説明

飼料及び該飼料の製造方法

【課題】固体発酵蒸留残渣を腐敗菌(雑菌)による汚染から防止して保存安定性を高めるとともに、C/N比を良好な範囲として高品質の飼料を製造する技術を提供する。
【解決手段】固体発酵の終了後、該固体発酵もろみからアルコールを蒸留した後に得られた蒸留残渣と、乳酸菌とを含む飼料、および固体発酵の終了後、固体発酵もろみからアルコールを蒸留した後に得られる蒸留残渣に乳酸菌を添加し、該固体発酵もろみ中で乳酸発酵を行う、飼料の製造方法により解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜用の飼料及び該飼料の製造方法に関し、特に、固体発酵の残渣を利用した家畜用の飼料及び該飼料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国における廃棄物の排出状況(1996年)は産業廃棄物が4億500万トン、一般廃棄物が5069万トンであり、近年になってもその排出量に大きな変動はみられない。これらの廃棄物のうち、食品廃棄物は、1940万トンを占め、その内訳は一般廃棄物が1600万トン(事業系から600万トン、家庭系から1000万トン)食品製造業から排出される事業系の産業廃棄物が340万トンとなっている。総排出量1940万トンの内、91%が焼却処分され再資源化製品への転換は9%にとどまっている。
【0003】
この現状下において、2001年(平成13年5月1日)に食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(通称、食品リサイクル法)が施行された。そのため、食品製造、加工卸売り、小売業、外食産業等の食品関連業者は事業場内から排出される食品廃棄物の発生抑制や再生利用に取り組まなければならなくなった。
【0004】
食品廃棄物の排出削減対策としては、発生抑制、再生利用、減量化が優先順位となっているが、特に再生利用(堆肥、飼料、燃料等への変換)のための技術が望まれている。食品廃棄物はデンプン質を多く含むことから、これを発酵基質として利用し、アルコール発酵を行ってエタノールを生産するとともに、発酵残渣を回収して、農作物の堆肥や家畜の飼料として利用する技術が種々提案されている。
【0005】
しかしながら、バイオマスを原料とする従来のエタノール発酵法は液体発酵法が主流であるため、液状の発酵もろみからエタノールを回収した後に残存する蒸留残渣やCOD濃度の高い蒸留廃液が排出され、これらの処理・処分に苦慮している。現在、酸化池法や活性汚泥法等によりエタノール蒸留廃液の処理が行なわれているが、排水処理のための設備費や運転管理費がかかることが指摘されている。
【0006】
そこで、上記問題を解決するため、固体発酵法を利用した食品廃棄物の処理方法が提案されている。固体発酵法とは、発酵もろみの水分が従来の液体発酵法と比較して低く設定され、発酵期間中のみならず発酵終了後も廃液がほとんど排出されないアルコール発酵方法である。
【0007】
固体発酵法は廃液がほとんど排出されないとはいえ、アルコールを留去した後は、蒸留残渣が発生する。そのため、この固体発酵蒸留残渣を有効利用するため、家畜用の飼料に利用する試みが提案されている。
【0008】
例えば、特開2005−65695号公報に、デンプン質を糖化した糖化ペレットと酵母と水とから構成される発酵もろみの発酵開始時の水分含量を30〜60重量%に調整して固体発酵を行い、蒸留によりエタノールを留去した後の蒸留残渣が、酵母や麹菌由来のタンパク質を豊富に含み、家畜用の飼料として利用することができる旨が記載されている(特許文献1)。
【0009】
また、特開2007−282528号公報には、焼酎醪を蒸留することなく醪液部と醪固形部に固液分離し、得られた醪固形部を固体蒸留してアルコールを留去し、残った固体蒸留残渣に糖質材料を添加し、固体発酵してアルコールを産生させ、固体発酵終了後、アルコールを留去して得られた蒸留残渣が、飼料として利用できる旨が開示されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開2005−65695号公報
【特許文献2】特開2007−282528号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
固体発酵を蒸留した後に生成する蒸留残渣は、アルコールが留去された後も糖類やタンパク質などを含むため、時間の経過とともに腐敗菌(雑菌)が繁殖する。従って、蒸留後、乾燥処理などを早急に行わなくては、固体発酵蒸留残渣が腐敗して飼料としての利用価値が著しく低減するという問題があった。
【0011】
