風水車及び風水車の設計方法
【課題】翼が低速で運動し、街中に安心して設置できる風車を提供する。
【解決手段】風の主流20に対して略直交するように配置される回転軸10と、この主流20により揚力が発生する断面形状を有する翼13と、を備え、翼13に発生する揚力及び抗力の作用で回転軸10を回転させる風車であって、翼13が、複数の節を有するリンク機構11、12、14を介して回転軸10に結合され、リンク機構の翼の固定位置19が、回転軸10の一回転に伴って8の字状の軌道曲線を画くことを特徴とする。この風車は、翼が低速で運動し、安全性が高い。この風車は、翼面積を増やすことで発生エネルギを増加させることができる。回転数が極めて低いため、風車騒音(羽根の風切り音や低周波騒音など)が発生しない。
【解決手段】風の主流20に対して略直交するように配置される回転軸10と、この主流20により揚力が発生する断面形状を有する翼13と、を備え、翼13に発生する揚力及び抗力の作用で回転軸10を回転させる風車であって、翼13が、複数の節を有するリンク機構11、12、14を介して回転軸10に結合され、リンク機構の翼の固定位置19が、回転軸10の一回転に伴って8の字状の軌道曲線を画くことを特徴とする。この風車は、翼が低速で運動し、安全性が高い。この風車は、翼面積を増やすことで発生エネルギを増加させることができる。回転数が極めて低いため、風車騒音(羽根の風切り音や低周波騒音など)が発生しない。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車または水車と、その設計方法に関し、リンク機構を組み込むことで風水車の低速運動を可能にしたものである。
【背景技術】
【0002】
近年、風力エネルギを発電などに利用するため、下記特許文献1に記載されているように、各種形状の風車が開発されている。風車は、回転軸の方向で分類すると、水平軸(主にプロペラ)型と垂直軸型の二つに大別される。また、風車のトルク発生形態からみると、風車の翼に生じる抗力を利用するものと、揚力を利用する形式とに分類できる。
風力発電には、揚力を利用する水平軸型のプロペラ型風車が主に利用されている。風車から得られるエネルギは「トルク×回転角速度」で表されるが、プロペラ型風車では、トルクはあまり増加させずに、回転角速度の増加によりエネルギの増加を図っており、そのため、高い周速比λで運転が行われている。
なお、周速比λは、次式で表される。
λ=Ω・r/V
(ただし、Ω:回転角速度(rad/s)、r:ロータ半径(m)、V:風速(m/s))
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−247577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、周速比λが高い風車は、翼の先端が高速で回転するため、安全性を重視した場合に、街中への設置が難しい。また、風車の回転に伴って発生する風切り音や低周波騒音は、多くの人々に不快感を与えるため、風車の設置場所が制限される。
【0005】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、翼が低速で運動し、街中に安心して設置することができる風車または水車(風水車)を提供し、また、その風水車の設計方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、流体の主流に対して略直交するように配置される回転軸と、この主流により揚力が発生する断面形状を有する翼と、を備え、翼に発生する揚力及び抗力の作用で回転軸を回転させる風水車であって、翼が、複数の節を有するリンク機構を介して回転軸に結合され、リンク機構の翼の固定位置が、回転軸の一回転に伴って8の字状の軌道曲線を画くことを特徴とする。
この風水車では、翼が主流風速の約10分の1の速度で低速運動することが可能である。この風水車のエネルギは、回転軸の回転数には依らず、トルクを増やす(即ち、翼面積を増やす)ことで増大化できる。
【0007】
また、本発明の風水車では、前記リンク機構が、回転軸に固定され、回転軸を中心に回転可能な第1のリンクと、第1のリンクに対して一端が第1のピンにより回転可能に結合された第2のリンクと、第2のリンクと同じ長さを有し、その一端が、第2のリンクの他端に、その第2のリンクと一定の角度を保つように結合された第3のリンクと、第2のリンク及び第3のリンクの結合箇所に一端が第2のピンにより回転可能に結合され、他端が固定位置に回転可能に支持された第4のリンクと、を有し、翼が、第3のリンクの他端に固定される。
