説明

風力タービン用ローターブレード

本発明は、風力タービン用ローターブレード、及び前記ローターブレードを有するローターを備える風力タービンに関する。本発明の目的は、最適なピッチ角から僅かにでも外れると、揚抗比が低下してしまうという欠点を克服し、全体的な性能の向上を保証することにある。この目的を達成するために、本発明は、特に前記ローターの中央板領域又は主板領域において、前記ローターの最適角の±2°の範囲内における前記抗力比の最大値の80%(好ましくは90%)を超える抗力比を有するローターブレードを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風力発電設備のローターブレード、及び該ローターブレードを有するローターを備えている風力発電設備に関する。
【背景技術】
【0002】
風力発電設備の性能及び特にその効率は、ローターブレード又はローターブレードの設計によって僅かとは言えない程度に決定される。ローターブレードは、非常に多くのパラメーターによって表わされる。現時点では、非特許文献1(特に90頁)が従来技術(state of the art)として敬意を持って参照されている。非特許文献1の内容はまた、同時に本出願の技術の基礎を為すものであり、必要に応じて、本出願の内容に組み込まれるものでもある。
【0003】
上述の通り、風力発電設備の作動効率及び調整力は、僅かとは言えない程度に利用されるローターブレード断面の空力特性によって支配されている。ローターブレードの重要なパラメーターは、揚力係数c及び抗力係数cの比によって特徴づけられている。
【0004】
【数1】

【0005】
ここで、Eは、揚抗比として規定されている。
【0006】
さらに、ローターブレードの重要なパラメーターとして高速係数(high-speed factor)λがある。この高速係数は、ローターブレード先端の周辺速度(u)及び風速vの比によって規定される。
【0007】
図1は、よく知られた流体の流れの状態及びブレード要素の翼形断面に作用する空力を表わしている。
【0008】
よく知られたローターブレードの断面を調査すれば、揚抗比とピッチ角との詳細な関係が確立される。より詳しくは、揚抗比はそれぞれのピッチ角に大きく依存し、一般的には完全に限定されたピッチ角の範囲内においてのみ高い揚抗比が達成されることがわかる。従って、例えば、ローターブレードのピッチ角が約6°である場合に、高い揚抗比は達成される。しかしながら、同時にピッチ角が僅かに約6°を上回るか又は下回ると、すぐさま揚抗比が厳密には低下することもわかる。
【0009】
その値が最適な揚抗比の近傍から離れた場合には、すなわち、ピッチ角が最適なピッチ角(例えば6°)とは著しく異なる場合には、風力発電設備が、例えばピッチ制御によってピッチ角を最適値に設定しようとする傾向、及び/又は、ポッド(pod)の向きによって最適な関係でローター全体を風の中に設置しようとする傾向にある結果として、設備全体の効率が低下してしまうということが容易に理解されるであろう。
【0010】
風力発電設備のローターの大きさは近年着実に大きくなっている。そして、受風面積が10,000平方メートルとされるローターは、もはや机上の空論ではなく、例えば、Enercon社製タイプE112(type E112)のような風力発電設備が今では実現されている。E112は、約112メートルのローター直径を有する風力発電設備である。
【0011】
現在において、ローターブレードのすべての領域に亘る揚抗比の最適化を達成することは現実的には不可能とされている。ローターブレードが非常に大きな受風面積を有しているので、常に同一方向から且つ常に同一速度で、風がローターブレードに向かって吹いていると仮定することができないからである。
【0012】
この結果により、一部領域においては、ローターブレードが比較的最適な条件下で作動することができるであろう。しかし、他の領域においては、ローターの受風面積における流体の流れ分布の異なる性質によって、ローターブレードは最適とは言い難い条件下で作動する。流れ角上の揚抗比の非常に高い依存性から直接的に得られる結果、及びこのことに伴って、ローターブレードに働く負荷は著しく変動する。これは、ローターブレードの揚力係数cも揚抗比に略比例するからである。
【非特許文献1】the book by Erich Hau, Windkraftanlagen, 3rd edition, 2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の問題を改善する方法として、及びその不利益を回避するために、ローターブレードの適切なピッチ制御又はローター全体のヨー制御によって、最適設定を常に見つけることができることが理解されるであろう。このことは当業者にとっては自明である。しかしながら、このコンセプトでは、ローターブレードは実用上風の中に絶えず設置されていなければならず(すなわち、ピッチされて(pitched)いなければならず)、及び/又は、状況を実質的に改善しないにも拘らず、ローターの方角も絶えず制御していなければならない。
