説明

顕微鏡

【課題】試料の位置を目視で確認する際の試料の視認性を向上させることのできる顕微鏡を提供すること。
【解決手段】本発明の顕微鏡は、ステージ105上に載置された標本116とコンデンサレンズ202との間に視野絞り210を配置し、視野絞り210の対物レンズ113に対向する側の面S1を、ステージ105の表面よりも光反射率を高く構成している。ステージ105の照明用開口105hから入り込んだ外光が視野絞り210の面S1で反射することで、標本116のバックを従来よりも明るくすることができる。その結果、標本の観察したい位置を目視で確認する際の標本の視認性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標本を透過照明する透過照明光学系及び透過光源を備えた顕微鏡に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、細胞診断などでは、使用する標本にパパニコロウ染色やギムザ染色を行うことで細胞内の細胞小器官を色付けしてから顕微鏡観察している。これらの染色は透過照明で観察できるように、非常に薄い色で染められている。また、標本に再検鏡を要する着目部位を発見した場合には、着目部位の近傍にマークを付け、マーキングされた部位を再顕鏡する。
【0003】
図1は、上述した細胞診断の際に使用される正立型光学顕微鏡の斜視図である。図1に示す顕微鏡では、回転操作されるレボルバ112に取り付けられた対物レンズ113がステージ105の上方に設置され、コンデンサ108がステージ105の照明用開口(図示せず)に対向するように設置されている。照明用開口の上には、スライドガラス等に固定された標本116が載置されている。
【0004】
また、図10は、上記構成を有する顕微鏡の照明光学系の一般的な光路図である。光源10から出射した照明光は、コレクタレンズ20を通過し、フィルタ30を通過して明るさや色調が整えられた後、視野絞り40を通ってミラー50で上方に反射される。上方に向きを変えた光は、窓レンズ60と開口絞り70を通過し、コンデンサ108に収容されたコンデンサレンズ80を通って、標本116を照明する。このとき、対物レンズ113の実視野に対応する領域を照明するように、視野絞りの絞り径が投影される。
【0005】
上述した顕微鏡を用いて標本116の観察を行うに際しては、予め目視で対物レンズ113の光軸付近に標本116を位置させておかないと、倍率を上げた状態で顕微鏡を通して観察したときに標本116の位置を探すのに手間を要してしまう。しかしながら、薄い色に染められた標本やマーキングされた標本を、黒色(暗い色)に表面処理されたステージ105に載せると、標本116がほとんど見えず、スライドガラスのどこに標本116が固定されているのかも分からない。
【0006】
さらに、標本116をステージ105の照明用開口(すなわち、コンデンサレンズ80の上部)に配置した場合も、照明光の強度に関わらず標本116を目視で確認することが困難である。なぜならば、照明光の光束は、視野絞りの絞り径により対物レンズ113の実視野に対応する領域に絞られており、対物レンズ113がある場合は照明光が対物レンズの外側に漏れてこないからである。そこで、標本116を目視で見やすくするために、各種の工夫がなされている。
【0007】
例えば、特許文献1の図12には、コンデンサレンズの先玉レンズを保持する先玉レンズ保持部を、白色や金属色の明るい色にコーティングするか、又は、先玉レンズ保持部に白いキャップを被せることが開示されている。
【0008】
また、特許文献1の図2には、顕微鏡のステージの下方から標本を透過照明する照明ユニットが開示されている。この照明ユニットの先端部開口にはガラス板が設置され、ガラス板の下方に平面蛍光灯が配置されている。平面蛍光灯は、照明ユニット外に配置された電源から電力が供給されて点灯し、ガラス板を通して、対物レンズの視野及び視野周辺を含む領域を照明する。
【0009】
【特許文献1】特開平8−114748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1の図12に示されるように、コンデンサレンズの先玉レンズ保持部を白色や金属色の明るい色にコーティングした場合、その部位では標本が見やすくなるが、先玉レンズの上方に標本が位置したときの標本の視認性は悪い。すなわち、この構成では、最も明るくすべき視野周辺は依然として暗く、見にくい状態のままである。特に、低倍率対物レンズの視野に対応したコンデンサレンズの場合、低倍率対物レンズの広い視野径に対応するようにコンデンサレンズ80の先玉202aのレンズ径が大きいため、最も視認性が求められる対物レンズの光軸付近で標本を見失ってしまうという問題がある。
