説明

風味増強剤及び香料組成物

【課題】対象とする香料の風味を選択的に増強させることができる風味増強剤およびこれを含有する風味が増強された香料組成物及び飲料を提供する。
【解決手段】重合カテキンを有効成分として含有する風味増強剤。飲料用添加剤であり、飲料が茶系飲料である風味増強剤。香料と重合カテキンとを含有する香料組成物。重合カテキンが茶葉抽出物である香料組成物。
【効果】風味増強剤を飲料に添加することにより、飲料自体の香味に影響を与えることなく、配合した香料の風味を増強させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品の風味増強剤、及び香料の持つ風味を増強した香料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品の製造において、その嗜好性を高めるために香料が多用されている。しかし、一般的に香料の安定性は高くなく、殺菌等の加熱処理工程や保存中に減少或いは消失してしまうことから、香料の安定性を高める工夫がなされている。
【0003】
飲食品が固形状の場合、糖衣、コーティング剤の使用、カプセル化、包接化合物の使用により、香料を安定化させることができるが、飲食品が液状(飲料)の場合、固形状の飲食品と比較して、安定なコーティングが困難であるため、通常、添加剤により、香料の風味を増強する方法が採用されている。例えば、特許文献1には、香料に遊離アミノ酸を配合してフレーバーを増強した香料が開示されている。
【0004】
また、飲食品自体の香味を増強する方法も種々報告されている。例えば、特許文献2及び3には、茶の溶媒抽出物及び3−ガロイルキナ酸又はその塩を有効成分とする呈味増強剤を、飲食品に添加することにより、旨味、こく味を付与・増強して飲食品の呈味をより複雑で深みのある好ましいものに変えることができることが記載され、コンソメスープ、コーヒー飲料、コーヒーハードキャンディ、オレンジゼリー、ミルクプリン等で効果があったことが記載されている。特許文献4には、少量の添加で飲食品の味や香りに影響を及ぼすことなく飲食品自体の香味を増強することができる、スピラントールを有効成分とする香味増強剤が記載されている。
【0005】
さらに、特定の香味を増強させるための香味増強剤も報告されている。例えば、特許文献5には、キナ酸誘導体によりメントールの清涼感など香気香味が増強されることが記載され、特許文献6には、紅茶抽出物がカレー又はシチューのスパイス感を向上させることが記載されている。果実特有の風味を増強することについても開示があり、特許文献7には、清澄乳酸菌・酵母発酵乳清液を有効成分とする果実特有の風味増強剤が記載され、特許文献8にはアスパラギン酸及び/又はその可溶性塩、及びアラニン及び/又はスレオニンが、飲食品のストロベリー様、グレープ様、アップル様及びメロン様風味を増強することが記載され、特許文献9には、スレオニン、リジン又はその塩、メチオニン及びバリンが、飲食品のパインアップル様風味を増強することが記載されている。
【特許文献1】特開2001−271089号公報
【特許文献2】特開2005−137286号公報
【特許文献3】特開2006−238815号公報
【特許文献4】特開2006−296356号公報
【特許文献5】特開2006−104229号公報
【特許文献6】特開2006−34146号公報(特許第4105130号)
【特許文献7】特開平7−75521号公報
【特許文献8】特開昭60−227654号公報
【特許文献9】特公平7−8205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、嗜好の多用化及び健康志向の高まりから、水や茶飲料のような中性飲料に着香した飲料が開発されている。しかし、香料、特に果実香料は、通常、酸味料及び甘味料が存在する飲料においては、その香料特有の風味(果実香料であれば果実特有の風味)を放つものであるが、酸味料も甘味料も添加されていない中性飲料では香料を添加しても着香され難く、香り立ちが極めて弱く、残香性も弱いという問題がある。さらに、香料を多量に配合すると香料溶媒が飲料自体の香味に影響を及ぼしたり、殺菌処理を経て製造される容器詰飲料では、加熱処理や保存中に香料のバランスが大きく変化してしまうという問題があった。
【0007】
また、既存の風味増強剤は、飲食品が本来持つ風味をそのまま、全体的に増強するものであるので、例えば茶系飲料に果実香料で着香した飲料の場合には、果実特有の風味だけでなく、飲料のベースとなる茶の風味も増強されてしまい、対象とする香料の風味のみを選択的に増強させることができなかった。
【0008】
本発明の目的は、飲料用の風味増強剤であって、対象とする香料の風味を選択的に増強させることができる風味増強剤およびこれを含有する風味が増強された飲料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、茶抽出物より得られる重合カテキンが飲食品自体の香味に影響を与えることなく、香料の風味を選択的に増強すること、特に果実香料の果実感、清涼感を増強させることができることを見出した。また、重合カテキンを飲料(特に低Brix飲料)に添加すると、飲料自体の香味を損なわずにコク・ボリューム感を付与・増強し、添加した香料(特に果実香料又は植物香料(茶系香料を除く))の風味を選択的に増強しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に関する。
1.重合カテキンを有効成分として含有する、風味増強剤。
2.飲料用添加剤である、1に記載の風味増強剤。
3.飲料が茶系飲料である、2に記載の風味増強剤。