翼は、2次元面内で運動し、翼が固定された第3のリンクの他端は、8の字状の軌道曲線を画く。
【0008】
また、本発明の風水車では、前記リンク機構の第1のリンクを、回転軸を中心に回転可能な円板で構成し、第2のリンク及び第3のリンクを、二等辺三角形状の板体で構成し、板体の二等辺で挟まれた頂角位置に設けた第2のピンで第4のリンクの一端を回転可能に結合し、板体の二つの等角の内、一方の等角の位置に翼を固定し、他方の等角の位置に設けた第1のピンで円板を回転可能に結合することができる。
このリンク機構は、Chebyshev−dyad機構と呼ばれている。
【0009】
また、本発明は、流体の主流に対して略直交するように配置される回転軸と、この主流により揚力が発生する断面形状を有する翼と、を備え、翼が、複数の節を持つリンク機構を介して回転軸に結合され、翼を固定したリンク機構の固定位置が、回転軸の一回転に伴って8の字状の軌道曲線を画く風水車の設計方法であって、軌道曲線の各点の接線方向と、前記点に対応する位置の翼に発生する揚力及び抗力の合力方向との余弦を計算し、余弦の値が1に近付くようにリンク機構を設定することを特徴とする。
この余弦の値が1に近いほど、翼に作用する合力を、翼の運動軌道に沿わせて有効に利用できることとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、翼が低速で運動する、安全性が高い風水車を得ることができる。この風水車は、翼面積を増やすことで発生エネルギを増加させることができる。風水車が高速回転しないため、遠心力から発生する材料破壊の懸念が解消される。また、回転数が極めて低いため、風車騒音(羽根の風切り音や低周波騒音など)が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る風車を示す図
【図2】図1の風車の動作を説明する図
【図3】図1の風車における各部の距離・角度を示す図
【図4】図1の風車の設計方法を説明する図
【図5】図1の風車の特性(余弦値)を示す図
【図6】図1の風車の特性(ベクトルp・qの内積)を示す図
【図7】比較例の風車の構成を示す図
【図8】図7の風車の時間に対するトルクを示す図
【図9】実施例の風車の諸元を示す図
【図10】実施例の風車の始動からの回転数の推移を示す図
【図11】実施例の風車の各種風速での回転数(a)と翼の移動速度(b)を示す図
【図12】実施例の風車の移動速度比を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る風車は、図1に示すように、回転軸10と、回転軸10に直交する風20の流れ(主流)により揚力が発生する断面形状を備えた翼13と、回転軸10に固定されたフライホイール(円板)11と、フライホイール11にピン15で回動可能に枢支された三角板12と、三角板12にピン16で枢支された揺動リンク14と、回転軸10を軸支するとともに揺動リンク14の一端をピン17で枢支する固定リンク18とを備えている。
【0013】
三角板12は、二等辺三角形の形状を有し、二等辺の挟角位置で揺動リンク14の他端をピン16で枢支し、二つの等角の内、一方の等角位置でピン15によりフライホイール11と回動可能に結合し、他方の等角位置で固定具19により翼13を固定している。
このフライホイール11、三角板12、揺動リンク14及び固定リンク18から成るリンク機構は、Chebyshev−dyad機構と呼ばれている。このリンク機構で回転軸10に結合された翼13は、2次元面内(紙面内)での運動を行う。
【0014】
図2は、回転軸10が一回転する間の4箇所の位置でのフライホイール11、三角板12、揺動リンク14及び翼13の状態を示している。図2(a)の位置からフライホイール11が回転すると図2(b)の状態に変わり、さらにフライホイール11が回転すると図2(c)の状態に移り、さらに回転すると図2(d)の状態になる。こうしてフライホイール11が一回転するごとに、図2(a)→図2(b)→図2(c)→図2(d)の遷移を繰り返す。
図中に示す8の字状の線50は、三角板12に固定された翼13の固定位置(19)の軌跡を示している。このように、翼13の固定位置(19)は、回転軸10の一回転に伴って8の字状の軌道曲線50を画く。
【0015】
また、図中では、風の主流20により翼13に発生する揚力を矢印Lで、抗力を矢印Dで、また、揚力と抗力との合力を矢印Qで示している。図2(b)及び(d)では、抗力が0のため、揚力Lと合力Qとが一致している。