【0011】
また、特許文献1の図2に示されるように平面蛍光灯で標本を照明する場合、対物レンズの視野及び視野周辺の視認性は高まるが、照明ユニットの構成が複雑であり、専用の照明部材が必要となるため、コスト的に問題がある。
【0012】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で、標本の位置を目視で確認する際の標本の視認性を向上させることのできる顕微鏡を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明に係る顕微鏡は、標本が載置されるステージと、前記標本の上方に配置され、前記標本を観察するための対物レンズと、前記ステージの下方に配置されたコンデンサレンズとを有し、光源からの照明光を、前記コンデンサレンズを通して前記ステージ下方から前記標本に導き、前記標本を照明する顕微鏡において、前記標本と前記コンデンサレンズとの間に絞り部材を配置し、前記絞り部材の前記対物レンズに対向する側の面を、前記ステージ表面よりも反射率を高く構成したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る顕微鏡は、上記の発明において、前記絞り材を、前記コンデンサレンズを保持するコンデンサレンズ保持枠の先端部に取り付けたことを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る顕微鏡は、上記の発明において、前記絞り部材を前記コンデンサレンズ保持枠の先端部に着脱可能に取り付けたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係る顕微鏡は、上記の発明において、前記絞り部材を前記ステージに形成された照明用開口部の下部に取り付けたことを特徴とする。
【0017】
また、本発明に係る顕微鏡は、上記の発明において、前記絞り部材が、その絞り径を変更可能に構成したものであることを特徴とする。
【0018】
また、本発明に係る顕微鏡は、上記の発明において、前記絞り部材が、その絞り径を前記対物レンズの視野径に外接する大きさに固定したものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の顕微鏡では、絞り部材が標本に近い位置に配置され、視野絞りとして顕微鏡観察の照明光に作用する。そして、この絞り部材の対物レンズに対向する面は、ステージ表面よりも反射率を高くしてある。このため、絞り部材の絞り径を対物レンズの観察視野径に合うように調整することで、同時に、標本のバックにある絞り部材の光反射率の高い面も観察視野径に外接することになる。その結果、ステージの照明用開口から入り込んだ外光が絞り部材の反射率の高い面で反射することで、標本のバックにおける観察視野径の外側領域が、従来よりも明るく見えるようになる。その結果、薄く染色された標本やマーキングされた標本の位置を目視で確認する際の標本の視認性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に添付図面を参照しながら、本発明に係る顕微鏡の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0021】
(実施の形態1)
図1は、以下に説明する実施の形態1が適用された正立型光学顕微鏡(以下、省略して単に「顕微鏡」という。)の側面図である。なお、本発明の顕微鏡は、既に説明した従来の顕微鏡と同じ外観構成を有している。従って、以下では同じ図1を用いて説明する。この顕微鏡は、顕微鏡本体101の下部側面にベース102が設けられ、このベース102に照準ハンドル103が回転操作可能に取り付けられている。また、ベース102の上方の顕微鏡本体101側面には、照準ハンドル103によって上下方向に移動するステージユニット104が取り付けられている。ステージユニット104は平面内で直交するXY方向へ移動可能なステージ105を備えている。
【0022】
さらにステージユニット104には、ハンドル106によりステージユニット104に対して上下動可能なホルダ107が取り付けられており、ホルダ107には、内部にコンデンサレンズ202(図2を参照)を収容した透過明視野コンデンサ108(以下、省略して「コンデンサ108」とよぶ)が保持されている。コンデンサ108は、クランプねじ109によってホルダ107に固定され、芯出しねじ110によって芯出し可能となっている。
【0023】
