説明

香料放出剤

【課題】製剤の形態や用途に関係なく安定に配合でき、保存安定性が良好で、実使用系で、ラズベリーケトンを長期に亘り安定に徐放できる香料放出剤の提供。
【解決手段】下式(1)で表されるケイ酸エステル化合物を含む香料放出剤。
式(1):Si(OR1)(OR2)(OR3)(OR4
〔式中、R1、R2、R3及びR4は独立に、水素原子、又は炭素数1〜30のアルキル基若しくはアリール基等であり、R1、R2、R3及びR4のうち1つは、4−(3−オキソブチル)フェノールからフェノール性水酸基を除いた残基であり、他の2つ又は3つは、2級若しくは3級アルコールから水酸基を除いた残基である。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−(3−オキソブチル)フェノール(ラズベリーケトン)を徐放する香料放出剤、及びその製造方法、並びにこの香料放出剤を含有する繊維処理剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、繊維製品の香りに対する意識の高まりから、持続性のある香料や持続性付与成分を用いた衣料用洗浄剤及び柔軟仕上げ剤などの繊維製品処理剤組成物が種々検討されている。
【0003】
衣類に持続性のある香りを付与する技術として、特許文献1には特定のケイ酸エステル化合物、及び脂肪アルキル第4級アンモニウム化合物を含有し、編織物に長期間持続する香気を付与する編織物コンディショナー組成物が、また特許文献2には特定のケイ酸エステル化合物を含有し、編織物に長期間持続する香気を付与する芳香付与成分を含有する、洗浄剤組成物が開示されている。これらの技術では、ケイ酸エステルの加水分解物が香料成分として用いられ、繊維製品に付着したケイ酸エステルが空気中の水分等によって徐々に加水分解することで持続性のある香りを繊維製品にもたらすことを意図したものであるが、衣料用洗浄剤や柔軟仕上げ剤等の水系製品中でケイ酸エステルの分解が進行してしまい、効果が持続しない問題がある。
【0004】
水系製品中でのケイ酸エステルの加水分解を抑制し、香料や抗菌剤をはじめとする各種機能性物質を実使用系において長期に亘り安定に徐放させる技術も提案されており、例えば、特許文献3には、ケイ酸エステル化合物に導入する機能性物質について、LogP値(1−オクタノール/水分配係数)の観点から特定の2種を組み合わせて用いる技術が、また特許文献4には、ケイ素原子に特定鎖長の炭化水素基が結合しているケイ酸エステル化合物を用いる技術が開示されている。また、特許文献5では、ケイ酸エステル化合物からの香料、フレーバー、抗菌剤等の各種機能性物質の徐放速度に関する検討がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭54−59498号公報
【特許文献2】特開昭54−93006号公報
【特許文献3】特開2009−242798号公報
【特許文献4】特開2009−197055号公報
【特許文献5】国際公開第01/79212号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3記載の技術では、徐放すべき香料として、アルコール性水酸基を有する香料アルコールを用いる場合には十分な効果が実現されるものの、より酸性度の高いフェノール性水酸基を有する香料アルコールを用いる場合には水系製品中での分解抑制が十分ではない。とりわけ、香料として4−(3−オキソブチル)フェノール(以後単にラズベリーケトンともいう)を用いる場合には、水系製品中での分解が顕著に起こり、実使用系においてその優れた効果(爽やかな香りを発するだけでなく、保湿効果や血行促進にも優れる;特開2008−195695号公報参照)が満足に発現されないことを見出した。特許文献4及び5をみても、かかるラズベリーケトンに特異的な、水系製品中での分解の問題に関しては特に検討されておらず、製品中でのラズベリーケトンの分解・放出を効果的に抑制し得る手段は示唆がない。
【0007】
本発明の課題は、ラズベリーケトンの徐放技術に関し、水系製品中での保存安定性に優れ、実使用系において長期に亘り安定に該香料を徐放できる香料放出剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記式(1)で表されるケイ酸エステル化合物〔以下、ケイ酸エステル化合物(1)という〕を含む香料放出剤、及びこの香料放出剤の製造方法、並びにこの香料放出剤を含有する繊維処理剤組成物を提供する。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、R1、R2、R3及びR4は独立に、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基若しくはアリール基であり、R1、R2、R3及びR4のうち1つ又は2つは、4−(3−オキソブチル)フェノールからフェノール性水酸基を除いた残基であり、R1、R2、R3及びR4のうち2つ又は3つは、2級若しくは3級アルコールから水酸基を除いた残基である。)
【発明の効果】
【0011】
本発明の香料放出剤は、水系製品中における保存安定性に優れ、製剤の形態や用途に関係なく、実使用系においてラズベリーケトンを長期に亘り安定に徐放することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<ケイ酸エステル化合物(1)>
ケイ酸エステル化合物(1)において、R1、R2、R3及びR4は独立に、水素原子、又は置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基若しくはアリール基であり、R1、R2、R3及びR4のうち1つ又は2つは、4−(3−オキソブチル)フェノールからフェノール性水酸基を除いた残基であり、R1、R2、R3及びR4のうち2つ又は3つは、2級若しくは3級アルコールから水酸基を除いた残基である。
本発明の香料放出剤が、このような構造を有するケイ酸エステル化合物を含有することで水系製品中における保存安定性に優れ、製剤の形態や用途に関係なく、実使用系においてラズベリーケトンを長期に亘り安定に徐放することができる理由は定かではないが、次のように考えられる。すなわち、4−(3−オキソブチル)フェノールのようなフェノールで置換したケイ酸エステル化合物は、ケイ素原子の電子がフェノールに求引され、電子が不足した状態になっているため、一般に加水分解を受けやすく、水系での安定性が悪い。しかし本発明によるケイ酸エステル化合物では、中心のケイ素原子が2つ又は3つの2級若しくは3級アルコールで置換されていることで、これらのアルコールからケイ素原子への電子の流れ込みが起こるため、ケイ素原子の電子不足が解消され、加水分解を受けにくくなり水系での安定性が向上するものと考えられる。更に、2級若しくは3級アルコールは嵩高い基であるために、中心のケイ素原子への水和が起こりにくく、安定性が増すものと考えられる。
【0013】
