説明

食肉添加剤、ピックル液及び食肉加工品

【課題】食肉加工品加熱時の保水能力を高め、食感に優れた食肉加工品製造のための食肉添加剤およびピックル液を提供する。
【解決手段】熱でゲル化する水溶性セルロースエーテルを少なくとも含有する食肉添加剤、この食肉添加剤を含有するピックル液、およびこの食肉添加剤を含んでなる食肉加工品を提供する。また、上記食肉添加剤又は上記ピックル液を食肉に添加する工程と、上記食肉添加剤又は上記ピックル液を添加された食肉を該食肉添加剤又は該ピックル液に含有される水溶性セルロースがゲル化する温度以上で加熱する工程とを少なくとも含んでなる食肉加工品の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱した際にゲル化する水溶性セルロースエーテルを含む畜肉、魚介類等の食肉添加剤、ピックル液及びこれを用いて食感が改良された食肉加工品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステーキ、焼肉、フライドチキン等肉塊をそのまま或いは比較的大きくスライス、カットして用いる食肉加工品は、加熱することにより肉汁が流出して歩留まりが低下し、その結果硬くなってソフト感やジューシー感等の食感が悪くなってしまう現象がある。このような現象は、商品価値を低下させるばかりでなく、歩留まり低下による工業的な損失も大きい。
【0003】
これらの問題を解決するために従来から、多糖類、植物たん白、脱脂粉乳、卵白、粉末セルロース類、でん粉類等の単独又はそれらを組み合わせて食肉に注入したり又は食肉をピックル液に浸漬したりして、一定の軟化効果やジューシー感を持たせる手法等が試みられてきた。
例えば、1,3−ステアロイル2−オレイルグリセリドを含有した食用油脂と不飽和ジグリセリン脂肪酸エステルと有機酸モノグリセリド、更に熱凝固性タンパクを配合したピックル液を食肉に含ませた後、油脂結晶を粗大化させて解乳化させる方法(特許文献1)、水不溶性澱粉及び粉末油脂、カードランを含むピックル液を注入する方法(特許文献2)、食用油脂及びHLB11以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有するO/W乳化物をピックル液に配合する方法(特許文献3)、食用油脂及びジグリセリン不飽和脂肪酸エステル及び/又はトリグルセリン不飽和酸エステルを含有する流動性油脂組成物と粉末油脂を含むピックル液を用いる方法(特許文献4)等が提案されている。
しかし、前述の方法は、工業的に簡便でなく、また満足のできる効果が得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−50794号公報
【特許文献2】特開2001−258511号公報
【特許文献3】特開平3−277250号公報
【特許文献4】特開2007‐267647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、食肉加工時における上記の問題点を克服し、食肉加工品加熱時の保水能力を高め、さらには、熱でゲル化するカードランを使用した際に見られるような食感の硬化という問題点を低減し、食感に優れた食肉添加剤、ピックル液及びこれを用いた食肉加工品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究した結果、例えば、原料肉の塊又はスライスした食肉に、熱でゲル化する水溶性セルロースエーテルを含む食肉添加剤の溶液もしくはピックル液に浸漬又は食肉添加剤の溶液もしくはピックル液を注入して加熱することにより、加熱時の食肉製品の保水性が大いに向上し、しかも食感に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、熱でゲル化する水溶性セルロースエーテルを少なくとも含有する食肉添加剤、この食肉添加剤を含有するピックル液、およびこの食肉添加剤を含んでなる食肉加工品を提供する。また、本発明は、上記食肉添加剤又は上記ピックル液を食肉に添加する工程と、上記食肉添加剤又は上記ピックル液を添加された食肉を該食肉添加剤又は該ピックル液に含有される水溶性セルロースがゲル化する温度以上で加熱する工程とを少なくとも含んでなる食肉加工品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の食肉添加剤、食肉用ピックル液及びこれを含む食肉製品は、加熱時に食肉製品の保水率が向上し、製品の歩留まりを向上させることができ、またジューシーな食感が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明につき、更に詳しく説明する。
