説明

食肉加工用の塩漬剤製剤及び塩漬用液

【課題】食肉加工品の製造における塩漬処理に関する上記の従来技術における技術課題を達成するべく成されたものであり、アルカリ臭がなく、かつ塩漬処理をした食肉を加熱処理した際の食感の改良効果を有し、更に、食肉加工品に、サシの入った赤味を基調とした色調を付与することができる食肉塩漬剤を提供すること。
【解決手段】有機酸塩と乳清ミネラルからなる有効成分として食肉塩漬剤を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リン酸塩を使用していない食肉加工用の塩漬剤製剤及びそれを用いた食肉用の塩漬用液に関する。
【背景技術】
【0002】
ハムやソーセージ等の食肉加工食品の製造において、加熱処理後の食感や加熱歩留まり向上などの品質改良目的でリン酸塩を使用することは広く知られている。リン酸塩を用いた塩漬処理を経た食肉材料を加熱処理することにより、ハムやソーセージに必要とされる硬さと、しなやかさがを得ることができる。
【0003】
しかしながら、昨今、リン酸塩の使用が敬遠されるようになってきており、リン酸塩以外のものでの物性改良効果が求められてきている。
【0004】
リン酸塩以外の物性改良剤としては、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、酵素、アルカリ卵白及び乳清ミネラル濃縮物などが知られている。
【0005】
特許文献1には、水酸化カルシウム及び/又は酸化カルシウムと、クエン酸3ナトリウム及び/又はクエン酸3カリウムを、モル比で1:1.5〜1:10の比率で含むことを特徴とする食肉単味品用製剤、更には、この食肉単味品用製剤を、必要に応じてトランスグルタミナーゼと併用して用いる食肉単味品の製造方法が開示されている。
【0006】
特許文献2には、1重量%の水溶液とした際のpHが11以上13未満である乳清ミネラル濃縮物を、畜肉食品に添加することを特徴とする畜肉食品の製造方法が開示されている。
【0007】
一方、ハム、ベーコン、ソーセージなどの食肉製品の製造において、食肉加工品に赤味を付与するための発色剤が利用されている。発色剤としては、亜硝酸ナトリム等の亜硝酸塩が一般的に知られている。また、特許文献3には、2価又は3価の金属を含有する金属塩と、アスコルビン酸又はその塩とを発色剤として併用し、pHを6.2〜8に調整した食肉組成物を調製することによる発色性に優れた食肉製品の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−248661号公報
【特許文献2】特開平8−23924号公報
【特許文献3】特開2009−159825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
塩漬処理をした食肉の加熱処理後の食感や歩留まりを改良するために、リン酸塩に代えて、水酸化カルシウムや酸化カルシウムを使用した場合、塩漬用液のpHが高いことによる物性改良効果は高くなるが、塩漬処理後の食肉にアルカリ臭が残る場合があるという点では課題が残る。また、アルカリ卵白を用いた場合には、塩漬用液のpHを、水酸化カルシウムや焼成カルシウムよりも低くすることができるが、アルカリ卵白特有のアルカリ臭(硫黄臭)が残る場合がある。これらのアルカリ臭は、食肉加工品の味付けが薄い場合には、その風味を大幅に損なうことになる。これらのアルカリ臭に関する問題については、特許文献2の従来の技術の欄にも記載されている。
【0010】
なお、特許文献2では、乳清ミネラル濃縮物を用いることにより、上述したアルカリ臭のない食肉処理を行うという課題を解決しているが、乳清ミネラル濃縮物を調製する際に、1%水溶液とした際のpHが11以上13未満である濃縮画分を、イオン交換樹脂を用いてチーズホエー又はカゼインホエーから取得する工程が必要となる。
【0011】
一方、食肉に赤味を与えるための発色剤としては亜硝酸塩や、特許文献3に開示される2価又は3価の金属を含有する金属塩とアスコルビン酸又はその塩との併用が知られている。
【0012】
しかしながら、亜硝酸塩自体には、塩漬処理効果はない。また、特許文献3には、食肉加工品に良好な発色性を付与するための方法が開示されているが、良好な発色性とともに、塩漬処理効果を得ることができる食肉処理剤についての開示は引用文献3には見当たらない。
【0013】
