説明

風味に優れたアミノ酸・ペプチド混合物及びその製造方法

【課題】 風味に優れ、消化吸収性がよく、長期間の経口的な栄養補給に有用な窒素源として利用できるアミノ酸・ペプチド混合物を提供する。
【解決手段】 動植物タンパク質を下記(1)〜(3)の3種の酵素を用いて加水分解することにより得られ、平均ペプチド鎖長が1.5〜2.5であり、タンパク質重量当たり、遊離アミノ酸の含有量が30〜55重量%で、分子量1500以上のペプチドの含有量が10重量%未満であることを特徴とする、風味に優れたアミノ酸・ペプチド混合物。(1)Bacillus licheniformisまたはBacillus subtilis起源酵素から選ばれるEndo型ペプチダーゼから1種類、(2)Aspergillus melleusまたはAspergillus oryzae起源酵素から選ばれるEndo型+Exo型ペプチダーゼから1種類、及び(3)Aspergillus oryzaeまたはRhizopus oryzae起源酵素から選ばれるExo型ペプチダーゼから1種類。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味に優れたアミノ酸・ペプチド混合物及びその製造方法に関する。より詳しく言うと、本発明は、動植物タンパク質を特定の酵素を用いて加水分解することにより得られ、苦味がなく風味に優れ、しかも高分解性で、消化吸収性に優れたアミノ酸・ペプチド混合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質を加水分解して得られるアミノ酸と低分子ペプチド、特にジ・トリペプチドとの混合物は、タンパク質やアミノ酸単独に比べて、消化吸収性に優れていることから、術後や慢性腸疾患の患者向けの経腸栄養剤に利用されている。例えば、国内ではツインライン(大塚製薬社製)やエンテルード(テルモ社製)が術後患者向けに販売されている。また、海外では術後患者向けだけでなく、炎症性腸疾患患者向けのペプチド経腸栄養剤等も販売されている。
このような低分子ペプチドの製造方法に関しては、すでに特許文献1に開示されており、市販のEndo型ペプチダーゼやExo型ペプチダーゼを組みあわせることによりジ・トリペプチド主体の低分子ペプチドを調整することができる。
しかしながら、低分子ペプチドは消化吸収性の面で利点があっても、酵素で加水分解すると、苦味ペプチドが生成したり、特異な臭気やアミノ酸特有の呈味性が発生し、継続的に経口摂取できないといったコンプライアンス上の問題が指摘されている。この苦味や特有の風味、呈味性を除去するために、例えば、活性炭処理、吸着樹脂処理、膜処理により酵素分解液の風味等を改善する方法が利用されている(特許文献2〜4)。
【特許文献1】特公昭57−45560号公報
【特許文献2】特許第3233779号公報
【特許文献3】特開2004−81192号公報
【特許文献4】特開平10−271958号公報
【0003】
一方、苦味ペプチドにExo型ペプチダーゼを作用させることによって苦味ペプチドの生成を減少させる方法も知られているが、遊離アミノ酸の生成量が極端に増加して、アミノ酸特有の呈味性による風味劣化を引き起こすという問題がある。例えば、特許文献5には、酸性領域で加水分解した後、中性付近でペプチダーゼを作用させて調製した苦味や不快味の少ない低アレルゲン性カゼインペプチド組成物とその製造方法が記載されているが、アミノ酸含量の増加に伴い、アミノ酸特有の呈味性が発生するという問題があった。
また、特定の酵素を利用することにより風味や苦味や呈味性を改善しようとする試みもあるが、遊離アミノ酸含量を減少させたり、加水分解度を低く設定することにより得られるペプチドであり、消化吸収機能が低下した患者向けの高分解加水分解物ではなく、消化吸収性における利点も少ないと考えられる。
したがって、消化吸収機能が障害を受けているような術後患者や腸疾患患者に対しても吸収性の利点があり、なおかつ、苦味がなく、長期間摂取できるような風味に優れたアミノ酸・ペプチド混合物といった、高分解加水分解物でありながら、ペプチドの苦味やアミノ酸の呈味の問題のないアミノ酸・ペプチド混合物の開発が求められている。
