説明

飼料転換率を減少させるため又は腹水症の発生率を低下させるための家禽の処置

本発明は、家禽を育成するために使用される飼料の転換率を低下させることを目的とした、家禽の非治療的処置の方法に関する。この処置は、家禽に以下の式(I)


(式中、R及びRは独立に、1から18個、好ましくは1から6個の炭素原子を含有するアルキル、アルケニル又はヒドロキシアルキル基であるか、又はR及びRはN原子と共に連結して5員又は6員の複素環を形成する)
又はその塩に相当する少なくとも1種のグリシン化合物を経口投与することを含む。このグリシン化合物は、好ましくはN,N−ジメチルグリシン(DMG)である。本発明は、腹水症の発生率を低下させるための該グリシン化合物の治療的用途及び第二医薬用途、並びにある量の該グリシン化合物を含有する家禽用飼料にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家禽を育成するために使用される飼料の転換率を低下させることを目的とした、特定の作用物質による家禽の非治療的処置の方法と、腹水症の発生率を低下させるための該作用物質の治療的用途及び第二医薬用途と、ある量の該作用物質を含有する家禽用飼料とに関する。
【背景技術】
【0002】
家禽、特にニワトリ、なかでもブロイラーを育成するブロイラー業界では、基本的には、ブロイラー系統の繁殖手法における、又、ブロイラーの成長率を上げるための飼育手法の改良及び開発が行われてきた。ブロイラーを飼育する方法においては、成長率及び飼料転換率に非常に重点が置かれている。高カロリーの飼料を使えば飼料転換率の低下を達成できる、言い換えれば、ある量の家禽肉を生産するために必要な飼料の量はより少なくてすむが、このような飼料はいくつかの問題を引き起こしている。例えば、飼育期間中の家禽の成長率が高いと、心機能など体の代謝機能は十分なものとはなり得ず、これら2つの間のバランスが悪いために死亡率が増加し、それにより育成率及び生産性が低下してブロイラー業界に甚大な経済的損害をもたらしてきた。
【0003】
成長率と心肺機能の発達との間のアンバランスからブロイラーが死亡に至る極めて重要な一因は、「腹水症」と呼ばれる症候群である。この症候群は、ブロイラーにとって最も重大な死因の1つと考えられる。世界的には、市販食肉用ニワトリにおける腹水症の発生率は4.7%と推定される(Maxwell H.M.、Robertson G.W.、British Poultry Science 39、203〜215(1998))。この疾患の初期発症は、いくつかの要因によって生じる低酸素状態である。これによりヘマトクリット濃度が上昇して血液粘度増加が生じ、今度は肺高血圧及び場合によっては右心不全を引き起こす。この状態から間もなく、静脈圧が上昇し、腹腔内の血管からの体液の移動を生じる結果となる。高い成長率を促進する環境で育つブロイラーは、高い酸素要求量(高成長にとって必要)と、このような動物の相対的に未発達な心呼吸系とが組み合わさることによる低酸素血症及び腹水症に対し、当然ながら感受性を有している。初期の低酸素血症のこうした状態に寄与する他の要因は、不十分な換気装置、低温環境、高地での繁殖及び高エネルギーの飼料種である(Herenda D.C.、Franco D.A.、Iowa State University Press、Iowa、p.4〜9(1996))。
【0004】
もう1つの問題は、家禽用の最近の飼料組成物には、動物用飼料の総エネルギー値を損なわずに飼料のコストを下げるために、植物源の脂肪がますます多く添加されていることである。飼料中の植物性脂肪の濃度がこのように増加することによる直接の影響として、動物にとっての酸化的ストレスが亢進し、死亡率が上昇する。
【0005】
実際には、高エネルギー値を有する(より高価な)飼料を使うことを必要とせずに、飼料転換率、言い換えれば1kgの体重増加に要する飼料の量を減らすことができるのは、経済的に非常に重要なことである。この点においてFekete(Fekete S.、Hegedus M.、Sos E.、Magyar Allatorvosok Lapja 34(5)、311〜314(1978))は、飼料の代謝可能エネルギー値を増加させることによってではなく家禽の飼料にパンガミン酸(ビタミンB15)を、より詳細には飼料1kg当り1000mgの量で添加することによって飼料転換率を低下させることが可能となり得るかどうかを検証するための試験を実施した。しかしながらFeketeが得た結果は、飼料転換率はパンガミン酸による影響を受けず、パンガミン酸群と対照群のどちらについても約2.5に等しいことを示している。