一方、顕微鏡本体101には、ステージ105の上部に鏡筒保持部111が突出するように設けられており、この鏡筒保持部111にレボルバ112が回転自在に取り付けられている。このレボルバ112の回転動作により任意の対物レンズ113を光軸上に挿入することができる。対物レンズ113の焦点面には、ステージ105に保持された標本116が設置されている。鏡筒保持部111の上方には鏡筒114が取り付けられ、鏡筒114に取り付けられた接眼レンズ115にて、標本116の拡大像を顕微鏡観察することができる。
【0024】
図2は、上述した顕微鏡の照明光学系の光路図である。図2に示すように、光源10から出射した照明光は、コレクタレンズ20を通過し、フィルタ30を通過して明るさや色調が整えられた後、ミラー50で上方に反射される。上方に向きを変えた光は、窓レンズ60、開口絞り207、コンデンサレンズ202、視野絞り210を通って、標本116の対物レンズ113の視野に対応する領域を照明する。なお、フィルタ30は照明条件に応じて省略することが可能である。
【0025】
本実施の形態では、開口絞り207と視野絞り210とを独立に操作するケーラー照明法を採用している。開口絞り207は、対物レンズ113の瞳と共役な位置に配置される。開口絞り207を絞ることで、標本面上の照明範囲のすべての位置に至る光が等しく遮られ、照明範囲の明るさ(対物レンズ113の視野の明るさ)を変えることができる。
【0026】
視野絞り210は、標本面と共役な位置に配置される。視野絞り210を絞ることで、標本面上の照明範囲を変えることができる。図10に示した従来の一例では、フィルタ30とミラー50との間に視野絞り40を配置している。
【0027】
本実施の形態では、図2に示すように、この視野絞り210をコンデンサレンズ202と標本116との間に配置した構成とするとともに、視野絞り210の対物レンズ113に対向する側の面S1を、ステージ105の表面よりも反射率を高くした構成としている。上記のように構成したことで、以下に説明するように、ステージ105の照明用開口上に配置された標本116の位置を目視で確認する際の標本116の視認性を従来よりも向上させている。
【0028】
図3は、実施の形態1で使用するコンデンサ108の構成を示す断面図である。コンデンサ108の上方にはステージ105があり、ステージ105の照明用開口105hの上部に標本116を固定したスライドガラス206が載せられており、標本116に対物レンズ113の焦点が合わせられている。図1で示したホルダー107には、コンデンサアリ201が固定されている。
【0029】
コンデンサ108には、上述したコンデンサレンズ202が収容されている。なお、コンデンサレンズ202は、図2に示したように、標本116に対向して配置される第2群レンズ202a,202b,202cと、開口絞り207を挟んで下方に配置される第1群レンズ202d,202eとから構成されるが、図3では第1群レンズ202d,202eの図示を省略し、以下では、コンデンサレンズ202a,202b,202cを総称してコンデンサ202として説明する。
【0030】
コンデンサレンズ202は、コンデンサレンズ保持枠203の内部において、間隔環204と押さえ環205を介してコンデンサレンズ保持枠203に保持されている。コンデンサレンズ保持枠203は、その先端部が開口した環状の部材である。コンデンサレンズ202の瞳面には、開口絞り207(以下、これを「AS絞り207」とよぶ)がコンデンサレンズ保持枠203と開口絞り回転環208(以下、これを「AS回転環208」とよぶ)によって保持されている。図示は省略するが、AS絞り207は複数の絞り羽から構成され、その絞り径が変更可能な可変絞りとして構成してある。AS絞り207とAS回転環208は、AS回転環208を回転させるとAS絞り207の内径が変化するように、図示しないピンで係合されている。また、AS回転環208にはその回転量が分かる指標が刻印されている。
【0031】
コンデンサレンズ202aの上方には、視野絞り210(以下、これを「FS絞り210」とよぶ)がコンデンサレンズ枠203と視野絞り回転環211(以下、これを「FS回転環211」とよぶ)によって保持されている。FS回転環211は、図示しない段付きビスにてコンデンサレンズ枠203に対して回転可能に保持されている。
【0032】
図4−1は、図3に示したFS絞り210の平面図であり、図4−2の左図は、FS絞り210を構成する絞り羽根210aの平面図、右図は、左図の矢視A−A図である。図4−1に示すように、FS絞り210は複数の絞り羽根210aから構成され、その絞り孔H1の内径(絞り径)φの大きさが変更可能な可変絞りとして構成してある。
【0033】