一方、2級若しくは3級アルコールは、周囲の条件によっては、それ自身も加水分解されるため、前記の安定性を保ちつつ、ラズベリーケトンの徐放性を発揮することが可能であるものと考えられる。
【0014】
ケイ酸エステル化合物(1)には、i)R1、R2、R3及びR4のうち1つが4−(3−オキソブチル)フェノールからフェノール性水酸基を除いた残基であり、残り3つが2級若しくは3級アルコールから水酸基を除いた残基である態様が包含される。また、ii)R1、R2、R3及びR4のうち1つが4−(3−オキソブチル)フェノールからフェノール性水酸基を除いた残基であり、他の3つのうち2つが2級若しくは3級アルコールから水酸基を除いた残基である態様も包含される。
この場合、残る1つの置換基は、持続性の観点から、好ましくは炭素数1以上の1級アルコールから水酸基を除いた残基、分解の抑制と実使用系における香料の徐放性を高める観点から、より好ましくは炭素数6以上、更に好ましくは炭素数8以上の1級アルコールから水酸基を除いた残基である。そして持続性の観点から、好ましくは炭素数15以下の1級アルコールから水酸基を除いた残基、分解の抑制と実使用系における香料の徐放性を高める観点から、より好ましくは炭素数12以下の1級アルコールから水酸基を除いた残基である。また、持続性の観点から、好ましくは炭素数1〜15の1級アルコールから水酸基を除いた残基、分解の抑制と実使用系における香料の徐放性を高める観点から、より好ましくは炭素数6〜12の1級アルコールから水酸基を除いた残基、更に好ましくは炭素数8〜12の1級アルコールから水酸基を除いた残基である。
かかる1級アルコールの具体例としてはエタノール、ブタノール等の低級アルコール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール等の高級アルコール、2-エチルヘキサノール、4-ブチルオクタノール等のゲルベアルコール、ゲラニオール、シトロネロール等の香料アルコール等が挙げられ、これらのなかでも4−(3−オキソブチル)フェノールに加えて、複合的な香調や香味を付与する観点から、香料アルコールが好ましく、フローラルの香気を有する香料アルコールが好ましく、バラ様の香気を有する香料アルコールがより好ましい。好ましくはゲラニオールまたはシトロネロールであり、ゲラニオールがより好ましい。
前記香料アルコールの炭素数は持続性の観点から6以上が好ましく、8以上がより好ましい。そして前記香料アルコールの炭素数は15以下が好ましく、12以下がより好ましい。また、前記香料アルコールの炭素数は6〜15が好ましく、6〜12がより好ましく、8〜12が更に好ましく、炭素数10のテルペン系香料アルコールが更に好ましい。
【0015】
上記i)及びii)の何れの態様も本願所望の効果を奏するが、4−(3−オキソブチル)フェノールの機能持続性の観点から、i)の態様がより好ましい。i)の態様であると、中心のケイ素原子に対する1つのフェノールによる電子求引と3つの2級若しくは3級アルコールによる電子供与により、ケイ素原子がバランスの取れた電子状態となって安定性が向上し、徐放性のコントロールも容易となる。また、水系製品等に配合された場合だけでなく、本発明の香料放出剤そのもの、あるいは本発明の香料放出剤を含有した香料組成物等の種々の実使用系においてラズベリーケトンを長期に亘り安定に徐放させる観点から、ii)の態様が好ましい。
【0016】
4−(3−オキソブチル)フェノール(ラズベリーケトン)は、爽やかな香りを発する香料成分であると共に、保湿効果や血行促進にも優れることから(例えば、特開2008−195695号公報参照)、衣料用洗浄剤や柔軟仕上げ剤等の繊維製品処理剤用途において、その機能を持続的に発現させ得る本発明の効果を特に享受し得る香料である。
【0017】
ケイ酸エステル化合物の水系製品中における分解を抑制し、4−(3−オキソブチル)フェノールの放出を抑制し、実使用系において該香料を長期に亘り安定に徐放させるにあたって、ケイ酸エステル化合物(1)において、R1、R2、R3及びR4のうち2つ又は3つが、2級若しくは3級アルコールから水酸基を除いた残基であることが重要である。ここで、かかる2つ又は3つの置換基は、その何れもが2級アルコールから水酸基を除いた残基であっても、何れもが3級アルコールから水酸基を除いた残基であっても、あるいはまた、2級アルコールから水酸基を除いた残基と3級アルコールから水酸基を除いた残基の両方を組み合わせて有してもよいが、実使用系において4−(3−オキソブチル)フェノールがその機能を発現するに十分な量にて徐放されることを実現する観点から、特に好ましくは、その何れもが2級アルコールから水酸基を除いた残基とすることが好適である。
また、R1、R2、R3及びR4のうち2つが、2級アルコールから水酸基を除いた残基である場合、水系製品等に配合された場合だけでなく、本発明の香料放出剤そのもの、あるいは本発明の香料放出剤を含有した香料組成物等においても、ラズベリーケトンを長期に亘り安定に徐放させる観点から、残り2つのうち1つが4−(3−オキソブチル)フェノールであり、残りの1つが1級アルコールである場合が好ましい。これは、このように2級アルコールと1級アルコールを組み合わせることによって、分解の抑制と徐放のバランスが極めて良好となるためと考えられる。
【0018】
好適な2級アルコールの例としては、チンベロール(1-(2,2,6-トリメチルシクロヘキサン-1-イル)-ペンタン-2-オール)、メントール(2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサノール)、アンバーコア(登録商標)(1-(2-t-ブチルシクロヘキシロキシ)-2-ブタノール)、p-tertブチルシクロヘキサノール、o-tert-ブチルシクロヘキサノール、カルベオール、コヒノール(3,4,5,6,6-ペンタメチル-2-ヘプタノール)、サンダロア(3-メチル-5-(2,2,3-トリメチルシクロペンテン-1-イル)-ペンタン-2-オール)、2−オクチルアルコール、2−ノニルアルコール、オシロール、フォルロージア(4-イソプロピルシクロヘキサノール)、イソプレゴール、3−ヘプタノール、3−オクタノール、2−ウンデカノール、1−ペンテン−3−オール、1−オクテン−3−オール、1−ノネン−3−オール、4−メチル−3−デセン−5−オール、メチルサンデフロール、ジヒドロカルベオール、α−フェンキルアルコール(1,3,3-トリメチルビシクロ(2.2.1)ヘプタン-2-オール)、ボルネオール、カメコール(α,3,3-トリメチルビシクロ(2.2.1)ヘプタン-2-メタノール)、ジメチルサイクロモル(2(or 3),4-ジメチル-3a,4,5,6,7,7a-ヘキサヒドロ-4,7-メタノ-1H-インデン-5-オール)、イソカンフィルシクロヘキサノール、β−カリオフィレンアルコール、セドロール、p−α−ジメチルベンジルアルコール、α−フェニルエチルアルコール、α−プロピルフェニルエチルアルコール、イソブチルベンジルカルビノール、デカヒドロ−β−ナフトールなどが挙げられる。
【0019】
