説明

風味油の製造方法

【課題】従来にはない新鮮な風味と旨味を有する、野菜類や果実類から風味成分を抽出した風味油を提供する。
【解決手段】野菜類及び/又は果実類を食用油脂中で成形加工した後、酵素含有液と混合し、その後油相を分取する風味油の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜類及び/又は果実類から風味成分を抽出した風味油の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長ネギ、タマネギ、生姜、ニンニク等の香味野菜類や、トマト、ニンジン等の野菜類、レモン、オレンジ等の果実類から、動植物油脂を用い、加熱抽出等によりその風味成分を抽出した油脂が、各種食品の製造工程や製品の味付け、香り付け又はコク付けを目的として広く使用されている。これらは、シーズニングオイル、風味油、着香油、調味油、香味油などと呼ばれている。
【0003】
風味油の製造方法としては、例えば、水分60%以上の生野菜を植物油脂と共に加熱した後、油相を採取する方法(特許文献1)、水分30%以下の乾燥ないし半乾燥植物性食品を油脂に加え、加熱した後に油相を採取する方法(特許文献2)、植物性食用油脂を用い、温度等の条件を変化させて多段階で抽出する方法(特許文献3)、食用油脂と風味賦与物を混合し、常圧加熱処理後水分存在下に加圧加熱処理する方法(特許文献4)、野菜等の風味性材料を加熱後に食用油脂に配合し抽出する方法(特許文献5)等、油脂に直接風味成分を抽出する技術が、一般的に知られている。また、野菜ジュースを得る際に酵素処理を行い、その後油脂で抽出する方法(特許文献6)等、酵素を作用させる工程を組み合わせた技術も提案されている。
【特許文献1】特公昭59−4972号公報
【特許文献2】特開平3−254638号公報
【特許文献3】特公平1−39732号公報
【特許文献4】特公平5−81214号公報
【特許文献5】特開平10−262561号公報
【特許文献6】特開2003−135000号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の従来技術は、いずれも野菜類を動植物油脂で抽出する方法であるが、抽出効率を上げるために野菜類を裁断あるいは粉砕して使用するという方法を採っている。しかしながら、野菜類の新鮮な風味は非常に揮散し易いために、切断加工すると直ちに新鮮な風味が揮散して弱くなってしまうという欠点がある。また、野菜類の風味成分の抽出効率を上げるために抽出油の温度を上げたり、また、酵素処理の効率を高めるために酵素反応温度を40〜60℃に上げる等の手段を採ることが多く、その際に新鮮な風味が弱まるという欠点もある。更に、水分含量の低い香味野菜から風味成分を抽出する場合は、搾汁効率を高めるために水を配合することがあるが、水を加えると野菜内に内在している酵素活性が高まり、また加水分解が進行し易くなること等により、新鮮な風味成分が損なわれるという事実が判明した。
【0005】
すなわち、野菜類や果実類から風味成分を抽出して風味油を製造する手段として、以上のような従来の処理方法を用いたのでは、野菜類等の新鮮な風味を十分に抽出することが困難であった。
従って、本発明の目的は、従来にはない新鮮な風味と旨味を有する、野菜類や果実類から風味成分を抽出した風味油の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで本発明者は、上記の課題を解決すべく検討を行った結果、まず食用油脂中で野菜類を成形加工し、この野菜類と食用油脂の混合物に酵素溶液を作用させて酵素処理を行い、その後油相と水相を分離し、油相を回収することにより、従来では実現できなかった新鮮な風味を有する風味油が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、野菜類及び/又は果実類を食用油脂中で成形加工した後、酵素含有液と混合し、その後油相を分取する風味油の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の風味油の製造方法を用いることにより、従来にはない新鮮な風味と旨味を有する、野菜類や果実類から風味成分を抽出した風味油を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の風味油は、その風味成分を野菜類及び/又は果実類(以下、これらを総称する場合は、単に「野菜類等」と表記する)から抽出する。野菜類等の種類としては特に制限はないが、風味が良好である観点から、生鮮野菜類、生鮮果実類が好ましい。野菜類としては、例えば、キャベツ、ホウレンソウ、レタス、シュンギク、小松菜、カラシナ、シソ、セリ、アスパラガス、ニラ、パセリ、ミツバ等の葉菜類;ショウガ、ニンニク、ニンジン、ダイコン、カブ、ゴボウ、ワサビ等の根菜類;タマネギ、長ネギ、フキ、セロリ等の茎菜類;カリフラワー、ブロッコリー、ミョウガ等の花菜類;キュウリ、カボチャ、トマト、ナス、ピーマン、シシトウガラシ等の果菜類等が挙げられる。
