説明

顕著なセリンプロテアーゼ阻害剤活性を有さないアルファ−1アンチトリプシン

本発明の実施形態は、医学的障害を治療するための方法および組成物を例示する。ある実施形態において組成物および方法は、対象における細菌感染、またはウイルス感染を減少、抑制または治療することに関する。より具体的には本発明の実施形態は、アルファ−1アンチトリプシン活性を有するが顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さない天然および合成の組成物を含む化合物に関する。他の実施形態は、ウイルス感染、細菌感染、アポトーシス介在性の状態およびサイトカイン介在性の状態に伴う医学的状態の治療のための組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2007年4月20日に出願された米国仮特許出願第60/913,174号の優先権の利益を主張する。米国仮特許出願第60/913,174号は、その全体が、本明細書中に参考として援用される。
【0002】
本発明の実施形態は、顕著なセリンプロテアーゼ活性を有さないアルファ−1アンチトリプシン(α−1アンチトリプシン、AAT)またはその類似体についての組成物、方法および使用に関する。ある実施形態においてα−1アンチトリプシンは、顕著に低減または除去されたセリンプロテアーゼ活性を有することができる。他の実施形態は、ウイルス感染、細菌感染、アポトーシス介在性の状態およびサイトカイン介在性の状態に伴う医学的状態の治療のための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
アルファ−1アンチトリプシン(AAT)の正常血漿濃度は、1.3〜3.5mg/mlの範囲である。ある条件下でAATは、急性期の反応物として作用し、炎症および/もしくは組織損傷または妊娠、急性感染症および腫瘍などの劇的な変化への宿主の反応において3〜4倍増大する場合がある。AATは、組織腔に容易に拡散し、標的プロテアーゼ、主に好中球エラスターゼと1:1複合体を形成する。トリプシン、キモトリプシン、カテプシンG、プラスミン、トロンビン、組織カリクレインおよび第Xa因子などの他の酵素も、基質として作用し得る。次いで酵素/阻害剤複合体は、セルピン−酵素複合体(SEC)受容体に結合することによって循環から除去され、肝臓および脾臓で異化される。
【0004】
治療用AATは、1980年代半ばから市販されており、様々な精製方法によって調製される。Prolastinは、AATの精製されたバリアントの商標である。遺伝子工学的方法によって産生されたAATの組換え無改変バリアントおよび変異バリアントは、入手可能である。
【0005】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
これまでの研究において、HIVの複製は、gag−pol前駆体タンパク質の切断のために活性の中でもとりわけプロテアーゼ活性を必要とすることが示されている。この酵素活性は、腎臓によって産生されるレニン−アスパルチルプロテアーゼの活性に類似している。レニンとHIVにコードされるプロテアーゼとの密接な関係は、AIDSの治療における有効な薬剤としての特異的HIVプロテアーゼ阻害剤の生成の促進を導いた。結果としてHIVプロテアーゼに対する多くの治療剤が開発され、AIDS患者における使用に成功している。例えばインジナビルおよびクリキシバンは、アルパルチルプロテアーゼ阻害剤であり、ウイルス自体のプロテアーゼによるHIVのプレタンパク質の切断を阻害し、それによってウイルス複製を抑制する。これらの薬剤は、幾分か成功したが、HIVのさらに綿密な治療法が必要とされている。
【0006】
インフルエンザウイルス
インフルエンザは、オルソミクソウイルスである。インフルエンザには3つの属、A、BおよびC型が存在する。A型およびB型は、臨床的に最も重要であり、軽度から重度の呼吸器疾患を生じる。インフルエンザBは、ヒトウイルスであり、病原体保有動物には存在しないと考えられている。A型ウイルスは、ヒトと、重要な保有動物トリおよびブタを含む動物集団の両方に存在する。比較的まれではあるが、非ヒトインフルエンザA株がその自然宿主から種を越えてヒトに感染することは可能である。具体的な一例として、1997年に致死性の高い香港トリインフルエンザがヒトで大流行したのは、局地的な家禽集団で当時流行していたインフルエンザA株H5N1ウイルスが原因であった。この件でウイルスにより、感染したと見られる患者18名のうち6名が死亡した。
【0007】
例年のインフルエンザAウイルス感染は、世界中で年間500,000から1,000,000名死亡するという点で人類に重大な影響を有する。さらに、感染中の生産性の直接的および間接的な損失から生じる経済影響は甚大である。インフルエンザの歴史における最も劇的な事象の1つは、1918〜1919年のいわゆる「スペイン風邪」の大流行である。1年未満で2000万から4000万の人々がインフルエンザで死亡し、世界の人口の5分の1が感染したと推定された。スペイン風邪を引き起こしたウイルスは、それまで健康であった若年成人を死亡させるその能力だけでなくいくつかの理由で特有であった。実際、米国軍隊は、第一次世界大戦の終わり頃にインフルエンザによって壊滅させられ、1918年から1919年の間の米国陸軍の死者の80%は、感染が原因であった。容易に伝播することから、主として空気感染する病原体インフルエンザAは、重大な懸案である。
【0008】
TBおよびMAC
マイコバクテリウムは、好気性、ほとんどが遅発育性、やや湾曲したまたは真直ぐな桿体、時に分岐し糸状であり、かつ抗酸染色法で区別される細菌の属である。典型的にはマイコバクテリアは、グラム陽性絶対好気性菌である。マイコバクテリウム属は、結核(M.tuberculosisおよび時にM.bovis)およびハンセン病(M.leprae)を生じる病原性の高い生物を含む。しかし、マイコバクテリウムには他の種が多数存在する。
【0009】
M.tuberculosisおよびM.bovis以外のあるマイコバクテリアは、非結核性マイコバクテリアとしても知られている。それらは、着色および増殖速度に基づいてルンヨン群としても知られる4つの群に分けられる。各群は、いくつかの種を含む。群Iは、遅発育光発色菌を示し;群IIは、遅発育暗発色菌を示し;群IIIは、遅発育非光発色菌を示し;群IVは、迅速発育マイコバクテリアを示す。非結核性マイコバクテリアは、非定型またはアノニマスマイコバクテリアとも呼ばれる。
【0010】
結核は、M.tuberculosisでの感染によって生じる急性または慢性感染性疾患である。結核は、開発途上国における主な疾患であり、毎年およそ800万人の新たな症例が生じ、300万人が死亡している、世界の開発途上地域において深刻化している問題でもある。感染は、相当な期間無症候性である場合があるが、疾患は、最も一般的には、熱および乾性咳嗽を生じる肺の急性炎症として出現する。治療しないままにすると重い合併症および死に典型的には至る。
【0011】
結核は、感染した個体に対して広範な抗生物質療法を使用して管理できるが、そのような治療は、疾患の拡大を予防するには十分でない。治療計画は、6〜12カ月の連続した治療をしばしば必要とする。結果として多くの患者が治療単位を完了せず、したがって治療が有効ではなく、抗生物質耐性TBが生じる。有効なワクチン接種および疾患の早期で正確な診断が、結核の拡大を抑制するために必要とされている。生菌でのワクチン接種は、防御免疫を誘導するための最も有効な方法としてある。生ワクチンに使用される最も一般的なマイコバクテリウムは、Bacillus Calmette−Guerin(BCG)、Mycobacterium bovisの弱毒株である。しかし米国などのいくつかの国では、BCGの安全性および有効性の点での懸念から一般市民にワクチン接種していない。したがって、TBの拡大を予防し、感染した個体をより迅速に治療するための別の治療法に対する必要性が存在する。
【0012】
マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)
MAC感染は、マイコバクテリア学研究室で同定された病原性分離株のおよそ50%を占め、AIDSおよび他の免疫不全患者において最も一般的である。MAC感染の早期診断および治療は、感染した個体の生存を改善および延長できる。
【0013】
炭疽および炭疽毒素
グラム陽性、桿状、好気性、芽胞形成細菌Bacillus anthracisによって産生される炭疽毒素は、この生物によって分泌される毒性病原因子である。B.anthraxisは、分泌される外毒素の効力、および厳しい環境条件に耐性である休眠芽胞を形成する細菌の能力から生物兵器としての使用が考慮されることが多い。芽胞形成は、大量の毒素産生細菌の容易な輸送および散布を可能にする。
【0014】
結核、他のマイコバクテリア感染および炭疽に対する従来の治療は幾分問題があり、不十分であるので、新たな治療様式が望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって本発明は、結核、他のマイコバクテリア感染、他のグラム陰性およびグラム陽性細菌感染、ウイルス感染、アポトーシス介在性疾患ならびにサイトカイン介在性疾患の安全かつ有効な治療方法に対する必要性を述べる。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の実施形態は、医学的障害を有する対象を治療するための方法および組成物を提供する。他の実施形態は、ウイルスまたは細菌などの微生物にさらされた対象を治療するための方法および組成物を提供する。これらの実施形態によれば、障害は、それだけに限らないが、ウイルス感染障害、細菌感染障害またはそれらの組合せを含むことができる。
【0017】
ある実施形態は、医学的障害を有する対象を治療するための組成物に関する。これらの実施形態によれば、組成物は、アルファ−1アンチトリプシンまたはそのアレル(例えばおよそ100個の天然AATバリアントがある)、またはその断片またはその類似体またはその融合タンパク質(例えばヒトIgGまたはヒトIgGの断片)を含むことができ、いずれの組成物も顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さない。さらなる実施形態において、本発明において企図される組成物は、それだけに限らないが、組成物の安定性を増大させるために組成物を修飾すること(例えば顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATまたはその断片などのポリエチレングリコール連結分子など)を含む。組成物は、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATまたはその断片、その類似体またはその組換え体の脱グリコシル化形態を含むことができることが本発明において企図される。本発明のいくつかの実施形態は、それだけに限らないが、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さず、天然のM表現型であるAATを使用する組成物を含む。他の実施形態において組成物は、それだけに限らないが、抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗微生物剤、抗ウイルス剤、抗菌剤またはそれらの組合せをさらに含むことができる。
【0018】
ある実施形態においてウイルス感染は、レトロウイルス感染であり得る。さらに具体的な実施形態においてレトロウイルス感染は、それだけに限らないが、HIV感染、AIDS(後天性免疫不全症候群)、インフルエンザウイルス感染、肝炎ウイルス感染、ヘルペスウイルス感染およびそれらの組合せを含むことができる。
【0019】
他の実施形態において、本発明において企図する細菌感染は、それだけに限らないが、マイコバクテリア感染、敗血症、敗血症性ショック、細菌性髄膜炎、細菌性肺炎および炭疽病を含むことができる。ある実施形態において炭疽病は、吸入炭疽、皮膚炭疽、胃腸炭疽またはそれらの組合せからなる群に由来し得る。
【0020】
本発明において企図される組成物は、抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗ウイルス剤、抗病原体剤、抗菌剤、逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤およびそれらの組合せからなる群から選択される薬剤をさらに含むことができる。
【0021】
ある実施形態において本発明の組成物は、経口で、全身に、移植を介して、持続放出もしくは徐放性組成物(例えばゲル、微小粒子など)、静脈内に、局所的に、髄腔内に、皮下に、吸入により、経鼻的にもしくは当技術分野で知られている他の手段によってまたはそれらの組合せで投与され得る。
【0022】
本発明において企図される治療方法は、それだけに限らないが、潰瘍、瘢痕形成、肺水腫、末梢性浮腫、出血、縦隔壊死、リンホナフィー、胸水貯留、換気低下、咳、発汗、悪寒、倦怠感、発熱、乾性咳、筋肉痛、胸部痛、皮膚潰瘍、浮腫、非圧痕浮腫、痂皮、悪心、下痢、嘔吐、腹部痛、それらの組合せを含む、対象における医学的障害に伴う1つもしくは複数の症状を軽減もしくは除去すること、または対象の死の危険性を予防もしくは減少させることをさらに含む。
【0023】
さらに、ある治療方法は、医学的障害に伴う1つまたは複数の症状を軽減または除去することに関する。さらに本発明のいくつかの実施形態は、疾患、感染またはそれらの発病の特徴である症状を含む。
【0024】
より具体的な実施形態においてウイルス性の医学的障害は、インフルエンザ感染を含むことができる。これらの実施形態によれば、インフルエンザ感染は、インフルエンザAまたはB感染を含むことができる。
【0025】
他の実施形態において組成物は、1つまたは複数の抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗微生物剤、抗ウイルス剤またはそれらの組合せをさらに含むことができる。
【0026】
本発明のいくつかの実施形態は、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性が検出され得ない組成物中のセリンプロテアーゼ阻害活性を低減または除去するための組成物の使用に関する。これらの実施形態によれば、アルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体、そのアレルもしくはその融合分子またはそれらの組合せは、約85℃から約100℃の温度に、約1分間から約40分間、または約5分間、または約10分間など加熱され得る。他の具体的な実施形態において、アルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体またはその融合分子は、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性が検出されなくなるまで加熱され、かつ/または化学的に処置され得る。ある方法は、セリンプロテアーゼ阻害活性アッセイを使用して、アルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体もしくはその融合分子またはそれらの組合せのセリンプロテアーゼ阻害活性を評価することをさらに含むことができる。セリンプロテアーゼ阻害活性が処置の前および/または後で測定され得ることが本発明において企図される。