これらの2級アルコールのなかでも、分解の抑制と実使用系における香料の徐放性を高める観点から、2級アルコールの炭素数が6以上であることが好ましく、9以上であることがより好ましい。そして分解の抑制と実使用系における香料の徐放性を高める観点から、2級アルコールの炭素数が20以下であることが好ましく、14以下であることがより好ましい。また、分解の抑制と実使用系におけるラズベリーケトンの徐放性を高める観点から、2級アルコールが炭素数6〜20であることが好ましく、炭素数9〜14であることがより好ましい。
【0020】
また、該2級アルコールは、4−(3−オキソブチル)フェノールに加えて、複合的な香調や香味を付与する観点から、香料であることが好ましい。香料は炭素数6以上であることが好ましく、炭素数9以上であることがより好ましい。そして香料は炭素数20以下であることが好ましく、炭素数14以下であることがより好ましい。また、炭素数6〜20の香料であることが好ましく、炭素数9〜14の香料であることがより好ましい。また、該2級アルコールは、分解の抑制と実使用系におけるラズベリーケトンの徐放性を高める観点から、環状炭化水素を有していることが好ましく、シクロヘキサン環を有していることがより好ましく、シクロヘキサン環を有している炭素数9〜14の香料であることが更に好ましい。
以上の観点から、前記2級アルコールのなかでも、メントール(2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサノール)、フォルロージア(4-イソプロピルシクロヘキサノール)、アンバーコア(1-(2-t-ブチルシクロヘキシロキシ)-2-ブタノール)が好ましく、メントール(2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサノール)、フォルロージア(4-イソプロピルシクロヘキサノール)がより好ましく、メントール(2-イソプロピル-5-メチルシクロヘキサノール)が更に好ましい。
【0021】
好適な3級アルコールの例としては、ミルセノール(2-メチル-6-メチレン-7-オクテン-2-オール)、テルピネオール、リナロール、2,6−ジメチルヘプタノール、2−メチル−3−ブテン−2−オール、アンブリノール、ジヒドロリナロール、テトラヒドロリナロール、テトラヒドロムゴール(2,6-ジメチル-2-オクタノール及び3,7-ジメチル-3-オクタノール)、ムゴール(2,6-ジメチル-3,5-オクタジエン-2-オール及び3,7-ジメチル-4,6-オクタジエン-3-オール)、ジヒドロミルセノール(2,6-ジメチル-7-オクテン-2-オール)、テトラヒドロミルセノール(2,6-ジメチルー2-オクタノール)、オシメノール、3,6−ジメチル−3−オクタノール、エチルリナロール、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、4−ツヤノール、ネロリドール、ビサボロール、パチュリアルコール、イソフィトール(3,7,11,15-テトラメチルー1-ヘキサデセンー3-オール)、ゲラニルリナロール、スクラレオール、α、α−ジメチルフェニルエチルアルコール、p−メチルジメチルベンジルカルビノール、ジメチルフェニルエチルカルビノール、3−メチル−1−フェニル−3−ペンタノール、フロロール(2-イソブチルー4-メチルテトラヒドロー2H-ピランー4-オール)などが挙げられる。
これらの3級アルコールのなかでも、分解の抑制と実使用系における香料の徐放性を高める観点から、3級アルコールが炭素数6以上であることが好ましく、炭素数9であることがより好ましい。そして、分解の抑制と実使用系における香料の徐放性を高める観点から、3級アルコールが炭素数20以下であることが好ましく、炭素数14であることがより好ましい。また、分解の抑制と実使用系におけるラズベリーケトンの徐放性を高める観点から、3級アルコールが炭素数6〜20であることが好ましく、炭素数9〜14であることがより好ましい。
また、該3級アルコールは、4−(3−オキソブチル)フェノールに加えて、複合的な香調や香味を付与する観点から、香料であることが好ましい。香料は炭素数6以上であることが好ましく、炭素数9以上であることがより好ましい。そして香料は炭素数20以下であることが好ましく、炭素数14以下であることがより好ましい。また、炭素数6〜20の香料であることが好ましく、炭素数9〜14の香料であることがより好ましく、炭素数10のテルペン系アルコールである香料であることが更に好ましい。
以上の観点から、前記3級アルコールのなかでも、ミルセノール(2-メチル-6-メチレン-7-オクテン-2-オール)、ジヒドロミルセノール(2,6-ジメチル-7-オクテン-2-オール)、テトラヒドロミルセノール(2,6-ジメチルー2-オクタノール)が好ましく、テトラヒドロミルセノール(2,6-ジメチルー2-オクタノール)がより好ましい。
【0022】
本願所望の効果を得る観点から、2級若しくは3級アルコールとしては、炭素数6以上のものが好ましく、炭素数9以上のものが更に好ましい。そして炭素数20以下のものが好ましく、炭素数15以下のものがより好ましく、炭素数14以下のものが更に好ましく、炭素数13以下のものが更に好ましい。また、本願所望の効果を得る観点から、2級若しくは3級アルコールとしては、炭素数6〜20のものが好ましく、炭素数6〜15のものがより好ましく、炭素数9〜14のものが更に好ましく、炭素数9〜13のものが更に好ましい。中でも、水酸基が環状炭化水素を構成する骨格炭素原子に直に結合して2級アルコールを構成している、メントール、フォルロージアが、水系製品中での4−(3−オキソブチル)フェノールの拙速な分解・放出を抑制すると共に実使用系での4−(3−オキソブチル)フェノールの徐放を促進する観点から特に好ましい。
【0023】
本発明の香料放出剤は、上記のケイ酸エステル化合物(1)を含む。香料放出剤中のケイ酸エステル化合物(1)の含有量は、長期に亘り安定にラズベリーケトンを徐放させる観点から、1質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。そして100質量%以下が好ましく、99質量%以下がより好ましい。また、長期に亘り安定に香料を徐放させる観点から、1〜100質量%が好ましく、10〜99質量%がより好ましい。
【0024】
本発明の香料放出剤は、ケイ酸エステル化合物(1)以外に、このケイ酸エステル化合物の製造の際に副生する副生物や、このケイ酸エステル化合物の縮合物、あるいは製造原料を含んでいても良い。
【0025】
本発明の香料放出剤は、下記方法1又は2により製造することができる。
【0026】
方法1:
下記式(2)で表されるアルコキシシラン〔以下、アルコキシシラン(2)という〕とアルコールとをエステル交換反応させる方法であって、アルコールが4−(3−オキソブチル)フェノールと、2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方と、場合によってはさらに1級アルコールを含む方法。
【0027】
【化2】