【0010】
果実類としては、例えば、スイカ、メロン、マクワウリ等のウリ科の果実;ミカン、オレンジ、ユズ、カボス、スダチ、レモン、ライム等のミカン科果実;モモ、リンゴ、ウメ、スモモ、イチゴ、カリン、ビワ、梨、西洋梨、アンズ等のバラ科果実;バナナ等のバショウ科の果実;パイナップル等のパイナップル科の果実;キウイ等のマタタビ科の果実;アボガト等のクスノキ科の果実;パパイア等のパパイア科の果実等が挙げられる。
【0011】
本発明の風味油の製造方法に使用する野菜類等は、以上例示したような野菜類、果実類から選択される1種でも良いし、2種以上を組み合わせて使用しても良い。また、これらの野菜類等は、その一部に濃縮果汁や乾燥物を含有した形態でも使用することができる。
【0012】
本発明においては、酵素処理をする前に、野菜類等を食用油脂中で成形加工することが必要である。成形加工は、加工用具又は加工機として包丁、ダイスカッター、スライスカッター、ミキサー、粉砕機等、野菜類等の大きさや量等に合わせ、適宜任意のものを選択し、また、食用油脂に含有させる際の粒径等を考慮して、適宜任意の使用条件により成形加工することができる。具体的には、上記加工用具又は加工機を用い、野菜類等を切断、粉砕、破砕またはおろす等により、カット野菜類、カット果実類、おろし野菜類又はおろし果実類とするのが好ましい。
【0013】
加工後の野菜類等の粒径は、0.1〜7mm程度とすることが風味、酵素反応の効率の点から好ましく、更に0.1〜5mm、特に0.1〜3mmとすることが好ましい。ここで、食用油脂中で成形加工する前に、加工用具又は加工機にかけ易いように、予め野菜類等の皮を剥く、適度な大きさに分割する、上下をカットする、洗浄・殺菌処理を行う等の処理(本処理を以下「予備成形加工」という)を行っておくのが好ましい。例えば、野菜類等としてタマネギを用いた場合には、予め皮を剥き、上下をカットした形態に加工後、酸水浴による洗浄・殺菌処理を行っておくのが好ましい。予備成形加工した野菜類等を、例えばホモジナイザー等を用いて食用油脂中で0.1〜1mm程度にカットすることが、食感、製造直後の具材の風味を良好に維持する点から好ましい。ここでいう粒径とは平均粒径をいい、球形の場合は直径(又は長径)の平均、多面体の場合は対角線長の平均をいうが、以下形状に関わらず単に平均粒径と表す。
【0014】
本発明の風味油の製造方法においては、野菜類等の成形加工を、風味を抽出する食用油脂の一部又は全部中で処理(本処理を以下「油中成形加工処理」という)することが必要である。また、予備成形加工する場合には、野菜類等の新鮮さを保つ観点から、野菜類等を予備成形加工した後は速やかに油中成形加工処理することが好ましい。野菜類等の予備成形加工後、油中成形加工処理を開始するまでの時間は120分以下とすることが、野菜類等の新鮮さを保つ点、ならびに静菌性の点から好ましく、更に60分以下、特に30分以下とすることが特に好ましい。また、油中成形加工処理する手段としては、フードカッター、ミキサー、ジューサー、ニーダー、ミル等の適宜な装置を用いることができる。工業的には回転歯が付いた切断成形可能な機器を用いるのが好ましい。例えば、ミキサーMX-X10GM(東芝製)等にて食用油脂中で1〜2分間粉砕加工処理することができる。
【0015】
油中成形加工処理する度合いは、野菜類等の種類や大きさにもよるが、処理後の野菜類等全体の表面が食用油脂で均一に覆われ、かつ野菜類等が変形したり磨り潰されない程度がよい。具体的には、野菜類等の表面に付着した食用油脂が、食用油脂中で成形加工処理開始当初は透明であったものが、野菜類等から溶出した水分と混ざり合い白濁化するまで成形加工処理することが好ましい。この場合、光センサー等の光学式計測器等を用い、食用油脂が白濁することによる反射率の変化を測定等することにより、成形加工処理の終点を見極めることが可能である。更に、脂溶性の色素が内在されている野菜類等においては、油中成形加工処理中に溶出した色素により食用油脂全体が発色するまで処理を行うことも好ましい。この場合、食用油脂を透過する特定の波長の光(具材の内在色素の吸収波長)をモニターすることにより、油中成形加工処理の終点を見極めることが可能である。
