説明

飲料用ステンレス容器の製造方法

【課題】飲料用容器内面の不働態被膜から鉄イオンを短時間で効率よく溶出させる処理を行って、飲料用容器に充填した飲料の変色や変質を大幅に減少させるとともに、飲料用容器を低コストで製造できる飲料用ステンレス容器の製造方法を提供する。
【解決手段】ステンレス鋼からなる飲料用容器の内面を硝酸およびフッ酸の混合水溶液に接触させて、溶接部の酸化物を除去するとともに前記容器の内表面に不働態被膜を形成する工程104と、前記容器中に有機酸水溶液を充填し、前記容器を炉内温度100〜300℃に保持した空気加熱炉中に所定時間保持して、前記容器の内表面の不働態被膜から鉄イオンを溶出させる鉄分溶出工程106とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビール樽等のステンレス製の飲料用容器の製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、飲料用容器内面の不働態被膜から鉄イオンを短時間で効率よく溶出させる処理を行って、飲料用容器に充填した飲料の変色や変質を大幅に減少させるとともに、飲料用容器を低コストで製造できる飲料用ステンレス容器の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ビール、日本酒、ワイン等の飲料を運搬するための容器には、ステンレス製の容器が広く使用されている。特に、再使用可能な容器は、ほとんどがステンレス製となっているのが実情である。飲料にはクエン酸、乳酸等の有機酸が含まれている場合が多いので、ステンレス製の容器の内面には不働態被膜を形成する処理が施されている。この不働態被膜は、ステンレス鋼に含まれるクロムの酸化物および水和物を主成分とする被膜であり、耐腐食性に優れており、ステンレス鋼から飲料中に鉄イオンが溶出することも防止するものである。ただ、この不働態被膜中にも鉄成分が含まれており、この不働態被膜中の鉄成分が飲料中に鉄イオンとして僅かに溶出することはどうしても避けられない。
【0003】
このように、飲料中に鉄イオンが溶出すると、溶出量が僅かでも飲料の香りや味わいが変化してしまう。いわゆる鉄臭い飲料となってしまう。また、鉄イオンの溶出により飲料の色合いも変化してしまう。特に、ビールの場合、夏期の高温、炎天下等の環境に長時間さらされることがしばしばあり、このような環境では鉄イオンの溶出量が増大してしまう。また、日本酒の場合は、環境の温度は低くても貯蔵期間が長いことが多く、長期間の保存により鉄イオンの溶出量が増大してしまう。
【0004】
このような、鉄イオンの溶出による飲料の変質を防止するために、飲料用の容器では、飲料を一定期間保存した場合の鉄イオン溶出量の上限値が基準として定められており、その基準値以下の溶出量であることが求められる。このため、飲料容器のメーカーでは、鉄イオン溶出量の基準値を満足しない容器に対しては、容器に飲料や有機酸水溶液を充填して長期間放置し、不働態被膜中の鉄成分を強制的に溶出させ切るという処理を行ってから出荷しているのが実情である。不働態被膜中の鉄成分を溶出させ切るためには、1週間から1ヶ月以上という長期間の保存が必要であり、処理のために大量の飲料や有機酸水溶液が必要であるため、この処理のためのコストは膨大である。また、このような処理がステンレス容器のコストを引き上げ、ステンレス容器の普及拡大の障害となっている。
【0005】
また、下記の特許文献1が公知である。特許文献1には、ステンレス鋼からなる酒容器およびその製造方法が記載されており、不動態皮膜が形成された容器内面に有機酸を含む洗浄液を接触させて不動態皮膜から鉄分を選択溶解させることが記載されている。また、有機酸としては、クエン酸,乳酸,リンゴ酸,琥珀酸の1種又は2種以上が使用され、pH3.0〜4.5,液温50℃以上に調整するということが記載されている。