【特許文献5】特開平6−113893号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記したような従来技術の問題を解決し、ペプチド特有の苦味やアミノ酸特有の呈味性がなく、風味に優れ、しかも、消化吸収性がよく、長期間の経口的な栄養補給に有用な窒素源として利用できるアミノ酸・ペプチド混合物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねたところ、アミノ酸の生成を抑える方法ではペプチド混合物の苦味は抑えられず、むしろタンパク質重量当たり、遊離アミノ酸を30〜55%になるように特定の酵素を用いて加水分解することにより、苦味を抑制でき、しかも、加水分解により生成した遊離アミノ酸特有の呈味性や風味劣化も少なく、長期経口摂取も可能となるアミノ酸・ペプチド混合物を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、動植物タンパク質を下記(1)〜(3)の3種の酵素を用いて加水分解することにより得られ、平均ペプチド鎖長が1.5〜2.5であり、タンパク質重量当たり、遊離アミノ酸の含有量が30〜55重量%で、分子量1500以上のペプチドの含有量が10重量%未満であることを特徴とする、風味に優れたアミノ酸・ペプチド混合物である。
(1)Bacillus licheniformisまたはBacillus subtilis起源酵素から選ばれるEndo型ペプチダーゼから1種類、
(2)Aspergillus melleusまたはAspergillus oryzae起源酵素から選ばれるEndo型+Exo型ペプチダーゼから1種類、及び
(3)Aspergillus oryzaeまたはRhizopus oryzae起源酵素から選ばれるExo型ペプチダーゼから1種類。
本発明はまた、動植物性タンパク質をタンパク質濃度が5〜10重量%となるように調製し、加熱殺菌後にpHを8〜9に調整し、下記(1)〜(3)の3種の酵素を、タンパク質重量当たり各0.6〜1.0重量%添加して、45〜55℃において10〜24時間酵素反応を行った後、酵素を失活させ、不溶物を除去することを特徴とする、請求項1または2記載の風味に優れたアミノ酸・ペプチド混合物の製造方法である。
(1)Bacillus licheniformisまたはBacillus subtilis起源酵素から選ばれるEndo型ペプチダーゼから1種類、
(2)Aspergillus melleusまたはAspergillus oryzae起源酵素から選ばれるEndo型+Exo型ペプチダーゼから1種類、
(3)Aspergillus oryzaeまたはRhizopus oryzae起源酵素から選ばれるExo型ペプチダーゼから1種類。
【0006】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明において使用することができるタンパク質は、植物性タンパク質でも動物性タンパク質でもよく、いずれの場合も特に限定されないが、植物性タンパク質としては、大豆タンパク質分離物(SPI)、大豆タンパク質濃縮物(SPC)等、動物性タンパク質としては、卵白、卵黄タンパク質、乳タンパク質等を好ましい例として挙げることができる。乳タンパク質としては、カゼインやホエータンパク質濃縮物(WPC)、ホエータンパク質分離物(WPI)等が使用できる。これらのタンパク質は、1種を用いても2種類以上を溶解混合して用いてもよい。
【0007】
これらのタンパク質は、タンパク質濃度が5〜10重量%となるように水等に溶解するなどして調製し、事前に加熱殺菌を実施することが好ましい。加熱殺菌の方法は特に限定されないが、70℃以上で数秒〜数分の処理を実施することが好ましい。加熱殺菌後に、酵素分解前の初期pHを8〜9に調製する。pHの調製は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、水酸化カルシウム等を使用して行うことが好ましい。
【0008】