【0016】
油中成形加工処理に使用する食用油脂量は、風味油に使用する食用油脂の一部でもよいが、全食用油脂の30質量%(以下、単に「%」で示す)以上、更に50%以上、特に70%以上とするのが、風味油製造直後の野菜類等の新鮮な風味が良好に維持される点から好ましい。
【0017】
また、油中成形加工処理に使用する食用油脂の量は、目的とする風味油の種類によっても任意に設定が可能であるが、野菜類等100質量部(以下、単に「部」で示す)に対して100〜1000部とすることが好ましく、更に150〜500部、特に200〜300部とすることが、野菜類等全体の表面が食用油脂で均一に覆われ、風味油製造直後の野菜類等の新鮮な風味が良好に維持される点から好ましい。また、風味油に使用する食用油脂の全量を使用しても構わない。
【0018】
本発明において使用する食用油脂は、動物性、植物性のいずれでも良く、例えば、動物油としては牛脂、豚脂、魚油等、植物油としては大豆油、パーム油、パーム核油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油、米油等が挙げられ、それらの硬化油も挙げられる。また、中鎖脂肪酸トリグリセライド(MCT)や、これと前記の動植物油とのエステル交換油等も挙げられる。これらの中でも、風味油製造直後の野菜類等の風味を良好に維持する点から、大豆油、綿実油、落花生油、ナタネ油、コーン油、サフラワー油、サンフラワー油等の植物油を用いることが好ましい。
【0019】
成形加工処理した野菜類等が空気に触れると、内在する酵素の作用により内部の成分が速やかに反応し、風味成分に変化が生じて新鮮な味が消失してしまう、変色が生じる等の劣化現象が現れる。本発明においては、油中成形加工処理に使用する食用油脂としてジアシルグリセロールを15%以上含有することが、野菜類等全体の表面を食用油脂で均一に覆うのみならず、前記の劣化現象がより高度に抑制可能であり、風味油製造直後の野菜類等の風味を良好に維持する点、生理効果、油脂の工業的生産性の点、更には、後述する酵素溶液による処理の効果が優れ、野菜類等の新鮮な風味を十分に抽出することができる点から好ましい。食用油脂中のジアシルグリセロール含量は、より好ましくは15〜95%であり、更に好ましくは35〜95%、更に50〜95%、更に70〜93%、特に75〜93%、殊更80〜90%とすることが、同様の点から好ましい。
【0020】
本発明において、食用油脂がジアシルグリセロールを含む場合は、その構成脂肪酸の80〜100%が不飽和脂肪酸であることが好ましく、より好ましくは90〜100%、更に93〜100%、特に93〜98%、殊更94〜98%であるのが外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。ここで、この不飽和脂肪酸の炭素数は14〜24、更に16〜22であるのが好ましい。
【0021】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、オレイン酸の含有量は20〜65%であることが好ましく、更に25〜60%、特に30〜50%、殊更30〜45%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランスの点で好ましい。更に外観、生理効果の点から、ジアシルグリセロール中のジオレイルグリセロールの含有量は、45%未満、更に0〜40%が好ましい。
【0022】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうちリノール酸の含有量は15〜65%、好ましくは20〜60%、更に30〜55%、特に35〜50%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランスの点で好ましい。更に、酸化安定性、生理効果の点から、ジアシルグリセロール中のリノール酸/オレイン酸の含有質量比が0.01〜2、好ましくは0.1〜1.8、特に0.3〜1.7であることが好ましい。