図4−1に示すように、視野絞り210は、複数の絞り羽根210aを順次組み合わせて構成されている。なお、図4−1では、一例として10枚の絞り羽根210aを用いているが、絞り羽210aの枚数は上記に限定されるものではない。
【0034】
図4−2に示すように、各絞り羽根210aの両端部には、固定ピン210b及び移動ピン210cが、絞り羽根210aに対して互いに反対側に突設されている。固定ピン210bは、コンデンサレンズ保持枠203の先端面にあけられたピン穴に回転可能に係合されている。一方、移動ピン210cは、FS回転環211の先端面に形成された長溝211aに沿って移動可能に係合されている。上記構成を有するFS絞り210は、FS回転環211を回転させてその絞り径φを変化させることで、標本面116に照射する照明範囲を変化させることができる。
【0035】
上述したように、ステージ105の表面は通常、黒色に表面処理されているが、本実施の形態では、FS絞り210を構成する各絞り羽根210aの、対物レンズ113に対向する面S1が、ステージ105の表面よりも反射率が高くなるように表面処理が施されている。FS絞り210の面S1の表面処理としては、例えば、金属メッキ処理あるいは白色の塗装処理が好ましい。
【0036】
金属メッキ処理で用いる金属は、例えばニッケル又はクロムのように、可視光領域全体で反射率が高い金属を用いるのが好ましい。本実施の形態では、FS絞り210の面S1をニッケルでメッキ処理しており、FS絞り210の面S1を金属色そのままの明るい色で構成している。なお、FS絞り210の面S1の表面に粗面化処理や鏡面処理を施してもよい。
【0037】
また、上記の金属メッキ処理や白色の塗装処理等の表面処理を行う替わりに、絞り羽根210a自体を、白色のプラスチック成形品や、ニッケル、クロム等の金属板、鏡等で構成してもよい。
【0038】
上記のように構成したFS絞り210の絞り径φを、対物レンズ113の観察視野径に外接させるように調整すると、同時に、標本116のバックにあるFS絞り210の面S1も観察視野径に外接することになる。その結果、ステージ105の照明用開口105hから取り入れられた外光が、FS絞り210の反射率の高い面S1で反射することで、標本116のバックにおける観察視野径の外側領域は、従来よりも明るく見えるようになる。
【0039】
なお、FS回転環211には、その回転量が分かる指標が刻印されている。指標は絞り径の大きさを表す目盛線でもよいし、対物レンズ113の種類を表す指標線でもよい。また、オイル対物や水深対物を使用したり、標本116の水溶液をFS絞り210にこぼしてしまった場合でも、容易に分解清掃できるように、FS回転環211を回転可能に固定している図示しない段付きビスが標準的な工具で取り外せるようになっている。
【0040】
以上のように構成された本実施の形態の顕微鏡の作用を説明する。ユーザは、標本116が固定されたスライドガラス206をステージ105に載せ、図示しないクレンメルを用いてステージ105に固定する。次に、図示しないハンドルを操作することで、スライドガラス206をステージ105面に平行なXY面で移動させる。このときに、ユーザはスライドガラス206上の標本116を直接目視して、顕微鏡で拡大観察したい標本116のおおよその位置を対物レンズ113の光軸付近に移動させる。クレンメルのないプレーンステージにおいては、スライドガラス206を直接手で動かして標本116を対物レンズ113の光軸に移動させることもある。この際、標本116のバックは、上述したように白色や金属色の明るい色で構成されているため、ユーザは、標本116の位置を目視で容易に確認することができる。
【0041】
標本116のXY方向の位置が目視レベルで決まると、対物レンズ113のうち、低倍率の対物レンズ113を、レボルバ112を回転させて観察光軸に挿入する。そして、光源10を点灯して標本116に透過照明を当てる。
【0042】
接眼レンズ115を覗いて、照準ハンドル103を回転させて、ステージユニット104を上下させる。これにより、結果として標本116が上下するので、標本116の像にピントを合わせれば、対物レンズ113の焦点面と標本116のZ方向が一致する。
【0043】
AS回転環208を回転させてAS絞り207の絞り孔を開放する。次にFS回転環211を回転させてFS絞り210の絞り孔H1を最も小さい穴まで閉じる。ハンドル106を回転させてコンデンサ108を標本116に対してZ方向に上下させる。接眼レンズ115で覗き込みながら、FS絞り210の羽端面にピントが合うように、ハンドル106を回転操作する。FS絞り210は、完全に標本116の光軸方向で一致しているわけではないので、多少ピントボケの状態で合わせることになるが、不要な迷光を削除する効果は十分得られる。
