説明

飛灰処理方法

【課題】飛灰が加熱脱塩素化装置13内部で焼き固まり付着することなく、安定的に円滑な操業ができるとともに、該装置の維持管理が容易となる飛灰処理方法を提供する。
【解決手段】ダイオキシン類などの有害物質を含有する飛灰を加熱脱塩素化処理した後、冷却装置14で冷却する飛灰処理方法であって、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩および炭酸ガスのうち少なくとも1種よりなる飛灰処理剤を飛灰に添加し、飛灰中に含有される水酸化カルシウムを加熱脱塩素化装置13内で前記処理剤と反応させて炭酸カルシウムとしつつ、該飛灰を脱塩素化処理した後、冷却することを特徴とし、前記飛灰処理剤として、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属重炭酸塩を用いる場合には、好ましくは、飛灰中に含有される水酸化カルシウムと前記処理剤との物質量比(飛灰処理剤/水酸化カルシウム)が0.5以上となるように該処理剤を飛灰に添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイオキシン類などの有害物質を含有する飛灰の処理方法に関するものであり、より詳しくは、ごみ焼却時に発生した排ガスから分離、集塵捕集され、前記有害物質を含有する飛灰の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
都市ごみ焼却施設などでごみを焼却する場合、焼却排ガス中には、燃え殻と、塩化水素、二酸化硫黄などに代表される酸性ガスが含まれており、前記酸性ガスを中和するために、水酸化カルシウムなどの排ガス処理剤が煙道中に噴霧される。これに伴って発生する煤塵、すなわちごみ焼却飛灰は、バグフィルタなどの集塵装置で排ガス流から分離されるが、前記飛灰中には、水酸化カルシウムと塩化水素との反応により生成した塩化カルシウムや、前記水酸化カルシウムの未反応分だけでなく、ダイオキシン類などの有害物質が含まれている。
【0003】
近年、ごみ焼却時に発生するダイオキシン類の有毒性が指摘され、排ガス中に含まれるダイオキシン類の含有量については大気汚染防止法によって規制され、また、ごみ焼却飛灰中に含まれるダイオキシン類についてもダイオキシン類対策特別措置法によって3ng/g以下に規制されている。
【0004】
このような飛灰中のダイオキシン類を低減するため、例えばハーゲンマイヤー式装置のような飛灰加熱脱塩素化装置で、飛灰の脱塩素化処理が行われている。
【0005】
ところが、加熱脱塩素化装置内部で加熱された飛灰が、前記装置内部で固化し、装置内に付着することにより、加熱脱塩素化装置の運転が妨げられたり、装置が損傷するトラブルが発生し、飛灰処理の操業に支障をきたす問題が発生している。
【0006】
このような加熱脱塩素化装置内部における飛灰の固化、付着を解消する手法として、集塵装置により捕集された飛灰に、熱分解装置内に直接若しくは該装置の上流側で、消石灰類を前記飛灰の約25wt%以上添加して、飛灰の融点を装置内温度よりも高い温度まで上昇させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
この方法では、飛灰の融点を装置内温度よりも高い温度まで上昇させることが必須であるが、含有成分が多種多様なあるゆる飛灰に対応し、安定的に飛灰の融点を目的温度まで上昇させることは容易ではなかった。また、仮に融点を上昇させることができたとしても高々400℃を少し超える程度であるため、装置内温度をそれより低い350〜380℃程度に抑える必要があった。しかしながら、このような装置内温度では脱塩素化反応の反応速度が十分に大きいとは言えず、ダイオキシン類などの分解効率は必ずしも十分とは言えなかった。また、この方法では、消石灰類の添加量を飛灰量基準で決定しているため、飛灰中に含まれる成分はごみの種類によってバラツキがあることを考慮すると、ごみの種類によって、固化、付着を防止する効果にもバラツキがあり、効果の安定性に改善の余地があった。
【0008】