【0027】
他の実施形態において、本明細書に開示される組成物は、それだけに限らないが、抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗微生物剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗真菌剤およびそれらの組合を含む薬剤をさらに含有することができる。
【0028】
ある実施形態において、細菌性疾患の治療、細菌性疾患の症状の回復および細菌性疾患の予防が提供される。本発明の実施形態は、グラム陰性菌、グラム陽性菌および抗酸菌の抑制のための組成物および方法に関するものとすることができる。これらの実施形態によれば、ある細菌、例えば結核菌(TB)、マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)および炭疽菌が本発明において企図される。組成物および方法は、それだけに限らないが、細菌感染由来の免疫応答によって生じるマクロファージ活性または誘発された炎症などの細胞活性の調節を含むことができることが本発明において企図される。
【0029】
いくつかの実施形態において、本明細書に開示される組成物および方法を使用して治療または回復され得る細菌感染は、それだけに限らないが、N.gonorrhoeae、N.meningitidis、M.catarrhalis、H.influenzae、E.coli、クレブシエラ全菌種、エンテロバクター全菌種、セラチア菌全菌種、サルモレラ菌全菌種、赤痢菌全菌種、Proteus mirabilis、Proteus vulgaris、プロビデンシア全菌種、モルガネラ全菌種、シトロバクター全菌種、アエロモナス全菌種、アシネトバクター全菌種、Pseudomonas aeruginosa、パスツレラ全菌種、Pseudomonas cepacia、Stenotrophomonas maltophilia、Y.enterocoliticaおよび他のエルシニア属、レジオネラ全菌種、P.multocida、H.ducreyeii、クラミジア全菌種、Mycoplasma pneumoniae、Mycoplasma hominis、Bacteroides fragilis、P.melaninogenica、モラクセラ全菌種、ボルテデラ全菌種またはそれらの任意の組合せを含むグラム陰性細菌性生物によって生じる感染である。
【0030】
他の実施形態において、本発明の組成物および方法を使用して治療または回復され得る細菌感染は、それだけに限らないが、C.tetani、C.botulinum、C.difficile、連鎖球菌A、B、CおよびG群、Streptococcus pneumoniae、Streptococcus milleri群、Viridans streptococcus、リステリア菌全菌種、ブドウ球菌全菌種、S.aureus(MSSA)、S.aureus(MRSA)、S.epidermidis、Enterococcus faecalis、Enterococcus faecium、C.diptheriea、C.jeikiumを含むクロストリジウム全菌種、ロドコッカス全菌種、ロコノストック全菌種またはそれらの任意の組合せを含むグラム陽性細菌性生物によって生じる感染である。
【0031】
ある実施形態において、マクロファージへの感染からそれを必要とする哺乳動物において抑制されるマイコバクテリウムは、それだけに限らないが、群I(遅発育光発色菌)、群II(遅発育暗発色菌)、群III(遅発育非光発色菌)および群IV(迅速発育マイコバクテリア)を含む4つのルンヨン群由来の非結核性マイコバクテリアなどのマイコバクテリウムを含む。
【0032】
さらに他の実施形態において、本発明において企図する組成物および方法を使用して治療、除去または回復され得る感染は、それだけに限らないが、結核(M.tuberculosisおよび時にM.bovis)ならびにハンセン病(M.leprae)を生じる病原性の高い生物を含むマイコバクテリウムによって生じる感染である。しかし、M.avium−intracellulare、M.chelonei(borstelenseおよびabscessusとしても知られる)、M.africanum、M.marinium(balneiおよびplatypoecilusとしても知られる)、M.buruli(ulceransとしても知られる)、M.fortuitum(giae、minettiおよびranaeとしても知られる)、M.haemophilum、M.intracellulare、M.kansasii(luciflavumとしても知られる)、M.littorale(xenopiとしても知られる)、M.malmoense、M.marianum(scrofulaceumおよびparaffinicumとしても知られる)、M.simiae、M.szulgai、M.ulceransなどのマイコバクテリウムの多数の他の種があり、またはそれらの任意の組合せも企図される。
【0033】
ある実施形態において、本明細書に開示される組成物および方法は、医学的徴候に伴う疼痛および/または症状を軽減または予防するために使用され得る。これらの実施形態によれば、医学的徴候に伴う疼痛または症状の軽減は、約10〜20%、または約30〜40%、または約50〜60%、または約75〜100%の程度の軽減または抑制である。
【0034】
ある具体的な実施形態において、軽減または予防され得る炭疽病に伴う症状は、それだけに限らないが、倦怠感、発熱、乾性咳、筋肉痛および胸部痛、換気低下、発汗、X線撮影検査での縦隔の拡張、頸部および胸部の浮腫、壊死性縦隔リンパ節炎、非圧痕浮腫、痂皮、悪心、嘔吐、発熱、腹部痛、血性下痢、粘膜潰瘍、出血性腸間膜リンパ節炎、それらの任意の組合せまたはbacillus anthracisへの曝露または感染によって生じる死を含む。
【0035】
他の実施形態は、顕著なセリンプロテアーゼ活性を有さない組成物の治療有効量を治療を必要とする対象に投与することを含むことができる、上で同定した状態の任意の1つまたは複数に罹患している哺乳動物における、上で同定した細菌疾患もしくは徴候、マイコバクテリア疾患もしくは徴候、または炭疽感染の任意の1つまたは複数に伴う疼痛または症状を緩和または回復させる方法に関する。例えば組成物は、アルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体、そのアレルまたはその融合分子を含むことができ、この分子は、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性が残らないようにセリンプロテアーゼ阻害活性を低減または除去するために処置される。これらの方法によれば、治療は、宿主の細菌疾患もしくは徴候、マイコバクテリア疾患もしくは徴候、または炭疽感染を抑制または回復するために十分である。
【0036】
ある実施形態において、本発明の方法および組成物で使用されるα1−アンチトリプシンは、それだけに限らないが、Aralast(商標)(Baxter)、Zemaira(商標)(Aventis Behring)、Prolastin(商標)(Bayer)、Aprotonin(商標)またはTrasylol(商標)(Bayer Pharmaceutical Corporation)およびUlinistatin(商標)(小野薬品工業株式会社)または任意のそれらの組合せを含むことができる。他の実施形態において、本発明の方法および組成物で使用されるATTまたはATT断片もしくはATT類似体は、天然のATTまたはATT断片またはその類似体もしくはアレルを含むことができる。
【0037】
他の実施形態において、抗炎症化合物または免疫調節薬は、それだけに限らないが、インターフェロン;ベータセロン、β−インターフェロンを含むインターフェロン誘導体;イロプロスト、シカプロストを含むプロスタン誘導体;コルチゾール、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、デキサメタゾンを含むグルココルチコイド;シクロスポリンA、FK−506、メトキサレン、サリドマイド、スルファサラジン、アザチオプリン、メトトレキサートを含む免疫抑制薬;ジロートン、MK−886、WY−50295、SC−45662、SC−41661A、BI−L−357を含むリポキシゲナーゼ阻害剤;ロイコトリエンアンタゴニスト;ACTHおよびその類似体を含むペプチド誘導体;可溶性TNF受容体;TNF抗体;インターロイキン、他のサイトカイン、T細胞タンパク質の可溶性受容体;インターロイキン、他のサイトカイン、T細胞タンパク質の受容体に対する抗体;ならびにカルシポトリオールおよびその類似体を、単独でまたはそれらの任意の組合せのいずれかで含むことができる。
【0038】
ある実施形態において、投与のための組成物は、製剤1mlまたは1mgあたり約10ngから約10mgの範囲とすることができる。AATペプチド、またはATTもしくはペプチド薬と同様の活性を有する薬物の治療有効量は、モル濃度で測定され、約1nMから約10mMの間の範囲であり得る。薬学的にまたは化粧品用に許容される担体と組み合わせた製剤も企図される。正確な用量は、過度の実験を行うことなく周知の通常の臨床試験によって確立され得る。
【0039】
いくつかの実施形態において、本発明において企図される医薬組成物は、経口で、全身に、移植を介して、静脈内に、局所的に、髄腔内に、頭蓋内に、脳室内に、吸入によりまたは経鼻的に投与される。
【0040】
ある実施形態において対象または哺乳動物は、ヒトである。
【0041】
他の実施形態において対象または哺乳動物は、家畜化されたまたは家畜化されていない哺乳動物であり得る。
【0042】
ある実施形態において、合成および/または天然のペプチドは、例えばAATのセリンプロテアーゼ阻害活性以外を示すように、本発明の組成物および方法において使用され得る。AATの切断に直接由来するペプチドを含めて、AATと配列相同性を有する相同体、天然ペプチドを使用することができ、またはセリンプロテアーゼ阻害活性以外のAAT様活性を有するペプチドなどの他のペプチドも使用することができる。他のペプチド誘導体、例えばそのようなペプチドのアルデヒドまたはケトン誘導体も本発明において企図される。AATおよびAATのペプチド誘導体に限定することなく、オキサジアゾール、チアジアゾールおよびトリアゾールペプトイドなどの化合物および物質は、それだけに限らないが、あるフェニレンジアルカン酸エステル、CE−2072、UT−77およびトリアゾールペプトイドを含むことができる。類似体の例は、TLCK(トシル−L−リジンクロロメチルケトン)またはTPCK(トシル−L−フェニルアラニンクロロメチルケトン)またはそれらの任意の組合せである。
【0043】
以下の図面は、本明細書の部分を形成し、本明細書に開示されるある実施形態をさらに実証するために含まれる。実施形態は、本明細書に示す具体的な実施形態の詳しい記載と組み合わせて、1つまたは複数のこれらの図面を参照することによってよりよく理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】AAT(Aralast(商標)またはZemaira(商標))の例示的な比較、および感染した末梢血単核細胞(PBMC)におけるHIV生成に対するそれらのそれぞれの効果を示す図である。
【図2】ヒト初代線維芽細胞におけるインターロイキン8(IL−8、図2A)または(IL−6、図2B)誘発に対する熱不活性化したAAT(ΔAAT/HIAAT)または未変性AATの例示的なヒストグラムを示す図である。
【図3】HIAATおよびAATエラスターゼ結合活性を実証する例示的なグラフを示す図である。エラスターゼ単独が対照である。
【図4】刺激したU1細胞におけるp24生成(pg/ml)によって表されるHIV生成に対するAAT(図4A左パネル、黒色バー)またはHIAAT(図4A右パネル、白色バー)0、6、4、2、および1mg/mlの効果の例示的なヒストグラムを示す図である。図4Bは、刺激したU1細胞におけるp24生成(pg/ml)によって表されるHIV生成に対する、AAT(5mg/ml、0.8mg/ml)またはHIAAT(ストライプバー、5mg/ml、0.8mg/ml)の効果の例示的なヒストグラムを示す図である。
【図5】Raw264.7細胞における致死性毒素誘発性細胞毒性(LDL OD単位)に対するAAT(白色バー、左)およびHIAAT(白色バー、右)の例示的なヒストグラムを示す図である。
【図6】熱不活性化AATを用いた、および用いないマウスの毒素後治療の例示的な実験を示す図である。
【図7】熱不活性化AATまたはプラセボによるマウスの毒素後治療の例示的な実験を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
定義
本明細書において使用する「1つ(a)」または「1つ(an)」は、1つまたは1つより多くの項目を意味するものとする。
【0046】
本明細書において使用する「約」はプラスマイナス10%、例えば約10分間は、9〜11分間を意味するものとする。
【0047】
本明細書において使用する「アルファ−1−アンチトリプシンの類似体」は、セリンプロテアーゼ阻害活性以外のアルファ−1−アンチトリプシン様活性を有する化合物を意味するものとする。一実施形態においてアルファ−1−アンチトリプシンの類似体は、アルファ−1−アンチトリプシンの機能的誘導体である。さらに具体的な実施形態においてアルファ−1−アンチトリプシンの類似体は、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さない化合物である。
【0048】
以下の節において様々な例示的組成物および方法が、本発明の様々な実施形態を詳述するために記載される。様々な実施形態を実行することは、本明細書において述べる特定の詳細の全て、さらには一部の使用を必要とせず、濃度、時間および他のある詳細が通常の実験を通じて変更され得ることは、当業者に明らかである。場合によっては、周知の方法、または成分は、記載に含まれていない。
【0049】
本発明の実施形態は、医学的障害を有する、または医学的障害を引き起こし得る細菌性生物にさらされた対象を治療するための方法および組成物を提供する。これらの実施形態によれば、障害は、それだけに限らないが、ウイルス感染、細菌感染またはそれらの組合せを含むことができる。
【0050】
ある実施形態は、医学的障害を有する対象を治療するための組成物に関する。これらの実施形態において組成物は、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないアルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体またはその融合分子を含むことができる。他の実施形態において組成物は、それだけに限らないが、抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗微生物剤、抗ウイルス剤、抗菌剤およびそれらの組合せをさらに含むことができる。
