説明

養鶏飼料

【課題】 パン粉を使用することなく、ニワトリの旺盛な食欲を維持し、かつ、鶏糞のべたつきと悪臭を排除する。
【解決手段】 稲藁、牧草、米糠、大鋸屑を含む基本的な鶏飼料を技術的前提として、この養鶏飼料に、少なくともさとうきびの茎の粉砕片を加える(請求項1)。さとうきびの茎の粉砕片の配合量は、基本的な養鶏飼料に対し、1〜10重量%とする場合がある(請求項2)。さとうきびの茎の粉砕片を加えることによってニワトリの脂肪分が減少する。脂肪含有率が多くなりすぎる従来の鶏肉では困難とされた鶏肉100%のハムやソーセージを製造することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学的な栄養剤等を用いない養鶏飼料に係り、とくに養鶏の食欲低下を防止する天然素材を用いた飼料成分に関する。
【背景技術】
【0002】
健全な鶏肉または鶏卵を得るため、養鶏業者は各種の養鶏飼料を用いる。養鶏にとって必要な条件は、鶏が病気にかからないこと、十分な栄養をとって健康に成長すること、可能な限り速やかに成長することである。これらの条件を満たす飼料として従来、栄養価の高い成分と抗生物質を組み合わせた養鶏飼料が用いられている。栄養価の高い成分としては、一般には、トウモロコシ等の穀物、魚肉や獣肉(牛、豚等)が用いられる。
【0003】
これらの一般的な飼料に対して更に栄養価を高める手段は各種提案されている。例えば特開平05−192091号公報では、澱粉、糖類、魚粉、動植物性油脂、カルシウム、ビタミンを配合した飼料を公知の基本材料として、これに木酢粉と海草類を添加することが提案されている。また、特開平05−244879号公報では、従来公知の飼料に活性炭を含有させて臭みをとり肉質を改善することが提案され、特開平06−276960号公報ではガラクトオリゴ糖組成物を添加して、脂肪肝を抑制し生産性を向上させることが開示される。同様の技術は、例えば特開平07−147910号、特開平10−229829号にもみられる。サルモネラ菌による病気発生を防止する技術としては、例えば特開平10−215790号のようにオリゴ糖と酸性化剤を添加する技術がある。
【0004】
しかし、穀物や魚肉/獣肉を用いた飼料は、サルモネラ菌その他の病原菌に起因する各種の病気が生じやすいため、飼料には抗生物質を添加する。また高栄養価の飼料にビタミン剤などを添加することもあるが、いずれにしても、ブロイラの鶏は生後6ヶ月ほどで自重を支えきれないほどに体重が増加し、速やかに処理される。
【0005】
わが国における養鶏技術は主として戦後に導入された経緯があり、栄養剤を用いた大量飼育と、それに伴う病気発生の防止という観点から、栄養価の高い原材料と、それに伴う病原菌への抵抗力の増加という点に飼料の主眼があった。
【0006】
従来の養鶏飼料が、高栄養価や病原菌への抵抗力の増加にこだわったのは、ニワトリの食餌態様が、豚や牛のような動物と著しく異なる点にあった。ニワトリは、他の畜産家畜と異なり、飼料をそのまま呑みこんで内蔵の砂袋で消化吸収するという特性があり、このため養鶏に携わる者や研究機関(大学等)においても、最初から十分な栄養を与えない限り健全な成長がしにくいと考えられがちであり、このため体重に見合わない大量の高栄養飼料が与えられた経緯がある。
【0007】
高栄養価の穀物、魚肉、獣肉は腐敗しやすく簡単にサルモネラ菌などの病原菌が増殖する傾向がある。他方、これに起因して、病原菌に対抗させるためのビタミン剤や抗生物質を添加する必要が生ずるため、飼料コストは著しく増加する。また抗生物質の影響によって鶏肉に不自然な臭みが生じ、同時に、それを食する人間には好ましくない影響(抗生物質の体内蓄積等)を与えるなど、ブロイラ鶏肉やブロイラ鶏卵に対する拒否反応が社会認識として近年徐々に高まりつつあるる。
【0008】
そこで本出願人は、ニワトリの本来の消化吸収の生理に照らして、生理的に無理がある強制的な栄養物質を与えることなく、大量数の養鶏を実現する天然素材の養鶏飼料を提案した(特許文献2)。
【0009】
この養鶏飼料は、堆積熟成させた稲藁と牧草を主成分とし、この主成分に、米糠、大鋸屑、粉砕した炭酸カルシウムを加えたものである。この提案がなされるまでは、栄養価が低い稲藁や牧草によって養鶏業が成り立つとは考えにくいとされた。
