説明

食品保存剤およびその包装体

【課題】アルデヒド吸収能力を向上させ、かつ保存する食品に適したエタノールを蒸散させる食品保存剤およびその包装体を提供する。
【解決手段】少なくとも、鉄粉、酸化促進剤、水、エタノール蒸散体及びエチレン尿素を配合してなる食品保存剤であって、前記水が前記鉄粉の質量の5.5質量%以上15質量%以下の質量を有する食品保存剤とする。前記エタノール蒸散体が、合成シリカ及び/または珪藻土にエタノールを担持させた担持体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品保存剤に関する。更に詳しくは、酸素を吸収し、且つ食品に適した濃度のエタノールを蒸散する食品保存剤およびその包装体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品等の保存方法として、かび、酵母、細菌類の増殖抑制を主目的としてエタノールの噴霧添加等が実施されている。しかし、この方法はエタノールを直接食品へ添加するため、風味が問題となることが多かった。即ち、エタノールを液状で添加するため、添加量の調整が困難であり、添加量が多すぎると本来の食品の風味、香りがエタノール臭気によって隠蔽されてしまう。一方、添加量が少なすぎると、かび、酵母、細菌類の増殖抑制効果が十分に発揮されないとの問題点があった。更に、エタノールの噴霧添加のみでは、食品の酸化に起因する品質劣化を防ぐことができなかった。
【0003】
一方、食品の保存方法のひとつとして酸素吸収能力を有する脱酸素剤を用いて、食品容器内の酸素を除去する方法が普及している。しかし、この脱酸素剤による保存方法のみでは、嫌気性菌による腐敗を防止できず、また、かび等による食品の変質が起きるまでに容器内の酸素を除去しなければならない欠点があった。さらに食品が有するしっとり感を保持できない問題が生じる場合もあった。
【0004】
ところで、酸素吸収能力とエタノール蒸散能力を併せ持つ食品保存剤として鉄粉とエタノールとからなる食品保存剤組成物が開示されている(特許文献1)。この組成物は、食品の酸化に起因する品質劣化を防ぎ、かつ嫌気性菌による腐敗に対しても効力を有するので、食品保存剤として有効なものであった。またエタノールを蒸散させることにより、食品が有するしっとり感を保持させることも可能であった。
【0005】
しかしながら、この酸素吸収能力とエタノール蒸散能力を併せ持つ食品保存剤においては、エタノールの酸化に伴ってアセトアルデヒドが発生することが知られている。発生したアセトアルデヒドは特有の臭気を有しているため、被保存物である食品が本来有する価値を低下させる他、安全衛生上も好ましくなく、その発生の抑制が求められていた。
【0006】
特許文献2においては、この課題を解決するために、酸素吸収能力とエタノール蒸散能力を併せ持つ食品保存剤に、アルデヒド吸収能力を有する陰イオン交換体を併用した食品保存剤が開示されている。該保存剤においては、ポリアリルアミンを吸着させた多孔質体を陰イオン交換体として用いているが、アルデヒド吸収能力の向上を指向してポリアリルアミンの吸着量を増加させようとしても、ポリアリルアミンが水溶液として提供されている実情のため、多孔質体の吸水能力範囲内でしかポリアリルアミンを吸着させられないという欠点を有していた。
【0007】
また、多孔質体にポリアリルアミンと共にエタノールを吸着させた場合は、エタノールの吸着量を増加させればポリアリルアミンの吸着量を減少させざるを得ず、ポリアリルアミンの吸着量を増加させればエタノールの吸着量を減少させざるを得ないので、エタノール蒸散能力とアルデヒド吸収能力の両立を図ることが困難であった。さらに、ポリアリルアミンの吸着量を減らした場合は、それに伴って水溶液由来の水の吸着量も減少するため、鉄粉の酸化反応、つまりは酸素吸収反応の進行速度が遅くなるという不具合も生じる。
【0008】
多孔質体へのエタノール、水、ポリアリルアミンの吸着量は、多孔質体の配合量を増やせば増加するが、この結果、食品保存剤全体の体積が上昇するという新たな問題が生じてしまう。