【特許文献1】特開2005−246280号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、飛灰が加熱脱塩素化装置内部で焼き固まり付着することなく、安定的に円滑な操業ができるとともに、該装置の維持管理が容易となる飛灰処理方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、加熱脱塩素化装置内における飛灰固化、付着の原因物質が、排ガス中に含まれる酸性ガスを中和する際に生成した塩化カルシウムと、該中和処理のために排ガス中に予め添加された水酸化カルシウムの未反応物との下記式(1)の反応によって生成するCaClOHであり、このCaClOHが高温(例えば、300℃以上)に加熱されて焼き固まることで緻密で強度の大きい焼結体となり、加熱脱塩素化装置内付着の原因となるとの知見に基づき、なされたものである。
【0011】
【化1】

【0012】
すなわち、本発明は、前記CaClOH生成の原因となる水酸化カルシウムの未反応物を、炭酸源となる特定の処理剤と反応させることにより炭酸カルシウムとし、前記CaClOHの生成を抑制し、仮にCaClOHが生成したとしても、その硬度を小さくするというものであり、ダイオキシン類などの有害物質を含有する飛灰を加熱脱塩素化処理した後、冷却する飛灰処理方法であって、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩および炭酸ガスからなる群から選択される少なくとも1種よりなる飛灰処理剤を飛灰に添加し、飛灰中に含有される水酸化カルシウムを加熱脱塩素化装置内で前記処理剤と反応させて炭酸カルシウムとしつつ、該飛灰を脱塩素化処理した後、冷却することを特徴とする飛灰処理方法である。
【0013】
ここで、本発明の処理対象となる飛灰とは、ダイオキシン類などの有害物質を含有する煤塵のことを言い、代表的には、ごみ焼却施設で発生した排ガスから分離、集塵捕集された煤塵が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0014】
また、前記飛灰処理剤が、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩のうち少なくとも1種であり、飛灰中に含有される水酸化カルシウムを計量し、該計量結果に基づき、前記水酸化カルシウムと前記処理剤との物質量比(飛灰処理剤/水酸化カルシウム)が0.5以上となるように該処理剤を飛灰に添加することが好ましい。
【0015】
さらに、飛灰中に含有される水酸化カルシウムを計量するための飛灰サンプルを、前記飛灰が加熱脱塩素化処理装置に導入される前の搬送工程で採取することが好ましい。
【0016】
また、前記飛灰処理剤を、前記飛灰が加熱脱塩素化処理装置に導入される前の搬送工程で添加することが好ましい。
【0017】
さらに、前記飛灰処理剤が、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムのうち少なくとも1種であることが、より好ましい。
【0018】
或いは、前記飛灰処理剤が、炭酸ガスであってもよい。ここでいう炭酸ガスとは、気体の二酸化炭素のことである。
【0019】
さらに、前記炭酸ガスを、加熱脱塩素化処理装置内に直接導入することが好ましい。
【0020】
また、加熱脱塩素化装置内の雰囲気温度を400℃以上とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
以上にしてなる本願発明に係る飛灰処理方法によれば、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩および炭酸ガスからなる群から選択される少なくとも1種よりなる飛灰処理剤を炭酸源として飛灰に添加し、飛灰中に含有される水酸化カルシウムを加熱脱塩素化装置内で前記処理剤と反応させて炭酸カルシウムとしつつ、該飛灰を脱塩素化処理することにより、飛灰が加熱脱塩素化装置内部で焼き固まり付着することなく、安定的に円滑な操業ができるとともに、前記装置の維持管理が容易となる。
【0022】