本発明は、食肉加工品の製造における塩漬処理に関する上記の従来技術における技術課題を達成するべく成されたものであり、本発明の目的は、塩漬処理した食肉材料にアルカリ臭がなく、かつ塩漬処理をした食肉材料の加熱処理後の食感の改良効果を有する食肉加工用の塩漬剤製剤及び塩漬用液を提供することにある。
【0014】
本発明の更なる目的は、食肉加工品の色調における黄色成分の赤味成分に対する相対的な強度を低下させて、赤みを増やすことができる食肉加工用の塩漬剤製剤及び塩漬用液を提供することにある。
【0015】
本発明の更なる目的は、塩漬処理をした食肉材料の加熱処理後の歩留まりを向上させることができる食肉加工用の塩漬剤製剤及び塩漬用液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明にかかる食肉加工用の塩漬剤製剤は、有機酸塩と乳清ミネラルからなる有効成分を含むことを特徴とする。また、本発明にかかる塩漬用液は、上記の塩漬剤製剤と水性媒体と含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明にかかる塩漬剤製剤と水性媒体とを用いて調製された塩漬用液を用いて食肉または食肉加工品原料を処理することにより、アルカリ臭がなく、かつ加熱処理後における良好な弾力性及び保水力を有する食肉加工品を製造することが可能となる。本発明にかかる塩漬用液を用いて食肉または食肉加工品原料を処理することにより、色調中における赤みが増えている食肉加工品を製造することもできる。また、本発明にかかる塩漬用液を用いて食肉または食肉加工品原料を処理することにより、歩留まり良く塩漬処理を行うことも可能となる。
【0018】
これらの本発明による効果は、次のような作用によるものと考えられる。まず、本発明にかかる塩漬剤製剤と水性媒体とを用いて塩漬用液を調製した際には、有機酸塩が乳清ミネラル中のミネラル成分の溶解を促進して塩漬用液のpHを高pH側にシフトする。これによって、アルカリ性の塩漬用液による塩漬効果を得ることができる。このpHのシフトは、有機酸塩が乳清ミネラルのキレート剤として作用して、カルシウムなどの水に対する溶解度の低い塩を形成する成分の塩漬用液中への溶解を促進していることによるものと考えられる。従って、乳清ミネラル単独で塩漬用液を調製した場合よりも、有機酸塩を併用した場合にカルシウム等のミネラル成分の溶解する割合が多くなると考えられる。更に、本発明にかかる塩漬用液では、pHをアルカリ臭の発生のない弱アルカリ性の範囲内としても、良好な塩漬効果を得ることができる。これは、有機酸塩の併用により溶解したミネラル成分が食肉材料のタンパク質組織中に入り込み、タンパク質組織におけるペプチド間の架橋構造を維持するとともに、タンパク質組織を構成するペプチドをマイナスにチャージすることで親水性が高め、保水力が向上するものと考えられる。この塩漬用液で浸漬処理した食肉材料を加熱処理した際にも、良好な保水力と弾力性のあるしなやかな組織が形成され、良好な食感を得ることができる。更に、塩漬処理における製造歩留まりを向上させることも可能となる。加熱処理後の食肉加工品の色調における黄色成分の赤味成分に対する相対的な強度を低下させて、赤みを増すことも可能となる。更に、亜硫酸塩のような発色剤と併用した際にも、食肉加工品の色調における黄色成分の強度を低下させて赤みを強調することが可能となるとともに、サシの入った美味しそうな外観を付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ロースハム製造工程中での食肉材料の重量変化を示す図である。
【図2】ロースハムの離水率の測定結果を示す図である。
【図3】ロースハム製造工程中での食肉材料の重量変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明にかかる塩漬剤製剤に用いる有機酸塩としては、乳清ミネラルとの組合せによって本発明において目的とする効果を得ることができるものであればよい。有機酸塩を形成するための有機酸としては、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸などを挙げることができる。有機酸塩を形成するための塩基としては、ナトリウム、カリウムなどを挙げることができ、ナトリウムを用いることが好ましい。有機酸塩は1種または2種以上の組合せとして用いることができる。水性媒体との混合により得られる溶液におけるpHの高pH側へのシフト効果の点からは、少なくともクエン酸塩を用いることが好ましく、更には、クエン酸塩と酒石酸塩との組合せを用いることがより好ましい。