【0051】
本発明の他の実施形態は、それだけに限らないが、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないアルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体またはその融合分子を含む組成物の治療有効量をそのような治療を必要とする対象に投与することを含む、医学的障害を有する対象を治療する方法に関する。これらの実施形態によれば、障害は、ウイルス感染関連障害感染、細菌感染関連障害またはそれらの組合せであり得る。他の実施形態において医学的障害は、それだけに限らないが、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、再灌流不整脈、虚血/再灌流性心臓損傷、うっ血性心不全、心虚血、卒中、脳血管障害、インフルエンザ、急性肝不全、慢性肝不全および感冒を含むことができる。
【0052】
インフルエンザ
ある実施形態において医学的障害は、ウイルス感染、例えばインフルエンザAまたはBなどのインフルエンザを含むことができる。これらの実施形態によれば、インフルエンザにさらされたことがあるまたはインフルエンザに罹っている対象は、本発明において企図される組成物の治療有効量を投与され得る。一例において組成物は、それだけに限らないが、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性が残らないような方法で前処理されたAATを含むことができる。一例においてAATは、セリンプロテアーゼ阻害活性を低減または除去するために加熱される。
【0053】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)
ある実施形態において医学的障害は、ウイルス感染、例えばHIVまたはAIDSを含むことができる。ADIS進行の経過において、AATを含む多数の測定可能な臨床的パラメータが徐々に増大する。一研究において、クリプトスポリジウム感染を有するHIV陽性患者の40%においてAATレベルが影響を受け、非クリストスポリジウム性の下痢を有するHIV陽性患者12名では影響を受けなかったことが実証された。異常AAT表現型の発生率は、同性愛者群では16.3%であり、異性愛者群における8.7%と有意に異なっていた(p0.03未満)。抗HIV抗体反応性の同性愛者と非反応性の者との間の表現型分布に差異はなかった。糞便中のAAT濃度は、小児HIV感染での膵臓機能異常を反映した。HIV感染を有する患者は、肺気腫と臨床的類似性を有して閉塞性肺疾患に罹ることが知られている。これらの患者において測定されたAATレベルは、正常範囲より低かった。外来での持続的HIV感染患者の42%におけるこれらの臨床的所見の観察にもかかわらず、現在または既往の日和見感染の証拠は検出されなかった。これらの患者の一部から得た気管支肺胞洗浄液はTNFおよびフリーラジカルを含有し、炎症を示していた。
【0054】
ある実施形態において、それだけに限らないが、AATおよびその誘導体を含み、顕著なセリンプロテアーゼ活性を有さない組成物は、HIVの抑制のために有用である。これらの実施形態によれば、本発明の方法は、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATをそれだけに限らないが、含む組成物の治療有効量をそのような治療を必要とする対象に投与することによって、HIV感染に罹っているまたはHIVにさらされたことがある対象を治療することに関するものとすることができる。他の実施形態は、セリンプロテアーゼ阻害活性以外のAAT活性を有する化合物を単独でまたは他の抗HIV化合物との組合せでのいずれかで投与することによって、HIV感染に罹っている対象におけるウイルス放出を制御することを含む。
【0055】
本発明において企図される治療は、1日に複数回、1日2回、毎日、1週間に2回、毎週または他の投与計画でそれを必要とする患者に投与される治療を含むことができる。加えて、HIV感染に罹っている対象のための治療は、当技術分野で知られている任意の他の治療も含むことができる。他の治療は、それだけに限らないが、抗ウイルス化合物、抗HIV化合物、逆転写酵素阻害剤およびそれらの組合せを含むことができる。
【0056】
ある実施形態において、本発明において企図される治療方法は、哺乳動物宿主の核へのウイルス性核酸分子の送達を減少または予防するために、およびウイルス感染の病原体を宿す哺乳動物宿主からのウイルス粒子の放出を減少または予防するための方法のために使用され得る。したがって、本発明において企図される治療は、哺乳動物宿主における感染を減少させることができるだけでなく、感染の拡大を減少または予防できる。ある具体的な実施形態において、これらの過程は、AAT関連セリンプロテアーゼ阻害活性以外のAAT活性によって介在される。これらは、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さない哺乳動物α1−アンチトリプシン(AAT)を示す物質の薬理学的有効量を投与することによって妨げられ得る。これらの方法により、曝露後予防薬は、HIV混入液にさらされた哺乳動物において増殖性感染の確立を阻止するためにそのような治療を必要とする対象に投与され得る。HIVを含むと考えられる液は、例えば血液、唾液、精液、汗、尿、膣分泌物、涙および他の体液を含むことができる。他の実施形態においてこれらの方法および治療組成物は、妊娠中の母子HIV感染の減少または予防において有効であり得る。他の実施形態において顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATは、HIVの伝染を減少させるまたは予防するためにシリンジまたは他の容器に添加され得る。
【0057】
AATまたはAAT様分子の様々な活性を評価するためのアッセイが使用され得ることが本発明において企図される。具体的な一実施形態においてAATおよび同様に活性な化合物は、アッセイにおける対照と対比して化合物が阻害活性を示す一連のアッセイによって同定され得る。例示的一方法においてアッセイは、例えばU1単核球細胞におけるインターロイキン−18またはIL−18誘導HIV産生のブロッキングを含む。他のアッセイは、それだけに限らないが、IL−6、NaCl、LPS、TNFおよび当技術分野で知られている他のHIV刺激物質などの刺激物質のブロッキングを含むことができる。加えて他のアッセイは、以前記載された通りMAGI−CCR−5細胞アッセイおよびPBMCアッセイを含む。
【0058】
本発明において企図される他のウイルス感染は、それだけに限らないが、AATレベルの欠乏またはAATの機能不全によって少なくとも部分的に生じる/促進されるウイルス感染を含む。AATレベルの欠乏またはAATの機能不全を有する対象は、本発明において企図される任意の組成物によって治療され得ることが本発明において企図される。
【0059】
顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATまたはAAT様分子との併用において企図される他の薬剤が企図される。一実施形態において対象におけるHIV感染を治療するための方法は、(a)本明細書に開示される1つまたは複数の化合物と、(b)HIV逆転写酵素阻害剤およびHIVプロテアーゼ阻害剤からなる群から選択される1つまたは複数の化合物との治療に有効な組合せを投与することを含むことができる。したがって逆転写酵素阻害剤は、ヌクレオシドRT阻害剤:Retrovir(AZT/ジドブジン;Glaxo Wellcome);Combivir(Glaxo Wellcome);Epivir(3TC、ラミブジン;Glaxo Wellcome);Videx(ddl/ジダノシン;Bristol−Myers Squibb);Hivid(ddC/ザルシタビン;Hoffmann−LaRoche);Zerit(d4T/スタブジン;Bristol−Myers Squibb);Ziagen(アバカビル、1592U89;Glaxo Wellcome);Hydrea(ヒドロキシ尿素[HO;Bristol−Myers SquibbからのヌクレオシドRT増強剤)または非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTIs):Viramune(ネビラピン;Roxane Laboratories);Rescriptor(デラビルジン;Pharmacia&Upjohn);Sustiva(エファビレンツ、DMP−266;DuPont Merck);Preveon(アデホビルジピボキシル、ビス−POM PMEA;Gilead)を含む群から選択され得る。プロテアーゼ阻害剤(PI’s)は、Fortovase(サキナビル;Hoffmann−LaRoche);Norvir(レトナビル;Abbott Laboratories);Crixivan(インジナビル;Merck&Company);Viracept(ネルフィナビル;Agouron Pharmaceuticals);Angenerase(アンプレナビル/14IW94;Glaxo Wellcome)、VX−478、KNI−272、CGP−61755、U−103017またはそれらの任意の組合せから選択される。
【0060】
薬学的に許容される担体中の医薬組成物で対象を治療することにより、セリンプロテアーゼ阻害活性以外のAAT活性によって介在されるウイルス感染に感染し易い対象における機能的内在性AATレベルの後天性または先天性の欠乏を予防する方法も企図される。これらの方法によれば、哺乳動物ATTまたはATT様活性を示す物質(例えば顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さない物質)、および組織プラスミノーゲン活性化因子、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼまたはそれらの組合せもしくは複合体などの血栓溶解剤の有効量が対象に投与され得る。医薬組成物は、ATTまたはATT様活性を示すペプチドまたは小分子であり得る。
【0061】
サイトメガロウイルス(CMV)
サイトメガロウイルス(CMV)は、細胞へのウイルスの侵入に関与する表面分子HCMVgBを有する。遺伝子操作されたAATバリアント、α1−PDXは、フューリンに対する阻害活性を付与するように設計された。細胞外α1−PDXは、in vitroでの感染性CMVの産生をブロックし、CMV抑制は、HCMVgBの減少したタンパク質分解活性に関連していた。AATおよび遺伝子操作されたバリアントα1−PDXの抗ウイルス効果は、インフルエンザAおよびCMVのin vivo産生の調節におけるAATの役割を示唆する。ある実施形態において、開示された組成物および方法は、CMVもしくはインフルエンザに罹っているまたはさらされた対象を、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATまたはAAT類似体の治療有効量を使用して治療するために使用され得ることが企図される。
【0062】
AAT欠乏を生じるヒトにおける遺伝的欠損は、一定の集団において存在する。AAT欠乏対象は、アミノ酸342(Glu−Lys)での単一点変異体を含有するAATのZ−型バリアント変異体を有する。構造的に異常なAATは、循環AATの主な供給源である肝臓細胞中に蓄積する。肝臓からの分泌における関連欠損は、正常の<15%の血清濃度をもたらす。この変異は、米国の70,000〜100,000名に影響を与える。
【0063】
The National Heart,Lung,and Blood Institute(NHLBI)は、AAT欠損患者の登録を受けている。これらのAAT欠損者は、静脈内AAT置換療法を受けているまたは受けていない混合集団を含む。AAT配分はこの登録においては無作為化されておらず、患者は様々な理由でAATを受けている。最近の刊行物は、NHLBI登録[Lieberman、2000#122]で追跡されたおよそ300名のAAT−欠損患者の一部分のコンピュータに基づく(インターネット)自発的調査の結果を記載している。インターネット集団300名の内143名(48%)は、自覚的肺感染についての質問を含む自発的質問票に回答した。肺感染は、痰の色の変化を通常伴い、発熱を伴うもしくは伴わない咳および痰の産生の増加、抗生物質の使用または入院加療と定義された。
【0064】
AAT欠損を有する患者95名がAAT置換を受けていたと回答し、AAT血感を受けていない46名のAAT欠損者が回答した(各群1名の患者は、混合AAT表現型SZを有する)。AAT置換療法を受けている95名の患者は、AAT療法の開始前後での肺感染の年間発症率を比較することを依頼された。AAT療法の開始前に報告された肺感染の年間数と比較して、肺感染の回数における有意な減少がAAT療法の開始後に報告された。多くの患者は、鼻風邪および流感は、AAT置換の開始後に頻度が減ったとも考えた。別々の比較において、AAT置換療法を受けたNHLBIコホートの95名は、置換療法を受けなかった46名と比較された。AAT療法を受けた群は、治療を受けなかった群がしたよりも少ない年間肺感染を報告した。
【0065】
AAT−治療群および未治療群の特徴付けは、年齢、性別および喫煙経験における比較性について評価された。これらをもとに、in vitroおよびNHLBI ATT−欠損登録小集団での上の結果は、AATはインフルエンザAウイルスおよびCMVの天然の阻害剤である可能性を示唆する。さらにAAT欠損集団の調査は、AATとこれらのウイルスでのin vivo感染との関連を研究する有用な手段を提供できる。
【0066】
具体的な一研究において、肺移植を受けたヒト対象が評価された。AAT−欠損患者は、肺移植を必要とする場合がある重症の肺気腫にしばしば感染することから、これらの患者は、疫学的に調査された。移植に続いて、この研究のメンバーは、医学的管理の厳密な手続きに従い、それぞれ頻繁な医学的評価を受けた。これらの患者それぞれについて広範囲かつ詳細なデータベースが維持される。データベースは、AAT欠損とインフルエンザAウイルスでまたはCMVでの感染との間の関連を明確に評価するために点検された。AAT欠損患者は、インフルエンザA(流感)およびサイトメガロウイルス(CMV)での感染における実質的かつ統計的に有意な増大を有することが見出された。これらのデータは、AAT欠損を流感およびCMVでの感染についての新たな危険因子として確立する。任意の組成物が、上で同定されたような欠損を有する対象に投与され得ることは、本発明において企図される。
【0067】
マイコバクテリア
