説明

駆動装置

【課題】駆動軸を鍍金処理し、必要な速度で被駆動部材を駆動する。
【解決手段】鍍金材の密着性を確保するために先ず駆動軸となる樹脂母材の表面を脱脂、プリエッチングを行う。続いて、第2工程で洗浄して表面調整後に触媒を付与し、第3工程で活性化し無電解鍍金を施す。なお、無電解鍍金の膜厚は処理時間の長さにより、調整することができる。最後に、第4工程で乾燥を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密機器や映像機器等に内蔵された被駆動部材である移動物体を駆動するための駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光学機器のレンズ駆動装置や光量調節装置の駆動装置としては、ステッピングモータドライブ、ボイスコイルドライブ、圧電素子ドライブ等を利用したものが知られている。
【0003】
しかし、光学機器の小型化に対応して、これらの駆動装置はより一層の小型化が求められており、特許文献1においては、駆動装置として電気機械変換素子である圧電素子を使用したものが開示されている。
【0004】
更に、特許文献2においては、このような電気機械変換素子を使用した駆動装置の被駆動部材の移動を高速化するために、駆動軸を繊維強化樹脂の複合材料により形成したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−69070号公報
【特許文献2】特開平7−274544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような圧電素子等の電気機械変換素子を使用した駆動装置において、高速駆動を実現するためには、電気機械変換素子の伸縮を大きく又は高速で行わせるために、駆動電圧を上げたり、駆動周波数を上げる必要がある。
【0007】
しかし、駆動軸の重量が大きいほど、又は弾性率が小さいほど駆動装置の応答遅れが大きくなり、被駆動部材の移動速度や移動量が低下し、ついには移動不可能となる。
【0008】
また、特許文献2に示すように、駆動軸を繊維強化樹脂の複合材料により形成した場合には、上述のような特性上の問題は解決できるものの、加工性が悪く、部材のコストアップの要因となる。
【0009】
本発明の目的は、上述の問題点を解消し、安価で高速に被駆動部材を駆動することができる電気機械変換素子を用いた駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明に係る駆動装置は、電気機械変換素子と、該電気機械変換素子に固定する棒状の駆動部材と、該駆動部材に摩擦接触する被駆動部材とを有し、前記電気機械変換素子の伸縮により前記駆動部材を介して前記被駆動部材を移動させる駆動装置において、前記駆動部材は表面を鍍金処理した樹脂材料から成ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、駆動軸に鍍金処理した成形性の良い樹脂材料を使用することにより、必要な速度で被駆動部材を駆動できる安価な駆動装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】駆動装置の斜視図である。
【図2】鍍金工程のフローチャート図である。
【図3】曲げ弾性率の特性グラフ図である。
【図4】光量調節装置の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
図1は本実施例におけるカメラに装着されたレンズの駆動に応用された駆動装置の斜視図を示している。
【0014】
フレーム1上には、3本の支持部2〜4が立設され、支持部2、3により駆動部材である棒状の駆動軸5が軸方向に変位自在に支持されている。駆動軸5には、被駆動部材であるレンズの鏡筒6を支持する支持体7の摺動嵌合部7a、7bが摺動自在に摩擦接触して挿通されている。
【0015】
また、支持部4には駆動軸5の軸方向に変位する電気機械変換素子の一種である圧電素子8が固定され、この圧電素子8の一端には駆動軸5の端部が固定されている。
【0016】
更に、支持体7の摺動嵌合部7a、7bの下面には、中央部分に上向きに屈曲した屈曲部9aを有する板ばね9が固定され、屈曲部9aが駆動軸5に圧接され、駆動軸5と板ばね9の接触部に適当な摩擦力を発生させている。
【0017】
圧電素子8にデューティ(Duty)比を変化させた波形を有するパルス波を印加すると、圧電素子8はパルス波形に応じて伸縮する。このとき、波形デューティ比により立ち上がり立ち下りの速度を異ならせると、振動モードと摩擦の関係で支持体7が駆動軸5の方向に進む。つまり、駆動軸5が徐々に伸びる信号を付与すると、駆動軸5と支持体7が摩擦力で接合した状態で変位し、駆動軸5が急激に縮む際には駆動軸5だけが変位する。
【0018】
このことを繰り返すことにより、支持体7、更には鏡筒6が移動する。このように駆動軸5は支持体7の移動に伴い、常に支持体7の摺動嵌合部7a、7b及び板ばね9の屈曲部9aと摩擦力を持って摺動する。
【0019】