【0028】
(式中、Raは炭素数1〜6のアルキル基を示し、複数個のRaは同一でも異なっていても良い。)
【0029】
方法2:
下記式(3)で表されるハロゲン化シラン〔以下、ハロゲン化シラン(3)という〕とアルコールとをエステル化反応させる方法であって、アルコールが4−(3−オキソブチル)フェノールと、2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方と、場合によってはさらに1級アルコールを含む方法。
【0030】
【化3】

【0031】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
【0032】
方法1及び2に用いられる、4−(3−オキソブチル)フェノール、並びに2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方、場合によってはさらに1級アルコールを含むアルコール(以下単にアルコール類とも言う)における、4−(3−オキソブチル)フェノールに対する、2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方(場合によっては1級アルコールも)のモル比率を変化させることにより、ケイ酸エステル化合物(1)の分子内に導入されるアルコールの組成を変化させることができる。
【0033】
方法1で用いられるアルコキシシラン(2)において、Raは、入手性等の点からメチル基又はエチル基が好ましく、エチル基がより好ましい。
【0034】
方法1に用いられる4−(3−オキソブチル)フェノール、並びに2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方、場合によってはさらに1級アルコールを含むアルコールは両者を混合して一度に反応させてもよいし、別々に加えてステップワイズに反応させても良い。エステル交換反応は平衡化を伴うことから、いずれの方法によっても、ほぼ同様の組成分布のものが得られる。両者を混合して用いる方が簡便であり好ましい。
【0035】
方法1において、アルコキシシラン(2)に対するアルコールのモル比は0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1以上が更に好ましい。そして10以下が好ましく、7以下がより好ましく、5以下が更に好ましい。また、アルコキシシラン(2)に対するアルコールのモル比は0.1〜10が好ましく、0.5〜7がより好ましく、1〜5が更に好ましい。
【0036】
方法1におけるエステル交換反応の反応温度は、アルコキシシラン(2)並びにアルコール類、すなわち4−(3−オキソブチル)フェノール、並びに2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方、場合によってはさらに1級アルコールを含むアルコール類の沸点以下が好ましく、室温(20℃)以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましく、90℃以上が更により好ましく、110℃以上が特に好ましい。そして200℃以下がより好ましく、190℃以下が更に好ましく、180℃以下が更により好ましく、170℃以下が特に好ましい。また、方法1におけるエステル交換反応の反応温度は、室温(20℃)〜200℃がより好ましく、50〜190℃が更に好ましく、90℃〜180℃が更により好ましく、110℃〜170℃が特に好ましい。
【0037】
方法1におけるエステル交換反応は、減圧下で行うことが、反応を速やかに進行させることができる等の点から好ましい。減圧度は反応温度にもよるが、アルコキシシラン(2)並びにアルコール類、すなわち4−(3−オキソブチル)フェノール、並びに2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方、場合によってはさらに1級アルコールを含むアルコール類の沸点以下で行えばよく、1.3Pa以上が好ましく、130Pa以上がより好ましく、1.3kPa以上が更に好ましい。そして、常圧(0.1MPa)以下が好ましく、40kPa以下がより好ましく、13kPa以下が更に好ましい。また、1.3Pa〜常圧(0.1MPa)が好ましく、130Pa〜40kPaがより好ましく、1.3kPa〜13kPaが更に好ましい。反応は反応初期から減圧下で行っても、途中から減圧下で行っても良い。
【0038】
方法1におけるエステル交換反応は、触媒を添加することが、反応を速やかに進行させることができる等の点から好ましい。触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド等のアルカリ金属の炭素数1〜3のアルコキシド等のアルカリ触媒や、アルミニウムテトライソプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド等のルイス酸触媒を用いることができ、反応性と得られる香料放出剤の色調の観点から、アルカリ触媒を用いることが好ましく、アルカリ金属の炭素数1〜3のアルコキシドを用いることがより好ましい。アルカリ触媒の量は前記アルコキシシラン(2)に対して0.05〜0.5モル%であることが好ましい。
【0039】
方法1において、4−(3−オキソブチル)フェノールの量がアルコキシシラン(2)に対して0.5モル倍以上であることが好ましく、0.8モル倍以上であることがより好ましい。そして2モル倍以下であることが好ましく、1.3モル倍以下であることがより好ましい。また、0.5〜2モル倍であることが好ましく、0.8〜1.3モル倍であることがより好ましい。
【0040】
方法2に用いられるハロゲン化シラン(3)において、ハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0041】
方法2のエステル化反応において、4−(3−オキソブチル)フェノールと、2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方と、場合によってはさらに1級アルコールは混合して用いてもよいし、別々に用いて段階的に反応させても良い。別々に用いる場合は4−(3−オキソブチル)フェノールとそれ以外のアルコールとのどちらを先に用いても良いが、反応性の低い4−(3−オキソブチル)フェノールを先に用いる方が反応率が高まる点で好ましい。
【0042】
ハロゲン化シランの反応性は一つ目の基Xの置換が速く、4つ目に向かって遅くなる傾向がある。そのため、別々に段階的に反応する方が、置換基の分布の少ないものが得られる点で好ましい。一方、アルコールを混合して用いる場合は、適度な置換基分布を有するものが得られ、放出性に幅を持たせる点で、好ましい。
【0043】
方法2のエステル化反応において、ハロゲン化シラン(3)に対するアルコールのモル比は0.1以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1以上が更に好ましい。そして10以下が好ましく、7以下がより好ましく、5以下が更に好ましい。また、ハロゲン化シラン(3)に対するアルコールのモル比は0.1〜10が好ましく、0.5〜7がより好ましく、1〜5が更に好ましい。
【0044】
方法2においては反応の進行に伴い酸が副生するため塩基を加えて反応することが好ましい。用いる塩基としては、例えば、トリエチルアミン等の3級アミンやピリジン、イミダゾール等が挙げられる。
【0045】
方法2のエステル化反応では多量の塩副生等の点から、溶媒を用いても良く、反応温度は、基質や溶媒が凝固しない低温で行うこともできる。反応終了後、溶媒を除去する必要がある場合には、各種公知の装置・設備を用いることができ、また脱塩には濾過や抽出、電気透析等、公知の方法を用いることができる。
【0046】
方法1のエステル交換反応、方法2のエステル化反応により得られる本発明の香料放出剤は、ケイ酸エステル化合物(1)以外に置換度の異なるケイ酸エステル化合物を含有していてもよく、さらにシロキサンが縮合した鎖状または環状の重・縮合物を含有していても良い。
【0047】
ケイ酸エステル化合物(1)を含む本発明の香料放出剤は、水系製品に配合した場合にも香料の拙速な分解を抑制することができ、実使用系において、4−(3−オキソブチル)フェノールを長期に亘り徐放し得、該香料由来の諸々の機能を持続的に発現させ得る。
【0048】
すなわち、本発明の香料放出剤、あるいは本発明の香料放出剤を含有する組成物は、本発明の香料放出剤に含まれる4−(3−オキソブチル)フェノールを加水分解により徐放する香料前駆体組成物であり、本発明の香料放出剤に含まれる4−(3−オキソブチル)フェノールを加水分解により徐放する方法によって、前記効果を発現することが好ましい。
【0049】
かかる本発明の香料放出剤によれば、水系製品中における安定性が極めて乏しかったラズベリーケトンを放出させる態様であっても、製品中での分解を抑制することができ、実使用系において、爽やかな香りを発すると共に保湿効果や血行促進にも優れるラズベリーケトンの優れた効果を持続的に発現させることができ、とりわけ、衣料用洗浄剤及び柔軟仕上げ剤等の繊維処理剤用途において、その有用性を見出すものである。
【0050】
上記の説明においては、主に、衣料用洗浄剤・柔軟仕上げ剤等の繊維処理剤用途に関連して本発明の香料放出剤の奏する優れた効果を述べてきたが、繊維処理剤用途に限らず、様々な製品に本発明の香料放出剤を配合し得ることは理解されよう。例えば、油系消臭芳香剤、粉末洗剤、固形石鹸、入浴剤、オムツ等の衛生品、エアゾール型等の消臭剤等非水溶液系製品は当然のこと、水溶液系での保存安定性に優れるため、香水、コロン、水系消臭芳香剤をはじめ、食器用洗剤、液体石鹸・化粧水等の各種化粧用品、シャンプー・リンス・コンディショナー・スタイリング剤等の頭髪用製品、液体入浴剤、等に使用することができ、ラズベリーケトンの諸々の機能を持続的に発現させることができる。
【0051】
これら各製品における本発明の香料放出剤の含有量は特に限定されず、その用途に応じて適宜変えることができる。本発明の香料放出剤を用いて衣料用洗浄剤組成物や柔軟仕上げ剤組成物等の繊維処理剤組成物を構成する場合、組成物中の香料放出剤の含有量はケイ酸エステル化合物(1)の量として0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。そして10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。また、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜5質量%がより好ましい。本発明の香料放出剤を用いて芳香剤組成物を構成する場合、組成物中の香料放出剤の含有量は0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。そして90質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましい。また、本発明の香料放出剤を用いて芳香剤組成物を構成する場合、組成物中の香料放出剤の含有量は0.001〜90質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。さらに、消臭剤組成物を構成する場合には、組成物中の香料放出剤の含有量は0.0001質量%以上が好ましく、0.001質量%以上がより好ましい。そして10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。また、消臭剤組成物を構成する場合には、組成物中の香料放出剤の含有量は0.0001〜10質量%が好ましく、0.001〜5質量%がより好ましい。
【実施例】
【0052】
以下の実施例及び比較例において行った測定法の詳細を以下に示す。
〔香料放出剤の組成〕
以下の実施例及び比較例に示した香料放出剤の組成は、下記の分析条件でのガスクロマトグラフィー(GC)分析によって求めた。
<ガスクロマトグラフィーの装置及び分析条件>
GC装置:Agilent社製7890A
カラム:Agilent社製、DB−1HT(15m×0.25mm×0.10μm)
キャリアガス:He(1ml/min.)
注入口温度:300℃
注入量:1μl
注入法:スプリット(スプリット比100:1)
オーブン温度条件:100℃→(10℃/min.)→340℃(20min.hold)
検出器:FID
検出器温度:300℃
【0053】
実施例1
Si(ORasp)(OMenthyl)3を含む香料放出剤の合成
500mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン83.33g(0.40mol)、ラズベリーケトン72.25g(0.44mol)、メントール206.28g(1.32mol)、5.275%ナトリウムエトキシドエタノール溶液0.71gを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら135〜160℃で約2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に6kPaまで下げ、エタノールを留出させながら約160℃でさらに22時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、ラズベリーケトンとメントールのモル比1:3のケイ酸エステル化合物〔Si(ORasp)(OMenthyl)3〕を含む291.30gの黄色油状物を得た。得られた油状物をガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表1に示す組成の香料放出剤を得た。
【0054】
【表1】