【0021】
乳清ミネラルとしては、ホエーから水溶性タンパク質を除去して得られるカルシウム、ナトリウム、カリウム及びマグネシウム等のミネラル成分を含むものが利用できる。乳清ミネラルとしては、乳清カルシウムが好ましい。本発明においては、種々のタイプの乳清ミネラルを用いることができる。乳清ミネラルとしては、常法に従って調製したものや、アーラ フーズ イングレディエンツ ジャパン株式会社から市販されているものなどの各種市販品が利用できる。
【0022】
本発明に係る塩漬剤製剤によれば、有機酸塩と乳清ミネラルとを組み合せて用いたことにより、これらを単独で用いた場合よりも水溶液とした際のpHが高pH側にシフトする。この高pH側へのシフトにおける有機酸塩と乳清ミネラルとの相乗効果により、本発明において目的とする塩漬効果を有するアルカリ性の塩漬溶液を得ることができる。更に、有機酸塩と乳清ミネラルとが複合的に食肉材料のタンパク組織に作用して、ペプチド鎖の架橋構造が維持されるとともに、保水力も向上し、有機酸塩と乳清ミネラルとを組み合せて用いたことにより、これらを単独で用いた場合よりも、良好な弾力性と保水力、並びに加熱時の歩留まりを得ることができる。
【0023】
塩漬剤製剤中への有機酸塩と乳清ミネラルとの配合割合(質量基準)は、有機酸塩70〜95質量%、乳清ミネラル5〜30質量%の範囲から選択することができる。有機酸塩としてクエン酸塩とその他の有機酸塩を用いる場合のこれらの配合割合(質量基準)は、有機酸塩成分中に、クエン酸塩を70〜95質量%、その他の有機酸塩を5〜30質量%の範囲から選択して用いることができる。その他の有機酸塩としては、酒石酸塩が好ましい。
【0024】
本発明にかかる塩漬剤製剤と水性媒体を用いて塩漬用液を調製することができる。水性媒体としては、水が利用でき、水性媒体中には目的とする食肉加工品を製造するために必要とされる各種の調味料、添加剤、品質改良剤などを添加することができる。
【0025】
塩漬用液への塩漬剤製剤の添加量は、塩漬用液が目的とする塩漬効果を得ることができ、かつアルカリ臭の発生のないpHを有する量とされる。塩漬用液のpHとしては、7.0〜9.0の範囲となるように調製することが好ましく、従って、この範囲のpHが得られるように、塩漬剤製剤中の有機酸塩と乳清ミネラルの配合比及び塩漬剤製剤の塩漬用液への添加量を選択することが好ましい。なお、リン酸塩単独使用の場合の塩漬用液のpHは6.0〜8.0であり、本発明にかかる塩漬剤製剤を用いることにより、より高いpHでの塩漬処理を行うことができる。
【0026】
塩漬剤製剤中の有機酸塩と乳清ミネラルの配合比については、1質量%の水溶液とした際に、8.0〜10.0範囲のpHが得られる配合比が好ましい。更に、かかる塩漬剤製剤中の有機酸塩と乳清ミネラルの配合比を有する塩漬剤製剤の添加量を、塩漬用液のpHが7.0〜10.0の範囲となるように設定することが好ましい。これらの点を考慮して、塩漬用液への塩漬剤製剤の最終食品中への添加量は、好ましくは0.5〜6.0質量%、より好ましくは0.5〜3.0質量%の範囲から選択することが好ましい。また、塩漬用液への塩漬剤製剤の添加量は、例えば3質量%〜6質量%から選択することができる。
【0027】
塩漬用液を用いて、ハム、ソーセージ、鶏から揚げ、豚カツ、ハンバーグなどの食肉加工食品の製造における食肉材料の塩漬処理を行うことができる。食肉材料としては、目的とする食肉加工品に応じて選択することができ、ブロック肉、スライス肉、ひき肉などが利用でき、特に限定されない。
【0028】
塩漬処理は、目的とする食肉加工品における塩漬効果を得ることができる条件によって行なうことができ、本発明にかかる塩漬剤製剤では、リン酸塩を用いた場合と同様の処理条件を採用することによっても本発明で目的とする塩漬効果を得ることができる。
【実施例】
【0029】
実施例1(pHシフト効果)
表1に示す有機酸塩のそれぞれを単独で乳清ミネラルと、有機酸塩80質量%、乳清ミネラル20質量%の配合として混合し製剤を調製した。更に、各製剤と、表1に示す各有機酸塩を用いて1質量%の水溶液を調製し、それぞれのpHを、ガラス電極法を用いて測定した。また、乳清ミネラルの1質量%の水溶液のpHも同様にして測定した。得られた結果を表1に示す。なお、後述する各実施例におけるpH測定についても、ガラス電極法を用いて行なった。
【0030】
【表1】