【0006】
上述のように高い成長率でブロイラーを育成する際のさらに重要な問題は、極めて高い腹水症発生率及びそれに伴う死亡率である。欧州特許第0981967号に記載の実施例では、ブロイラーの成長率は50g/日より高かった。腹水症が原因であった高い死亡率は、高カロリーのペレット状飼料にコエンザイムQを加えることにより相当低下させることができた。しかしながら、コエンザイムQは製造コストが極めて高価な複合分子である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の目的は、家禽における、詳細には高い成長率で育成された家禽における腹水症の発生率を低下させることが可能な、別の作用物質を提供することである。
【0008】
本発明のさらなる目的は、家禽を育成するために使用される飼料の転換率を低下させることが可能な、言い換えれば、ある量の家禽肉を生産するために必要な飼料の量を減らすことが可能な、家禽の新しい処置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一態様では、本発明は、家禽を育成するために使用される飼料の転換率を減少させることを目的とした、家禽の非治療的処置の方法に関し、この処置は、家禽に以下の式I
【化1】


(式中、R及びRは独立に、1から18個、好ましくは1から6個の炭素原子を含有するアルキル、アルケニル又はヒドロキシアルキル基であるか、又はR及びRはN原子と共に連結して5員又は6員の複素環を形成する)
又はその塩に相当するグリシン化合物を経口投与することを含む。
【0010】
第二の態様では、本発明は、同グリシン化合物を家禽に投与することにより家禽における腹水症の発生率を低下させる方法、及び家禽における腹水症の発生率を低下させるための医薬の製造用にこの化合物を使用することに関する。
【0011】
第三の態様では、本発明は、少なくとも0.001重量%の該グリシン化合物を含む、家禽用飼料に関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
好ましい一実施形態では、このグリシン化合物は、N,N−ジメチルグリシン(DMG)、N,N−ジエチルグリシン、N,N−ジエタノールグリシン、N,N−ジプロピルグリシン、N,N−ジイソプロピルグリシン、又はその混合物及び/又はその塩であって、好ましくはこのグリシン化合物はDMG又はその塩である。
【0013】
N,N−ジメチルグリシン(DMG)は、活性分子であるパンガミン酸(6−O−(ジメチルアミノアセチル)−D−グルコン酸、PA)の一部として1938年に初めて検出された(Krebs E.T.、Beord N.H.、Malin R.、Int.Red.Med.164、18(1954))。Krebsによる最初の報告では、PAは常に公知のビタミンB群と一緒に見つかることが明らかにされており、この事実並びに割り当てられた生物学的機能がPAをビタミンB15とみなす理由として採用されたが、現時点では、いずれの疾患状態も、この物質の不足に専ら起因すると考えることはできない。ロシアの研究者は、パンガミン酸カルシウムは運動選手の成績並びに心血管及び肝臓の機能にプラスの効果を有し得ると報告した。ロシアでのさらなる研究により、高強度X線に曝露されたモルモット及びラットの免疫系の回復にパンガミン酸配合物がいくらか影響を及ぼすことが示された(Nizametidinova、G.Reports of the Kazan Veterinary Institute 112、100〜104(1972))。
【0014】
米国特許第3907869号は、パンガミン酸カルシウム成分をジメチルグリシン及びグルコン酸カルシウムのエステルとして定義しており、PAの利点として、細胞及び組織の酸化的代謝を向上させ、低酸素現象を防ぎ、同時に脂質代謝を促進し、又、解毒剤として作用する能力を挙げている。
【0015】
Roger V.KendallとJohn W.Lawsonの論文「N,N−ジメチルグリシン(DMG)に関する最近の発見:新世紀の新しい栄養素(Recent Findings on N,N−Dimethylglycine(DMG):A new Nutrient for the New Millenium)」(2000)に記載のように、パンガミン酸カルシウムは通常の消化過程下では安定とならず、経口投与後に摂取されると速やかに加水分解してDMGとなる。そのことから、論文中でDMGの公知の効果を記載する際、この著者はDMGをパンガミン酸カルシウムの活性成分とみなした。
【0016】
