説明

駆動回路、液体吐出用基板、及びインクジェット記録ヘッド

【課題】
回路面積を大きくすることなく、リンギングの発生を抑制することが可能な駆動回路を提供する。
【解決手段】
本発明に関わる駆動回路は、入出力端子が並列接続された複数のトランジスタを有し、前記トランジスタの内、少なくとも2つのトランジスタのチャネル長を互いに異なる長さとすることにより、異なるしきい値電圧を有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動回路、液体吐出用基板、及びインクジェット記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
リンキングを抑制する出力回路には、複数のスイッチング素子を並列に接続し、タイミングコントロール回路によりそれぞれのスイッチング素子のスイッチングタイミングが異なるように制御するものがある(特許文献1)。また、複数のトランジスタの基板不純物濃度や基板電位を異なる値にすることにより、複数のトランジスタのしきい値を互いに異なる値とする出力回路があった(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−138775号公報
【特許文献2】特開2003−069414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術では次に示すような課題がある。特許文献1の技術では、複数のスイッチング素子の駆動タイミングを異ならせる制御のために、新たなタイミング回路を設ける必要がある。そのため、回路面積が大きくなるという課題があった。特許文献2の技術では、複数のトランジスタの基板不純物密度や基板電位を変えている。そのためには、製造プロセスにおいて工程を追加する必要があり、製造コストが高いという課題があった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、回路面積が小さく、かつ、製造プロセスが簡単で、リンギングを抑制可能な駆動回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の駆動回路は、第1のノードと第2のノードとの間に並列接続された複数のMOSトランジスタを有し、前記複数のMOSトランジスタにより前記第1のノードと第3のノードの間に接続された負荷を駆動する駆動回路であって、前記複数のMOSトランジスタは、互いに異なるチャネル長を有することにより互いに異なるしきい値電圧を有する少なくとも2つのMOSトランジスタを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、回路面積を大きくすることなく、リンギングの発生を抑制できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の一実施形態のインクジェット記録ヘッドの回路構成図
【図2】本発明の実施形態の回路構成図。
【図3】本発明の実施形態によるタイミング図。
【図4】図2実施形態のトランジスタの模式断面図。
【図5】図4実施形態のトランジスタの特性図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態のインクジェット記録ヘッドの一例を示す図である。インクジェット記録ヘッドは発熱体ブロック10と、駆動回路ブロック20、駆動回路ブロック20を制御する制御回路30とを有する。発熱体ブロック10は複数のヒータ部10−1〜10−nを有する。駆動回路ブロック20は図2で説明するスイッチング回路20−1〜20−nを有する。制御ブロック30は入力データを各スイッチング回路20−1〜20−nに振り分ける回路である。第1の電源VHはスイッチング回路20−1〜20−nの導通制御によりヒータ部10−1〜10−nに電流を供給し、ヒータ部10−1〜10−nを発熱させる。スイッチング回路の入力信号はVi−1〜Vi−n、出力電流信号はIo−1〜Io−nである。
ヒータ10−1とスイッチング回路20−1を有する本発明の1実施形態の等価回路図を図2に示す。スイッチング回路20−1は、スイッチング素子である4つのMOSトランジスタS1〜4を有する。この例では4つのMOSトランジスタS1〜S4のチャネル長を異なる長さにしている。この結果、MOSトランジスタの短チャネル効果により、MOSトランジスタS1〜S4のしきい値電圧は異なる電圧Vtn1〜4になる。ここで、Vtn1〜4の大小関係はVtn1<Vtn2<Vtn3<Vtn4とする。
【0010】
MOSトランジスタS1〜4の出力端子の一端は第1のノードN1に接続される。第1のノードN1には負荷となるヒータ10−1の一端が接続され、ヒータ10−1の他端は第3のノードN3を介して第1の電源VHに接続される。MOSトランジスタS1〜4の出力端子の他端は第2のノードN2に接続されている。第2のノードN2は第2の電源(この例では接地電位)に接続される。MOSトランジスタS1〜4の入力ゲートには制御回路30からの制御信号Vi−1が入力される。以上のようにMOSトランジスタS1〜4は並列接続される。図3に示される波形C1〜4は、MOSトランジスタS1〜4それぞれに流れる電流信号の模式的な波形である。
【0011】
次に、スイッチング回路20−1の動作について図2と図3を用いて説明する。まずスイッチ回路に制御信号Vi−1が入力される。MOSトランジスタS1〜4のしきい値電圧Vtn1〜4がそれぞれ異なることから、MOSトランジスタS1〜S4を流れる電流は、模式的に図3に示す波形C1〜4のようになる。電流C2はC1に対しt1時間だけ遅れて立ち上がり、電流C1の立下りに対しt1’時間だけ早いタイミングで立ち下がる。同様に、電流C3と電流C4は電流C1に対してt2、t3時間だけ遅れて立ち上がり、t2’、t3’時間だけ早いタイミングで立ち下がる。結局、スイッチング回路の出力電流信号Io(n)は理想的な状態において、図3のIo(n)に示すような階段状の波形となる。
【0012】
この結果、第1のノードと第3のノードとの間を流れる電流の立上り、立下りに含まれる高周波成分はほぼ同じであるが、駆動電流の高周波成分の振幅を小さくすることができる。この結果、オーバーシュートやアンダーシュートの振幅が抑えられ、リンギング現象を抑制できる。これにより、ヒータ10−1やMOSトランジスタS1〜4の劣化や、ノイズの発生による誤動作を抑制することができる。
【0013】