4.果実風味の増強剤である、1〜3のいずれかに記載の風味増強剤。
5.香料と重合カテキンとを含有する、香料組成物。
6.重合カテキンの濃度が、組成物全体に対して0.0050重量%以上である、5に記載の香料組成物。
7.重合カテキンが、茶葉抽出物由来であることを特徴とする、5又は6に記載の香料組成物。
8.さらに非重合カテキンを含み、非重合カテキンの1倍以上の濃度で重合カテキンを含有する、5〜7のいずれかに記載の香料組成物。
9.香料が、果実香料である、5〜8のいずれかに記載の香料組成物。
10.重合カテキンと香料とを含有する飲料で、重合カテキンの濃度が飲料全体に対して0.0050重量%以上である、非茶系飲料。
11.重合カテキンと香料とを含有する飲料で、重合カテキンの濃度が飲料全体に対して0.010重量%以上である、茶系飲料。
12.重合カテキンが、茶葉抽出物由来であることを特徴とする、10又は11記載の飲料。
13.さらに非重合カテキンを含み、非重合カテキンの1倍以上の濃度で重合カテキンを含有する、10〜12のいずれかに記載の飲料。
14.香料が、果実香料又は植物香料(茶系香料を除く)である10〜13のいずれかに記載の飲料。
15.中性飲料(pH4.7〜7.0の飲料)である、10〜14のいずれかに記載の飲料。
16.Brixが1.0以下である、10〜15のいずれかに記載の飲料。
17.甘味料および/または酸味料を含まない飲料である、10〜16のいずれかに記載の飲料
18.茶系飲料である、10〜17のいずれかに記載の飲料。
【発明の効果】
【0011】
本発明の風味増強剤を飲料に添加すると、飲料自体の香味に影響を与えることなく、配合した香料の風味を増強させるエンハンサーとして利用することができる。
本発明の風味増強剤は、特に果実香料のエンハンサーとして作用し、果実の果実感、清涼感を増強させるので、例えば、中性の茶系飲料に果実香料を添加したような飲料の果実風味を選択的に増強させることができる。
【0012】
本発明の重合カテキンと香料とを含む飲料は、飲料自体の香味を損なうことなく、コク・ボリューム感が付与・増強され、かつ、香料の香り立ち、残香性が高められた飲料である。殺菌処理を経て製造される容器詰飲料の形態であっても風味が増強され、嗜好性の高い飲料となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本明細書でいう風味増強剤とは、飲食品の風味を増強するための添加剤を表し、具体的には、飲食品の喫食直前に鼻から感じられる香り(香り立ち)を増強する作用、飲食品の喫食時(口に含んだとき)に感じられる口中香を増強する作用、或いは後味に感じられる香り(残香性)を増強する作用のうちの少なくとも一つ、好ましくは全部を増強する作用を発揮するための添加剤を意味する。
【0014】
(重合カテキン)
本発明の風味増強剤は有効成分として重合カテキンを含有する。本明細書でいう「重合カテキン」とは、重合していない単量体のカテキン類((+)−カテキン、(−)−エピカテキン、(+)−ガロカテキン、(−)−エピガロカテキン、(−)−カテキンガレート、(−)−エピカテキンガレート、(−)−ガロカテキンガレート、(−)−エピガロカテキンガレート(これらは、本明細書において、「非重合カテキン」とも記載する))が、茶由来酵素、酵素、光等により複数個連結した構造を持つものをいう。具体的には、以下の条件のHPLCにより分析される成分をいい、テアフラビン(栗田リサーチセンター製)と同じ溶出時間(参考溶出時間:24分)のピークとなる成分をいう。
・カラム:TSK-gel ODS-80TsQA(4.6mmφx150mm、東ソー株式会社)
・移動相:A:水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=900:100:0.5
B:水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=200:800:0.5
・流速:1.0ml/min
・カラム温度:40℃
・グラディエント条件;分析開始から5分後まではB液0%、
5分から11分まででB液8%、
11分から21分まででB液10%、
21分から22分まででB液100%、
22分から30分まで100%保持、
30分から31分までで0%
・検出:A280nm (データ採取時間は30分)、ピーク面積で定量。
・注入量:10μL
・標準物質:ウーロンホモビスフラバンB(略記:OHBF-B)
重合カテキンの量は、標準物質としてOHBF−Bを用い、検量線を作成することにより求められる。なお、標準物質であるOHBF−Bは、例えば、Chem. Pharm. Bull 37(12), 3255-3563(1989) に記載の方法や、特開2005−336117号公報(実施例3)に記載の方法に従って合成したもの(好ましくは純度98%以上の純度まで精製したもの) 、茶葉より単離したものなどを用いることができる。
【0015】
この重合カテキンとしては、具体的にはテアルビジン等の慣用名で呼ばれている重合カテキンの他、式(1)のエピガロカテキンガレート二量体:
【0016】
【化1】

式(2)のエピガロカテキンガレート三量体:
【0017】
【化2】

式(3)のエピガロカテキンの二量体:
【0018】
【化3】

(式中、R1およびR2は、それぞれ独立してHまたはガロイル基である。)
式(4)のエピガロカテキンの三量体:
【0019】
【化4】

(式中、R3、R4およびR5は、それぞれ独立してHまたはガロイル基である。)
式(5)のウーロンテアニン-3'-O-ガレート:
【0020】
【化5】

等の重合カテキンが例示される。