他の実施形態において、本発明において企図される医学的障害は、マイコバクテリア関連疾患または障害を含むことができる。これらの実施形態によれば、マイコバクテリア感染に罹っているまたは罹っていると疑われる対象を治療するための方法が企図される。ある実施形態において、本発明において企図されるマイコバクテリア感染は、Mycobacterium tuberculosis(M.tuberculosis)、M.bovis、M.leprae、M.avium−intracellulare、M.chelonei(borstelenseおよびabscessusとしても知られる)、M.africanum、M.marinium(balneiおよびplatypoecilusとしても知られる)、M.buruli(ulceransとしても知られる)、M.fortuitum(giae、minettiおよびranaeとしても知られる)、M.haemophilum、M.intracellulare、M.kansasii(luciflavumとしても知られる)、M.littorale(xenopiとしても知られる)、M.malmoense、M.marianum(scrofulaceumおよびparaffinicumとしても知られる)、M.simiae、M.szulgai、M.ulcerans、M.avium(brunenseとしても知られる)、M.flavascens、M.lepraemurium、M.microti、およびM.paratuberculosis(ヨーネ病の原因病原体であり、クローン病の原因の可能性がある)、M.gordonae(aquaeとしても知られる)、M.gastri、M.phlei(moelleriおよびtimothy bacillusとしても知られる)、M.nonchromogenicum、M.smegmatis、M.terrae、M.trivialeおよびM.vaccaeを含むマイコバクテリウム属由来のマイコバクテリアによって生じるマイコバクテリア疾患または障害をそれだけに限らないが、含むことができる。
【0068】
他の実施形態においてマクロファージのマイコバクテリウム感染は、減少または抑制され得る。これらのマイコバクテリウムは、群I(遅発育光発色菌)、群II(遅発育暗発色菌)、群III(遅発育非光発色菌)および群IV(迅速発育マイコバクテリア)からなる群から選択されるルンヨン群を含む4群に分けられる非結核性マイコバクテリアを含む属に由来し得る。
【0069】
ある実施形態において、それだけに限らないが、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATおよびその誘導体を含む組成物は、マイコバクテリウムまたはマイコバクテリウム感染の抑制のために有用である。これらの実施形態によれば、本発明の方法は、マイコバクテリウムもしくはマイコバクテリウム感染を有する、またはマイコバクテリウムにさらされたことがある対象を、それだけに限らないが、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATを含む組成物の治療有効量をそのような治療を必要とする対象に投与することによって治療することに関するものとすることができる。具体的な一実施形態はセリンプロテアーゼ阻害活性以外のAAT活性を有する化合物を単独でまたは他の化合物、例えば他の抗菌化合物との組合せで投与することによってマイコバクテリア感染を制御することに関する。
【0070】
Bacillus Anthracisおよび炭疽毒素
グラム陽性桿状、好気性、芽胞形成細菌Bacillus anthracisによって産生される炭疽毒素は、この生物によって分泌される毒性病原因子である。B.anthracisは、分泌される外毒素の効力、および厳しい環境条件に耐性である休眠芽胞を形成する細菌の能力から生物兵器としての使用がしばしば考えられる。芽胞形成は、大量の毒素産生細菌の容易な輸送および散布を可能にする。実際には毒素は、細菌から別々に分泌される3つのタンパク質からなる複合体である。3つのタンパク質は、防御抗原(PA)、致死因子(LF)および浮腫因子(EF)である。LFおよびELは、直接細胞を傷つけ、炭疽毒素曝露による疾患を引き起こすと考えられている。PAは、PA分子がLFおよびEFの両方を細胞の膜の内側に運び入れるために設計されていることから炭疽毒素の毒性に極めて重要である。PA誘発細胞内輸送の非存在下では、LFおよびEFが細胞内からだけ機能することから炭疽毒素は、組織破壊を生じさせることができない。
【0071】
炭疽病の臨床症状
炭疽病は3つの臨床病型として生じる:i)吸入、ii)皮膚、およびiii)胃腸形態。
【0072】
1.)吸入炭疽は、疾患の最も死亡率の高い形態であり、生物兵器論争または事故に最も関与し易いものである。通常、感染したヒトは、炭疽芽胞を偶然にまたは生物兵器攻撃において吸入する。1〜6日間の潜伏期間に続いて二相性の疾病が生じる。最初は非特異的な倦怠感/発熱/乾性咳/筋肉痛、および胸部痛が生じる。第1相の2〜3日後の第2相は、換気低下、発汗、X線撮影検査での縦隔の拡張、ならびに頸部および胸部の浮腫に加えて、上に列挙した体質的非特異的な所見の進行からなる。疾病のこの時期は、壊死性縦隔リンパ節炎によって特徴付けられる。疾患のこの第2期は、ショックおよび2日以内の死亡に急速に進行する場合があり、80%を超える死亡率が報告されている。動物モデルでの死の機序は、炎症促進性サイトカイン類、特にIL−1の増強された産生であると考えられる。一実施形態において吸入炭疽に伴う障害は、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAAT、その断片、その類似体、またはAAT様活性を有する化合物を含む組成物をそのような治療を必要とする対象に、例えば吸入によって投与することによって軽減または予防され得る。
【0073】
2)皮膚炭疽は、ヒトにおける炭疽感染の最も一般的な形態である。例えば、炭疽芽胞への曝露後、皮疹の領域は(傷口、擦過傷など)、炭疽菌生物の芽胞状態からの出現、増殖、複製および炭疽毒素の産生を可能にする環境を与える。1週間以内に、炭疽播種の領域は無痛丘疹を発症する。次いで次の1〜2日で小水疱を丘疹上または近傍に形成し、間もなく発熱および倦怠感、ならびに毒素活性による皮膚病変周囲の非圧痕浮腫の発症が続く。原病巣は、破裂し壊死性潰瘍および、皮膚炭疽感染を特徴付ける痂皮の形成を生じる拡張を形成する。治療しない場合は、この疾患は死亡率20%を伴う。回復した者については、痂皮は1〜2週間で脱落する。ある実施形態において、皮膚炭疽に罹っているまたはさらされた対象を治療するための方法が本発明において企図される。これらの実施形態によれば、AATまたは顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAAT様活性を有する化合物を含む局所/クリーム製剤が使用され得る。それだけに限らないが、AATまたはAAT様活性を有するが顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さない化合物を含む非経口組成物は、全身症状が出現した場合、またはそのような非経口療法が、皮膚に限局されて臨床的に出現した炭疽のために予防的に投与され得る場合にも同時投与され得る。
【0074】
3)胃腸炭疽は、炭疽芽胞の経口摂取後に出現する。2〜5日後、悪心/嘔吐/発熱、および腹部痛を発症する。血性下痢が直後に続き、急性腹症が出現する。腹症の病態は、粘膜潰瘍を含む。出血性腸間膜リンパ節炎も発症し、これも再びセリンプロテアーゼ阻害剤欠乏微小環境における炭疽毒素の選択的活性化と一致する。この疾患は50%の死亡率を伴う。本発明において企図されるある実施形態は、胃腸炭疽に罹っているまたはさらされた対象に組成物を投与することに関する。これらの実施形態によれば、組成物は、それだけに限らないが、AATまたはAAT様活性を有するが顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さない化合物を含むことができる。
【0075】
肺炎
ある実施形態において顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATの治療有効量は、細菌性、ウイルス性、真菌性または寄生虫性肺炎に罹っているまたはさらされた対象に投与され得る。
【0076】
ある実施形態において、感染または上に列挙した各状態の1つまたは複数を伴うその副次的影響の減少、予防または抑制は、開示された組成物の投与によって約10〜20%、30〜40%、50〜60%またはより大きい減少もしくは抑制であり得る。
【0077】
ある具体的な実施形態において本発明の組成物および方法は、真菌感染に罹っている対象を治療することに関するものとすることができる。これらの方法により対象は、それだけに限らないが、AAT組成物またはAAT様活性を有するが顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さない組成物を含む治療有効量を投与され得る。
【0078】
タンパク質およびポリペプチド
一実施形態は、単離されたタンパク質およびその生物学的に活性な部分ならびにポリペプチド断片に関する。一実施形態において天然ポリペプチドは、標準的タンパク質精製技術を使用して適切な精製計画によって細胞または組織源から単離され得る。ある実施形態において天然ポリペプチドは、セリンプロテアーゼ阻害活性を減少または除くために加熱または他で処理され得る。ある具体的な実施形態において、セリンプロテアーゼ阻害活性は、顕著な活性が残らないように減少させられる。他の実施形態において、本発明において企図されるポリペプチドは、組換えDNA技術によって産生される。組換え発現の別法としてポリペプチドは、標準的ペプチド合成技術を使用して化学的に合成され得る。本明細書に開示される組成物における使用を企図された任意のペプチドまたはタンパク質分子は、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さない組成物であり得る。例えばAAT組成物は、セリンプロテアーゼ阻害活性を低減もしくは除去するために処理されることができ、または減少したセリンプロテアーゼ阻害活性を有するかもしくは顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATポリペプチドが単離され得る。
【0079】
遺伝子工学的方法によって産生されたAATの組換え未改変バリアントおよび変異バリアントも周知である(米国特許第4,711,848号)。ヒトAATおよび他のヒトATTバリアントのヌクレオチド配列が公開されている。ある実施形態においてこれらのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列は、当業者に周知の組換えDNA技術および方法を使用して、本明細書において述べるAATアミノ酸バリアントおよびアミノ酸断片の全てを生成するための出発物質として使用され得る。これらの任意の変異体またはバリアントが顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないことが企図される。
【0080】
「単離された」または「精製された」タンパク質またはそれらの生物学的に活性な部分は、細胞性物質、またはタンパク質が由来する細胞もしくは組織源からの他の混入タンパク質を実質的に含まず、化学的に合成される場合は、化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。用語「細胞性物質を実質的に含まない」は、タンパク質が単離されるまたは組換えで産生される細胞の細胞成分から分離されるタンパク質の調製を含む。したがって、細胞性物質を実質的に含まないタンパク質は、異種タンパク質(本明細書において「混入タンパク質」とも称する)を約30%、20%、10%、または5%(乾燥重量で)未満含むタンパク質の調製を含む。タンパク質またはそれらの生物学的に活性な部分が組換え的産生される場合、好ましくは培養培地を実質的に含まない。タンパク質が化学合成によって産生される場合、好ましくは化学的前駆体または他の化学物質を含まない。例えば、タンパク質のそのような調製物は、化学的前駆体または目的ポリペプチド以外の化学物質を約30%、20%、10%、または5%(乾燥重量で)未満含む。
【0081】
ポリペプチドの生物学的に活性な部分は、タンパク質のアミノ酸配列と十分に同一な、またはそれに由来するアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むことができる(例えば、対応する全長タンパク質の、セリンプロテアーゼ阻害活性以外の少なくとも1つの活性を示すアミノ酸配列)。タンパク質の生物学的に活性な部分は、長さで5、10、25、50、100またはそれより多いアミノ酸であるポリペプチドであり得る。さらに、タンパク質の他の領域が除去された他の生物学的に活性な部分は、組換え技術によって調製されることができ、本発明のポリペプチドの天然型の1つまたは複数の機能的活性について評価され得る。
【0082】
ある実施形態においてポリペプチドは、AATまたはAATアレルのC末端に対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを含むことができる。他の有用なタンパク質は、カルボキシ末端の任意の部分と実質的に同一(例えば少なくとも45%、好ましくは55%、65%、75%、85%、95%または99%)であり、天然の対立遺伝子変異または変異誘発のためにアミノ酸配列が異なるにもかかわらず対応する天然タンパク質のセリンプロテアーゼ阻害活性以外のタンパク質の機能的活性を保持する。
【0083】
本発明の化合物は、過剰なセリンプロテアーゼ活性によって全体がまたは部分的に生じた生理的(特に病理学的)状態の治療における治療剤として使用され得る。加えて、生理的(特に病理学的)状態は、全体にまたは部分的に抑制され得る。本発明において企図するペプチドは、遊離ペプチドまたは薬学的に許容されるその塩として投与され得る。ペプチドは、医薬組成物として対象に投与されることができ、多くの場合、薬学的に許容される担体とともにペプチドおよび/またはその薬学的塩を含む。
【0084】
BLAST、Gapped BLASTおよびPSI−Blastプログラムを使用する場合、それぞれのプログラムの初期設定パラメータ(例えばXBLASTおよびNBLAST)を使用できる。例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov.を参照されたい。
【0085】
ポリペプチドのバリアントは、本発明において企図される。そのようなバリアントは、アゴニスト(模倣体)またはアンタゴニストとして機能できる改変されたアミノ酸配列を有する。バリアントは、変異誘発、例えば別々の点変異または切断、によって生成され得る。アゴニストは、タンパク質の天然型と実質的に同一またはその一部分の生物学的活性を保持できる。タンパク質のアンタゴニストは、タンパク質の天然型の1つまたは複数の活性を、例えば目的タンパク質を含む細胞シグナルカスケードの下流または上流成分に競合的に結合することによって抑制できる。したがって特異的な生物学的効果が、機能を限定したバリアントでの処置によって誘発され得る。タンパク質の天然型の生物学的活性の一部分を有するバリアントでの対象の治療は、タンパク質の天然型での治療と比較して対象においてより少ない副作用を有し得る。
