説明

飛行時間型質量分析装置

【課題】
飛行時間型質量分析装置において、低コストで簡易な構成によって、真空ポンプ等に等に起因する機械的振動が電源ケーブル34を伝わって、リフレクトロン25に伝播することを防止することで、測定される分析データのノイズを抑制する。
【解決手段】
直流電圧源28に繋がる電源ケーブル34をリフレクトロン25に接続する際に、電源ケーブル34よりも剛性が低い導電性緩衝材38を介して接続することにより、電源ケーブル34からリフレクトロン25に伝播する振動を緩和させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行時間型質量分析装置に関し、更に詳しくは、前記装置のリフレクトロンへの電圧供給ケーブルの接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
飛行時間型質量分析装置の構造及び作用を図4により説明する。真空チャンバ1内の一方の端にイオン源2、イオン加速器3とイオン検出器4が、他方の端にリフレクトロン(イオン反射器)5が設けられている。イオン源2としては、MALDI(MATRIX ASSISTED LASER DESORPTION / IONIZATION)やESI、APCI等のイオン源が考えられる。また、真空チャンバ1には、高真空にすることができるターボ分子ポンプ等の真空ポンプ6が設けられている。そして、リフレクトロン5は電源ケーブル14を介して直流電圧源8に接続され、直流電圧源8からリフレクトロン5へ直流電圧が供給されている。
【0003】
イオン源2で生成されたイオンは、イオン加速器3において所定の加速電圧により運動エネルギが与えられ、リフレクトロン5に向かう飛行空間7を飛行する。イオンは、リフレクトロン5における傾斜電界により反射され、飛行空間7を戻って、イオン検出器4によって検出される。イオンが飛行空間7を往復するために要する時間は、イオンの質量m/z(mは質量、zは電荷)に依存するため、イオン検出器4におけるイオン検出量を連続的に測定することにより、イオン源2において生成されたイオンの質量スペクトルを得ることで、質量分析を行うことができる。飛行時間型質量分析装置には、図3を用いて説明したようにリフレクトロンで反射させたイオンを検出する反射型と、イオン加速器とイオン検出器とを両端に配置し、イオンが飛行空間を一方向にのみ飛行する一方向型の飛行時間型質量分析装置が存在する。
【0004】
次に従来のリフレクトロンの構成を図3に示す。リフレクトロン5は、ロッド10に、多数のイオンレンズ11が絶縁スペーサ12を介して配列された構成を有する。また、リフレクトロン5には、リフレクトロン基板13が取り付けられており、リフレクトロン基板13には、リフレクトロン5に電圧を供給する電源ケーブル14が、接続されている。リフレクトロン基板13には、電源ケーブル14と接続するためのターミナル15が設けられており、電源ケーブル14にはターミナル15と接続するための端子17が設けられている。そして、ターミナル15と接続された端子17は固定ねじ16で固定される。リフレクトロン5は電場領域から構成され、電場は線形、または非線形となる。この場合、リフレクトロン基板13の間の電場はほぼ一様となるが、ステップ関数的な電場となる。例えば、線形電場を与えるためには、リフレクトロン基板13の間に同一の抵抗値をもつ抵抗器を直列に接続し、両端電極に電圧を与えることにより行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005‐285543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
反射型飛行時間型質量分析装置において、真空ポンプ等に起因する機械的振動が電源ケーブルを伝わって、リフレクトロンに伝播した場合、リフレクトロン内に発生する傾斜電界に乱れが生じ、リフレクトロン内を飛行するイオンの軌道に乱れが生じる。この機械的振動によってイオンの軌道が乱れると、分析精度に影響が発生し、機械的振動が大きい場合、分析における質量誤差が大きくなってしまう。この場合、リフレクトロンを免震構造の台等に載せれば、リフレクトロンが受ける振動の影響を減らすことができるが、多くのコストや広いスペースが必要となる。