【0014】
本発明の目的は、上述の不利益を回避し、より良い全体性能を有するローターブレード及び該ローターブレードを備える風力発電設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、請求項1に記載の特徴を有しているローターブレードの設計によって得られる。優位なローターブレードは従属請求項に記載されている。
【0016】
本発明におけるローターブレード設計の本質的な特性のうち一つの特性は、揚抗比が非常に大きなピッチ角範囲に亘り仮想的に高い状態を維持することである。しかし、その点においては、揚抗比の最大値は従来技術(state of the art)から得られる前述の揚抗比の最適値より低い状態のままである。言い換えると、本発明における最適設定されたピッチ角を有するローターブレードの揚抗比は、たとえ最大値であっても従来技術よりも低い。しかし、同時に最適設定から離れたとしても、そのことが直ちに揚抗比、揚力係数の実質的な低下、ひいては揚力の損失につながる訳ではない。例えば最適設定角から3±0.5°の範囲で最適設定から外れたとしても、ブレードの全体効率が改善された結果として、揚抗比ひいては実質的な揚力の低減が生じることはない。そのことはまた、負荷(ΔL/dt)においては、著しく良好な負荷分布及び著しく低い負荷変動を達成する。図2から理解されるように、本発明におけるローターブレード揚抗比曲線における“サドル”状とされるピッチ角4〜8°の範囲は、よく知られているローターブレードの場合における範囲よりも著しく広い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
特許請求の範囲におけるローターブレードの設計構成は、ローターブレードの中央の3分の1(central third)、すなわち、いわゆるローターブレードの主板(main board)領域にある。該領域は、一方におけるローターブレード取付領域又はローターブレードの根本領域と、ローターブレードの先端領域、すなわち外端領域との間にある。
【0018】
図2は揚力係数又は揚抗比の変化を表わす一方で、ピッチ角との関係をも表わす。特に、ピッチ角と関連する曲線図は、標準的なローターブレードの場合において、揚抗比がピッチ角約6°近傍で絶対最大値約170に到達することを表わしている。ピッチ角が6°から1°変化する場合に、すなわち、7°又は5°となる場合に、揚抗比は既に大きく低下している。そして、ピッチ角が約9°の値であると仮定した場合には、特により大きなピッチ角に関する揚抗比が既に半減している。ピッチ角が小さくなる方向でも、揚抗比は非常に急激に低下する。しかしながら、ピッチ角が大きくなる場合程ではない。
【0019】
本発明のローターブレードの場合における揚抗比の変化はまた、図より理解される。ピッチ角が約6°付近で再び揚抗比は最大値となり、該最大値は標準的なローターブレードの揚抗比の最大値を下回る。しかしながら、交差する曲線からわかるように、最適な“サドル”状部分が著しく広いことに留意すべきである。そして、例えば、ピッチ角が4〜8°の範囲とされる場合、すなわち最適ピッチ角6°の±2°とされる場合には、揚抗比は最適値から約10%だけ低減するに過ぎない。一方で約4.5°から−4°の範囲においては、他方で7°〜16°の領域においては、揚抗比は公知のローターブレードの揚抗比の曲線を常に上回っている。
【0020】
本発明におけるローターブレードの配置構成をも参照すると、該配置構成全体がローターブレード全体の揚力係数を改善する。この改善により、ローターブレードの効率は約15%向上される。
【0021】
特に、負荷変動も従来ほど大きくならない。そして、ピッチ角が非常に小さな任意の変化をした場合でも、同時に所望のピッチ角の最適値(する現在の実施例においては6°)に再設定する対応手段を講ずる必要はない。
【0022】
図3は、ローターブレードの先端部、すなわち、ローターブレードの端部を表わしている。図3aはローターブレードの先端部の斜視図を、図3bはその側面図を、そして、図3cはその平面図を表わしている。
【0023】
ローターブレードの先端部は縁弧部(edge arc)と呼ばれることが一般的である。図3aを見ると、その縁弧部が3つの断面区間及び3つの軸を備えている。
【0024】
図3a,図3b、及び図3cによって、前記スレッド軸(thread axis)回りの縁弧部断面の回転を表わすことができる。その点においては、図面の実施例における表現を幾らかでも理解可能なものとするために、本発明の詳細な説明で特定される角度よりも大きいという観点で、その図示された回転が大きく示されている。
【0025】
本発明におけるローターブレードに関する構成、特にその中心部、すなわち、いわゆる主板(main board)、ローターブレードの根本領域と先端領域との間の領域が、敬意をもって特に強調されている点に留意すべきである。前記主板は、一般的にはローターブレードの“中央の3分の1”(central third)として説明され、前記主板を超える特定の寸法に関して前記主板とは異なる。例えば、主板はローターブレードの長さの約60%まで占める。