【0044】
FS絞り210へのピント合わせが終わったら、次に芯出しねじ110によってコンデンサ108をXY方向に振って、FS絞り210の絞り孔H1が接眼レンズ15の視野の中心にくるように調整する。次に、FS回転環211を回転させて、FS絞り210の絞り孔H1を接眼レンズ115の視野に外接するように開く。このとき、芯出しねじ110を再調整してFS絞り210の絞り孔H1と接眼レンズ115の視野の中心を合わせなおしてもよい。
【0045】
ここで、FS絞り210がコンデンサ108に付属しているのに対し、標本面と共役なベース102内の位置にもFS絞りが備わっている場合がある。この場合、同じ機能を持つ2つのFS絞りが存在することになる。しかしながら、FS絞りとしての機能はどちらも同じである。したがってベース102内のFS絞りの絞り孔は開放にしておき、本実施の形態におけるFS絞り210だけを調整すればよい。
【0046】
最後に、AS回転環208を回転させてAS絞り207の絞り孔を変化させ、コントラストや焦点深度を調整すれば、低倍率対物レンズ113での透過明視野観察に適した照明条件が整う。以降、低倍率対物レンズ113にて標本116を詳細に顕微鏡観察し、より詳しく観察したい部位があるときには、高倍率の対物レンズ113を、レボルバ112を回転させて観察光軸に挿入する。以降、上記と同様にしてFS絞り210とAS絞り羽207を高倍率の対物レンズ113に合わせて調整することになる。ただし、一般的には、対物レンズ113の切り替えごとにFS絞り210を調整しなおすことは稀である。ほとんどのユーザは、自分が使う対物レンズ113の中で最も視野の広い低倍率対物レンズにFS絞り210を合わせておくだけで顕微鏡観察している。
【0047】
以上説明したように、本実施の形態の顕微鏡によれば、標本116とコンデンサレンズ202との間にFS絞り210を配置し、このFS絞り210の標本116側の面S1を、金属や白色等の反射率の高い材質で表面処理したことで、薄く染色された標本116やマーキングされた標本116の位置を目視で確認する際の標本116の視認性を向上させることができる。特に、目視で標本116の位置を確認する際には、FS絞り210は照明範囲をぎりぎりで邪魔しない大きさまで絞り込まれているため、標本116のバックの明るい領域が、対物レンズ113の光軸近くまで広がり、従来よりも視認性の高い範囲を広げることができる。
【0048】
さらに、FS絞り210の絞り孔H1の位置から、対物レンズ113の光軸位置が予想しやすくなり、標本116の観察したい位置を目視だけでより正確に光軸に近づけて位置出しすることができる。これにより、倍率を上げた顕微鏡観察に入った際に、標本116の観察したい位置を探す手間が大幅に削減できるようになる。
【0049】
また、FS絞り210としての効果である、観察範囲以外の不要な透過照明光の遮光も兼ねる効果が得られる。さらに、より視認性を高めるために、標本116の観察したい位置を目視で探すときだけ、FS絞り210の内径を最低まで小さくすることで、上記効果をより高めることができる。
【0050】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2に係る顕微鏡について説明する。なお、上述した実施の形態1で説明した構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付して説明する。
【0051】
図5は、実施の形態2で使用するコンデンサ108の構成を示す断面図である。実施の形態2では、図3で示したステージ105に替えて、固定ステージ305を用いている。固定ステージ305の上には標本116を固定したスライドガラス206が設置され、図示しないクレンメルにて固定ステージ305に平行なXY方向に移動可能に保持されている。
【0052】
上述した実施の形態1では、コンデンサレンズ保持枠203の先端面にFS絞り210を配置した構成とした。これに対して、実施の形態2では、固定ステージ305の照明用開口305hの下面に視野絞り310(以下、これを「FS絞り310」とよぶ)を配置した点が、実施の形態1と異なっている。それ以外の構成は実施の形態1と同じである。このFS絞り310は、図5には明示されていないが、実施の形態1のFS絞り210と同様に複数の絞り羽310aから構成され、絞り孔H2の内径(絞り径)φの大きさが変更可能な可変絞りとして構成してある。FS絞り310は、図5に示すように、固定ステージ305の照明用開口315hの周縁部と、視野絞り回転環311(以下、これを「FS回転環311」とよぶ)の先端面によって保持されている。FS回転環311は、図示しない段付きビスを用いて固定ステージ305に対して回転可能に保持されている。