即ち、図2(a)では、翼13に正の揚力Lと抗力Dとが発生しているが、図2(a)から図2(b)に移る間に、翼13に発生する揚力L及び抗力Dが徐々に減少し、図2(b)の状態で抗力Dが0に、揚力Lが負の揚力に切り替わる。図2(b)から図2(c)に移る間に、翼13に発生する負の揚力Lが徐々に増大し、抗力Dも僅かに発生する。図2(c)から図2(d)に移る間に、翼13に発生する負の揚力L及び抗力Dが徐々に減少し、図2(d)の状態で抗力Dが0に、揚力Lが正の揚力に切り替わる。図2(d)から図2(a)に移る間に、翼13に発生する正の揚力L及び抗力Dが徐々に増大する。
翼13に発生する揚力D及び抗力Dは、翼13の迎え角によって決まる。
【0016】
図3に示すように、このリンク機構は、回転軸0からピン15の位置Aまでを長さL1の第1リンク(O−A)、位置Aからピン16の位置Bまでを長さL4の第2リンク(A−B)、位置Bから翼13の固定点19の位置Kまでを長さL4の第3リンク(B−K)、位置Bからピン17の位置Cまでを長さL2の第4リンク(B−C)、回転軸0から位置Cまでを長さL3の固定リンク(O−C)と見ることができ、翼13の取り付け角度(直線(A−K)との角度)をα0、第2リンク(A−B)と第3リンク(B−K)との成す角度をΨとすると、翼13の迎え角αは、次の(数1)によって求めることができる。
【数1】
ここで、θ1は、第1リンク(O−A)と固定リンク(O−C)との角度、θWは、(O−C)方向に対する主流の角度である。
【0017】
このリンク機構のL1、L2、L3、L4、α0、θW及びΨの値は、次のように設定する。
L1、L2、L3、L4、α0、θW及びΨの値としてある値を設定し、図4に示すように、そのときに翼13の固定位置Kが画く8の字状の軌道曲線を求める。
次に、軌道曲線上の点を選択し、その点における軌道曲線の接線ベクトルpを求める。
次に、その点に対応する位置での翼13の迎え角αを(数1)から求め、求めた迎え角αの翼13に加わる揚力L及び抗力Dを公知の計算式を使って計算し、合力Qのベクトルqを得る。
次に、ベクトルpとベクトルqとの内積を計算し、次式(数2)により、ベクトルpとベクトルqとが成す角の余弦γを求める。
【数2】
この余弦γの値を軌道曲線上の複数の点において求め、各点での余弦γの値が1に近い値を取るようにL1、L2、L3、L4、α0、θW及びΨの値を設定する。
【0018】
このように「軌道曲線の接線方向」と「翼に発生する静的な合力の向き」との余弦を1に近付けることにより、翼力を翼の軌道運動に沿わせ、それにより、翼力の有効利用を図ることができる。
こうした設計方法を用いてL1:L2:L3:L4=1:2:3:2、α0=80°、θW=90°、Ψ=70°に設定した風車の解析結果を図5、図6に示している。図5では、横軸に第1リンク(O−A)と固定リンク(O−C)との角度θ1を取り、縦軸にcosγの値を示している。また、図6では、横軸に角度θ1を取り、縦軸にp・qの内積を示している。
【0019】
図5、図6から明らかなように、第1リンク(O−A)が回転軸Oの周りを一周する角度範囲の大部分において、「軌道曲線の接線方向」と「翼に発生する静的な合力の向き」とは順方向を維持している。図5の図中に示す丸1は図2(a)の位置を表し、丸2は図2(b)の位置、丸3は図2(c)の位置、丸4は図2(d)の位置、をそれぞれ表しているが、「軌道曲線の接線方向」と「翼に発生する静的な合力の向き」との関係が逆方向になるのは、揚力が正から負に切り替わる図2(b)の状態、及び、揚力が負から正に切り替わる図2(d)の状態だけである。1サイクルでの余弦値の平均値は0.690である。
【0020】
「軌道曲線の接線方向」と「翼に発生する静的な合力の向き」とが順方向を維持している状態では、回転方向に力が沿い、正のトルクが発生している。一方、それらの関係が逆方向になるときは、負のトルクが発生している。
この風車では、正のトルクの発生範囲が広く、負のトルクの発生範囲は極めて狭い。このように、広い正トルクの発生範囲が得られるのは、翼の固定位置の軌道曲線が8の字を画いているためである。
【0021】
ちなみに、本発明者は、本発明に至る前段階で、図7に示す風車を製作した。この風車は、リンク機構として、フライホイール61と、フライホイール61に結合された回転軸62と、回転軸62の中間点の動きを上下方向に拘束するスライダ機構63とを有しており、回転軸62の先端に翼64が固定されている。この風車は、翼64の固定位置が楕円に近似した軌道曲線を画く。図8には、この風車の回転開始からのトルク変化を示しているが、負トルクは、正トルクと同程度発生しており、効率的な回転が得られない。