【0010】
しかし実験の結果、熟成させた稲藁や牧草を用いることにより、また他の成分(例えば米糠、大鋸屑、粉砕した貝殻等の炭酸カルシウム)を加えることにより、飼育したニワトリは順調に育った。過度の肥満を呈する個体もなく、すべて健康で、鶏卵や肉に臭みもなく、抗生物質に由来する人的な被害の可能性を憂慮する必要もない。また養鶏業者にとっては最も深刻な問題である鶏糞(排泄糞尿)の悪臭問題も解消した。
【0011】
ただし、ひな鳥が成長する過程で免疫力が低下する現象がみられたため、ひな鳥が成長する過程で、鶏卵(ゆで卵)を粉砕して与えたところ、免疫力の低下も防止できることがわかり、これを別途提案した(特許文献3)。
【0012】
このように、成長を強制する高栄養価の飼料や病害を予防する抗生物質を与えなくても、天然素材の飼料によって養鶏が可能であることは確認できたが、未だ養鶏飼料を改善すべき余地は残っていた。
【0013】
それは、季節の変わり目や気候が厳しいとき、つまり、春先、盛夏、秋口、厳冬期、という時期に養鶏の体力が際だって低下する点である。養鶏の体力低下というのは、具体的には、人間が風邪をひいたときのように食欲が減退し、体重が減り、産卵率が著しく低下する現象となってあらわれる。この時期の産卵率は、他の時期の1/2〜1/3となり、その状態が10〜20日ほど続く。
【0014】
年4回のこのような変動は、養鶏業者にとってはきわめて深刻である。一年のうち平均して約2ヶ月分の収入がなくなることに等しいからである。
【0015】
気候の変動に伴うこのような現象(養鶏の体力低下)は、いわば自然現象であり、従来の養鶏技術では、どのように高栄養価の飼料を与えても避けられないと考えられた。しかし、年間を通して安定した収益を上げることが出来なければ、どのような産業も健全には育たない。
【0016】
そこで、本出願人は、自然のサイクルとしてあらわれる養鶏の体力低下を最小限に抑えるため、稲藁、牧草、米糠、大鋸屑を含む基本的な養鶏飼料にパン粉を加える提案を行った(特許文献4)。
【0017】
パン粉を加えることによる第一の利点は、季節の変わり目、盛夏、厳冬期においてもニワトリの食欲は減退せず、体重の現象、産卵率の低下といった従前の不具合を克服できる点にあった。第二に、高栄養でありながら、鶏糞(排泄糞尿)もまったく悪臭を発生しないことを確認できた。鶏糞の臭いは、悪臭が減少したというのではなく、通常の人間の嗅覚にはまったく臭いがないように感じられる程度になる。また銀バエの発生もなかった。
【特許文献1】特開平06−276960号
【特許文献2】特開2001−218559号
【特許文献3】特願2002−140600号
【特許文献4】特開2003−004691号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
問題は、近時の市販のパン粉が、調味液として魚醤を使用し始めた点にある。養鶏業者としては、コストや作業性の点からパン粉を自家製造することも出来ない。このため市販のパン粉を使用せざるを得ないのであるが、パン粉にうまみを出すために使用される調味液(とくに魚醤)が、鶏糞を著しく劣悪な状態にする。具体的には、鶏糞がべたついて乾燥に時間がかかること、常時悪臭を放つこと、の二点である。
【0019】
鶏糞のべたつきは、放し飼いの養鶏場の飼育環境を劣悪にするし、鶏糞を二次利用する場合の乾燥が遅れ、経営コストの圧迫となる。また、悪臭は、近隣住民からの苦情を招くし、水分の多い鶏糞状態と相まって銀バエを大量発生させるなど、衛生面の問題も惹起する。
【0020】
そこで、本発明の目的は、パン粉を使用することなく、ニワトリの旺盛な食欲を維持し、かつ、鶏糞のべたつきと悪臭を排除する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
前記目的を達成するため、本発明に係る養鶏飼料は、稲藁、牧草、米糠、大鋸屑を含む基本的な鶏飼料を技術的前提として、この養鶏飼料に、少なくともさとうきびの茎の粉砕片を加える(請求項1)。さとうきびの茎の粉砕片の配合量は、基本的な養鶏飼料に対し、1〜10重量%とする場合がある(請求項2)。
【発明の効果】
【0022】