また、前記飛灰処理剤が、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩のうち少なくとも1種であり、飛灰中に含有される水酸化カルシウムを計量し、該計量結果に基づき、前記水酸化カルシウムと前記処理剤との物質量比(飛灰処理剤/水酸化カルシウム)が0.5以上となるように該処理剤を飛灰に添加することにより、多種多様の成分を含有するあらゆる飛灰に対応し、必要最小限の前記飛灰処理剤使用量で飛灰の固着を防止でき、処理コストを低減することができる。
【0023】
さらに、飛灰中に含有される水酸化カルシウムを計量するための飛灰サンプルを、前記飛灰が加熱脱塩素化処理装置に導入される前の搬送工程で採取することにより、容易にサンプリングできるとともに、飛灰に対して適量の処理剤を添加することが容易となる。
【0024】
また、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩のうち少なくとも1種からなる飛灰処理剤を、前記飛灰が加熱脱塩素化処理装置に導入される前の搬送工程で添加することにより、飛灰中に該処理剤を予め均一に混合させ、効率よく反応させることが容易となる。
【0025】
さらに、前記飛灰処理剤を、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムのうち少なくとも1種とすることにより、該処理剤のコストを低減することができる。
【0026】
或いは、前記飛灰処理剤を炭酸ガスとすることにより、温暖化の原因となる二酸化炭素を有効利用しつつ、飛灰を処理することができるものとなる。
【0027】
さらに、前記炭酸ガスを、加熱脱塩素化処理装置内に直接導入することにより、加熱装置を別途設ける必要がなく、加熱コストの面で有利となる。
【0028】
また、加熱脱塩素化装置内の雰囲気温度を400℃以上とすることにより、脱塩素化の反応速度の大きい環境で効率良く処理することができるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、本発明の実施形態を添付図面に基づき詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0030】
図1は、本発明に係る飛灰処理方法を実施する装置の全体構成を示す概略図であり、図中符号1は焼却排ガス流路、1aは飛灰流路、1bは排ガス流路、2は処理後の飛灰流路、11は集塵機、12は搬送工程、13は加熱脱塩素化装置、14は冷却装置、21は飛灰処理剤貯蔵槽、22は炭酸ガス導入口、23は炭酸ガス排出口をそれぞれ示している。
【0031】
本発明に係る飛灰処理方法は、焼却排ガスから集塵機11により分離した飛灰を、搬送工程12を経て脱塩素化処理装置13に導入し、該飛灰中に含まれるダイオキシン類などの有害物質を低減した後、冷却装置14にて冷却する飛灰処理方法に関するものであり、炭酸源として、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩および炭酸ガスからなる群から選択される少なくとも1種よりなる飛灰処理剤を、飛灰処理剤貯蔵槽21または炭酸ガス導入口22から飛灰に添加し、飛灰中に含有される水酸化カルシウムを加熱脱塩素化装置13内で前記処理剤と反応させて炭酸カルシウムとしつつ、該飛灰を脱塩素化処理することを特徴とする。
【0032】
前記アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられ、前記アルカリ金属重炭酸塩としては、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどが挙げられる。これらのうち、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムが、処理剤のコストを安価に抑えることができるため、特に好ましい。
【0033】
本発明に係る飛灰処理方法により、加熱脱塩素化装置内における飛灰の固着トラブルを防止できるメカニズムを、処理剤として炭酸ナトリウムを用いた場合を例に、以下より詳細に説明する。まず、固着の原因物質の原料と考えられる飛灰中の水酸化カルシウムを、炭酸ナトリウムを添加することにより炭酸化して炭酸カルシウムとする。さらに、炭酸ナトリウムと水酸化カルシウムとの前記反応により同時に生成した水酸化ナトリウムと、原因物質のもう一つの原料と考えられる飛灰中の塩化ナトリウムとが反応し、塩化ナトリウムとなる。以上のような反応によって、固着の原因物質であるCaClOHの生成量が減少するとともに、該CaClOHに対する不純分が生成し、高硬度の固着原因物質の生成を防止することができる。