これに対し、翼の固定位置の軌道曲線が8の字を画く風車は、正トルクの発生期間が長いため、効率的に回転する。これは風洞実験によっても確かめられている。
【0022】
風洞実験に用いるため、風車の実施例として、L1:L2:L3:L4=1:2:3:2、α0=80°、θW=90°、Ψ=70°に設定した風車を図9に示す諸元で製作し、この風車を出口寸法400mm×500mmの風洞内に置いて測定した。この風車は、風速4m/sの風で回転した。このときの回転数の時間推移を図10に示している。回転数は、均一ではなく、50rpmから140rpmの間を変動している。
【0023】
また、図11(a)は、風速を4m/s、5m/s、6m/sに変えたときの風車回転数の時間推移を示している。
また、図11(b)は、図11(a)の測定結果を基に算出した翼の移動速度を示している。
図11(b)から、移動速度比(=(翼の平均移動速度)/(主流風速))を求めた結果を図12に示している。
この結果から、翼は、主流風速に対して約10分の1程度の速度で低速運動を行っていることが分かる。
【0024】
このように、この風車は、翼が低速で運動するため、安全性が高い。また、回転数が極めて低いため、従来、風車騒音として問題視されている羽根の風切り音や低周波騒音が全く発生しない。遠心力から発生する材料破壊の懸念も無い。そのため、この風車は、安心して街中に設置することができる。モニュメントとしての利用も可能である。
この風車の発生エネルギは、翼面積を広げ、トルクを増やすことで増大化させることができる。
この風車の回転数は、均一ではないが、風車エネルギを利用する装置の側で対応が可能である。
なお、ここで示したリンク機構や、その寸法・形状は、一例であって、本発明はそれに限定されるものではない。
また、ここでは、専ら風車について説明したが、本発明は、水車にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の風水車は、街中や人の集まる場所などに広く設置して、風力や水力からエネルギを引き出す装置として、あるいは、興味を引く翼の動きを示す装置として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0026】
10 回転軸
11 フライホイール(円板)
12 三角板
13 翼
14 揺動リンク
15 ピン
16 ピン
17 ピン
18 固定リンク
20 風の主流
50 8の字状軌道曲線
61 フライホイール
62 回転軸
63 スライダ機構
64 翼
L 揚力
D 抗力
Q 合力
【技術分野】
【0001】
本発明は、風車または水車と、その設計方法に関し、リンク機構を組み込むことで風水車の低速運動を可能にしたものである。
【背景技術】
【0002】
近年、風力エネルギを発電などに利用するため、下記特許文献1に記載されているように、各種形状の風車が開発されている。風車は、回転軸の方向で分類すると、水平軸(主にプロペラ)型と垂直軸型の二つに大別される。また、風車のトルク発生形態からみると、風車の翼に生じる抗力を利用するものと、揚力を利用する形式とに分類できる。
風力発電には、揚力を利用する水平軸型のプロペラ型風車が主に利用されている。風車から得られるエネルギは「トルク×回転角速度」で表されるが、プロペラ型風車では、トルクはあまり増加させずに、回転角速度の増加によりエネルギの増加を図っており、そのため、高い周速比λで運転が行われている。
なお、周速比λは、次式で表される。
λ=Ω・r/V
(ただし、Ω:回転角速度(rad/s)、r:ロータ半径(m)、V:風速(m/s))
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−247577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、周速比λが高い風車は、翼の先端が高速で回転するため、安全性を重視した場合に、街中への設置が難しい。また、風車の回転に伴って発生する風切り音や低周波騒音は、多くの人々に不快感を与えるため、風車の設置場所が制限される。
【0005】