さとうきびの茎は、糖分、ミネラル、繊維質を豊富に含む。このため、基本的な養鶏資料に天然のさとうきびの茎の粉砕片を加えたときは、盛夏や厳冬期においてもニワトリの食欲は減退しない。また、人為的な鉱物を含まない天然の飼料であることから、鶏糞の水分含有率も少なく、悪臭もないという結果を得ることが出来る。このような効果は、魚醤を含まないパン粉においても同様であったが、さらに、魚醤を含まないパン粉を利用した場合よりも優れた効果を確認できた。
【0023】
それは、さとうきびの茎の粉砕片を加えることによって、ニワトリの脂肪分が減少することである。パン粉は、小麦粉と油を多く含む。しかし、さとうきびには体脂肪を増加させる成分がきわめて少ない。からだの小さなニワトリにとって、澱粉質や油分の相違は体内に蓄積する脂肪の量の低減となってあらわれる。
【0024】
この結果、豚や牛と違って、脂肪含有率が多くなりすぎる従来の鶏肉では困難であるとされた鶏肉100%のハムやソーセージを製造することも可能となる。また、鶏卵はアルカリ性(例えば、pH7.8程度)を呈するようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
図1は、本発明に係る養鶏飼料の作り方を例示するものである。さとうきびの粉砕片を加えない基本的な養鶏飼料は、特開2001−218559に示したとおりであるが、これを説明すると次の通りである。
【0026】
原料となる牧草(S1)と稲藁(S2)は、例えば乾燥したものを用い、堆積前または堆積後に散水によって水を含ませる。処理の上で切断などの加工は一切しないことが望ましい。堆積熟成させた結果物は同じであり、短寸に切断することによって熟成処理期間が短縮することもなく、加工に無用な費用を要するのみだからである。
【0027】
尚、牧草には各種の種類があるが、とくに種類は問わない。但し、畜牛農家において多用される低コストの牧草を用いることが望ましい。これらの牧草には例えば乳酸菌のように稲藁には含まれない独自の微生物が含まれるからでもある。
【0028】
稲藁は、農薬を用いたものの使用は好ましくない。洗浄しても農薬成分が残留している可能性が高いからである。さらに云えば、稲藁は、いわゆる青狩りしたのものを用いることが望ましい。稲作農家は休耕地の土壌を良好に保つために、休耕地にも稲を植えることがあるが、完全に稲を生長させることなく途中で青狩りを行う。しかし青狩りした稲茎には用途がない。しかしながら青狩りした稲藁が養鶏飼料として役立つのであれば、化学肥料を用いることなく稲藁を成長させて刈り取り、当該稲藁を有効に役立てることが出来る。最後まで成長させる必要はないから、北海道のような寒冷地でも年二回以上の収穫を期待することが出来る。
【0029】
次に略均等量の牧草(S1)と稲藁(S2)を堆積させ、その上にビニルシート等の非透水性の覆い材をかぶせる。雨雪を避け、熟成中の温度上昇を良好に保持させるためである。保温性と遮水性があれば厚めの麻布など通気性があるものを用いても構わない。牧草(S1)と稲藁(S2)を堆積させるに際しては、必ずしもその時点で混合/攪拌を施す必要はない。熟成結果物が最終的に混合された状態であれば良いからであり、最終段階で攪拌を行っても飼料としての有効性に優劣は生じない。また熟成中の切り返し処理も不要である。牧草地や田地に原材料(S1、S2)を積み上げて手作業で処理する場合は、ひとつひとつの堆積量が少ないため、内部と外部の温度差を解消する目的で行う切り返しをしなくても満足のいく結果物を得られるからである。但し、堆積させる量が多い場合は1〜2回の切り返しを行い、均等な結果物を得られるように努めることが好ましい。
【0030】
堆積熟成させる期間は、約3ヶ月である。熟成中は微生物反応により内部温度が70〜75℃程度に上がるため、外気温の影響は殆ど受けない。特殊な倉庫を使用しなくても田地や牧草地の外気環境下で十分に処理ができる。稲藁(S2)や牧草(S1)は通年入手可能であるから、原理的にはいつでも熟成処理が出来るが、通常の場合は米の収穫後の季節(秋口)に大量に熟成処理を行うことが想定され、その場合には外気温が低すぎる等の影響はないと想われる。
【0031】