【0023】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうちリノレン酸の含有量は15%未満、好ましくは0〜13%、更に1〜10%、特に2〜9%であるのが外観、脂肪酸の摂取バランス、酸化安定性の点で好ましい。リノレン酸には、異性体としてα−リノレン酸とγ−リノレン酸が知られているが、α−リノレン酸が好ましい。
【0024】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、飽和脂肪酸の含有量は20%未満であることが好ましく、より好ましくは0〜10%、更に0〜7%、特に2〜7%、殊更2〜6%であるのが、外観、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。飽和脂肪酸としては、炭素数14〜24、特に16〜22のものが好ましく、パルミチン酸、ステアリン酸が特に好ましい。
【0025】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、トランス不飽和脂肪酸の含有量は、0〜4%、好ましくは0.1〜3.5%、更に0.2〜3%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0026】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸のうち、共役不飽和脂肪酸の含有量は1%以下であることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.9%、更に0.1〜0.8%、特に0.2〜0.75%、殊更0.3〜0.7%であるのが風味、生理効果、外観、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0027】
ジアシルグリセロールを構成する脂肪酸中、炭素数12以下の脂肪酸の含有量は、風味の点で5%以下であるのが好ましく、更に0〜2%、特に0〜1%、実質的に含まないのが更に好ましい。残余の構成脂肪酸は炭素数14〜24、特に16〜22であるのが好ましい。
【0028】
また、生理効果、保存性、油脂の工業的生産性及び風味の点から、ジアシルグリセロール中の1,3−ジアシルグリセロールの割合が50%以上、更に52〜100%、特に54〜90%、殊更56〜80%であるジアシルグリセロールを用いるのが好ましい。
【0029】
ジアシルグリセロールの起源としては、植物性、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、あまに油、米油、紅花油、綿実油、牛脂、魚油等を挙げることができる。またこれらの油脂を分別、混合したもの、水素添加や、エステル交換反応などにより脂肪酸組成を調整したものも原料として利用できるが、水素添加していないものであることが、食用油脂を構成する全脂肪酸中のトランス不飽和脂肪酸含量を低減させる点から好ましい。また、生理効果、製品が白濁せず外観が良好となる点から、不飽和脂肪酸含有量が高い植物油が好ましく、中でも菜種油、大豆油がより好ましい。
【0030】
本発明において使用される食用油脂は、トリアシルグリセロールを4.9〜84.9%含有することが好ましく、より好ましくは4.9〜64.9%、更に6.9〜39.9%、特に6.9〜29.9%、殊更9.8〜19.8%含有するのが生理効果、油脂の工業的生産性、外観の点で好ましい。
【0031】
本発明において使用される食用油脂に含まれるトリアシルグリセロールの構成脂肪酸は、ジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、生理効果、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0032】
本発明において使用される食用油脂は、モノアシルグリセロールを0.1〜5%含有することが好ましく、より好ましくは0.1〜2%、更に0.1〜1.5%、特に0.1〜1.3%、殊更0.2〜1%含有するのが風味、外観、油脂の工業的生産性等の点で好ましい。電子レンジ調理により加熱されやすいという点でモノアシルグリセロールは0.1%以上含有するのが好ましく、電子レンジ調理中の発煙等安全性の点から5%以下が好ましい。モノアシルグリセロールの構成脂肪酸はジアシルグリセロールと同じ構成脂肪酸であることが、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0033】
