのEF値が常に一定となるため、振動等の外乱による影響が軽減される。
【0087】
以上本発明を適用した各実施の形態を説明してきたが、本発明は、以上に述べた各実施の形態等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の構成または形状を取ることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 試料移動ステージ
2 レボルバ本体
3a、3b 対物レンズ
4 基準光源
5 コリメートレンズ
6 投光側ストッパー
7 偏光ビームスプリッター(PBS)
8 集光レンズ群
9 オフセットレンズ群
10 λ/4板
11 ダイクロックミラー
12 受光側ストッパー
13 集光レンズ群
14 2分割フォトダイオード(PD)
15 レボルバ用モーター
16 焦準用モーター
17 オフセットレンズ用モーター
18 レボルバ用モーター駆動部
19 焦準用モーター駆動部
20 オフセットレンズ用モーター駆動部
21 レボ穴位置検出部
22 レーザー駆動部
23、23C A/D変換器
24、24B、24C コントロール部
25 パルスカウンタ
26 JOGエンコーダ
27 リミット検出部
28 カバーガラス
29 開口絞り
30 AS用モーター
31 AS用モーター駆動部
100、100C 顕微鏡装置
200 入出力部
201 検出信号記憶部
202 EF値演算部
203 AF処理部
204 EF値補正部
205 オフセットレンズ駆動指示部
206 焦準部駆動指示部
207 レボルバ駆動指示部
208 レーザー駆動指示部
209 EF傾き補正係数記憶部
210 EF傾き補正係数演算部
211 AS駆動指示部
212 AS開口径記憶部
S 観察試料


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光路に交換可能に設置される複数の対物レンズと、前記複数の対物レンズのうち前記光路に設置された1つの対物レンズを介して、照明用光源から出射された可視光を移動ステージ上に載置された試料に投光し、前記試料で反射した前記観察光を観察する観察光学系と、前記1つの対物レンズを介して、オートフォーカス用光源から出射された赤外光を前記試料に投光し、前記試料で反射した前記赤外光を検出する合焦光学系と、を備えた顕微鏡装置であって、
前記反射した前記赤外光を2つの領域でそれぞれ受光する受光手段と、
前記受光手段によって受光した前記赤外光の光強度信号に基づいて、前記試料の合焦位置を調整する合焦位置調整手段と、
前記受光手段によって受光した前記赤外光の光強度信号を用いて評価関数を算出する評価関数算出手段と、
前記合焦光学系の光路上に配置された補正レンズ群の位置に基づき、前記評価関数算出手段によって算出される評価関数の傾きが一定となるように調整する調整手段と、
を備えることを特徴とする顕微鏡装置。
【請求項2】
前記調整手段は、前記合焦光学系の光路上に配置された補正レンズ群の位置に対応付けられた傾き補正係数に基づき調整することを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項3】
前記傾き補正係数を格納するメモリ手段を更に有し、
前記傾き補正係数は、前記補正レンズ群の位置に応じて定めされ、前記メモリ手段に格納されることを特徴とする請求項2に記載の顕微鏡装置。
【請求項4】
前記傾き補正係数は、前記複数の対物レンズ毎の倍率または開口数に応じて定められることを特徴とする請求項2または3に記載の顕微鏡装置。
【請求項5】
前記補正レンズ群の少なくとも異なる2つの位置における前記評価関数に基づき、前記傾き補正係数を算出する傾き補正係数算出手段、を備え、
前記調整手段は、前記傾き補正係数算出手段によって算出された前記傾き補正係数に基づき調整することを特徴とする請求項2に記載の顕微鏡装置。
【請求項6】
前記オートフォーカス用光源から出射された赤外光の開口径を変動させる開口絞りを備え、
前記調整手段は、前記開口絞りの開口径を変動させることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡装置。
【請求項7】
前記評価関数算出手段は、前記受光手段の第1の領域で受光した前記赤外光の第1の光強度信号と前記受光手段の第2の領域で受光した前記赤外光の第2の光強度信号との差を、前記第1の強度信号と前記第2の強度信号との和で除算して算出することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載の顕微鏡装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−3333(P2013−3333A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134057(P2011−134057)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】