【0086】
アゴニスト(模倣体)またはアンタゴニストのいずれかとして機能する本発明において企図するタンパク質のバリアントは、アゴニストまたはアンタゴニスト活性について本発明のタンパク質の変異体、例えば切断変異体、のコンビナトリアルライブラリーをスクリーニングすることによって同定され得る。
【0087】
融合ポリペプチド
他の実施形態において、AATおよび/またはその類似体など、セリンプロテアーゼ阻害活性以外のAAT活性を有する化合物は、融合ポリペプチドの部分であってよい。一例としては、融合ポリペプチドは、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さない、AAT(例えば、哺乳動物のα1−アンチトリプシン)またはその類似体、およびAATもしくは類似体物質に非相同であってよい異なるアミノ酸配列を含むことができる。
【0088】
さらに他の実施形態において、本発明の方法における使用が企図される融合ポリペプチド(例えば、IgGまたはそのフラグメント)は、融合ポリペプチドを同定、追跡または精製するのに有用であるアミノ酸配列(例えば、FLAGもしくはHISのタグ配列)をさらに含むことができる。融合ポリペプチドは、セリンプロテアーゼを阻害することができる化合物(例えば、哺乳動物のAATまたはその類似体)から非相同なアミノ酸配列を除去することができるタンパク質分解性の切断部位を含むことができる。
【0089】
一実施形態において、融合ポリペプチドは、組換えDNA技術によって生成することができる。組換え発現の代わりに、標準のペプチド合成技術を用いて、本発明の融合ポリペプチドを化学的に合成することができる。さらに、本明細書に開示される融合ポリペプチドは、薬学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含むことができる。
【0090】
ある実施形態において、融合タンパク質は、免疫グロブリンタンパク質のファミリーのメンバー、例えば、免疫グロブリンの定常領域(例えば、ヒトIgG1定常領域などのヒト免疫グロブリン定常領域)に由来する非相同の配列を含むことができる。融合タンパク質は、例えば、AATの一部分、当技術分野で知られている方法によって免疫グロブリン定常領域のアミノ末端またはカルボキシ末端と融合しているその類似体を含むことができる。これらの実施形態によれば、免疫グロブリンのFcR領域は、野生型または突然変異したもののいずれかであってよい。ある実施形態において、Fc受容体と相互作用せず、ADCC反応を開始しない免疫グロブリン融合タンパク質を利用するのが望ましいことがある。このような場合において、融合タンパク質の免疫グロブリンの非相同な配列は、このような反応を阻害するように突然変異され得る。例えば、米国特許第5,985,279号およびWO98/06248を参照されたい。
【0091】
さらに別の実施形態においてAAT、その類似体、ポリペプチド融合タンパク質は、GST配列のC末端に融合しているGST融合タンパク質であってよい。融合発現ベクター、ならびに精製および検出の手段は、当技術分野で知られている。
【0092】
発現ベクターは、当技術分野で知られている手段によって、原核細胞(例えば、E.coli)または真核細胞(例えば、昆虫細胞(バキュロウイルスの発現ベクターを用いて)、酵母菌細胞、もしくは哺乳動物の細胞)における本発明の融合ポリペプチドを発現するように常法に従って設計することができる。
【0093】
原核生物におけるタンパク質の発現は、当技術分野で知られている手段によって行うことができる。このような融合ベクターは、典型的には以下の3つの目的を果す:1)組換えタンパク質の発現を増大すること、2)組換えタンパク質の溶解性を増大すること、および3)アフィニティー精製におけるリガンドとして作用することによって組換えのタンパク質の精製において助けとなること。
【0094】
さらに別の実施形態において、本発明の核酸は、当技術分野で報告されている哺乳動物の発現ベクターを用いて哺乳動物細胞において発現される。別の実施形態において、組換えの哺乳動物の発現ベクターは、膵臓特異的プロモーターおよび乳腺特異的プロモーターなど、特定の細胞型における核酸の発現を指示することができる(例えば、組織特異的な制御エレメントを用いて核酸を発現する)。宿主細胞は、あらゆる原核細胞(例えば、E.coli)または真核細胞(例えば、昆虫細胞、酵母菌もしくは哺乳動物の細胞)であってよい。ベクターDNAを、従来の形質転換またはトランスフェクションの技術によって原核細胞または真核細胞中に導入することができる。
【0095】
本発明において企図されるいくつかの実施形態は、α−1アンチトリプシン、そのフラグメント、その類似体、またはその融合分子から基を付加および/または削除することを含む。これらの実施形態によれば、これらの分子を、本明細書に開示される方法において用いる前に脱グリコシル化してもよい。他の実施形態において、化合物の安定化は、本明細書に開示される方法において用いる場合、安定性を増大するための分子と連結してもよい。例えば、PEG(ポリエチレングリコールを加えて本発明において企図される組成物の安定化を増大してもよい。
【0096】
他の薬剤
本明細書に詳述する任意の実施形態は、1つまたは複数の治療有効量の抗微生物薬、抗炎症剤、免疫調節剤、もしくは免疫抑制剤、またはこれらの組合せをさらに含むことができる。
【0097】
抗菌剤の例には、それだけに限らないが、ペニシリン、キノロン、アミノグリコシド、バンコマイシン、モノバクタム、セファロスポリン、カルバセフェム、セファマイシン、カルバペネム、およびモノバクタム、ならびにこれらの様々な塩、酸、塩基、および他の誘導体が含まれる。
【0098】
本発明の使用において企図される抗真菌剤には、それだけに限らないが、カスポファンギン、テルビナフィン塩酸塩、ナイスタチン、アムホテリシンB、グリセオフルビン、ケトコナゾール、ミコナゾール硝酸塩、フルシトシン、フルコナゾール、イトラコナゾール、クロトリマゾール、安息香酸、サリチル酸、および硫化セレンが含まれ得る。
【0099】
本発明の使用において企図される抗ウイルス剤には、それだけに限らないが、バルガンシクロビル、アマンタジン塩酸塩、リマンタジン、アシクロビル、ファムシクロビル、フォスカメット、ガンシクロビルナトリウム、イドクスウリジン、リバビリン、ソリブジン、トリフルウリジン、バラシクロビル、ビダラビン、ジダノシン、スタブジン、ザルシタビン、ジドブジン、インターフェロンα、およびエドクスジンが含まれ得る。
【0100】
本発明の使用において企図される抗寄生虫剤には、それだけに限らないが、ピレトリン/ピペロニルブトキシド、ペルメトリン、ヨードキノール、メトロニダゾール、ジエチルカルバマジンクエン酸塩、ピペラジン、パモ酸ピランテル、メベンダゾール、チアベンダゾール、プラジカンテル、アルベンダゾール、プログアニル、グルコン酸キニジン注射、硫酸キニジン、リン酸クロロキン、塩酸メルフロキン、リン酸プリマキン、アトバコン、コトリモキサゾール(スルファメトキサゾール/トリメトプリム)、およびイセチオン酸ペンタミジンが含まれ得る。
【0101】
免疫調節剤には、例えば、免疫系における細胞(例えば、T細胞、B細胞、マクロファージ、もしくは抗原提示細胞(APC))の細胞活性を刺激または抑制することによって、あるいは次々に免疫系を刺激、抑制、もしくは調節する、免疫系の外の成分(例えば、ホルモン、受容体アゴニストまたはアンタゴニスト、および神経伝達物質)に対して作用することによって、直接的または間接的に免疫系に対して作用する薬剤が含まれ得、他の免疫調節剤には、免疫抑制剤または免疫刺激剤が含まれ得る。抗炎症剤には、例えば、炎症反応、傷害に対する組織反応を治療する薬剤、免疫、血管、もしくはリンパ系を治療する薬剤、またはこれらのあらゆる組合せが含まれ得る。
【0102】
本発明の使用において企図される抗炎症剤または免疫調節剤または薬剤には、それだけに限らないが、インターフェロン誘導体(例えば、ベータセロン、β−インターフェロン)、プロスタン誘導体、イロプロスト、シカプロスト、グルココルチコイド(例えば、コルチゾール、プレドニソロン、メチルプレドニソロン、デキサメタゾン)、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリンA、FK−506、メトキサレン、サリドマイド、スルファサラジン、アザチオプリン、メトトレキセート、リポキシゲナーゼ阻害剤(例えば、ジロートン、MK−886、WY−50295、SC−45662、SC−41661A、BI−L−357)、ロイコトリエンアンタゴニスト、ペプチド誘導体(例えば、ACTHおよび類似体)、可溶性TNF(腫瘍壊死因子)受容体、TNF抗体、インターロイキンの可溶性受容体、他のサイトカイン、T細胞タンパク質、インターロイキンの受容体に対する抗体、他のサイトカイン、およびT細胞タンパク質が含まれ得る。
【0103】
本発明の組成物と組み合わせて用いる他の薬剤は、セリンプロテアーゼ阻害活性を有する分子であることができる。例えば、本発明の使用において企図されるセリンプロテアーゼ阻害剤には、それだけに限らないが、白血球エラスターゼ、トロンビン、カテプシンG、キモトリプシン、プラスミノーゲン活性化因子、およびプラスミンが含まれ得る。
【0104】
ある実施形態において、組成物は、AATまたはAAT類似体の1つまたは複数のペプチドを含むことができ、(1つまたは複数の)このペプチドは顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATまたはAAT類似体と同様の活性を有する。列挙した方法の各々において、本明細書に開示される方法に使用するために企図される、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないα1−アンチトリプシン(例えば、哺乳動物由来)物質には、本発明において企図されるあらゆるAAT分子に相当する、または由来する、カルボキシ末端またはアミノ末端のアミノ酸ペプチドを含めた、一連のペプチドが含まれ得る。ある実施形態において、ペプチドの長さは、アミノ酸5個、または10個、または20個、または30個、または40個、またはそれを超えてよい。
【0105】
本発明の他の具体的な実施形態において、本発明の組成物および方法において用いるために企図されるAATペプチドには、上記に記載したこれらの特異的なAATペプチドのいずれかおよび全てが含まれることも意図される。例えば、アミノ酸2〜12個、アミノ酸3〜14個、4〜16個、5〜20個、10〜30個など、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATを刺激する連続したアミノ酸のあらゆる組合せを用いることができる。
【0106】
さらに、本明細書に開示される方法の他の組合せの組成物には、ある種の抗体ベースの治療薬が含まれ得る。非限定的な例には、ポリクローナル抗リンパ球抗体、T細胞抗原受容体複合体に対するモノクローナル抗体(OKT3、TIOB9)、インターロイキン−2受容体αを含めたさらなる細胞表面抗原に対するモノクローナルクローナル抗体が含まれる。ある実施形態において、抗体ベースの治療を、本明細書に開示される組成物および方法と組み合わせて、導入療法として用いてもよい。
【0107】
本発明において企図される対象には、ヒト対象、またはそれだけに限らないが、霊長動物、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、モルモット、トリ、および齧歯動物を含めた非ヒトの対象などの他の対象が含まれ得る。
【0108】
薬剤組成物
本明細書の実施形態は、in vivoでの薬剤投与に適する、生物学的に適合される形の、組成物の対象への投与を提供する。「in vivoでの投与に適する、生物学的に適合される形」は、有効薬剤の治療効果があらゆる毒性効果を凌ぐ、投与すべき有効薬剤の形態(例えば、製剤上の化学、タンパク質、遺伝子、抗体、または抗ウイルスの薬剤)を意味する。治療用組成物の治療有効量の投与は、望ましい結果を達成するのに必要な投与量および時間の期間に有効な量と定義される。例えば、化合物の治療有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別、および体重などの因子、ならびに個体において望ましい反応を誘発する抗体の能力に従って変化してよい。投与レジメンは、最適の治療反応をもたらすように調節することができる。
【0109】
一実施形態において、化合物(例えば、製剤上の化学、タンパク質、遺伝子、抗体、または抗ウイルスの薬剤)を、それを必要とする対象に、皮下的に、静脈内に、経口投与によって、吸入、経皮的に、膣に、局所に、鼻腔内に、直腸に、またはこれらの組合せで投与することができる。投与経路に応じて、有効化合物を、酵素、酸、および化合物を不活性化することがある他の未変性条件による分解から化合物を保護するための材料でコーティングしてもよい。好ましい一実施形態において、化合物を経口投与してもよい。別の好ましい一実施形態において、化合物を静脈内投与してもよい。具体的な一実施形態において、化合物を、吸入など、鼻腔内投与してもよい。
【0110】
化合物を、好適な担体または希釈剤において対象に投与してもよく、酵素阻害剤と、またはリポソームなどの好適な担体において同時投与してもよい。本明細書において使用される「薬学的に許容される担体」の語は、食塩水およびバッファーの水溶液などの希釈剤を含むことが意図される。化合物を、その不活性化を防ぐための材料でコーティングし、またはそれらと化合物を同時投与することが必要なこともある。有効薬剤は、また、非経口投与してもよく、または腹腔内投与してもよい。グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの組合せにおいて、ならびに油において分散剤を調製することもできる。通常の貯蔵および使用の条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防ぐための保存剤を含むことがある。
【0111】
注射の使用に適する薬剤組成物は、当技術分野で知られている手段によって投与することができる。例えば、滅菌水溶液(水溶性の場合)、または分散剤、および滅菌注射溶液または分散剤の即時調合の調製物用の滅菌粉末を用いてもよい。全ての場合において、組成物は滅菌であってよく、容易なシリンガビリティー(syringability)が存在する程度に液体であってよい。これは、製造および貯蔵の条件下で安定であってよく、細菌および真菌などの微生物の汚染作用に対して保存することができる。薬学的に許容される担体は、例えば、水、エタノール、多価アルコール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、ならびにこれらの適切な混合物を含めた溶剤または分散媒体であってよい。適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散剤の場合は必要とされる粒子サイズを維持することによって、および界面活性剤を使用することによって維持することができる。微生物の防止は、加熱、薬剤の洗剤への曝露、照射、または様々な抗細菌剤もしくは抗真菌剤の添加によって実現され得る。
