説明

騒音低減装置

【課題】航空機などに搭載する騒音低減装置において、設置環境に付随する騒音発生源に対して、効果的な騒音低減を実現する装置を提案する。
【解決手段】騒音源から発せられる騒音を検知する騒音検知手段と、騒音検知手段からの情報に基づいて騒音検知手段により検知された騒音を打ち消す制御音信号を生成させる騒音制御手段と、騒音制御手段からの制御音信号に基づいて制御音を出力する制御音出力手段とを備えた騒音低減装置600を座席602に設置し、騒音低減装置600の騒音検知手段620と制御音出力手段640とを座席602毎に所定数配設し、座席間および座席内の少なくともいずれかにおいて、制御音出力手段640から出力される制御音の指向性の範囲外に騒音検知手段620の指向性を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座席における騒音低減装置に関するものであり、特に航空機や鉄道車両などの密閉構造体内において使用する騒音低減装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
騒音の大きい航空機や車両などにおいて、座席に着席した利用者に対して音声サービスなどの情報提供を行う場合、座席における騒音が課題となる。
【0003】
航空機や車両のように連続した壁によって境界を作られた内部空間を利用する場合は、利用場所が一種の密閉構造体になっており、利用場所の内外に騒音源があると、利用者にとって騒音環境が固定化されてしまう。このため、騒音の程度によっては、騒音が利用者に物理的、精神的な圧迫要因となり、利用場所の利便性が低下する。特に、航空機などの客室として利用客にサービスを提供する場合は、利便性が低下するとサービス業務の品質に重大な支障を与えることとなる。
【0004】
特に、航空機の場合は、プロペラやエンジンを中心とする航空機の推力を発生させるための機器の騒音や、飛行中の航空機先端や両翼による風切り音など、空気層を機体が移動することに伴って発生する空気流に係る音が主要な騒音源となるため、機内の騒音は乗客に不快感を与えるとともに、音声サービスなどの妨げとなるので、改善が強く望まれている。
【0005】
これに対して、密閉室内の騒音を低減する対策としては、従来、受動的減衰手段による方法が一般的であり、障壁材料や吸収材料など、音響的な吸収性を有する遮音材料を密閉構造体と発生源との間に配置する。障壁材料としては高密度の障壁材料などを使用し、吸収材料としては吸音シートなどを利用する。音響的な吸収性を有する材料は、一般的に高密度となり、高密度材料は重量の増加を伴う。重量が増加すると、飛行燃料が増加し、航続距離が低下する。したがって、航空機としての経済性および機能の低下をもたらす。また、構造材料として、傷つきやすいなどの強度面と質感などのデザイン面での機能の低下も無視できない。
【0006】
上記の受動的減衰手段による騒音対策の課題に対して、能動的減衰手段により騒音を低減する方法として、騒音の位相と反対の位相の音波を発生させる方法が、従来、一般的に実施されている。この方法により、発生源またはその付近で騒音レベルを低減し、騒音の低減を必要とする領域に伝搬するのを防止することができる。具体的適用の事例としては、騒音源から発生する音を検知するマイクとマイクから入力した電気信号を増幅して位相を反転させる制御器と、制御器から入力した電気信号を音に変換して発信するスピーカとを備えた音声消去装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、近年、航空機などにおいて、上記の能動的減衰手段により騒音を低減する方法をベースとして、客席における利便性向上の観点から騒音対策を行う方法が検討されている。例えば、座席毎に減音装置を配設し、座席の近くにスピーカとマイクと制御器を設置する方法や、座席に着席した利用者の近傍に複数のスピーカとマイクを配置することにより利用者に対する騒音の低減効果を向上させる方法(例えば、特許文献2〜3参照)が提案されている。
【0008】
スピーカとマイクの指向性に関しては、無指向性のマイクを使用し、指向性を有するスピーカをアレイ状に配列する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平1−270489号公報