また、本発明において使用される食用油脂に含まれる遊離脂肪酸(塩)含量は、5%以下に低減されるのが好ましく、より好ましくは0〜3.5%、更に0〜2%、特に0.01〜1%、特に0.05〜0.5%とするのが風味、油脂の工業的生産性の点で好ましい。
【0034】
本発明の風味油の製造方法においては、野菜類等を食用油脂中で成形加工した後、酵素含有液と混合することが必要である。酵素としては、セルラーゼ、グルタミナーゼ、ペクチナーゼ及びプロテアーゼから選択される1種又は2種以上を用いることが、野菜類等の新鮮な風味が十分に抽出され、従来にはない新鮮な風味と旨味を有する風味油とする点から好ましい。セルラーゼとしては、例えば、セルロシンAC−40(日本エイチビーアイ(株))等が挙げられる。グルタミナーゼとしては、例えば、グルタミナーゼダイワ(大和化成(株))等が挙げられる。ペクチナーゼとしては、例えば、スクラーゼN(三共(株))等が挙げられる。プロテアーゼとしては、例えば、プロテアーゼ「アマノ」G(天野エンザイム(株))等が挙げられる。また、本願でいう酵素含有液は、酵素が完全に溶解している溶液状態の他、酵素の分散液、懸濁液の状態も含む。
【0035】
酵素の使用量は、野菜類等の種類、酵素の力価によっても異なるが、例えば、野菜類等100部に対して0.01〜5部とすることが、野菜類等の新鮮な風味が十分に抽出される点から好ましい。酵素の使用量は、更に野菜類等100部に対して0.01〜4部、特に0.01〜3部とすることが好ましい。また、酵素含有液中の酵素含有量は、0.01〜3%、更に0.01〜2%、特に0.01〜1.5%とすることが、野菜類等の新鮮な風味が十分に抽出される点から好ましい。
【0036】
成形加工した野菜類を酵素含有液と混合後、酵素反応が行われるよう処理することが好ましい。処理条件は、野菜類等の種類、酵素の種類によっても異なるが、例えば20〜60℃の温度で、1〜24時間とし、操作は、静置又は攪拌する方法が挙げられる。温度は、更に35〜60℃、特に37〜50℃、時間は更に6〜30時間、特に8〜24時間とすることが好ましい。攪拌は、密閉容器中で、マグネチックスターラー等を用いて行うことが好ましい。
【0037】
酵素含有液のpHは3.5〜8とすることが、野菜類等の新鮮な風味が十分に抽出される点から好ましく、更に3.8〜5、特に3.9〜4.5とすることが好ましい。また、酵素含有液は、pHを最適範囲に調整し、野菜類等の新鮮な風味が十分に抽出される点から、有機酸及びその有機酸ナトリウム塩を含むことが好ましい。有機酸は、炭素数が2〜6の範囲のものが好ましい。具体的には、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸及びコハク酸から選択される1又は2以上のものを用いることが好ましく、中でも酢酸及び酢酸ナトリウムを用いることが、pHを最適範囲に調整し、野菜類等の新鮮な風味が十分に抽出される点から好ましい。酵素含有液中の有機酸の含有量は、0.01〜3%、更に0.05〜3%、特に1〜2.6%とすることが、pHを最適範囲に調整し、野菜類等の新鮮な風味が十分に抽出される点から好ましい。
【0038】
酵素含有液にて処理した後は油相を分取することが必要である。油相を分取する手段としては、例えば、遠心分離、静置分離等の方法を採用することができる。得られた油相は、細孔径1μm程度のフィルター等にて濾過することにより、野菜類等の固形物を除去することが、従来にはない新鮮な風味と旨味を長期間維持する点から好ましい。
【0039】
本発明において、野菜類等の油中成形加工処理に使用する食用油脂として、風味油に使用する食用油脂の一部を用いた場合には、酵素含有液にて処理した後、又は当該処理液から野菜類等の固形物を除去した後に、残りの食用油脂を混合することが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法により得られる風味油は、例えば、風味調味料、たれ類、ドレッシング、パスタソース等の液体調味料;スープ類;調理食品;総菜類;スナック類;珍味類等の広い食品に利用することができる。これらの食品に対する配合量は、例えば0.01〜10%、更に0.05〜5%、特に0.08〜3%とすることが、本発明の風味油の特徴である従来にはない新鮮な風味と旨味を付与する点から好ましい。
【実施例】
【0041】
実施例1及び2