本発明は、こうした事情を考慮して創案したものであり、翼が低速で運動し、街中に安心して設置することができる風車または水車(風水車)を提供し、また、その風水車の設計方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、流体の主流に対して略直交するように配置される回転軸と、この主流により揚力が発生する断面形状を有する翼と、を備え、翼に発生する揚力及び抗力の作用で回転軸を回転させる風水車であって、翼が、複数の節を有するリンク機構を介して回転軸に結合され、リンク機構の翼の固定位置が、回転軸の一回転に伴って8の字状の軌道曲線を画くことを特徴とする。
この風水車では、翼が主流風速の約10分の1の速度で低速運動することが可能である。この風水車のエネルギは、回転軸の回転数には依らず、トルクを増やす(即ち、翼面積を増やす)ことで増大化できる。
【0007】
また、本発明の風水車では、前記リンク機構が、回転軸に固定され、回転軸を中心に回転可能な第1のリンクと、第1のリンクに対して一端が第1のピンにより回転可能に結合された第2のリンクと、第2のリンクと同じ長さを有し、その一端が、第2のリンクの他端に、その第2のリンクと一定の角度を保つように結合された第3のリンクと、第2のリンク及び第3のリンクの結合箇所に一端が第2のピンにより回転可能に結合され、他端が固定位置に回転可能に支持された第4のリンクと、を有し、翼が、第3のリンクの他端に固定される。
翼は、2次元面内で運動し、翼が固定された第3のリンクの他端は、8の字状の軌道曲線を画く。
【0008】
また、本発明の風水車では、前記リンク機構の第1のリンクを、回転軸を中心に回転可能な円板で構成し、第2のリンク及び第3のリンクを、二等辺三角形状の板体で構成し、板体の二等辺で挟まれた頂角位置に設けた第2のピンで第4のリンクの一端を回転可能に結合し、板体の二つの等角の内、一方の等角の位置に翼を固定し、他方の等角の位置に設けた第1のピンで円板を回転可能に結合することができる。
このリンク機構は、Chebyshev−dyad機構と呼ばれている。
【0009】
また、本発明は、流体の主流に対して略直交するように配置される回転軸と、この主流により揚力が発生する断面形状を有する翼と、を備え、翼が、複数の節を持つリンク機構を介して回転軸に結合され、翼を固定したリンク機構の固定位置が、回転軸の一回転に伴って8の字状の軌道曲線を画く風水車の設計方法であって、軌道曲線の各点の接線方向と、前記点に対応する位置の翼に発生する揚力及び抗力の合力方向との余弦を計算し、余弦の値が1に近付くようにリンク機構を設定することを特徴とする。
この余弦の値が1に近いほど、翼に作用する合力を、翼の運動軌道に沿わせて有効に利用できることとなる。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、翼が低速で運動する、安全性が高い風水車を得ることができる。この風水車は、翼面積を増やすことで発生エネルギを増加させることができる。風水車が高速回転しないため、遠心力から発生する材料破壊の懸念が解消される。また、回転数が極めて低いため、風車騒音(羽根の風切り音や低周波騒音など)が発生しない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施形態に係る風車を示す図
【図2】図1の風車の動作を説明する図
【図3】図1の風車における各部の距離・角度を示す図
【図4】図1の風車の設計方法を説明する図
【図5】図1の風車の特性(余弦値)を示す図
【図6】図1の風車の特性(ベクトルp・qの内積)を示す図
【図7】比較例の風車の構成を示す図
【図8】図7の風車の時間に対するトルクを示す図
【図9】実施例の風車の諸元を示す図
【図10】実施例の風車の始動からの回転数の推移を示す図
【図11】実施例の風車の各種風速での回転数(a)と翼の移動速度(b)を示す図
【図12】実施例の風車の移動速度比を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態に係る風車は、図1に示すように、回転軸10と、回転軸10に直交する風20の流れ(主流)により揚力が発生する断面形状を備えた翼13と、回転軸10に固定されたフライホイール(円板)11と、フライホイール11にピン15で回動可能に枢支された三角板12と、三角板12にピン16で枢支された揺動リンク14と、回転軸10を軸支するとともに揺動リンク14の一端をピン17で枢支する固定リンク18とを備えている。
【0013】
三角板12は、二等辺三角形の形状を有し、二等辺の挟角位置で揺動リンク14の他端をピン16で枢支し、二つの等角の内、一方の等角位置でピン15によりフライホイール11と回動可能に結合し、他方の等角位置で固定具19により翼13を固定している。