【特許文献1】特開2001−342585号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のように、飲料容器に飲料や有機酸水溶液を充填して長期間放置して、不働態被膜中の鉄成分を選択的に溶出させ切るという方法は、処理コストおよび時間がかかり、また処理のための容器の保管スペース等も必要であり、問題点が多かった。特許文献1のような製造方法を用いても、まだ鉄分選択溶解の処理時間が長く生産ラインでのボトルネックとなってしまう。また、洗浄液の温度を上げれば溶出時間が短縮するものと考えられるが、有機酸洗浄液の温度をあまりに上げることは、工程設備の点でも困難で設備コストが大幅に上昇することになり、また、作業者等に対する危険性が増大するため、この工程の実施に熟練者が必要になる等の問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は、飲料用容器内面の不働態被膜から鉄イオンを短時間で効率よく溶出させる処理を行って、飲料用容器に充填した飲料の変色や変質を大幅に減少させるとともに、飲料用容器を低コストで製造できる飲料用ステンレス容器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の飲料用ステンレス容器の製造方法は、ステンレス鋼からなる飲料用容器の内面を硝酸およびフッ酸の混合水溶液に接触させて、溶接部の酸化物を除去するとともに前記容器の内表面に不働態被膜を形成する工程と、前記容器中に有機酸水溶液を充填し、前記容器を炉内温度100〜300℃に保持した空気加熱炉中に所定時間保持して、前記容器の内表面の不働態被膜から鉄イオンを溶出させる鉄分溶出工程とを有するものである。なお、上記の空気加熱炉の炉内温度は容器の内容量によって最適値が変わる。内容量が大きくなるほど高温にする。内容量が10L程度以下の小容量の容器では炉内温度100〜150℃程度とし、内容量が50L程度以上の大容量の容器では炉内温度250〜300℃程度とすることが好ましい。
【0009】
また、本発明の飲料用ステンレス容器の製造方法は、ステンレス鋼からなる飲料用容器の内面を硝酸およびフッ酸の混合水溶液に接触させて、溶接部の酸化物を除去するとともに前記容器の内表面に不働態被膜を形成する工程と、前記容器中に有機酸水溶液を充填した後、前記容器に気密栓を装着して内部を気密状態に保持し、前記容器を炉内温度150〜350℃に保持した空気加熱炉中に所定時間保持して、前記容器の内表面の不働態被膜から鉄イオンを溶出させる鉄分溶出工程とを有するものである。なお、上記の空気加熱炉の炉内温度は容器の内容量によって最適値が変わる。内容量が大きくなるほど高温にする。内容量が10L程度以下の小容量の容器では炉内温度150〜200℃程度とし、内容量が50L程度以上の大容量の容器では炉内温度300〜350℃程度とすることが好ましい。
【0010】
また、上記の飲料用ステンレス容器の製造方法において、前記気密栓は、前記容器の内部と連通する付加的な空洞部を備えるものであることが好ましい。
【0011】
また、上記の飲料用ステンレス容器の製造方法において、前記気密栓は、前記容器の耐圧上限値よりも小さい内部圧力で破断する破断部を備えたものであることが好ましい。
【0012】
また、上記の飲料用ステンレス容器の製造方法において、前記鉄分溶出工程において前記容器に充填する前記有機酸水溶液の温度は、60℃以下であることが好ましい。
【0013】
また、上記の飲料用ステンレス容器の製造方法において、前記鉄分溶出工程における前記有機酸水溶液は、クエン酸またはタンニン酸を含むものであることが好ましい。
【0014】
また、上記の飲料用ステンレス容器の製造方法において、前記鉄分溶出工程の後に、前記容器を洗浄する工程と、前記容器を乾燥する工程とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0016】
空気加熱炉で容器を100〜300℃に加熱するようにしたので、短時間で鉄イオンの選択的溶出工程を完了させることができ、また、その後の容器の冷却も短時間で済むため、飲料用容器を低コストで効率的に製造することができる。また、鉄イオンの選択的溶出を行っているため、飲料用容器に充填した飲料の変色や変質を大幅に減少させることができる。
【0017】
空気加熱炉で内部を気密状態にした容器を150〜350℃に加熱するようにしたので、さらに短時間で鉄イオンの選択的溶出工程を完了させることができ、また、その後の容器の冷却も短時間で済むため、飲料用容器を低コストで効率的に製造することができる。また、鉄イオンの選択的溶出を行っているため、飲料用容器に充填した飲料の変色や変質を大幅に減少させることができる。
