説明

飼料の製造方法及び該製造方法で製造した飼料

【課題】飼料として用いるための粉砕した籾が含有するγ−アミノ酪酸の含有量を低コストで増加させることを課題とする。
【解決手段】粉砕した籾が原料であって、前記原料を加湿する加湿工程と、加湿工程後の原料を乾燥する乾燥工程とを含み、前記加湿工程において、温度が50℃〜70℃で、湿度が90%以上である高湿度の空気を原料に通風させることにより、浸漬することなく前記原料を加湿し、加湿後の原料を乾燥することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飼料が含有するγ−アミノ酪酸(以下、「ギャバ」という)を増加させる方法及びその方法により製造される飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、家畜の飼料として籾が用いられている。籾を飼料として用いる場合、籾の状態で家畜に供給すると消化吸収が充分でなく、また、脱ぷした状態でも、玄米が破砕されていなければ消化吸収が充分でないという問題があり、この問題を解決するため、特許文献1に記載されているように、粉砕した籾を飼料として用いることが行われている。
【0003】
ところで、特許文献2には、糖蜜にギャバを添加した飼料を家畜に与えることで、該家畜のストレス解消や肉質改善等に効果があることが記載されている。また、特許文献3には、γ−アミノ酪酸の富化処理を行った飼料(麦若葉が原料)を家畜に与えることで、該家畜のストレス解消、肉質改善及び糞弁臭解消の効果があることが記載されている。
【0004】
このため、前述の粉砕した籾を飼料として用いる場合においても、前述のギャバの効果を活用するために、前記籾が含有するギャバの量をより増加させることが望ましいと考えられている。
【0005】
籾が含有するギャバの量を増加させる方法としては、特許文献4に記載されているように、籾を浸漬し、充分に吸水させて前記籾のギャバの含有量を増加させることが知られている。しかし、籾を浸漬する方法を実施するためには、浸漬を行うための設備だけでなく、排水処理設備も必要となるため、イニシャルコスト及びこれらの設備を稼働させるためのランニングコストが必要となる。このため、籾を浸漬する方法には、コストが高くなるという問題があり、特に、加工する対象が食糧よりも単価の安い飼料の場合、この問題の影響は大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−15743号公報
【特許文献2】特開2005−333804号公報
【特許文献3】特開2002−65175号公報
【特許文献4】特開2004−205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、飼料として用いるための粉砕した籾が含有するギャバの含有量を低コストで増加させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は、粉砕した籾を原料とし、前記原料を加湿する加湿工程と、加湿工程後の原料を乾燥する乾燥工程とを含み、前記加湿工程において、高湿度の空気を通風させることにより原料を加湿する、という技術的手段を講じた。
【0009】
また、前記加湿工程において、前記空気の温度が50℃〜70℃で、湿度が90%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の飼料の製造方法では、飼料として用いるための粉砕した籾が含有するギャバの量を低コストで増加させることが可能である。
【0011】
すなわち、本発明によれば、高温の加湿風(湿り空気)を使用することにより前記籾に含まれるギャバを富化させることができるとともに、原料を水に浸漬するための設備が必要ないので、該設備に併設される排水処理設備を設ける必要もない。
【0012】
また、高湿度の空気よる加湿では、粉砕した籾が吸収する水分の量が少ないため、加湿後の乾燥時に乾燥させる水分の量も少なくなるので、乾燥に必要なコストを削減できるという利点もある。その上、加湿工程の直後に乾燥工程が設けられているので、装置内における菌類の繁殖を防ぐことができ衛生的である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】飼料が含有するギャバを増加させるための製造方法を示したフローチャートである。
【図2】本発明を実施した加湿乾燥装置の一部を破断した概略正面図である。
【図3】本発明を実施した加湿乾燥装置の一部を破断した概略側面図である。
【図4】加湿風及び熱風の流れを説明するための加湿乾燥部の横断面の概略図である。