【0026】
付加的に、又はローターブレードの上述の構成から独立的に、さらなる改善もまた達成され得る。図3a〜図3cを参照すると、ローターブレードの先端部、すなわち先端部の端部がスレッド軸回りの所定領域内で、例えば、スレッド軸回り(捩れ方向)に4〜8°、好ましくは約5°回転される。従って、このような捩れはいわゆる中立的な流入角と称され、それ自体は揚力の発生に貢献しない先端部内にある。先端部の一般的な構成、又は対応する先端部端部区間は非特許文献1の126頁(図535)から公知である。
【0027】
一般的な理論的考察にしたがって、ローターブレードに働く負荷の大きさは風速の2乗、ローターブレードの断面積、及び揚力係数の積として計算される。計算式は、
【0028】
【数2】

【0029】
のように表わされる。ここで、ローターの断面積Aは、ローターが覆う(掃引する)領域を示すために利用される。
【0030】
参考書を考慮すると、この数式は全く大雑把であり、常に現実に対応するという訳ではない。ローターブレードに働く最大負荷は、通常作動時にはローターブレードに作用しない。しかしながら、いわゆる50年に1度の突風が、ローターブレードをその側面から“衝突する(catch)”場合には別である。前記場合においては、突風はローターブレードのまさに全体に作用する。その点においては、揚力係数cはその役割を果たさず、むしろ抗力係数cは本明細書で考えられた通りとなるであろう。しかしながら、風がブレードに作用する場合には風が主板上に正確に作用するため、抗力係数は略平坦なローターブレード表面に関して常に一定である。前記状況(すなわち、完全な横方向の流れ)は、最悪のケースであって、この場合に、想定されるローターブレードに作用する最大負荷、すなわち正確に設計通りの負荷が作用する。
【0031】
上記記載より、抗力係数が一定であれば、重要なのは、単にローターブレードの面積であり、これが唯一であることが明らかであろう。このことは、ローターブレードができるだけ細くされていることの理由でもある。
【0032】
しかしながら、風力発電設備の出力はローターブレードの長さに非常に依存することが知られている。従って、従来においては、長細いブレードは幅広く短いブレードよりも好ましいとされてきた。しかしながら、この考えは、状況が根本的に異なることから、ブレードの内部領域(主板)には適用され得ない点は見落としてはならない。
【0033】
最後に、ブレードの根本部領域周辺で流れる空気に関するローターブレードの相対速度は最も遅く、ブレード先端部に連続的に発生する。従って、本明細書に記載された狭い外部領域及び最適な揚抗比を有するローターブレードの形状は特に有効な解決策である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】よく知られた流体の流れの状態及びブレード要素の翼形断面に作用する空力を表わす。
【図2】本発明におけるローターブレード及び従来のローターブレードの揚力係数又は揚抗比の変化を表わす。
【図3a】本発明におけるローターブレードの先端部の斜視図である。
【図3b】本発明におけるローターブレードの先端部の側面図である。
【図3c】本発明におけるローターブレードの先端部の平面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ローターブレード、特にローターの中央領域において、
主板が、最適ピッチ角から±約2°の範囲で、最大値の80%以上の揚抗比、好ましくは90%以上の揚抗比を有することを特徴とする風力発電設備のローターブレード。
【請求項2】
構成の揚抗比曲線の特性が図2に示されたピッチ角に依存することを特徴とすることを構成とされる請求項1に記載のローターブレード。
【請求項3】
少なくとも1つの請求項1又は2に記載のローターブレードを有しているローターを備えていることを特徴とする風力発電設備。
【請求項4】
ウイングレットの形式でローターの平面から外方へ伸びている先端部又は先端部端板を有し、
前記端板がその中央平面内でスレッド軸回りに約4〜8°(好ましくは4〜6°、より好ましくは約5°)の範囲で巻かれていることを特徴とするローターブレード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−522379(P2007−522379A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−552623(P2006−552623)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【国際出願番号】PCT/EP2005/050585
【国際公開番号】WO2005/078277
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(500017944)アロイス・ヴォベン (107)
【Fターム(参考)】