【0018】
気密栓が容器の内部と連通する付加的な空洞部を備えているので、有機酸水溶液の温度上昇による内圧の過大な増大を吸収することができ、また、有機酸水溶液が沸騰してしまった場合でも容器内部が異常な高圧状態になるのを防止することができる。
【0019】
気密栓が容器の耐圧上限値よりも小さい内部圧力で破断する破断部を備えているので、有機酸水溶液の温度上昇によって内圧が過大に増大してしまっても、破断部が破断して内圧を逃がすことにより容器の破壊を防止することができる。
【0020】
容器に充填する有機酸水溶液の温度を60℃以下としたので、容器中心に近い有機酸水溶液が低温状態を保ち続け、その低温の有機酸水溶液が内部から容器を冷却するため、容器を短時間で取扱容易な温度にまで冷却することができる。
【0021】
有機酸水溶液としてクエン酸またはタンニン酸を含むものを使用した場合は、さらに効果的に鉄イオンの選択的溶出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。ここでは飲料として生ビール、飲料用容器としてビール樽を例にとって説明する。図1は、飲料用容器としてのビール樽9の構成を示す断面図である。図1はビール樽9を正面側から見た断面図である。まず、飲料用容器としてのビール樽9の構成を説明する。ビール樽9の上部に設けられた口金91の内側には、フィッティングを構成する取付部材20がねじ込まれて固定されている。また、取付部材20にはばねで上方に付勢されたダウンチューブ5が取り付けられている。なお、ビール樽9は密封容器として機能するように各部が気密状態に構成されている。
【0023】
ダウンチューブ5の上端部にはガス弁3が固定されており、また、ダウンチューブ5の上端内部にはビール弁4が上方に付勢されて設けられている。ガス弁3およびビール弁4は、コイルばねによる付勢力によって閉状態となっている。口金91および取付部材20にはディスペンスヘッドが取り付け可能である。ディスペンスヘッドと取付部材20とは、係合突起22によるバヨネット機構等の接続機構によってワンタッチで結合することができる。
【0024】
ディスペンスヘッドは、ガス弁3およびビール弁4を操作し、二酸化炭素ガス等の圧力ガスをビール樽9内に供給し、ビール樽9の内圧を高めて生ビールをダウンチューブ5およびビール弁4を通して容器外に注出させるための装置である。口金91と取付部材20との間からのガス漏れを封止するために、口金91の下部内面と取付部材20との間にはパッキン24が設けられている。
【0025】
ビール樽9は、ステンレス鋼(例えば、SUS304)によって形成されており、表面(外表面および内表面)には不働態被膜が形成されている。不働態被膜は、ビール樽9を硝酸とフッ酸の混合水溶液に所定時間浸漬することにより形成する。また、このとき同時に溶接部の酸化物や溶接ビードの尖鋭な突起等が混合酸に溶解されて除去される。
【0026】
このときの混合酸の成分と処理時間の実例を示す。ビール類を対象とする容器の場合、硝酸20%,フッ酸2.5%の混合酸を30℃に保持して、容器を10分程度浸漬する。日本酒を対象とする容器の場合は、硝酸12%,フッ酸2%の混合酸を30℃に保持して、容器を30分程度浸漬する。これによって、容器の外表面および内表面に適度の不働態被膜が形成されるとともに、溶接部の清浄化が行われる。なお、不働態被膜は容器の内表面および外表面に形成してもよいが、内表面のみに形成するようにしてもよい。
【0027】
図2は、本発明の飲料用ステンレス容器の製造方法の各工程を示す図である。容器としてはビール樽9の例により説明する。まず、工程101によりビール樽9の各部を形成する。すなわち、ステンレス鋼の板材より、ビール樽9の容器本体および上下のプロテクタを形成する。また、別途、ステンレス鋼からなる口金91が形成され、さらに取付部材20等からなるフィッティングも形成される。
【0028】
次に、工程102によりビール樽9が組み立てられる。すなわち、容器本体に上下のプロテクタおよび口金91を溶接によって固着して、ビール樽9とする。ビール樽9は密封容器となるように各部が気密に形成される。図3に組み立てられたビール樽9の断面図を示す。
【0029】