【0034】
前記飛灰処理剤として、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属重炭酸塩を用いる場合には、飛灰中に含有される未反応水酸化カルシウムを計量し、該計量結果に基づいて、前記水酸化カルシウムと前記処理剤との物質量比(飛灰処理剤/水酸化カルシウム)が、好ましくは0.5以上20以下となるように該処理剤を飛灰に添加し、より好ましくは1.0以上10以下となるようにする。アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩のうち2種以上を併用する場合には、処理剤の合計量に基づき前記物質量比を算出することは勿論である。飛灰処理剤/水酸化カルシウム物質量比を0.5以上とすることにより、焼結体硬度を、加熱脱塩素化処理で焼き固まり、付着することが防止できるレベル、すなわち前記装置内の搬送による力で崩壊するレベルまで小さくすることができる。さらに、前記物質量比を1.0以上とすることにより、焼結体の硬度をさらに低下させ、より安定的に円滑な加熱脱塩素化処理が可能となる。前記物質量比は、大きくし過ぎると、使用する飛灰処理剤の量が増加してコストが増大するとともに、処理後の飛灰発生量が増加する傾向にあるため、好ましくは20以下、より好ましくは10以下とする。
【0035】
アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属重炭酸塩を用いる場合の添加方法としては、飛灰処理剤貯蔵槽21より、加熱脱塩素化装置13内に直接添加してもよいし、飛灰が該装置13に導入される以前の工程において、予め飛灰中に添加、混合しておき、前記混合物を加熱脱塩素化装置に導入してもよい。前記飛灰が加熱脱塩素化処理装置13に導入される前の搬送工程12において添加しておくことが、簡便であり、好ましい。より効果的に焼結を防止するためには、加熱脱塩素化装置13内で飛灰の焼結が開始される以前の工程において処理剤を添加し、均一に混合しておくことが好ましい。このように予め均一に混合しておくことにより、前記装置13に導入された飛灰中の水酸化カルシウムと処理剤とをムラなく反応させ、効率よく炭酸カルシウムとすることができ、固着防止効果をより一層高めることができる。均一に混合するためには、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属重炭酸塩を、粉末の状態で飛灰に添加するのが好ましく、前記搬送工程12内に、スクリューコンベアなどの図示しない混合手段を設け、該混合手段内に導入された飛灰にアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属重炭酸塩を添加することがさらに好ましい。アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩のうち2種以上を併用する場合には、予め2種以上を混合した処理剤を貯蔵槽21から添加してもよいし、それぞれの処理剤を貯蔵するための貯蔵層を別々に設けて、別ルートで添加してもよい。アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属重炭酸塩を飛灰が該装置13に導入される以前の工程において添加、混合する場合には、該工程の雰囲気温度は100℃以下とすることが好ましく、より好ましくは60℃以下、さらに好ましくは40℃以下とする。アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属重炭酸塩からなる処理剤を低温において添加、混合する利点は、炭酸化反応が開始される以前に飛灰と均一に混合することができる点にあり、添加、混合時の温度を高くしすぎると、局所的に炭酸化反応が起き易くなり、固着防止効果が低下する傾向にある。
【0036】
本発明において、飛灰処理剤として、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属重炭酸塩