次に、本発明において使用する酵素について説明する。
本発明のアミノ酸・ペプチド混合物は、使用する酵素の選択に特徴を有するものである。一般的な従来のアミノ酸・ペプチド混合物の製造は、Endo型ペプチダーゼやExo型ペプチダーゼから選択して2種ないし3種の酵素を組み合わせて加水分解物を調製するが、本発明では下記(1)〜(3)からそれぞれ1種を選択して使用する。
(1)Bacillus licheniformisまたはBacillus subtilis起源酵素から選ばれるEndo型ペプチダーゼ、
(2)Aspergillus melleusまたはAspergillus oryzae起源酵素から選ばれるEndo型+Exo型ペプチダーゼ、及び
(3)Aspergillus oryzaeまたはRhizopus oryzae起源酵素から選ばれるExo型ペプチダーゼ。
本発明者らは、下記食品総合研究所ホームページに記載された酵素一覧に基づき、各酵素が単独でどのような特徴を持つかを判定し、Endo型ペプチダーゼを主体とする酵素群、Endo型+Exo型ペプチダーゼの両活性を持つ酵素群、Exo型ペプチダーゼ活性が主体の酵素群の3つのカテゴリーに分類した(表1)。
(http://www.nfri.affrc.go.jp/yakudachi/koso/index.html)
この3つのカテゴリーについてまとめると以下のようになる(なお、本分類は本発明者らが独自に分類したものである)。
【0009】
【表1】

【0010】
本発明においては、この(1)〜(3)の酵素群からそれぞれ1つを選択して使用することができるが、この中でも特に、
(1)Endo型ペプチダーゼ群では、アルカラーゼ(ノボザイムズ社製、Bacillus licheniformis由来)またはプロテアーゼN(天野エンザイム社製、Bacillus subtilis由来)が好ましく、
(2)Endo型+Exo型ペプチダーゼ群では、プロテアーゼP6G(天野エンザイム社製、Aspergillus melleus由来)またはスミチームFP(新日本化学工業社製、Aspergillus oryzae由来)が好ましく、
(3)Exo型ペプチダーゼ群ではウマミザイム(天野エンザイム社製、Aspergillus oryzae由来)またはペプチダーゼR(天野エンザイム社製、Rhizopus oryzae社製)が好ましいことを発見した。
【0011】
たとえば、Bacillus subtilis由来の酵素は幾つかのメーカーから市販されているが、本発明者らが比較したところによると、メーカーや商品が異なると酵素分解液の風味が異なることから、由来が同じでも同一の条件とはならない傾向がある。また、他の酵素についても同様で、由来が同じであっても、上記の特定の酵素以外を用いると最終的なアミノ酸、ペプチド混合物の官能結果が異なるものとなったりする。これは、メーカーや商品によって、培養条件や精製条件が異なり、その結果、含まれる酵素の特異性や夾雑物等の影響が考えられるためで、注意を要する。
そのような理由により、本発明において使用される酵素は、上記したアルカラーゼとプロテアーゼNから1種類、プロテアーゼP6GとスミチームFPから1種類、ウマミザイムとペプチダーゼRから1種類ずつで計3種類とする組み合わせが特に好ましく、この場合の組み合わせは8通りとなる。
【0012】
このような酵素の使用により、高分解性で遊離アミノ酸が多いにもかかわらず、アミノ酸特有の呈味性や風味低下が少ない混合物が得られる。その理由は明確ではないが、例えば苦味のある疎水性のアミノ酸や呈味性のあるアミノ酸の生成が少ないためと思われる。
この制御は、単にExo型ペプチダーゼを作用させることで実現できるものではなく、またやみくもにEndo型ペプチダーゼとExo型ペプチダーゼを作用させればよいわけでもなく、上記3つの酵素群の組合せが重要である。
したがって、この組合せ以外の酵素群を選択した場合、平均ペプチド鎖長が1.5〜2.5、タンパク質重量当たり、遊離アミノ酸が30〜55%で、分子量1500以上のペプチドが10%未満のアミノ酸・ペプチド混合物を調製することが困難となるばかりか、調製されたものは、苦味や呈味性が顕著に現れ、長期間の摂取を要する患者用の経腸栄養剤として使用できないものとなる。