【特許文献2】特開平5−289676号公報
【特許文献3】特開平5−281980号公報
【特許文献4】特開2006−97350号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の方法で効果的に騒音を低減するためには、マイクおよびスピーカの設置数を多くする必要がある一方、マイクとスピーカとの相互の関係について特に検討がなされておらず、航空機などにおいて多数の座席が配設された状況では、周辺に配設された多数のスピーカから発せられる音波を多数のマイクがそれぞれ検知することとなり、座席間や座席内における音波の相互干渉などの課題があった。
【0010】
本発明は上記課題を解決するものであり、騒音低減の対象となる騒音のみを効率よく検知することによって、精度の高い高品質の騒音低減装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述したような目的を達成するために、本発明の騒音低減装置は、少なくとも一つの騒音源から発せられる騒音を検知する騒音検知手段と、騒音検知手段により検知された騒音を打ち消すための制御音信号を生成させる騒音制御手段と、騒音制御手段からの制御音信号に基づいて制御音を出力する制御音出力手段とを備え、騒音検知手段と制御音出力手段とを座席毎に所定数配設し、座席間および座席内の少なくともいずれかにおいて、制御音出力手段から出力される制御音の指向性の範囲外に騒音検知手段の指向性を設定することを特徴とする。
【0012】
このような構成により、座席間および座席内の少なくともいずれかにおいて、制御音出力手段から出力される制御音の指向性の範囲外に騒音検知手段の指向性を設定することが可能となる。したがって、騒音検知手段は制御音出力手段から出力される制御音を検知せず、騒音低減の対象となる騒音のみの検知を行うことができる。これにより、座席間および座席内において騒音検知の精度の向上を実現し、高品質の騒音低減装置を提供することができる。
【0013】
また、本発明の騒音低減装置は、制御音出力手段から出力される制御音の指向性が、各座席に配設された複数の制御音出力手段から出力される制御音により合成される指向性である。このような構成により、各座席に配設された複数の制御音出力手段から出力される制御音に対して、制御音の指向性の範囲外に騒音検知手段の指向性を設定することが可能となる。したがって、騒音検知の品質の向上を実現し、高品質の騒音低減装置を提供することができる。
【0014】
また、本発明の騒音低減装置は、制御音出力手段から出力される制御音の指向性が、各座席に所定数配設された制御音出力手段のうち選択された特定の制御音出力手段から出力される制御音の指向性である。このような構成により、各座席に所定数配設された制御音出力手段のうち選択された特定の制御音出力手段から出力される制御音に対して、制御音の指向性の範囲外に騒音検知手段の指向性を設定することが可能となる。したがって、騒音検知の品質の向上を実現し、高効率かつ高品質の騒音低減装置を提供することができる。
【0015】
また、本発明の騒音低減装置は、制御音出力手段から出力される制御音の指向性に対して、各座席に所定数配設された各騒音検知手段の指向性を設定する。このような構成により、騒音検知手段の指向性の設定を簡単かつ確実に実施することが可能となり、利便性に優れた騒音低減装置を実現することができる。
【0016】
また、本発明の騒音低減装置は、制御音出力手段から出力される制御音の指向性に対して、各座席に所定数配設された騒音検知手段のうち選択された特定の騒音検知手段の指向性を設定する。このような構成により、騒音検知手段の指向性の設定を簡単かつ確実に実施することが可能となり、利便性に優れた騒音低減装置を実現することができる。
【0017】
また、本発明の騒音低減装置は、騒音検知手段および制御音出力手段を、設置方向および指向特性の少なくともいずれかを変更可能に構成する。このような構成により、騒音検知手段の設置方向および指向特性の少なくともいずれかを変更することが可能となり、各座席において騒音源との相互の位置関係に応じて騒音検知手段の検出特性を最適化することができる。これにより、騒音検知の精度の向上を実現し、高効率かつ高品質の騒音低減装置を提供することができる。