を用いる場合には、酸素存在雰囲気下で加熱脱塩素化処理することによっても、或いは還元雰囲気下で加熱脱塩素化処理することによっても、前述のとおり、飛灰が焼き固まり、付着することを防止することができるものとなる。ここで、酸素存在雰囲気下とは、酸素が含まれる雰囲気であって、例えば空気中などをいう。
【0037】
前記飛灰処理剤として、炭酸ガスを用いる場合には、炭酸ガス導入口22より加熱脱塩素化装置13内に直接導入してもよいし、飛灰が該装置13に導入される前の搬送工程12に図示しない炭酸ガス導入口を設けて導入してもよい。これらのうち、加熱コストを考慮すると、炭酸ガス導入口22より加熱脱塩素化装置13内に直接導入する方法がより好ましい。炭酸ガス導入時の雰囲気温度は、水酸化カルシウムと炭酸ガスとをより効率よく反応させるため、100℃以上とし、好ましくは200℃以上、さらに好ましくは300℃以上とする。炭酸ガスの供給量としては、処理対象となる飛灰1gに対して、好ましくは150ml以上、より好ましくは300ml以上とすることにより、飛灰中の水酸化カルシウムを炭酸化させ、加熱脱塩素化装置内で固着を防止するために十分な量となる。また、水酸化カルシウムと炭酸ガスとを反応させる際の雰囲気としては、炭酸ガス100%からなるガスを供給することが好ましいが、炭酸ガスと炭酸源(二酸化炭素)を含まないガスとを混合して供給する場合には、体積比率で炭酸ガスを10%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは50%以上含むガスを供給することで、炭酸ガスと飛灰中の水酸化カルシウムとを効率よく反応させることができ、加熱脱塩素化装置内で固着を防止するために十分な炭酸ガス濃度となる。このように炭酸ガスを用いることによる利点は、温暖化の原因とされる二酸化炭素を有効利用できる点にあり、炭酸ガス排出口23より排出されたガスを、循環させて再び導入口22より導入させる方法を採用した場合には、炭酸ガスのリサイクル利用を行うことができ、コスト面でさらに有利となる。
【0038】
前記飛灰処理剤として、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属重炭酸塩を貯蔵層21より添加しつつ、炭酸ガスを導入口22より導入することができることは勿論であり、このように併用することにより、脱塩素化装置13内で飛灰が焼き固まり、付着することをより効果的に防止することができる。
【0039】
本発明において、飛灰中に含まれる水酸化カルシウムや塩化カルシウムの計量は、従来の化学分析方法により行えばよく、特に限定されるものではないが、例えば以下のようにして計量することができる。
【0040】
まず、飛灰中に含有される水酸化カルシウムや塩化カルシウムとをそれぞれ計量するための飛灰サンプルを、採取する。ここで、前記飛灰サンプルは、飛灰が加熱脱塩素化処理装置に導入される以前の工程で採取すればよく、搬送工程12で採取することにより、容易にサンプリングできるとともに、飛灰に対して適量の処理剤を添加することが容易となる。
【0041】
このようにして採取した飛灰サンプルを蒸留水に溶解し、塩酸を用いて中和滴定(pH=9)を行うことでアルカリを定量し、求められたアルカリ分を水酸化カルシウムの量とする。さらに、前記中和滴定後のサンプルを、濾過して固液分離する。濾液側について、EDTAキレート滴定を行い、カルシウムを定量する。求められたCa物質量は、水酸化カルシウムと塩化カルシウムとの物質量の和となる。以上の操作により、飛灰中に含まれる水酸化カルシウムと塩化カルシウムとをそれぞれ計量することができる。
【0042】
本発明において、加熱脱塩素化処理は、前述のとおり、飛灰中に含有されるダイオキシン類などの有害物質を分解するためのものであり、従来と同様、例えば内部に図示しない攪拌装置や、コンベアなどを適宜備えた装置13にて行われる。
【0043】
本発明において、飛灰の加熱脱塩素化処理を行う際の雰囲気温度は、従来と同様、例えば300℃以上で行われ、特に制限されないが、400℃以上で行うことが、脱塩素化の反応速度の大きい環境で効率良く処理することができるため、好ましい。
【0044】