本明細書に記載する食肉は、食用とする鳥獣の肉に限らず、食用の魚肉等の魚介類も含む。本発明によれば、熱でゲル化する水溶性セルロースエーテルを少なくとも含有する食肉添加剤が提供される。この食肉添加剤は、例えば水溶液として直接肉塊に添加しても良いが、ピックル液に含有し、ピックル液として食肉に添加することが好ましい。
ピックル液は、一般に、食肉加工品製造時に、肉塊に注入又はタンブリング、食肉塊を浸漬する際に使用する調味液を言う。ピックル液は、肉塊に味を付与するための塩や砂糖等の調味料や、加熱した後の食感を改良する為にデンプン等の多糖類又は油脂を含むものが多い。通常、肉塊を加熱する際に肉繊維の隙間から水分と油分が分離され、肉塊の食感が悪くなったり、歩留まりが悪くなる事を防ぐ目的で使用されるものである。燻製等の製造において、ピックル液とソミュール液を区別する文献もあるが、本明細書では、ピックル液を広く解し、ソミュール液もピックル液に含める。
【0009】
本発明によれば、食肉添加剤又はピックル液は、加熱時にゲル化可能な水溶性セルロースエーテルを含有する。加熱時にゲル化可能な水溶性セルロースエーテルとしては、メチル基を有するメチルセルロース、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシエチル基等のヒドロキシアルキル基をメチル基やエチル基に加えて少量置換したヒドロキシアルキルアルキルセルロースを用いることが好適である。特に好ましいものとして、メチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースが挙げられる。なお、これらの水溶性セルロースエーテルは単独又は2種類以上混合しても良い。
食肉添加剤又はピックル液に加熱時にゲル化可能な水溶性セルロースエーテルを添加した場合には、加熱により水溶性セルロースエーテルが溶解しているピックル液がゲル化し、添加された食肉組織の隙間をふさぐことで、加熱中に発生する肉汁が流出するのを防ぎ、歩留まりを向上させる。また、これらの水溶性セルロースエーテルは温度の低下と共にゲル化が緩和されるので、食肉加工品を食す際には柔らかくジューシーな食感が得られる。
【0010】
上記メチルセルロースとしては、メトキシル置換度19〜32質量%程度の水溶性メチルセルロース(例えば、ゲル化温度:50℃、溶解温度:20℃)を用いることが好ましく、またヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、メトキシル置換度19〜32質量%、ヒドロキシプロポキシル置換度4〜12質量%のヒドロキシプロピルメチルセルロース(ゲル化温度:70〜80℃、溶解温度:30〜40℃)、メトキシル置換度19〜32質量%、ヒドロキシエトキシル置換度4〜12質量%のヒドロキシエチルメチルセルロース(ゲル化温度:70〜80、溶解温度:35〜55℃)、エトキシル置換度5〜20質量%、ヒドロキシエトキシル置換度4〜60質量%のヒドロキシエチルエチルセルロース(例えば、ゲル化温度:63℃、溶解温度:60℃)を用いることが好ましい。これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
なお、これらの置換度は、J.G.Gobler,E.P.Samsel,and G.H.Beaber,Talanta,9,474(1962)に記載されているZeisel−GCによる手法に準じて測定することができ、更には日本食品添加物公定書のメチルセルロースに記載されているガスクロマトグラフによる測定方法や日本薬局方で規定されているメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースの置換度の測定方法に準拠した方法でも測定できる。
【0011】
本発明の水溶性セルロースエーテルの分子量としては、前述のごとく水溶液が加熱により熱ゲル化して、冷却により水溶液に戻るのに必要な分子量を有していればよい。この分子量の測定は、J.polym.sci.,39,293−298,1982に記述されているがごとく、分子量と相関する20℃における2質量%水溶液の粘度により規定できる。この粘度としてはJIS K2283−1993に規定されるウベローデ粘度計にお
いて、20℃における2質量%水溶液の測定粘度値を用いることができる。本発明の水溶性セルロースエーテルの粘度は、保水性の向上を図り、より低添加量で本発明で期待する機能を発現すべく、好ましくは15mPa・s以上、更に好ましくは100〜100,000mPa・s程度である。
【0012】
