説明

風味改良剤

【課題】
風味改良剤、調味料、飲食品、風味の改良された飲食品の製造方法および飲食品の風味改良方法を提供する。
【解決手段】
乳酸、酢酸およびアセトインを含有し、かつ酢酸の含有量が乳酸100重量部に対して30〜60重量部である風味改良剤または調味料の製造方法。該製造方法で得られた風味改良剤または調味料の飲食品への添加、または、該製造方法で得られた風味改良剤または調味料と飲食品素材とを接触させる、風味改良方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風味改良剤、調味料、飲食品、飲食品の製造方法および飲食品の風味改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漬物の独特の香りや風味は、野菜の塩蔵期間中、野菜由来の乳酸菌等の微生物によって付与されることが知られている。しかし、工業的に大量生産する場合には、製造期間の短縮、製造工程の簡略化等により、十分に風味を付与できないことが多い。また、近年の低塩志向に対応するため、脱塩処理が強化される傾向にあるが、脱塩処理により、風味が損なわれる場合がある。このため、 工業的に漬物を製造する場合、風味の不足を簡便に補うことのできる方法、好ましくは、野菜に簡便に漬物の風味を付与できる方法の開発が望まれている。
【0003】
例えば、漬物の風味として好まれる、野菜を乳酸菌で発酵させた場合に得られる好ましい風味(以下、単に漬物風味ということもある)を補うため、野菜に漬物用スターターとして乳酸菌を添加して発酵させる方法(特許文献1参照)が知られている。しかし、該方法では、発酵を制御する必要があり煩雑である。このように、これまでに上記の課題を解決できる方法は知られていない。
【0004】
一方、漬物風味を構成する因子の一つである酸味に乳酸、酢酸等の有機酸が関与していることが知られているが、これらの成分の存在量や存在比と漬物風味との関係については知られていない。
また、ヨーグルトに独特の香りを付与する成分として知られているアセトインは漬物にも存在することが知られているが、漬物中に著量存在するとムレ臭を感じさせ、官能的な嗜好性を低下させることが報告されている(非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−120173号公報
【非特許文献1】日本食品科学工学会誌、1999年、第46巻、p.311−318
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、風味改良剤、調味料、風味の改良された飲食品、風味の改良された飲食品の製造方法および飲食品の風味改良方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の(1)〜(8)に関する。
(1) 乳酸、酢酸およびアセトインを含有し、かつ酢酸の含有量が乳酸100重量部に対して30〜60重量部である風味改良剤または調味料。
(2) アセトインの含有量が乳酸100重量部に対して0.03〜0.30重量部である、上記(1)の風味改良剤または調味料。
(3) 上記(1)または(2)の風味改良剤または調味料を飲食品に添加することを特徴とする、飲食品の製造方法。
(4) 上記(1)または(2)の風味改良剤または調味料と飲食品素材とを接触させることを特徴とする、飲食品の製造方法。
(5) 飲食品素材が野菜である、上記(4)の製造方法。
(6) 上記(3)〜(5)いずれか1つの方法により得られる飲食品。
(7) 上記(1)または(2)の風味改良剤または調味料を飲食品に添加することを特徴とする、飲食品の風味改良方法。
(8) 風味改良が、発酵風味の付与である、上記(7)の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、風味改良剤、調味料、風味の改良された飲食品、風味の改良された飲食品の製造方法および飲食品の風味改良方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の風味改良剤および調味料は、乳酸、酢酸およびアセトインを含有し、かつ酢酸の含有量が乳酸100重量部に対して30〜60重量部、好ましくは40〜60重量部、より好ましくは40〜50重量部である組成物であればいずれの組成物であってもよい。アセトインの含有量に特に限定はないが、乳酸100重量部に対して、好ましくは0.03〜0.30重量部、より好ましくは0.03〜0.20重量部、さらに好ましくは0.05〜0.15重量部である。