【0053】
上述した実施の形態1と同様に、FS絞り310を構成する各絞り羽根310aの、対物レンズ113に対向する面S2は、黒色に表面処理された固定ステージ305の表面よりも反射率が高くなるように表面処理が施されている。FS絞り310の面S2の具体的な表面処理方法は、実施の形態1と同じである。
【0054】
また、図示は省略するが、固定ステージ305の所定の位置にはFS回転環311を回転させるためのノブが設けられており、ユーザがこのノブを操作することにより、固定ステージ305に緩衝することなく容易にFS回転環311を回転操作できるようになっている。固定ステージ305はZ方向に動くことができるが、XY方向には動くことができない。また、FS絞り310の絞り孔H2の中心は、低倍率対物レンズ113の視野中心に工場出荷段階で調整されている。
【0055】
以上のように構成された実施の形態2の作用について説明する。ユーザは、標本116が固定されたスライドガラス206を固定ステージ305に載せ、図示しないクレンメルを用いてスライドガラス206を固定する。次に、図示しないステージハンドルを操作することで、クレンメルとスライドガラス206をステージ面に平行なXY面で移動する。ユーザは、スライドガラス206上の標本116を直接目視して、顕微鏡で拡大観察したい標本116のおおよその位置を対物レンズの光軸付近に移動させる。この際、標本116のバックは、上述したように白色や金属色の明るい色で構成されているため、ユーザは、標本116の位置を目視で容易に確認することができる。
【0056】
標本116のXY方向の位置が目視レベルで決まると、低倍率の対物レンズ113を観察光軸に挿入し、光源10を点灯して標本116を透過照明し、標本116の像にピントを合わせる。通常はFS絞り310の芯出しやピント合わせを行うが、本実施の形態では工場出荷時に芯もピントも合わせてあるので、特にここで必要な作業は発生しない。
【0057】
最後に、AS回転環208を回転してAS絞り207の絞り孔を変化させ、コントラストや焦点深度を調整すれば、低倍率対物レンズ113での透過明視野観察に適した照明条件が整う。以降、低倍率対物レンズ113にて標本116を詳細に顕微鏡観察し、より詳しく観察したい部位があるときには、高倍率の対物レンズ113に切替えて観察を行う。
【0058】
以上説明したように、実施の形態2の顕微鏡によれば、実施の形態1で示した効果に加えて、FS絞り310の芯出しやピント合わせを不要とすることができるという効果が得られる。
【0059】
(実施の形態3)
次に、本発明の実施の形態3に係る顕微鏡について説明する。なお、上述した実施の形態1,2で説明した構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付して説明する。
【0060】
図6は、実施の形態3で使用するコンデンサ108の一部を示す断面図であり、図7は、図6に示したコンデンサ108の斜視図である。上述した実施の形態1,2では、FS絞り210,310を、コンデンサレンズ保持枠203又は固定ステージ305に固定した構成とした。これに対して、実施の形態3では、図6及び図7に示すように、コンデンサレンズ保持枠203の先端部分に、視野絞り410(以下、これを「FS絞り410」とよぶ)を着脱可能に構成した点において上記の実施の形態1,2と異なっている。
【0061】
FS絞り410は、図7に示すように、コンデンサレンズ保持枠203の円錐台形状をなす先端部分を覆うキャップ状の部材として構成されており、その上面411には、所定の大きさの絞り孔H3が形成されている。すなわち、FS絞り410は、絞り孔H3の絞り径φが、所定の対物レンズ113の視野径に外接する大きさに固定された固定絞りとして構成してある。
【0062】
FS絞り410は上面部411、側面部412、フランジ部413とから構成され、上面部411及び側面部412の内径寸法は、コンデンサレンズ保持枠203の先端部分における上面部203a、側面部203bの径寸法よりもわずかに大きく形成してある。上記構成を有するFS絞り410は、コンデンサレンズ保持枠203の先端部分における上面部203a,側面部203bと嵌合することで、コンデンサレンズ保持枠203に対してZ方向の位置決めができるようになっている。
【0063】