【図5】本発明を実施した加湿乾燥装置の制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明を実施するための形態を図1〜図5を参照しながら説明する。図1は、本発明の製造方法における製造工程を示したフローチャートである。図2は、本発明の製造方法にて使用する加湿乾燥装置1の一部を破断した正面図である。図3は、加湿乾燥装置1の一部を破断した側面図である。図4は、加湿乾燥装置1の横断面図である。図5は、加湿乾燥装置1の制御ブロック図である。
【0015】
ところで、本願では飼料の原料に粉砕した籾を使用しているが、粉砕の程度は、家畜に供給した時に該家畜が吸収消化しやすいように、玄米が2分割又は3分割している程度でよい。なお、それ以上に細かく粉砕しても問題はない。また、籾の粉砕には一般的な粉砕機を使用することができる。
【0016】
加湿乾燥装置1は、一般的な循環式穀物乾燥機とほぼ同様な構造になっており、上部から飼料の原料となる穀物を貯留する貯留部2、前記穀物に加湿風又は熱風を通風する加湿乾燥部7及び加湿乾燥部7内の穀物を装置外に排出する排出部10が順次重設してある。
【0017】
加湿乾燥部7は、送風路3、排風路4及び前記貯留部2に接続した穀物流下槽5が、図3に示した長手方向一方のA側と他方のB側との間にかけて配設された複数の有孔板6で仕切られて形成されている。
【0018】
有孔板6に設けられる複数の孔の径は、加工する原料のサイズよりも小さくする必要があり、加湿風は通すが原料は通過できない大きさにする必要がある。前記径は、籾の粉砕の程度によるが0.5mm〜1.5mmにすればよい。本実施例では1.0mm程度としている。
【0019】
排出部10には、穀物流下槽5に接続させて傾斜させた無孔板12の下端側に穀物を間欠排出させるための排出バルブ8が設けられており、さらに、排出バルブ8の下方に、該排出バルブ8から繰り出された穀物を横方向に搬送しながら装置外に排出する下部スクリューコンベア9が配設されている。排出された穀物は、バケットコンベア11及び上部スクリューコンベア27を介して前記貯留部2に循環搬送されるようにしてある。
【0020】
なお、バケットコンベア11の上部には、バケットコンベアモータ25cが備えてあり、バケットコンベアモータ25cの動力はバケットコンベア11のほか、上部スクリューコンベア27にも伝達し駆動させるようにしてある。また、排出部10には取り出し部モータ25bが備えてあり、排出バルブ8及び下部スクリューコンベア9は取り出し部モータ25bの動力によって駆動するようにしてある。
【0021】
前記A側の下方には灯油を燃料として燃焼する熱風発生バーナ14及び加湿装置13が設けてあり、また、前記B側の下方にはファンモータ25aを備えた排風ファン20が設けてある。熱風発生バーナ14は、流路切換弁16に接続してある。前記排風ファン20は、前記加湿乾燥部7の排風路4の前記B側に接続してあり、排風路4内の熱風を吸引して機外に排風する。熱風が供給される送風路3の供給口近傍には加湿風及び熱風の温度及び湿度を検出する温湿度センサ21が備えられている。
【0022】
前記熱風発生バーナ14で生成される熱風は、前記排風ファン20の吸引作用によって、加湿時には、流路切換弁16を介して加湿装置13を通過し、加湿風となって、通風口17、前風路15、送風路3、穀物流下槽5及び排風路4を通って排風ファン20から機外に排風されるようになっている。また、乾燥時には、流路切換弁16によりバイパス風路19を経由して、通風口17、前風路15、送風路3、穀物流下槽5及び排風路4を通って排風ファン20から機外に排風されるようになっている。
【0023】
なお、熱風発生バーナ14に送風ファンを接続し、上記排風ファン20からの排風を循環させる構造とすることもできる。
【0024】
また、乾燥開始直後には、穀物の急激な乾燥を防ぐために熱風の一部を、加湿装置13を通過させて該熱風の相対湿度を上げ、この加湿した熱風とバイパス風路を通過した熱風とを接続弁26にて混合し、相対湿度75%程度の熱風にして乾燥することも可能である。
【0025】
ここで、加湿装置13及び熱風発生バーナ14の構成について、図3を参照しながら説明する。加湿装置13は、本実施例では一般的な気化式のものを使用しているが、スチーム式等のその他の加湿方法のものを使用してもよい。熱風発生バーナ14には穀物乾燥機に一般に使用されているものを用いることができる。
【0026】
なお、本実施例では熱風発生バーナを使用する場合について説明しているが、灯油を燃料とする熱風発生バーナ14を使用すると、原料の穀物に特有の臭いがつくことも考えられるので、熱風発生バーナの代わりに、熱風ヒータ又は熱交換器等を用いた方が望ましい。