本発明に従い、Feketeが家禽にパンガミン酸を投与した際には飼料転換率のそのような低下は得られなかったという事実にもかかわらず、家禽にパンガミン酸の代わりにDMGを経口投与することにより飼料転換率を下げ得る(DMGの一切の治療効果を排除した後であっても)ことが今や見出された。このことは、家禽の消化系においては、パンガミン酸が加水分解されてDMGになることはないか、又はあまりないと考えられるという事実により、おそらく説明し得る。本発明により、家禽にDMGを経口投与すると、特に鳥が高めの代謝的ストレス下にある際には腹水症の発生率及びそれに伴う死亡率が相当低下することがさらに見出されている。Feketeの実験では多くの鳥が死んでもいる(飼料転換率を測定する際にも軽い扱いを受けた)が、死亡率に対するパンガミン酸の影響については何も報告されていない。したがって、Feketeの実験から考えると、飼料転換率及び腹水症の発生率に対する本発明の有利な効果は極めて驚くべきものである。
【0017】
上述のように、本発明は、家禽を育成するために使用される飼料の転換率を低下させることを目的とした、特定の作用物質を家禽に経口投与することによる家禽の非治療的処置の方法と、家禽における腹水症の発生率を低下させるための該作用物質の方法又は第二医薬用途と、該作用物質を含む家禽用飼料とに関する。
【0018】
本発明は、あらゆる種類の市販用家禽の飼育過程に適用可能であるが、本来は市販用のニワトリ(ブロイラー)及び七面鳥の飼育過程に関する。市販用のニワトリ及び七面鳥の飼育過程においては、群れは通常、相当なストレス下にある。周知のように、通常の工業的飼育環境では、囲いの中は相当な密度、例えば、ニワトリ又は七面鳥1羽当り約0.05m前後の密度となっている。さらに、そのような市販のための飼育過程における換気は、正確な制御運転ではないことが多く、加温及び冷却の両方を含む適切な換気の決定は非常に主観的に行われている。さらに、ブロイラーの寿命は、約40〜60日間の範囲であり、七面鳥の寿命は12〜24週間の範囲であるため、成長が達成される環境における、生まれてから市場に出荷されるまでの全過程が、群れにとっては非常にストレスのかかるものである。さらに、問題を悪化させることに、飼育業者は推奨される工業的環境の限界を追求するのが普通であり、そのことが、群れにかかるストレスを単純に増加させる。
【0019】
このような飼育環境及び高い成長率により、腹水症の発生率及びそれに伴う死亡率はこれまでも実際極めて高く、さらなる代謝的又は酸化的ストレスの原因となる新たな飼料又は生産方法の開発は限られている。酸化的ストレスは、例えば飼料組成物が不飽和脂肪酸を多めに、例えば飼料の3重量%超又は4若しくはさらには5重量%超含有していると高くなり、一方、代謝的ストレスは、成長率を上げるためにより高いカロリーを鳥が摂取させられると高くなる。このような脂肪酸は、遊離脂肪酸、又は例えばジグリセリド若しくはトリグリセリド中に結合している脂肪酸のいずれかである。
【0020】
本発明により、適切で有効な量の、式(I)又はその塩(例えばナトリウム塩又はカルシウム塩)に相当するグリシン化合物、特にDMG又はその塩を、市販のための飼育過程下で飼育されている家禽に投与すると、群れにおける腹水症の発生率及びそれに伴う死亡率を低下させることができることが見出された。さらに、このようなグリシン化合物又はその塩を投与すると、飼料転換率(健康な鳥における、言い換えれば死亡率に対する有利な効果を考慮しない場合の)を下げることができ、したがって飼料をより効率的に使用できることが確認されている。最終的に、血流中の不飽和脂肪酸の存在に関連した酸化的ストレスを減らすことができる。
【0021】
家禽に投与されるグリシン化合物は、好ましくはN,N−ジメチルグリシン(DMG)、N,N−ジエチルグリシン、N,N−ジエタノールグリシン、N,N−ジプロピルグリシン、N,N−ジイソプロピルグリシン、又はこれらの化合物の塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩である。このグリシン化合物は、これらの化合物の混合物及び/又は塩を含んでいてもよい。最も好ましいグリシン化合物は、DMG又はその塩である。
【0022】
グリシン化合物がDMGのように水溶性である場合は、該化合物は家禽の飲用水中で投与できる。しかしながら、最も好ましくは、このグリシン化合物は家禽の飼料を通じて投与する。
【0023】