【0009】
このように、従来のポリアリルアミンを配合した食品保存剤は、酸素吸収能力、アルデヒド吸収能力及びエタノール蒸散能力の三者全てを同時に満足させることが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭55−109944号公報
【特許文献2】特開2008−109856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来技術における上記の課題を解決し、実用上充分なアルデヒド吸収能力及び酸素吸収能力を具備し、かつ保存する食品に適したエタノールを蒸散させられる食品保存剤およびその包装体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を鑑み鋭意研究を行った結果、アルデヒド吸収剤としてエチレン尿素を選択し、かつ配合する水の質量を配合した鉄の質量を基準に算定することによって、実用上充分な酸素吸収能力とアルデヒド吸収能力が得られること、及び保存する食品に適したエタノールを蒸散させられることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
すなわち本発明は、少なくとも、鉄粉、酸化促進剤、水、エタノール蒸散体及びエチレン尿素を配合してなる食品保存剤であって、前記水が前記鉄粉の質量の5.5質量%以上15質量%以下の質量を有する食品保存剤に関する。
【0014】
また本発明の食品保存剤においては、前記エタノール蒸散体が、合成シリカ及び/または珪藻土にエタノールを担持させた担持体であることが好ましい。
【0015】
さらに本発明の食品保存剤においては、前記水が前記担持体に担持されて配合されていることや、前記水に前記エチレン尿素を溶解させてなるエチレン尿素水溶液が、前記担持体に担持されて配合されていることが好ましい。
【0016】
さらにまた、本発明の食品保存剤を通気性包装材料で収容して食品保存剤包装体とする事も好ましい。
【0017】
また本発明は、食品を、前記食品保存剤包装体と共にガスバリア性容器に収納し、密閉する食品の保存方法に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、実用上充分な酸素吸収能力とアルデヒド吸収能力を具備し、かつ食品に適した濃度のエタノールを蒸散させられる食品保存剤が提供される。本発明の食品保存剤およびその包装体は、食品保存の品質保持の分野において極めて高い価値を有する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の食品保存剤は、その成分が、鉄粉、酸化促進剤、水、エタノール蒸散体及びエチレン尿素を必須成分とする食品保存剤である。また、本発明の食品保存剤包装体は、該食品保存剤を通気性包装材料で収容した食品保存剤包装体である。
【0020】
本発明の食品保存剤に配合する鉄粉としては、還元鉄粉、電解鉄粉、噴霧鉄粉などの種々のものが使用できるが、酸素との接触を良好とするために表面積比をできるだけ大きくすることが好ましく、例えば、10メッシュ以下、特に50メッシュ以下の鉄粉が好ましい。
【0021】
食品保存剤に配合する鉄粉の質量は、所望の酸素吸収能力を発揮できる範囲であれば特に限定されないが、経済性や取り扱い性を考慮すると食品保存剤の質量の10質量%以上90質量%以下とすることが好ましく、20質量%以上80質量%以下とすることがより好ましい。鉄粉の配合量が、10質量%を下回ると、酸素吸収能力が不充分となる虞があり、90質量%を上回ると、酸素吸収能力を発揮するための水分が充分に供与されなくなる虞がある。
【0022】
本発明の食品保存剤に配合される酸化促進剤とは、鉄粉の酸化を促進する作用を有する水、エタノール、エチレン尿素及び担体以外の物質を意味し、ハロゲン化金属塩のような電解質が例示できる。ハロゲン化金属としては、例えば、塩素、臭素、沃素などのハロゲンと、ナトリウム、カリウム、バリウム、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ或いはアルカリ土類金属との塩が例示される。