堆積熟成させた牧草(S1)と稲藁(S2)は、約3ヶ月後には微生物反応によって腐植土のように、容易にボロボロに崩れる状態(水分含有率10〜20%程度)、あるいは、サラッとした感触を受ける状態(水分含有率5〜10%程度)のように変化する。養鶏飼料としては出来るだけ水分含有率が低い方が好ましい。従って、水分含有率が高い場合は必要に応じて天日干しなどの乾燥処理を施しても良い。
【0032】
熟成させた稲藁(S2)と牧草(S1)から,主原料となる堆積混合物(S4)を得て、これに米糠(S5)、大鋸屑(S6)、粉末状の貝殻(S7)を添加して攪拌し、天然素材からなる基本飼料(S8)を得る。米糠(S5)と大鋸屑(S6)の配合量は、堆積混合物(S4)に対して約15〜20重量%であり、粉末状の貝殻(S7)の混合量は堆積混合物(S4)に対して3〜7重量%(好ましくは5%程度)である。これらの配合比は望ましい目安であり数%の範囲で変動しても本来的な作用効果には大きな影響は出ないと想われる。尚、粉末貝殻(S7)はカルシウム成分を与えるためであり、カルシウム系の他の代替物を選択的に使用して構わない。例えば甲殻類の粉末/細片、陶器粉末、石材粉末、市販の炭酸カルシウム粉末等である。使用量は必要最低限でよい。
【0033】
次に、このようにして得た基本飼料(S8)に、さとうきびの粉砕片(S9)を加えて、攪拌し、最終的な養鶏飼料(S10)とする。さとうきびの粉砕片(S9)がもつ独特の香りの作用も無視できないため、さとうきびの粉砕片(S9)は基本飼料(S8)と均一に混じり合うように混練することが望ましい。なお、さとうきびは刈り取った直後は水分をもつが、しばらくすると乾燥する。粉砕片(S9)を均一に混ぜるためには、水分の少ないさとうきびを使用することが望ましい。水分の少ないさとうきびを粉砕すると、粉砕片(S9)は大鋸屑のように食べやすい性状になる。
【0034】
さとうきびは四季を通して入手可能であり、安価で、栄養価に富み、多量の繊維質を含む。甘いため、パン粉を与えたときと同じようにニワトリの食欲を増進させる。また、さとうきびの粉砕片(S9)に含まれる繊維質が、鶏糞のべたつきを抑え、乾燥した、悪臭のない排泄物をつくる。
【0035】
かかる構成によれば、天然素材の基本飼料(S8)にさとうきびの粉砕片を加えることで、コスト的に無理なく、年間安定してニワトリの食欲低下を防止することが可能となる。また排泄物のべたつき、悪臭もなく、非常に好ましい結果を得る。
【0036】
さらに、基本飼料(S8)にさとうきびの粉砕片(S9)を加えた飼料によれば、鶏肉の脂肪分がきわめて少なくなり、鶏肉は赤身を帯びて、100%鶏肉のハムやソーセージを製造するにも適した状態となる。ちなみにブロイラーの鶏肉は全体的に白身を帯びている。脂肪分、コラーゲン、ゼラチン質が多いからである。このような肉では混ぜもの(つなぎ材)を使用しない限り100%の鶏肉ハムやソーセージを作ることは出来ない。
【0037】
また鶏卵はアルカリ性を示し、人間にとっても好ましいpHとなる。鶏卵からかえったひなも、人工的栄養成分や抗生物質を与えるまでもなくきわめて健全に成長する傾向がみられる。
【0038】
さとうきびの粉砕片(S9)は、例えば茎を粉砕機にかけて例えば大鋸屑状の小片として与えることが望ましい。単にカッターや包丁で切断した状態より、繊維質がほぐれた状態になっている方が養鶏の消化吸収の効率がよい。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係る養鶏飼料の製造ステップを例示するブロック図である。
【符号の説明】
【0040】
S1 牧草
S2 稲藁
S4 堆積混合物
S5 米糠
S6 大鋸屑
S7 粉末状の貝殻
S8 基本飼料
S9 さとうきびの粉砕片
S10 養鶏飼料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆積熟成させた稲藁と牧草に、米糠、大鋸屑、カルシウム成分を加えた天然素材からなる基本飼料に、さとうきびの茎の粉砕片を加えることを特徴とする養鶏飼料。
【請求項2】
さとうきびの茎の粉砕片の配合量は、
稲藁、牧草、米糠、大鋸屑、カルシウム成分からなる基本飼料に対し、1〜10重量%とすることを特徴とする請求項1記載の養鶏飼料。

【図1】
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