市販の北海道産のタマネギL玉を、包丁を用いて予め手作業で頭部と根部を切断加工後、4分割し、予備成形加工した。予備成形加工の15分後に、加工したタマネギ200gに、表1に示した食用油脂300gを投入し、ブレンダーを用いてHiスピードにて30秒間処理し、油中成形加工処理した。処理後のタマネギの平均粒径は1mmであった。密閉された1Lガラス容器中に、0.1mol/L酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液500mL(pH4.2)、及びセルラーゼとしてセルロシンAC−40(エイチビーアイ(株))を1%となるように添加し、攪拌して分散させ、酵素含有液を得た。その酵素含有液に、先に油中成形加工処理したタマネギと食用油脂の混合物を全量投入し、40℃恒温槽中、マグネチックスターラーにて750rpmで攪拌しながら約15時間酵素反応を行った。反応終了後、反応液を分液漏斗に入れて2時間静置し、下層の水相部を除去し、上層部の風味油を分取した。得られた風味油を、フィルターを取り付けたガラス濾過器にて吸引濾過し、清澄なタマネギ風味の風味油(本発明品1及び2)200gを得た。
なお、本願実施例において、前記「ブレンダー」はコマーシャルブレンダーFMI(ワーニング・プロダクツ社)、前記「フィルター」は細孔径1.0μmPTFEフィルター(日本ミリポア(株))を使用した(以下同じ)。
【0042】
比較例1
実施例1及び2と同じように予備成形加工したタマネギ200gを、ブレンダーを用いてHiスピードにて30秒間処理し、タマネギ粉砕物を得た。粉砕後のタマネギの平均粒径は1mmであった。密閉された1Lガラス容器中に、0.1mol/L酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液500mL(pH4.2)、及びセルラーゼとしてセルロシンAC−40(エイチビーアイ(株))を1%となるように添加し、攪拌して分散させ、酵素含有液を得た。その酵素含有液に、先に調製したタマネギ粉砕物を全量投入して分散するまで攪拌し、次いで表1に示した食用油脂300gを添加して、40℃恒温槽中、マグネチックスターラーにて750rpmで攪拌しながら約15時間酵素反応を行った。反応終了後、反応液を分液漏斗に入れて2時間静置し、下層の水相部を除去し、上層部の風味油を分取した。得られた風味油を、フィルターを取り付けたガラス濾過器にて吸引濾過し、清澄なタマネギ風味の風味油(比較品1)200gを得た。
【0043】
比較例2
実施例1及び2と同じように予備成形加工したタマネギ200gを、ブレンダーを用いてHiスピードにて30秒間処理し、タマネギ粉砕物を得た。粉砕後のタマネギの平均粒径は1mmであった。密閉された1Lガラス容器中に、0.1mol/L酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液500mL(pH4.2)、及びセルラーゼとしてセルロシンAC−40(エイチビーアイ(株))を1%となるように添加し、攪拌して分散させ、酵素含有液を得た。その酵素含有液に、先に調製したタマネギ粉砕物を全量投入し、40℃恒温槽中、マグネチックスターラーにて750rpmで攪拌しながら約15時間酵素反応を行った。その後、表1に示した食用油脂300gを投入し、同じ条件にて更に1時間攪拌した。その溶液の全量を分液漏斗に入れて2時間静置し、下層の水相部を除去し、上層部の風味油を分取した。得られた風味油を、フィルターを取り付けたガラス濾過器にて吸引濾過し、清澄なタマネギ風味の風味油(比較品2)200gを得た。
【0044】
実施例3
市販のトマトを、包丁を用いて予め手作業でヘタと葉の部分を切断加工後、4分割し、予備成形加工した。予備成形加工の15分後に、加工したトマト100gに、表2に示した食用油脂300gを投入し、ブレンダーを用いてHiスピードにて60秒間処理し、油中成形加工処理した。処理後のトマトの平均粒径は1mmであった。密閉された1Lガラス容器中に、0.1mol/L酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液500mL(pH4.8)、及びヘミセルラーゼとしてセルロシンT25(エイチビィアイ(株))を0.3%となるように添加し、攪拌して分散させ、酵素含有液を得た。その酵素含有液に、先に油中成形加工処理したトマトと食用油脂の混合物を全量投入し、40℃恒温槽中、マグネチックスターラーにて750rpmで攪拌しながら約15時間酵素反応を行った。反応終了後、反応液を分液漏斗に入れて2時間静置し、下層の水相部を除去し、上層部の風味油を分取した。得られた風味油を、フィルターを取り付けたガラス濾過器にて吸引濾過し、清澄なトマト風味の風味油(本発明品3)200gを得た。
