説明

駆動力配分制御装置

【課題】確実に断線異常を検出できるとともに、断線チェック時にトルクショックや音が発生しない、操舵フィーリングのよい駆動力配分制御装置を提供する。
【解決手段】マイコン30は、誘導負荷回路の断線異常検出用として、試験電流を流す。そして、試験電流の値と、誘導負荷回路に流れる電流値の差が電流差閾値より大きい場合には、誘導負荷回路に断線異常が発生したとしてカウントする。更に、試験電流を流す回数が所定の回数となった時に、誘導負荷回路に断線異常が発生したとしてカウントしたカウント数が所定の回数以上になっていた場合には、断線異常が確定したとしてシステムの停止を実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動力配分制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動力配分制御装置として、4輪駆動車の駆動力伝達装置の駆動力配分制御装置がある。前記駆動力配分制御装置は、クラッチ機構を備え、リレーをオンオフ制御することにより、同クラッチ機構を断接するための電磁コイルへの通電を制御している。
【0003】
そして、前記駆動力配分制御装置は、リレーをオン制御した状態で、スイッチング素子(FET等)のスイッチ手段をオンオフ制御することにより、前記リレーを介して電源ラインに電気的に接続された電磁コイルを励消磁可能としている。そして、前記電磁コイルの励磁により、クラッチ機構が接続され、4輪駆動のためのトルク配分がされる。
【0004】
このような駆動力配分制御装置においては、車両が停止時に、イグニッションスイッチ(IG、電源スイッチ)がオンされた時、イニシャルチェックのために前記リレー、電磁コイル、スイッチング素子及び配線等の断線故障の検出を行うようにされている。
【0005】
この断線故障の検出は、IGがオンされた初回時にのみ、試験パルス(パルス電流値)を電流指令値として与え、所定の電流値がフィードバックされているかどうかで行なっていた。また、エンジン回転を上げた状態からの急発進のような特殊な状態である場合に4輪駆動制御(4WD制御)に入るとトルクショックが生ずる虞があるので、上記状態においては、制御量を低減させる記載がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−017885号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記記載のように、通常状態では、車両が停止時にIGがオンされる場合が多い。しかし、車両の使われ方次第では、車両がどういう状態で、IGがオンされるか予想できない。例えば長い下り坂で、IGをオフしたままハンドルを右きりした状態から、急にIGがオンされた場合などに、大きな断線故障の検出用試験パルスを電磁コイルへ通電すると、クラッチ機構が互いに急激に摩擦係合され、スリップを生じ、トルクショックや音を発生する虞があった。また、断線異常の検出用試験パルスを必要以上に小さくすると、断線異常を正確に検出できない虞があった。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、確実に断線異常を検出できるとともに、断線チェック時にトルクショックや音が発生しない操舵フィーリングのよい駆動力配分制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、駆動源から駆動力伝達系を介して、複数の車輪へそれぞれ伝達される駆動力の割合を調節するための誘導負荷回路を制御する誘導負荷回路制御手段を備えた駆動力配分制御装置(ECU、12)において、所定値以下の試験電流を前記誘導負荷回路に出力制御する試験電流制御手段(マイコン、30)と、前記誘導負荷回路に流れる電流を検出する電流検出手段(37)と、前記試験電流の試験回数を数える計数手段1(マイコン、30)と、前記試験電流の値と、前記誘導負荷回路に流れる電流値の差が電流差閾値より大きい場合には、前記誘導負荷回路を断線異常と判定し、断線異常の判定回数を数える計数手段2(マイコン、30)と、前記計数手段1の試験電流の試験回数が試験回数閾値以上かつ、前記計数手段2の断線異常の判定回数が断線異常判定回数閾値以上となった時に、断線異常が確定したと判断する断線異常検出手段(マイコン、30)とを備えたことを要旨とする。