【0112】
滅菌注射液剤は、好適な溶剤中において必要とされる量の有効化合物(例えば、セリンプロテアーゼ阻害活性が低減された、または顕著なその活性を有さない化合物)を、適宜上記に列挙した成分の1つまたは組合せと一緒に組み入れ、その後ろ過滅菌することによって調製することができる。
【0113】
水性組成物は、薬学的に許容される担体または水性媒体中に溶解または分散した、有効量の治療用化合物、ペプチド、エピトープのコア領域、刺激剤、阻害剤などを含むことができる。本明細書に開示される化合物および生物学的材料は、当技術分野で知られている手段によって精製することができる。
【0114】
遊離塩基または薬学的に許容される塩として有効化合物の溶液を調製することができ、例えば、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合することができる。分散剤を、グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの組合せ、ならびに油において調製することもできる。貯蔵および使用の通常の条件下で、これらの調製物は微生物の増殖を防ぐための保存剤を含むことができる。注射用組成物または経口摂取用組成物の吸収の延長は、例えば、モノステアリン酸アルミニウム、ゼラチンなど、吸収を遅延する薬剤の組成物によってもたらされ得る。他の実施形態において、本発明において企図される組成物は、微粒子(例えば、マイクロビーズまたはミクロゲル)などの、徐放または持続放出粒子またはカプセル剤の形態とすることができる。これらの実施形態に従って、微粒子は本明細書に開示される組成物を含むことができ、微粒子がそれを必要とする対象に導入された後は、組成物は時間の決まった間隔で、または微粒子が分解するときに、特異的な領域を標的にすると同時に放出され得る。これらの方法は当技術分野では知られており、本発明において企図される。
【0115】
治療剤を、1投与量あたり約0.0001から1.0ミリグラム、または約0.001から0.1ミリグラム、または約0.1から1.0、または約1から10グラムを含むように混合物内に調合することができる。単回投与量または多回投与量も、予め決定された状態に好適なスケジュール上で投与することができる。
【0116】
別の実施形態において、対象の化合物を送達するために、経鼻の液剤またはスプレー剤、エアロゾル剤または吸入剤を用いることができる。他の投与様式に適するさらなる製剤には、坐剤およびペッサリーが含まれる。直腸用のペッサリーまたは坐剤も用いることができる。一般的に、坐剤に対して、伝統的な結合剤および担体には、例えば、ポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドが含まれ得、このような坐剤は、0.5%から10%の、好ましくは1%〜2%の範囲の有効成分を含む混合物から形成することができる。
【0117】
経口の製剤は、例えば、製薬用グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの通常使用される賦形剤を含んでいる。ある実施形態において、経口の薬剤組成物は、不活性の希釈剤、または同化できる食用の担体を含むことができ、または硬もしくは軟シェルゼラチンカプセルに封入することができ、またはこれらを錠剤に圧縮することができ、またはこれらを食用の食品中に直接組み込むことができる。経口の治療的投与では、有効化合物は賦形剤中に組み込むことができ、摂取可能な錠剤、バッカル錠、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁剤、シロップ剤、ウエハーなどの形態で用いることができる。このような組成物および調製物は、少なくとも0.1%の有効化合物を含まなければならない。組成物および調製物のパーセント値は、もちろん変化してよく、好都合には約2から約75重量%の間の、または好ましくは25〜60重量%の間の単位であってよい。このような治療上有用な組成物における有効化合物の量は、適切な投与量が得られるような量である。
【0118】
薬剤組成物は、身体からの速やかな排除から有効成分を保護する担体(例えば、持続放出製剤またはコーティング)と一緒に調製することができる。このような担体には、それだけに限らないが、マイクロカプセル化された送達系、および生分解性、生物適合性のポリマー(例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ無水物、ポリグリコール酸、ポリオルトエステル、ポリ乳酸、および他のものが知られている)などの制御放出製剤が含まれる。
【0119】
薬剤組成物は、移植の副作用を阻害もしくは緩和し、および/または拒絶反応を軽減もしくは予防するのに有効である量および頻度で投与される。治療の正確な投与量および期間は、知られている試験のプロトコールを用いて、または当技術分野で知られているモデルシステムにおいて組成物を試験することによって、およびそれらから推定して経験的に決定することができる。投与量は、状態の重症度とともにやはり変化することができる。薬剤組成物は、一般的に、治療上有用な効果を発揮し、望ましくない副作用を最小にするように調合され投与される。一般的に、経口投与量は約200mgから約1000mgまでの範囲であり、これを、例えば、1日あたり1から3回投与することができる。
【0120】
特定の対象では、特有の投与量レジメンを、必要に従って経時的に調整してもよいことが企図される。投与のための好ましい投与量は、治療する対象の生体液1mlあたり約0.01mgと約100mgの間の範囲におけるあらゆるところであってよい。具体的な一実施形態において、範囲は1mg/kgと100mg/kgの間であることができ、これを毎日、1日おき、週2回、毎週、毎月などで投与することができる。別の具体的な一実施形態において、範囲は、対象に毎週導入して10mg/kgと75mg/kgの間であってよい。AAT、ペプチド、またはセリンプロテアーゼ阻害活性以外のAATもしくはペプチドと同様の活性を有する薬物の治療有効量は、モル濃度において測定することもでき、約1nMから約2mMの間の範囲であってよい。
【0121】
錠剤、トローチ剤、丸剤、カプセル剤などは、以下のものを含んでいてもよい:結合剤(トラガカントゴム、アラビアゴム、コーンスターチ、もしくはゼラチンとして)、賦形剤(例えば、リン酸二カルシウム)、崩壊剤(例えば、コーンスターチ、バレイショデンプン、アルギン酸など)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム)、および甘味剤(例えば、ショ糖、ラクトース、もしくはサッカリン)を加えることができ、または香味剤。
【0122】
リポソームを治療用の送達系として用いることができ、知られている実験技術に従って調製することができる。さらに、先に記載した通りに調製される乾燥脂質または凍結乾燥したリポソームを、有効薬剤(例えば、核酸、ペプチド、タンパク質、もしくは化学の薬剤)の溶液において再構成することができ、溶液を、当業者には知られている適切な溶剤で好適な濃度に希釈することができる。カプセル封入された有効薬剤の量は、標準の方法に従って決定することができる。
【0123】
一実施形態において、核酸(例えば、AATまたはその類似体)、および脂質ジオレオイルホスファチジルコリンを使用してもよい。例えば、ヌクレアーゼ耐性のオリゴヌクレオチドを過剰のt−ブタノールの存在下で脂質と混合して、投与用にリポソームのオリゴヌクレオチドを産生してもよい。
【0124】
AAT、その類似体、またはそれらの機能上の誘導体を含む薬剤組成物を、個体、特にヒトに、例えば、皮下に、筋肉内に、鼻腔内に、経口的に、局所に、経皮的に、非経口的に、消化管に、経気管支性に、および経肺胞性に投与することができる。局所投与は、治療有効量のセリンプロテアーゼの阻害剤を含む、局所適用するクリーム剤、ゲル剤、リンス剤などによって達成される。経皮投与は、セリンプロテアーゼ阻害剤が皮膚を透過し、血流に入るのを可能にするクリーム剤、リンス剤、ゲル剤などの適用によって達成される。さらに、浸透圧ポンプを投与に用いてもよい。必要な投与量は、治療している特定の状況、投与方法、および分子が身体から排除される速度とともに変化する。
【0125】
各々の前述した組成物および方法において、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないが他のα1−アンチトリプシン活性を有する化合物またはその類似体を、単回の治療的投与量、急性の様式、または慢性の様式において、本発明において企図される医学的障害を低減または除去する上で、それぞれ発症または発作を治療するために用いることができる。
【0126】
AAT
ヒトAATは、内部ジスルフィド結合がなく、単一のシステイン残基だけがシステインもしくはグルタチオンのいずれかに通常分子内ジスルフィド連結している単一のポリペプチド鎖である。AATの反応部位の1つはメチオニン残基を含んでおり、このメチオニン残基は、タバコの煙または他の酸化的汚染物質に曝露されると酸化され易い。このような酸化により、AATのエラスターゼ阻害性活性は低減し、したがってその位置の別のアミノ酸の置換により(例えば、アラニン、バリン、グリシン、フェニルアラニン、アルギニン、またはリジン)、より安定なAATの形態が産生される。AATは以下の式によって表すことができる。
【0127】
AAT生成の肝臓以外の部位には、好中球、単球、およびマクロファージが含まれ、AATの発現は、様々な細胞型において、LPS、TNFα、IL−1、およびIL−6に対する反応において誘発性である。AATにおける欠乏は、関節リウマチおよび全身性エリテマトーデスなど、免疫機能障害性の状態に伴う。
【0128】
本明細書に開示される組成物と組み合わせて用いることができるセリンプロテアーゼ阻害剤分子は、以下に開示されている化合物を含むことができる:ノミからのセリンプロテアーゼ阻害剤を開示しているWO98/20034、セリンプロテアーゼを阻害するのに有用なアミノグアニジンおよびアルコキシグアニジン化合物を開示しているWO98/23565、システインおよびセリンプロテアーゼ障害を治療するのに有用なビス−アミノメチルカルボニル化合物を開示しているWO98/50342、トロンビン関連疾患に有用な環状アミノ酸および他のアミノ酸誘導体を開示しているWO98/50420、D−アミノ酸含有誘導体を開示しているWO97/21690、セリンおよびシステインプロテアーゼのケトメチレン基含有阻害剤を開示しているWO97/10231、セリンおよびシステインプロテアーゼの亜リン酸含有阻害剤を開示しているWO97/03679、セリンプロテアーゼのベンゾチアゾおよび関連の複素環阻害剤を開示しているWO98/21186、2価陽イオンのキレート化部位のあるセリンプロテアーゼのP部位に結合する阻害剤の組合せを開示しているWO98/22619、カスパーゼ3を含む酵素前駆体CPP32サブファミリー(CPP32/Yama/Apopain)の変換を阻害する化合物を開示しているWO98/22098、ピロロ−ピラジン−ジオンを開示しているWO97/48706、ならびにセリンプロテアーゼ阻害剤としてヒト胎盤ビクニン(組換え)を開示しているWO97/33966。
【0129】
キット
他の実施形態は、上記に記載した組成物および方法とともに用いるためのキットに関する。ある実施形態において、小分子、タンパク質、またはペプチドをあらゆる開示した方法における使用に用いることができる。さらに、抗菌剤、免疫抑制剤、抗炎症剤、および/または抗ウイルス剤などの他の薬剤を、キットにおいて提供してもよい。キットは、適切な容器(例えば、バイアル、シリンジ、ボトル、チューブ)、タンパク質またはペプチドまたは類似体の薬剤、および任意選択で1つまたは複数のさらなる薬剤を含むことができる。
【0130】
キットは、標識してあってもまたは非標識でも、検出アッセイ用の検量線を調製するのに用いられ得るような、コードされたタンパク質またはポリペプチドの抗原の適切に分注された組成物をさらに含むことがある。ある実施形態において、キットは、それだけに限らないが、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さない、AAT、AATフラグメント、またはAAT類似体もしくはポリペプチドを含めた組成物を含むことができる。
【0131】
本発明において企図されるキットの容器は、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジ、または他の容器手段を一般的に含み、それらの中に1つまたは複数の薬剤を配置し、好ましくは適切に分注にされていてよい。これらの実施形態に従って、キットは顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないAATまたはその類似体を含むことができる。このような容器は、注射剤、またはその中に所望のバイアルが保持される中空成形のプラスチック容器を含むことができる。
【実施例】
【0132】
以下の実施形態は、様々な実施形態を説明するために含まれる。当業者であれば、以下の実施例に記載する技術は、請求する方法、組成物、および装置を実践する上で良好に機能することが見出される技術を表すことを理解しなければならない。しかし、当業者であれば、本開示に鑑みて、開示する具体的な実施形態において変更を行うことができ、それでも本発明の精神および範囲から逸脱せずに同様または類似の結果を得ることができることを理解しなければならない。
【0133】
一般的手順および材料
例示的な一方法において、これらの試験において用いられるAATは健常志願者の血液から精製される。AATは、単一バンドを示す均質さとなるように精製する。AATタンパク質を、NaCl、リン酸ナトリウム、pH7.05からなる希釈液中に膜分離する。AAT調製物を、14〜50mg/mlの貯蔵濃度で維持し、培養液に加えるまで−70℃で貯蔵する。本発明の組成物とは異なる対照のAAT調製物として、商業的に入手可能なProlastin(BayerのAAT)を用いる。組換えのヒトインターロイキン(IL)−18を、Vertex Pharmaceuticals Inc.(Cambridge、Mass)から得る。IL−6および腫瘍壊死因子(TNF)をR&D Systems、Minneapolis、Minn.から得、エンドトキシンフリーのNaCl、およびエンドトキシン(リポ多糖、LPS)をSigma(St.Louis、Mo)から得る。これが熱不活性化のグラフである。
【0134】
U1細胞