【0009】
本発明の風味改良剤または調味料は、乳酸、酢酸およびアセトインからなる組成物であってもよく、必要に応じて、無機塩、酸、アミノ酸類、核酸、糖類、天然調味料、エタノール等のアルコール、香辛料、賦形剤、香料等の飲食品に使用可能な各種添加物を含有していてもよい。
乳酸の含有量に特に限定はないが、好ましくは0.2〜20重量%、より好ましくは0.2〜10重量%である。
【0010】
無機塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等があげられる。
酸としては、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、脂肪酸等があげられる。
アミノ酸としては、グルタミン酸ナトリウム、グリシン、アラニン等があげられる。
核酸としては、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等があげられる。
糖類としては、ショ糖、ブドウ糖、乳糖等があげられる。
【0011】
天然調味料 としては、醤油、味噌、畜肉エキス、家禽エキス、魚介エキス、蛋白質加水分解物等があげられる。
香辛料としては、スパイス類、ハーブ類等があげられる。
賦形剤としては、デキストリン、各種澱粉等があげられる。
香料としては、ユズフレーバー、シソフレーバー等の各種フレーバーがあげられる。
【0012】
本発明の風味改良剤または調味料は、液状、粉状、顆粒状等のいずれの形状を有するものであってもよい。
本発明の風味改良剤または調味料は、乳酸、酢酸およびアセトインを上記の含有量および比となるように配合する以外は、通常の調味料の製造方法を用いて製造することができる。
【0013】
乳酸としては、例えば、醸造用乳酸等の食品添加物として使用される乳酸が用いられる。酢酸としては、例えば、米酢等の穀物酢、林檎酢等の果実酢等の食酢が用いられる。アセトインとしては、例えば、食品用の香料として用いられるものが用いられる。
また、微生物を培地に培養して乳酸、酢酸またはアセトインを含有する培養物を調製し、これを本発明の風味改良剤または調味料の製造に用いてもよい。
【0014】
微生物としては、ラクトバチルス・ブレビス(Lactbacillus brevis)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ペントサス(Lactobacillus pentosus)等のラクトバチルス(Lactobacillus)属に属する微生物、ぺディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)等のペディオコッカス(Pediococcus)属に属する微生物、エンテロコッカス・フェカリス(Enterococcus faecalis)等のエンテロコッカス(Enterococcus)属に属する微生物、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)等のラクトコッカス(Lactococcus)属に属する微生物、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)等のロイコノストック(Leuconostoc)属に属する微生物、アセトバクター・アセチ(Acetobacter aceti)、アセトバクター・パスツリアヌス(Acetobacter pasteurianus)等のアセトバクター(Acetobacter)属に属する微生物、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、リゾプス(Rhizopus)属等に属する微生物等をあげることができる。
【0015】
これらの微生物は単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
微生物として、ラクトバチルス属、ペディオコッカス属、エンテロコッカス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属等の属に属する微生物、いわゆる乳酸菌を用いた場合は、乳酸、酢酸およびアセトインのうち、少なくとも乳酸を含有する培養物を得ることができる。なかでも、ラクトバチルス属に属する微生物が好ましく用いられる。特にラクトバチルス・プランタラムに属する微生物が好ましく用いられる。
【0016】
また、微生物として、アセトバクター属に属する微生物等の酢酸菌を用いた場合、酢酸を含有する培養物を得ることができる。