上記のFS絞り410の対物レンズ113に対向する側の面S3は、実施の形態1、2のFS絞り210,310と同様に、ステージ105よりも反射率を高くしてある。本実施の形態では、FS絞り410として、白色などの明るい色からなるモールド成形体を用いている。しかし、これに限定されるものではなく、ニッケル、クロム等の反射率の高い金属板によってFS絞り410を構成してもよい。また、FS絞り410の表面S3に、上述した白色塗装や金属メッキを施してもよい。
【0064】
FS絞り410は、複数の対物レンズ113の各視野径に外接する大きさの絞り径φに最適化された絞り孔H3を有するものが複数用意されており、使用する対物レンズ113に対応したFS絞り410をコンデンサレンズ枠203の先端部に装着する。
【0065】
以上のように構成された実施の形態3の作用について説明する。まず、使用する対物レンズ113の中で、最も視野の広い低倍率対物レンズ用のFS絞り410をコンデンサレンズ保持枠203の上にかぶせる。ステージ105上に標本116が固定されたスライドガラス206を載せ、標本116の顕微鏡観察したい位置を対物レンズ113の光軸に近づける。この際、標本116のバックは、上述したように白色や金属色の明るい色で構成されているため、ユーザは、標本116の位置を目視で容易に確認することができる。
【0066】
低倍率対物レンズ113を光軸に入れ、光源10を点灯し、標本116にピントを合わせる。AS絞り207の穴を開放し、コンデンサ108を標本116に対して垂直方向に上下することで、FS絞り410の絞り孔H3の端面にピントを合わせる。FS絞り410は、完全に標本116の光軸方向で一致しているわけではないので、多少ピントボケの状態で合わせることになるが、不要な迷光を削除する効果は十分得られる。
【0067】
次に、コンデンサ108をXY方向に振って、FS絞り410の内径と接眼レンズ115の視野の中心とを合わせる。最後にAS絞り207の絞り孔を変化させ、コントラストや焦点深度を調整すれば、低倍率対物レンズでの透過明視野観察に適した照明条件が整う。以降、低倍率対物レンズにて標本116を詳細に顕微鏡観察し、より詳しく観察したい部位がある場合には、高倍率の対物レンズ113に切替えるとともに、高倍率の対物レンズ113の視野径に対応した別のFS絞り410に取替えて観察を行う。
【0068】
以上説明したように、実施の形態3の顕微鏡によれば、実施例1で示した効果に加えて、FS絞り410として安価なモールド成形品を用いたことで、製造コストを抑えることができるという効果を奏する。さらに、FS絞り410は、倍率の異なる複数の対物レンズ113に応じて絞り径φを変更するのが好ましいが、実際には、ユーザは、対物レンズ113の倍率に応じて絞り径φを変更しないことが多く、最も視野径の大きい対物レンズ113の視野径に外接する絞り径φのFS絞り410を使用し続けることが多い。そのため、製品を出荷する際に、最も視野径の大きい対物レンズ113の視野径に外接する絞り孔H3を有したFS絞り410を顕微鏡と一緒に梱包しておけば、少なくとも絞り径φを操作しないユーザにとっては最適なFS径を維持する効果が得られる。
【0069】
(実施の形態4)
次に、本発明の実施の形態4に係る顕微鏡について説明する。なお、上述した実施の形態1〜3で説明した構成要素と同一の構成要素については同一の符号を付して説明する。
【0070】
図8は、実施の形態4で使用するコンデンサ108の一部を示す断面図であり、図9は、図8に示したコンデンサ108の斜視図である。上述した実施の形態3では、FS絞り410をコンデンサレンズ保持枠203の先端部分に対して着脱可能に構成した。これに対して、本実施の形態では、FS絞り410を別個の部材として設ける替わりに、図8に示すように、コンデンサレンズ枠203の先端部における上面部203aの開口部内径を小さくすることで、コンデンサレンズ枠203の上面部203aにFS絞りとしての機能をもたせた構成としている。すなわち、上面部203aの開口部は、その内径φを最も視野径の大きい対物レンズ113の視野径と同じ大きさの径に形成されることで、FS絞りの絞り孔H4として機能する。
【0071】
コンデンサレンズ保持枠203の表面全体は、ステージ105の表面よりも反射率が高くなるように表面処理されている。コンデンサレンズ保持枠203の具体的な表面処理方法は、実施の形態1〜3と同じである。本実施の形態では、コンデンサレンズ保持枠203の表面全体にニッケルやクロム等の金属メッキ処理を施すことで、表面全体を金属色そのままの明るい色で構成している。なお、上記の表面処理は、必ずしもコンデンサレンズ保持枠203の表面全体に亘って行う必要はなく、最低限度、FS絞りとして機能する上面203aの表面に処理がなされていればよい。
【0072】
