説明

食用油の酸化抑制方法とその装置

【課題】食用油の酸化抑制方法の提供。
【解決手段】二酸化チタンに白金を混合した触媒体3を食用油に浸し、前記食用油の酸化を抑制する。又、触媒体3は、アルミナを母体とする担体としてのセラミック球体1を備え、前記球体の表面に、触媒としての白金が混ぜられた二酸化チタンが皮膜2を形成するように焼成された球状体であり、又、触媒体3は、内外に油の流通を自在に許す開放容器に無数納められた状態で食用油中に浸す。又、開放容器は、食用油中で転動し難い角形の容器が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天ぷら油等の食用油の酸化による劣化を抑制する方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天ぷら油等の食用油は、その成分のグリセライド(リグセリン1分子に脂肪酸3分子が結合してできるトリグリセリンエステル)が、酸素や熱や光等による酸化作用により分解されて遊離脂肪酸が発生し、この酸化が進むと食中毒の原因となるため、我国の品質基準によれば劣化度即ち油の酸化測定値(AV)が2.5以下での使用と定められている。
【0003】
一般にこの酸化作用は食用油を自然放置して状態でも進むが、加熱により著しく促進される。天ぷら油では、一度熱を加えると、揚げ物量が少なくても、2〜3日程度で、上記の値(AV2.5)に達してしまう程である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、飲食店の調理場や食品工場等の油食品加工現場では、頻繁な油交換が必要となり、消費量の増大、交換のための労力やロス時間や油経費が嵩張ることや、廃油の増大による環境への悪影響や廃油処理の経費増大の解決が課題とされていた。
【0005】
本発明は、上記課題の解決を目的としてなされたもので、食用油の酸化を抑制する方法とその装置の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の食用油の酸化抑制方法の発明は、二酸化チタンに白金を混合した触媒体を食用油に浸し、前記食用油の酸化を抑制させることを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の食用油の酸化抑制方法において、触媒体は担体を備えないことを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明は、請求項1に記載の食用油の酸化抑制方法において、触媒体は担体を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明は、請求項1又は請求項3に記載の食用油の酸化抑制方法において、触媒体は、アルミナを母体とする担体としてのセラミック球体を備え、前記球体の表面に、触媒としての白金が混ぜられた二酸化チタンが皮膜を形成するように焼成された球状体であることを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明は、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の食用油の酸化抑制方法において、触媒体は、内外に油の流通を自在に許す開放容器に適当数納められた状態で食用油中に浸すことを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明は、請求項5に記載の食用油の酸化抑制方法において、開放容器は、食用油中で転動し難い角形の容器であることを特徴とする。
【0012】
請求項7の発明は、請求項1乃至請求項6の何れかに記載の食用油の酸化抑制方法において、触媒体は、食用油を調理に加熱使用中に当該食用油中に浸しておくことを特徴とする。
【0013】
請求項8の発明は、請求項1乃至請求項6の何れかに記載の食用油の酸化抑制方法において、触媒体は、食用油の使用可能期間中に当該食用油中に浸しておくことを特徴とする。
【0014】
請求項9の食用油の酸化抑制装置の発明は、二酸化チタンに白金を混合して油の酸化を抑制させるために当該油に浸される触媒体としたことを特徴とする。
【0015】
請求項10の発明は、請求項9に記載の食用油の酸化抑制装置において、触媒体は担体を備えないことを特徴とする。
【0016】
請求項11の発明は、請求項9に記載の食用油の酸化抑制装置において、触媒体は担体を備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項12の発明は、請求項9乃至請求項11の何れかに記載の食用油の酸化抑制装置において、食用油中に投入される開放容器に、二酸化チタンと触媒としての白金が混合された触媒体が適当数に納められたことを特徴とする。
【0018】
請求項13の発明は、請求項9、請求項11、請求項12の何れかに記載の食用油の酸化抑制装置において、触媒体は、アルミナを母体とする担体としてのセラミック球体を備え、前記球体の表面に、触媒としての白金が混ぜられた二酸化チタンが皮膜を形成するように焼成された球状体であることを特徴とする。
【0019】
請求項14の発明は、請求項12又は請求項13に記載の食用油の酸化抑制装置にお手、開放容器は、油の流通を自在に許す網目又は無数の孔を備えた容器であることを特徴とする。
【0020】