【0023】
電解質は粉末または粒状のものを用い、鉄粉と混合して配合しても良いが、電解質の水溶液を用いて鉄粉表面に電解質を分散させた後に、水分を除去した被膜鉄粉(コーティング鉄粉)として使用することが好ましい。電解質を鉄粉と混合して使用する場合は、鉄粉に対して0.1〜10質量%の範囲で配合することが好ましいが、被膜鉄粉とすることによってその配合量を減らすことができる。被膜鉄粉とする場合、電解質量は、鉄粉に対して0.1〜6質量%配合することが好ましい。電解質の配合量が鉄粉に対して0.1質量%を下回ると、酸素吸収速度が遅くなるため好ましくなく、鉄粉に対して10質量%を上回ると、吸湿して水分が鉄粉表面を覆ってしまい、酸素吸収反応を停止させることがあるため好ましくない。
【0024】
電解質の配合に際しては、鉄粉と電解質とを単に機械的に混合しても良いが、前記の通り電解質を鉄粉表面に被膜させて被膜鉄粉とすることが好ましい。電解質を鉄粉表面に被膜させる方法としては、鉄粉表面に電解質水溶液を散布・乾燥させる方法、あるいは、鉄粉と電解質水溶液を混合し、これを乾燥させる方法などが例示できる。
【0025】
本発明の食品保存剤には水が配合されるが、その質量は、鉄粉の質量の5.5質量%以上、15.0質量%以下とすることが好ましく、6.0質量%以上12.0質量%以下とすることがより好ましい。水の質量が鉄粉の質量の5.5質量%未満となると、脱酸素時間が遅延するため好ましくなく、15.0質量%を上回ると、組成中に含まれる水分量が多くなるため、それに伴いエタノール保有量が減少するため好ましくない。
【0026】
本発明の食品保存剤に配合されるエタノール蒸散体とは、エタノールを担体に担持させてなる担持体を意味する。エタノールを担持する担体は特に制限無く使用することができるが、粒状物である担体が好ましく用いられる。具体的には合成シリカ、クレイ、ゼオライト、珪藻土、活性炭等の粉末または粒状物が挙げられ、中でも合成シリカや珪藻土が特に好ましい。また、担体は必要に応じて一種または二種以上の併用で用いることができる。
【0027】
担体にエタノールを担持させる方法には特に制限が無く、任意の方法を採用する事ができる。例えば担体にエタノールを含浸させる事によって担持する方法が挙げられる。また、担体にはエタノールの他に水などの液体成分を担持させても良く、エタノールや水などの液体成分に固体成分を溶解させて溶液とした後、担体に担持させても良い。
【0028】
エタノールなどの液体成分が担持された担体を配合することにより、食品保存剤の取り扱いを簡便にすることができる。また、該液体成分と酸素との接触面積を大きくすることができるので、食品保存剤の酸素吸収速度や酸素吸収量が増加するため好ましい。
【0029】
配合するエタノールの質量は、食品保存剤の質量の0.5質量%以上60質量%以下とすることが好ましく、1.0質量%以上50質量%以下とすることがより好ましい。配合するエタノールの質量が、食品保存剤の質量の0.5質量%を下回ると、エタノール発生能力が不充分となるため好ましくなく、60質量%を上回ると、副生成物として発生するアセトアルデヒドが過剰に発生するため、好ましくない。
【0030】
エタノール蒸散体に担持されるエタノールの担持量に制限はないが、担体の単位質量あたり0.30g/g以上、2.00g/g以下であることが好ましく、0.40g/g以上、1.50g/g以下とすることがより好ましい。エタノールの担持量が、0.30g/gを下回ると、担持体あたりのエタノール発生能力が不充分となり、これを補うために多量のエタノール蒸散体を配合する必要が生じるため好ましくなく、2.00g/gを上回ると、エタノール蒸散体の流動性を確保することが困難となるため、好ましくない。
【0031】
本発明の食品保存剤のように、鉄粉とエタノールが共存する環境下においては、共存するエタノールの蒸気や液体が鉄粉に接触することにより酸化されてアセトアルデヒドが発生し得る。発生したアセトアルデヒド濃度が過剰である場合は、そのものが異臭の原因物質になると共に安全衛生上の問題が生じ得るため好ましくなく、その発生を抑制する必要がある。
