説明

飼料の製造方法

【課題】 高い加水分解反応場を提供できる水熱反応を用いて、特に植物系廃棄物に含まれるフィチン酸態リンを分解することにより、フィチン酸態リンを有効活用する飼料の製造方法を提供すること。
【解決手段】 フィチン酸態リンを含有する有機物と水分とを共存させた状態で、温度150℃〜260℃、圧力0.4MPa〜30MPa、液固比1:1〜100:1の条件で、1分間〜180分間保持することによりフィチン酸態リンを加水分解することを特徴とする飼料の製造方法によって解決される。このとき、フィチン酸態リンを含有する有機物は、食品、農作物、農業残渣、農産系廃棄物、食品系廃棄物のうちの少なくとも一種を含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農産系廃棄物および食品系廃棄物などのから可消化態リンを多く含む動物用液状飼料を製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
リンはすべての生物にとって必須の元素であり、その機能は他の栄養素で補うことはできない。よって、動物用飼料中にも、各種家畜に必要なリン量を含んでいる必要がある。種子など多くの植物組織に存在する主要なリンの貯蔵形態として、フィチン(Phytin:フィチン酸のカルシウム・マグネシウム混合塩であり水に不溶性)の形態が知られている。フィチン酸はキレート作用が強く、多くの金属イオンに強く結合するため、飼料中に添加されている銅や亜鉛がフィチン酸によって不活性化されてしまうことがある。
胃内に微生物を共生させている反芻動物は、フィチン酸を分解してリン酸を利用することができる一方、非反芻動物はフィチン酸を分解できないので、食物中のフィチン酸のほとんどが未消化の状態で排泄されてしまう。このため、河川・湖沼等の富栄養化を引き起こす原因の一つとなっている。
【0003】
動物用飼料の原料として利用されているトウモロコシなどの植物に含まれるリンの多くは、フィチン酸態のリンとして存在している。上記のように、非反芻動物(例えば、ブタ)はフィチン酸を分解できないので、可消化態であるリン酸塩などを飼料に添加してリン不足を補っている。リン酸塩は、枯渇が心配されているリン鉱石由来のものである。
このような問題解決のために、飼料中にフィチン酸態リンの消化酵素であるフィターゼを添加して、フィチン酸態リンの消化を促進する技術が開発されている(特許文献1)。
また、堆肥化においても、これらリンの形態が植物のリン吸収に大きな影響を与える。植物のリン吸収は、リン酸の形態により行われる。そのため、リン施肥による即効性を期待する場合、フィチン酸態リンを植物にとって可吸収態であるリン酸を多く含む堆肥を製造する必要がある。
【特許文献1】特開平6−319539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の技術では、次のような問題点があった。すなわち、(1)飼料原料に合わせてフィターゼ配合量を変更する必要があるため飼料設計に困難が伴う、(2)フィターゼが活性を示すpHの範囲が限られているので、飼料投与・飼育条件などを制御することが難しい、(3)家畜体内でのフィチン酸態リンの消化を促進する方法であるため、効果が不確実であった。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高い加水分解反応場を提供できる水熱反応を用いて、フィチン酸態リンを分解することにより、フィチン酸態リンを有効活用する飼料および肥料・堆肥の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、フィチン酸態リンを含有する有機物と水分とを共存させた状態で、所定の温度域、圧力域、固液比を満足することにより、フィチン酸態リンを良好に加水分解し、リン酸およびイノシトールが良好に生成されることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。
こうして上記目的を達成するための発明に係る飼料の製造方法は、フィチン酸態リンを含有する有機物と水分とを共存させた状態で、温度150℃〜260℃、圧力0.4MPa〜30MPa、液固比1:1〜100:1の条件で、1分間〜180分間保持することを特徴とする。
【0006】
本発明において、フィチン酸態リンとは、フィチン酸(myo-イノシトール-1,2,3,4,5,6-6リン酸(略称:IP6)エステル)の形態で含まれるリンを意味する。フィチン酸は、玄米の糠、麦類のふすま、トウモロコシ胚芽、種子類、豆類に多く含まれ、フィチン(フィチン酸のカルシウム・マグネシウム混合塩で水に不溶性)の形態で多く存在する。