【0010】
マイコン30は、誘導負荷回路の断線異常検出用として、試験電流を流す。そして、試験電流の値と、誘導負荷回路に流れる電流値の差が電流差閾値より大きい場合には、誘導負荷回路に断線異常が発生したとしてカウントする。更に、試験電流を流す回数が所定の回数となった時に、誘導負荷回路に断線異常が発生したとしてカウントしたカウント数が、所定の回数以上になっていた場合には、断線異常が確定したとしてシステムの停止を実施する。
【0011】
従って、上記構成によれば、車両がどのような状態にある時でも、試験電流を流すことによって、電磁クラッチ機構部にトルクショックや音を発生させる可能性を防止できる。そして、試験電流の値と、誘導負荷回路に流れる電流値の差が電流差閾値より大きい場合には、誘導負荷回路に断線異常が発生したと判断するので、正確に断線異常の発生を検出することができる。更に、断線異常をカウントし、所定回数以上断線異常がカウントされた場合に、断線異常を確定したので、より確実に断線異常を判定できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、確実に断線異常を検出できるとともに、断線チェック時にトルクショックや音が発生しない操舵フィーリングのよい駆動力配分制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施形態における4輪駆動車の概略構成図。
【図2】同じく駆動伝達装置の電気的接続を示すブロック図。
【図3】同じく駆動伝達装置の制御ブロック図。
【図4】断線異常検出時における試験電流の印加態様を示す説明図。
【図5】断線異常検出の処理手順を示すフローチャート図。
【図6】断線異常検出の処理手順を示すフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を4輪駆動車の駆動力配分装置に具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、4輪駆動車1は、内燃機関であるエンジン2及びトランスアクスル3を備えている。トランスアクスル3には、一対のフロントアクスル4、4及びプロペラシャフト5が連結されている。両フロントアクスル4、4にはそれぞれ前輪6、6が連結されている。プロペラシャフト5には駆動力伝達装置(トルクカップリング)7が連結されており、同トルクカップリング7にはドライブピニオンシャフト(図示略)を介してリヤディファレンシャル9が連結されている。リヤディファレンシャル9には一対のリヤアクスル10、10を介して両後輪11、11が連結されている。
【0015】
エンジン2の駆動力は、トランスアクスル3及び両フロントアクスル4、4を介して両前輪6、6に伝達される。また、プロペラシャフト5とドライブピニオンシャフトとがトルクカップリング7にてトルク伝達可能に連結された場合、エンジン2の駆動力は、プロペラシャフト5、ドライブピニオンシャフト、リヤディファレンシャル9及び両リヤアクスル10、10を介して両後輪11、11に伝達される。また、エンジン2の駆動力は、発電機(図示略)を回転させ、バッテリ20(図2参照)に電力を供給している。
【0016】
トルクカップリング7は、湿式多板式の電磁クラッチ機構8を備えており、同電磁クラッチ機構8は互いに摩擦係合又は離間する複数のクラッチ板(図示略)を有している。電磁クラッチ機構8に内蔵された誘導負荷回路としての電磁コイルL0(図2参照)に対して、誘導負荷回路制御手段としての駆動力配分制御装置(ECU)12が電流指令値に応じた電流を供給すると各クラッチ板は互いに摩擦係合し、後輪11にトルクの伝達が行なわれ、4WD制御になる。ECU12が電磁クラッチ機構8への電流指令値に応じた電流の供給を遮断すると、各クラッチ板は互いに離間し、後輪11におけるトルクの伝達も遮断され、前輪駆動となる(2WD制御)。
【0017】
また、各クラッチ板の摩擦係合力は電磁クラッチ機構8の電磁コイルL0へ供給する電流指令値に応じた電流の量(電流の強さ)に応じて増減し、これにより後輪11への伝達トルク、即ち後輪11への拘束力(電磁クラッチ機構8の摩擦係合力)を任意に調整可能となっている。この結果、ECU12は、4WD制御又は2WD制御のいずれかを選択すると共に、4WD制御において前後輪6、11間の駆動力配分率(トルク配分率)を制御する。