請求項15の発明は、請求項12乃至請求項14の何れかに記載の食用油の酸化抑制装置において、開放容器は、食用油中で転動し難い角形の器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1乃至請求項15の各発明によれば、何れも、白金の触媒作用を受けた二酸化チタンの還元作用により、従来に比べて、酸化による遊離脂肪酸の発生を著しく抑制することができ、食用油のサラダ油や菜種油等の天ぷら油の実験結果によると、従来に比べて、酸化を大幅に遅延させることができ、油を約3倍長持ち(長寿命化)させることができた。
【0022】
又、このような長寿命化(酸化を遅延させること)により、油交換回数が3分の1程度に減少するので、消費量が減少し、交換のための労力や時間や油経費、更には、環境への悪影響や廃油処理の経費を軽減させることができる。
【0023】
又、遊離脂肪酸の発生が抑制されるので、例えば、天ぷら油の場合では、従来に較べて、匂い移りや酸化臭が減少し、食感もサクッとしてジューシーな仕上がりとなり、揚げ物の品質を向上させることができる。
【0024】
又、遊離脂肪酸の発生が抑制されるので油容器の油落し作業も容易となる。
【0025】
触媒体としての白金を含む二酸化チタンが担体としての多孔質で表面積を大きく確保できるセラミック球体の表面にコーティングされている発明においては、少ない触媒体量で油と接触する大きな接触面積が形成されるので、遊離脂肪酸の発生をより一層効率的に抑制させることができる。
【0026】
担体としてのセラミック球体を備えた触媒体を開放容器に収納させている発明においては、取り扱い難い1個或いは適当数の触媒体が容器に納められた単品として容易に取り扱うことができる。
【0027】
油中で転動し難い角形に形成した開放容器を用いた発明においては、加熱中の油中に投入しても、油容器の底に投入されたままの状態で比較的安定に静止させておくことができ、転動による油容器の損傷を防止することができる。
【0028】
請求項7の方法の発明によれば、遊離脂肪酸の生成が最も激しくなる加熱中にその生成を抑制するので、遊離脂肪酸の発生を最も効率的に抑制させることができる。
【0029】
請求項8の方法の発明によれば、加熱中でなく、食用油を現に使用中でなくても、単に保管されているだけの食用油中においても遊離脂肪酸の発生を抑制するので、従来に較べて食用油を長期に保存(長寿命化)することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、天ぷら油用に開発された食用油の酸化抑制装置を例にして説明する。以下、この食用油の酸化抑制装置を「酸化抑制装置」或いは「本装置」ともいう。
【実施例】
【0031】
この実施例に示す酸化抑制装置は、アルミナを母体とする担体としてのセラミック球体の表面に、触媒としての白金が混ぜられた還元剤としての二酸化チタンが皮膜を形成するように焼成された球状体の触媒体が、内外に油の流通を許す開放容器に納められた装置である。
図1は球状体の触媒体の一部切欠斜視図、図2は触媒体が収められた開放容器の斜視図である。
【0032】
図1において、符号1はアルミナを母体とする担体としてのセラミック球体であり、この球体1の表面に、触媒としての白金が混ぜられた還元剤として機能する二酸化チタンの幕コーティング剤2を塗布して焼成し、全体として球状体の単体としての触媒体3を形成している。この球状体3の径は15ミリメートル、そのコーティング被膜2の厚さは0.5ミクロン、焼成温度は1430℃である。
【0033】
尚、触媒体を径15ミリメートルの球状体3の表面に施したのは、球状表面に形成される還元剤の表面積が1リットルの油に最適な量となるからである。従って、球状体の径はこれに限らず適宜の径としてもよい。
【0034】
図2に示す容器は、上記の径15ミリメートルの触媒体3が最大3個(油量に応じた適当数)納められる開放容器4である。
ここでいう開放容器3とは密閉容器ではないという意味であり、油中に投入(浸)された当該容器4の内外に油の流通を自在に許す形状の器であればよく、その形態や形状を問わない。
又、図示の開放容器4では、容器3に無数の丸孔が穿たれているが、これに限らず角形の孔であってもよいし、網目製の容器であってもよい。
【0035】
又、図示の開放容器4は、三角柱状に形成されているが、これは、詳しくは後述のように、油中に投入された際に、油容器の底に安定的に静止し、油中で無用に転動させないためである。
このように開放容器を形成しておくと、調理において加熱中の油中に投入しても、油容器の底に投入されたままの状態で比較的安定に静止させた状態で沈殿させておくことができ、加熱による油の流動を受けて油容器内で無秩序に流転する等の不都合が解消でき、開放容器の転動による油容器の損傷を防止することができる。
【0036】
上記の酸化抑制装置は、油中に浸して用いるもので、加熱中の油容器や保管用の油容器に単に投入しておくだけでよい。この場合、酸化抑制装置に納められる触媒体の量は当然のことながら酸化を防止する油量に応じた適当量とする。
例えば、上記実施例の球状体の触媒体は径15ミリメートルであり、油1リットル当りこの球状体の触媒体1個の使用が適当である。
【0037】
実験例1
食用油としてサラダ油と菜種油とを用いた揚げ物の実験例は次の通りである。
この試験は、栃木県食品工業指導所にて、副主幹兼穀類食品部長の測定によって行わ
れた。