本発明に使用される有機物は、食品、農産物、農業残渣、農産系廃棄物、食品系廃棄物が使用される。上記のように、フィチン酸は植物に多く含まれるので、有機物としては、特に植物系有機廃棄物を用いることが好ましい。本発明の目的の一つは、そのような廃棄物を有効にリサイクルすることである。
水分としては、材料を添加する初期時点において、液体の水として添加しておくこともできるし、気体の蒸気として加えることもできる。
【0007】
高温高圧反応において、温度が150℃未満であると、フィチン酸態リンを十分に加水分解することが困難となる。また、温度が260℃よりも高くなると、原料に含まれるタンパク質から得られたアミノ酸が分解してしまい、全体としてアミノ酸の収量が減少してしまうため好ましくない。このため、温度域としては、150℃〜260℃であることが好ましい。また、180℃〜260℃では、糖質のものを多く含む場合、炭化することに注意が必要である。
圧力が30MPaを越えると、実用上の装置として稼働させることが難しくなるため好ましくない。また、圧力が低いと、反応温度を上昇させることが難しくなる。このため、圧力域としては、0.4MPa〜30MPaであることが好ましい。
液固比とは、フィチン酸態リンを含有するものとして添加する物(例えば、植物系有機廃棄物)の乾燥重量と水との質量比を意味している。具体的には、水:固体=1:1〜100:1で、好ましくは5:1〜25:1である。
【0008】
反応時間が短すぎる場合(例えば、数十秒〜数分)には、実用上の装置を制御することが難しくなる。また、反応時間が長すぎると経済的にコストが上昇してしまい、好ましくない。このため、反応時間としては、1分間〜180分間、好ましくは5分間〜60分間、更に好ましくは5分間〜30分間である。
液状飼料中の他の栄養素、例えばタンパク質は、高温高圧反応が持つ加水分解力により、タンパク質の分解が促進され、消化・吸収が容易な液状飼料となる。このため液状飼料は、家畜の増体促進、肉質向上、肥育期間の短縮等につながり、養豚経営に対し大きなメリットとなり得る。このように、高温高圧処理を行うことにより、フィチン酸態リンの分解のみに留まらず、更なる他のメリットが期待できる。その他に、例えば澱粉等の加水分解により得られるオリゴ糖は、増体促進効果、下痢の予防、母豚の発情再帰日数の短縮、母豚の泌乳量の促進、雄豚の精子活性の向上などの効果が報告されている。更に、ビフィズス菌などの腸内細菌が有意に増加し、子豚の増体促進効果も期待し得る。
【0009】
また、本発明の飼料は、非反芻動物用のものであることが好ましい。反芻動物は、フィチン酸態リンを分解して、リン酸を吸収することができる一方、非反芻動物(例えば、ブタなど)はフィチン酸態リンをほとんど吸収できないので、排泄物中に含まれるリンが土壌蓄積したり、河川・湖沼の富栄養化問題を引き起こす。本発明の飼料では、フィチン酸態リンが加水分解されて、非反芻動物にも消化可能なリン酸とするので、このような問題が解決される。更に従来には、非反芻動物に植物系飼料を与える場合に、リン酸塩を添加する必要があったが、本発明では、フィチン酸態リンが分解されてリン酸となるので、リン酸塩を別添加する必要もなくなる。
【発明の効果】
【0010】
フィチン酸態リンは非反芻動物(例えば、ブタ、ニワトリなど)には分解ができないので、従来には動物用飼料に必要なリンを含有させるために、リン酸塩の添加を行わなければならなかった。本発明によれば、フィチン酸態リンを高温高圧水で処理することにより加水分解して、消化・吸収に有利なリン酸とイノシトールを提供できるので、添加物としてのリン酸塩の添加量を削減できる。これにより、枯渇性資源である鉱物由来のリン資源を節約できる。
また、有機物に含まれていたフィチン酸態リンを有効活用するため、従来には消化吸収されず糞尿として排出されていた環境負荷成分であるリンを削減できる。このように、本発明によれば、植物系有機廃棄物の付加価値を高めることができることに加え、環境への負荷を低減化し、循環型社会の構築にも資する。
【0011】
また、フィチン酸の加水分解により生成するイノシトールの飼料中含有量も増大させることができる。
更に、従来には、飼料に添加している銅や亜鉛がフィチン酸にキレートされて不活性化されてしまうという問題があったが、この問題も解決できる。
加えて、本発明の飼料を液状飼料として用いる場合には、既に熱処理されて、殺菌済の状態であることから、従来の殺菌処理を行う必要がない。有機系廃棄物を用いた場合には、不要な有機物を有効にリサイクル処理することが可能となり、環境に優しいシステムを構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