単核球性のU1細胞およびMAGI−CCR5細胞培養液用の培地は、それぞれU1細胞用およびMAGI−CCR5細胞培養液用に10%または7.5%(vol/vol)熱不活性化したウシ胎児血清(FBS、GIBCO)を有する、L−グルタミン2.5mM、Hepes25mM、ペニシリンおよびストレプトマイシン100単位/ml(GIBCO/BRL、Rockville、Md)を含むMediatech(Hermon、Va)から購入したRPMI1640培地からなっている。PBMCを、RPMI1640培地(Mediatech)、20%FBS(GIBCO)、ペニシリンおよびストレプトマイシン100単位/ml(GIBCO)、および5%(vol/vol)IL−2(Hemagen、Waltham、Mass)からなるR3倍地において培養する。
【0135】
U1単核球性細胞アッセイ。U1細胞はAIDS ResearchおよびReference Reagent Program、National Institute of Allergy and Infectious Diseases、NIHから得ることができる。U1細胞を、T−175ポリスチレン製フラスコ(Falcon、Becton Dickinson、Franklin Lakes、N.J.)中、培地において維持し、対数期の増殖におけるときに用いる。細胞を血球計算器で計数し、トリパンブルー排除によって生存性を試験し(全実験に対して>95%)、新鮮な培地に1mlあたり2×10個再懸濁する。細胞懸濁液250mlを24ウェルポリスチレン製組織培養プレート(Falcon)のウェルに加え、その後培地またはAATを加えて450mlの体積において試験する最終濃度を生成する。インキュベート1.0時間後(37℃、5%CO)、培地50ml(対照)または培地において希釈した刺激剤をウェルに加えて試験する刺激剤の最終濃度を生成する。培養物の最終体積は500mlであり、1mlあたり細胞1×10個を含んでいる。インキュベート48時間後(37℃、5%CO)、10%(vol/vol)Triton−X−100 50mlを各培養液に加え(最終濃度1%vol/vol)、培養液を一度凍結し、解凍する。この後、31pg/ml(NCl−Frederick Cancer Research and Development Center、Frederick、Md)というより低い検出限界でのELISAによってHIVp24抗原に対してアッセイする。Triton−X−100の添加および凍結−解凍サイクルによる細胞の破壊により、細胞溶解物が生成され、p24抗原の全体の(分泌された、および細胞に付随する)生成の評価が可能になる。
【0136】
(実施例1)
採血:ある例示的な方法において、第1にヘパリンを含むシリンジ中(10 20U/ml、または商業的に入手可能なヘパリン化滅菌チューブの使用)に血液を採り、第2に細胞を分離した。具体的な一例において、血液1.0mLはPBMC1×10個を提供し、これらの実験的実施例にチューブ1本あたりPBMC約2.5×10個を用いた。
【0137】
細胞分離は、例えば、以下を含む:
a)滅菌食塩水20mLを、50mlポリプロピレン製チューブに加える。
b)全血10mLを各50mLポリプロピレン製チューブ中に入れる。
c)ピペットまたは脊椎針を用いてフィコールハイパック10mLを各チューブの底に注入し、これは注入1回あたり約1分の速度で進める。
d)チューブを、室温で、1250rpm(=400g)×40分遠心分離する。
e)10mlピペットを用いて2本のチューブからPBMC層を回収し、新たな50mlポリプロピレン製チューブ中に配置する。
f)チューブを食塩水で50mLに満たす。
g)チューブを、室温で、1000rpm×10分遠心分離する。
h)上清をデカントする。
i)細胞を食塩水10mLに再懸濁し、全てのチューブを可能な限り数本のチューブ中に併せる。
j)(1つまたは複数の)チューブを食塩水で50mLに満たす。
k)(1つまたは複数の)チューブを、室温で、1000rpm×10分遠心分離する。
l)上清をデカントする。
m)細胞をピペットで、正確に10mLの食塩水に再懸濁する。
n)血球計算器で細胞を計数する(合計#)
o)(1つまたは複数の)チューブにさらなる食塩水40mLを加える;今度は各々が液体50mLを含んでいる。
p)チューブを、室温で、1000rpm×10分遠心分離する。
q)上清をデカントする。
r)細胞を、PHA3.3μg/mlを補った滅菌R3組織培地(20%[vol/vol]熱不活性化ウシ胎児血清、5%[vol/vol]インターロイキン(IL)−2、およびペニシリン100単位/ml+ストレプトマイシン100μg/mlを有するRPMI 1640培地)中、1×106/mLに再懸濁する。
【0138】
第3に、細胞を滅菌組織培養フラスコ中2日間(37℃、5%CO2)インキュベートすることによって、培養液によって芽細胞相中に誘導した。
【0139】
第4に、次いで、PBMCをHIVに感染させた。2日間のブラスティング/インキュベート後、細胞を計数し、HIVに感染させるためにPBMCの数を決定した。細胞懸濁液をポリプロピレン製チューブ中に分注し、次いで遠心分離してペレットにした。次いで、チューブをすぐに転倒し、細胞ペレットを保存した:液体約300μlが細胞ペレットと一緒に残った。選りぬきのウイルスを加えた。X4/T向性A018A株に対して、PBMCを、PBMC100万個あたり200個のTCID50に感染させた。R5/M向性ウイルス株に対して、PBMC100万個あたり300個のTCID50を感染用に用いた。ウイルスを加えた後、ウイルスをピペッターで激しく再懸濁し、ボルテックスにもかけた。次いで、細胞を、インキュベーター中3時間、50mlポリプロピレン製チューブ(栓をゆるくする)でインキュベートした。c)インキュベート3時間後、感染したPBMC細胞をRPMIで、またはPBSで洗浄し(真空ピペッターで再懸濁)、次いで遠心分離した。このステップでは顕著な量のウイルスは残らない。d)感染したPBMCを、非ブラスティングR3培地=上記の通りであるがPHAのないR3培地において1mlあたり2×106個で再懸濁した(=RPMI+10%FCS+5%IL2)。
【0140】
第5に、細胞懸濁液を、1mlあたり1×10個の最終濃度で24ウェルポリスチレン製プレート中に分注した。第6に、1mlあたり2×10個の細胞懸濁液250μlアリコートを採り、これを1.5mlエッペンドルフチューブ中に加えることによって時間0の試料を作成した。これに、培地250μlおよび(10%vol/vol)TritonX100 50μを加える。試料を即座に−70℃で凍結し、時間0の検体としてp24抗原用に後でアッセイする。第7に、細胞懸濁液250μlを、単独のR3培地のさらなる250μl(自発的、もしくはAAT=0)、または所望の最終濃度の2倍のAAT(Aralast(登録商標)もしくはZemaira(登録商標)のいずれか)を含むR3と一緒に各ウェルに加えた。各培養物の最終体積は500μlである。第8に、組織培養プレートを、4日間、インキュベーター(37℃、5%CO2)において細胞培養液とインキュベートし、次いで10%(vol/vol)TritonX100 50μlを加えてTritonX100の最終濃度を1%vol/volとした。最後に、HIVp24抗原を、ELISAアッセイを用いて定量した。
【0141】
例示的な図1に実証するように、Aralastは、試験した全ての濃度で(AAT=0の培養液に比べて)HIVの阻害を実質的に誘発し、Aralast3.0 8.0mg/mlを用いてほぼ100%の抑制、Aralast1.0mg/mlを用いて約50%のHIV抑制が観察された。これとは対照的にZemairaAATは、7.0mg/mlで最小のHIV抑制を実証し、15.0mg/mlでほぼ完全な抑制が得られた。この例示的な方法において、投与量反応において大きな相違が存在し、Aralastは、初代PBMCにおけるHIV感染の阻害剤としてZemairaより強力であることを実証していた。AralastおよびZemairaは、生物学的活性によって定量されるので(Aralast1.0mg=Zemaira1.0mg=1.0mgのセリンプロテアーゼ阻害活性)、この実験は、AATがHIVを抑制する能力はセリンプロテアーゼ阻害に無関係であることを示している。AATのセリンプロテアーゼ阻害剤機能がHIV抑制を説明するのであれば、AralastおよびZemairaは等しくHIV生成を阻害するであろう。
【0142】
AATの熱不活性化(HI)に対する例示的な手順
別の例示的な方法において、予め決定された体積(例えば2ml)の貯蔵溶液(例えばAAT(例えば、Aralast)20mg/ml)を試験管に配置した。貯蔵試料を、30分間、沸騰水(95℃)において熱処理した。溶液を放冷した。次いで、加熱した溶液を(1つまたは複数の)エッペンドルフチューブに戻した。あらゆる体積が蒸発してしまったら(通常約10%)、その体積を、例えばPBSを用いて、ほぼもとの体積に溶液で置き換える。次いで、溶液を、セリンプロテアーゼ阻害剤アッセイを用いて、残存するセリンプロテアーゼ活性に対して試験する。最高3日後までの間、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性は検出できなかったことが実証された(データは示さず)。
【0143】
(実施例2)
エラスターゼアッセイ:一例において、エラスターゼ生物学的活性の酵素アッセイ(Bieth Jら、1974)を用いて、AATと熱不活性化した(HI)AATを比べた。
【0144】
N−サクシニル−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアナリド(nitroanalide)セリンプロテアーゼ基質(例えば、Sigma、St.Louis、MO)のエラスターゼ誘導性の加水分解により、p−ニトロアナリン(nitroanaline)が遊離され、これは410nmの吸光度で測定され得る。エラスターゼ(例えば、Sigma)を、100mM tris−HCl、pH8.0中20μg/mlに希釈する。AAT(20mg/mlの)またはPBS(AATなしの対照、100%エラスターゼ活性に設定)10マイクロリットルを、希釈したエラスターゼ50μlと混合し、25℃で20分間インキュベートする。α−1−アンチトリプシン/エラスターゼまたはPBS/エラスターゼ溶液10マイクロリットルを基質(α−1−アンチトリプシン、100nM TrisHCl、pH8.0で135μg/mlに希釈したもの)180μlに加え、96ウェル平底プレートのウェル中に移す。410nmの吸光度(A)における増大(エラスターゼ誘発性のp−ニトロアナリンの産生を示す)を、5分の期間にわたって逐次的に測定した。エラスターゼ単独を対照として用いた(100%エラスターゼ活性に設定)。セリンプロテアーゼ阻害剤(例えば、AAT)が存在すれば、エラスターゼ活性を阻止し、p−ニトロアナリンの遊離(A410として定量される)を抑制する。
【0145】
図3に表すように、エラスターゼ単独(AATなし)は、N−サクシニル−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアナリド基質を処理加工し、これは吸光度において段階的な増大を引き起こした(A410、曲線は標識したエラスターゼ)。未変性の(熱不活性化ではない)AATを組み合わせることは、N−サクシニル−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアナリド基質のエラスターゼの処理加工を取り除き、A410nmにおける増大を阻止した(曲線は標識したAAT+エラスターゼ)。これとは顕著に対照的に、HIAATをエラスターゼと組み合わせると、エラスターゼ単独の曲線に類似の曲線が生成された。基質であるN−サクシニル−Ala−Ala−Ala−p−ニトロアナリドの処理加工によるp−ニトロアナリンのエラスターゼ誘発性の産生は無影響であったので(標識したHIAAT+エラスターゼの曲線を参照されたく、標識したエラスターゼの曲線に比べられたい)、これは、HIAATが、検出されないエラスターゼ中和活性を有することを実証していた。
【0146】
(実施例3)
熱不活性化したAAT(ΔAAT)はヒト初代線維芽細胞における生物学的活性を保持している
別の例示的な一方法において、ヒト胎児包皮線維芽細胞を得た。線維芽細胞を、150mLポリスチレン製組織培養フラスコ(Falcon、Lincoln Park、N.J.)において、培地(例えば、10%[vol/vol]熱不活性化したウシ胎児血清を有するRPMI1640培地)中で増殖させ、37℃および5%COでコンフルエントにインキュベートした。細胞を、トリプシンを用いて剥離し、24ウェルポリスチレン製細胞培養プレート中に分割した。次いで、細胞を、3〜5日間、これらのプレートにおいてコンフルエントまで増殖させ、その後実際の実験を行った。細胞を、培地単独(対照)、AAT単独、または熱不活性化したAAT(ΔAAT)と、インキュベートした(37℃、5%CO2)。インキュベート24時間後(37℃、5%CO2)、上清を除去し、凍結(−70℃)してから、IL−6(インターロイキン6、図2A)およびIL−8(インターロイキン8、図2B)に対してアッセイした。
【0147】
図2Aおよび2Bは、ΔAATが、in vitroのアッセイによってセリンプロテアーゼ阻害剤機能がないことを示した例示的な実験を表している。図2Aおよび2Bに示すように、AralastAAT3.0mg/mlが存在すると、24時間の線維芽細胞培養液において(培地単独における対照の細胞に比べて、標識した培地)、(2A)IL8および(2B)IL6の生成の合成を大幅に増大した。興味深いことに、AralastΔAAT3.0mg/mlを用いて行った平行の培養液では、対照(培地単独)の培養液に比べて、線維芽細胞において、IL−8の同様の生成(2A)およびIL−6の生成の増強(2B)がもたらされた。これらのデータは、AATのセリンプロテアーゼ阻害剤機能を熱不活性化しても、このAATの生物学的活性(例えば、サイトカイン生成)を抑止しないことを実証している。したがって、これらAAT機能は、ある種のAATの生物学的活性を説明しているセリンプロテアーゼ阻害とは別のものである。図1、2A、および2Bに示すデータは、in vitroで初代感染させたPBMCにおけるAATのHIVの抑制、およびin vitroのヒト初代線維芽細胞におけるサイトカインのAAT誘発は、どちらもAAT誘発性セリンプロテアーゼ阻害に無関係であることを実証している。
【0148】
(実施例4)
AATの抗HIV効果
