説明

香味野菜エキス粉末の製造法

【課題】従来、玉ネギ・長ネギ・ニンニク・ショウガなどの香味野菜を乾燥した乾燥香味野菜は乾燥工程で香りが変質あるいは逸散しており、フレッシュな香りを有した香味野菜の乾燥物はなかった。よってフレッシュな香りを有する香味野菜エキス粉末を提供する。
【解決手段】香味野菜をアルコール水溶液で抽出する工程において抽出液のアルコール濃度が10〜95(W/W)%となるように抽出を行い、次工程で抽出液重量に対して20%〜140%の粉末化基材を添加混合後乾燥することにより、得られた香味野菜エキス粉末はアルコール分を6%〜40%含有するとともに、フレッシュな香味野菜の香りを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、玉ネギ・長ネギ・ニンニク・ショウガなどの香味野菜エキス粉末の製造法及びそれらの使用法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より玉ネギ・長ネギ・ニンニク・ショウガなどの香味野菜を乾燥後粉末化したもの、切断後乾燥したものなどいわゆる乾燥野菜がインスタントラーメン、スープなどの調理の際に利用されてきた。これらの乾燥野菜は乾燥の際熱がかかることから生野菜の持つ独特な香りは変質あるいは逸散しており、それを防ぐ手段が講じられた製造法も開示されているが十分ではなかった。(特許文献1、2)
【0003】
また、近年では香味野菜からエキスを抽出しこれを粉末化した香味野菜エキス粉末も製造されておりこれらの製法に関する特許も出願されている。(特許文献3,4,5)しかしいずれの方法も、濃縮工程およびまたは乾燥工程でフレッシュな香りが逸散し生の香りを有した香味野菜エキス粉末はなかった。
【0004】
【特許文献1】 特開平10−309161
【特許文献2】 特開2000−189047
【特許文献3】 特公昭48−28065
【特許文献4】 特開昭59−205932
【特許文献5】 特開平02−135069
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は乾燥後もフレッシュな香味を有した香味野菜エキス粉末を提供しょうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは課題を解決すべく鋭意研究の結果、香味野菜をアルコール水溶液で抽出し、抽出液に粉末化基材を加え、乾燥後の粉末中にアルコール分が残存するような条件で粉末化することにより、フレッシュな香味を有する香味野菜エキス粉末が製造できることを見出した。更に製造工程の初めおよびまたは途中に於いて、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、ビタミンEなどの抗酸化成分を添加することにより色調も良好に保持されることも見出した。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フレッシュな香味を有した香味野菜エキス粉末が得られ、スープ、ラーメン、肉まんなどの料理や納豆、刺身、豆腐、菓子、アイスクリーム、飲料などあらゆる食品に用いることで手軽にフレッシュな香味野菜の香りを付与することができる。また粉末であるので粉末醤油や化学調味料、食塩、砂糖などの粉末調味料及び又は香辛料と混合することにより香味豊かな粉末調味料を作る事ができこれらを天ぷら、刺身、寿司、納豆、豆腐、漬け物、サンドイッチ、ピザ、ハンバーガーなどの食品に振り掛けて用いることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明はまず香味野菜をアルコール水溶液で抽出する抽出工程より始まる。ここで言う香味野菜とは玉ネギ、長ネギ、ニンニク、ニラ、ショウガ、トウガラシ、ミョウガ、ミツバ、パセリ、セロリ、シソ、サンショ、香草などの比較的香りの強い野菜類を指す。これらの野菜類を抽出に用いる際はどの様な形でも問題はないが、適宜カット、破砕などして抽出効率を高めることが望ましい。破砕後は風味が変化しやすいので概ね破砕後60分以内、望ましくは30分以内に抽出を行う。
【0009】
抽出に使用するアルコール水溶液の濃度は20〜100(W/W)%程度、好ましくは40〜100(W/W)%である。20%よりアルコール濃度が低いと抽出液はフレッシュ感に欠け香りが弱くなる傾向がある。抽出工程後の抽出液のアルコール濃度は10〜95(W/W)%程度が望ましく、より望ましくは20〜95(W/W)%である。10%よりアルコール濃度が低いと粉末化後の粉末中のアルコール含度が下がり結果としてアルコール中に含まれる香味物質の量が減少し香が弱くなる。抽出温度は10℃〜70℃が好ましいが、低温では抽出効率が悪く、温度が高くなるに連れて煮込み臭が感じられるようになるため、より好ましくは20℃〜50℃の範囲である。
【0010】
野菜に対する抽出溶媒の使用量は、野菜の形態にもよるが、1倍〜20倍程度が適当である。抽出液を再び溶媒として使用して新たな香味野菜を抽出し風味力価を強める方法も有効である。抽出終了後抽出液と粕を分離し、必要に応じて遠心分離、濾過などによる清澄化操作を行う。
【0011】
アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、ビタミンEなどの抗酸化成分を抽出液に添加する事でエキスの色調を良好に保つことが出来る。あらかじめ抽出溶媒に溶解して抽出を行っても良いし、抽出の途中、抽出後に添加溶解しても良い。
【0012】
この抽出液にデキストリン、サイクロデキストリン、オリゴ糖、α化澱粉・アラビアガム等の多糖類などの水溶性の粉末化基材を添加溶解後乾燥する。この際乾燥後の粉末中にアルコール分が出来るだけ残存するような乾燥方法を採る必要がある。従来、どの様な乾燥方法であれ乾燥工程での香りの逸散が最も顕著であり乾燥工程での香りの保持が大きな問題であった。
【0013】
乾燥後の粉末中にアルコールが残存するような乾燥方法を採れば香味物質はアルコール中に溶解してアルコールと共に粉末中に残存する。具体的には抽出液のアルコール濃度が10〜50(W/W)%の範囲となるように調製し(50%以上の濃度では粉末化基材を溶解することが困難である)、調整後の抽出液重量に対して20〜140%、好ましくは40〜120%の粉末化基材を添加溶解後出来るだけ低温で噴霧乾燥する。粉末化基材の添加量がこれより少ないとアルコール回収率が悪くなり(従って香りも弱くなる)、これより多いと粘性のため噴霧が難しくなったり出来た粉末の味が薄くなる。このようにしてアルコール分を6〜40(W/W)%含有した香り豊な香味野菜エキス粉末が得られる。粉末化基材に補助的にゼラチン、寒天、グアーガムなどの高分子多糖類を添加することで香りの保持を高めることも出来る。粉末中のアルコール含度が高いほど風味はよいが40%以上のものを作成することは出来なかった。
このようにして得られた香味野菜エキス粉末は納豆や豆腐に振りかけたり、スープやラーメンに加えたり、菓子、アイスクリーム、飲料に添加して用いることが出来る。
【実施例】
【0014】
試験例I
表1に示すように、種々のアルコール濃度の溶媒1000gにアスコルビン酸ナトリウムを2g溶解し、すりつぶしたショウガ1000gを加え40℃にて20分間抽出し、不溶性成分を分離して各々の抽出液を得た。各抽出液重量の60%に相当する重量のデキストリン(グリスターP:松谷化学工業社製)を添加溶解し、熱風温度130℃、チャンバー温度80℃の条件で噴霧乾燥した。得られた抽出液粉末のアルコール含度を測定した。得られた抽出液粉末5種類をそれぞれ1%濃度になるように温水にて溶解し5名のパネラーにて官能評価を行った。評価点は、強い:5点、やや強い:4点、中程度:3点、やや弱い:2点、弱い:1点とし、5人のパネラーの平均点で示した。
【0015】
【表1】