【0018】
また、本発明の騒音低減装置は、座席が航空機または車両の客室に設置された座席である。したがって、航空機や車両の客室に使用可能な、高品質で高効率な騒音低減管理システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、騒音低減の対象となる騒音のみを効率よく検知することによって、精度の高い高品質な騒音低減装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図1から図6を用いて説明する。
【0021】
(実施の形態)
本発明の実施の形態における騒音低減装置について、航空機に搭載した場合の事例を引用して以下に説明する。
【0022】
まず、騒音低減装置の設置を必要とする航空機における音環境について、図1および図2を用いて説明する。
【0023】
図1は、本発明の実施の形態における騒音低減装置の設置環境を示す平面図である。図1に示すように、航空機100は、左右の翼にエンジン102a、102bを備えている。
【0024】
航空機の音環境の観点からみると、エンジンは回転音だけでなく、飛行中は空気流の反響などを伴うため、騒音源として重要な位置を占める。乗客サービスの観点からは、エンジン102a、102bが、例えば機内の客室A(例えば、ファーストクラス)、客室B(例えば、ビジネスクラス)および客室C(例えば、エコノミークラス)に設置された座席列103a、103b、103cに対して外部の騒音源NS1a、NS1bとして機体の各部に作用するほか、機体が空気層を高速で移動することに伴う機体の先端部や両翼における空気流との衝突音(風切り音)が騒音源NS1cとして機内の情報提供サービスなどに悪影響を与えている。
【0025】
図2は、同騒音低減装置の設置環境の詳細を示す平面図であり、図1における客室Aおよび客室Bの一部における座席の配置を拡大して示している。客室100aは壁により客室Aおよび客室Bに区分され、客室Aおよび客室Bにはそれぞれ座席列103a、103b、103cが設けられている。また、各座席列には視聴設備などが設置され、イーサネット(登録商標)などの通信回線を介して切り替え装置やデータ管理サーバなどを備えたシステム管理装置104に接続されている。一方、客室100aの音環境としては、エンジン102a、102bから発生する騒音源NS1a、NS1bおよび機体先端部における風切り音NS1cが外部の騒音源として存在するほか、エアコンなどによる騒音源NS2a〜NS2eが内部の騒音源として存在する。これを客室Aに配列された一つの座席105における騒音として考えると、座席105では窓の外側の翼に取付けられたエンジン102a(図1)および気流音を発生原因とする騒音源NS1a〜NS1cおよびエアコンを発生原因とする騒音源NS2a〜NS2eから騒音の影響を受ける。例えば、客室Aにおいて、座席105では、騒音源NS1a〜NS1cおよび騒音源NS2a〜NS2eから到達する騒音のうち、左翼(図1)に搭載されたエンジンによる騒音源NS1aからの騒音が最も強い場合を予想することができる。したがって、各座席における騒音の低減を効果的に実現するためには、各方向から発せられる騒音のうち、座席に着席した利用者にとって、最も大きく、座席の音環境に悪影響を与える騒音に対して重点的に対処する必要がある。
【0026】
特に、図1における客室Aで示したファーストクラスなどでは、座席はシェル構造となっており、このシェルの内部には映画や音楽を楽しむためのテレビやラジオなどの視聴機器や、ビジネスマンのための机、PC接続電源等々が配設されており、ゆっくりとくつろいだり、ビジネスに集中したりできる環境を乗客に提供することが強く求められている。そのために、このシェル内部の騒音低減に対する要望は特に大きいものがある。
【0027】
つぎに、本発明の実施の形態における騒音低減装置の基本構成について、図3を用いて説明する。
【0028】
図3(a)は、本発明の実施の形態における騒音低減装置の基本構成を示すブロック図である。
【0029】
騒音低減装置300は、騒音検出器320、騒音制御器330、制御音発生器340および誤差検出器350を備えている。以下、それぞれの構成および機能について説明する。
【0030】