また、固体発酵蒸留残渣を家畜の飼料として利用する場合は、C/N比が15以下であることが望まれ、より高品質の飼料を求めるのであれば、C/N比が10未満であることが望ましい。通常、固体発酵蒸留残渣のC/N比は10〜15であるため、より高品質の飼料として使用するためにはいまだ改良の余地があった。
【0012】
従って、本発明の目的は、固体発酵蒸留残渣を腐敗菌(雑菌)による汚染から防止して保存安定性を高めるとともに、C/N比を良好な範囲として高品質の飼料を製造する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は上記課題を解決するために種々検討した結果、固体発酵蒸留残渣に乳酸菌を添加することにより、固体発酵蒸留残渣の保存安定性が高まり、高品質の飼料を製造することができるとの知見を得た。本発明はかかる知見に基づきなされたものであり、固体発酵の終了後、固体発酵もろみからアルコールを蒸留した後に得られた蒸留残渣と、乳酸菌とを含む飼料を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、固体発酵の終了後、固体発酵もろみからアルコールを蒸留した後に得られる蒸留残渣に乳酸菌を添加し、固体発酵もろみ中で乳酸発酵を行う、飼料の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の飼料及び該飼料の製造方法によれば、固体発酵の蒸留残渣と乳酸菌との組み合わせにより、固体発酵の蒸留残渣中で乳酸菌が増殖することで固体発酵蒸留残渣のpHが低下して雑菌の繁殖が防止される。また、乳酸菌により糖類が消費されることで炭素成分の割合が減少し窒素成分の割合が増大することで、飼料として良好なC/N比となる。さらに、乳酸菌が増殖することで、体内の善玉菌を増やして腸内細菌のバランスを保ち病気になりにくい体を作る、いわゆるプロバイオティクス効果も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の飼料は、既述のとおり、固体発酵の終了後、該固体発酵もろみからアルコールを蒸留した後に得られた蒸留残渣と、乳酸菌とを含むものである。
【0017】
本実施形態において、「固体発酵」とは、発酵もろみの水分が従来の液体発酵法と比較して低く設定され、発酵期間中のみならず発酵終了後も廃液がほとんど排出されない発酵方法である。
【0018】
本実施形態においては、糖化原料と酵母と水とを含む発酵もろみの発酵開始時の水分含量が50〜60重量%である発酵もろみで発酵させた蒸留残渣が好ましく用いられる。
【0019】
前記乳酸菌は、安全性及び機能性の観点から、漬物由来の乳酸菌であることが好ましい。
【0020】
前記乳酸菌としては、例えば、ラクトバシルス プランタラム(Lactobacillus
plantarum)、ラクトバシルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ラクトバシルス ラクティス(Lactococcus lactis)、ペディオコッカス ダムノーサス(Pediococcus damnosus)、リュウコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)からなる群から選択された1種又は2種以上であることがより好ましい。
【0021】
本実施形態の飼料は、乳酸菌を1×106〜5×108個/g含み、pHは3〜4である。また、C/N比は7〜9である。また、乳酸菌のほか、酵母や麹菌に由来する各種成分を豊富に含んでいる。
【0022】
本実施形態の飼料の製造方法は、固体発酵の終了後、固体発酵もろみからアルコールを蒸留した後に得られる蒸留残渣に乳酸菌を添加し、該固体発酵もろみ中で乳酸発酵を行うものである。
【0023】
原料はデンプン質を含み、発酵原料となり得るものであれば特に限定はなく、農産廃棄物、飲食店や給食センター等から排出される調理残渣などを使用することができる。調理残渣などの食品廃棄物は夾雑物や水分を多量に含んでいることが多いため、夾雑物を除去した上で大まかな脱水を行い、必要に応じて更に乾燥を行ない、食品残渣の水分を30重量%以下にする。
【0024】
次いで、原料は、麹菌や酵素剤を用いて糖化される。これにより、原料のデンプン質が糖化されて発酵基質となる。
【0025】
糖化に用いる麹菌としては、例えば、アスペルギルス オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス サイトイ(Aspergillus saitoi)等を挙げることができる。
【0026】
糖化に用いる酵素剤としては、市販のアミラーゼ酵素剤等を挙げることができる。
【0027】