加熱脱塩素化処理時間は、ダイオキシン類が再合成されなくなる程度までとすればよく、例えば、300℃においては60分以上、400℃においては30分以上とするのが好ましい。
【0045】
本発明において、加熱脱塩素化処理した後の冷却は、従来と同様に行われ、何ら限定されるものではないが、例えば、冷却装置14において行われるものであり、ダイオキシン類が再合成されることを防止するため、250℃以下まで急冷することが好ましい。
【0046】
本発明に係る飛灰処理方法により処理された後の飛灰は、図1中の流路2から排出され、その後、セメントと混練するなどして固化されるのが通常である。
【0047】
本発明に係る飛灰処理方法によれば、飛灰中に含有される水酸化カルシウムを炭酸化して炭酸カルシウムとすることにより、飛灰がアルカリ性から中性(pH=7)に近づくことから、飛灰を後工程でセメントと混練するなどして固化した際に、該固化物からの鉛などの重金属溶出を抑制できる。従って、本発明の飛灰処理方法によるさらなる効果として、キレート剤などの重金属固定化薬剤の使用量低減効果も期待できる。
【実施例】
【0048】
(実施例1および2、比較例1)
塩化カルシウム二水和物(和光純薬工業株式会社製、特級塩化カルシウム二水和物)および水酸化カルシウム(奥多摩工業株式会社製、JIS特号消石灰)と、飛灰処理剤として炭酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、特級炭酸ナトリウム)とを、各々表1に示した所定量ビニール袋にとり、それをよく混合してサンプルとし、陶器製の耐熱皿に入れた。次に、耐熱皿に入れた前記サンプルを、酸素存在雰囲気下(空気中)において、500℃に設定した電気炉(アドバンテック東洋株式会社製、KM−420)で1時間加熱を行った。尚、本実施例において、酸素存在雰囲気(空気)下とは、特に空気を所定流量で供給はせず、外部の空気を取り込めるように、雰囲気温度を保てる範囲で電気炉の極一部を開放した状態として実験を行ったものである。
加熱後、サンプルを取り出し、焼結したサンプルの硬さをみるために、株式会社藤原製作所製の山中式土壌硬度計を用いて硬度を測定した。
【0049】
硬度測定方法は、焼結して塊状となったサンプルに、前記硬度計により荷重を掛け、該サンプルが破壊されたときの荷重を硬度値とした。
【0050】
合否判定は、焼結体が一般的な加熱脱塩素化装置内での搬送による力で崩壊する硬度レベルを基準とする意味から、焼結したサンプル硬度が、40N/cm2以下となれば合格「○」とし、40N/cm2を超える場合を不合格「×」とした。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示したように、炭酸ナトリウム/水酸化カルシウム物質量比を0.5以上とすることにより、サンプル性状は一部塊状となったものの、そのサンプル硬度は29.4N/cm2以下となり、加熱脱塩素化処理装置内で焼き固まり付着する硬度レベルを下回り、合格「○」となった。特に、前記物質量比を1.0とした実施例1では、サンプル硬度は4.9N/cm2まで低くなった。一方、炭酸ナトリウムを全く添加しなかった比較例1では、サンプル硬度は196N/cm2となり、不合格「×」となった。
【0053】
(実施例3および4、比較例2)
サンプルを加熱する際の、電気炉の設定温度を380℃とした以外は、実施例1、2および比較例1と同様の方法で、それぞれ実施例3、4および比較例2の実験を行った。
【0054】
表1に示したように、雰囲気温度を380℃とした場合にも、炭酸ナトリウム/水酸化カルシウム物質量比を0.5以上とすることにより、サンプル性状は一部塊状となったものの、そのサンプル硬度は19.6N/cm2以下となり、加熱脱塩素化処理装置内で焼き固まり付着する硬度レベルを下回り、合格「○」となった。特に、前記物質量比を1.0とした実施例3では、サンプル硬度は4.9N/cm2まで低くなった。一方、炭酸ナトリウムを全く添加しなかった比較例2では、サンプル硬度は196N/cm2となり、不合格「×」となった。
【0055】
(実施例5、比較例3)
電気炉内に窒素ガスを流入させ(2.0L/min)、還元雰囲気とした以外は実施例1および比較例1と同様の方法で、それぞれ実施例5および比較例3の実験を行った。