【0032】
本発明の食品保存剤においては、エチレン尿素(2−イミダゾリジノン)を配合して、アルデヒドの発生を抑制する。配合するエチレン尿素の質量は、食品保存剤の質量の0.05質量%以上15質量%以下とすることが好ましく、0.1質量%以上12質量%以下とすることがより好ましい。エチレン尿素の配合量が、0.05質量%を下回るとアセトアルデヒド吸収能力が不充分となるため好ましくなく、15質量%を上回ると、組成中に含まれる水分量を多く必要とするため、それに伴いエタノール保有量が減少するため好ましくない。
【0033】
また、本発明の食品保存剤には、流動性の向上、副生成物の除去等を目的として、さらにフィラーを添加しても良い。
【0034】
フィラーの具体例としては活性炭、ゼオライト、パーライト、珪藻土、活性白土、シリカ、カオリン、タルク、ベントナイト、活性アルミナ、石膏、シリカアルミナ、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム、黒鉛、カーボンブラック、水酸化アルミニウム、酸化鉄等の粉末または粒状物が挙げられる。
【0035】
上述した各成分を配合する方法には特に制限はないが、液体成分と固体成分とを均一に混合できる方法ならいずれの方法でも良い。例えば、鉄粉と酸化促進剤を混合した酸素吸収剤と、エタノールとエチレン尿素水溶液を含浸させて担体に担持させたエタノール蒸散剤とを混合して食品保存剤とする方法などを採用することができる。
【0036】
前記各成分は通常、通気性包装材料に収容され、食品保存剤包装体とすることができる。その包装方法としては例えば各成分を混合後、充填包装機によって通気性包装材料の周縁部の熱シールによって封じられた小袋に包み、食品保存剤包装体とする方法などが例示できる。
【0037】
通気性包装材料は、エタノールガスと酸素が十分に通気することが必要であり、少なくとも有孔プラスティックフィルムが一部に使用された通気性包装材料を使用することが好ましい。例えば有孔ポリエチレンフィルムをラミネートした紙包材等が好ましく用いられるが、十分にエタノールガスおよび酸素が通気する有孔部を有するものであれば、特に制限無く使用できる。
【0038】
該食品保存剤包装体を食品と共にガスバリア性容器に収納し、密閉することによって、該食品をエタノール蒸散雰囲気下で無酸素保存することができる。また、本発明の食品保存剤包装体は、アセトアルデヒドの吸収能力にも優れているので、アセトアルデヒドに由来する異臭や安全衛生上の問題を解消できる。このように、本発明の保存方法によって、食品が本来有する価値を長期間維持することが可能となる。
【0039】
本発明により、アルデヒド吸収能力と酸素吸収能力に優れ、かつ食品に適した濃度のエタノールを蒸散する食品保存剤およびその包装体が提供される。本発明の食品保存剤およびその包装体は、食品の保存等の無酸素保存分野において極めて高い利用価値を有する。
【実施例】
【0040】
以下に実施例を挙げて本願発明を詳細に説明するが、本願発明はこれによって限定されるものではない。
【0041】
(実施例1)
鉄粉100gに塩化カルシウム2g、活性炭0.5gを乳鉢で混合し酸素吸収剤Aとした。また、合成シリカ(富士シリシア化学(株)製 商品名「シリカゲル IDタイプ」)100gに99.5%エタノールを68.0g、水27.3g、エチレン尿素(東京化成工業(株)製)14.6gが溶解した水溶液を含浸させてエタノール蒸散剤B1とした。酸素吸収剤Aを0.8gとエタノール蒸散剤B1を0.6gを各々計量し、両者を混合して得られた食品保存剤Aを、4cm×4cmの有孔ポリエチレンフィルムをラミネートした紙袋に充填し、食品保存剤包装体Aとした。なお該食品保存剤Aに含まれる水の質量は、鉄粉の質量の10.0質量%相当であった。
【0042】