このグリシン化合物を加える基礎飼料は、幼鳥期用飼料、成長期用飼料及び仕上げ用飼料を含め、ブロイラー種の鳥の栄養ニーズに合った任意の典型的な家禽用飼料とすることができる。従来の飼料はさまざまなタンパク質、炭水化物、ビタミン及びミネラル源の中から選択した成分を含み、一般に粗タンパク質を約12〜25重量%、粗脂肪を0.5〜10重量%及び粗線維を2〜12重量%含有していると思われる。この飼料は、粗タンパク質含有量が少なくとも18.5重量%、粗脂肪含有量が少なくとも4重量%、デンプン含有量が少なくとも30重量%、及び/又は粗線維含有量が5重量%未満であることが好ましい。
【0024】
主成分は一般に、炭水化物及びいくらかのタンパク質を供給する穀物、及び加工穀物の副産物である。追加のタンパク質を飼料に供給するには、動物の副産物同様、大豆、アルファルファ、コーングルテン、綿実、ヒマワリ及び他の植物由来のタンパク質食が使用されることが多い。家禽用飼料組成物は、さまざまなビタミン及びミネラル(通常はグリシン化合物も加えることができるプレミックスの形態で)を補給することが一般的で、嗜好性を向上させ、又、エネルギー量を増加させ若しくは調節するために糖蜜及び動物性脂肪を加える。このような組成物は一般に含水量が15重量%未満、好ましくは14重量%未満である。家禽の栄養所要量及び多様な種にとっての典型的な家禽用飼料及び家禽の生活相の考察に際しては、全般にNational Research Council,Nutrient Requirements of Poultry.Nutrient Requirements of Domestic Animals.National Academy of Science、Washington,D.C.(1994)を参照しており、該参照文献は本明細書に組み込まれる。
【0025】
本発明による飼料は、好ましくは少なくとも11.5MJ/kg、より好ましくは少なくとも12.0MJ/kgの代謝可能エネルギー値を有し、この飼料の該エネルギー値は好ましくは14MJ/kg未満、より好ましくは13.5MJ/kg未満である。このような高カロリー飼料を用いることで、高い成長率が達成できる。
【0026】
本明細書で述べるように、代謝可能エネルギーは摂取飼料の総エネルギー量(総カロリー)から糞尿中に排出されるエネルギーの量(排出カロリー)を引くことにより得られるが、飼料組成物の代謝可能エネルギーを実際に得るには、通常の熱量測定法を各飼料組成物に適用してよい。一般に、ニワトリ用飼料の代謝可能エネルギー値は飼料用の公知のカロリー成分表に基づいて得られ、そのような公知の表は求めたい代謝可能エネルギーを得るために本発明において使用し得る。代謝可能エネルギー値は、より詳細には以下の式により計算できる。
AME(MJ/kg)=15.5CP+34.3EE+16.7ST+13.0Su
(式中、CP=粗タンパク質
EE=エーテルエキス(=粗脂肪)
St=デンプン
Su=糖。)
(Larbier M、Declerq B、(1992)Nutrition et Alimentation des Volailles.INRA、Parisを参照)。
【0027】
標準の(AOACインターナショナル)分析方法は、
・乾物:乾燥
・粗タンパク質:ケールダール法
・粗灰:灰化
・粗脂肪:エーテル抽出(ソクスレー法)
・粗線維:ファイバーテック(Fibertec)分析
・デンプン及び糖:ラフショール(Luff−Schoorl)分析(旋光分析)である。
(Official Methods of Analysis of AOAC International、第16編、The Association of Official Analytical Chemists、Arlington、VAを参照)。
【0028】
本発明の好ましい一実施形態では、最終的な飼料中のグリシン化合物の好ましい添加範囲が、約0.001から0.5重量%、好ましくは約0.005から0.1重量%である。より高い量を使用すると処置した家禽において何らかの毒性問題が生じる可能性があるという証拠はないが、コストを考慮することは重要になると思われる。
【0029】
本発明による方法では、グリシン化合物は家禽に、10から35日齢の間に7日間以上、好ましくは14日間以上投与することが好ましい。家禽は、グリシン化合物が投与される期間を通して、飼料転換率が2.50kg飼料/kg増加体重未満、好ましくは2.45kg飼料/kg増加体重未満、より好ましくは2.40kg飼料/kg増加体重未満であり、及び/又はこの期間中の家禽の成長率が50g/日超、好ましくは60g/日超であるように選択及び育成されることが好ましい。したがってこのグリシン化合物は、グリシン化合物投与の効果がより顕著なように、代謝的ストレス下にある鳥に投与することが好ましい。
【実施例】
【0030】
実験結果