そこで、本発明は、低コストで簡易な構成によって、電源ケーブルを通じて、リフレクトロンに伝播する真空ポンプや冷却・通気ファン等に起因する機械的振動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するためになされた本発明は、電源ケーブル接続部を備えたリフレクトロンと、前記リフレクトロンに電圧を供給し、前記電源ケーブル接続部に接続された電源ケーブルとを備えた反射型飛行時間型質量分析装置において、前記電源ケーブルと前記電源ケーブル接続部の間に、導電性で前記電源ケーブルよりも剛性が低い導電性緩衝材を設けたことを特徴とする。本発明によれば、電源ケーブルと電源ケーブル接続部との間に設けられた導電性緩衝材が電源ケーブルに伝わる機械的振動を緩和させるため、リフレクトロンに伝わる振動を抑制することができる。
【0008】
また、前記導電性緩衝材は、金属線としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、電源ケーブルとリフレクトロンの電源ケーブル接続部との間に設けられた緩衝材が電源ケーブルを伝わってくる振動を緩和させ、電源ケーブル接続部からリフレクトロンに伝わる振動を抑制するため、反射型飛行時間型質量分析装置で測定される分析データのノイズを小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の反射型飛行時間型質量分析装置の概略構成図。
【図2】本発明のリフレクトロンの電源ケーブル接続部の概略図。
【図3】従来のリフレクトロンの電源ケーブル接続部の概略図。
【図4】反射型飛行時間型質量分析装置の概略構成図。
【図5】電源ケーブルと端子を直接繋いだ場合の質量誤差を示すグラフ。
【図6】直径0.1mmのニッケル線を緩衝材として用いた場合の質量誤差を示すグラフ。
【図7】直径0.3mmニッケル線を緩衝材として用いた場合の質量誤差を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を用いて本発明の一実施例である反射型飛行時間型質量分析装置について説明する。本実施例の反射型飛行時間型質量分析装置の基本的構造は図4に示す従来のものとほぼ同じであるが、真空チャンバ21内の一方の端にイオン源22、イオン加速器23とイオン検出器24が、他方の端にリフレクトロン(イオン反射器)25が設けられている。また、真空チャンバ21には、高真空にすることができるターボ分子ポンプ等の真空ポンプ26が設けられている。また、リフレクトロン25は直流電圧源28に接続され、直流電圧源28からリフレクトロン25へ直流電圧が供給されている。そして、リフレクトロン25は電源ケーブル34を介して直流電圧源28に接続され、直流電圧源28からリフレクトロン25へ直流電圧が供給されている。そして、電源ケーブル34をリフレクトロン25に接続する際に、導電性緩衝材38を介して接続するが、これについては後で詳しく説明する。
【0012】
図2を用いて、本実施例で反射型飛行時間型質量分析装置に用いられているリフレクトロン25の構成を説明する。本実施例のリフレクトロンは図3に示される従来のリフレクトロン5の構成とほぼ同じであり、リフレクトロン25はリフレクトロン基板33上に設置され、リフレクトロン基板33には、電源ケーブル34と接続するためのターミナル35が設けられている。また、電源ケーブル34にはリフレクトロン基板33と接続するための端子37が設けられており、ターミナル35と端子37が接続され、両者は固定ねじ36で固定されている。飛行時間型質量分析装置のイオンの飛行路は、真空に保つ必要があることから、真空ポンプ26により真空引きがされているが、この真空ポンプ26から発生する振動が、電源ケーブル34を介して、リフレクトロン25に伝わることがある。
【0013】
そこで、本実施例では、電源ケーブル34と端子37の間に、導電性の緩衝材として、導電性緩衝材38を設けている。導電性緩衝材38は、導電性であるため、電源ケーブル34から伝わる電圧を端子37等を介してリフレクトロン25に供給することが可能である。また、導電性緩衝材38は、電源ケーブル34と比べて剛性を低くすることで、緩衝剤としての役割を果たし、電源ケーブル34から伝わる振動を導電性緩衝材38で和らげ、リフレクトロン25に伝わり難くすることができる。このようにして、真空ポンプ26の振動が電源ケーブル34を介してリフレクトロン25に伝わることを防ぐことができる。なお、振動の原因としては、真空ポンプ26以外にも種々の外部的要因による振動が考えられるが、本発明によれば、電源ケーブル34を介して伝わる振動であれば、導電性緩衝材38で緩衝することができる。