得られた食品保存剤包装体Aを空気500mLのガスバリア性密閉系容器内にて、25℃、70%RH下で放置したところ、24時間で容器内の酸素濃度が0.1容量%未満の脱酸素状態に到達した。結果を表1に示した。
【0043】
(実施例2)
珪藻土(昭和化学工業(株)製 商品名「RC417」)100gに99.5%エタノールを55.6g、水22.4g、エチレン尿素(東京化成工業(株)製)12.0gが溶解した水溶液を含浸させてエタノール蒸散剤B2とした。実施例1にて得られた酸素吸収剤Aを0.8gとエタノール蒸散剤B2を0.6gを各々計量し、両者を混合して得られた食品保存剤Bを、実施例1と同様の操作にて食品保存剤包装体Bとした。なお該食品保存剤Bに含まれる水の質量は、鉄粉の質量の8.5質量%相当であった。
【0044】
得られた食品保存剤包装体Bを実施例1と同様の操作にて放置したところ、24時間で容器内の酸素濃度が0.1容量%未満の脱酸素状態に到達した。結果を表1に示した。
【0045】
(実施例3)
実施例1にて得られた酸素吸収剤Aを3.0gとエタノール蒸散剤B1を1.5gを各々計量し、両者を混合して得られた食品保存剤Cを、6cm×6cmの有孔ポリエチレンフィルムをラミネートした紙袋に充填し、食品保存剤包装体Cとした。なお該食品保存剤Cに含まれる水の質量は、鉄粉質量の6.5質量%相当であった。
【0046】
得られた食品保存剤包装体Cを空気1000mLのガスバリア性密閉系容器内にて、25℃、70%RH下で放置したところ、24時間で容器内の酸素濃度が0.1容量%未満の脱酸素状態に到達した。結果を表1に示した。
【0047】
(比較例1)
合成シリカ(富士シリシア化学(株)製 商品名「シリカゲル IDタイプ」)100gに99.5%エタノールを14.6g、水9.7g、エチレン尿素(東京化成工業(株)製)14.6gが溶解した水溶液を含浸させてエタノール蒸散剤B3とした。実施例1にて得られた酸素吸収剤Aを0.8gとエタノール蒸散剤B3を0.6gを各々計量し、両者を混合して得られた食品保存剤Dを、実施例1と同様の操作にて食品保存剤包装体Dとした。なお該食品保存剤Dに含まれる水の質量は、鉄粉質量の3.6質量%相当であった。
【0048】
得られた食品保存剤包装体Dを実施例1と同様の操作にて放置したところ、60時間で容器内の酸素濃度が0.1容量%未満の脱酸素状態に到達した。結果を表1に示した。
【0049】
(比較例2)
珪藻土(昭和化学工業(株)製 商品名「RC417」)100gに99.5%エタノールを66.3g、水7.9g、エチレン尿素(東京化成工業(株)製)12gが溶解した水溶液を含浸させてエタノール蒸散剤B4とした。実施例1にて得られた酸素吸収剤Aを0.8gとエタノール蒸散剤B4を0.6gを各々計量し、両者を混合して得られた食品保存剤Eを、実施例1と同様の操作にて食品保存剤包装体Eとした。なお該食品保存剤Eに含まれる水の質量は、鉄粉質量の3.1質量%相当であった。
【0050】
得られた食品保存剤包装体Eを実施例1と同様の操作にて放置したところ、59時間で容器内の酸素濃度が0.1容量%未満の脱酸素状態に到達した。結果を表1に示した。
【0051】
【表1】

【0052】
実施例1〜3記載の食品保存剤により、密閉系容器内の酸素濃度を速やかに0.1容量%未満に到達させることができた。一方、比較例1及び2のように、食品保存剤1包当たりに含有する水の質量が、鉄粉の質量の5.5質量%未満であると、密閉系容器内の酸素濃度を0.1容量%未満に到達させるためにより長い時間を必要とした。
【0053】
また、実施例1〜3の食品保存剤を密閉容器内にカステラ(山崎製パン(株)「カステラ」)と共封したところ、7日後のエタノール濃度は7,000ppm以上であった。その後、直ちに密閉容器を開封し、カステラの食感を評価した結果、しっとり感が認められた。
【0054】
(実施例4)
合成シリカ(富士シリシア化学(株)製 商品名「シリカゲルIDタイプ」)100gに99.5%エタノールを85.0g、水13.0g、エチレン尿素(東京化成工業(株)製)17.0gが溶解した水溶液を含浸させてエタノール蒸散剤B5とした。実施例1にて得られた酸素吸収剤Aを0.8gとエタノール蒸散剤B5を0.6gを各々計量し、両者を混合して得られた食品保存剤Fを、実施例1と同様の操作にて食品保存剤包装体Fとした。なお、該食品保存剤Fに含まれる水の質量は鉄粉質量の9.8%相当であった。