糖化原料は、水、酵母とともに発酵槽に投入され、嫌気的条件下で固体発酵が行われる。このとき、固体発酵は発行開始時の発酵もろみの水分含量を50〜60重量%に調整して行われるのが好ましい。固体発酵中は、添加酵母の均一化並びに添加酵母の増殖に必要な酸素を供給するため、1〜2時間に1回程度の割合で1〜2日間、間歇的に撹拌が行われる。
【0028】
温度は酵母の至適温度により適宜設定することができるが、コスト面からみた場合、温度20〜25℃が経済的であるためかかる温度に設定することが好ましい。
【0029】
酵母はアルコール発酵に一般に用いられるサッカロマイセス セルビシエ(Saccharomyces serevisiae)属の酵母を使用することができる。なお、発酵終了後のもろみのうち、一部を次回の発酵の種菌(スターター)として使用することができる。発酵終了時点でのアルコール濃度は、約10%程度である。
【0030】
発酵終了後、固体発酵もろみは蒸留され、得られたアルコールは必要に応じてアルコール濃度が高められて、工業用アルコールとして種々の分野で利用することができる。
【0031】
本実施形態で使用される蒸留残渣は、上記蒸留工程でアルコールが留去された後に得られた蒸留残渣を用いることができる。この蒸留残渣に、乳酸菌を添加した後、該固体発酵もろみ中で乳酸発酵を行う。
【0032】
前記乳酸菌は、安全性及び機能性の観点から、漬物由来の乳酸菌であることが好ましい。
【0033】
特に、前記乳酸菌としては、例えば、ラクトバシルス プランタラム(Lactobacillus
plantarum)、ラクトバシルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ラクトバシルス ラクティス(Lactococcus lactis)、ペディオコッカス ダムノーサス(Pediococcus damnosus)、リュウコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)からなる群から選択された1種又は2種以上であることがより好ましい。
【0034】
乳酸発酵の条件は、得られた蒸留残渣100gに対し、前培養乳酸菌培養液を約10ml程度添加し、20〜30℃、1〜3日間で嫌気的に行うことが好ましい。
【0035】
このようにして得られる飼料は、乳酸菌を1×106〜5×108個/g含み、pHは3〜4である。また、C/N比は7〜9である。また、乳酸菌のほか、酵母や麹菌に由来するタンパク質を豊富に含んでいる。
【実施例】
【0036】
1.固体発酵
固体発酵の発酵原料として、カルビー株式会社中部カンパニーより提供された廃棄ジャガイモを使用した。このジャガイモ20kgを発酵槽に投入後、温度70℃で10分間加温した。加温により、ほぼ水分含量が60%となったことを確認した後、原料温度を40℃まで冷却し、アミラーゼ酵素剤のコクゲンG20(天野エンザイム社製)50gを添加した。
【0037】
原料温度が30℃になってから、前培養した100ml分の焼酎酵母(Saccharomyces cerevisiae K-C株)を添加し、20℃で3日間、固体発酵法によりアルコール発酵を行った。
【0038】
図1は固体発酵の発酵経過を示す図である。ジャガイモを原料として固体発酵した時のエタノール生成量および全糖量の経日変化は図1のとおりであり、発酵3日目でエタノールが9.8%生成された。発酵3日目の全糖を測定すると2.2%であった。これにより、固体発酵が良好な状態で行われていることが示唆された。
【0039】
固体発酵が終了した後、発酵もろみを、72℃で3時間、20kg/日で、容量40Lのラシヒリング式の減圧蒸留により蒸留を行ない、アルコールと蒸留残渣を得た。
【0040】
2.乳酸発酵
固体発酵もろみからアルコールが留去された後に得られた蒸留残渣100gに乳酸菌を含む乳酸菌前培養液10mlを添加し25℃、2日間で乳酸発酵を行った。
【0041】
前記乳酸菌としては、漬物由来の乳酸菌を使用した。すなわち、漬物1gをMRS培地10mlに添加して、30℃、2日間前培養を行った乳酸菌前培養液を用いた。なお、この乳酸菌前培養液は、ラクトバシルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ラクトバシルス ラクティス(Lactococcus lactis)、ペディオコッカス ダムノーサス(Pediococcus damnosus)、リュウコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)を含むものでった。
【0042】
3.飼料の分析