本発明の重合カテキンは、重合カテキンを含有する植物抽出物として得られる。具体的には、茶葉を溶媒抽出することにより得られる。原料となる茶葉としては、不発酵茶である緑茶、半発酵茶であるウーロン茶、発酵茶である紅茶のうち、1種類又は2種類以上を用いることができるが、なかでも、重合カテキンを多く含有する半発酵茶又は発酵茶の茶葉を用いるのがよい。抽出溶媒としては、水または熱水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチルなどが用いられ1種もしくは2種類以上の混合物で抽出される。この茶葉の溶媒抽出物は、抽出物をそのまま用いてもよいが、濃縮又は精製したもの、すなわち茶葉の溶媒抽出物から重合カテキン以外の成分を選択的に除去して、重合カテキンの含有率を高めたものを用いるのがよい。
【0021】
一般に、非重合のカテキンは苦渋味を有するため、その配合量が大きくなると、飲食品自体の呈味を損なうことがある。したがって、本発明の重合カテキンとしては、上記の茶葉抽出物から非重合のカテキンを選択的に除去する処理を行った溶媒抽出物を用いるのが好ましい。この非重合のカテキンを選択的に除去する処理を行った溶媒抽出物としては、WO2005/077384号公報に記載の非重合カテキンの4倍以上の濃度で重合カテキンを含有するもの等が例示される。
【0022】
重合カテキンは可溶性成分である。保存中における沈殿防止等の観点から、茶葉の溶媒抽出物から遠心分離や濾過処理のような分離清澄化処理を施し、不溶性固形分を除去することが好ましく、この観点からも非重合カテキンを除去して、重合カテキンの濃度を高めた茶葉の溶媒抽出物を用いるのが好ましい。本発明で用いる重合カテキンの形態は、液状でも、噴霧乾燥や凍結粉砕などにより粉末化されたものであってもよいが、飲食品が飲料の場合には、溶解性の観点から液状に濃縮(単離、精製を含む)された重合カテキンを用いることが好ましい。
【0023】
(風味増強剤)
本発明の風味増強剤は、重合カテキンを有効成分として含有し、飲食品に添加することにより、飲食品自体の香味に影響を及ぼすことなく、飲食品に含まれる香料の風味を増強するのでフレーバーエンハンサーとして有用である。本発明の風味増強剤が添加される飲食品は限定されないが、好ましくは飲料用添加剤として用いられる。一般に、飲食品が液状(飲料)である場合には、固形剤と比較して添加剤の呈味の影響を受け易いものであるが、本発明の風味増強剤は飲食品自体の香味への影響が少ないという利点から、特に飲料に対して有用なものである。
【0024】
また、重合カテキンは、熱による影響を受けにくく、長期間の保存において消失しにくい成分であり、本発明の風味増強剤を添加した飲食品は、経時的な変化を受けにくいという特徴を有する。このメカニズムは明らかでないが、重合カテキンが飲食品中の香料成分を捕捉して或いは包み込んで飛散を防止するものと考えられる。
【0025】
本発明の風味増強剤は、飲食品に添加した香料に対して、選択的に風味を増強するという特徴を有する。例えば、飲食品が茶飲料で香料を添加した場合には、その香料の風味を増強し、香り立ちや口中香、残香を豊かにする。香料の種類は問わないが、飲食品が茶飲料の場合には非茶系の香料(例えば果実香料や茶系香料を除く植物香料)を添加した場合に、香料の風味増強作用が顕著に表れる。ここで、果実香料とは、果実の風味を呈する香料をいい、種子植物の食用生殖部分、特に種子に伴い甘味果肉を有する部分から得られる天然香料や、天然源から得られる果実香料を製造するために合成された香料も含まれる。特に好ましい香料は、柑橘類(シトラス香料ともいう)(オレンジ、ミカン、グレープフルーツ、レモン、ライム、ベルガモット等)、リンゴ、ブドウ、モモ、熱帯果実(パイナップル、グァバ、バナナ、マンゴー、アセロラ、パパイヤ、パッションフルーツ、ココナッツ)、その他果実(ウメ、ナシ、アンズ、スモモ、ベリー、チェリー、イチゴ、キウイフルーツ、メロン等)などであり、特に好ましくは柑橘類香料である。これら果実香料は、果汁及び香油のような天然源から得てもよいし、合成してもよい。所望であれば、果汁そのものを香料成分として使用可能である。
本明細書で用いられる植物香料とは、上記果実香料以外の植物の一部から得られる香料で、茶系香料(緑茶、烏龍茶、紅茶等の茶葉の風味を呈する香料)を除く香料をいう。例えば、ナッツ、樹皮、根及び葉から得られる香料が挙げられ、天然源から得られる植物香料や、天然源から得られる果実香料を製造するために合成された香料も含まれる。このような植物香料としては、コーラ香料、ミント香料、ジャスミン香料、バラ香料、コーヒー香料が例示される。これら植物香料は精油及びエキスのような天然源から得ても合成してもよい。コーヒー、ミント等のハーブ、ジャスミン等の花などは、そのエキス(植物の溶媒抽出物で必要に応じて濃縮したもの)を香料成分として使用可能である。
香料成分は、単一でも又は混合して用いてもよい。例えば、ライムとレモンを混合したシトラス香料、コーラ香料とシトラス香料、パイナップルとオレンジなどが、混合香料として例示される。
【0026】
本発明の風味増強剤は、また、果実風味の増強に対して顕著な作用を発揮する。果実風味を有する飲食品では、果実感を増強、維持するだけでなく、果実特有の清涼感を付与することができるという利点もある。すなわち、本発明の風味増強剤は、果実風味増強剤として特に有効なものである。ここで、果実風味を有する飲食品としては、果汁や果肉等の果実由来成分を含有する飲食品、果実香料などを添加して果実風味を着香した飲食品等が例示される。
【0027】