図2、図3に示す1実施形態ではスイッチング回路20(n)の複数のスイッチング素子が4個の例を挙げたがこれは一例にすぎない。複数のMOSトランジスタのうち少なくとも2つのMOSトランジスタのチャネル長を互いに異なる長さにすれば良い。その場合もしきい値電圧の違いによりスイッチを電流が流れるタイミングに差が生じることによりリンキングを抑制できる。また、制御回路30の電源電圧が低電圧である場合は制御回路30と駆動回路ブロック20の間にレベルシフト回路があっても良い。
【0014】
図4はMOSトランジスタS1〜4の構成の一例を示す模式断面図である。ここでは、P型シリコン半導体基板に、N型のLOCOSオフセット構造のMOSトランジスタを例に説明するが、チャネル長によりしきい値電圧を調整できるトランジスタであれば他の構造のものでもよい。LOCOSオフセット構造とは、ゲート電極の一部、もしくは全部とドレイン領域の一部の間に素子分離領域を設けて、ゲート電極とドレイン領域との距離を長くした構造である。特に高耐圧が要求される場合にはこのような構成が好ましい。また図4のMOSトランジスタは横型のDMOS(double diffused MOS)トランジスタである。DMOSトランジスタも耐圧に優れたデバイスであるため、DMOSトランジスタとLOCOSオフセット構造を併用することは更に耐圧が高まるため好ましい。図4に示した構成は一例でありこれに限定されるわけではない。
【0015】
図4において、p型半導体基板201の上面に、n型ウェル領域202とp型ウェル領域203が形成されている。n型ウェル領域202の表面の一部にn型の不純物領域204が形成され、p型ウェル領域203の表面の一部にソースとなるn型の不純物領域205が形成されている。n型ウェル領域202とn型の不純物領域204とでドレイン領域を構成している。また、p型ウェル領域203はこのMOSトランジスタのチャネルを提供する部分であり、ゲートに供給される電圧によりチャネルが形成される。このように各領域が形成された半導体基板の表面の全面にはゲート酸化膜206が形成されており、n型ウェル領域202上のゲート酸化膜206の一部にはLOCOS207が形成されている。LOCOS207の一端は、不純物領域204の端部に対応する位置まで延びている。LOCOS207の他端は、n型ウェル領域202とp型ウェル領域203の境界部208の方へ延びている。しかし、上記LOCOSの他端は境界部208の位置までは達しておらず、n型ウェル領域202上の位置で留まっている。ゲート電極209が、ゲート酸化膜206およびLOCOS207の上側部分であってかつn型ウェル領域202とp型ウェル領域203上側部分に設けられている。ゲート電極209の一端は、n型の不純物領域205の端部に対応する位置の上まで延びており、他端は、LOCOS207上に留まっている。ゲート電極209とn型の不純物領域205の境界部210と境界部208との間の距離を表すチャネル長Lpは、製造プロセスにおいて、n型の不純物領域205がその内部に形成されるp型ウェル領域203を形成する際にマスクにより規定することができる。この時、駆動回路を構成する複数のMOSトランジスタに異なるチャネル長を規定するマスクを適用できる。チャネル長Lpを調整する工程は、基板の不純物密度を変える場合のように製造プロセスに追加の工程を必要としない。このようにしてチャネル長Lpを調整することによりMOSトランジスタのしきい値電圧を異ならせることができる。
【0016】
図5は、MOSトランジスタの短チャネル効果の特性例を表した図であり、横軸をチャネル長Lp、縦軸をしきい値電圧Vthとしてプロットした図である。この図5より、チャネル長Lpを微小に変えることによって、しきい値電圧を調整可能であることがわかる。
【0017】
さらに、液体吐出用基板について説明する。液体吐出用基板は本発明の駆動回路と駆動回路により駆動される発熱体及び液体の流路を備えている。発熱体は流路の液体を加熱するように配置される。流路の液体を加熱することにより、液体を吐出する。吐出は流路に連通された吐出口から行われる。
【0018】
次に、インクジェット記録ヘッドについて説明する。インクジェット記録ヘッドは本願発明の駆動回路と発熱体を含むインクジェットヘッド用基体上にインクの流路となる部材が配置される。発熱体は流路を加熱できるように配置される。本願発明の駆動回路で駆動される発熱体により流路のインクが熱せられることにより、流路と連通しているインク吐出口から吐出され、記録紙等に記録するのに用いられる。
【0019】
以上のとおりMOSトランジスタS1〜4のチャネル長を調整することによりしきい値電圧を異ならせることができる。この結果、リンギングの発生を抑制したスイッチング回路20(n)が、その回路面積を大きくすることなくかつ製造工程を追加せずに提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のノードと第2のノードとの間に並列接続された複数のMOSトランジスタを有し、前記複数のMOSトランジスタにより前記第1のノードと第3のノードとの間に接続された負荷を駆動する駆動回路であって、
前記複数のMOSトランジスタは、互いに異なるチャネル長を有することにより互いに異なるしきい値電圧を有する少なくとも2つのMOSトランジスタを含むことを特徴とする駆動回路。
【請求項2】
前記複数のMOSトランジスタはそれぞれLOCOSオフセット構造を有することを特徴とする請求項1に記載の駆動回路。
【請求項3】
液体の流路と、
前記流路の中の前記液体を加熱する発熱体と、
請求項1又は2に記載された駆動回路とを備え、
前記駆動回路は前記発熱体を負荷として駆動するよう構成されていることを特徴とする液体吐出用基板。
【請求項4】
インクの吐出口に連通した流路と、
前記流路の中の前記インクを加熱する発熱体と、
請求項1又は2に記載された駆動回路とを備え、
前記駆動回路は前記発熱体を負荷として駆動するよう構成されていることを特徴とするインクジェット記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−18134(P2013−18134A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−151193(P2011−151193)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】