培地としては、これらの微生物を培養することのできる培地であれば、いずれの培地を用いてもよく、炭素源、窒素源、無機物、微量成分等を含有する合成培地および天然培地のいずれも用いることができる。また、キャベツ、ハクサイ、ニンジン等の野菜またはこれらの処理物、また、必要に応じて、炭素源、窒素源、無機物、微量成分等を添加したものも培地として用いることができる。処理物としては、圧搾処理により得られる搾汁があげられる。なお、アセトバクター属に属する微生物等の酢酸菌を培養する場合、培地中にエタノールが含有されていることが好ましい。
【0017】
培養条件は、用いる微生物の種類により異なるが、10〜40℃、好ましくは25〜35℃で、2〜10日間、好ましくは3〜7日間、静置または必要に応じて通気攪拌して培養する。
乳酸菌、サッカロマイセス属またはリゾプス属に属する微生物を培養する場合、培養中、pHが、4.5以下とならないように、炭酸ナトリウム、アンモニア、水酸化ナトリウム等を添加してpHを調整することが好ましい。
【0018】
得られた培養物はそのまま、乳酸、酢酸またはアセトインの含有物として本発明の風味改良剤または調味料の製造に用いてもよいし、遠心分離等の固液分離法により得られる菌体または菌体を除去して得られる培養上清、該培養物の濃縮物、該培養物の乾燥物等を乳酸、酢酸またはアセトインの含有物として本発明の風味改良剤または調味料の製造に用いてもよい。
【0019】
本発明の風味改良剤または調味料は、いずれの風味改良剤または調味料として用いてもよいが、例えば、微生物を発酵して得られる好ましい風味(以下、発酵風味ともいう)、特に乳酸菌を発酵して得られる好ましい風味(以下、乳酸菌を用いて得られる発酵風味ともいう)の風味改良剤または調味料として好適に用いられる。
乳酸菌を用いて得られる発酵風味としては、例えば、すぐき漬、しば漬、すんき漬、ザワークラウト、キムチ等の、野菜を乳酸菌で発酵させて得られる漬物が呈する風味、すなわち漬物風味があげられる。
【0020】
本発明の風味改良方法としては、例えば、発酵風味、好ましくは乳酸菌を用いて得られる発酵風味、特に好ましくは漬物風味を増強する方法があげられる。
本発明の風味改良方法としては、本発明の風味改良剤または調味料を添加することを除いて特に限定はなく、通常用いられる飲食品の製造方法を用いることができる。例えば、本発明の風味改良剤または調味料を、飲食品を製造する際に素材の一部として添加する方法、製品となっている飲食品を加熱調理、電子レンジ調理、真空調理等で調理する際に添加する方法、摂食の際に添加する方法等があげられる。
【0021】
本発明の風味改良方法の対象となる飲食品としては、いずれの飲食品であってもよいが、例えば、漬物等の野菜加工品、いわゆる浅漬けの素等の漬物製造用調味料、味噌、醤油、たれ、だし、ドレッシング、マヨネーズ、トマトケチャップ等の調味料、ハム、ソーセージ、チーズ等の畜産加工品、干物、塩辛、珍味等の水産加工品等の発酵風味を有することが好ましいとされる飲食品が好ましくあげられる。
【0022】
飲食品の風味を改良する際には、飲食品における酢酸の含有量が乳酸100重量部に対して30〜60重量部、好ましくは40〜60重量部、より好ましくは45〜55重量部となるように、例えば、本発明の風味改良剤または調味料を添加することが望ましい。この際、飲食品における乳酸の含有量が、好ましくは0.2〜0.4重量%、アセトインの含有量が、乳酸100重量部に対して好ましくは0.03〜0.30重量部、より好ましくは0.03〜0.20重量部、さらに好ましくは0.05〜0.15重量部であることがより望ましい。必要に応じて、別途乳酸、酢酸またはアセトインを添加して、それぞれの含有量を上記範囲となるように調整してもよい。
【0023】
また、本発明の風味改良剤または調味料と飲食品素材とを接触させることにより、風味の改良された飲食品を得ることができる。
例えば、本発明の風味改良剤または調味料をそのまま、または水等により適宜希釈して溶液を調製し、該溶液に食品素材を浸漬して接触させる方法があげられる。この際、得られた溶液中の乳酸の含有量は、0.2〜0.4重量%であることが好ましい。
【0024】
飲食品素材としては、上記飲食品の素材であればいずれでもよいが、キャベツ、ハクサイ、ニンジン、キュウリ、ナス、ダイコン、カブ等の野菜が好ましくあげられる。
以下に本発明の実施例を示す。
【実施例1】
【0025】