【0055】
(比較例3)
合成シリカ(富士シリシア化学(株)製 商品名「シリカゲルIDタイプ」)100gに99.5%エタノールを85.0g、ポリアリルアミン(日東紡績(株)製 商品名「PAA−01」)18.0gが溶解した水溶液を含浸させてエタノール蒸散剤B6とした。実施例1にて得られた酸素吸収剤Aを0.8gとエタノール蒸散剤B6を0.6gを各々計量し、両者を混合して得られた食品保存剤Gを、実施例1と同様の操作にて食品保存剤包装体Gとした。なお、該食品保存剤Gに含まれる水の質量は鉄粉質量の11.3%相当であった。
【0056】
(比較例4)
合成シリカ(富士シリシア化学(株)製 商品名「シリカゲルIDタイプ」)100gに99.5%エタノールを85.0g、ポリアリルアミン(日東紡績(株)製 商品名「PAA−25」)18.0gが溶解した水溶液を含浸させてエタノール蒸散剤B7とした。実施例1にて得られた酸素吸収剤Aを0.8gとエタノール蒸散剤B7を0.6gを各々計量し、両者を混合して得られた食品保存剤Hを、実施例1と同様の操作にて食品保存剤包装体Hとした。なお、該食品保存剤Hに含まれる水の質量は鉄粉質量の11.6%相当であった。
【0057】
(比較例5)
ポリアリルアミンのアミノ基当量を実施例1と同様とすべく、128.6gの15%ポリアリルアミン水溶液(日東紡績(株)製 商品名「PAA−01」)を合成シリカ(富士シリシア化学(株)製 商品名「シリカゲル IDタイプ」)100gに含浸させようと試みたが、ポリアリルアミン水溶液の配合量が合成シリカの吸水能力を超過していたため、エタノール蒸散剤を調製することができなかった。
【0058】
【表2】

【0059】
実施例4から明らかなように、本発明のエチレン尿素を配合した食品保存剤は試験開始当初からアセトアルデヒドの発生を抑制することが可能であった。その結果、異臭の発生を抑えることが可能となり、安全衛生上の問題も解消できた。これに対しポリアリルアミンをアルデヒド吸収剤として使用した比較例においては、アセトアルデヒド発生量が実施例と比較して多くなり、特に試験開始1日目においてはその差が顕著なものとなった。また、比較例5に示したように、アセトアルデヒドの発生を抑制するために、ポリアリルアミンの配合量を増加させようと試みても、ポリアリルアミンが水溶液であるために、担体である合成シリカの吸水能力を超えた量を配合させる事が出来なかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、鉄粉、酸化促進剤、水、エタノール蒸散体及びエチレン尿素を配合してなる食品保存剤であって、前記水が前記鉄粉の質量の5.5質量%以上15質量%以下の質量を有する食品保存剤。
【請求項2】
前記エタノール蒸散体が、合成シリカ及び/または珪藻土にエタノールを担持させた担持体である、請求項1記載の食品保存剤。
【請求項3】
前記水が前記担持体に担持されて配合されている、請求項2記載の食品保存剤。
【請求項4】
前記水に前記エチレン尿素を溶解させてなるエチレン尿素水溶液が、前記担持体に担持されて配合されている、請求項2記載の食品保存剤。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載の食品保存剤を、通気性包装材料で収容してなる食品保存剤包装体。
【請求項6】
食品を、請求項5記載の食品保存剤包装体と共にガスバリア性容器に収納し、密閉する食品の保存方法。

【公開番号】特開2011−10573(P2011−10573A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155780(P2009−155780)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】