騒音検出器320は、騒音源310から発せられる騒音を検知する騒音検知手段として備えられ、騒音情報を検出し、電気信号に変換して出力する機能を有するマイクロホン(以下、マイクと略記する)である。
【0031】
騒音制御手段としての騒音制御器330は、A/D変換器331、335、デジタルフィルタ332、制御部333、D/A変換器334を備えており、騒音検知手段であるマイク320からの騒音情報および誤差検出器350の誤差情報に基づいて、検出誤差が最小となるように制御音信号を生成し制御音発生器340の制御を行う。
【0032】
A/D変換器331はマイク320からの騒音信号をA/D変換してデジタルフィルタ332および制御部333へ出力する。デジタルフィルタ332は多段タップで構成されており、各タップのフィルタ係数を自由に設定可能なFIRフィルタである。制御部333には、マイク320からの情報に加えて誤差検出器350からの検出誤差情報がA/D変換器335を介して入力されており、この検出誤差が最小となるように、上記デジタルフィルタ332の各フィルタ係数を調整する。すなわち、誤差検出器350の設置位置において騒音源310からの騒音と反対位相となるような制御音信号を生成してD/A変換器334を介して、制御音発生器に出力する。制御音発生器340は、制御音出力手段としてのスピーカであり、D/A変換器334から受け取った制御音信号を音波に変換して出力することができ、利用者301の耳301bの近傍の騒音を相殺する制御音を発する機能を備えている。
【0033】
誤差音検知手段としての誤差検出器350は、騒音低減後の音を誤差として検出し、騒音低減装置300の動作結果に対してフィードバックを行う。これにより、騒音環境などが変化しても利用者の耳位置で常に騒音を最小にすることができる。
【0034】
図3(a)に示すように、本発明の実施の形態における騒音低減装置300では、騒音源310から発せられた騒音をマイク320により検知し、騒音制御器330で信号処理を行ってスピーカ340から制御音を出力して、騒音源310から発せられた騒音と位相の反転した音を重ね合わせて利用者301の耳301bに発信することにより、騒音の低減を行う。
【0035】
図3(b)は、スピーカ340から出力する制御音と騒音源310から発せられる騒音とを重ね合わせる方法について示している。
【0036】
騒音源310と利用者301の耳301bとを結ぶ騒音の主到達経路310Nに対して騒音の拡がり角度がαである場合、スピーカ340を拡がり角度αの内部に配置する。これにより、スピーカ340から発せられる位相が反転した制御音が騒音と重ね合わされて利用者301の耳301bに到達する。また、重ね合わせの領域内に誤差検出器としてのエラーマイク350を配置することにより、騒音低減後の音を誤差として検出し、騒音低減装置300の動作結果に対してフィードバックを行い、騒音低減効果を高めることができる。
【0037】
つぎに、騒音低減装置の設置事例について説明する。
【0038】
図4は、本発明の実施の形態における騒音低減装置を航空機の座席に設置した事例を示す正面図および平面図である。
【0039】
騒音低減装置400は座席402に設置され、座席402の肘かけ402aaおよび肘かけ402abの外周部にマイク420a、420bがそれぞれ配設されている。ヘッドレスト402bはC状の形状を有し、利用者401が座席402に着席すると頭部401aがヘッドレスト402bに囲まれた状態になる。また、ヘッドレスト402bには、騒音制御器430およびスピーカ440a、440bが埋め込まれ、スピーカ440a、440bは利用者401の頭部401aに対して耳に対向して配置される。また、誤差検出器としてのマイク450a、450bは頭部401aとスピーカ440a、440bとの間にそれぞれ配置される。
【0040】
つぎに、本発明の実施の形態における騒音低減装置を航空機の客室に設置した場合の構成上の特徴について、図5および図6を用いて説明する。図5および図6は、航空機の客室に設置された騒音低減装置の二つの事例における主要な構成を示す平面図である。
【0041】
