説明

食品原料中に含まれる重曹の測定方法

【課題】発生ガス測定法に代わる食品中の重曹を測定する方法を提供すること。
【解決手段】 測定上限値を定め測定上限値に相当する重曹を分解することのできる量の規定塩酸を滴加することにより試料中の重曹を分解して発生した二酸化炭素濃度を経時的に測定し二酸化炭素濃度が一定時間上昇しなくなったときを終点濃度(終了値)とし、二酸化炭素の濃度測定値が前記測定上限値を超える場合は試料を希釈して再測定し終了値を求め、別に前記終了値にほぼ相当する量の重曹を含む試料を重曹標準品として同様に終了値を求め、以下の計算式により重曹の量を求めることを特徴とする重曹の測定方法及びこれに使用する装置である。
【数1】


初期値は、測定開始時の二酸化炭素濃度である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品原料中に含まれる重曹の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ドーナツ、スポンジケケーキ、鯛焼き、お好み焼きなど小麦粉を使用した食品には膨張剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)が使用されている。
これらの食品の原料中に含まれる重曹の量を測定するために、発生ガス測定法が従来から使用されている(例えば非特許文献1参照)。
発生ガス測定法は、重曹から発生するガス量を測定する方法である。
以下図1を用いてその方法を説明する。
1はガス発生用丸底フラスコ(容量約300ml)、2は水浴、3は酸滴加漏斗、4は三方コック、5は外とう管付ガスビュレット(容量約300mlで1mlごとに目盛りをつけたもの)、6は水準瓶(容量約400ml)、7は温度計、8、9、10はゴム栓、11、12はゴム管である。
置換溶液の調製は、塩化ナトリウム100gを量り水350mlを加えて溶かし炭酸水素ナトリウム1gを加えメチルオレンジ試液に対してわずかに酸性を呈するまで4N塩酸を加えて行う。
ガス発生用フラスコ1にあらかじめ水100mlを入れておき、これに試料(2g)をを和紙に包んで投入し、装置を連結し、三方コック4を開放にして、水準瓶6を上下して内部の置換溶液を移動させ、ガスビュレット5の目盛の0に合わせる。
冷却器13に水を流し、三方コック4を回して冷却器13とガスビュレット5を貫通させた後、滴加漏斗3から4N塩酸20mlを滴加し、直ちに滴加漏斗のコックを閉じ 時々フラスコを緩やかに振り動かしながら、75℃の水浴中で加熱し、ガスビュレット 5中の液面の低下に応じて水準瓶6を下げ、3分後にガスビュレット5と水準瓶6の液面を平衡にしたときの液面の目盛V(ml)を読み、同時に温度計7で発生ガスの温度t(℃)を読み取る。
次式により標準状態における発生ガス量Vo(ml)を求める。
別に空試験値Vs(ml)を求め補正する。
Vo(ml)=(V−Vs)×((P−p)/760)×(273/(273+t))
ただし,P:測定時における大気圧(mmHg)
p:t℃における水の蒸気圧(mmHg)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】「第5版 食品添加物公定書」、日本食品添加物協会、1986年12月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記発生ガス測定法は、濃塩酸の希釈操作(濃硫酸を3倍希釈)、ドラフト(排気装置)の使用、特注の専用ガラス器具(広口分解フラスコ、ガス測定ビュレット)及び煩雑な測定操作(フラスコを手で3分間振とう、置換溶液を自作する)などの欠点があり測定方法の改善が望まれていた。
そこで、本発明の目的は、発生ガス測定法に代わる食品中の重曹を測定する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、定量的に規定塩酸を滴加し、発生するガス量を二酸化炭素濃度の増加として捉えることで、食品中の重曹を測定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、測定上限値を定め測定上限値に相当する重曹を分解することのできる量の規定塩酸を滴加することにより試料中の重曹を分解して発生した二酸化炭素濃度を経時的に測定し二酸化炭素濃度が一定時間上昇しなくなったときを終点濃度(終了値)とし、二酸化炭素の濃度測定値が前記測定上限値を超える場合は試料を希釈して再測定し終了値を求め、別に前記終了値にほぼ相当する量の重曹を含む試料を重曹標準品として同様に終了値を求め、以下の計算式により重曹の量を求めることを特徴とする重曹の測定方法である。
試料粉の重曹(%)=(試料(終了値−初期値))/(重曹標準品(終了値−初期値))
×重曹標準品の重曹(%)
なお、初期値とは、測定開始時の二酸化炭素濃度である。
また、前記測定に使用する、密閉できる酸滴加用開口、二酸化炭素検出手段、気流撹拌手段、試料撹拌手段及び密封することができる扉を備えてなる上記の測定方法に使用する重曹測定装置である。
【発明の効果】
【0006】
希塩酸を使用することができ試薬管理が容易となりドラフトも不要である。
汎用のガラス器具を使用して測定ができるので経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1は発生ガス測定法に使用する装置の略図である。
【図2】図2は本発明の方法に使用する重曹測定装置の略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
図2は、本発明の測定方法に使用する重曹測定装置の略図である。
21は密閉できる酸滴加用開口である。
酸滴加用開口21より滴加手段30で規定塩酸を滴加する。
滴加手段は一定量の規定塩酸を滴加できれば特に限定はなく、本実施例ではメスピペットを使用している。
酸滴加用開口21は滴加する場合以外は蓋31により閉じておく。
22は試料を出し入れすることができる密封可能な扉23を備えた筐体である。
24は試料を収容する容器で本発明では汎用品であるビーカーを使用している。
25は撹拌手段である。
試料を十分撹拌できればどのような手段でもよく、本実施例ではスターラーを使用している。
26は試料である。
本発明では、ドーナツ、スポンジケケーキ、鯛焼き、お好み焼きなどの食品原料であるミックス粉の重曹を好適に測定することができる。
27は気流発生手段である。
筐体内の二酸化炭素濃度が一定になるように撹拌できる手段であればどのような手段でもよく本実施例ではファンを使用している。
28は二酸化炭素濃度測定手段である。
二酸化炭素濃度の変化を経時的に測定できればどのような手段でもよく本発明ではCOチェッカーを使用している。
【0009】
前記装置を使用して重曹の量を測定する方法を以下説明する。
(1)測定準備
筐体の扉23を全開放し、COチェッカー28を暖機運転する。
暖機終了後、基準大気CO濃度の0.04%が表示される。
(2)計量
ビーカー24に、試料が十分に撹拌できるような適量の水を入れる。
これに消泡剤を加える。
消泡剤は試料を撹拌するときの泡を押さえる目的で加えるものであり、泡立つと測定誤差を生じる。
これに試料粉を加える。
試料粉中の重曹の含有量が多く、測定装置の測定範囲を超えるときは、薄力粉か中力粉などの小麦粉で希釈し試料の量は一定にしたほうが泡の影響を同一にできるのでよい。
直ちに、筐体22に試料を収容する容器24を入れ扉23を閉めこの時のCO濃度を、初期値として記録する。
試料を撹拌手段25で強撹拌し、粉をバッター状に均一化して測定試料26とする。
(3)測定
図2(B)に示すように滴加手段30で、規定塩酸を測定試料26に滴加する。
塩酸の滴加量は、測定上限値として設定した量の重曹を分解することができる量である。
食品に重曹を添加する場合、5質量%を超えるとにがみが出るため通常添加量は5質量%程度が上限である。
このため測定上限値としては、重曹を5質量%含有した試料を測定したときの値が好ましい。
塩酸の濃度は2規定程度でよく、従来法のような劇物指定される高濃度の塩酸を使用する必要はない。
滴加時には撹拌手段25を更に強く回転させることにより誤差を少なくする。
気泡がビーカーから溢れそうになる場合はバッター中心の渦がなくならない程度に滴加速度を調整する。
滴加終了後、二酸化炭素濃度が一定になるように気流発生手段27により筐体中の気流を撹拌する。
二酸化炭素濃度が、一定時間上昇しなくなったときの値を終了値として記録する。
前記時間は1分間程度を目安とする。
測定誤差として小麦粉の影響が大きいので二酸化炭素濃度が測定上限値を超えた場合は、小麦粉で希釈して再測定を行う。
(4)重曹標準品の測定
試料と同量の薄力粉または中力粉に予想される重曹量に合わせて重曹(炭酸水素ナトリウム)を加える。
試料と同様にして二酸化炭素濃度を測定する。
試料粉と重曹標準品の発生した二酸化炭素濃度を下記の式を使用して比例計算することで、試料粉の重曹割合を求める。
【0010】
【数1】