このフライホイール11、三角板12、揺動リンク14及び固定リンク18から成るリンク機構は、Chebyshev−dyad機構と呼ばれている。このリンク機構で回転軸10に結合された翼13は、2次元面内(紙面内)での運動を行う。
【0014】
図2は、回転軸10が一回転する間の4箇所の位置でのフライホイール11、三角板12、揺動リンク14及び翼13の状態を示している。図2(a)の位置からフライホイール11が回転すると図2(b)の状態に変わり、さらにフライホイール11が回転すると図2(c)の状態に移り、さらに回転すると図2(d)の状態になる。こうしてフライホイール11が一回転するごとに、図2(a)→図2(b)→図2(c)→図2(d)の遷移を繰り返す。
図中に示す8の字状の線50は、三角板12に固定された翼13の固定位置(19)の軌跡を示している。このように、翼13の固定位置(19)は、回転軸10の一回転に伴って8の字状の軌道曲線50を画く。
【0015】
また、図中では、風の主流20により翼13に発生する揚力を矢印Lで、抗力を矢印Dで、また、揚力と抗力との合力を矢印Qで示している。図2(b)及び(d)では、抗力が0のため、揚力Lと合力Qとが一致している。
即ち、図2(a)では、翼13に正の揚力Lと抗力Dとが発生しているが、図2(a)から図2(b)に移る間に、翼13に発生する揚力L及び抗力Dが徐々に減少し、図2(b)の状態で抗力Dが0に、揚力Lが負の揚力に切り替わる。図2(b)から図2(c)に移る間に、翼13に発生する負の揚力Lが徐々に増大し、抗力Dも僅かに発生する。図2(c)から図2(d)に移る間に、翼13に発生する負の揚力L及び抗力Dが徐々に減少し、図2(d)の状態で抗力Dが0に、揚力Lが正の揚力に切り替わる。図2(d)から図2(a)に移る間に、翼13に発生する正の揚力L及び抗力Dが徐々に増大する。
翼13に発生する揚力D及び抗力Dは、翼13の迎え角によって決まる。
【0016】
図3に示すように、このリンク機構は、回転軸0からピン15の位置Aまでを長さL1の第1リンク(O−A)、位置Aからピン16の位置Bまでを長さL4の第2リンク(A−B)、位置Bから翼13の固定点19の位置Kまでを長さL4の第3リンク(B−K)、位置Bからピン17の位置Cまでを長さL2の第4リンク(B−C)、回転軸0から位置Cまでを長さL3の固定リンク(O−C)と見ることができ、翼13の取り付け角度(直線(A−K)との角度)をα0、第2リンク(A−B)と第3リンク(B−K)との成す角度をΨとすると、翼13の迎え角αは、次の(数1)によって求めることができる。
【数1】
ここで、θ1は、第1リンク(O−A)と固定リンク(O−C)との角度、θWは、(O−C)方向に対する主流の角度である。
【0017】
このリンク機構のL1、L2、L3、L4、α0、θW及びΨの値は、次のように設定する。
L1、L2、L3、L4、α0、θW及びΨの値としてある値を設定し、図4に示すように、そのときに翼13の固定位置Kが画く8の字状の軌道曲線を求める。
次に、軌道曲線上の点を選択し、その点における軌道曲線の接線ベクトルpを求める。
次に、その点に対応する位置での翼13の迎え角αを(数1)から求め、求めた迎え角αの翼13に加わる揚力L及び抗力Dを公知の計算式を使って計算し、合力Qのベクトルqを得る。
次に、ベクトルpとベクトルqとの内積を計算し、次式(数2)により、ベクトルpとベクトルqとが成す角の余弦γを求める。
【数2】
この余弦γの値を軌道曲線上の複数の点において求め、各点での余弦γの値が1に近い値を取るようにL1、L2、L3、L4、α0、θW及びΨの値を設定する。
【0018】
このように「軌道曲線の接線方向」と「翼に発生する静的な合力の向き」との余弦を1に近付けることにより、翼力を翼の軌道運動に沿わせ、それにより、翼力の有効利用を図ることができる。
こうした設計方法を用いてL1:L2:L3:L4=1:2:3:2、α0=80°、θW=90°、Ψ=70°に設定した風車の解析結果を図5、図6に示している。図5では、横軸に第1リンク(O−A)と固定リンク(O−C)との角度θ1を取り、縦軸にcosγの値を示している。また、図6では、横軸に角度θ1を取り、縦軸にp・qの内積を示している。
【0019】