【0013】
各酵素の添加量は、基質タンパク質の重量に対して0.6%〜1.0重量%程度とする。酵素の添加量が0.6%未満となると分解反応が十分に進まず、相対的に高分子ペプチドが多くなる。また、酵素の添加量が1.0%を超えると、コストアップするのみで利点は得られない。
酵素反応は、45〜55℃程度に維持して行う。また、酵素反応時間は、適宜調整できるが、使用する酵素が異なっても、10〜20時間で反応を終了させることができる。ただし、24時間まで反応時間を延ばすことが可能であり、この範囲であれば、不快なにおいや苦味の発生はなく、微生物等の問題も生じない。なお、酵素反応中にpH調整を実施すると最終的なミネラル含量が高くなるため、酵素反応中のpH調整は実施しないことが望ましい。
【0014】
本発明のアミノ酸・ペプチド混合物は、平均ペプチド鎖長が1.5〜2.5、タンパク質重量当たり、遊離アミノ酸の含有量が30〜55重量%、分子量1500以上のペプチド含有量が10重量%未満であるが、その場合、タンパク質の平均分解度は概ね40〜65%であり、ジ・トリペプチド含有量は30〜55重量%である。すなわち、本発明の方法により、平均ペプチド鎖長が1.5〜2.5、タンパク質重量当たり、遊離アミノ酸の含有量が30〜55重量%で、分子量1500以上のペプチド含有量が10重量%未満となる場合には、タンパク質の平均分解度やジ・トリペプチド含有量も上記の範囲となる。
本発明により得られたアミノ酸・ペプチド混合物は、溶液のまま用いても、噴霧乾燥によって粉末化して用いてもよく、その形態は、最終製品への添加方法や製造方法によって、適宜選択することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ペプチド特有の苦味やアミノ酸特有の呈味性がなく、風味に優れ、しかも、消化吸収性がよく、長期間の経口的な栄養補給に有用な窒素源として利用できるアミノ酸・ペプチド混合物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、実施例を示しながら本発明を具体的に説明する。なお、実施例及び比較例において、「%」はタンパク質重量当たりの重量%を意味するものとする。
また、本実施例における分析方法は以下の方法に従った。
(1)遊離アミノ酸の測定方法
タンパク質分解液をスルホサリチル酸で除蛋白し、アミノ酸分析器(日立社製、Hitachi L−8500)により遊離アミノ酸を分析した。
(2)平均ペプチド鎖長の測定方法
タンパク質分解液を6N塩酸中で110℃、24時間加水分解し、トリニトロベンゼンスルホン(TNBS)で発色して420nmの吸光度を測定する。また、加水分解前の試料についてもTNBSで発色させて吸光度を測定する。加水分解後の試料の吸光度と加水分解前の試料の吸光度から平均ペプチド鎖長を算出した。
(3)HPLCによる分子量の推定
ゲルろ過カラムを用いた方法により分子量を算出した。分析条件については、日本栄養食糧学会誌、47(3)、195−201、1994に従った。
(実施例1〜6、比較例1〜4)
【0017】
(使用酵素の組合せによる風味変化の比較)
本発明における酵素の組合せ(実施例1〜4)と他の組合せ(比較例1〜6)で調製したアミノ酸・ペプチド混合物の風味と理化学的性質を比較した。
市販の大豆タンパク質(不二製油社製、フジプロ−CLE:タンパク質含量90%)をタンパク質濃度5%となるように水中に溶解し、90℃において10分間加熱殺菌した。冷却後、KOHを用いてpHを8.5に調整し、50℃に保持した。下記表2に示す組合せの酵素を、タンパク質重量に対して各1重量%を順次添加し、12時間加水分解を行った。加水分解終了後、沸騰水中で15分間保持して酵素を失活し、マイクローザーで精密ろ過を行って不溶物を除去し、アミノ酸・ペプチド混合溶液約2Lを調製した。この溶液を専門パネラーにより官能評価を実施し、さらに前記方法で分析した結果を示す。遊離アミノ酸及び分子量1500以上のペプチドは、タンパク質重量当たりの重量(%)を示す。