【実施例】
【0011】
以下本発明を実施例により具体的に説明する。
[実施例1]
1.準備
(1)筐体として27×27×27cm、容量約20リットル、マグネットパッキング式扉をもつデシケーターを使用した。
筐体の扉を全開放し、COチェッカー(株式会社FUSO社製, 商品名:デジタルCOチェッカー)の電源ボタンを長押した。
(2)暖機運転時間(180秒)が液晶画面に表示され、カウントダウンが始まる。
(3)暖機終了後、基準大気二酸化炭素濃度の0.04%が表示された。
2.計量
(1)300mlビーカーに、メスシリンダーで150mlの水を入れた。
(2)消泡剤(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製、商品名:TSA737)を200μl加えた。
(3)試料粉40.0gを加えた。試料粉は重曹5%を含む薄力小麦粉とした。
(4)直ちに、槽中にビーカーを入れ扉を閉めた。
(5)この時の二酸化炭素濃度濃度を、初期値0.04として記録した。
(6)スターラー(アズワン株式会社製、商品名:ウルトラスターラー MSD−1)で強撹拌し粉をバッター状に均一化した。
3.測定
(1)2N塩酸15mlをメスピペット(安全ピペッター使用)で滴加した。
(2)ファンのスイッチを入れた。
(3)二酸化炭素濃度が60秒間上昇しなくなる値を終了値1.84として記録した。
4.重曹標準品の測定
(1)薄力小麦粉に、2.00gの重曹(特級 炭酸水素ナトリウム)を加え全体を40.0gとした。
これを、前記試料粉と同様にして、槽中にビーカーを入れて扉を閉めた時の二酸化炭素濃度濃度を初期値0.05、二酸化炭素濃度が60秒間上昇しなくなる値を重曹終了値1.84として記録した。
(2)試料粉と重曹標準品の発生した二酸化炭素濃度を比例計算することで、試料粉の重曹の質量%を求めた。
試料粉の重曹(質量%)=(1.84−0.04)/(1.84−0.05)×5.00=5.03
【0012】
[試験例1] 塩酸の滴加量
実施例1で使用した装置を用いて重曹を5質量%含む薄力小麦粉40gを試料として滴加する塩酸量を0〜16mまで変化させて二酸化炭素発生量(二酸化炭素濃度%)を調べた。
結果を表1に示す。
2N HClは14mlで発生量が飽和に達した。
2N HClの中和当量は11.9mlであるが、これよりも約2ml多い14ml滴加でガス発生量は飽和したことになる。
この重曹5質量%は、通常のミックスに添加する量のほぼ上限である。
重曹の測定範囲を0.0〜5.0%とした場合、塩酸の滴加量は2N
HClを14mlで十分ある。
【0013】
【表1】