以下に記載の実験を設定したのは、
・家禽のモデル種における成績:死亡率、飼料転換率(FRC)
・腹水症の発生率:PCV、剖検による肉眼病変
・血漿代謝産物:トリグリセリド(TG)、非エステル化脂肪酸(NEFA)
に及ぼすDMGの影響を評価するためである。
【0031】
手順及び材料
家禽用飼料中へのジメチルグリシンの補給に伴う全ての影響を調査するため、ブロイラーをモデル種として用いた試験を設定した。64羽のメスのブロイラーを用いたこの屠殺試験では、14日齢のニワトリを26日間、すなわち、40日齢まで育てた。試験の開始時点でブロイラーを無作為に4標本ずつ16群に分けた。鳥には、試験開始初日から試験期間終了時まで1種類の飼料を与えた。飼料の種類は、異なる囲いに無作為に割り当てた。動物は、脚周囲に識別目的の色着きリングを装着して各囲い内に配置した。対照飼料は、市販のブロイラー用粉砕飼料を基にして、酸化的ストレスを高めるために5%コーン油をその飼料中に加え濃厚にした。さらに、見た目で栄養消化性が判断できるようにするための外部マーカーとして、1%セライトをこの飼料中に混合した。飼料の組成は以下のとおりであった。乾物87.65%、灰6.13%、粗タンパク質18.05%、粗脂肪9.13%、粗線維4.32%及び他の炭水化物50.01%(デンプン89%及び糖2%を含む)。この飼料の代謝可能エネルギー値は約13.4MJ/kgである(計算値)。
【0032】
第二の種類の飼料では、対照飼料として記載の飼料と同じ組成物に、1キログラム当りDMG167mgを加えた。全試験期間を通して、ブロイラーは、平均で1羽当り1日約25mgのDMGを摂取した。ブロイラーの囲いは、開放屋根と底部とを有し全表面が0.72mの円形の囲いから成っていた。柵の素材は、高さ1m、厚さ2mm、2×2cmの格子状の柔軟な金網であった。底部は、木の削り屑の層上に厚い芝生層が点在していた。飼料及び水は常に自由に摂取可能であった。平均の環境温度は、腹水症の発生が増えるように15℃に維持した(Shlosberg A.、Zadikov I.、Bendheim U.、Handji V.、Berman E、Avian Pathology、21、369〜382(1992))。23時間明、1時間暗の、従来どおりの照明計画を適用した。
【0033】
各鳥について3回、詳細には1日目、15日目及び26日目に血液試料を採取し、体重を測定した。各血液試料のサブ試料について超遠心分離法を実施することにより、ヘマトクリット濃度を速やかに測定した。次に、血液試料を遠心分離にかけ、血漿を−20℃に維持した。この血漿において、血漿代謝産物、すなわちトリグリセリン及び遊離脂肪酸(NEFA:非エステル化脂肪酸)の濃度を測定した。
【0034】
生存中の各動物について、2つの期間(1日目から15日目の間、及び16日目から26日目の間)中の日間成長量を計算した。両期間中の各囲いについての飼料摂取量も測定した。各囲いにおける市販飼料の転換率を、両期間について(FCR I及びFCR II)、又、総成長期間について計算した。この市販飼料の転換率は、飼料総摂取量を、実験期間を通して生存していた鳥の体重増加量で割って計算したが、総摂取量には死んだ鳥の飼料摂取分も含まれている。DMGが飼料転換率に及ぼす非治療的効果のみを測定するため、体重増加量及び生存しているこれらの鳥が摂取した飼料を基に、生存している鳥の実質の飼料転換率も、より詳細に計算した(死んだ鳥の体重増加量に基づき、これらの鳥が摂取した飼料量を飼料総摂取量から引いた)。
【0035】
第二期の開始時点で、鶏糞試料100gを採集した。外部マーカーとしての不溶性の酸(セライト)を用いた外部マーカー法に基づき、主要栄養素の見かけの代謝率及び見かけの窒素保持率について係数を算出した。
見かけの代謝率=1−(NF/NV×IV/IF)
(式中、NF:糞試料中で観察された栄養分の比率(%)
NV:飼料試料中で観察された栄養分の比率(%)
IV:飼料試料中の指標の比率(%)
IF:糞試料中の指標の比率(%))
【0036】
上述のパラメーターを決定するために、乾物、粗灰、粗タンパク質、粗脂肪及び粗線維(AOAC、1980)について糞及び飼料の両試料を分析した。炭水化物は、乾物含有量とそれ以外の主要栄養素(Weende分析を用いて決定した)との差から計算した。不溶性の灰(セライト)の含有量は、Atkinsonら(1984)の手法により決定した。
【0037】