例示的な一方法において、AATおよびHIAAT(ΔAAT)は、慢性的に感染しているU1細胞におけるHIVの生成を阻害することが実証された。U1細胞は、2コピーのHIVプロウイルスを細胞のゲノム中に安定に組み入れることによって、U937ヒト単球細胞系に由来する。これらの細胞は、あらゆるいくつかの刺激に曝露された後、増大したHIVを産生する。これらの例示的な実験において、U1細胞を、ペニシリン100単位/ml+ストレプトマイシン100μg/mlを有する10%[vol/vol]熱不活性化ウシ胎児血清を有するRPMI1640培地からなる培地500μlにおいて、1mlあたり1×10個の細胞の密度で培養した。細胞を、ポリスチレン製組織培養プレートのウェルにおいて、培地単独(対照)、刺激剤単独(3nM IL18)を含む培地と、またはAAT(図4A、左パネル)もしくは熱不活性化したAAT(図4A、右パネル)の存在下の刺激剤と培養した。AATを培地に加えて1時間後にIL−18(インターロイキン18)の刺激剤を加えた。培養物を24時間インキュベートし(37℃、5%CO)、次いで1%(vol/vol)トリトンX100で溶解し、次いで可溶化物をELISAを用いてHIVp24抗原に対してアッセイした。図4Aおよび4Bに示すように、IL−18は、培地単独(対照)の培養液に比べて、HIV生成における増大を刺激した。変更なしの(図4A、左パネル)AATまたは熱不活性化したAAT(図4A、右パネル)のいずれかの存在下、IL−18でU1細胞培養液を刺激すると、刺激されたHIV生成の投与量依存性の阻害がもたらされた。未変性を熱不活性化したAATと比較すると、p24生成の非常に類似した阻害が示された。未変性および熱不活性化したAATの両方に対して、4mg/mlおよび6mg/mlのAAT濃度を用いて、IL18により誘発されるほぼ完全なHIVの抑制が観察された。これらの結果は、未変性AATまたは熱不活性化されたAATを用いた慢性感染モデルにおける非常に類似したHIVの抑制を示唆している。AATまたはHIAAT0.8mg/mlまたは5mg/mlを用いて別の実験を行った(図4B)。未変性AATおよび熱不活性化したAATの両方に対して、0.8mg/mlではなく5mg/ml濃度のHIAATのAATを用いて、IL18によって誘発されるほぼ完全なHIV抑制が観察された。本発明者らのプロトコールを用いたAATの熱不活性化は、AATセリンプロテアーゼ阻害機能を取り除くので(in vitroのセリンプロテアーゼ中和アッセイによって実証して、データは示さず)、これらの結果は、これらの試験におけるAATのHIV抑制は、AATのセリンプロテアーゼ阻害剤機能に依存しないことを示唆している。
【0149】
(実施例5)
別の例示的な一方法において、AAT(未変性AAT)およびHIAATの活性を、RAW264.7細胞における致死性毒素誘発性細胞毒性に対するこれらの効果に対して分析した(N=5)。この実施例において、培養液全てに致死性毒素を与えた(100ng/ml防御抗原+40ng/ml致死因子);対照と比べてp<0.001。この例示的な試験を用いて、炭疽に曝露された細胞に対する、HIAAT対未変性AATの治療を実証した。
【0150】
致死性毒素(LT)単独(対照)を含む培地(ペニシリン10単位/mlおよびストレプトマイシン100μg/mlを有する、RPMI1640培地+10の熱不活性化したFBS)において、またはLTおよびAATを含む培地において、RAW264.7細胞を培養した。AATを加えて1時間後にLTを加えた。LTを加えて3時間後、細胞培養液の上清を、LDH放出アッセイ(Promega、Madiosn、WI)を用いて細胞毒性に対してアッセイした。図5に示すように、LT単独において培養した細胞(対照、黒色バー)は、平均約0.25OD単位を生成した細胞毒性を実証したが(垂直軸上のLDL OD単位は、細胞毒性の量の増大を表す。未変性(熱不活性化ではない)AAT5mg/mlはRAW264.7細胞においてLT誘発性細胞毒性を有意に低減した)、未変性AAT3.0mg/mlはLTの細胞毒性を阻害しなかった。同じ図において示すように、HIAATは、未変性AATの結果をほとんど同様に反復し、HIAAT5.0mg/mlはLT誘発性細胞毒性を有意に低減した。この図では、5つの別々の実験からの結果が示してあり(平均±SEM)、***は、対照に比べてp<0.001であることを示している(AATなし、黒色バー)。これらのデータは、HIAATはin vitroにおける炭疽の細胞毒性阻害剤として未変性AATに等しいことを示している。
【0151】
方法
本発明に従って、当業者の範囲内で、従来の分子生物学、微生物学、および組換えDNA技術を用いることができる。このような技術は、文献において完全に説明される。例えば、Sambrook、Fritsch、およびManiatis、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、第2版、1989年、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.; Animal Cell Culture、R.I.Freshney編集、1986年を参照されたい。
【0152】
アポトーシスアッセイ。島に対するAATの保護効果は、今日の島移植における主な障害、すなわち島の質量の不十分さ、および分離後の島の生存性の1つに取り組むことができる。分離してすぐのヒトの島はストレスシグナリング経路を活性化し、単離のプロセスにより高率のアポトーシスを表し、糖尿病患者1人あたり1人を超える島のドナーの使用を必要としている(Nanji、(2004年); Abdelli,S.ら、Intracellular stress signaling pathways activated during human islet preparaion and following acute cytokine exposure、Diabates、53巻、2815〜23頁(2004年))。
【0153】
AAT投与量。正常ヒト血漿はAAT0.8〜2.4mg/mlを含んでおり、半減期は5〜6日である。
【0154】
(実施例6)
HIAATは炭疽毒素のマウスモデルにおけるLT誘発性致死性を低減する。
【0155】
毒素後治療:この実験では、Balb/cメスマウス(Jackson Laboratory、Bar Harbor、ME)における致死性を誘発するために、LT(60μgPAおよび20μgLF)を、単回の腹腔内(ip)注射として投与した。HIAATをLTから分離し、送達点での物理的な組合せによる人工産物を避けるために、HIAATを首の項部の皮下(sc)注射として導入した。治療のアームでは(n=2)、HIAAT2mgをLT注射直後に与えた(すなわち、t=0)。候補の治療としてHIAATでの炭疽のLT誘発性致死性のこのモデルを用いた結果を、図6に示す生存曲線にまとめる。図示するように、LT単独を与えたマウスは両方とも4日目までに死亡した(n=2、ダイアモンド)。それとは対照的に、LTに加えてHIAATを与えたマウスは両方とも、6日を通して臨床的に依然として健康であった(n=2、四角)。HIAATで治療したマウスは、観察期間を通して臨床的に依然として健康であったことを留意することも重要である。
【0156】
HIAATまたはプラセボでの毒素後治療:この実験では、Balb/cメスマウス(Jackson Laboratory、Bar Harbor、ME)における致死性を誘発するために、LT(60μgPAおよび20μgLF)を、単回の腹腔内(ip)注射として投与した。HIAATまたはアルブミンをLTから分離し、送達点の物理的な組合せによる人工産物を避けるために、HIAAT、または無害性のプラセボタンパク質としてのヒトアルブミンを首の項部に皮下(sc)注射として導入した。治療のアームではAAT2mgをLT注射直後に1回与え、プラセボのアームではヒトアルブミン2mgをLT注射直後に1回与えた。候補の治療としてのHIAATと一緒に炭疽のLT誘発性致死性のこのモデルを用いた結果を、図7に示す生存曲線にまとめてある。図示するように、LTおよびプラセボを与えたマウス(n=3)は全て、5日目までに死亡した(ダイアモンド)。それとは対照的に、LT、その後HIAATを与えたマウス(n=4)は1匹だけが、7日を通して死亡し(白色四角)、観察された治療効果は75%であることを表していた。
【0157】
HIAATが炭疽毒素への曝露に付随する症状を緩和する潜在性を評価するために、この実験におけるマウスを、また、経時の臨床上の満足な状態に対して1から5のスケール上に得点付けし、スコア1は完全に健康であることを表し、スコア5はマウスをつついた後でも動くことができないことを示していた。表1に見られるように、死の症状を避けることに加えて、1つの例外では、HIAAT治療は、やはり、炭疽LTへの曝露に付随するあらゆる観察可能な臨床上の症状をほとんど完全に防止した。
【0158】
【表1−1】

【0159】
【表1−2】

本明細書に開示し、請求する組成物および方法は全て、本開示に鑑みて、過度の実験を行うことなく作成し、実施することができる。組成物および方法を好ましい実施形態に関して記載してあるが、当業者であれば、本発明の概念、精神、および範囲から逸脱せずに、組成物および方法に対して、ならびに本明細書に記載する方法のステップまたは一連のステップにおいて変形を適用することができることは明らかである。より詳しくは、化学的にも物理的にも関連するある種の薬剤は本明細書に記載する薬剤を代替することができ、同じまたは同様の結果が達成されることは明らかである。当業者には明らかであるこのような類似の置換および改変は全て、添付の特許請求の範囲が定義するように、本発明の精神、範囲、および概念内にあるものとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないアルファ−1アンチトリプシン(AAT)を含む医薬組成物。
【請求項2】
アルファ−1アンチトリプシンが、顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないアルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体、またはその融合分子を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗微生物剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗寄生虫剤またはそれらの任意の組合せからなる群から選択される薬剤をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
抗菌剤をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないアルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体、またはその融合分子を含む組成物の治療有効量をそのような治療を必要とする対象に投与することを含む、医学的障害を有する対象を治療する方法。
【請求項6】
前記障害が、ウイルス感染、細菌感染およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記障害が、敗血症、敗血症性ショック、急性呼吸促迫症候群(ARDS)、アジャミアン再灌流、うっ血性心不全、心虚血、脳血管発作、インフルエンザ、急性肝不全、慢性肝不全、感冒、髄膜炎、脳炎、カンジダまたはCMV食道炎、膵炎、急性腎不全(虚血性、毒性、代謝性、血栓性、膠原病性脈管疾患による)、心虚血(狭心症、心筋梗塞)、肝炎(例えばHAV/HBC/HCV/HSV/CMV/EBVなどのウイルスまたは毒素/薬物療法、自己免疫、虚血による)、虚血再灌流障害、虚血性または感染性大腸炎/小腸炎、非定型抗酸菌、および出血熱(例えばエボラ、マールブルグ、シンノンブレ)からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記ウイルス感染がレトロウイルス感染を含む、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記レトロウイルス感染が、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染、AIDS(後天性免疫不全症候群)、インフルエンザウイルス感染、肝炎ウイルス感染、ヘルペスウイルス感染およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記細菌感染が、マイコバクテリア感染、敗血症、敗血症性ショック、細菌性髄膜炎、細菌性肺炎、bacillus anthracis感染およびそれらの組合せからなる群から選択される、請求項6に記載の方法。
【請求項11】
前記bacillus anthracis感染が吸入炭疽、皮膚炭疽、胃腸炭疽およびそれらの組合せに由来する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗ウイルス剤、抗病原体剤、抗菌剤、逆転写酵素阻害剤、プロテアーゼ阻害剤およびそれらの組合せからなる群から選択される薬剤をさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、経口で、全身に、移植を介して、静脈内に、局所的に、髄腔内に、吸入により、経鼻的にまたはそれらの組合せで投与される、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
前記治療が、前記障害に伴う1つまたは複数の症状を軽減または除去することをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項15】
前記ウイルス感染がインフルエンザ感染である、請求項5に記載の方法。
【請求項16】
アルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体、またはその融合分子を約85℃から約110℃の温度で約1分間から約1時間加熱することを含む、アルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体、またはその融合分子におけるセリンプロテアーゼ阻害活性を低減するための方法。
【請求項17】
セリンプロテアーゼ阻害剤活性アッセイを使用して前記アルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体、またはその融合分子のセリンプロテアーゼ阻害活性を評価することをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
顕著なセリンプロテアーゼ阻害活性を有さないアルファ−1アンチトリプシン、その断片、その類似体、またはその融合分子を含む組成物;および少なくとも1つの容器を含むキット。
【請求項19】
抗炎症剤、免疫抑制剤、免疫調節剤、抗微生物剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗真菌剤、抗寄生虫剤またはそれらの任意の組合せからなる群から選択される薬剤をさらに含む、請求項18に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−524971(P2010−524971A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−504279(P2010−504279)
【出願日】平成20年4月18日(2008.4.18)
【国際出願番号】PCT/US2008/060848
【国際公開番号】WO2009/005877
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(508214950)ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・コロラド,ア・ボディー・コーポレイト (4)
【Fターム(参考)】