説明

飛行機のエンジン用の除氷装置および関連する除氷方法

【課題】本発明は、付着した氷の量に感応し、飛行機のエンジン(2)の空気取入口内に配置された少なくとも1つのセンサー(1)と、前記量を測定するシステム(3)および前記量をあらかじめ決められた閾値(S)と比較するシステム(4)、およびあらかじめ決められた閾値を超えたことの検出に対し応答を開始するようになっている起動システム(5)を含む飛行機のエンジンの除氷装置に関するものである。
【解決手段】検出に対する応答が、警報、エンジン制御システム(7)によりタイマー設定されたエンジン回転数の上昇、またはエンジンの上流側へのホットエアーの戻しとすることができる装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛行機のエンジン用の除氷装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
飛行機、特に旅客機は、運転の制約上、特に離陸前の待機時間の都合上、エンジンのアイドリング中、強力な着氷条件に晒される時間がある。
【0003】
エンジンが作動しているのにもかかわらず、これらの条件により、エンジンの静的また非静的上流側部分内、特に、エンジンのアイドリング時に低速で回転する通常ファンと呼ばれる低圧コンプレッサーのブレード上、あるいはファンの下流側の固定部分または特にファンを取り囲む部位内のエンジン室(nacelle)の前部の内壁に大量の氷が付着するおそれがある。
【0004】
エンジンの着氷を制限する方法として、エンジンの定期的な除氷を行うための地上手順が存在する。
【0005】
これらの手順は、回転部分に付着した氷を遠心分離するためにエンジンの回転速度を定期的に上昇させるとともに、エンジンの固定部分に付着する可能性のある氷を除去するために、ファンの下流側のエンジンエアーの流温を上げることを内容とする。
【0006】
これらの手順は、乗務員に対し、着陸時および離陸時前の外気温での地上走行段階の間、除氷条件での経過時間の監視を要求するものである。
【0007】
さらに、これらの手順は、想定された除氷条件に達すると必ず実行されるが、付着した氷または霜の実際の量を考慮するものではなく、燃料消費の増加および空港の不要な汚染の原因となる。
【0008】
飛行時の着氷状況を検出するための氷の検出装置は存在する。これらのシステムは、飛行機が氷をもたらす雲の中を飛行する際に情報を供給する氷感応素子を具備するセンサーに基づくものである。
【0009】
これらの装置は、乗務員に警報を与えることが主な目的であるが、飛行機への除氷システムを自動的に起動するためにも使用することができ、信頼の置ける情報を提供するためには空気流を必要とするセンサーを備える。
【0010】
そのようなセンサーをエンジンの空気取入口に設置し、エンジンが吸引する空気束に当てることができるので、それにより、飛行機が地上で作業を行っている時でも情報を提供することが可能である。
【0011】
そこでもセンサーは氷の存在を示す警報を与えるのに使用されるが、そのセンサーでは実際に付着した氷の量を判定することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、実際かつ判定された氷に応じてしか除氷手順を適用しないようにするために、付着した氷の量または厚さの検出装置をまず第1に含む飛行機のエンジンの各部分の除氷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これを実施するため、本発明は第1に、付着した氷の量に感応し、飛行機のエンジンの空気取入口内に配置された少なくとも1つのセンサーと、前記量を測定するシステムおよび前記量をあらかじめ決められた閾値と比較するシステム、およびあらかじめ決められた閾値を超えたことの検出に対し応答を開始するようになっている起動システムを含むことを特徴とする飛行機のエンジンの除氷装置に関する。
【0014】
応答は特に警報装置の起動および/または設定値の表示を含むことができる。
【0015】
有利な実施例によれば、本発明は、パイロットをエンジンの着氷状況を監視するという任務から解放することが可能な飛行機のエンジンの除氷装置を提供することを目的とする。この形態によれば、本装置はエンジンの回転数の制御手段を含むエンジン制御システムに接続され、前記応答は、エンジン回転数の上昇を含む。
【0016】