本発明の風味増強剤が添加される飲食品の形態は特に制限されないが、飲料に添加した場合に効果が顕著に発揮されるので、飲料の形態は好適な態様の一つである。本発明の風味増強剤が、果実風味の増強に有用であることを鑑みると、飲料の中でも果実風味の飲料、具体的には、果汁飲料、果汁を使用した清涼飲料、果肉飲料、果粒入り飲料等の果汁又は果肉が配合された飲料や、果汁や果肉を含まずに(果汁又は果肉無添加で)果実香料のみで着香された飲料(例えば、水、スポーツドリンク、茶系飲料等)などが好ましく、特に、風味の改良効果が表れ易い、果汁が希釈されている飲料或いは無添加の飲料で、コクや果汁感、清涼感や完熟風味等が不足している飲料であり、特に酸味料も甘味料も添加されていない、中性(pH4.7〜7.0)でBrixが1.0以下の飲料が好ましい。
【0028】
本発明の風味増強剤を飲料用添加剤として用いる場合、飲料への添加量は、飲料の組成や飲料に求められる嗜好に応じて適宜選択すればよいが、通常、飲料全体に対して、有効成分である重合カテキンが0.005重量%以上0.05重量%未満、好ましくは0.01重量%以上0.045重量%未満、より好ましくは0.02重量%以上0.04重量%未満程度となるように、重合カテキン又は重合カテキンを含有する植物抽出物(好ましくは茶葉抽出物)を添加する。重合カテキンの配合割合が0.005重量%未満では、風味を増強する作用が十分に得られないことがある。
【0029】
本発明の風味増強剤には、有効成分として重合カテキン又は重合カテキンを含有する植物抽出物(好ましくは茶葉抽出物)を含有していれば、その他、目的に応じて種々の添加物、例えば分散剤、賦形剤、甘味料等を含むことができる。分散剤、賦形剤、甘味料としては、例えば還元パラチノース、各種糖類、有機酸或いは有機酸塩、デンプン、デキストリン、デキストラン、粉乳など食用上問題のないものを挙げることができる。本発明の風味増強剤は、溶剤又は分散剤を含むことができ、例えば、水、エタノール等が挙げられる。本発明の風味増強剤は、その形態は特に限定されず、例えば、粉末、顆粒、ペースト、液体など任意の形状であることができる。
【0030】
(香料組成物)
本発明の風味増強剤は、飲食品に添加して香気成分の風味を増強するものであるが、香料と組み合わせて用いることで、香料の風味を選択的に増強するので、風味が増強された香料組成物に利用できる。
【0031】
本発明の香料組成物中の重合カテキンの割合は0.005重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.02重量%以上である。重合カテキンの配合割合が0.005重量%未満では、風味を増強する作用が十分に得られないことがある。香料組成物中の重合カテキンの上限はなく、香料の種類や配合量、所望する風味に応じて適宜設定すればよいが、香料に比して重合カテキンが過剰に存在すると、重合カテキン又は重合カテキンを含有する植物抽出物自体の風味が香料の風味を阻害することがあるので、本発明の香料組成物における香料と重合カテキンの割合は、香料1質量部に対して0.05〜5.0質量部、好ましくは0.06〜2.0質量部、より好ましくは0.1〜2.0質量部程度である。
重合カテキンとしては、上記の風味増強剤と同様に、重合カテキンを含有する植物抽出物(好ましくは茶葉抽出物)又はその精製物を用いることができる。重合カテキンを茶葉抽出物として配合する場合、茶葉抽出物中に含まれる非重合カテキンが香料(特に果実香料又は植物香料(茶系香料を除く))の風味を阻害することがあるので、非重合カテキンを選択的に除去したものを用いるのが好ましい。後述する本発明の香料組成物の好ましい態様の一つである飲料の形態の場合、飲料中の非重合カテキンの濃度の上限は、0.025重量%以下であり、好ましくは0.02重量%以下、より好ましくは0.018重量%以下、特に好ましくは0.015重量%以下であり、さらに(a)重合カテキンと(b)非重合カテキンの比率((a)/(b))が、1以上、より好ましくは1.3以上、特に好ましくは1.6以上となるようにするのがよく、(a)/(b)の上限は3.0以下、好ましくは2.5以下とするのが重合カテキンの風味増強作用の観点から最も好ましい。(a飲料が非茶系飲料の場合には、非重合カテキンが含まれないか、最小限の量しか含まれないように調整することが好ましいが、飲料が茶系飲料の場合には、非重合カテキンが茶系飲料の呈味を決定する重要な因子となることから、非重合カテキンを一定量配合するようにするのがよい。飲料が茶系飲料の場合、(a)重合カテキンの配合割合は、飲料全体に対して0.01〜0.05重量%、好ましくは0.01〜0.03重量%、より好ましくは0.02〜0.03重量%程度であり、(b)非重合カテキンの配合割合は、飲料全体に対して0.002〜0.025重量%、好ましくは0.01〜0.02重量%、より好ましくは0.014〜0.015重量%であり、(a)重合カテキンと(b)非重合カテキンの比率((a)/(b))が、1以上、より好ましくは1.3以上、特に好ましくは1.6以上であり、(a)/(b)の上限は3.0以下、好ましくは2.5以下である。
【0032】
本発明の香料組成物は、熱の影響を受けにくく、UHT殺菌やレトルト殺菌等の加熱殺菌処理を経て製造された場合においても、風味の減少が抑制されるので、殺菌処理を経て製造される飲食品、例えば容器詰飲料に好適に用いられる。
【0033】
本発明の香料組成物を用いると、コク・ボリューム感が付与・増強され、香料が果実香料、植物香料又はその混合物である場合には、香料の風味にボリューム感、ジューシー感、深み感、マイルド感、清涼感、完熟感を与え、天然の果実又は植物に近い風味を実現できるという利点がある。果実香料或いは植物香料の種類は、上述の風味増強剤と同様のものが使用可能である。
【0034】