次に、工程103により容器全体が洗浄され清浄化される。次に、工程104によりビール樽9の外表面および内表面または内表面のみに不働態被膜が形成される。不働態被膜の形成は、前述のようにビール樽9を硝酸とフッ酸の混合水溶液に所定時間浸漬することにより行う。このとき同時に溶接部の酸化物や溶接ビードの鋭利な突起等が混合酸に溶解して除去される。次に、工程105によりビール樽9全体が洗浄され清浄化される。
【0030】
次に、工程106により、ビール樽9内表面の不働態被膜に含まれる鉄分を鉄イオンとして選択的に溶出させる。この工程106について詳しく説明する。工程104によって形成された不働態被膜は、ステンレス鋼に含まれるクロムの酸化物および水和物を主成分とする被膜であり、耐腐食性に優れている。ただ、この不働態被膜中にもある程度鉄成分が含まれており、この不働態被膜中の鉄成分が飲料中に鉄イオンとして僅かに溶出することはどうしても避けられない。そこで、工程106によって、ビール樽9内表面の不働態被膜に含まれる鉄分を鉄イオンとして選択的に溶出させてしまい、それ以上の飲料中への鉄イオンの溶出を防止しようとするものである。
【0031】
工程106では、まず図3に示すようなビール樽9に有機酸水溶液を充填する。有機酸としては、クエン酸、タンニン酸、乳酸、リンゴ酸等が使用でき、これらの有機酸を適宜混合したものも使用できる。特にタンニン酸を使用した場合に好ましい結果が得られる。濃度はpH3.0〜4.5となるように調整し、液温は40〜60℃程度とする。その有機酸水溶液を充填したビール樽9を空気加熱炉に挿入して、空気加熱炉の炉内温度を100〜300℃に保持したまま一定時間ビール樽9を加熱する。このように空気加熱炉で加熱することにより、ビール樽9のステンレス鋼および容器内表面近傍の有機酸水溶液を比較的短時間に100℃近い高温に加熱することができる。
【0032】
なお、上記の空気加熱炉の炉内温度は容器の内容量によって最適値が変わる。内容量が大きくなるほど高温にした方がよい。内容量が10L程度以下の小容量の容器では炉内温度100〜150℃程度とし、内容量が50L程度以上の大容量の容器では炉内温度250〜300℃程度とすることが好ましい。
【0033】
空気加熱炉による加熱によって容器内表面近傍が100℃近い高温に保たれるので、有機酸水溶液への鉄イオンの溶出反応が加速され、短時間で鉄イオンの選択的溶出を完了させることができる。以上のような加熱条件では、ビール樽9を空気加熱炉中に30分から1時間保持することにより、鉄イオンの選択的溶出を完了させることができる。空気加熱炉には複数のビール樽9を同時に収納して加熱処理することが好ましい。この加熱処理は複数個の容器を同時に出し入れするバッチ処理で行ってもよく、また、チェーンコンベア等により順次流れ工程的に出し入れするようにしてもよい。
【0034】
また、鉄イオンの選択的溶出が完了し、空気加熱炉からビール樽9を取り出すと、ビール樽9の中心に近い有機酸水溶液はまだ低温状態を保っており、その低温の有機酸水溶液が内部からビール樽9を冷却する。また、ビール樽9は低温の外気によっても外部から冷却される。そのため、ビール樽9は短時間で取扱容易な温度にまで冷却され、また、内部の有機酸水溶液も短時間で取扱容易な温度に冷却される。
【0035】
工程106の以上の説明は、口金91にビール樽9を密封する気密栓(取付部材20等からなるフィッティングでもよい)を取り付けずに、ビール樽9を開放状態で処理するようにしていた。この方法は処理手順が簡単になるという利点がある。また、容器が密封容器として構成されていない場合もこの方法によって処理すればよい。
【0036】
次に、工程106の別の実施形態について説明する。まずビール樽9に有機酸水溶液を充填する。有機酸としては、クエン酸、タンニン酸、乳酸、リンゴ酸等が使用でき、これらの有機酸を適宜混合したものも使用できる。特にタンニン酸を使用した場合に好ましい結果が得られる。濃度はpH3.0〜4.5となるように調整し、液温は40〜60℃程度とする。ここまでは前述の実施形態と同じである。
【0037】