好ましくは、起動システムおよび/またはエンジン制御システムはエンジンの空気取込温度を測定する手段に接続され、測定した氷の温度および量に応じてエンジンの回転数の上昇時間を管理する手段を含む。
【発明の効果】
【0017】
さらに本発明は、主として、エンジンのある要素の少なくとも1つの壁の上の氷の量を測定する工程と、測定した氷の量をあらかじめ決められた閾量と比較する工程と、あらかじめ決められた閾値を超えた時応答を開始する工程とを含む、飛行機のエンジンの除氷方法も包含するものである。
【0018】
有利には、本方法は、決められた閾値を超えたことに応答してエンジン回転数を上げる工程をさらに含む。
【0019】
本発明の好ましい実施例によれば、本方法は、着氷状況の継続時間を表すパラメーターの記憶に応じたエンジン制御システムによるエンジン回転数の上昇のタイマーを設定し、前記パラメーターに応じてタイマー設定値を調節する工程を含む。
【0020】
本発明のその他の態様および長所は、本発明の非限定的例として示した添付の図面を参照して行う以下の詳細な説明を読むことにより、よりよく理解されよう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
上述したように、本発明による除氷装置は、図1に示すような飛行機のエンジンの空気取入口20の素子のレベルに付着した氷の量の検出に基くものである。これを行うために、本装置は、付着した氷の量に感応し、エンジン2の空気取入口内のこのエンジンの除氷の状況を表すような場所に配置された少なくとも1つのセンサー1を含む。
【0022】
着氷の状況を表す場所は着氷条件での試験および測定により決められ、この場所は、当該エンジンの構成によって、図1に示すようなファン21の前であっても、あるいはファンの後ろであってもよい。
【0023】
図2により詳細に図示する本装置は、センサー1によって検出された氷の量を測定するシステム3を含む。測定システムはセンサーのハウジングに組み込むか、エンジンの作動の管理コンピューターなどのエンジン制御システム7の近傍に配置することができる。
【0024】
さらに本装置は、前記量をあらかじめ決められた閾値Sと比較するシステム4および起動システム5を含む。比較システムは測定システム3または起動システム5に組み込むことができるが、後者は、あらかじめ決められた閾値の超過に対する応答を開始するためのものである。
【0025】
決められた閾値は飛行機のコンピューターに入っているデータである。このデータは、通算地上走行時間またはエンジンアイドリング回転時間などの外部データ、ならびに外部条件、特に外気温を基にして計算されたデータとすることができるが、エンジンが許容する氷の最大限度値に対応する固定データとすることもできる。
【0026】
応答とは、エンジンを除氷するための過程を開始することを指し、本発明によれば、ある量の氷が検出されると応答が発生する。
【0027】
エンジンを除氷するために最もよく用いられる過程はエンジンの回転数を上げることである。
【0028】
簡単な実施例によれば、起動システム5は飛行機の計器盤の警報装置6に接続され、応答には、警報装置6の起動および/またはエンジン回転数の上昇の設定値の計器盤での表示が含まれ、パイロットはエンジンの除氷を行うためにエンジンの回転数の上昇を行う任務を負う。
【0029】
この場合、本装置は、パイロットによって印加されるエンジンの加速を検出する手段を含むことができ、この加速に応じたエンジンの正しい除氷に適合した時間、警報を維持するように構成することができる。
【0030】
この実施例は以前の手順と比較して、パイロットに対し着氷状態およびエンジンのアイドリング時間を監視し、必ず定期的にエンジン加速段階を実施することを強いることをしなくなり、有効な時にのみこれらの除氷段階を開始するだけでよいようにすることができるという長所を既に有する。
【0031】
特に図2の対象となる好ましい実施例によれば、起動システム5は、エンジンの回転数の制御手段を含むエンジン制御システム7にさらに接続され、前記応答は、エンジン制御システム7によりタイマー設定されたエンジン回転数の自動上昇を含む。
【0032】
除氷に必要なエンジン回転数の上昇がファン21の回転数N1の70%にまで達するので、パイロットは本装置の機能起動を知らされるのが好ましいため、警報装置は残っているのが好ましい。
【0033】
この実施例によれば、除氷段階を開始するためにエンジン回転数は自動的に加速され、この場合、警報は、たとえばパイロットが飛行機を減速できるよう、除氷段階が始まるまたは始まる予定であることをパイロットに知らせる情報である。