【0045】
実施例4
市販のショウガを、包丁を用いて予め手作業で痛んだ部分など不要な部分を除去後、約20mm大に切断加工し、予備成形加工した。予備成形加工の15分後に、加工したショウガ100gに、表2に示した食用油脂300gを投入し、ブレンダーを用いてHiスピードにて120秒間処理し、油中成形加工処理した。処理後のショウガの平均粒径は2mmであった。その後は実施例3と同様の処理を行い、清澄なショウガ風味の風味油(本発明品4)200gを得た。
【0046】
実施例5
市販のニンニクを、包丁を用いて予め手作業で外皮を除去し、実の部分を取り出し、予備成形加工した。予備成形加工の15分後に、加工したニンニク32gに、表2に示した食用油脂300gを投入し、ブレンダーを用いてHiスピードにて30秒間処理し、油中成形加工処理した。処理後のニンニクの平均粒径は1mmであった。その後は実施例3と同様の処理を行い、清澄なニンニク風味の風味油(本発明品5)200gを得た。
【0047】
実施例6
市販のニンジンを、包丁を用いて予め手作業でヘタ部分と皮を切断加工後、約20mm大に分割し、予備成形加工した。予備成形加工の30分後に、加工したニンジン100gに、表2に示した食用油脂300gを投入し、ブレンダーを用いてHiスピードにて120秒間処理し、油中成形加工処理した。処理後のニンジンの平均粒径は1mmであった。その後は実施例3と同様の処理を行い、清澄なニンジン風味の風味油(本発明品6)200gを得た。
【0048】
比較例3
実施例3と同じように予備成形加工したトマト100gを、ブレンダーを用いてHiスピードにて60秒間処理し、トマト粉砕物を得た。粉砕後のトマトの平均粒径は1mmであった。密閉された1Lガラス容器中に、0.1mol/L酢酸/酢酸ナトリウム緩衝液500mL(pH4.2)、及びヘミセルラーゼとしてセルロシンT25(エイチビィアイ (株))を0.3%となるように添加し、攪拌して分散させ、酵素含有液を得た。その酵素含有液に、先に調製したトマト粉砕物を全量投入し、40℃恒温槽中、マグネチックスターラーにて750rpmで攪拌しながら約15時間酵素反応を行った。その後、表2に示した食用油脂300gを投入し、同じ条件にて更に1時間攪拌した。その溶液の全量を分液漏斗に入れて2時間静置し、下層の水相部を除去し、上層部の風味油を分取した。得られた風味油を、フィルターを取り付けたガラス濾過器にて吸引濾過し、清澄なトマト風味の風味油(比較品3)200gを得た。
【0049】
比較例4
実施例4と同じように予備成形加工したショウガ100gを、ブレンダーを用いてHiスピードにて120秒間処理し、ショウガ粉砕物を得た。粉砕後のショウガの平均粒径は2mmであった。その後は比較例3と同様の処理を行い、清澄なショウガ風味の風味油(比較品4)200gを得た。
【0050】
比較例5
実施例5と同じように予備成形加工したニンニク32gを、ブレンダーを用いてHiスピードにて30秒間処理し、ニンニク粉砕物を得た。粉砕後のニンニクの平均粒径は1mmであった。その後は比較例3と同様の処理を行い、清澄なニンニク風味の風味油(比較品5)200gを得た。
【0051】
比較例6
実施例6と同じように予備成形加工したニンジン100gを、ブレンダーを用いてHiスピードにて120秒間処理し、ニンジン粉砕物を得た。粉砕後のニンジンの平均粒径は1mmであった。その後は比較例3と同様の処理を行い、清澄なニンジン風味の風味油(比較品6)200gを得た。
【0052】
実施例7
実施例1におけるセルラーゼをペクチナーゼ(セルロシンPC5、エイチビーアイ(株))に代え、0.15%溶液とした以外は実施例1と同様の処理を行い、清澄なタマネギ風味の風味油(本発明品7)200gを得た。
【0053】
実施例8
実施例1におけるセルラーゼをプロテアーゼ(プロテアーゼAアマノG、天野エンザイム(株))に代え、0.85%溶液とした以外は実施例1と同様の処理を行い、清澄なタマネギ風味の風味油(本発明品8)200gを得た。
【0054】
実施例9
実施例1におけるセルラーゼをグルタミナーゼ(グルタミナーゼ ダイワ、大和化成(株))に代え、0.05%溶液とした以外は実施例1と同様の処理を行い、清澄なタマネギ風味の風味油(本発明品9)200gを得た。
【0055】
比較例7
