説明

食用油再生用濾過材及びそれを使用した食用油再生方法

【目的】 劣化した食用油から種物の残留物だけでなく、悪臭、酸化物質、酸性物質及び重合物を吸着分離でき、濾過により食用油を簡単に再生できる経済的な濾材及び該濾材を用いて劣化食品油を再生する方法を提供すること。
【構成】 炭酸塩としてCaOとMgOの合量が2%から12%であるセピオライトを含む濾材、好ましくは650℃から850℃までの温度で焼成処理した濾材。及び、該濾材を用いて食用油を濾過再生する方法。なお、前記セピオライト濾材は、その粒度が0.1〜2.0mmで、平均粒径が0.3〜0.7mmであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、使用中又は使用済の食用油に増加した劣化あるいは変性物質を除去する濾過材及びそれを使用した食用油再生方法に関するもので、特に食品工場やレストランで毎日発生する揚油を濾過するのに使用できる濾過材及びそれを用いる食用油再生方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】使用中又は使用済の食用油には、種物(揚げるのに使用した食物等)の影響や、加熱されることにより、酸化、加水分解、重合等の化学変化により着色や悪臭、酸化物質、酸性物質、重合物等の食品として好ましからぬ物質が生成する。悪臭の原因となるものや酸化物質は、酸化劣化により生じたカルボニル基を有する低分子物質、酸性物質の原因となるものは酸化劣化により生じたカルボン酸にまで酸化された低分子物質が主成分であり、重合物は、不飽和結合が酸化され、ハイドロパーオキサイドを生じ、ハイドロパーオキサイドの分解によるフリーラジカルにより他の不飽和結合とのラジカル機構による重合によって生じるものが主成分であり、食用油の粘度を上昇させる。
【0003】これらの悪臭、酸化物質、酸性物質、重合物等を含む、いわゆる劣化した食用油を再生する方法として、濾布や濾紙を用いただけの、種物の残留物のような固形物だけを除去する簡単な方法や、さらには吸着材と接触させ悪臭、酸化物質、酸性物質等を吸着分離し、しかる後吸着材をその他固形物と共に強制濾別する方法や、吸着材そのものを濾材として濾過する方法等が提案されている。濾布や濾紙で濾過する方法では、単に固形物を除去する程度に過ぎず、化学変化によって生成した劣化成分を除去するまでには到底至らない。吸着材を用いる方法としては、白土やクレー混合物と接触攪拌し、しかる後強制濾別する方法であり、精油工場などで用いられる方法であるが、食品工場やレストラン等では設備的に大掛かりになり採用し難いという難点がある。食品工場やレストラン等で使用されている食用油の多くは、大豆白絞油などの植物油脂である。第1表に主な植物油脂の脂肪酸組成を示す。第1表から、特異な油脂を除き、これら油脂のほとんどがオレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の炭素数18からなる脂肪酸のトリグリセリドであることがわかる。
【0004】
【表1】


【0005】濾材の比表面積、細孔容積及び細孔径の特性値が、劣化食用油の吸着濾過に適した値を有し、優れた食用油再生性能を示すものに活性アルミナやシリカゲルが挙げられるが、これ等は高度に化学処理された製品で経済的でない。また活性アルミナは、食品添加物として認可されていないという欠点を有する。また、煩雑な手段を避けるために、吸着材自身を用いて濾材に加工し、その濾材により劣化食用油を吸着濾過する方法も提案されている。吸着材としては、活性炭、活性アルミナ、活性白土、ゼオライトやシリカゲル等が良く知られている。これ等多孔質吸着材の比表面積、細孔容積、細孔径と食用油の劣化あるいは変質物質の吸着との関係を調べる中で、上記の物性特性値が吸着に大きく関係していることが判明した。比表面積、細孔容積、平均細孔径の値を第2表に示す。
【0006】
【表2】