食肉添加剤の溶液(好ましくは食肉添加剤水溶液)中やピックル液中の、加熱時にゲル化可能な水溶性セルロースエーテルの含有量は、合計で(1種類の場合はその量、2種以上の場合は合計量で)、好ましくは0.1〜5質量%、特に好ましくは0.1〜2質量%である。0.1質量%より添加量が少ないと加熱時の保水性向上効果、肉汁流失防止による食感改良効果が十分得られない可能性があり、5質量%より添加量が多いと水溶性セルロースエーテルが有する高い粘性が食材に付与されすぎて、本来の食感を変化させてしまう場合がある。
【0013】
水溶性セルロースエーテルを少なくとも含む食肉添加剤をピックル液へ添加する方法しては、使用する他原料の種類に応じて選択でき、公知の方法を用いることができる。具体的には粉体混合、つまり他の粉体原料と水溶性セルロースエーテルの粉体を粉体混合して、その混合された粉体を水に添加する、又は混合された粉体に水を添加する事により、得ることが出来る。また、水溶性セルロースエーテルを0.1〜5質量部、特に0.1〜2質量部含む水溶液に、他の粉体原料を加えることによっても得ることができる。また、加熱されて高温のピックル液に水溶性セルロースエーテルの粉体を添加して分散し、冷却することにより得ることが出来る。
食肉添加剤含有液及びピックル液に含まれる水溶性セルロースエーテルは、均一に存在させる点から、溶解された状態にあることが好ましい。
【0014】
食肉添加剤及びピックル液は、ゲル化可能な水溶性セルロースエーテルを含有するものであれば、その他の成分の種類と含有量は所期の効果を過度に阻害しない限り特に制限されない。例えば、塩類、糖類等の食品や、糖アルコール類、でん粉類、たん白質類、乳製品類、増粘剤、カルシウム剤類、アルカリ剤類、pH調整剤類、乳化剤類、酵素類、塩類、香辛料、着色料、甘味料、酸味料等の食品添加を1種又は2種以上を含んでいてもよい。
【0015】
本発明の食肉加工品としては、特に限定されるものではないが、食肉(魚介類を含む)を使用した惣菜あるいは惣菜の具であって、常温品、チルド品、冷凍品、解凍品あるいは再加熱品に好ましく適用することができ、具体的には、焼肉、ステーキ、とんかつ、ビーフカツ、カレー、シチュー、フライドチキン、ロースハム等のハム類、唐揚げ等の食肉製品や焼き魚、白身魚フライ等が挙げられる。
【0016】
本発明によれば、水溶性セルロースエーテルを少なくも含む食肉添加剤又はピックル液を食肉に添加する工程と、食肉添加剤又はピックル液が添加された食肉を水溶性セルロースがゲル化する温度以上で加熱する工程とを少なくとも含んでなる食肉加工品の製造方法が提供される。
食肉添加剤又はピックル液を食肉に添加する方法は、使用する原料、加工方法に応じて選択でき、公知の方法を用いることが出来る。例えば、当該食肉添加剤の溶液(好ましくは水溶液)又はピックル液を食肉に対して強制注入(インジェクション)する方法、タンブリングを実施して食肉添加剤の溶液(好ましくは水溶液)又はピックル液を食肉全体に含ませる方法、食肉添加剤の溶液(好ましくは水溶液)又はピックル液に食肉全体を浸漬する方法等があげられる。
【0017】
食肉添加剤又はピックル液を含む食肉を加熱する温度は、それぞれの原料肉の調理にふさわしい温度であれば差し支えないが、水溶性セルロースエーテルがゲル化する温度以上で加熱する事が好ましい。メチルセルロースの場合には55℃以上、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの場合には70℃以上である。
【0018】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
(実施例1)
上白糖2質量部、グルタミン酸ナトリウム1質量部、食塩0.5質量部、リン酸ナトリウム0.3質量部、黒胡椒0.1質量部、メチルセルロース(メトキシ基29質量%、JIS K2283−1993に規定されるウベローで粘度計による20℃における2.0質量%水溶液の粘度が4000mPa・s/信越化学工業社製)を0.2質量部を粉体混合した。
混合した粉体を94.9質量部の水に添加して、更に0.1質量部のすりガーリックを添加し、攪拌した。上記粉体を加熱溶解した後に、えられた食肉改良剤を冷蔵庫にて5℃まで冷却した。
生肉(豚肉ブロック)500質量部を上記で作成したピックル液100質量部に漬けて、30秒間手で軽く揉み込んだ後、18時間、5℃の冷蔵保存にてつけ込んだ。上記生肉をステンレス製ざるに取り出して、10分間放置し、表面に残っている余分なピックル液をふき取り、肉部の質量測定を行った。フライパンを熱し、油をひかずに片面2分で両面を焼いて、焼成中に流出してきた肉汁は除去して、肉部の質量測定及び食感の評価を行った。結果を表1に示す。