【0056】
表1に示したように、還元雰囲気下においても、炭酸ナトリウム/水酸化カルシウム物質量比を1とした実施例5では、サンプル性状は一部塊状となったものの、そのサンプル硬度は4.9N/cm2となり、加熱脱塩素化処理装置内で焼き固まり付着する硬度レベルを下回り、合格「○」となった。一方、炭酸ナトリウムを全く添加しなかった比較例3では、サンプル硬度は196N/cm2となり、不合格「×」となった。
【0057】
(実施例6〜8)
飛灰処理剤として、炭酸ナトリウムの代わりに、それぞれ重炭酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製、特級炭酸水素ナトリウム)、炭酸カリウム(和光純薬工業株式会社製、特級炭酸カリウム)或いは重炭酸カリウム(和光純薬工業株式会社製、特級炭酸水素カリウム)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6〜8の実験を行った。
【0058】
【表2】

【0059】
表2に示したように、飛灰処理剤として重炭酸ナトリウム、炭酸カリウム或いは重炭酸カリウム何れを用いた場合にも、前記処理剤/水酸化カルシウム物質量比を1とすることで、サンプル性状は一部塊状となったものの、そのサンプル硬度は14.7N/cm2以下となり、加熱脱塩素化処理装置内で焼き固まり付着する硬度レベルを下回り、合格「○」となった。
【0060】
(実施例9および10、比較例4)
清掃工場において実際に排出された飛灰を用いて、以下のとおり実験を行った。まず、前記飛灰中の塩化カルシウムおよび水酸化カルシウム含有量を測定するために、前記飛灰10gを取り、これを100cm3の蒸留水に溶解し、1N塩酸で中和滴定(pH=9)を行った。このときの指示薬にはフェノールフタレインを用いた。中和滴定終了後の懸濁液を濾過し、濾液についてEDTAキレート滴定によるカルシウムイオンの定量を行った。
【0061】
その結果、飛灰10g中に、塩化カルシウム二水和物が3.4g(0.023mol)、水酸化カルシウムが1.5g(0.020mol)存在することが分かった。
【0062】
このような飛灰に対して、表3に示す所定の炭酸ナトリウム/水酸化カルシウム物質量比となるように炭酸ナトリウムを添加し、混合したものをサンプルとし、陶器製の耐熱皿に入れた。次に、耐熱皿に入れた前記サンプルを、500℃に設定した電気炉(アドバンテック東洋株式会社製、KM−420)に入れ、酸素存在雰囲気(空気)として1時間加熱を行った。加熱後、サンプルを取り出し、焼結したサンプルの硬度を前記と同様にして測定した。
【0063】
【表3】

【0064】
表3に示したように、炭酸ナトリウム/水酸化カルシウム物質量比を0.5以上とすることにより、サンプル性状は一部塊状となったものの、そのサンプル硬度は29.4N/cm2以下となり、加熱脱塩素化処理装置内で焼き固まり付着する硬度レベルを下回り、合格「○」となった。特に、前記物質量比を1.0とした実施例10では、サンプル硬度は4.9N/cm2まで低くなった。一方、炭酸ナトリウムを全く添加しなかった比較例4では、サンプル硬度は196N/cm2となり、不合格「×」となった。
【0065】
(実施例11、12、比較例5、6)
塩化カルシウム二水和物(和光純薬工業株式会社製、特級塩化カルシウム二水和物)と水酸化カルシウム(奥多摩工業株式会社製、JIS特号消石灰)とを各々表4に示した所定量ビニール袋にとり、よく混合し、セラミック坩堝に入れた。坩堝中の混合物を、新東科学(株)製実験室用かきまぜ機BL600にセットした攪拌翼で攪拌しつつ、電気炉内の雰囲気を変化させるために、表4に示したように所定のガスまたは混合ガスを所定流量で供給しながら、380℃に設定したアドバンテック東洋(株)製電気炉KM−420で1時間加熱を行った。加熱後、サンプルを取り出し、焼結したサンプルの硬度を前記と同様にして測定した。
【0066】
【表4】

【0067】