最後に、全てのニワトリについて剖検も実施した。まず、頭部、脚の切除、内臓摘出、羽の平均重量の差引きにより屠殺体の重量を決定した。次に、胸部、臀部及び腿の筋肉の重量を測定した。心臓、肝臓及び腹部の脂肪も測定した。腹水症に関係した肉眼病変を視覚的に検討し、Scheeleらにより示されたとおりに記載したところ(2003)(Scheele,C.W.、Van Der Klis,J.D.、Kwakernaak,C.、Buys,N.、Decuypere,E.、British Poultry Science、44(3)、484〜489(2003))、今回の病変は腹水の貯留、心膜水及び右心の拡張であった。後者を、凍結乾燥後の両心室の乾燥重量に対する右心室の乾燥重量の比である腹水症心臓指数(AHI)により定量化した。
【0038】
結果
腹水症は、26日間の試験期間中の死亡の主因であった。死亡率及び腹水症の発生率は、DMG補給群において相当低かった(表1及び2)。腹水の大量貯留に次いで、これら全ての動物は明らかな右心室拡張を示していた。実験の第二期の開始時点では、DMG補給を受けたニワトリは、より高い見かけの乾物代謝率を示した。乾物及びタンパク質について算出した代謝係数から、乾物及びタンパク質の両方を代謝する能力はDMG補給群において向上したらしいことが見てとれる(表3)。第二期に入ってから、DMG補給群は飼料転換率の顕著な向上と同時に成長率の上昇も示した。しかしながら、総成長率はそれほど影響を受けなかったことから、飼料転換率が向上したことは、飼料摂取量が低めであったことにより説明されなければならない。
【表1】


【表2】


【表3】


【表4】

【0039】
上述の実験において、ブロイラーの腹水症症候群の実質発生率である4.7%(Maxwell H.M.、Robertson G.W.、British Poultry Science 39、203〜215(1998))は、今回の試験の設定により顕著に増加した。本発明者らは、DMG補給群及び対照群の動物それぞれにおける腹水症の発生率において顕著な差があることを明確に示すことができた。したがって、DMGは腹水症の発病に対し防護効果を有すると結論付けることができた。この効果は、DMG補給群の動物の上昇したヘマトクリット値においても確認された。DMGが腹水症状態に及ぼすプラスの効果の直接的証拠は、ニワトリの心臓における解剖検査中に見出された。全ての動物について、両心室の乾燥重量に対する右心室の乾燥重量の比率として、AHI(腹水症心臓指標)を計算した。このパラメーターは、右心肥大(腹水症症候群の症状)の発生率に対する明確な指標となる。DMGを補給されなかったニワトリの群については、顕著に高いAHI値が確認された。
【0040】
腹水症症候群がDMGによりプラスの影響を受けただけでなく、さらに、DMG補給が特に第二成長期間中での飼料転換率低下につながることも見出された。市販の飼料の転換率は、腹水症に対するDMGの治療的効果を含んでおり実践的な観点から非常に重要であるが、この値が明らかに改善された。しかしながら、体重増加量及び生存していた鳥が摂取した飼料のみに基づいて計算された実質の飼料転換率も、明らかに改善された。(同実質飼料転換率は、試験期間中に死亡した鳥を含む全動物の体重増加総量に基づいて計算することもできる)。このことは、DMGは飼料転換率に対する非治療的効果も有することを証明している。さらに、この非治療的効果は、DMG補給飼料を与えられたニワトリの乾物及びタンパク質代謝率の増加にもつながっていた。
【0041】
動物の血液パネルでは、トリグリセリド濃度の相当な差及び遊離脂肪酸(NEFA)濃度の相当な差が検出された。DMG補給群での遊離脂肪酸の減少は、血液からこうした産生物が引き出される量が増加したか、又はより少ないNEFAが動物の貯蔵脂肪から動員されたという事実があるか、いずれかにより説明できる。DMGにより飼料の見かけの代謝率の増加も起きるため、NEFAの値の低下は、ニワトリの貯蔵脂肪から、より少ないNEFAが動員された事実による可能性が最も高い。この結論は、DMG補給群の血液試料中で検出されたトリグリセリドが高濃度であったことによりさらに支持され得る。このことから、DMGはエネルギー代謝及び代謝的ストレスの低下を支持する物質として重要であり得るという結論が導かれる。
【0042】