【0055】
*1:Raspはラズベリーケトンからフェノール性水酸基を1つ除いた残基、Menthylはメントールから水酸基を1つ除いた残基を示す。以下同様。
【0056】
実施例2
Si(ORasp)(OFolrosia)3を含む香料放出剤の合成
500mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン83.32g(0.40mol)、ラズベリーケトン72.25g(0.44mol)、フォルロージア187.76g(1.32mol)、5.275%ナトリウムエトキシドエタノール溶液0.55gを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら150℃で約2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に4kPaまで下げ、エタノールを留出させながら約150℃でさらに15時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、ラズベリーケトンとフォルロージアのモル比1:3のケイ酸エステル化合物〔Si(ORasp)(OFolrosia)3〕を含む247.66gの黄色油状物を得た。得られた油状物をガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表2に示す組成の香料放出剤を得た。
【0057】
【表2】

【0058】
*1:Folrosiaはフォルロージアから水酸基を1つ除いた残基を示す。
【0059】
実施例3
Si(ORasp)(OMenthyl)2(OGer)を含む香料放出剤の合

500mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン83.33g(0.40mol)、ラズベリーケトン78.82g(0.48mol)、メントール125.02g(0.80mol)、ゲラニオール74.04g(0.48mol)、5.275%ナトリウムエトキシドエタノール溶液0.77gを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら160℃で約2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に6kPaまで下げ、エタノールを留出させながら約160℃でさらに9時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、ラズベリーケトン、メントール及びゲラニオールのモル比1:2:1のケイ酸エステル化合物〔Si(ORasp)(OMenthyl)2(OGer)〕を含む285.89gの橙色油状物を得た。得られた油状物をガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表3に示す組成の香料放出剤を得た。
【0060】
【表3】