【0027】
加湿装置13と熱風発生バーナ14とは、流路切換弁16を介して接続されている。流路切換弁16は、熱風発生バーナ14で生成した熱風を、加湿時には全ての前記熱風が加湿装置13を通過するようにし、そして、乾燥時にはバイパス風路19を通過するように流路を切り換えることができる。また、流路切換弁16は、乾燥時には、熱風の湿度を調節するために熱風の一部を、加湿装置13を通過させる構造となっている。
【0028】
加湿乾燥装置1の各部分の制御は制御部22で行うようになっており、該制御部22は加湿乾燥装置1の前記A側に設けてある。図5に示すように、制御部22は、CPU22bを中心とし、該CPU22bに、入出力ポート22a、読み出し専用の記憶部(以下「ROM」という。)22c及び書き込み・読み込み用の記憶部(以下「RAM」という)22dがそれぞれ接続して構成してある。前記ROM22cには、加湿運転及び乾燥運転を行うためのプログラムがあらかじめ記憶されている。
【0029】
前記入出力ポート22aには、A/D変換回路23を介して温湿度センサ21が接続してある。また、前記入出力ポート22aには、加湿装置13、熱風発生バーナ14、流路切換弁16及び入力部29が接続してあるほか、モータ駆動回路25を介してファンモータ25a、取り出し部モータ25b及びバケットコンベアモータ25cがそれぞれ接続してある。
【0030】
入力部29には、飼料となる穀物の張り込み量を設定する張り込み設定スイッチ29a、張り込みを開始する張り込みボタン29d、加湿を開始する加湿ボタン29e、乾燥を開始する乾燥ボタン29f及び穀物を排出する排出ボタン29g等が備えてあり、これらのスイッチやボタンを操作することによって、制御信号が前記CPU22bに伝達され、前記CPU22bは、加湿運転プログラムや乾燥運転プログラムなどを実行する。
【0031】
次に、本発明の加湿乾燥装置1の作用について説明する。まず、加湿運転(加湿工程)について説明する。加湿乾燥装置1内に原料となる穀物(粉砕した籾)を投入して張り込み(ステップS1)、張り込み設定スイッチ29aにより穀物の張り込み量を設定する。設定後、加湿ボタン29eを押すと前記ROM22cに組み込まれている加湿運転プログラムが前記CPU22bによって実行される(ステップS2)。加湿運転プログラムが実行されると、ファンモータ25a、取り出し部モータ25b及びバケットコンベアモータ25cに電流がそれぞれ供給され、排風ファン20、排出バルブ8、下部スクリューコンベア9、バケットコンベア11及び上部スクリューコンベア27がそれぞれ稼働する。
【0032】
また、加湿装置13及び熱風発生バーナ14も稼働し加湿風の生成を開始する。加湿乾燥部7の穀物流下槽5に通風する加湿風の設定湿度及び温度は、加湿運転開始時に設定した穀物の張り込み量に基づいて決定され、前記加湿風の湿度及び温度がそれぞれ前記設定湿度及び温度となるように、前記温湿度センサ21で検出する湿度及び温度に基づいて熱風発生バーナ14の燃焼レベルを変更する。
【0033】
なお、加湿運転中に穀物流下槽5に通風する加湿風の風量は、穀物1トンあたり0.2〜0.4m/secの範囲で調節すればよく、望ましくは0.25〜0.35m/secであり、より望ましくは0.28〜0.32m/secである。
【0034】
また、加湿風の温度は50℃以上にすればよく、望ましくは50℃〜70℃、より望ましくは60℃〜70℃の範囲となるように調節すればよい。前記加湿風の温度が50℃未満であっても、穀物が含有するギャバ等の機能性成分の量を増加させることは可能である。しかし、加湿風の温度が低いと、前記機能性成分を増加させるために加湿する時間を長くする必要があり、また、十分に前記機能性成分を増加させることが難しいと考えられる。
【0035】
前記加湿風は、相対湿度が90%以上、より望ましくは95%以上になるようにすればよいが、穀物に水分を添加することを目的としているので、98%程度の湿度とするのが適切である。なお、98%を超える湿度にすると、装置内に結露が発生するため、加湿風の湿度の上限は98%とすればよい。
【0036】
前記貯留タンク2から加湿乾燥部7の穀物流下槽5に流下した穀物は、加湿装置13及び熱風発生バーナ14で生成された加湿風が通風されて加湿される。加湿された穀物は、排出バルブ8により穀物流下槽5から排出され、バケットコンベア11及び上部スクリューコンベア27を介して貯留タンク2に循環搬送される。
【0037】
加湿工程による加湿後の最終的な穀物の水分値は、試験により求めた結果等に基づいて、適宜設定すれば良い。また、加湿工程の所要時間は、前記水分値によるが、1時間〜4時間程度でよい。なお、本願の製造方法では、前記水分値が20%を超えることはない。