【0019】
(比較例1)
ピックル液にメチルセルロースを加えなかった以外は、実施例1と同様にして、ピックル液をつけ込んだ食肉を作成し、焼いた際の重量測定及び食感の評価を行った。結果を表1に示す。
【0020】
(比較例2)
ピックル液にメチルセルロースを加えずにカードラン(協和キリンフーズ社製)0.2質量部を加えた以外は、実施例1と同様にして、ピックル液をつけ込んだ食肉を作成し、焼いた際の重量測定及び食感の評価を行った。結果を表1に示す。
【0021】
(比較例3)
ピックル液にメチルセルロースを加えずにキサンタンガム0.2質量部を加えた以外は、実施例1と同様にして、ピックル液をつけ込んだ食肉を作成し、焼いた際の質量測定及び食感の評価を行った。結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示すように、メチルセルロースを含むピックル液を漬け込んで焼いた食肉は、焼いた後の質量が、焼く前の質量に比べてほぼ保持されており、食した際にはジューシーな食感であった。比較例1においてメチルセルロースを含まないピックル液を漬け込んで焼いた食肉は、焼いている間に肉汁が流失したために、焼き後の質量が減少し、また食感もパサパサしていた。また、比較例2においてカードランを含むピックル液を使用した場合は、加熱後の食感がゲル状で硬かった。比較例3においてキサンタンガムを含むピックル液を使用した場合、焼き後の質量が大きく減少し、食感がパサパサしていた。
【0024】
(実施例2)
ポリリン酸塩2質量部、食塩4質量部、砂糖4質量部、L−アスコルビン酸ナトリウム0.2質量部、グルタミン酸ナトリウム1質量部、亜硝酸ナトリウム0.05質量部、カゼイン3質量部、及び、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(メトキシ基29質量%でヒドロキシプロポキシ基6質量部、JIS K2283−1993に規定されるウベローで粘度計による20℃における2.0質量%水溶液の粘度が4000mPa・s/信越化学工業社製)を0.5重量部を粉体混合した。上記混合粉体に85.25質量部の水を加えて溶解し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが0.5質量部含まれたピックル液を得た。
豚ロース肉500質量部に対して、上記のヒドロキシプロピルメチルセルロースを含むピックル液100質量部をインジェクション法により注入した。続いてロータリーマッサージに入れて5℃で15時間タンブリングをした後、肉全量をケーシングに充填し、スモークハウス内で1時間の乾燥、70℃で1時間のスモーク、80℃で2時間の蒸煮を行い、加熱後は食品用ラップで包装して、冷蔵庫内で3時間冷蔵保存をした。
冷蔵保存後の重量、食感を評価したところ表2のようになった。
【0025】
(比較例4)
混合粉体にヒドロキシプロピルメチルセルロースを加えなかった以外は実施例2と同様に加工品を製造し、同様に焼成して評価した。結果を表2に示す。
【0026】
【表2】

【0027】
表2に示すように、ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含むピックル液を添加して加工した食肉加工品は、蒸煮後の質量が蒸煮前と比べてほぼ保持されており、食した際にはジューシーな食感であった。ヒドロキシプロピルメチルセルロースを含まないピックル液を添加して加工した食肉加工品は、スモーク加工している間に肉汁が流失したために、加工後の質量が減少し、また食感もパサパサしていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱でゲル化する水溶性セルロースエーテルを少なくとも含有する食肉添加剤。
【請求項2】
上記水溶性セルロースエーテルが、メチルセルロース、又はヒドロキシプロピルメチルセルロースである請求項1に記載の食肉添加剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の食肉添加剤を含有するピックル液。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の食肉添加剤を含んでなる食肉加工品。
【請求項5】
請求項1もしくは請求項2に記載の食肉添加剤、又は請求項3に記載のピックル液を食肉に添加する工程と、
上記食肉添加剤又は上記ピックル液を添加された食肉を該食肉添加剤又は該ピックル液に含有される水溶性セルロースがゲル化する温度以上で加熱する工程と
を少なくとも含んでなる食肉加工品の製造方法。