【0061】
*1:Gerはゲラニオールから水酸基を1つ除いた残基を示す。
【0062】
実施例4
Si(ORasp)(OAmbercore)3を含む香料放出剤の合成
200mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン20.83g(0.10mol)、ラズベリーケトン14.78g(0.09mol)、アンバーコア61.66g(0.27mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.15gを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら130℃で約4時間攪拌した。4時間後、槽内の圧力を徐々に1.3kPaまで下げ、エタノールを留出させながら160℃でさらに1時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、ラズベリーケトンとアンバーコアのモル比1:3のケイ酸エステル化合物〔Si(ORasp)(OAmbercore)3〕を含む73.76gの淡黄色油状物を得た。得られた油状物をガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表4に示す組成の香料放出剤を得た。
【0063】
【表4】

【0064】
*1:Ambercoreはアンバーコアから水酸基を1つ除いた残基を、Etはエチル基を示す。
【0065】
実施例5
Si(ORasp)(OTHmyrcenyl)3を含む香料放出剤の合成
500mLの四つ口フラスコにメチルエチルケトン35ml、テトラクロロシラン11.89g(0.07mol)を添加した。テトラヒドロミルセノール33.24g(0.21mol)及びイミダゾール21.45g(0.32mol)をメチルエチルケトン(105ml)に溶解させた溶液をフラスコに10分間掛けて滴下した。次に、ラズベリーケトン11.49g(0.07mol)及びイミダゾール7.15g(0.11mol)をメチルエチルケトン(35ml)に溶解させた溶液をフラスコに5分間掛けて滴下した。その後、反応溶液を1時間加熱還流(81℃)を行った。フラスコにイオン交換水150mlを入れ反応のクエンチを行った。ヘキサンで抽出を行った後、ヘキサン溶媒を飽和食塩水で洗浄し硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧除去し、ラズベリーケトン、テトラヒドロミルセノールのモル比1:3のケイ酸エステル化合物〔Si(ORasp)(OTHmyrcenyl)3〕を含む32.20gの黄色油状物を得た。得られた油状物をガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表5に示す組成の香料放出剤を得た。
【0066】
【表5】

【0067】
*1:THmyrcenylはテトラヒドロミルセノールから水酸基を1つ除いた残基を示す。
【0068】
実施例6
Si(ORasp)(OTHmyrcenyl)2(OMenthyl)を含む香料放出剤の合成
500mLの四つ口フラスコにメチルエチルケトン35ml、テトラクロロシラン11.89g(0.07mol)を添加した。テトラヒドロミルセノール22.16g(0.14mol)及びイミダゾール14.30g(0.21mol)をメチルエチルケトン(70ml)に溶解させた溶液をフラスコに10分間掛けて滴下した。次に、ラズベリーケトン11.49g(0.07mol)及びイミダゾール7.15g(0.11mol)をメチルエチルケトン(35ml)に溶解させた溶液をフラスコに5分間掛けて滴下した。最後にメントール10.94g(0.07mol)及びイミダゾール7.15g(0.11mol)をメチルエチルケトン(35ml)に溶解させた溶液をフラスコに4分間掛けて滴下した。次いで、反応溶液を20時間加熱還流(81℃)させた後、フラスコにイオン交換水200mlを入れ反応のクエンチを行った。ヘキサンで抽出を行い、その後、ヘキサン溶媒を飽和食塩水で洗浄し硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒を減圧除去し、ラズベリーケトン、テトラヒドロミルセノール、メントールのモル比1:2:1のケイ酸エステル化合物〔Si(ORasp)(OTHmyrcenyl)2(OMenthyl)〕を含む46.56gの淡黄色油状物を得た。得られた油状物をガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表6に示す組成の香料放出剤を得た。
【0069】
【表6】

【0070】
比較例1
Si(ORasp)4を含む香料放出剤の合成
200mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン20.83g(0.10mol)、ラズベリーケトン59.12g(0.36mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.15gを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら約160℃で約2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながらさらに3時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、1分子中に4つのラズベリーケトン残基が導入されたケイ酸エステル化合物〔Si(ORasp)4〕を含む61.53gの黄色油状物を得た。得られた油状物のガスクロマトグラフィー分析を試みたが、分解のため定量できなかった。核磁気共鳴装置(NMR;バリアン社製、MERCURY400)を用いて、結合状態にあるラズベリーケトン(即ち、Si(ORasp)n、ここでn=1、2、3又は4)とフリーのラズベリーケトン(即ち、Rasp−OH)のモル比を求めた結果、Si(ORasp)n:Rasp−OH=65.4:34.6(モル比)であった。
【0071】
比較例2
Si(ORasp)(OCitronellyl)3を含む香料放出剤の合成
200mLの四つ口フラスコにテトラエトキシシラン20.83g(0.10mol)、ラズベリーケトン14.78g(0.09mol)、シトロネロール42.19g(0.27mol)、5.6%ナトリウムメトキシドメタノール溶液0.15gを入れ、窒素気流下エタノールを留出させながら約150℃で約2時間攪拌した。2時間後、槽内の圧力を徐々に8kPaまで下げ、エタノールを留出させながらさらに3時間攪拌した。その後、冷却、減圧を解除した後、濾過を行い、ラズベリーケトンとシトロネロールのモル比1:3のケイ酸エステル化合物〔Si(ORasp)(OCitronellyl)3〕を含む48.39gの淡黄色油状物を得た。得られた油状物をガスクロマトグラフィーにより分析を行い、表7に示す組成の香料放出剤を得た。
【0072】
【表7】

【0073】
*1:Citronellylはシトロネロールから水酸基を1つ除いた残基を示す。
【0074】
<香料放出剤の匂い徐放性評価>
実施例1〜6及び比較例1〜2で得られた香料放出剤をピペットマン(ギルソン社製)で吸い取り、ラズベリーケトンとして3.8μmolとなる量でにおい紙(幅6mm長さ150mmの香料試験紙)の先端約5mmに付着させ、容積210m3、温度25℃、相対湿度40〜60%の部屋に放置し、初期、4週間後、8週間後、10週間後に香気評価を行った。香気評価は、調香・香料評価業務を3年経験した熟練者2名により、ラズベリーケトンの香り強度を以下の基準で判定した。結果を表8に示す。
【0075】
評価基準
5:非常ににおいが強い
4:かなりにおいが強い
3:においが強い
2:においがする(認知閾値)
1:微かににおいがする(検知閾値)
0:においがしない
【0076】
【表8】