図5は、図2において、客室A(例えば、ファーストクラス)に配列された座席列のうちの一つの座席502における騒音の到達方向を示す。図5に示すように、本発明の実施の形態における騒音低減装置500は、航空機の客室Aに配列された座席502に設置される。座席502は、壁面によりシェル状に周囲を囲い利用者の占有領域を確保するシェル部502aおよびシェル部502aの内部に配置されリクライニング可能に構成されたリクライニング部(座席部)502bを備えている。シェル部502aは、リクライニング部502bの前方に対向する位置に棚部502aaを備えており、机としての機能を発揮することができる。また、リクライニング部502bは、腰かけ部502ba、背もたれ部502bb、ヘッドレスト502bcおよび肘かけ部502bd、502beを備え、利用者がリクライニング操作を行うことにより、腰かけ部502baが前方にスライドするとともに、腰かけ部502baと係合された背もたれ部502bbの傾斜角度が変化させ、ヘッドレスト502bcを主として下方向に移動することができる。
【0042】
航空機の客室Aにおける音環境としては、機体に搭載されたエンジンや客室の内部に配設されたエアコンそのほかの騒音源があり、座席502では、騒音源から発せられる騒音が、例えば、各騒音源と座席502とを結ぶ騒音経路NS51〜NS58を中心としてシェル部502aの外周部に到達する。これに対して、座席502のシェル部502aの外周部には、本発明の実施の形態における騒音低減装置500の構成要素として、例えば、騒音検知用の指向性を有するマイク520が複数、略等間隔に配設される。なお、マイク520の配置は等間隔に限定されるものではなく、騒音源から発せられる騒音の状況に応じて適宜、配置間隔を変えてもよい。また、シェル部502aの内側には、制御音出力手段としてのスピーカ540a〜540jが、略等間隔に配設されており、スピーカ540a〜540jはそれぞれ出力方向および指向性の少なくともいずれかが利用者501と対向するように設定される。また、シェル部502aの利用者501の背面に位置する場所には、騒音制御器530が収納されている。
【0043】
座席502に配設された騒音低減装置500は、座席502のシェル部502aの外周部にアレイマイクとして略等間隔に配設された複数のマイク520により、周囲の騒音源から発せられた騒音経路NS51〜NS58について、騒音を検知する。また、騒音制御器530では、マイク520により検知された騒音に係わる情報に基づいて、各騒音成分について制御音信号を生成し、スピーカ540a〜540jのうち、各騒音の拡がり角度の内部にあるスピーカを選択して制御音を出力し、騒音の低減を行う。
【0044】
なお、シェル部502aの外周部に配設されたマイク520は、すべて指向方向が外向き(例えば、指向方向520D)であり、指向角度が一定範囲内(例えば、指向角度β)に設定されており、座席502の周囲から発せられる騒音を検知することができる(例えば、騒音経路NS51)が、シェル部502aの内側に設けられたスピーカ540a〜540jから発せられる制御音については、どれもマイク520の指向性の範囲外となり、検知することができない。この構成により、制御音出力手段から出力される制御音の指向性の範囲外に騒音検知手段の指向性を設定することが可能となる。したがって、騒音検知手段としてのマイク520は、座席502において、周囲から発せられる騒音のみの検知することができ、座席内部における制御音を検知することによる誤差の影響を除去することができる。これにより、騒音検知の精度を高め、高品質の騒音低減装置を実現することができる。
【0045】
つぎに、航空機の客室に設置された騒音低減装置の別の事例について、図6を用いて説明する。
【0046】
図5に示す騒音低減装置の事例は、各座席における騒音検知の精度を高める方法に関するものであるが、図6に示す事例は、座席間において相互に影響を受ける誤差要因を除去することにより、各座席における騒音の検知精度を高める方法に関するものである。
【0047】