【0007】植物油脂の脂肪酸は前記第1表に示したとおりほとんどが炭素数18からなる脂肪酸のトリグリセリドであり、これ等の分子の大きさはほぼ同じ大きさと考えられる。種物の影響や加熱による重合、加水分解や酸化分解によって、新鮮な食用油には含まれていなかった重合物や低分子化した悪臭成分、酸化物、酸性物の分子が多く発生する。これらの生成分子はトリグリセリドの分子サイズと明らかにことなり、これら分子サイズの異なる分子の存在が前記多孔質吸着材の物性特性値と劣化あるいは変質物質の吸着に深く関係すると考えられる。第2表に示すように、活性炭やゼオライト、乾燥用のシリカゲルは一般に細孔径が小さく、分布はおおよそ数Åから40Åで、この範囲の細孔径ではトリグリセリドの分子サイズより大きい分子サイズと考えられる重合物や着色物質の吸着除去効果は小さく、一方、細孔径がおおよそ50Å以上の範囲に分布しているシリカゲル、活性アルミナ及び活性白土等に吸着除去効果があり、なおかつその細孔容積が大きい程より吸着除去効果が大きいことが判明した。なお、参考のため、第2表には各濾材により濾過した劣化食用油の色度および酸価値が併記してある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、従来技術の前記問題点を解決し、劣化した食用油から種物の残留物のような固形物だけでなく、悪臭、酸化物質、酸性物質及び重合物を吸着分離し食用油を簡単に吸着濾別により再生し得る経済的な濾材及びそれを用いる劣化食用油の再生方法を提供することにある。以上述べた物性特性に鑑み、経済性に富む天然鉱物について、その比表面積、細孔容積、細孔径を調査したところセピオライトおよびクリストバライトが有効である(前記第2表に併記してある。)ことが判明し、劣化した食用油について吸着濾過試験を行ったところ、特にセピオライトが劣化物質の除去に有効であることが判明し、本発明に達した。
【0009】
【課題を解決するための手段】前記課題は、本発明のセピオライト製濾過材及びそれを使用した食用油再生方法を提供することによって解決される。すなわち、(1)構成鉱物中炭酸塩としてのCaOとMgOの合量が2%から12%であるセピオライトを含むことを特徴とする食用油再生用濾過材。
(2)前記セピオライトが650℃から850℃までの温度で焼成処理してなるものであることを特徴とする前記(1)項に記載の食用油再生用濾過材。
(3)前記セピオライトの粒度が0.1〜2.0mmで、平均粒径が0.3〜0.7mmであることを特徴とする前記(1)項または(2)項に記載の食用油再生用濾過材。
(4)前記(1)項ないし(3)項のいずれか1項に記載のセピオライトを含む濾過材を用いて食用油を濾過再生することを特徴とする食用油再生方法。である。
【0010】セピオライト(Sepiolite)は、Mg8 Si1230(OH)4 (OH2 4 ・8H2 Oの化学組成をもつ繊維状でチャンネル構造をもった含水マグネシウム珪酸塩鉱物である。しかし、セピオライトは多くの場合カルサイト(CaCO3 )、マグネサイト(MgCO3 )、ドロマイト((Ca,Mg)CO3 )のような炭酸塩鉱物が付随する。もちろん、その他の鉱物も付随していることもある。前記(1)項ないし(4)項においてセピオライトを含むことを特徴とする食用油再生用濾過材としたのは他の鉱物を付随していることを意味する。しかし、本発明の濾過材の主成分は前記化学組成をもつセピオライトである。また、前記(1)項において記載したCaOとMgOの合量とはセピオライトに含まれる炭酸塩としてのCaOとMgOとの合計量を全体の鉱物量のパーセントで表した量である。
【0011】
【作用】セピオライトは、スペイン、トルコ、中国等世界各地に産するが、本発明に使用したものはスペイン産の短繊維塊状のもので、物性値は、BET表面積が200m2 /g前後で天然鉱物としてはその値が著しく大きい。細孔径は、100〜400Å付近に多く分布し、平均細孔径は100Å前後で、その細孔容積は0.5ml/gと大きな容積である。この領域の細孔径は、ガス状の分子を吸着するミクロポアと異なり、液状のものを毛細管現象で吸い上げる最小径で、この特異な細孔は、繊維間の空隙と考えられている。熱重合で増加した粘性物質や着色物質のような巨大分子がセピオライトによって良く除去される事実はセピオライトのもつ特異な細孔径と深い関連があると推測される。
【0012】更に、食用油劣化の指標の一つである酸価値も低下することが判明した。酸価値とは、油脂1g中に含まれる酸性物質を中和するに要した水酸化カリウムの量をmg数で表した数値である。(第2表参照)
油脂に含まれる酸性物質とは、トリグリセリドが分解して生成するカルボン酸で、特に劣化した食用油では酢酸や蟻酸にまで分解した成分を含むこともある。
【0013】酸価の低下度合いは、セピオライトを焼成することにより、さらに効果が上がり持続性もあることが判明した。この理由は、前記した通りセピオライトには多くの場合カルサイト(CaCO3 )、マグネサイト(MgCO3 )、ドロマイト((Ca,Mg)CO3 )のような炭酸塩鉱物が付随する。これらの炭酸塩は焼成することにより、例えば下記反応により分解して、酸化物となり、酸性物質との中和反応が容易に進行し易くなった結果と思われる。
CaCO3 → CaO+CO2 従ってまた、炭酸塩鉱物の含有量が多い程焼成の効果は大きい。
【0014】焼成することは単に酸価の低下に効果があるばかりでなく異臭の原因にもなるセピオライトに含まれる有機成分を取り除くので、食品衛生上からも好ましい。しかし、これらのCaOやMgOは、脱酸に効果があるものの、多く含まれると好まざる副作用も現れる。好まざる副作用とは、カルシウムやマグネシウムとが、鹸化作用により加水分解した油脂と石鹸が生成し、揚げ物の最中に消え難い泡が発生することがある。実験の結果では、炭酸塩鉱物としてのCaOとMgOの合量が8%までは泡の発生は認められなかったが、合量で13%含む試料では泡の発生が認められた。従って、CaOとMgOの合量は2〜12%程度が望ましい。
【0015】焼成温度は、酸価の低下、特にその持続性に関連がある(図1)。また、図2に示すように、CaOとMgOの合量と脱酸効果との関係は、同じ劣化食用油を続けて濾過することにより明確になる。すなわち、濾過の第1回目の段階ではCaOとMgOの合量が1.6%以上であれば合量が異なっていても酸価値(AV値)は新油並の値に低下するが、2回目には合量によって差が顕著に現れてくる。図2の例では試料Cと試料Dとの間で差が顕著になると思われる。これを焼成の温度の差で観察すると図1に示すセピオライトの焼成温度とその温度で焼成されたセピオライトによって処理された濾過油のAV値との関係図から明らかであり、600℃と700℃との間に大きな差が現れている。図2中の各試料セピオライト中のCaO量、MgO量及びそれらの合量を第3表に示した。
【0016】
【表3】