まとめると、グリシン化合物、より詳細にはDMG又はその塩を0.001〜0.5重量%(飼料を基準とする)補給すると、腹水症と呼ばれる家禽の疾患に対し有利な効果があることが見出された。DMG補給によりヘマトクリット濃度の増加が導かれ、そのため鳥の生体は組織への限られた酸素供給に対しより効果的に対処できる。さらに、DMGは又、分子構造中の不飽和結合の存在による、動物の死亡につながる酸化的ストレスを引き起こす恐れのある血流中の遊離脂肪酸含有量の低下にも関与している。この特性は、飼料に添加する植物性脂肪の使用がますます増えている現代の飼料配合技術において重要である。さらにDMGは、家禽の育成全般における重要な経済パラメーターである、市販の飼料の転換率及び実質の飼料転換率の両方に対し明白な影響を有している。この飼料転換率はDMG補給が乾物及びタンパク質の両方の見かけの代謝率に対して有する効果に直接つながっている。総括すると、DMGは、家禽における腹水症の発生率に対し、又、鳥のエネルギー代謝に対しプラスの影響を有していることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家禽を育成するために使用される飼料の転換率を減少させることを目的とした、家禽の非治療的処置の方法であって、前記処置が、家禽に以下の式(I)
【化1】


(式中、R及びRは独立に、1から18個、好ましくは1から6個の炭素原子を含有するアルキル、アルケニル又はヒドロキシアルキル基であるか、又はR及びRはN原子と共に連結して5員又は6員の複素環を形成する)
又はその塩に相当する少なくとも1種のグリシン化合物を経口投与することを含む方法。
【請求項2】
前記グリシン化合物が、N,N−ジメチルグリシン(DMG)、N,N−ジエチルグリシン、N,N−ジエタノールグリシン、N,N−ジプロピルグリシン、N,N−ジイソプロピルグリシン、又はその混合物若しくはその塩から成る群から選択され、好ましくは前記グリシン化合物がDMG又はその塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グリシン化合物が家禽の飲用水を通じて投与される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記グリシン化合物が前記飼料を通じて投与される、請求項1から3までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
家禽がブロイラー種のニワトリを含む、請求項1から4までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
実質飼料転換率がある期間にわたり2.50kg飼料/kg増加体重未満、好ましくは2.45kg飼料/kg増加体重未満、より好ましくは2.40kg飼料/kg増加体重未満であるように、及び/又は家禽の成長率が前記期間にわたり50g/日超、好ましくは60g/日超であるように選択及び育成される家禽に、前記グリシン化合物が前記期間投与される、請求項1から5までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記グリシン化合物が、前記飼料の0.001から0.5重量%の間の量で、好ましくは前記飼料の0.005から0.1重量%の間の量で投与される、請求項1から6までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
以下の式(I)
【化2】


(式中、R及びRは独立に、1から18個、好ましくは1から6個の炭素原子を含有するアルキル、アルケニル又はヒドロキシアルキル基であるか、又はR及びRはN原子と共に連結して5員又は6員の複素環を形成する)
又はその塩に相当する、少なくとも0.001重量%、好ましくは少なくとも0.005重量%のグリシン化合物を含む、家禽用飼料。
【請求項9】
前記グリシン化合物が、N,N−ジメチルグリシン(DMG)、N,N−ジエチルグリシン、N,N−ジエタノールグリシン、N,N−ジプロピルグリシン、N,N−ジイソプロピルグリシン、又はその混合物若しくはその塩から成る群から選択され、好ましくは前記グリシン化合物がDMG又はその塩である、請求項8に記載の飼料。
【請求項10】
前記グリシン化合物を0.001から0.5重量%の間の量で、好ましくは0.005から0.1重量%の間の量で含む、請求項8又は9に記載の飼料。
【請求項11】
少なくとも11.5MJ/kg、好ましくは少なくとも12.0MJ/kgの代謝可能エネルギー値を有し、前記エネルギー値が好ましくは14MJ/kg未満、より好ましくは13.5MJ/kg未満である、請求項8から10までのいずれか一項に記載の飼料。
【請求項12】
粗タンパク質含有量が少なくとも18.5重量%、粗脂肪含有量が少なくとも4重量%、デンプン含有量が少なくとも30重量%、及び/又は粗線維含有量が5重量%未満である、請求項8から11までのいずれか一項に記載の飼料。
【請求項13】
不飽和脂肪酸含有量が少なくとも3重量%、好ましくは少なくとも4重量%、より好ましくは少なくとも5重量%である、請求項8から12までのいずれか一項に記載の飼料。