【0038】
加湿運転終了後、穀物の循環搬送及び加湿風の通風を停止し、加湿工程が終了した穀物の乾燥を行う(ステップS3)。本発明においては、加湿時の穀物水分が20%以上となることはない。乾燥工程(ステップS3)は、乾燥ボタン29fを押すことでROM22cに組み込まれている乾燥運転プログラムがCPU22bにより実行され、乾燥運転が開始される。乾燥運転プログラムが実行されると、ファンモータ25a、取り出し部モータ25b及びバケットコンベアモータ25cに電流がそれぞれ供給され、停止していた排風ファン20、排出バルブ8、下部スクリューコンベア9、バケットコンベア11及び上部スクリューコンベア27がそれぞれ稼働を開始する。また、熱風発生バーナ14も稼働し熱風の生成を開始する。
【0039】
加湿乾燥部7の穀物流下槽5に通風する熱風の設定熱風温度は、仕上目標水分値に基づいて適宜決定し、温湿度センサ21の検出温度に基づいて、該検出温度が前記設定熱風温度となるように熱風発生バーナ14の燃焼レベルを変更する。なお、前記仕上目標水分値は、15%以下とするのが好ましい。
【0040】
前記貯留タンク2から加湿乾燥部7の穀物流下槽5に流下した穀物は、熱風発生バーナ14で生成された熱風の通風によって乾燥される。このようにして穀物流下槽5で乾燥される穀物は、前記排出部10、バケットコンベア11及び上部スクリューコンベア27を介して貯留タンク2に循環搬送され、穀物の水分値が前記仕上目標水分値になるまで循環搬送される。仕上目標水分値まで乾燥が行われた時点で乾燥運転は終了となる。なお、穀物の水分値は、公知の水分計を使用して適宜測定して求めればよい。
【0041】
本発明においては、加湿運転の後で熱風による乾燥工程を行うので、加湿乾燥装置1内における菌類の繁殖を防ぐことができ衛生的である。
【0042】
乾燥工程が終了した穀物は、ギャバが富化された飼料として、加湿乾燥装置1の下方に設けられている排出部10から装置外へ排出される。
【0043】
本発明の製造方法で製造された、ギャバの含有量を増加させた飼料は、含有するギャバ等の機能性成分の含有量が増加しているだけであって、その他の性質は周知の方法で乾燥した穀物飼料と同様である。したがって、通常の飼料と同じように取り扱うことができる。
【0044】
なお、原料となる穀物には、籾だけでなく、小麦やとうもろこしを粉砕したものを使用することができる。さらに、豆科植物や雑穀等、飼料として用いることが可能なものを使用することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
1 加湿乾燥装置
2 貯留タンク
3 送風路
4 排風路
5 穀物流下槽
6 有孔板
7 加湿乾燥部
8 排出バルブ
9 下部スクリューコンベア
10 排出部
11 バケットコンベア
12 無孔板
13 加湿装置
14 熱風発生バーナ
15 前風路
16 流路切換弁
17 通風口
19 バイパス風路
20 排風ファン
21 温湿度センサ
22 制御部
22a 入出力ポート
22b CPU
22c ROM
22d RAM
23 A/D変換回路
24 A/D変換回路
25 モータ駆動回路
25a ファンモータ
25b 取り出し部モータ
25c バケットコンベアモータ
26 接続弁
27 上部スクリューコンベア
29 入力部
29a 張り込み設定スイッチ
29d 張り込みボタン
29e 加湿ボタン
29f 乾燥ボタン
29g 排出ボタン


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕した籾を原料とし、
前記原料を加湿する加湿工程と、
加湿工程後の原料を乾燥する乾燥工程とを含み、
前記加湿工程は、高湿度の空気を通風させることにより原料を加湿することを特徴とするγ−アミノ酪酸の含有量を増加させた飼料の製造方法。
【請求項2】
前記加湿工程は、前記空気の温度が50℃〜70℃で、湿度が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の飼料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法によって製造されたγ−アミノ酪酸の含有量を増加させた飼料。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−50344(P2012−50344A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193121(P2010−193121)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】