【0018】
【表2】

【0019】
※風味の評価基準:30名の専門パネラーが評価し、下記基準にしたがって選択人数の最も多い評価を選んだ。
○:においがしない、または不快な臭いを感じない
△:わずかに不快なにおいがする
×:不快なにおいがする
※苦味の評価基準:30名の専門パネラーが評価し、下記基準にしたがって選択人数の最も多い評価を選んだ。
○:苦味が全く感じない
△:わずかな苦みを感じる
×:明らかな苦味を感じる
【0020】
表2に示される結果から明らかなように、(1)Endo型ペプチダーゼから1種(具体的には、アルカラーゼまたはプロテアーゼN)、(2)Endo型+Exo型ペプチダーゼから1種(具体的にはプロテアーゼP6GまたはスミチームFP)及び(3)Exo型ペプチダーゼから1種(具体的にはウマミザイムまたはペプチダーゼR)の組み合わせ(実施例1〜4)を用いて得られたアミノ酸・ペプチド混合物は、風味や苦みがなく、非常に良好なものであった。
また、(2)Endo型+Exo型ペプチダーゼとしてプロテアーゼMを用い、(3)Exo型ペプチダーゼとしてフレーバーザイムやデヒドラーゼを用いて得られたアミノ酸・ペプチド混合物は、実施例1〜4に比べると少し苦みが発生したものの、比較例1〜4に比べると全体的に良好であった(実施例5及び6)。
それに対して、上記(1)及び(2)のみの酵素の組み合わせ(比較例1、2及び4)や、上記(1)及び(3)のみの酵素の組み合わせ(比較例3)を用いて得られたアミノ酸・ペプチドは、風味、苦味、分子量1500以上のペプチドの量等の点において、非常に劣るものであった。
(試験例1)
【0021】
(経時変化による変化)
上記実施例1の酵素を使用して反応時間と風味低下の関係について調べた。すなわち、市販の大豆タンパク質(不二製油社製、フジプロ−CLE:タンパク質含量90%)をタンパク質濃度5%となるように水中に溶解し、90℃で10分間加熱殺菌を行った。冷却後、pHを8.5にKOHで調整し、50℃に保持した。アルカラーゼ、プロテアーゼP6G、ウマミザイムを、タンパク質重量に対して各0.6重量%の量で順次添加し、下記表3に示すように、8〜30時間の加水分解を行い、経時的にサンプリングを行った。加水分解終了後、沸騰水中で15分間保持して酵素を失活させ、マイクローザーで精密ろ過を行って不溶物を除去し、アミノ酸、ペプチド混合溶液を調製した。調製した分解物の官能評価結果と特性を下記表3に示す。
【0022】
【表3】

【0023】
本結果から明らかなように、酵素反応時間を10〜20時間とした場合においては、平均ペプチド鎖長が1.5〜2.5の範囲にあり、タンパク質重量当たりの遊離アミノ酸が30〜55重量%、分子量1500以上のペプチドが10重量%未満で、風味や苦みも良好なアミノ酸・ペプチド混合物が調製できた。
(実施例6)
【0024】
(大豆タンパク質(SPI)を基質にしたアミノ酸・ペプチド混合物の調製方法)
プロファーム974(松谷化学社製、タンパク質含量90%)をタンパク質濃度が7.5%となるように水中に溶解し、90℃で10分間加熱殺菌を行った。冷却後、KOHを用いてpHを8に調整し、50℃に保持した。プロテアーゼN及びプロテアーゼP6G及びウマミザイムを、タンパク質重量に対して各0.8重量%の量で順次添加し、14時間の加水分解を行った。加水分解終了後、120℃、5秒のUHT殺菌によって酵素を失活させ、マイクローザーで精密ろ過を行った後、風味に優れたアミノ酸・ペプチド混合溶液約200Lを調製した。得られたアミノ酸・ペプチド混合物は、平均ペプチド鎖長が1.8で、タンパク質重量当たり、遊離アミノ酸を45重量%含有し、分子量1500以上のペプチドを5重量%含有していた。
(実施例7)
【0025】
(卵白を基質にしたアミノ酸・ペプチド混合物の調製方法)