【0013】
<実験方法I>
1.実験装置
本研究で使用した溶融塩恒温槽の概略図を図1に示した。高温高圧処理装置1(以下、単に「処理装置1」と記載する)を示した。この処理装置1には、温度制御可能な溶融塩槽2(例えば、耐圧硝子株式会社製、TSC-B600型を用いることができる。)と、その溶融塩槽2の内部に浸漬される耐熱・耐圧な密閉型の処理容器3(例えば、ステンレス製(SUS316)バッチ式反応管(外径12.7mm、肉厚1.24mm、内径10.2mm、長さ10cm、内容積8.2ml)を用いることができる。)と、圧力センサ4とが設けられている。
また、本研究では、反応管として10cmのものを用いた。
【0014】
溶融塩槽2の内部には、ヒータ6と回転翼5が設けられている。ヒータ6の電源を入れた状態で、回転翼5を回転させることによって、溶融塩槽2内の液体(例えば、KHNO(45%)、NaHNO(55%)を用いることができる)を混合して、均一な温度とすることができる。なお、ヒータ6には、図示しないコンピュータが設けられており、溶融塩槽2内の温度を所定の範囲内に制御することができる。この処理装置1では、溶融塩槽2の内部を約150℃〜約450℃の範囲内で温度制御しながら、試料の高温処理を行えるようになっている。
【0015】
処理容器3は、例えばハステロイやインコネル(Ni、Cr、Mo, etc.)から構成することができる。処理容器3の上部には、蓋体が取り付けられるようになっており、処理容器3の内部空間を密閉した状態(すなわちバッチ式)で、適度な温度とすることができる。試験時には、処理容器3の内部に任意の倍率で希釈した試料を投入し、上蓋を容器に載せて密閉する。その後、処理容器3と圧力センサ4とを接続する。
処理容器3を密閉した後、予め設定温度に加熱しておいた溶融塩槽2に処理容器3を投入し、この時点を0分として、高温処理を開始する。
【0016】
2.実験操作
(1)フィチン酸溶液の加水分解
50%フィチン酸溶液(Wako,化学用)を5倍に希釈したものをサンプルとして用いた。フィチン酸溶液は冷蔵庫で保存した。希釈用の水として、イオン交換水(MILLIPORE製、MILLI-QLabo)を使用した。
処理容器3にサンプルを入れ密閉した後、表1に示す反応条件で実験を行った。あらかじめ設定温度に加熱したソルトバスへ反応容器を浸漬し、反応を開始させた。ソルトバスに浸漬した時点を反応開始とし、所定時間の経過後、すぐに反応容器を取り出し、冷水で反応容器を冷却することによって、反応を停止させた。冷却後、反応容器内よりサンプルを回収した。
【0017】
【表1】

【0018】
(2)植物中飼料におけるフィチン酸の加水分解
未処理の米ぬかをサンプルとして用いた。米ぬかは冷凍庫で保存し、精製されてから1ヶ月以内のものを使用した。水には、イオン交換水を使用した。
反応容器にサンプルと水を入れ密閉し、表2に示す反応条件で実験を行った。反応開始から停止までは、上記(1)と同様の手順で行った。冷却後、反応容器内より液相と反応管内部に付着した反応残渣を回収した。
【0019】
【表2】

【0020】
3.反応生成物の分離および分析
(1)フィチン酸溶液の加水分解
溶液を適正濃度まで希釈した後、紫外可視分光光度計(日本分光、V-550型)を用いて水溶液中に溶出したリン酸濃度を求めた。リン酸濃度測定には、モリブデン青法を用いた。
(2)植物飼料中におけるフィチン酸の加水分解
リン酸濃度測定は、溶液をろ紙(ADVANTEC製、No.6)にてろ過し、モリブデン青法により求めた。また、米ぬかに含まれる全リン量は、600℃で灰化させた後、塩酸を加え煮沸させ、適正濃度まで希釈した溶液を、上記リン酸濃度測定法により、全リン酸濃度として求めた。フィチン酸の定量にはWade法を用い、標準液は50%フィチン酸溶液を使用した。
【0021】
<実験結果I>
1.フィチン酸溶液の加水分解
予めフィチン酸溶液の濃度から全リン濃度を求め、分析したサンプルのリン酸濃度によりリン酸生成率を求めた。各温度の反応時間10分におけるリン酸生成率を図2に示した。図より、180℃以上では短時間でフィチン酸がリン酸へと加水分解されたことが分かった。
次に、リン酸生成率の低かった100℃から150℃までの反応時間を延長し、低温度での分解効果を検証した。反応時間は60分までとした。結果のグラフを図3に示した。100℃においては、時間経過による分解率の上昇はみられず、120℃においても10%未満であった。一方、150℃においては、10分から60分を比較すると、リン酸生成率が25%近く上昇した。これより、150℃未満でのフィチン酸の分解効果は低いものと予想された。また、150℃以上では、時間にとともにリン酸生成率が上昇する傾向が認められた。