表4に示したように、炭酸ガス雰囲気下で処理した実施例11では、サンプル性状は一部塊状となったものの、そのサンプル硬度は4.9N/cm2以下となり、加熱脱塩素化処理装置内で焼き固まり付着する硬度レベルを下回り、合格「○」となった。また、供給する混合ガス中の窒素を体積比率で75%として還元雰囲気としつつ、飛灰処理剤として炭酸ガスを前記混合ガス中に体積比率で25%となるように供給した実施例12においても、同様にサンプル硬度は4.9N/cm2以下となり、合格「○」となった。一方、炭酸ガスを供給しなかった比較例5および比較例6では、サンプル硬度は、加熱脱塩素化処理装置内で焼き固まり付着するレベルとなり、不合格「×」となった。
【0068】
(実施例13、比較例7)
実施例9で用いたものと同じ飛灰を、表5に示した所定量ビニール袋にとり、セラミック坩堝に入れた。坩堝中の飛灰を、新東科学(株)製実験室用かきまぜ機BL600にセットした攪拌翼で攪拌しつつ、表5に示したように所定のガスを所定流量で供給しながら、380℃に設定したアドバンテック東洋(株)製電気炉KM−420で1時間加熱を行った。加熱後、サンプルを取り出し、焼結したサンプルの硬度を前記と同様にして測定した。
【0069】
【表5】

【0070】
表5に示したように、炭酸ガス雰囲気下で処理した実施例13では、サンプル性状は一部塊状となったものの、そのサンプル硬度は4.9N/cm2以下となり、加熱脱塩素化処理装置内で焼き固まり付着する硬度レベルを下回り、合格「○」となった。一方、酸素存在雰囲気下(空気)で処理した比較例7では、サンプル硬度は98N/cm2となり、不合格「×」となった。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る飛灰処理方法を実施する装置の全体構成を示す概略図
【符号の説明】
【0072】
1 焼却排ガス流路
1a 飛灰流路
1b 排ガス流路
11 集塵機
12 搬送工程
13 加熱脱塩素化装置
14 冷却装置
21 飛灰処理剤貯蔵槽
22 炭酸ガス導入口
23 炭酸ガス排出口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイオキシン類などの有害物質を含有する飛灰を加熱脱塩素化処理した後、冷却する飛灰処理方法であって、
アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩および炭酸ガスからなる群から選択される少なくとも1種よりなる飛灰処理剤を飛灰に添加し、飛灰中に含有される水酸化カルシウムを加熱脱塩素化装置内で前記処理剤と反応させて炭酸カルシウムとしつつ、該飛灰を脱塩素化処理した後、冷却することを特徴とする飛灰処理方法。
【請求項2】
前記飛灰処理剤が、アルカリ金属炭酸塩およびアルカリ金属重炭酸塩のうち少なくとも1種であり、
飛灰中に含有される水酸化カルシウムを計量し、該計量結果に基づき、
前記水酸化カルシウムと前記処理剤との物質量比(飛灰処理剤/水酸化カルシウム)が0.5以上となるように該処理剤を飛灰に添加する請求項1記載の飛灰処理方法。
【請求項3】
飛灰中に含有される水酸化カルシウムを計量するための飛灰サンプルを、前記飛灰が加熱脱塩素化処理装置に導入される前の搬送工程で採取する請求項2記載の飛灰処理方法。
【請求項4】
前記飛灰処理剤を、前記飛灰が加熱脱塩素化処理装置に導入される前の搬送工程で添加する請求項1〜3のいずれかに記載の飛灰処理方法。
【請求項5】
前記飛灰処理剤が、炭酸ナトリウムおよび炭酸水素ナトリウムのうち少なくとも1種である請求項1〜4のいずれかに記載の飛灰処理方法。
【請求項6】
前記飛灰処理剤が、炭酸ガスである請求項1記載の飛灰処理方法。
【請求項7】
前記炭酸ガスを、加熱脱塩素化処理装置内に直接導入する請求項6記載の飛灰処理方法。
【請求項8】
加熱脱塩素化装置内の雰囲気温度を400℃以上とする請求項1〜7のいずれかに記載の飛灰処理方法。


【図1】
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【公開番号】特開2007−296412(P2007−296412A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−49899(P2006−49899)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(390020167)奥多摩工業株式会社 (26)
【Fターム(参考)】