【0018】
次に、電磁コイルL0を制御するECU12の電気的構成を図2に従って説明する。
ECU12はCPU(図示略)、RAM(図示略)、ROM(図示略)及びI/Oインターフェース(図示略)等を備えたマイコン30を中心として構成されている。ROMにはECU12が実行する各種の制御プログラム、各種のデータ及び各種のマップ等が格納されている。マップは車両モデルによる実験データ及び周知の理論計算等によって予め求められたものである。RAMはROMに書き込まれた断線異常検出プログラムを始めとして制御プログラムを展開してCPUが各種の演算処理を実行するためのデータ作業領域である。
【0019】
ECU12の入力側(I/Oインターフェースの入力端子)には各車輪速センサ(図示略)及びスロットル開度センサ(図示略)及びイグニッションスイッチ(IG)22がそれぞれ接続されている。ECU12の出力側(I/Oインターフェースの出力端子)にはトルクカップリング7及びエンジン制御装置(図示略)がそれぞれ接続されている。
【0020】
尚、前記車輪速センサは各車輪6、11毎にそれぞれ設けられており、各車輪6、11の速度(以下、車輪速度という)を各別に検出する。スロットル開度センサは、スロットルバルブ(図示略)に接続されており、スロットルバルブの開度、即ち運転者のアクセルペダル(図示略)の踏込操作量を検出する。そして、ECU12のマイコン30は、前記各センサからの検出信号に基づいて、定常走行か否かを判定するとともに、通常電流指令値(Irr*)を演算する。
【0021】
また、図2に示すようにバッテリ20には、ヒューズ21、リレー31、ノイズ除去フィルタ32のコイルL、電磁コイルL0に流れる電流検出用抵抗器(R1)36、電磁コイルL0、スイッチング素子(FET)35の直列回路が接続されている。コイルLと電流検出用抵抗器36との接続点には、一方が接地されたコンデンサCの他方が接続されている。前記コンデンサCとコイルLとにより、ノイズ除去フィルタ32が構成されている。又、電磁コイルL0の負端には、フライホイールダイオード34が接続されている。
【0022】
電源スイッチとしてのIG22は、バッテリ20の電力をマイコン30に供給する。マイコン30は、IG22がオン操作されて、電力が供給されると、各種制御プログラムの処理を行う。又、上記電流検出用抵抗器36の両端は電流検出器37に入力され、電流検出器37の出力はマイコン30のA/Dポートに接続され、電磁コイルL0に流れる実電流値(Ir)を検出可能としている。
【0023】
又、マイコン30のPWMポートは駆動回路33と接続されている。駆動回路33は前記電流指令値に応じて電磁クラッチ機構8の電磁コイルL0へ供給する電流の量を制御すべく、PWMポートより出力されてくるPWM信号により、FET35をオンオフ制御(PWM制御)する。この結果、電磁クラッチ機構8の電磁コイルL0へ供給する電流指令値に応じた電流の量が制御されることにより、前輪側と後輪側との駆動力配分が可変制御される。
【0024】
次に、マイコン30の制御構成について、図3に基づいて説明する。同図に示すように、ECU12は、電磁コイル制御信号を出力するマイコン30と、その電磁コイル制御信号に基づいて、トルクカップリング7の駆動源である電磁コイルL0に駆動電力を供給する駆動回路33とを備えている。更に、ECU12は、電磁コイルL0を流れる実電流値Irを検出する電流検出器37を備えている。
【0025】
詳述すると、本実施形態のマイコン30は、電磁コイルL0に与えるべき通常電流指令値Irr*を演算する通常電流指令値生成部40と、電磁コイルL0を含んだ電気負荷の断線異常を検出する断線異常検出部41と、電流の切替を行なう電流切替部44を備えている。そして、電流切替部44から出力された電流指令値Ir*に基づいて、電磁コイル制御信号を出力する電磁コイル制御信号出力部45とを備えている。
【0026】
また、断線異常検出部41には、断線異常を検出するための試験電流を制御する試験電流制御部42と、断線異常を判定する断線異常判定部43を備える。そして、試験電流制御部42から電流切替部44へは、電流切替フラグFLG0と、試験電流値Ites*が出力される。また、断線異常判定部43には、電流切替部44の出力である電流指令値Ir*と電流検出器37から検出された実電流値Irが入力される。更に断線異常判定部43からは、断線異常確定信号Strが電磁コイル制御信号出力部45に出力されている。