(前提)
揚げ物の種類 厚揚げ用豆腐 3丁を7切れに切断した21枚
冷凍化にコロッケ 6個
冷凍牡蠣フライ 5個
冷凍イカ天ぷら 2枚

食用油の種類 サラダ油と菜種油
油容器及び油量 フライパンに1リットル
揚げの温度 180℃±10℃

比較 触媒体の使用個数 6個使用と無使用との場合

実験結果
サラダ油の酸化測定値(AV)
原 油(使用前) 0.395
触媒体 無使用 0.49
触媒体6個使用 0.414

菜種油の酸化測定値(AV)
原 油(使用前) 0.433
触媒体 無使用 0.55
触媒体6個使用 0.484

触媒体の無使用と6個使用の場合における上記測定値の差は、
概ね、油を約3倍長持ちさせるに足る結果である。

尚、油の状況は次の通りであった。
触媒体 無使用 油の跳ね上がり、油の着色が認めら、
油はねっとりとして重い感じがした。
触媒体6個使用 無使用に較べて、
油の跳ね上がりが少なく、着色が薄く、
油はサラサラとして軽い感じがした。
【0038】
実験例2として、食用油に触媒体を使用した場合と、使用しない場合における酸化測定値(AV)の経時変化を図3に示す。図の縦軸はAV値、横軸は日数である。
この実験は、食用油を加熱容器に入れたときの酸化測定値約0.4の原油を、触媒体を投入して加熱(180℃±10℃)した当日から12日までの経過の日々の測定値と、触媒体を投入せずに同様に加熱した当日から4日までの経過の日々の測地値とを、グラフ化したものである。
この実験例2のグラフによっても、本発明の未実施(触媒体の無使用)の場合と実施(使用)の場合における、食用油の品質基準値AV2.5に達するまでの経過日数の差は、破線で示す未実施の場合は僅か2〜3日で達してしまうのに対して、実線で示す実施の場合には12日をも要することから、食品油の寿命即ち、使用可能期間を約3倍延長させる結果が得られた。
【0039】
本発明は、触媒としての白金を還元剤として二酸化チタンに混合させて触媒体としたものを酸化抑制剤として油に用いるものであり、この二酸化チタンの還元作用によって、油中での遊離脂肪酸の発生をより抑制させるものである。
従って、本発明に係る触媒体(二酸化チタンに白金を混合させた混合物)は、上記実施例で説明したようにセラミック球体を担体として必ずしも備えさせる必要はなく、何らの担体をも備えず、二酸化チタンに白金を混合した物のみを適当に成形した触媒体としてもよい。
又、担体を備える場合には、上記実施例で説明した例に限らず、他の適当な不活性物質を担体として用いてもよい。
【0040】
又、本発明に係る酸化抑制方法やその装置は、加熱されている油に使用するだけでなく、加熱後の油や保管中の油或いは過熱されてない未使用の油についても、その酸化を遅延させることができる。
【0041】
又、上記実施例では開放容器に径15ミリメートルの球状体の触媒体を複数個納めた例で説明したが、開放容器は必ずしも用いる必要はなく、例えば、1リットルの油では1個の球状体の触媒体をそのまま油中に投入してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、上記実施例ではサラダ油や菜種油等の天ぷら油を例にして説明したが、これに限らず、食用油やその他の油の酸化防止手段として産業上広く利用する事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】球状体に形成された触媒体の一部切欠斜視図である。
【図2】開閉容器の一例を示す斜視図である。
【図3】触媒体の使用と未使用の場合における比較グラスである。