乳酸発酵前と後の乳酸菌の生菌数、糖分(全糖)、pHおよびC/N比を測定した。乳酸菌の生菌数の測定は平板希釈培養法により行った。糖分(全糖)の測定はSomogi-Nelson比色定量法により行った。pHの測定はpHメーター(HORIBA社製)により行った。C/N比の測定はデュマ法により行った。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
乳酸発酵前後の乳酸菌の菌体数を測定した結果、発酵残渣に乳酸菌を投入した直後は2.4×107個/gであり、乳酸発酵終了後は4.2×108個/gであることが判明し、乳酸発酵終了後も乳酸の生育が確認された。これにより、実施例の飼料が体内の善玉菌を増やして腸内細菌のバランスを保ち病気になりにくい体を作る、いわゆるプロバイオティクス効果を有することが期待できる。
【0045】
また、固体発酵後の蒸留残渣に残存していた2.2%の糖分も、乳酸発酵終了後は0.5%にまで減少し、pHは、蒸留残渣はpHが4.5であったものが、乳酸発酵後はpHが3.6と低下することが判明した。これらの結果から、飼料中の糖分とpHが低下することで腐敗菌の繁殖が防止され、品質が安定化される可能性が示唆された。
【0046】
さらに、固体発酵前のC/N比は15であり、固体発酵終了後の蒸留残渣のC/N比は10であったが、蒸留残渣に乳酸菌を添加して乳酸発酵を行った結果、C/N比は8にまで低下した。このことから、実施例の飼料はタンパク成分を豊富に含み、飼料として高品質であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】固体発酵の発酵経過を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体発酵の終了後、固体発酵もろみからアルコールを蒸留した後に得られた蒸留残渣と、乳酸菌とを含む飼料。
【請求項2】
前記乳酸菌が、漬物由来の乳酸菌である、請求項1に記載の飼料。
【請求項3】
前記乳酸菌が、ラクトバシルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium
bifidum)、ラクトバシルス ラクティス(Lactococcus lactis)、ペディオコッカス ダムノーサス(Pediococcus damnosus)、リュウコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)からなる群から選択された1種又は2種以上である、請求項1又は2に記載の飼料。
【請求項4】
前記固体発酵は、糖化原料と酵母と水とを含む発酵もろみの発酵開始時の水分含量が50〜60重量%である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の飼料。
【請求項5】
固体発酵の終了後、固体発酵もろみからアルコールを蒸留した後に得られる蒸留残渣に乳酸菌を添加し、該固体発酵もろみ中で乳酸発酵を行う、飼料の製造方法。
【請求項6】
前記乳酸菌が、漬物由来の乳酸菌である、請求項5に記載の飼料の製造方法。
【請求項7】
前記乳酸菌が、ラクトバシルス プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバシルス カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシルス アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ビフィドバクテリウム ビフィダム(Bifidobacterium
bifidum)、ラクトバシルス ラクティス(Lactococcus lactis)、ペディオコッカス ダムノーサス(Pediococcus damnosus)、リュウコノストック メセンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)からなる群から選択された1種又は2種以上である、請求項5又は6に記載の飼料の製造方法。
【請求項8】
前記固体発酵は、糖化原料と酵母と水とを含む発酵もろみの発酵開始時の水分含量が50〜60重量%である、請求項5〜7のいずれか1項に記載の飼料の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−284804(P2009−284804A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−140194(P2008−140194)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(508158746)バイオトラスト株式会社 (3)
【出願人】(598096991)学校法人東京農業大学 (85)
【Fターム(参考)】