【0027】
また、電磁コイル制御信号出力部45には、上記電流指令値Ir*とともに、電流検出器37により検出される電磁コイルL0の実電流値Irが入力される。そして、本実施形態の電磁コイル制御信号出力部45は、その電流指令値Ir*に実電流値Irを追従させるべく、電流フィードバック制御の実行により、電磁コイル制御信号を生成する。
【0028】
そして、本実施形態のECU12は、このようにして生成された電磁コイル制御信号をマイコン30が駆動回路33に出力し、同駆動回路33がその電磁コイル制御信号に基づく駆動力を電磁コイルL0に供給することにより、電磁クラッチ機構8の作動を制御し、これにより、トルクカップリング7の結合力を制御する構成となっている。
【0029】
更に詳述すると、本実施形態の断線異常の検出は、IG22がオフ後の最初のオン時一回の処理ルーチンでのみ実施する。試験電流制御部42は、電流切替部44にIG22がオフ後の最初のオン時一回の処理ルーチンであることを示す電流切替フラグFLG0と、断線異常を検出するためのトリガ信号である試験電流値Ites*を出力する。
【0030】
次に、電流切替部44は、電流切替フラグFLG0の状態を読み取り、接点50、52を接続する。すると、試験電流値Ites*は電流指令値Ir*となって電磁コイル制御信号出力部45に入力される。電磁コイル制御信号出力部45では、上記した電流フィードバック制御の実行により、電磁コイル制御信号が生成される。電磁コイル制御信号は、駆動回路33及び電流検出器37を経由して電磁コイルL0に出力され、トルクカップリング7が作動する。
【0031】
断線異常判定部43は、電流指令値Ir*と実電流値Irを入力する。そして、電流指令値Ir*から実電流値Irを減算した値が、所定の閾値以上の場合には、断線異常が発生したと判断する。一方電流指令値Ir*から実電流値Irを減算した値が、所定の閾値より小さい場合に断線異常が発生していないと判断する。断線異常検出部41は、断線異常判定部43が、断線異常が発生したと判断した場合には、その数をカウントする。
【0032】
そして、断線異常検出部41は、試験電流制御部42から試験電流値Ites*を所定回数(例えばns回)出力し、そのうち上述した断線異常カウント値が閾値以上の場合には断線異常を確定し、断線異常確定処理を実行し、電流切替フラグFLG0の状態を反転させる。
【0033】
一方、断線異常が確定しなかった場合には、電流切替部44は、接点50、51を接続する。接点50、51が接続されると、通常電流指令値生成部40で生成された通常電流指令値Irr*は、電流指令値Ir*となって電磁コイル制御信号出力部45に入力される。そして、トルクカップリング7が作動され、電流指令値Ir*の大きさによって、主動輪及び従動輪に駆動力が配分させる4WD制御、又は、主動輪のみが駆動させる2WD制御が実行される。
【0034】
次に、上記断線異常検出部41の断線異常検出時のタイミングについて、図を用いて説明する。図4は、断線異常検出時における試験電流の印加態様を示す説明図である。
【0035】
図4に図示されているように、試験電流値Ites*は、縦Ih(A)、横tw(秒)のパルス電流である。このパルス電流が大き過ぎると、車両状況によってはトルクショックや音を発生させやすくなるので、できるだけ小さいパルス電流が好ましい。また、あまり小さいパルス電流の場合には、断線異常と判断する実電流値Irが検出しにくいので、適切な値を実験の繰り返しにて選定している。
【0036】
第1試験電流値Ites*から第2試験電流値Ites*の間をゾーン1と呼び、試験回数1回目を表す。断線異常検出部41は、第1試験電流値Ites*を電流切替部44に出力してから、電流指令値Ir*の値をt1秒後に取り込む。また、第1試験電流値Ites*を、電流切替部44に出力してから、実電流値Irの値をt2秒後に取り込む。そして、2つの電流値を比較して断線異常か否かを検出する。試験回数1回目と同じサンプリングを2回目以降も繰り返し、試験回数をns回繰り返す。