【0017】焼成温度が600℃であるセピオライトからの濾材と700℃であるセピオライトからの濾材とを用いて濾過した濾過油の濾過回数2回以降のものについて大きな差が現れるが、この現象は、図3のDTAおよびTGによるカルサイト(CaCO3 )の熱分解の解析結果に現れる分解開始温度が約650℃であることと関係あるものと思われる。しかしまた、焼成温度が高すぎると第4表に示すようにセピオライトが本来もつ物性特性値に大きい変化を生じるので、焼成時間は、650℃〜850℃が望ましい。
【0018】
【表4】


【0019】本発明は、食品工場やレストラン等のほとんど毎日使用される食用油を対象とするものであり、濾過時間が大きく影響する。濾材の粒度が細かい程食用油との接触面積が大きく影響する。粒度が細かい程、油との接触面積が大きく劣化成分の除去には効果があるが、濾過時に閉塞現象を起こす。このため、濾材の粒度は0.1〜2mm、平均粒径0.3〜O.7mmとし、濾材の層厚は100〜200mmが適当である。
【0020】
【実施例】以下に本発明の食用油再生方法を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の説明によって制限されるものではない。
実施例1市販品であるセピオライト(昭和鉱業株式会社製 商品名ミルコンG)の試料を用い、その乾燥品と500℃、600℃、700℃及び800℃の各温度で焼成した5試料を調製した。市販品の特性値は、粒度分布は0.1〜0.7mm、平均粒径0.35mm、付随する炭酸塩鉱物は、カルサイトはCaOとして4.7%、マグネサイトないしドロマイト(あるいは両者)はMgOとして1.4%である。これらの試料を40mmφのカラムに200mmの層厚に充填し、劣化食用油250mlを注入し、自然流下させ、その濾過再生油の酸価値(AV値)を測定した。結果を第5表に示す。(第5表の結果は、図1のグラフに示すものと同じである。)第5表よりわかるように、焼成処理により脱酸効果は明らかに向上する。
【0021】
【表5】


【0022】乾燥品と500〜600℃焼成品との比較では、焼成品の脱酸効果は20%程度向上している。しかし、その持続性はなお乏しい。700℃以上の焼成品では、乾燥品に比べ脱酸効果はほぼ2倍となり、かつ持続性がある。この焼成効果の発現は図3に示すカルサイトの熱解析による分解開始温度が約650℃であるとの結果とほぼ一致し、酸化カルシウムによる脱酸効果の発現を裏付けるものと考えられる。また、濾過再生油の臭いは、乾燥品では異臭を感じるものの500℃以上の焼成品では異臭は感じられなかった。
【0023】
【発明の効果】
1.セピオライト原石を粉砕、分級し、粒度をある範囲に調整した、経済的に安価な濾材であるが、それを用いて濾過した食用油には、含まれる着色物質や酸性物質が少なく、セピオライト製濾材は、効果的に着色物質や酸性物質を除去できる優れた食用油再生濾材である。
2.更に、セピオライト製濾材を焼成することにより、酸性物質の除去性を持続性あるものにできる。
3.更にまた、焼成品により濾過した食用油では異臭は感じられない。
【図面の簡単な説明】
【図1】セピオライト濾材焼成温度をパラメータとする濾過回数と酸価値の関係を示すグラフである。
【図2】800℃焼成品による、炭酸塩としてCaOとMgOの合量と脱酸効果及びその持続性を示すグラフである。
【図3】DTAおよびTGによるカルサイトの熱分解解析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 構成鉱物中炭酸塩としてのCaOとMgOの合量が2%から12%であるセピオライトを含むことを特徴とする食用油再生用濾過材。
【請求項2】 前記セピオライトが650℃から850℃までの温度で焼成処理してなるものであることを特徴とする請求項1に記載の食用油再生用濾過材。
【請求項3】 前記セピオライトの粒度が0.1〜2.0mmで、平均粒径が0.3〜0.7mmであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の食用油再生用濾過材。
【請求項4】 請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のセピオライトを含む濾過材を用いて食用油を濾過再生することを特徴とする食用油再生方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開平8−239686
【公開日】平成8年(1996)9月17日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−45821
【出願日】平成7年(1995)3月6日
【出願人】(000227250)日鉄鉱業株式会社 (82)