【0077】
繊維製品処理剤組成物である柔軟仕上げ剤組成物の調製
表9に示す未賦香液体柔軟仕上げ剤Aを定法により調製した。実施例1〜6で得られた本発明の香料放出剤、及び比較例1〜2で得られた比較の香料放出剤を未賦香液体柔軟仕上げ剤Aに対し0.5質量%になるように、50mLのスクリュー管(マルエムNo.7)に未賦香液体柔軟仕上げ剤Aと香料放出剤とを加え、50℃に加熱後冷却を行い、柔軟仕上げ剤組成物を調製した。
【0078】
<ケイ酸エステル化合物の残存率評価>
この柔軟仕上げ剤組成物を密栓し、40℃の恒温槽に保存した。2週間後のラズベリーケトン量をHPLC(検出器UV)で測定し、ケイ酸エステル化合物の残存率を求めた。結果を表10に示す。
【0079】
<香りの持続性評価>
前記、40℃、2週間保存後の柔軟仕上げ剤組成物について、繊維製品処理後の香りの持続性を下記方法で評価した。結果を表11に示す。
【0080】
【表9】

【0081】
<香りの持続性評価法>
あらかじめ、市販の弱アルカリ性洗剤(花王(株)アタック)を用いて、木綿タオル24枚を日立全自動洗濯機NW−6CYで5回洗浄を繰り返し、室内乾燥することによって、過分の薬剤を除去した(洗剤濃度0.0667質量%、水道水47L使用、水温20℃、洗浄10分、ため濯ぎ2回)。
【0082】
National電気バケツN−BK2−Aに、5Lの水道水を注水し、ここに柔軟仕上げ剤組成物10g/衣料1.0kgとなるように40℃、2週間保存後の各柔軟剤組成物を溶解(処理浴の調製)させ、1分後、上述の方法で前処理を行った2枚の木綿タオルを5分間浸漬処理し、浸漬処理後、2枚の木綿タオルをNational電気洗濯機NA−35に移し、3分間脱水処理を行った。脱水処理後、約20℃の室内に放置して1晩乾燥させ、乾燥後のタオルを8つ折りにし、約20℃の室内に1週間放置した。
【0083】
脱水処理直後、1日後、7日後のタオルについて、ラズベリーケトンの香り強度を専門パネラー10人により、以下の基準で官能評価を行い、平均値を求めた。なお、1日後及び7日後の評価においては、乾燥状態にあるタオルと、湿潤処理後のタオル(乾燥時のタオル(約70g)に対してスプレーで蒸留水を1.4g吹き付けたもの)の両方について、官能評価を行った。
【0084】
評価基準
5:非常ににおいが強い
4:かなりにおいが強い
3:においが強い
2:においがする(認知閾値)
1:微かににおいがする(検知閾値)
0:においがしない
【0085】
【表10】

【0086】
【表11】

【0087】
表10及び表11から明らかなように、本発明の香料放出剤を用いることにより、柔軟仕上げ剤のような水系製品中に配合した場合にも、ラズベリーケトンの拙速な分解・放出を抑制することができ、実使用系において長期に亘り安定に徐放させることができた。
【0088】
実施例13
毛髪化粧料であるシャンプーの調製
実施例1〜3で得られた本発明の香料放出剤、及び比較例1〜2で得られた比較の香料放出剤を表12に示す配合で25℃でビーカーに加え、シャンプーを調製した。
【0089】
【表12】

【0090】
<香りの持続性評価法>
20gのかもじを40℃の水で濡らし、余分な水を取り除いた。ここに3gの実施例及び比較例のシャンプーをつけ、1分間泡立てた後、40℃の水で1分間すすぎ、乾いたタオルで水分を除去し、20℃の室内に保存した。タオルで水分除去した直後、24時間後、48時間後、72時間後のかもじについて、ラズベリーケトンの香り強度を専門パネラー4人により、以下の基準で官能評価を行い、平均値を求めた。
【0091】
評価基準
5:非常ににおいが強い
4:かなりにおいが強い
3:においが強い
2:においがする(認知閾値)
1:微かににおいがする(検知閾値)
0:においがしない
【0092】
【表13】


表13から明らかなように、本発明の香料放出剤を用いることにより、シャンプーに配合した場合にも、ラズベリーケトンを長期に亘り安定に徐放させることができた。
【0093】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の剤、組成物、製造方法、使用方法或いは用途を開示する。
【0094】
<1>式(1)で表されるケイ酸エステル化合物を含む香料放出剤。
【化1】

(式中、R1、R2、R3及びR4は独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基若しくはアリール基であり、R1、R2、R3及びR4のうち1つは、4−(3−オキソブチル)フェノールからフェノール性水酸基を除いた残基であり、R1、R2、R3及びR4のうち2つ又は3つは、2級若しくは3級アルコールから水酸基を除いた残基である。)
【0095】
<2>R1、R2、R3及びR4のうち2つ又は3つは、2級アルコールから水酸基を除いた残基である<1>記載の香料放出剤。
<3>前記2級アルコールの炭素数が好ましくは6以上、より好ましくは9以上であり、また好ましくは20以下、より好ましくは14以下である<2>記載の香料放出剤。
<4>前記2級アルコールが環状炭化水素を有している、<2>又は<3>記載の香料放出剤。
<5>前記2級アルコールがシクロヘキサン環を有している<2>から<4>何れか記載の香料放出剤。
<6>前記2級アルコールの水酸基が環状炭化水素を構成する骨格炭素原子に直に結合している、<2>から<5>何れか記載の香料放出剤。
<7>前記2級アルコールが香料である、<2>から<6>何れか記載の香料放出剤。
<8>前記2級アルコールが炭素数6以上、好ましくは9以上、また20以下、好ましくは14以下の香料である、<2>から<7>何れか記載の香料放出剤。
<9>前記2級アルコールがメントール又は4−イソプロピルシクロヘキサノール(フォルロージア)である、<2>から<8>何れか記載の香料放出剤。
<10>前記3級アルコールの炭素数が好ましくは6以上、より好ましくは9以上であり、また好ましくは20以下、より好ましくは14以下である<1>から<9>何れか記載の香料放出剤。
<11>R1、R2、R3及びR4のうち2つが、2級アルコールから水酸基を除いた残基であり、1つが1級アルコールから水酸基を除いた残基である<2>から<9>何れか記載の香料放出剤。
<12>前記1級アルコールの炭素数が1以上、好ましくは6以上、より好ましくは8以上であり、また15以下、好ましくは12以下である、<11>記載の香料放出剤。
<13>前記1級アルコールが香料アルコールである、<11>又は<12>記載の香料放出剤。
<14>前記1級アルコールがバラ様の香気を有する香料である、<11>から<13>何れか記載の香料放出剤。
<15>前記1級アルコールがゲラニオールである、<11>から<14>何れか記載の香料放出剤。
<16>式(1)で表されるケイ酸エステル化合物を1質量%以上、好ましくは10質量%以上、また100質量%以下、好ましくは99質量%以下で含有する<1>から<15>の香料放出剤。
<17><1>から<15>何れか記載の香料放出剤に含まれる前記4−(3−オキソブチル)フェノールを加水分解により徐放する香料前駆体組成物。
<18><1>から<15>何れか記載の香料放出剤を含有する繊維製品処理剤組成物。
<19><1>から<15>何れか記載の香料放出剤を含有する柔軟剤組成物。
<20><1>から<15>何れか記載の香料放出剤を含有する毛髪化粧料。
<21><1>から<15>何れか記載の香料放出剤に含まれる前記4−(3−オキソブチル)フェノールを加水分解により徐放する方法。
<22>式(2)で表されるアルコキシシランとアルコールをエステル交換反応させる請求項1〜9何れか1項記載の香料放出剤の製造方法であって、アルコールが4−(3−オキソブチル)フェノールと、2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方とを含む、香料放出剤の製造方法。
【化2】