次に、ビール樽9の口金91に気密栓6を取り付け、内部を密封状態とする。図4にビール樽9に気密栓6を取り付けた状態を示す。気密栓6は一部が断面図で示されている。気密栓6は口金91内周の雌ねじに螺合して取り付けられるものであり、パッキン61により気密栓6とビール樽9の間は密封状態に保たれる。また、気密栓6は、上部に密封された空洞部を備えている。この空洞部はビール樽9の内部と連通しており、これにより有機酸水溶液の温度上昇による内圧の過大な増大を吸収することができる。また、有機酸水溶液が沸騰してしまった場合でも容器内部が異常な高圧状態になるのを防止することができる。
【0038】
また、気密栓6には内部圧力が異常に上昇した場合に備えて破断部62が設けられている。破断部62は、気密栓6の外壁の一部の肉厚が薄くなるように溝等を形成して、破断し易くしたものである。破断部62が破断する圧力は、ビール樽9の耐圧上限値よりも小さくなるように設定する。このような破断部62を設けることにより、有機酸水溶液の温度上昇によって内圧が過大に増大してしまっても、破断部が破断して内圧を逃がすことによりビール樽9の破壊を防止することができる。
【0039】
その有機酸水溶液を充填して密封状態としたビール樽9を空気加熱炉に挿入して、空気加熱炉の炉内温度を150〜350℃に保持したまま一定時間ビール樽9を加熱する。このようにビール樽9を密封して空気加熱炉で加熱することにより、ビール樽9のステンレス鋼および容器内表面近傍の有機酸水溶液を沸騰させずに比較的短時間に130℃近い高温にまで加熱することができる。
【0040】
なお、上記の空気加熱炉の炉内温度は容器の内容量によって最適値が変わる。内容量が大きくなるほど高温にした方がよい。内容量が10L程度以下の小容量の容器では炉内温度150〜200℃程度とし、内容量が50L程度以上の大容量の容器では炉内温度300〜350℃程度とすることが好ましい。炉内温度が350℃を超えるとステンレス材料の表面が高温によって変色してしまうので、350℃を超える炉内温度は好ましくない。
【0041】
空気加熱炉による加熱によって容器内表面近傍が130℃近い高温に保たれるので、有機酸水溶液への鉄イオンの溶出反応がさらに加速され、前述の方法よりもさらに短時間で鉄イオンの選択的溶出を完了させることができる。以上のような加熱条件では、ビール樽9を空気加熱炉中に30分程度保持することにより、鉄イオンの選択的溶出を完了させることができる。また、前述の実施形態と同様に、空気加熱炉には複数のビール樽9を同時に収納して加熱処理することが好ましい。この加熱処理は複数個を同時に出し入れするバッチ処理で行ってもよく、また、チェーンコンベア等により順次流れ工程的に出し入れするようにしてもよい。
【0042】
また、鉄イオンの選択的溶出が完了し、空気加熱炉からビール樽9を取り出すと、ビール樽9の中心に近い有機酸水溶液はまだ低温状態を保っており、その低温の有機酸水溶液が内部からビール樽9を冷却する。また、ビール樽9は低温の外気によっても外部から冷却される。そのため、ビール樽9は短時間で取扱容易な温度にまで冷却され、また、内部の有機酸水溶液も短時間で取扱容易な温度に冷却される。
【0043】
なお、ここではビール樽9を気密状態とするのに気密栓6を取り付けるものとしたが、気密栓6に換えて取付部材20等からなるフィッティングを取り付けて内部を気密状態としてもよい。ただし、この場合は、充填する有機酸水溶液の体積はビール樽9の全内容量の80〜90%とする。これは、有機酸水溶液の温度上昇による内圧の過大な増大を吸収し、また、有機酸水溶液が沸騰してしまった場合でもビール樽9内部が異常な高圧状態になるのを防止するためである。
【0044】
工程106により、鉄イオンの選択的溶出が完了したビール樽9は、容器内部に充填された有機酸水溶液が排出され、次に、工程107により容器全体が洗浄され清浄化される。そして、工程108により容器が乾燥され、出荷可能な状態となる。
【0045】
以上のように、本発明によれば、短時間で鉄イオンの選択的溶出工程を完了させることができ、また、その後の容器の冷却も短時間で済むため、飲料用容器を低コストで効率的に製造することができる。また、鉄イオンの選択的溶出を行っているため、飲料用容器に充填した飲料の変色や変質を大幅に減少させることができる。
【0046】