本発明においては、重合カテキンと香料との混合物を添加剤として飲食品に配合してもよいし、重合カテキンと香料とを別々に飲食品に添加して、風味が増強された飲食品の形態としてもよい。上述のとおり、本発明においては、飲料で風味の増強作用が表れ易いことから、本発明の組成物の態様として、飲料は最も好ましい形態である。本発明の香料組成物が飲料の形態である場合、組成物中の重合カテキンの割合は、0.005〜0.05重量%、好ましくは0.01〜0.03重量%、より好ましくは0.02〜0.03重量%程度であり、香料の割合は、通常、0.001〜1.0重量%、好ましくは0.005〜0.50重量%、より好ましくは0.01〜0.30重量%程度である。ただし、飲料が茶系飲料の場合には、上述の範囲とすることが好ましい。
【0035】
本発明の香料組成物には、さらにカフェインを配合することが好ましい。本発明者らの検討によると、カフェインを特定量配合することで、重合カテキンのフレーバーエンハンス作用が相乗的に高められる。本発明の香料組成物が飲料の形態である場合、カフェインの配合量は、0.005〜0.03重量%、好ましくは0.01重量%〜0.025重量%、より好ましくは0.01重量%〜0.02重量%程度である。
本発明の香料組成物において、風味の増強効果が表れ易いのは果実風味又は植物風味(茶系風味を除く)の飲食品であり、特に果汁が希釈されている飲料、果実香料又は植物香料の添加されたBrixの低い飲料、或いは果実香料又は植物香料の添加された酸味料も甘味料も添加されていない中性飲料である。なかでも、酸味料も甘味料も添加されていない中性飲料が最も効果が表れ易い。
果汁が希釈されている飲料とは、具体的には果汁50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下、さらに好ましくは10%以下、特に好ましくは5%以下の飲料(果汁無添加を含む)で、例えば果汁1%程度のニアウォーター、スポーツドリンク等の清涼飲料が挙げられる。ここでいう果汁には、便宜上植物抽出物(エキス)も含まれるものとする。果汁が希釈されている飲料は、通常、コクや果汁感、清涼感や完熟風味等が不足している飲料であるが、本発明の所定濃度の重合カテキンを配合した飲料では、コク・ボリューム感が付与され、ジューシー感、深み感、マイルド感、清涼感、完熟感を与え、天然の果実や植物に近い風味を実現できる。なお、果汁50%以下の飲料とは、果実を搾汁して得られるストレート果汁を100%としたときの相対濃度であり、JAS規格(果実飲料の日本農林規格)に示される糖用屈折計示度の基準(°Brix)又は酸度の基準(%)に基づいて換算される値である。
Brixの低い飲料とは、具体的にはBrix1.0以下、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下、特に好ましくは0.5以下の飲料で、コク・ボリューム感が不足し風味(香り立ち、口中香)が不足している飲料、高甘味度甘味料の使用により後味のキレが悪く残香に欠ける飲料等をいう。例えば、Brix0.5程度のコーラ飲料(高甘味度甘味料を使用したダイエットコーラ飲料)は、Brix10程度の糖類(ショ糖など)を配合して調製したコーラ飲料と比較すると香料のノリが悪く、コーラ特有のスパイス感、シトラス感に欠けるものであるが、所定濃度の重合カテキンとコーラ香料とを含む本発明の飲料は、Brixが10.0程度のコーラ飲料と同程度にまでコク感・ボリューム感が付与され、スパイス感、シトラス感の風味が増強され、高甘味度甘味料の後味をも改善された飲料となる。
【0036】
酸味料も甘味料も添加されていない飲料とは、具体的には中性(pH4.7〜7.0、好ましくはpH5.0〜7.0、より好ましくはpH5.5〜6.5)でBrixが1.0以下(好ましくは0.8以下、より好ましくは0.6以下、特に好ましくは0.5以下)の飲料で、果実香料又は植物香料の風味を有する水や茶系飲料等が挙げられる。酸味料も甘味料も添加されていない飲料は、香料を配合してもその香料の風味が乏しく(香り立ちが悪く、口中香が乏しく、残香性もほとんど有さない)、特に果実香料又は植物香料(茶系香料を除く)の場合には酸味料や甘味料がないと果実風味や植物風味が発現しにくいものであるが、所定濃度の重合カテキンと香料とを含む本発明の飲料は、酸味料や甘味料無添加であっても、果汁や植物抽出物(エキス)が無添加であっても、果実又は植物特有の華やかな香り立ちを有し、清涼感のある口中香を維持し、後味にまで果実又は植物の香り(残香)を楽しむことができる。特に、飲料が茶系飲料の場合には、茶葉由来の非重合カテキン等の成分が香料のノリを阻害し、果実香料又は植物香料を添加した場合には、その風味がほとんど感じられないものであるが、本発明の所定濃度の重合カテキンと果実香料又は植物香料とを含む飲料では、ベースとなる茶系飲料に加えて果実香料又は植物香料の香気を同時に楽しむことができる飲料となる。
【0037】
ここで、本明細書でいう茶系飲料とは、Camellia属、例えばC. sinensis 、C. assamica、やぶきた種及びそれらの雑種から得られる茶葉から製茶された茶葉から水や熱水、抽出助剤を添加した水溶液で抽出した茶葉抽出液を配合した茶系の飲料を表す。製茶された茶葉には、緑茶(煎茶、番茶、玉露、てん茶、釜炒り茶など)などの不発酵茶類、烏龍茶(鉄観音、色種、黄金桂、武夷岩茶など)などの不発酵茶、紅茶(ダージリン、アッサム、スリランカなど)などの発酵茶類があるが、いずれの茶葉抽出液を配合した飲料であってもよい。なお本明細書中、上記茶系飲料に属さない飲料を非茶系飲料と表記する。