【0037】
上記断線異常検出は、通常車両が停止時に行なわれる。すると、例え電磁コイルL0に通電する電流が大きなパルス状電流であっても、トルクショックや音は発生しない。
しかし、例えば、車両が長い下り坂でIG22をオフしたままハンドルを右きりした状態から、急にIG22がオンされた場合などに、大きな断線異常検出用試験電流値を電磁コイルL0へ通電すると、電磁クラッチ機構8が互いに急摩擦係合されスリップを生じ、トルクショックや音を発生する。
【0038】
次に、上記断線異常検出方法を図5、6のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
まず、マイコン30は、IG22がオンか否かを判定する(ステップ101)。そして、IG22がオフの場合(ステップ101:NO)には、IG22がオンするまでこの処理を繰り返す。そして、IG22がオンの場合(ステップ101:YES)には、ステップ102に移行し、電流切替フラグFLG0の状態をメモリより読み出す。
【0039】
次に、マイコン30は、電流切替フラグFLG0が「0」か否かを判定する(ステップ103)。そして、電流切替フラグFLG0が「0」の場合(ステップ103:YES)には、ステップ104に移行し、電流切替フラグFLG0を電流切替部44に出力する。次に、ステップ105に移行し、試験電流値Ites*を出力する。そして、ステップ106に移行し、電流指令値Ir*検出用タイマt1がタイムアップするのを待つ。
【0040】
次に、マイコン30は、電流指令値Ir*検出用タイマt1がタイムアップした場合(ステップ106:YES)には、ステップ107に移行し、電流指令値Ir*を取り込む。そして、ステップ108に移行し、実電流値Ir検出用タイマt2がタイムアップするのを待つ。
【0041】
次に、マイコン30は、実電流値Ir検出用タイマt2がタイムアップした場合(ステップ108:YES)には、ステップ109に移行し、実電流値Irを取り込む。そして、ステップ110に移行し、電流差分ΔIrを電流指令値Ir*から実電流値Irを減算して求める。そして、ステップ111に移行し、試験電流値Ites*の出力をオフする。
【0042】
次に、マイコン30は、電流差分ΔIrが電流差分閾値ΔIrs以上か否かを判定する(ステップ112)。そして、電流差分ΔIrが電流差分閾値ΔIrs以上の場合(ΔIr≧ΔIrs、ステップ112:YES)には、ステップ113に移行し、試験回数カウンタnをインクリメントする(n=n+1、ステップ113)。
【0043】
次に、マイコン30は、ステップ114に移行し、断線異常確定カウンタkをインクリメントする(k=k+1、ステップ114)。そして、ステップ115に移行し、試験回数カウンタnが試験回数カウンタ閾値ns以上か否かを判定する(ステップ115)。そして、試験回数カウンタnが試験回数カウンタ閾値ns以上の場合(n≧ns、ステップ115:YES)には、ステップ116に移行する。
【0044】
次に、マイコン30は、ステップ116において、断線異常確定カウンタkが断線異常確定カウンタ閾値ks以上か否かを判定する(ステップ116)。そして、断線異常確定カウンタkが断線異常確定カウンタ閾値ks以上の場合(k≧ks、ステップ116:YES)には、ステップ117に移行し、断線異常確定処理(システム停止、異常ランプ点灯)を行なう。そして、ステップ118に移行し、電流切替フラグFLG0を「1」にセットしてこの処理を終わる。
【0045】
次に、マイコン30は、ステップ116において、断線異常確定カウンタkが断線異常確定カウンタ閾値ksより小さい場合(k<ks、ステップ116:NO)には、ステップ119に移行し、正常処理(制御開始)を行ない、ステップ118に移行する。
【0046】
また、マイコン30は、ステップ115において、試験回数カウンタnが試験回数カウンタ閾値nsより小さい場合(n<ns、ステップ115:NO)には、ステップ105に移行して、ステップ106からステップ115を繰り返す。更に、ステップ103において、電流切替フラグFLG0が「0」でない場合(ステップ103:NO)には、ステップ104からステップ118までの処理は一切行なわず、この処理を終わる。
【0047】
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