【0031】
実施例2(無アルカリ臭効果)
以下の成分を混合して無リン酸塩塩漬剤製剤(粉体)を調製した。
・クエン酸三ナトリウム:75質量%
・d-酒石酸ナトリウム:5質量%
・乳清ミネラル:20質量%
通常卵白粉末30g、無リン酸塩塩漬剤製剤30g、純水170gを混合して混合溶液(pH:8.64)を調製した。更に、アルカリ卵白粉末(粉体)15質量%溶液(pH:8.90)を調製した。これらの溶液について、以下の各種の臭いについて官能試験を行った。
【0032】
【表2】

【0033】
実施例3(ロースハムの製造1)
(1)塩漬用液(ピックル液)の調製
表3に示す組成を用いて、ピックル液A、ピックル液B及び参考ピックル液Aを調製した。
【0034】
【表3】

【0035】
得られた各ピックル液のpHを表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
ピックル液A、ピックル液B及び参考ピックル液Aをそれぞれ肉100重量部に対し、60重量部インジェクション法により打ち込み、ロースハムを製造した。得られた各ロースハムについて、以下の各項目について分析を行なった。
(1)製造工程中での重量変化
原料肉重量を1としたときの塩漬上がり時の重量及び加熱処理後の重量を測定した。得られた結果を図1に示す。
(2)ロースハム抽出液pH
各ロースハムを細くカットして20g量り採り、40mlの純水を加えホモジナイズ処理を行った後、抽出液のpHを測定した。得られた結果を表5に示す。
【0038】
【表5】

【0039】
(3)離水率
5mm幅×3cm四方にカットしたハムを上下3枚ずつの濾紙に挟み、20kgの圧力を加え、加圧前、加圧後の重量変化を測定し、加圧したことによる離水率を求めた。得られた結果を図2に示す。
(4)色調及び外観
各ロースハムを5mm幅にスライスし、切断面の色調を色差計(コニカミノルタ社製CR−200)により測定した。また、断面の外観を目視によって観察した。得られた結果を表6に示す。
【0040】
【表6】

【0041】
無リン酸塩塩漬剤製剤を使用したロースハムは、全体的に赤みが強く、全体にサシが入ったような外観となった。
【0042】
実施例4(ロースハムの製造2)
(1)塩漬用液(ピックル液)の調製
表7に示す組成を用いて、ピックル液C、ピックル液D及び参考ピックル液Bを調製した。
【0043】
【表7】

【0044】
得られた各ピックル液のpHを表8に示す。
【0045】
【表8】

【0046】
ピックル液C、ピックル液D及び参考ピックル液Bをそれぞれ個々に用いて常法によりロースハムを製造した。得られた各ロースハムについて、以下の各項目について分析を行なった。
(1)製造工程中での重量変化
原料肉重量を1としたときの塩漬上がり時の重量及び加熱処理後の重量を測定した。得られた結果を図3に示す。
(2)ロースハム抽出液pH
各ロースハムを細くカットして20g量り採り、40mlの純水を加えホモジナイズ処理を行った後、抽出液のpHを測定した。得られた結果を表9に示す。
【0047】
【表9】

【0048】
(3)色調及び外観
各ロースハムを5mm幅にスライスし、切断面の色調を色差計(コニカミノルタ社製CR−200)により測定した。また、断面の外観を目視によって観察した。得られた結果を表10に示す。
【0049】
【表10】

【0050】
全てのロースハムにおいて発色剤を使用していないため、a値(赤み)よりb値(黄色み)が高いが、無リン酸塩塩漬剤製剤を使用したロースハムではb値を低くすることで、見かけ上の赤みを強くすることができ、ロースハムとしての外観の向上を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明にかかる塩漬剤製剤は、ハム、ソーセージ、鶏から揚、豚カツ、ハンバーグなどの食肉加工食品の製造における塩漬処理用の無リン酸塩塩漬剤製剤として好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機酸塩と乳清ミネラルからなる有効成分を含むことを特徴とする食肉加工用の塩漬剤製剤。
【請求項2】
有機酸塩を70〜95質量%、乳清ミネラルを5〜30質量%含む請求項1に記載の塩漬剤製剤。
【請求項3】
有機酸塩として、クエン酸塩と酒石酸塩の組合せを含む請求項1または2に記載の塩漬剤製剤。
【請求項4】
クエン酸塩と酒石酸塩の配合比(質量基準)が、70:30〜95:5である請求項1から3のいずれか1項に記載の塩漬剤製剤。
【請求項5】
乳清ミネラルが、乳清カルシウムである請求項1から4のいずれか1項に記載の塩漬剤製剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の塩漬剤製剤と水性媒体と含むことを特徴とする食肉加工用の塩漬用液。
【請求項7】
pHが7.0〜9.0である請求項6に記載の塩漬用液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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