乾燥卵白(キューピー社製)をタンパク質濃度が7.5%となるように水中に溶解し、50℃で加温殺菌した後、pHを8に調整した。温度を47℃に調整した後、プロテアーゼN、スミチームFP及びペプチダーゼRを、タンパク質重量に対して1.0%の量で順次添加し、18時間の加水分解を行った。120℃において5秒加熱殺菌した後、活性炭を液量比で0.1重量%ほど添加し、50℃で2時間攪拌した。攪拌後、フィルタープレスで活性炭を除去し、精密ろ過、濃縮を順次行った。得られた濃縮物を噴霧乾燥した後、風味に優れ、苦みのないアミノ酸・ペプチド混合物を50kgほど調製した。得られた混合物は、平均ペプチド鎖長が2.0で、タンパク質重量当たり、遊離アミノ酸を40重量%含有し、分子量1500以上のペプチドを8.9重量%含有していた。
(実施例8)
【0026】
(乳ホエータンパク質(WPC)を基質にしたアミノ酸・ペプチド混合物の調製方法)
乳ホエータンパク質(フォンテラ社製、アラセン472)を、タンパク質濃度が10%となるように水中に溶解し、pH7で加熱殺菌を行った。殺菌後pHを8.5、温度を50℃に調整し、アルカラーゼ、スミチームFP及びウマミザイムを、タンパク質の重量に対して1.0重量%の量で順次添加して酵素反応を開始した。15時間後、90℃、15分間の加熱により酵素を失活させ、不溶物を精密ろ過で分離したところ、風味に優れ、苦みの少ないアミノ酸・ペプチド混合物1Lを調製した。得られた混合物は、平均ペプチド鎖長が1.5であり、タンパク質重量当たり、遊離アミノ酸を54重量%含有し、分子量1500以上のペプチドを2.3重量%含有していた。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明で得られたアミノ酸・ペプチド混合物は、食品素材、医薬品素材として様々な用途に応じて利用でき、特に、消化吸収障害や消化吸収機能が未熟なためにタンパク質を摂取できない患者向けに利用できる。具体的には、術後患者の経腸栄養剤や慢性的な腸疾患の患者向けの経腸栄養剤として、また、未熟児を含む乳幼児向けの経腸栄養剤等として利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動植物タンパク質を下記(1)〜(3)の3種の酵素を用いて加水分解することにより得られ、平均ペプチド鎖長が1.5〜2.5であり、タンパク質重量当たり、遊離アミノ酸の含有量が30〜55重量%で、分子量1500以上のペプチドの含有量が10重量%未満であることを特徴とする、風味に優れたアミノ酸・ペプチド混合物。
(1)Bacillus licheniformisまたはBacillus subtilis起源酵素から選ばれるEndo型ペプチダーゼから1種類、
(2)Aspergillus melleusまたはAspergillus oryzae起源酵素から選ばれるEndo型+Exo型ペプチダーゼから1種類、及び
(3)Aspergillus oryzaeまたはRhizopus oryzae起源酵素から選ばれるExo型ペプチダーゼから1種類。
【請求項2】
動植物性タンパク質をタンパク質濃度が5〜10重量%となるように調製し、加熱殺菌した後、pHを8〜9に調整し、下記(1)〜(3)の3種の酵素を、タンパク質重量当たり各0.6〜1.0重量%添加し、45〜55℃において10〜24時間酵素反応を行った後、酵素を失活させ、不溶物を除去することを特徴とする、請求項1記載の風味に優れたアミノ酸・ペプチド混合物の製造方法。
(1)Bacillus licheniformisまたはBacillus subtilis起源酵素から選ばれるEndo型ペプチダーゼから1種類、
(2)Aspergillus melleusまたはAspergillus oryzae起源酵素から選ばれるEndo型+Exo型ペプチダーゼから1種類、及び
(3)Aspergillus oryzaeまたはRhizopus oryzae起源酵素から選ばれるExo型ペプチダーゼから1種類。

【公開番号】特開2006−75006(P2006−75006A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259500(P2004−259500)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(502138359)イーエヌ大塚製薬株式会社 (56)
【Fターム(参考)】