マイコン30は、車両が停止しているときに、誘導負荷回路の断線異常検出用として、試験電流を流す。この試験電流の値は、電磁クラッチ機構部にトルクショックや音を発生させない大きさのパルス電流値が好ましい。そして、試験電流の値と、誘導負荷回路に流れる電流値の差が電流差閾値より大きい場合には、誘導負荷回路に断線異常が発生したとしてカウントする。更に、試験電流を流す回数が所定の回数となった時に、誘導負荷回路に断線異常が発生したとしてカウントしたカウント数が所定の回数以上になっていた場合には、断線異常が確定したとしてシステムの停止を実施する。
【0048】
上記構成によれば、車両がどのような状態にある時でも、試験電流を流すことによって、電磁クラッチ機構部にトルクショックや音を発生させる可能性を防止できる。そして、試験電流の値と、誘導負荷回路に流れる電流値の差が電流差閾値より大きい場合には、誘導負荷回路に断線異常が発生したと判断するので、正確に断線異常の発生を検出することができる。更に、断線異常をカウントし、所定回数以上断線異常がカウントされた場合に、断線異常を確定したので、より確実に断線異常を判定できる。
【0049】
尚、本実施形態は以下のように変更してもよい。
・本実施形態では、本発明を、前輪を主駆動輪とする車両の駆動力配分装置に具体化
したが、後輪を主駆動輪とする車両の駆動力配分装置に具体化してもよい。
【0050】
・本実施形態では、本発明を、駆動力配分装置に具体化したが、他の装置、例えば電動パワーステアリング装置に具体化してもよい。
【0051】
・本実施形態では、本発明の試験電流をパルス電流に具体化したが、試験電流は三角波電流、ノコギリ波電流に具体化してもよい。
【符号の説明】
【0052】
1:4輪駆動車、2:エンジン、3:トランスアクスル、4:フロントアクスル、
5:プロペラシャフト、6:前輪、7:駆動力伝達装置(トルクカップリング)、8:電磁クラッチ機構、9:リヤディファレンシャル、10:リヤアクスル、
11:後輪、12:駆動力配分制御装置(ECU)、
20:バッテリ、21:ヒューズ、22:イグニッションスイッチ(IG)、
30:マイコン、31:リレー、32:ノイズ除去フィルタ、33:駆動回路、
34:フライホイールダイオード、35:スイッチング素子(FET等)、
36:電流検出用抵抗器(R1)、37:電流検出器、
40:通常電流指令値生成部、41:断線異常検出部、42:試験電流制御部、
43:断線異常判定部、44:電流切替部、45:電磁コイル制御信号出力部、
50、51、52:接点、L0:電磁コイル、
Irr*:通常電流指令値、Ir*:電流指令値、Ir:実電流値、
Ites*:試験電流値、ΔIr:電流差分、ΔIrs:電流差分閾値、
t1:電流指令値Ir*検出用タイマ、t2:実電流値Ir検出用タイマ、
n:試験回数カウンタ、ns:試験回数カウンタ閾値、
k:断線異常確定カウンタ、ks:断線異常確定カウンタ閾値、
FLG0:電流切替フラグ、Str:断線異常確定信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源から駆動力伝達系を介して、複数の車輪へそれぞれ伝達される駆動力の割合を調節するための誘導負荷回路を制御する誘導負荷回路制御手段を備えた駆動力配分制御装置において、
所定値以下の試験電流を前記誘導負荷回路に出力制御する試験電流制御手段と、
前記誘導負荷回路に流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記試験電流の試験回数を数える計数手段1と、
前記試験電流の値と、前記誘導負荷回路に流れる電流値の差が電流差閾値より大きい場合には、前記誘導負荷回路を断線異常と判定し、断線異常の判定回数を数える計数手段2と、
前記計数手段1の試験電流の試験回数が試験回数閾値以上かつ、前記計数手段2の断線異常の判定回数が断線異常判定回数閾値以上となった時に、断線異常が確定したと判断する断線異常検出手段とを備えたこと、
を特徴とする駆動力配分制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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