図5、図6から明らかなように、第1リンク(O−A)が回転軸Oの周りを一周する角度範囲の大部分において、「軌道曲線の接線方向」と「翼に発生する静的な合力の向き」とは順方向を維持している。図5の図中に示す丸1は図2(a)の位置を表し、丸2は図2(b)の位置、丸3は図2(c)の位置、丸4は図2(d)の位置、をそれぞれ表しているが、「軌道曲線の接線方向」と「翼に発生する静的な合力の向き」との関係が逆方向になるのは、揚力が正から負に切り替わる図2(b)の状態、及び、揚力が負から正に切り替わる図2(d)の状態だけである。1サイクルでの余弦値の平均値は0.690である。
【0020】
「軌道曲線の接線方向」と「翼に発生する静的な合力の向き」とが順方向を維持している状態では、回転方向に力が沿い、正のトルクが発生している。一方、それらの関係が逆方向になるときは、負のトルクが発生している。
この風車では、正のトルクの発生範囲が広く、負のトルクの発生範囲は極めて狭い。このように、広い正トルクの発生範囲が得られるのは、翼の固定位置の軌道曲線が8の字を画いているためである。
【0021】
ちなみに、本発明者は、本発明に至る前段階で、図7に示す風車を製作した。この風車は、リンク機構として、フライホイール61と、フライホイール61に結合された回転軸62と、回転軸62の中間点の動きを上下方向に拘束するスライダ機構63とを有しており、回転軸62の先端に翼64が固定されている。この風車は、翼64の固定位置が楕円に近似した軌道曲線を画く。図8には、この風車の回転開始からのトルク変化を示しているが、負トルクは、正トルクと同程度発生しており、効率的な回転が得られない。
これに対し、翼の固定位置の軌道曲線が8の字を画く風車は、正トルクの発生期間が長いため、効率的に回転する。これは風洞実験によっても確かめられている。
【0022】
風洞実験に用いるため、風車の実施例として、L1:L2:L3:L4=1:2:3:2、α0=80°、θW=90°、Ψ=70°に設定した風車を図9に示す諸元で製作し、この風車を出口寸法400mm×500mmの風洞内に置いて測定した。この風車は、風速4m/sの風で回転した。このときの回転数の時間推移を図10に示している。回転数は、均一ではなく、50rpmから140rpmの間を変動している。
【0023】
また、図11(a)は、風速を4m/s、5m/s、6m/sに変えたときの風車回転数の時間推移を示している。
また、図11(b)は、図11(a)の測定結果を基に算出した翼の移動速度を示している。
図11(b)から、移動速度比(=(翼の平均移動速度)/(主流風速))を求めた結果を図12に示している。
この結果から、翼は、主流風速に対して約10分の1程度の速度で低速運動を行っていることが分かる。
【0024】
このように、この風車は、翼が低速で運動するため、安全性が高い。また、回転数が極めて低いため、従来、風車騒音として問題視されている羽根の風切り音や低周波騒音が全く発生しない。遠心力から発生する材料破壊の懸念も無い。そのため、この風車は、安心して街中に設置することができる。モニュメントとしての利用も可能である。
この風車の発生エネルギは、翼面積を広げ、トルクを増やすことで増大化させることができる。
この風車の回転数は、均一ではないが、風車エネルギを利用する装置の側で対応が可能である。
なお、ここで示したリンク機構や、その寸法・形状は、一例であって、本発明はそれに限定されるものではない。
また、ここでは、専ら風車について説明したが、本発明は、水車にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の風水車は、街中や人の集まる場所などに広く設置して、風力や水力からエネルギを引き出す装置として、あるいは、興味を引く翼の動きを示す装置として利用することが可能である。
【符号の説明】
【0026】
10 回転軸
11 フライホイール(円板)
12 三角板
13 翼
14 揺動リンク
15 ピン
16 ピン
17 ピン
18 固定リンク
20 風の主流
50 8の字状軌道曲線
61 フライホイール
62 回転軸
63 スライダ機構
64 翼
L 揚力
D 抗力
Q 合力
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の主流に対して略直交するように配置される回転軸と、前記主流により揚力が発生する断面形状を有する翼と、を備え、前記翼に発生する揚力及び抗力の作用で前記回転軸を回転させる風水車であって、
前記翼が、複数の節を有するリンク機構を介して前記回転軸に結合され、前記リンク機構の前記翼の固定位置が、前記回転軸の一回転に伴って8の字状の軌道曲線を画くことを特徴とする風水車。