【請求項14】
含水量が15重量%未満、好ましくは14重量%未満である、請求項8から13までのいずれか一項に記載の飼料。
【請求項15】
以下の式(I)
【化3】


(式中、R及びRは独立に、1から18個、好ましくは1から6個の炭素原子を含有するアルキル、アルケニル又はヒドロキシアルキル基であるか、又はR及びRはN原子と共に連結して5員又は6員の複素環を形成する)
又はその塩に相当するグリシン化合物及び/又はその塩の、家禽における腹水症の発生率を低下させるための医薬の製造のための使用。
【請求項16】
前記グリシン化合物が、N,N−ジメチルグリシン(DMG)、N,N−ジエチルグリシン、N,N−ジエタノールグリシン、N,N−ジプロピルグリシン、N,N−ジイソプロピルグリシン、又はその混合物若しくはその塩から成る群から選択され、好ましくは前記グリシン化合物がDMG又はその塩である、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記グリシン化合物が家禽用飼料に添加され、その結果得られた飼料が前記グリシン化合物を0.001から0.5重量%の間の量で、好ましくは0.005から0.1重量%の間の量で含む、請求項15又は16に記載の使用。
【請求項18】
実質飼料転換率がある期間にわたり2.50kg飼料/kg増加体重未満、好ましくは2.45kg飼料/kg増加体重未満、より好ましくは2.40kg飼料/kg増加体重未満であるように、及び/又は家禽の成長率が前記期間にわたり50g/日超、好ましくは60g/日超であるように選択及び育成される家禽に、前記グリシン化合物が前記期間投与される、請求項15から17までのいずれか一項に記載の使用。
【請求項19】
家禽に以下の式(I)
【化4】


(式中、R及びRは独立に、1から18個、好ましくは1から6個の炭素原子を含有するアルキル、アルケニル又はヒドロキシアルキル基であるか、又はR及びRはN原子と共に連結して5員又は6員の複素環を形成する)
又はその塩に相当するグリシン化合物を経口投与することを含む、家禽における腹水症の発生率を低下させるための方法。
【請求項20】
前記グリシン化合物が、N,N−ジメチルグリシン(DMG)、N,N−ジエチルグリシン、N,N−ジエタノールグリシン、N,N−ジプロピルグリシン、N,N−ジイソプロピルグリシン、又はその混合物若しくはその塩から成る群から選択され、好ましくは前記グリシン化合物がDMG又はその塩である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記グリシン化合物が家禽の飲用水を通じて投与される、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記グリシン化合物が前記飼料を通じて投与される、請求項19から21までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
家禽がブロイラー種のニワトリを含む、請求項19から22までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記グリシン化合物が、前記飼料の0.001から0.5重量%の間の量で、好ましくは前記飼料の0.005から0.1重量%の間の量で投与される、請求項19から23までのいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
実質飼料転換率がある期間にわたり2.50kg飼料/kg増加体重未満、好ましくは2.45kg飼料/kg増加体重未満、より好ましくは2.40kg飼料/kg増加体重未満であるように、及び/又は家禽の成長率が前記期間にわたり50g/日超、好ましくは60g/日超であるように選択及び育成される家禽に、前記グリシン化合物が前記期間投与される、請求項19から24までのいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−531030(P2009−531030A)
【公表日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500709(P2009−500709)
【出願日】平成18年3月21日(2006.3.21)
【国際出願番号】PCT/EP2006/060926
【国際公開番号】WO2007/107184
【国際公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(507416850)
【Fターム(参考)】