比較例2におけるセルラーゼをペクチナーゼ(セルロシンPC5、エイチビィアイ(株))に代え、0.15%溶液とした以外は比較例2と同様の処理を行い、清澄なタマネギ風味の風味油(比較品7)200gを得た。
【0056】
比較例8
比較例2におけるセルラーゼをプロテアーゼ(プロテアーゼA アマノG、天野エンザイム(株))に代え、0.85%溶液とした以外は比較例2と同様の処理を行い、清澄なタマネギ風味の風味油(比較品8)200gを得た。
【0057】
比較例9
比較例2におけるセルラーゼをグルタミナーゼ(グルタミナーゼ ダイワ、大和化成(株))に代え、0.05%溶液とした以外は比較例2と同様の処理を行い、清澄なタマネギ風味の風味油(比較品9)200gを得た。
【0058】
〔食用油脂〕
食用油脂として、次の2種類の油脂を使用した。なお、下記TAGはトリアシルグリセロール、DAGはジアシルグリセロール、MAGはモノアシルグリセロールを意味する。
・DAG高含有油脂:エコナクッキングオイル(花王(株)/TAG:15%、DAG:84%、MAG:1%)
・TAG主体の油脂:市販ひまわり油(味の素(株)/TAG:97%、DAG:3%、MAG:0%)
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
【表3】

【0062】
〔風味評価〕
実施例及び比較例にて得られた風味油について、専門パネル5名により、次に示す評価基準にて風味の官能評価を行い、5名の平均値を結果とした。
【0063】
〔評価基準〕
5:新鮮な風味が明らかに感じられ、旨味が強くおいしい
4:新鮮な風味が感じられ、旨味がありおいしい
3:新鮮な風味がやや感じられ、旨味の存在があるのがわかる
2:新鮮な風味はないが素材の味が感じられ、旨味もあるがあまりおいしくない
1:新鮮な風味も旨味もないが、素材の味が感じられるがおいしくない
【0064】
表1〜表3に示した結果から、実施例の方法により製造された本発明品1及び2の風味油は、いずれも新鮮なタマネギの風味を有し、旨味も強く、本発明品1においてその傾向がより強かった。一方、空気中で成形加工後に食用油脂存在下で酵素処理して得られた比較例1の方法により製造された比較品1、及び空気中で成形加工し、酵素処理し、次いで食用油脂を添加して得られた比較例2の方法により製造された比較品2の風味油は、いずれも新鮮なタマネギの風味に欠け、旨味も弱く、比較品2においてその傾向がより強かった。
また、他の野菜類についても、実施例3〜6の方法により製造された本発明品3〜6の風味油は、比較品3〜6に比べていずれも新鮮な素材の風味を有し、旨味も強かった。
更に、タマネギを素材として種々の酵素を用い、実施例7〜9の方法により製造された本発明品7〜9の風味油は、比較品7〜9に比べていずれも新鮮なタマネギの風味を有し、旨味も強かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜類及び/又は果実類を食用油脂中で成形加工した後、酵素含有液と混合し、その後油相を分取する風味油の製造方法。
【請求項2】
酵素が、セルラーゼ、ヘミセルラーゼ、グルタミナーゼ、ペクチナーゼ及びプロテアーゼから選択される1又は2以上のものである請求項1記載の風味油の製造方法。
【請求項3】
酵素含有液が、有機酸及びその有機酸ナトリウム塩を含む請求項1又は2記載の風味油の製造方法。
【請求項4】
有機酸が、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、酒石酸及びコハク酸から選択される1又は2以上のものである請求項3記載の風味油の製造方法。
【請求項5】
食用油脂が、ジアシルグリセロールを15質量%以上含有するものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の風味油の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の製造方法により得られる風味油。
【請求項7】
請求項6の風味油を含有する食品。
【請求項8】
食品が液体調味料である請求項7記載の食品。

【公開番号】特開2008−92916(P2008−92916A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281566(P2006−281566)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】