本明細書でいう酸味料とは、酸味を呈する成分をいい、天然成分から抽出した果汁類やフマル酸、リン酸、クエン酸、乳酸等が挙げられる。また、甘味料とは、甘味を呈する成分のことをいう。例えば、ショ糖、異性化糖、ブドウ糖、果糖、乳糖、麦芽糖、キシロース、異性化乳糖、フラクトオリゴ糖、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、カップリングシュガー、パラチノース、マルチトール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、パラチニット、還元デンプン糖化物、ステビア、グリチルリチン、タウマチン、モネリン、アスパルテーム、アリテーム、サッカリン、アセスルファムK、スクラロース、ズルチン、ネオテームなどが挙げられる。
【0038】
重合カテキンと香料との混合物を添加剤として飲食品に配合する場合、本発明の香料組成物には、有効成分として香料と重合カテキン又は重合カテキンを含有する植物抽出物(好ましくは茶葉抽出物)を含有していれば、その他、目的に応じて種々の添加物、例えば分散剤、賦形剤、甘味料等を含むことができる。分散剤、賦形剤、甘味料としては、例えば還元パラチノース、各種糖類、有機酸或いは有機酸塩、デンプン、デキストリン、デキストラン、粉乳など食用上問題のないものを挙げることができる。本発明の香料組成物は、溶剤又は分散剤を含むことができ、例えば、水、エタノール等が挙げられる。本発明の香料組成物は、その形態は特に限定されず、例えば、粉末、顆粒、ペースト、液体など任意の形状であることができる。
【0039】
重合カテキンと香料とを別々に飲食品に添加する場合、好ましくは本発明の香料組成物が飲料の形態である場合、本発明の飲料には、酸化防止剤、香料、無機酸類、無機酸塩類、無機塩類、色素類、乳化剤、保存料、調味料(香料)、甘味料、酸味料、果汁、pH調整剤、品質安定剤等の添加剤を単独、あるいは併用して配合してもよい。
【0040】
上述のとおり、本発明の香料組成物は、熱の影響を受けにくく、UHT殺菌やレトルト殺菌等の加熱殺菌処理を経て製造された場合においても、風味の減少が抑制されるので、容器詰飲料としても好適に提供されるものである。容器は、ポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)、金属缶、金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器、瓶などの通常の形態で提供することができる。ここでいう飲料とは希釈せずに飲用できるものと、希釈して飲用するためのいわゆるシロップとを便宜上含むものとする。
【0041】
本発明の容器詰飲料の製造は、公知の方法で行うことができ、例えば、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌できる場合にあっては、レトルト殺菌等の食品衛生法に定められた殺菌条件で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌できないものについては、例えばプレート式熱交換器などで高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。また無菌下で、充填された容器に別の成分を配合して充填してもよい。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。
<製造例1 重合カテキン高含有エキスの製造>
温水(95℃)に0.15重量%の重曹を添加した7800kgの重曹液を用いて、600kgの烏龍茶葉に抽出処理を施し、烏龍茶抽出液約7000kgを得た。この抽出液の液温を60〜65℃に保持しながら、400kgの粒状活性炭(クラレ社製GW−H32/60)に通液して非重合カテキン、カフェインを除去した。この通過液(活性炭処理後の液)を減圧濃縮し、Brix11の重合カテキン高含有エキス(烏龍茶抽出物の濃縮物;エキス)(以下、エキスA)約900kgを得た。得られたエキスA中の重合カテキン、非重合カテキン及びカフェイン濃度を、下記条件のHPLCで測定した。その結果、重量基準で、重合カテキンの濃度は12000ppm、非重合カテキンの濃度は800ppm、カフェインの濃度は20ppmであった。
HPLC条件:
・カラム:TSK-gel ODS-80TsQA(4.6mmφx150mm、東ソー株式会社)
・移動相:A:水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=900:100:0.5
B:水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=200:800:0.5
・流速:1.0ml/min
・カラム温度:40℃
・グラディエント条件;分析開始から5分後まではB液0%、
5分から11分まででB液8%、
11分から21分まででB液10%、
21分から22分まででB液100%、
22分から30分まで100%保持、
30分から31分までで0%
・検出:A280nm
・標準物質:烏龍ホモビスフラバンB(OHBF−B)
・重合カテキンのリテンションタイム:約25分のピークでテアフラビンとピークが一致する。
【0043】
<製造例2 重合カテキン(精製品)の製造)>
温水(95℃)に0.15重量%の重曹を添加した重曹液を用いて、烏龍茶葉に抽出処理を施し、烏龍茶抽出液を得た。この抽出液を凍結乾燥し、8gを下記の分取クロマトグラムに供した。59.8−70分に溶出する成分をまとめて凍結乾燥を行い、これを重合カテキン(精製品)とした。
HPLC条件:
・カラム:ODS-10/20(50*300 mm+50*100 mm、 野村化学(株)製)