また、図8及び図9に示すように、コンデンサレンズ枠203の絞り孔H4の内周面203dは、照明光の迷光が発生しないように、光軸に対して平行な面ではなく、傾斜面に形成されている。より詳細には、絞り孔H4の内周面203dは、上端部から下端部に向かって漸次その内径を小さくする態様で、傾斜面を構成している。
【0073】
以上説明したように、本実施の形態の4に係る顕微鏡によれば、実施例1と実施例3で示した効果に加えて、FS絞りをそれ専用の部材として別個に設ける必要がなく、顕微鏡の構成部品を減らすことができるという効果が得られる。
【0074】
なお、上記の実施の形態1,2では、FS絞り210、310として、絞り径φを変更可能な可変絞りを用いたが、FS絞り210、310として、絞り径φが固定された固定絞りを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の実施の形態1〜4が適用された顕微鏡の側面図である。
【図2】本発明の実施の形態1〜4が適用された顕微鏡の照明光学系の光路図である。
【図3】実施の形態1で使用するコンデンサの構成を示す断面図である。
【図4−1】図3に示したFS絞りの平面図である。
【図4−2】FS絞りを構成する絞り羽の平面図及び矢視A−A図である。
【図5】実施の形態2で使用するコンデンサの構成を示す断面図である。
【図6】実施の形態3で使用するコンデンサの構成の一部を示す断面図である。
【図7】実施の形態3で使用するコンデンサの構成の一部を示す斜視図である。
【図8】実施の形態4で使用するコンデンサの構成の一部を示す断面図である。
【図9】実施の形態4で使用するコンデンサの構成の一部を示す斜視図である。
【図10】従来の顕微鏡の照明光学系の光路図である。
【符号の説明】
【0076】
10 光源
20 コレクタレンズ
30 フィルタ
50 ミラー
60 窓レンズ
101 本体
102 ベース
103 照準ハンドル
104 ステージユニット
105,305 ステージ
105h 照明用開口
106 ハンドル
107 ホルダ
108 コンデンサ
109 クランプねじ
110 芯出しねじ
111 鏡筒保持部
112 レボルバ
113 対物レンズ
114 鏡筒
115 接眼レンズ
116 標本
201 コンデンサアリ
202 コンデンサレンズ
203 コンデンサレンズ保持枠
204 間隔環
205 押さえ環
206 スライドガラス
207 AS絞り(開口絞り)
208 AS回転環(開口絞り回転環)
210,310,410 FS絞り(視野絞り)
211,311 FS回転環(視野絞り回転環)
H1,H2,H3,H4 絞り孔
S1,S2,S3,S4 FS絞りの対物レンズに対向する側の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
標本が載置されるステージと、
前記標本の上方に配置され、前記標本を観察するための対物レンズと、
前記ステージの下方に配置されたコンデンサレンズとを有し、
光源からの照明光を、前記コンデンサレンズを通して前記ステージ下方から前記標本に導き、前記標本を照明する顕微鏡において、
前記標本と前記コンデンサレンズとの間に絞り部材を配置し、
前記絞り部材の前記対物レンズに対向する側の面を、前記ステージ表面よりも反射率を高く構成したことを特徴とする顕微鏡。
【請求項2】
前記絞り部材を、前記コンデンサレンズを保持するコンデンサレンズ保持枠の先端部に取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項3】
前記絞り部材を前記コンデンサレンズ保持枠の先端部に着脱可能に取り付けたことを特徴とする請求項2に記載の顕微鏡。
【請求項4】
前記絞り部材を前記ステージに形成された照明用開口部の下部に取り付けたことを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡。
【請求項5】
前記絞り部材は、その絞り径を変更可能に構成したものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の顕微鏡。
【請求項6】
前記絞り部材は、その絞り径を前記対物レンズの視野径に外接する大きさに固定したものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−97075(P2010−97075A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268967(P2008−268967)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】