【0022】
2.植物含有フィチン酸の加水分解
上記のように、180℃以上ではフィチン酸の高い加水分解率が検証された。そこで、最も分解効率が良いと考えられる200℃で、米ぬかのフィチン酸分解効果を検証した。反応時間を120分までとし、液固比を50とした。また、反応開始前を0分とし、水につけた状態のみのリン酸の溶出についても検証した。
米ぬか0.12[g]における全リン濃度は14.3[mmol/L]であった。
溶出したリン酸濃度の結果を図4に示した。また、各時間におけるリン酸濃度を全リン濃度で割ったものをリン酸生成率とした結果を図5に示した。
図4の0分におけるリン酸濃度は0.2[mmol/L]程度であった。従って、水に浸けただけでは、リン酸の溶出(フィチン酸の分解)は、ほとんど無いことがわかった。よって、以降の試験においても、0分時点でのリン酸の溶出は考慮しなかった。
図5から、200℃、液固比50において、10分でリン酸生成率が80%を超え、それ以降も徐々に増加した。この結果より、200℃では、短時間で高いリン酸生成率を得られることがわかった。
【0023】
上記結果に基づき、60分で十分なリン酸生成率が得られることから、反応時間を10分から60分までとし、液固比を10から50まで変化させ、水分量の違いによるリン酸生成率の違いを検討した。反応温度は、170℃から200℃までとした。各条件におけるリン酸生成率を図6〜図8に示した。
これらの結果から、液固比による分解率の違いは、どの温度および反応時間においても顕著には見られなかった。170℃においては、10分で40%前後だったリン酸生成率が、60分の反応で80%前後まで上昇した。180℃においては、10分で50%前後であり、同じように分解率の上昇がみられた。しかし、200℃においては反応時間10分ですでにリン酸生成率が約80%と高い値を示した。分解率は、反応時間に応じて上昇したが、液固比の変化により顕著な差違は認められなかった。
また、反応温度による分解率の違いとしては、170℃および180℃において、反応時間の増大に応じてリン酸生成率が上昇した。
【0024】
<実験方法II>
米ぬかから製造された液状飼料(高温高圧処理条件:温度170℃〜180℃、液固比5〜10、時間10〜30分)と一般の動物用飼料(乾燥配合飼料)を水溶きした液状飼料を1:4〜1:10の質量比で混合したものを用いて、動物(ラット・ブタ等)を飼育する。
なお、高温高圧処理条件、本願実施形態の液状飼料と一般の動物用飼料との混合比については、当業者の常識に伴って、適宜に変更して実施できる。
<実験結果II>
2週間の飼育後に動物のリン吸収率を測定すると、従来の餌と同等かそれ以上のであった。また、動物は全て良好な健康状態である。
【0025】
<考察>
高温高圧処理によるフィチン酸の加水分解の特徴が確認できた。実際の植物サンプルである米ぬかにおいても、実用性を考慮した上での適正分解条件を見出すことができた。これにより、高温高圧処理により、米ぬかなどの植物系有機廃棄物からのフィチン酸態リンを加水分解して、有効なリンとして利用できる液状飼料を製造できることがわかった。
乾燥配合飼料に比べ、多くのメリットがある液状飼料は、本実施形態の方法を用いることで、さらなる高付加価値化が可能となる。本実施形態の方法によれば、生体におけるリンの吸収量が向上するとともに、フィチン酸が分解されたことによる他の必須ミネラルの吸収阻害作用の低減が予想される。特に、ブタなどの非反芻動物の排泄物中に含まれるミネラルが減少し、環境負荷低減へと繋がる。また、枯渇危機が懸念されているリン鉱石由来のリン酸添加量も大幅に減らすことができる。
【0026】
食品副産物を用いた液状飼料(リサイクル飼料)を普及させていくには、消費者の理解が必要不可欠である。現段階では、給食製造者、飲食店などで発生する雑多な食品残渣を用いたリサイクル飼料に不快感を示す消費者が少なくない。しかしながら、食糧資源にも乏しい我が国では、廃棄物のリサイクル化を推進していく必要があると思われる。このようなリサイクル飼料を用いることにより、豚は従来の配合飼料に比べ、より多様な栄養を摂取できる。結果的に、豚は健康に育ち、肉質が良いものになることに加え、疾病率が減り、豚に投与される抗生物質の量を減らせるため、安全な肉を生産できる。既に行われているように、高品質で、安全であるという消費者の理解を得るために、リサイクル飼料を用いた豚をブランド化することは非常に有効な手段である。
【0027】