【符号の説明】
【0044】
1 セラミック球体
2 白金が混合された二酸化チタンの皮膜
3 触媒体
4 開放容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化チタンに白金を混合した触媒体を食用油に浸し、前記食用油の酸化を抑制させることを特徴とする食用油の酸化抑制方法。
【請求項2】
触媒体は担体を備えないことを特徴とする請求項1に記載の食用油の酸化抑制方法。
【請求項3】
触媒体は担体を備えたことを特徴とする請求項1に記載の食用油の酸化抑制方法。
【請求項4】
触媒体は、アルミナを母体とする担体としてのセラミック球体を備え、前記球体の表面に、触媒としての白金が混ぜられた二酸化チタンが皮膜を形成するように焼成された球状体であることを特徴とする請求項1又は請求項3に記載の食用油の酸化抑制方法。
【請求項5】
触媒体は、内外に油の流通を自在に許す開放容器に適当数納められた状態で食用油中に浸すことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れかに記載の食用油の酸化抑制方法。
【請求項6】
開放容器は、食用油中で転動し難い角形の容器であることを特徴とする請求項5に記載の食用油の酸化抑制方法。
【請求項7】
触媒体は、食用油を調理に加熱使用中に当該食用油中に浸しておくことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の食用油の酸化抑制方法。
【請求項8】
触媒体は、食用油の使用可能期間中に当該食用油中に浸しておくことを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の食用油の酸化抑制方法。
【請求項9】
二酸化チタンに白金を混合して油の酸化を抑制させるために当該油に浸される触媒体としたことを特徴とする食用油の酸化抑制装置。
【請求項10】
触媒体は担体を備えないことを特徴とする請求項9に記載の食用油の酸化抑制装置。
【請求項11】
触媒体は担体を備えたことを特徴とする請求項9に記載の食用油の酸化抑制装置。
【請求項12】
食用油中に投入される開放容器に、二酸化チタンと触媒としての白金が混合された触媒体が適当数に納められたことを特徴とする食用油の酸化抑制装置。
【請求項13】
触媒体は、アルミナを母体とする担体としてのセラミック球体を備え、前記球体の表面に、触媒としての白金が混ぜられた二酸化チタンが皮膜を形成するように焼成された球状体であることを特徴とする請求項9、請求項11、請求項12の何れかに記載の食用油の酸化抑制装置。
【請求項14】
開放容器は、油の流通を自在に許す網目又は無数の孔を備えた容器であることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の食用油の酸化抑制装置。
【請求項15】
開放容器は、食用油中で転動し難い角形の器であることを特徴とする請求項12乃至請求項14の何れかに記載の食用油の酸化抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−41528(P2011−41528A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192642(P2009−192642)
【出願日】平成21年8月22日(2009.8.22)
【出願人】(509237985)
【出願人】(509237653)
【Fターム(参考)】