なお、以上の実施の形態では、飲料として生ビール、飲料容器としてビール樽を例に挙げて説明したが、それ以外の任意の飲料を収容するステンレス容器にも適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、短時間で鉄イオンの選択的溶出工程を完了させることができ、また、その後の容器の冷却も短時間で済むため、飲料用容器を低コストで効率的に製造することができる。また、容器内面の不働態被膜から鉄イオンの選択的溶出を行っているため、容器に充填した飲料の変色や変質を大幅に減少させた高性能の飲料用容器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】飲料用容器としてのビール樽9の構成を示す断面図である。
【図2】本発明の飲料用ステンレス容器の製造方法の各工程を示す図である。
【図3】組み立てられたビール樽9の断面図である。
【図4】ビール樽9に気密栓6を取り付けた状態を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
3 ガス弁
4 ビール弁
5 ダウンチューブ
6 気密栓
9 ビール樽
20 取付部材
22 係合突起
24 パッキン
61 パッキン
62 破断部
91 口金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステンレス鋼からなる飲料用容器(9)の内面を硝酸およびフッ酸の混合水溶液に接触させて、溶接部の酸化物を除去するとともに前記容器(9)の内表面に不働態被膜を形成する工程(104)と、
前記容器(9)中に有機酸水溶液を充填し、前記容器(9)を炉内温度100〜300℃に保持した空気加熱炉中に所定時間保持して、前記容器(9)の内表面の不働態被膜から鉄イオンを溶出させる鉄分溶出工程(106)とを有する飲料用ステンレス容器の製造方法。
【請求項2】
ステンレス鋼からなる飲料用容器(9)の内面を硝酸およびフッ酸の混合水溶液に接触させて、溶接部の酸化物を除去するとともに前記容器(9)の内表面に不働態被膜を形成する工程(104)と、
前記容器(9)中に有機酸水溶液を充填した後、前記容器(9)に気密栓(6)を装着して内部を気密状態に保持し、前記容器(9)を炉内温度150〜350℃に保持した空気加熱炉中に所定時間保持して、前記容器(9)の内表面の不働態被膜から鉄イオンを溶出させる鉄分溶出工程(106)とを有する飲料用ステンレス容器の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載した飲料用ステンレス容器の製造方法であって、
前記気密栓(6)は、前記容器(9)の内部と連通する付加的な空洞部を備えるものである飲料用ステンレス容器の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載した飲料用ステンレス容器の製造方法であって、
前記気密栓(6)は、前記容器(9)の耐圧上限値よりも小さい内部圧力で破断する破断部(62)を備えたものである飲料用ステンレス容器の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載した飲料用ステンレス容器の製造方法であって、
前記鉄分溶出工程(106)において前記容器(9)に充填する前記有機酸水溶液の温度は、60℃以下である飲料用ステンレス容器の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載した飲料用ステンレス容器の製造方法であって、
前記鉄分溶出工程(106)における前記有機酸水溶液は、クエン酸またはタンニン酸を含むものである飲料用ステンレス容器の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載した飲料用ステンレス容器の製造方法であって、
前記鉄分溶出工程(106)の後に、
前記容器(9)を洗浄する工程(107)と、
前記容器(9)を乾燥する工程(108)とを有する飲料用ステンレス容器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−113069(P2007−113069A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−306034(P2005−306034)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(591036996)フジテクノ株式会社 (31)
【Fターム(参考)】