高温高圧処理の利点として、上記の他にも、例えば操作が簡易であることが挙げられる。既存の液状飼料化技術の中でも最も優れていると言われる発酵液状飼料化手法では、管理が難しく、製造者に専門知識が求められるという欠点があった。対して、高温高圧処理では、反応条件さえ決定すれば、ほぼ自動で安定した品質の飼料製造が可能である。また、高温高圧処理では、飼料の安全性を飛躍的に高めることができる。既存の飼料に施される110℃〜130℃での殺菌処理では、菌は除去できても、牛海綿状脳症(BSE)の原因である異常プリオン蛋白の分解には不十分である。既存の技術ではこれ以上の温度では、熱分解により、飼料の栄養が大きく損なわれてしまう。一方、高温高圧処理の場合は、主に加水分解が進むため、飼料の栄養性を向上させつつ、異常プリオン蛋白をアミノ酸やペプチドレベルまで分解することが可能である。
【0028】
また、高温高圧処理による液状飼料製造は、低コストで実施できる。これまで、高温高圧処理を用いた再資源化技術の開発が行われてきたが、高価な装置、高エネルギーおよび、反応物の分離、精製が必要であるため、コスト面で問題から実用化に至った例はない。しかし、本研究における液状飼料の製造は、200℃と高温高圧反応としては低温であるため、高価な装置、反応物の分離・精製が不要である。
フィチン酸態リンは非反芻動物(例えば、ブタ、ニワトリなど)には分解ができないので、従来には動物用飼料に必要なリンを含有させるために、リン酸塩の添加を行わなければならなかった。本実施形態によれば、フィチン酸態リンを高温高圧水で処理することにより加水分解して、消化・吸収に有利なリン酸とイノシトールを提供できるので、リン酸塩の添加量を削減できた。これにより、枯渇性資源である鉱物由来のリン資源を節約できる。
【0029】
また、有機物に含まれていたフィチン酸態リンを有効活用するため、従来には消化吸収されず糞尿として排出されていた環境負荷成分であるリンを削減できた。このように、本実施形態によれば、植物系有機廃棄物の付加価値を高めることができることに加え、環境への負荷を低減化し、循環型社会の構築にも資する。
また、フィチン酸の加水分解により生成するイノシトールの飼料中含有量も増大させることができた。
更に、従来には、飼料に添加している銅や亜鉛がフィチン酸にキレートされて不活性化されてしまうという問題があったが、この問題も解決できた。
加えて、本実施形態の飼料を液状飼料として用いる場合には、既に熱処理されて、殺菌済の状態であることから、従来の殺菌処理を行う必要がない。有機系廃棄物を用いた場合には、不要な有機物を有効にリサイクル処理することが可能となり、環境に優しいシステムを構築することができた。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】高温高圧処理装置の概要図である。
【図2】100℃〜200℃の反応温度において、反応時間10分の時点でのリン酸生成率を確認したグラフである。
【図3】100℃〜180℃の反応濃度において、反応時間10分〜60分の時点でのリン酸生成率を確認したグラフである。
【図4】反応温度200℃、液固比50の条件において、反応時間を0分〜120分まで変化させたときのリン酸濃度の変化を確認したグラフである。
【図5】図4のグラフにおいて、各反応時間におけるリン酸濃度を全リン濃度で割って、リン酸生成率を確認したときのグラフである。
【図6】反応温度170℃において、液固比を10〜50、反応時間を10分〜60分まで変化させたときのリン酸生成率を確認したグラフである。
【図7】反応温度180℃において、液固比を10〜50、反応時間を10分〜60分まで変化させたときのリン酸生成率を確認したグラフである。
【図8】反応温度200℃において、液固比を10〜50、反応時間を10分〜60分まで変化させたときのリン酸生成率を確認したグラフである。
【符号の説明】
【0031】
1…処理装置、2…溶融塩槽、3…処理容器、4…圧力計、5…回転翼、6…ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィチン酸態リンを含有する有機物と水分とを共存させた状態で、温度150℃〜260℃、圧力0.4MPa〜30MPa、液固比1:1〜100:1の条件で、1分間〜180分間保持することによりフィチン酸態リンを加水分解することを特徴とする飼料の製造方法。
【請求項2】
前記フィチン酸態リンを含有する有機物は、食品、農作物、農業残渣、農産系廃棄物、食品系廃棄物のうちの少なくとも一種を含むことを特徴とする請求項1に記載の飼料の製造方法。
【請求項3】
前記飼料が、非反芻動物用のものであることを特徴とする請求項1または2に記載の飼料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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