【0014】
本発明の効果を確認する試験として、サンプルのNaTFA水溶液について、測定m/zを430とし、分析時間20秒(200点)の質量分析を行った。図5は、前記条件の下で、図3に示す電源ケーブル14と端子17を直接接続して質量分析を行った場合の質量誤差を示すものである。電源ケーブル14には、直径1.2mmのステンレス製ワイヤケーブルを用いた。図5によれば、前記条件で質量分析を行った場合、約30ppmの質量誤差が生じている。一方、図6は、前記条件の下で、図1に示す電源ケーブル34と端子37の間に導電性緩衝材38を設けて質量分析を行った場合の質量誤差を示すものである。電源ケーブル34には、直径1.2mmのステンレス製ワイヤケーブルを用い、導電性緩衝材38には、直径0.1mmのニッケル線を用いた。図6によれば、前記条件で質量分析を行った場合、質量誤差は約10ppmであるため、直径0.1mmのニッケル線を設けることで、これを設けない場合と比べて質量誤差が約1/3に減少する結果となった。
【0015】
さらに導電性緩衝材38に、直径0.3mmのニッケル線を使用した場合の実験結果を図7に示す。前記の条件の下で、直径0.3mmのニッケル線を用いて質量分析を行った場合、質量誤差は20ppmであることから、直径0.3mmのニッケル線を使用した場合の方が、これより剛性が低い直径0.1mmのニッケル線を使用した場合よりも質量誤差が大きくなるので、剛性が低い材料を使用した方が、緩衝作用が大きく、質量誤差が小さくなる。また、緩衝材として用いる材料は、細いニッケル線以外にも導電性の材料で、電源ケーブルより剛性が低ければ構わないので、例えば金属は導電性を有するので細い銅線等でも構わない。また、非金属製材料でもカーボンファイバー等は導電性があるため、非金属材料であっても構わない。さらに、緩衝材に用いる材料は、物質としては電源ケーブルの方が剛性が低くても、つまり、緩衝材と電源ケーブルが同じ太さの場合は緩衝材の方が電源ケーブルよりも剛性が高かったとしても、緩衝材の太さを細くすることによって、その剛性を低くすることができるので、細さも考慮して全体として緩衝材の方が電源ケーブルよりも剛性が低ければよい。他にも、導電性の材料をそのまま使用すると安全面等で問題がある場合は、電源ケーブルより剛性が低くなる範囲では、ゴム等の絶縁材料で導電性緩衝材38の周囲を囲い、絶縁処理をしても構わない。
【0016】
本発明によれば、以上のようにして、電源ケーブル接続部からリフレクトロンに伝わる振動を抑制し、反射型飛行時間型質量分析装置で測定される分析データのノイズを抑制することができる。
【符号の説明】
【0017】
1、21 真空チャンバ
2、22 イオン源
3、23 イオン加速器
4、24 イオン検出器
5、25 リフレクトロン
6、26 真空ポンプ
7、27 飛行空間
10、30 ロッド
11、31 イオンレンズ
12、32 絶縁スペーサ
13、33 リフレクトロン基板
14、34 電源ケーブル
15、35 ターミナル
16、36 固定ねじ
17、37 端子
38 導電性緩衝材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源ケーブル接続部を備えたリフレクトロンと、前記リフレクトロンに電圧を供給し、前記電源ケーブル接続部に接続する電源ケーブルとを備える反射型飛行時間型質量分析装置において、前記電源ケーブルと前記電源ケーブル接続部の間に、導電性で前記電源ケーブルよりも剛性が低い導電性緩衝材を設けることを特徴とする反射型飛行時間型質量分析装置。
【請求項2】
前記導電性緩衝材として、金属線を使用することを特徴とする請求項1に記載された反射型飛行時間型質量分析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−3946(P2012−3946A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138036(P2010−138036)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】