【0016】
表1からわかるように抽出液のアルコール濃度が10(W/W)%以上の場合粉末中のアルコール含度が高くなり香が強く感じられるようになる。又溶媒のアルコール濃度が高いほどフレッシュ感が強くなる傾向がある。
【0017】
試験例II
表2及び表3に示すように、アルコール濃度59(W/W)%の溶媒12500gにすりりぶしたショウガ10000gを入れ40℃にて20分間抽出し、不溶性成分を除去し、アルコール濃度33.1(W/W)%の抽出液21140gを得た。これを10等分し抽出液の重量に対して5%〜140%に相当する重量のデキストリン(前述のグリスターP)を添加溶解し、試験例Iと同条件にて噴霧乾燥を行った。なお試験11以外は溶媒1250gに対してアスコルビン酸ナトリウム2gを添加した。得られた抽出液粉末のアルコール含度を測定し、アルコール回収率(乾燥前の抽出溶液中に存在するアルコール量に対する乾燥後の粉末中に残ったアルコール重量の割合)、抽出液粉末の出来高(粉末の水分を3%とし、計算にて求めた理論上の出来高)を求めた。得られた抽出液粉末10種類をそれぞれ1%濃度になるように温水にて溶解し試験例Iと同様に官能評価を行った。
【表2】