また、本実施例における駆動軸5は、ポリカーボネート等の一般的な射出成形により加工可能な樹脂材料が使用され、加工のし易さから断面が円形の円柱形状としたが、必要に応じてD形状や角形状等にしてもよい。なお、成形方法も射出成形に限らず、一般的に公知な他の成形方法を利用することができる。
【0020】
この樹脂材料には、曲げ弾性率を高めるためにガラスフィラ又はガラスビーズのような繊維状又は粒子状のガラス、セラミック、炭素等、又はこれらの少なくとも2つの混合物を添加してもよい。添加量は成形性を勘案しながら適宜に決定すればよいが、添加物が多過ぎると成形品の表面に露出し、摩擦抵抗を増加させる可能性がある。
【0021】
本実施例においては上述の方法により樹脂成形した駆動軸5の弾性係数を更に高めて、高速駆動が可能となるように、駆動軸5の表面に無電解ニッケル鍍金処理を施している。
【0022】
図2は無電解鍍金処理の一般的な工程図を示しており、鍍金材の密着性を確保するために先ず駆動軸5となる樹脂母材の表面を脱脂し、プリエッチングを行う。続いて、第2工程で洗浄して表面調整後に触媒を付与し、第3工程で活性化し無電解鍍金を施す。なお、無電解鍍金の膜厚は処理時間の長さにより、調整することができる。最後に、第4工程で乾燥を行う。
【0023】
図3はポリカーボネート樹脂を母材とした駆動軸5に無電解鍍金を施した場合の膜厚と曲げ弾性率の特性グラフ図を示している。鍍金処理を施すと鍍金前よりも曲げ弾性率が高くなり、鍍金の膜厚が厚くなるにつれて、曲げ弾性率が向上し、高速振動の追従が可能になり、駆動軸5をより高速に動かすことが可能となる。なお、樹脂母材に前述の添加物を添加すれば、当然これよりも高い値を示すことになる。
【0024】
また、鍍金は駆動軸5の表面を滑らかにすることが可能なので、摩擦力を低減することもできるが、鍍金の膜厚を厚くし過ぎると処理時間が長く掛かり、また鍍金皮膜にクラックが生じたり、母材から剥離したりする虞れがある。
【0025】
また、ニッケル鍍金以外でも銅鍍金やクロム鍍金、或いはこれらの複合鍍金等、樹脂母材の曲げ弾性率を向上できるものであれば利用可能である。鍍金方法も無電解鍍金以外でも可能であるが、電極の形成等の問題があるため、無電解鍍金が望ましい。
【0026】
なお、駆動軸5として使用可能な弾性率は、使用する装置に求められる性能によって変化する。即ち、被駆動部材の質量や、装置として求められる移動速度によって、鍍金の膜厚や添加物の量を調節すればよい。
【0027】
図4は実施例1における駆動装置を、ビデオカメラ等の撮像装置に使用した光量調節装置の斜視図を示している。地板11に取り付けられた圧電素子8により伸縮する駆動軸5と、この駆動軸5に摩擦接触して移動する被駆動部材である伝達部材12とを有している。伝達部材12は更に光量調節羽根13、14に係合し、これらを進退させて、光量調節装置を通過する光量を調整する。なお、地板11には光量調節羽根13、14の走行スペースを確保するためのカバー板15が取り付けられている。
【0028】
図1に示すような光学機器のレンズの鏡筒6、及び図4に示すようなカメラの絞り装置として動作する光量調節装置の光量調節羽根13、14を駆動する場合、駆動軸5の弾性率は80000MPa程度必要である。このため、図4に示すような絞り装置の実施例において、図3の関係を基に鍍金の膜厚を9〜58μmとしたところ、良好な作動が認められた。なお、鍍金の膜厚が58μmを超えると作動は良好であったが、一部に鍍金の剥がれが発生したものがあった。
【0029】
このように、本発明の駆動装置を使用することにより、必要な性能を満足させた装置の小型化が実現できる。
【符号の説明】
【0030】
1 フレーム
2、3 支持部
5 駆動軸
6 鏡筒
7 支持体
8 圧電素子
9 板ばね
11 地板
12 伝達部材
13、14 光量調節羽根
15 カバー板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械変換素子と、該電気機械変換素子に固定する棒状の駆動部材と、該駆動部材に摩擦接触する被駆動部材とを有し、前記電気機械変換素子の伸縮により前記駆動部材を介して前記被駆動部材を移動させる駆動装置において、前記駆動部材は表面を鍍金処理した樹脂材料から成ることを特徴とする駆動装置。
【請求項2】
前記駆動部材は前記鍍金処理により鍍金前よりも曲げ弾性率を高くしたことを特徴とする請求項1に記載の駆動装置。
【請求項3】
前記駆動部材の鍍金は無電解ニッケル鍍金であることを特徴とする請求項1又は2に記載の駆動装置。
【請求項4】
前記駆動部材は粒子状又は繊維状のガラス、セラミック、炭素の何れか、或いはこれらの少なくとも2つの混合物を含む樹脂材料であることを特徴とする請求項1〜3の何れか1つの請求項に記載の駆動装置。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1つの請求項に記載の駆動装置を使用した光量調節装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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