(式中、Raは炭素数1〜6のアルキル基を示し、複数個のRaは同一でも異なっていても良い。)
<23>前記アルコールがさらに1級アルコールを含む、<22>記載の香料放出剤の製造方法。
<24>式(2)のアルコキシシランに対する前記アルコールのモル比が0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、また10以下、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である、<22>又は<23>記載の香料放出剤の製造方法。
<25>エステル交換反応の反応温度が式(2)のアルコキシシラン及び前記アルコールの沸点以下であり、室温(20℃)以上がより好ましく、50℃以上が更に好ましく、90℃以上が更により好ましく、110℃以上が特に好ましく、また200℃以下がより好ましく、190℃以下が更に好ましく、180℃以下が更により好ましく、170℃以下が特に好ましい、<22>から<24>何れか記載の香料放出剤の製造方法。
<26>エステル交換反応が減圧下で行われ、1.3Pa以上が好ましく、130Pa以上がより好ましく、1.3kPa以上が更に好ましく、また常圧(0.1MPa)以下が好ましく、40kPa以下がより好ましく、13kPa以下が更に好ましい、<22>から<25>何れか記載の香料放出剤の製造方法。
<27>エステル交換反応にアルカリ触媒を添加する、<22>から<26>何れか記載の香料放出剤の製造方法。
<28>アルカリ触媒がアルカリ金属の炭素数1〜3のアルコキシドである、<27>記載の香料放出剤の製造方法。
<29>アルカリ触媒の量が式(2)のアルコキシシランに対して0.05〜0.5モル%である、<27>又は<28>記載の香料放出剤の製造方法。
<30>4−(3−オキソブチル)フェノールの量が式(2)のアルコキシシランに対して0.5モル倍以上、好ましくは0.8モル倍以上、また2モル倍以下、好ましくは1.3モル倍以下である、<22>から<29>何れか記載の香料放出剤の製造方法。
<31>式(3)で表されるハロゲン化シランとアルコールをエステル化反応させる、請求項1〜9何れか1項記載の香料放出剤の製造方法であって、アルコールが4−(3−オキソブチル)フェノールと、2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方とを含む、香料放出剤の製造方法。
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)
<32>前記アルコールがさらに1級アルコールを含む、<31>記載の香料放出剤の製造方法。
<33>式(3)のハロゲン化シランに対する前記アルコールのモル比が0.1以上、好ましくは0.5以上、より好ましくは1以上、また10以下、好ましくは7以下、より好ましくは5以下である、<31>又は<32>記載の香料放出剤の製造方法。
<34><22>から<33>の何れか記載の方法で得られた香料放出剤を含有する香料前駆体組成物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるケイ酸エステル化合物を含む香料放出剤。
【化1】

(式中、R1、R2、R3及びR4は独立に、置換基を有していてもよい炭素数1〜30のアルキル基若しくはアリール基であり、R1、R2、R3及びR4のうち1つは、4−(3−オキソブチル)フェノールからフェノール性水酸基を除いた残基であり、R1、R2、R3及びR4のうち2つ又は3つは、2級若しくは3級アルコールから水酸基を除いた残基である。)
【請求項2】
1、R2、R3及びR4のうち2つ又は3つは、2級アルコールから水酸基を除いた残基である請求項1記載の香料放出剤。
【請求項3】
前記2級アルコールが炭素数9〜14の香料である、請求項2記載の香料放出剤。
【請求項4】
1、R2、R3及びR4のうち2つが、2級アルコールから水酸基を除いた残基であり、1つが1級アルコールから水酸基を除いた残基である請求項2記載の香料放出剤。
【請求項5】
前記1級アルコールが香料アルコールである、請求項4記載の香料放出剤。
【請求項6】
請求項1〜5何れか1項記載の香料放出剤を含有する繊維製品処理剤組成物。
【請求項7】
請求項1〜5何れか1項記載の香料放出剤を含有する毛髪化粧料。
【請求項8】
式(2)で表されるアルコキシシランとアルコールをエステル交換反応させる請求項1〜5何れか1項記載の香料放出剤の製造方法であって、アルコールが4−(3−オキソブチル)フェノールと、2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方とを含む、香料放出剤の製造方法。
【化2】

(式中、Raは炭素数1〜6のアルキル基を示し、複数個のRaは同一でも異なっていても良い。)
【請求項9】
前記アルコールがさらに1級アルコールを含む、請求項8記載の香料放出剤の製造方法。
【請求項10】
式(3)で表されるハロゲン化シランとアルコールをエステル化反応させる、請求項1〜5何れか1項記載の香料放出剤の製造方法であって、アルコールが4−(3−オキソブチル)フェノールと、2級アルコール及び3級アルコールの一方又は双方とを含む、香料放出剤の製造方法。
【化3】

(式中、Xはハロゲン原子を示す。)

【公開番号】特開2013−47326(P2013−47326A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158526(P2012−158526)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】