【表3】

【0018】
表2及び表3からわかるように、抽出液重量に対して添加した粉末化基材重量が20%以上の場合はアルコール回収率が良くなり抽出液粉末の出来高も多くなって経済的である。又表1〜3より粉末のアルコール含度が6(W/W)%以上好ましくは10(W/W)%以上の場合風味が良好であることがわかる。添加した粉末化基材重量が120%より多い場合は出来高が多くなり粉末の香が弱くなる傾向が見られ、粉末化基材を140%より多く添加すると高粘度のため噴霧することが困難になる。又アスコルビン酸ナトリウムを使用しなかった試験11では使用した試験10に比べてフレッシュ感が弱く感じられ、抽出液の色調が暗くなった。
【0019】
実施例I
92.4(W/W)%のアルコール水1500gに破砕した白ネギ750gを入れ、30℃で25分間抽出を行い、不溶性成分を分離して抽出液2144gを得た。この抽出液に破砕した白ネギ1125gを入れ、30℃で25分間抽出を行い、不溶性成分を除去して2991gの抽出液を得た。抽出液のアルコール濃度は40.8(W/W)%であった。この抽出液に1800gのデキストリン(サンデック#150:三和澱粉社製)を混合溶解して、熱風温度130℃、チャンバー温度85℃の条件で噴霧乾燥し抽出液粉末2250gを得た。この粉末のアルコール含度は23.7(w/w)%であった。市販のインスタントラーメンにて添加テストを行ったところ、1食につきこの粉末2gを入れることでフレッシュなネギの風味をラーメンに付与することが出来た。
【0020】
実施例II
92.4(W/W)%のアルコール水2500gにすりおろしたショウガ2500gを入れ、50℃で15分間抽出し不溶性成分を除去して抽出液4390gを得た。この抽出液にすりおろしたショウガ4600gを入れ50℃で15分間抽出し、不溶性成分を除去してアルコール分23.8(W/W)%の抽出液7900gを得た。この抽出液にデキストリン(パインデックス#2:松谷化学工業社製)5800gを混合溶解して実施例Iと同条件にて噴霧乾燥を行った。アルコール含度14.3(W/W)%の抽出液粉末6900gを得た。
【0021】
実施例III
実施例IIで得られた抽出液粉末4部に食塩4部粉末醤油2部の割合で混合した粉末調味料を作成した。この粉末調味料を天ぷらの付け塩として使用したところ、揚げたての天ぷらの食感を損なうことなくすりおろしたショウガのフレッシュな香りを賞味することが出来た。又この粉末調味料を鰹のたたきにふりかけて食べたところ鰹の生臭みが消え、すりおろしショウガと同様に生臭みのマスキング効果があった。
【0022】
実施例IV
納豆に、醤油と実施例Iで作成したネギ抽出液粉末を加えて混合し食したところ、納豆独特の香りがネギの香りにより抑えられ、刻みネギを用いなくても納豆をおいしく食べることが出来た。
【0023】
実施例V
実施例IIで作成したショウガの抽出液粉末をアイスクリームに3%添加混合して食したところ、さわやかなショウガ風味を有する美味なアイスクリームであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
香味野菜をアルコール水溶液で抽出する工程において抽出液のアルコール濃度が10〜95(W/W)%となるように抽出を行い、次工程で抽出液に粉末化基材を添加した後粉末化することを特徴とする香味野菜エキス粉末の製造法。
【請求項2】
香味野菜をアルコール濃度20〜100(W/W)%のアルコール水溶液で抽出し、抽出液に粉末化基材を添加した後粉末化することを特徴とする請求項1に記載の香味野菜エキス粉末の製造法。
【請求項3】
乾燥前の抽出液重量に対して20〜140%の粉末化基材を添加溶解後乾燥することを特徴とする請求項1及び2に記載の香味野菜エキス粉末の製造法。
【請求項4】
製造工程でアスコルビン酸類などの抗酸化物質を使用することを特徴とする請求項1〜3に記載の香味野菜エキス粉末の製造法。
【請求項5】
請求項1〜4の製造法により作成したアルコール含度が6〜40(W/W)%であることを特徴とする香味野菜エキス粉末。
【請求項6】
請求項5に記載の香味野菜エキス粉末を添加した食品。
【請求項7】
請求項5に記載の香味野菜エキス粉末に食塩、粉末醤油、化学調味料等の調味料、およびまたは香辛料などを混合して作成した粉末調味料。

【公開番号】特開2006−288367(P2006−288367A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−139063(P2005−139063)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(596076698)佐藤食品工業株式会社 (28)
【Fターム(参考)】