【請求項2】
請求項1に記載の風水車であって、前記リンク機構が、
前記回転軸に固定され、該回転軸を中心に回転可能な第1のリンクと、
前記第1のリンクに対して一端が第1のピンにより回転可能に結合された第2のリンクと、
前記第2のリンクと同じ長さを有し、その一端が、前記第2のリンクの他端に、該第2のリンクと一定の角度を保つように結合された第3のリンクと、
前記第2のリンク及び第3のリンクの結合箇所に一端が第2のピンにより回転可能に結合され、他端が固定位置に回転可能に支持された第4のリンクと、
を有し、前記翼が、前記第3のリンクの他端に固定されることを特徴とする風水車。
【請求項3】
請求項2に記載の風水車であって、前記リンク機構の前記第1のリンクが、前記回転軸を中心に回転可能な円板で構成され、前記第2のリンク及び第3のリンクが、二等辺三角形状の板体で構成され、前記板体の二等辺で挟まれた頂角位置に設けられた前記第2のピンで前記第4のリンクの一端が回転可能に結合され、前記板体の二つの等角の内、一方の等角の位置に前記翼が固定され、他方の等角の位置に設けられた前記第1のピンで前記円板が回転可能に結合されることを特徴とする風水車。
【請求項4】
流体の主流に対して略直交するように配置される回転軸と、前記主流により揚力が発生する断面形状を有する翼と、を備え、前記翼が、複数の節を持つリンク機構を介して前記回転軸に結合され、前記翼を固定した前記リンク機構の固定位置が、前記回転軸の一回転に伴って8の字状の軌道曲線を画く風水車の設計方法であって、
前記軌道曲線の各点の接線方向と、前記点に対応する位置の前記翼に発生する揚力及び抗力の合力方向との余弦を計算し、前記余弦の値が1に近付くように前記リンク機構を設定することを特徴とする風水車の設計方法。
【請求項1】
流体の主流に対して略直交するように配置される回転軸と、前記主流により揚力が発生する断面形状を有する翼と、を備え、前記翼に発生する揚力及び抗力の作用で前記回転軸を回転させる風水車であって、
前記翼が、複数の節を有するリンク機構を介して前記回転軸に結合され、前記リンク機構の前記翼の固定位置が、前記回転軸の一回転に伴って8の字状の軌道曲線を画くことを特徴とする風水車。
【請求項2】
請求項1に記載の風水車であって、前記リンク機構が、
前記回転軸に固定され、該回転軸を中心に回転可能な第1のリンクと、
前記第1のリンクに対して一端が第1のピンにより回転可能に結合された第2のリンクと、
前記第2のリンクと同じ長さを有し、その一端が、前記第2のリンクの他端に、該第2のリンクと一定の角度を保つように結合された第3のリンクと、
前記第2のリンク及び第3のリンクの結合箇所に一端が第2のピンにより回転可能に結合され、他端が固定位置に回転可能に支持された第4のリンクと、
を有し、前記翼が、前記第3のリンクの他端に固定されることを特徴とする風水車。
【請求項3】
請求項2に記載の風水車であって、前記リンク機構の前記第1のリンクが、前記回転軸を中心に回転可能な円板で構成され、前記第2のリンク及び第3のリンクが、二等辺三角形状の板体で構成され、前記板体の二等辺で挟まれた頂角位置に設けられた前記第2のピンで前記第4のリンクの一端が回転可能に結合され、前記板体の二つの等角の内、一方の等角の位置に前記翼が固定され、他方の等角の位置に設けられた前記第1のピンで前記円板が回転可能に結合されることを特徴とする風水車。
【請求項4】
流体の主流に対して略直交するように配置される回転軸と、前記主流により揚力が発生する断面形状を有する翼と、を備え、前記翼が、複数の節を持つリンク機構を介して前記回転軸に結合され、前記翼を固定した前記リンク機構の固定位置が、前記回転軸の一回転に伴って8の字状の軌道曲線を画く風水車の設計方法であって、
前記軌道曲線の各点の接線方向と、前記点に対応する位置の前記翼に発生する揚力及び抗力の合力方向との余弦を計算し、前記余弦の値が1に近付くように前記リンク機構を設定することを特徴とする風水車の設計方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−2215(P2012−2215A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−140766(P2010−140766)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】
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