・移動相:A:水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=900:100:0.5
B:水:アセトニトリル:トリフルオロ酢酸=200:800:0.5
・流速:60ml/min
・カラム温度:40℃
・グラディエント条件;分析開始から52分後まではB液0%、
52分から52.1分まででA液100%、
52.1分から79分まででA液100%、
79分から81分まででB液100%、
81分から100分までB液100%保持
・検出:A280nm
・注入量:15ml
実施例1:重合カテキン(エキスA) のフレーバーエンハンス作用
表1に示すように、重合カテキン含量が0〜500ppm(0〜0.05重量%)となるように、製造例1で得た茶抽出物の濃縮物(重合カテキン含有エキス、即ちエキスA)に加水した。これに、レモンフレーバーを0.15重量%添加した後、85℃、10分の条件で殺菌し、5℃に冷却してレモン風味水(pH6.2〜6.5、Brix0.01〜0.46)を製造した。このレモン風味水を専門パネラー3人で官能評価を行った。官能評価は、重合カテキン(エキスA)を添加していない対照と比較したフレーバーの増強作用、即ちレモン風味の強さの観点から、口に含む前の香り(香り立ち)の増強、口に含んだ際の香りの増強、後味の香りの増強(残香)についての総合的な評価とし、対照と比較して、果実風味が弱くない(1点)、変わらない(2点)、少し強い(3点)、強い(4点)、かなり強い(5点)の5段階で評価した。
【0044】
結果を表1に示す。重合カテキンを添加すると、香り立ち、口中香、残香のいずれにおいてもレモン風味が増強された。この増強されたレモン風味は、清涼感、完熟感を有し、対照と比較して天然のレモン果実に近い風味であった。このことから、重合カテキンに、風味増強作用(果実風味増強作用)があることが示唆された。ただし、重合カテキンの濃度が500ppm(0.05重量%)以上となると、エキスAの呈する風味がレモン風味を阻害すると感じたパネラーがいた。これより、重合カテキンの至適濃度が50ppm以上500ppm未満(0.0050重量%以上0.05重量%未満)であること、この濃度で重合カテキンをフレーバー(香料)と併用することでフレーバーが増強され、殺菌後の飲料であっても豊かなフレーバーを呈することが示唆された。
【0045】
【表1】


実施例2:重合カテキンのフレーバーエンハンス作用
実施例1のエキスAを製造例2で製造した重合カテキン(精製品)に代える以外は、実施例1と同様にしてレモン風味水を製造した。すなわち、水に重合カテキンを0〜500ppmになるように添加した後、レモンフレーバーを0.15%添加し、これを85℃、10分の条件で殺菌し、5℃に冷却してレモン風味水(pH6.0〜6.5、Brix0.01〜0.05)を製造した。このレモン風味水を専門パネラー3人で官能評価を行った。官能評価は、重合カテキンを添加していない対照と比較したフレーバーの増強作用、即ちレモン風味の強さの観点から、口に含む前の香り(香り立ち)の増強、口に含んだ際の香りの増強、後味の香りの増強(残香)についての総合的な評価とし、対照と比較して、果実風味が弱くない(1点)、変わらない(2点)、少し強い(3点)、強い(4点)、かなり強い(5点)の5段階で評価した。
【0046】
結果を表2に示す。実施例1と同様に、重合カテキンを添加すると、香り立ち、口中香、残香のいずれにおいてもレモン風味が増強された。実施例1のエキスA(茶抽出物の濃縮物)を用いた場合と比べると、精製品を用いた場合には添加濃度が高い場合(例えば重合カテキン500ppm)に重合カテキンの呈する風味の影響が少ないことがわかる。これより、重合カテキンを含有する植物抽出物を用いる場合には、重合カテキンの精製度をより高めたものを用いることがよいことが示唆された。
【0047】
【表2】


実施例3:茶飲料中での重合カテキンのフレーバーエンハンス効果(1)
烏龍茶葉を30倍量の熱水で4分間抽出し、烏龍茶抽出液とした。得られた烏龍茶抽出液(非重合カテキン145ppm、重合カテキン80ppm)に製造例1で得たエキスAを添加し、重合カテキンが500、300、280、260、200ppmになるように烏龍茶飲料を調製し、これにレモンフレーバー0.15%を添加して、加熱殺菌を行い、冷却してレモン風味の烏龍茶飲料(pH5.9、Brix0.3〜0.5)を製造した。各飲料のフレーバーティーとしての香味のよさ、即ちベースとなる烏龍茶の風味とレモン風味とのバランスのよさについて、専門パネラー5人により、エキスAを添加していない飲料を対照として、5段階(5点:烏龍茶、レモン風味ともに味わうことができ美味しい⇔1点:烏龍茶、レモン風味いずれかが突出してバランスが悪く美味しさに欠ける)で評価した。
結果を表3に示す。烏龍茶飲料は、通常、非重合カテキンが重合カテキンよりも高濃度に含まれるが(対照)、本発明の重合カテキンを添加した飲料は、重合カテキンが非重合カテキンよりも高濃度に含まれる飲料で、具体的には、重合カテキン(a)と非重合カテキン(b)の比率((a)/(b))が1以上の茶系飲料であった。重合カテキン量を増やすことで烏龍茶飲料のコク・ボリューム感が増強され、風味としては選択的にレモンの風味が増強されていた。このレモン風味は、ジューシー感、深み感、マイルド感、清涼感、完熟感のある風味であり、天然のレモン果実に近い風味であった。重合カテキンによりレモン風味が増強された烏龍茶飲料は、ベースとなる烏龍茶自身の呈味とレモン風味の両方を味わうことができる、ドリンカビリティ(嗜好性)の高い果実風味の茶系飲料であった。
【0048】
【表3】


実施例4:茶飲料中での重合カテキンのフレーバーエンハンス効果(2)