【0034】
本発明の第1の実施例によれば、起動システム5および/またはエンジン制御システム7はエンジンの空気取入口温度測定手段8に接続され、測定した氷の温度および量に応じてエンジンの回転数の上昇時間を管理する手段を含む。
【0035】
実際、本発明によれば、除氷にとって実際に必要かつ充分な間、エンジンの加速段階を制限することを内容とする除氷方法の最適化が設けられ、この時間は、監視される部分において付着した氷の量だけでなく、他の部位に著しく氷が付着するおそれのあるような程度の外部条件によって変化する。
【0036】
代替的または補完的実施例によれば、本装置は、エンジンの上流側のホットエアー取り込みおよびホットエアー戻しシステム22に接続される。したがって本装置は最初のタイミングでホットエアー取り込み弁23を開き、一般的には、氷が付着する可能性のあるエンジンの重要部分の除氷を最適化しつつ、エンジンの良好な作動を改悪することなくホットエアーを取り込み、このホットエアーをこれらの重要部分にまたはこれらの重要部分の上流側に送り返すことができる低圧または中程度圧力のコンプレッサー段などのエンジンの高温部分内でホットエアーを取り込む。
【0037】
本発明による装置によって制御されるそのようなホットエアー取り込みシステムを使用することにより、このシステムを具備するエンジン上でエンジンの加速段階を制限すること、あるいはなくすことが可能であり、したがってエンジンの燃料消費および騒音公害を低減することができる。
【0038】
本発明による装置は、記憶手段、ならびに着氷条件に対応する時間の合計化を行い、エンジン回転数の上昇タイマー値を前記合計化に適合させるよう構成された計算手段を備える。これらの手段は前記測定システム3およびエンジン制御システム7のうちの一方の中に含めることができる。
【0039】
センサー1は、着氷を受けるエンジンの表面に組み込まれ氷の面積を測定する表面プローブで構成することができるが、エンジンに入る空気流に当る振動フィンガー方式プローブで構成することが好ましい。複数のセンサーを空気取入口の複数の場所に配置することができる。
【0040】
振動フィンガー方式プローブは、電子振動カイロの作用により40Hz程度の周波数で振動する円筒形ロッドと、センサーの振動周波数を検出する回路とを含む磁歪センサーである。ロッドの振動周波数はセンサーへの氷の付着量の増加に応じて減少するので、監視対象部位内の氷の量の測定値が得られ、あらかじめ決められた固定値であるか、飛行機の運転条件に応じて動的に決められた値である着氷閾値を基にして除氷装置を起動することができる。
【0041】
このように除氷装置の動作原理により、本発明による飛行機のエンジンの除氷方法を実施することができる。
【0042】
図3に概略的に示したこの方法は、エンジンのある要素の少なくとも1つの壁の上の氷の量を測定する工程10と、測定した氷の量をあらかじめ決められた閾量と比較する工程11と、あらかじめ決められた閾値を超えた時応答を開始する工程12とを含む。応答は上述したように警報16の出力とすることができるが、好ましい実施例によれば、応答は、決められた閾値を超えたことに応答してエンジン回転数を上げる工程13とすることができる。本例によるこの工程は、記憶されている条件に依存する継続時間を持ち、本方法は、着氷状況の継続時間を表すパラメーターの記憶15に応じたエンジン制御システムによるエンジン回転数の上昇のタイマーを設定し、前記パラメーターに応じてタイマー設定値を調節する工程14を含む。
【0043】
タイマー時間が終了するか、測定した氷の量が下限以下に戻ると(工程17)、エンジンの回転数はアイドリングに戻り、システムは待機状態に戻る。
【0044】
本発明は、説明してきた実施例に限定されるものではなく、特にエンジン制御システムは、パイロットによるスイッチの操作または手動によるエンジンの回転数の加速の操作など外的なできごとが発生した時、エンジンの回転数の上昇設定値をキャンセルすることができる、外的なできごとを検出する手段を含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明によるセンサーを具備する飛行機のエンジンの断面略図である。
【図2】本発明による装置の実施例の略図である。
【図3】本発明による除氷方法の略図である。シス
【符号の説明】
【0046】
1 センサー
2 エンジン