白菜を水洗し、3〜4cm角程度に切って得られた各切片を、ほぼ等重量の3%食塩水に浸漬し、冷蔵庫内に24時間放置した。液体部分を除いて得られた白菜切片を、ほぼ等重量の、乳酸および酢酸を第1表に示す量含有し、かつ塩化ナトリウムおよびグルタミン酸ナトリウムをそれぞれ3重量%および1重量%含有する水溶液に浸漬し、冷蔵庫で24時間放置した。液体部分を除き、得られた白菜切片を官能評価に供した。官能評価は、7名のパネラーにより行い、白菜の漬物としての風味の好ましさについて評価した。
【0026】
風味の評価基準を以下に示す。
− :好ましくない
± :やや好ましくない
+ :やや好ましい
++ :好ましい
結果を第1表に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
第1表において白菜の漬物として最も好ましい風味の白菜切片の得られた試験区13における溶液に、第2表に示す量となるようにアセトインを添加する以外は、上記と同様の方法により白菜を処理し、官能試験に供した。
結果を第2表に示す。
なお、風味の評価基準を以下に示す。
±:コントロール(試験区13)と同程度に好ましい
+:コントロールと比べてやや好ましい
++:コントロールと比べて明らかに好ましい
【0029】
【表2】

【0030】
第2表に示されるとおり、乳酸、酢酸(乳酸100重量部に対して50重量部)および
アセトインを含有する水溶液に白菜切片を浸積することにより、白菜の漬物として好ましい風味を有する白菜切片を得ることができた。
【実施例2】
【0031】
ラクトバチルス・プランタラムNBRC-12011株を30mlの乳酸菌接種用培地(ニッスイ社製)に植菌し、37℃で1日間、静置培養した。
得られた培養物を、市販の白菜の搾汁液 (brix50%)15%および酵母エキス2%を含む水溶液1Lに添加し、30℃で5日間培養した。培養中、適宜水酸化ナトリウムを用いて、pHが4.5以下とならないように調整した。培養後、湯せんで85℃まで加熱し、冷却後ろ過した。
【0032】
得られた培養物の上清中の乳酸およびアセトイン量を液体クロマトグラフィーで定量したところ、それぞれ4.9重量%および0.0043重量%であった。
該培養物を6.4重量%、10%酢酸を1.6重量%、塩化ナトリウムを3重量%、およびグルタミン酸ナトリウムを1重量%含有する水溶液を調製し、該水溶液を湯煎で85℃となるまで加熱し、冷却して乳酸を0.31重量%、酢酸を0.16重量%(乳酸100重量部に対して52重量部)およびアセトインを0.00028重量%(乳酸100重量部に対して0.09重量部)含有する風味改良剤を製造した。
【0033】
該風味改良剤を用いる以外は、実施例1と同様の方法で白菜を処理したところ、得られた白菜切片は、白菜の漬物として好ましい風味を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明により、風味改良剤、調味料、風味の改良された飲食品、風味の改良された飲食品の製造方法および飲食品の風味改良方法を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸、酢酸およびアセトインを含有し、かつ酢酸の含有量が乳酸100重量部に対して30〜60重量部である風味改良剤または調味料。
【請求項2】
アセトインの含有量が乳酸100重量部に対して0.03〜0.30重量部である、請求項1記載の風味改良剤または調味料。
【請求項3】
請求項1または2記載の風味改良剤または調味料を飲食品に添加することを特徴とする、飲食品の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の風味改良剤または調味料と飲食品素材とを接触させることを特徴とする、飲食品の製造方法。
【請求項5】
飲食品素材が野菜である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
請求項3〜5いずれか1項に記載の方法により得られる飲食品。
【請求項7】
請求項1または2記載の風味改良剤または調味料を飲食品に添加することを特徴とする、飲食品の風味改良方法。
【請求項8】
風味改良が、発酵風味の付与である、請求項7記載の方法。

【公開番号】特開2007−28930(P2007−28930A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213266(P2005−213266)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(505144588)協和発酵フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】