製造例1で得たエキスA及び実施例3で得た烏龍茶抽出液を用い、表4に示す非重合カテキンと重合カテキンの比率が異なる6種類の烏龍茶飲料を調製し、これにレモンフレーバーを0.15%添加して、加熱殺菌を行い、冷却してレモン風味の烏龍茶飲料(pH5.9、Brix0.3〜0.5)を製造した。専門パネラー5人により、各飲料のフレーバーティーとしての香味のよさ、即ちベースとなる烏龍茶の風味とレモン風味とのバランスのよさについて、専門パネラー5人により、エキスAを添加していない飲料を対照として、5段階(5点:烏龍茶、レモン風味ともに味わうことができ美味しい⇔1点:烏龍茶、レモン風味いずれかが突出してバランスが悪く美味しさに欠ける)で評価した。
結果を表4に示す。茶系飲料においては、非重合カテキンが果実風味を阻害するが、非重合カテキン量を減らすことで果実風味を良好に呈することがわかった。実施例3と同様に、重合カテキン(a)と非重合カテキン(b)の比率((a)/(b))が1以上、好ましくは1.3以上、より好ましくは1.7以上になるように重合カテキンを添加した飲料が、フレーバーティーとしてのドリンカビリティを有する(レモン風味が増強され、烏龍茶の呈味とレモン風味とをバランスよく楽しむことができる)飲料であった。表4より、非重合カテキンの濃度は、好ましくは180ppm以下、より好ましくは150ppm以下であることが示唆された。
【0049】
【表4】


実施例5:茶飲料中での重合カテキンのフレーバーエンハンス効果(3)
製造例1で得たエキスA及び実施例3で得た烏龍茶抽出液を用い、表5に示す非重合カテキンと重合カテキンの比率が異なる3種類の烏龍茶飲料を調製した。これに、ピーチ、ベルガモット、ライチ、ペパーミントのフレーバーを添加した。各飲料のフレーバーティーとしての香味のよさ、即ちベースとなる烏龍茶の風味とフレーバーの風味とのバランスのよさについて、専門パネラー5人により、5段階(5点:烏龍茶、フレーバー風味ともに味わうことができ美味しい⇔1点:烏龍茶、フレーバー風味いずれかが突出してバランスが悪く美味しさに欠ける)で評価した。
結果を表5に示す。ピーチ、ベルガモット、ライチ、ペパーミントのいずれのフレーバーにおいても、重合カテキンが増量するにともなってフレーバーをエンハンスする効果が高まり、フレーバーティーとしてのドリンカビリティが向上した。いずれの飲料においても、非重合カテキンの量を減らすことでフレーバーの風味がより増強された。
【0050】
【表5】


実施例6:コーラ風味飲料
重合カテキンとして製造例1で得たエキスAを用いた。高甘味度甘味料として、アスパルテーム0.4g、アセスルファムK0.1gを用い、クエン酸(無水)0.55g、クエン酸三ナトリウム0.5gと炭酸水800gを混合し、0〜200ppm(0〜0.02重量%)のカフェイン、0.3重量%のコーラフレーバー及び重合カテキンとして0〜400ppm(0〜0.04重量%)の濃度となるエキスAを混合した後、全量が1000gとなるように適量の水を混合して、甘味度10、Brix約0.16〜0.47、ガス圧3.4kg/cmの炭酸飲料を製造した。得られた炭酸飲料の風味を専門パネラー4名で評価した。評価は、表6に示すショ糖を配合して製造されるBrix1,2,5,10の炭酸飲料(甘味度10)について、コク・ボリューム感、コーラフレーバーの強さの観点から、その評価点をそれぞれ1点(やや乏しい)、2点(やや感じる)、3点(感じる)、4点(大変感じる)として相対的に評価した。
【0051】
結果を表7に示す。重合カテキンの添加量が増加するに伴い、低Brixの炭酸飲料にボディ感が付与されコーラフレーバーのシトラス感・スパイス感が増強された。重合カテキンを300ppm以上添加した場合には、ショ糖を用いて製造したBrix5又は10のコーラ飲料と同程度のボディ感、フレーバーエンハンスが低Brixの炭酸飲料について得られた。重合カテキン200ppmでカフェイン100ppm以上、重合カテキン300ppmでカフェイン50ppm以上、重合カテキン400ppmでカフェイン50ppm以上となる炭酸飲料は、ショ糖で調製したBri10の嗜好性の高い炭酸飲料とほぼ同等のコク・ボリューム感、フレーバー感を有し、極めて嗜好性の高い飲料であった。
【0052】
【表6】

【0053】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合カテキンを有効成分として含有する、風味増強剤。
【請求項2】
飲料用添加剤である、請求項1に記載の風味増強剤。
【請求項3】
飲料が茶系飲料である、請求項2に記載の風味増強剤。
【請求項4】
果実風味の増強剤である、請求項1〜3のいずれかに記載の風味増強剤。
【請求項5】
香料と重合カテキンとを含有する、香料組成物。
【請求項6】
重合カテキンの濃度が、組成物全体に対して0.0050重量%以上である、請求項5に記載の香料組成物。
【請求項7】
重合カテキンが、茶葉抽出物由来であることを特徴とする、請求項5又は6に記載の香料組成物。
【請求項8】
さらに非重合カテキンを含み、非重合カテキンの1倍以上の濃度で重合カテキンを含有する、請求項5〜7のいずれかに記載の香料組成物。
【請求項9】
香料が、果実香料である、請求項5〜8のいずれかに記載の香料組成物。

【公開番号】特開2010−154806(P2010−154806A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335192(P2008−335192)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(309007911)サントリーホールディングス株式会社 (307)
【Fターム(参考)】