3 測定システム
4 比較システム
5 起動システム
6 警報装置
7 制御システム
8 測定手段
10 測定工程
11 比較工程
12 開始工程
13 回転数の加速工程
14 調節工程
15 記憶
16 警報
17 測定工程
20 取入口
21 ファン
22 ホットエアー戻しシステム
23 ホットエアー取り込み弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
付着した氷の量に感応し、飛行機のエンジン(2)の空気取入口内に配置された少なくとも1つのセンサー(1)と、前記氷の量を測定するシステム(3)および前記量をあらかじめ決められた閾値(S)と比較するシステム(4)、およびあらかじめ決められた閾値を超えたことの検出に対し応答を開始するようになっている起動システム(5)を含む飛行機のエンジンの除氷装置において、起動システム(5)が、エンジンの回転数の制御手段からなるエンジン制御システム(7)に接続され、前記応答が、エンジン制御システム(7)によりタイマー設定されたエンジン回転数の上昇からなることを特徴とする除氷装置。
【請求項2】
起動システム(5)が、警報装置(6)および/または飛行機の計器盤へのエンジン回転数の上昇設定値の表示装置に接続され、前記応答が警報装置(6)の起動および/または設定値の表示を含むことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
起動システム(5)および/またはエンジン制御システム(7)がエンジンの空気取込温度を測定する手段(8)に接続され、測定した氷の温度および量に応じてエンジンの回転数の上昇時間を管理する手段を含むことを特徴とする請求項1または2記載の装置。
【請求項4】
前記測定システムおよびエンジン制御システムのうちの少なくとも一方が、記憶手段、ならびに除氷条件に対応する時間の合計化を行い、エンジン回転数の上昇タイマー値を前記合計化に適合させるよう構成された計算手段を備えることを特徴とする請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記センサーが、除氷を受けるエンジンの表面に組み込まれ氷の面積を測定する表面プローブを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の装置。
【請求項6】
前記センサー(1)が、エンジンに入る空気流に当る振動フィンガー方式プローブを備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の装置。
【請求項7】
起動システム(5)が、エンジンの上流側のホットエアー取り込みおよびホットエアー戻しシステム(22)に接続されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項記載の装置。
【請求項8】
エンジンのある要素の少なくとも1つの壁の上の氷の量を測定する工程(10)と、測定した氷の量をあらかじめ決められた閾量と比較する工程(11)と、あらかじめ決められた閾値を超えた時応答を開始する工程(12)とを含むことを特徴とする飛行機のエンジンの除氷方法。
【請求項9】
決められた閾値を超えたことに応答してエンジン回転数を上げる工程(13)をさらに含むことを特徴とする請求項8記載の飛行機のエンジンの除氷方法。
【請求項10】
除氷状況の継続時間を表すパラメーターの記憶(15)に応じたエンジン制御システムによるエンジン回転数の上昇のタイマーを設定し、前記パラメーターに応じてタイマー設定値を調節する工程(14)を含むことを特徴とする請求項9記載の方法。
【請求項11】
決められた閾値を超えたことに応答してエンジンの上流側にホットエアーを吐き出す工程を含むことを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−510913(P2008−510913A)
【公表日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−526523(P2007−526523)
【出願日】平成17年9月12日(2005.9.12)
【国際出願番号】PCT/FR2005/050733
【国際公開番号】WO2006/032808
【国際公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(501446228)エアバス・フランス (93)