【0014】
[試験例2] 直線性及び検出限界
実施例1で使用した装置を用いて重曹添加量と二酸化炭素発生量(二酸化炭素発生量濃度%)を測定した。
表2に示す重曹量に小麦粉を加え全体を40gとした。
結果を表2に示す。
重曹量0.0〜5.0%で良好な直線性(R=0.997)を示した。
検出限界(0.35%)は、3.3×回帰直線の標準誤差/傾きで求めた。
【0015】
【表2】

【0016】
[試験例3] 小麦粉の影響
実施例1で使用した装置を用いて小麦粉を使わずに、重曹のガス発生量を調べた。
結果を表3に示す。
表中重曹添加量の%は試料全体を40gと想定した場合の質量%である。
重曹添加量と発生量(二酸化炭素濃度%)は、重曹量0.0〜5.0%で良好な直線性(R=0.998)を示した。
この値は、小麦粉がある場合に比べて、1.054倍であり、消泡剤で発生したガスを逃がしやすくしているが、一部はバッター中に残ることを示している。
そのため、試料粉の重量%を求める際に、既知量の重曹だけでなく、小麦粉と合わせて重曹標準品のガス発生量を測る必要がある。
同様に、重曹の濃度が5%よりも濃い特殊なミックスなどでは、単に試料の量を減らすのではなく、小麦粉を使って希釈して試料とする必要がある。
【0017】
【表3】

【0018】
[試験例4]小麦粉の種類
実施例1で使用した装置を用いて表4に示す小麦粉に重曹を5質量%添加した試料2セット(A、B)を作り、測定される重曹パーセントへの影響を調べた(各々の重曹%は、試料No1の重曹標準品で計算)。
結果を表4に示す。
分散分析(一元配置)の結果、銘柄間の有意差はなく、小麦粉の種類は影響しないことが分かった。
【0019】
【表4】

【0020】
[試験例5]回収率と再現性
実施例1で使用した装置を用いて市販膨張剤2.00g(重曹含量28%であり、予想値は1.40%)に小麦粉を加え全体を40gとした3セット(C、D,E)を作り、重曹配合量を測定した。
結果を表5に示す。
回収率は90〜98%と良好であり、また、再現性も高かった(CV 5%)。
【0021】
【表5】

【0022】
[試験例5]従来法との比較
実施例1で使用した装置を用いて表6に示す市販ミックス粉の重曹含有量を発生ガス測定法で測定した値と比較した。
結果を表6に示す。
本発明の測定値は発生ガス測定法での値とほぼ同じとなった。
【0023】
【表6】

【符号の説明】
【0024】
21 酸滴加用開口
22 筐体
23 扉
24 容器
25 撹拌手段
26 試料
27 気流発生手段
28 二酸化炭素濃度測定手段
30 滴加手段
31 蓋


【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定上限値を定め測定上限値に相当する重曹を分解することのできる量の規定塩酸を滴加することにより試料中の重曹を分解して発生した二酸化炭素濃度を経時的に測定し二酸化炭素濃度が一定時間上昇しなくなったときを終点濃度(終了値)とし、二酸化炭素の濃度測定値が前記測定上限値を超える場合は試料を希釈して再測定し終了値を求め、別に前記終了値にほぼ相当する量の重曹を含む試料を重曹標準品として同様に終了値を求め、以下の計算式により重曹の量を求めることを特徴とする重曹の測定方法。
【数1】

初期値は、測定開始時の二酸化炭素濃度である。
【請求項2】
二酸化炭素濃度密閉できる酸滴加用開口、二酸化炭素検出手段、気流撹拌手段、試料撹拌手段及び密封することができる扉を備えてなる請求項1に記載の重曹の測定方法に使用する重曹測定装置。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−286290(P2010−286290A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138759(P2009−138759)
【出願日】平成21年6月10日(2009.6.10)
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【Fターム(参考)】