図6(a)は、隣接する二つの座席602aおよび座席602bにおいて、それぞれの座席に設置された騒音低減装置600aおよび騒音低減装置600bが、互いの騒音の検知精度に関して相互に影響を受ける状況を示している。図6(a)において、座席602aのシェル部602aaの外周部に略等間隔に配設された複数のマイクのうち、マイク620に対して、座席602aに隣接する座席602bのシェル部602baの内側に略等間隔に配設された制御音出力用の複数のスピーカのうち、マイク620と対向する位置に配設されたスピーカ640i、640j、640aおよびスピーカ640bから発せられた制御音は、座席602aのマイク620に向けてそれぞれ放射される。このマイクとスピーカとの組み合わせにおいて、マイク620の指向角度とスピーカ640i、640j、640aおよびスピーカ640bから発せられる制御音の放射角との間に共通する経路S1、S2、S3および経路S4を含む領域を共有する場合は、マイク620は隣接する座席602bのスピーカ640i、640j、640aおよびスピーカ640bから発せられる騒音低減用の制御音を検知する。したがって、マイク620は、隣接する座席602bから発せられる制御音が騒音検知の誤差要因となり、その影響を受けて騒音検知の精度が低下する。この状況は、座席602aに配設されたほかのマイクにおいても同様であり、隣接する座席602bから発せられる制御音の影響を受けて騒音検知の精度が低下する。
【0048】
本発明の実施の形態における騒音低減装置600では、隣接する座席間の制御音による相互の影響を抑制するために、図6(b)に示す対策が実施されている。
【0049】
図6(b)に示すように、座席602aのシェル部602aaの外周部に配設された騒音検知手段としてのマイク620は、座席602bにおいてマイク620と対向して配置されたスピーカ640i、640j、640aおよびスピーカ640bに対して、スピーカ640i、640j、640aおよびスピーカ640bから発せられる制御音の放射角との間に共通する経路を含まないように、指向方向620Dおよび指向角度γが設定されている。なお、ここではマイク620の指向性が外部に向いている状態を説明したが、スピーカ640i、640j、640aおよびスピーカ640bから発せられる制御音の範囲外となる方向であれば、マイク620の指向性はシェル部602aaの内部方向を向いてもよい。
【0050】
この構成により、制御音出力手段から出力される制御音の指向性の範囲外に騒音検知手段の指向性を設定することが可能となる。この結果、マイク620は隣接する座席602bのスピーカ640i、640j、640aおよびスピーカ640bから発せられる騒音低減用の制御音を検知することがない。したがって、マイク620は、隣接する座席602bから発せられる騒音低減用の制御音により影響を受けて騒音検知の精度が低下することを防止することができる。
【0051】
この状況は、座席602aに配設されたほかのマイクにおいても同様であり、隣接する座席602bから発せられる制御音の影響を受けて騒音検知の精度が低下することがない。したがって、本発明の実施の形態における騒音低減装置によれば、騒音検知の精度を効果的に向上することができ、高品質の騒音低減装置を提供することができる。
【0052】
なお、本発明の実施の形態においては、制御音出力手段としてのスピーカから出力される制御音の指向性に関して、個別のスピーカに対して制御音の指向性の範囲外に騒音検知手段としてのマイクの指向性を設定する事例について説明したが、マイクの指向性を設定する方法はこれに限られるものではない。各座席に配設された複数のスピーカから出力される制御音により合成される指向性に対して、マイクの指向性を設定する方法によっても同様の効果を発揮することができる。また、各座席に所定数配設されたスピーカのうち選択された特定のスピーカから出力される制御音の指向性に対して、マイクの指向性を設定する方法は、騒音低減装置の構成の簡略化に効果を発揮する。さらに、マイクの指向性の設定は、各座席に所定数配設されたマイクのうち選択された特定のマイクに対して実施する方法によっても、騒音低減装置の構成の簡略化に効果を発揮する。
【0053】
また、本発明の実施の形態においては、エンジンを主要な騒音源としているが、騒音源はこれに限られるものではない。プロペラやエンジンを中心とする航空機の推力を発生させるための機器の騒音のほか、飛行中の風切り音など空気層を機体が移動することに伴って発生する空気流に係る音や、エアコンなどの空調設備が発生する騒音、客室内における情報提供サービスに係る音声、壁面に反射された間接騒音など、座席には設置環境に存在する多くの騒音源から複雑に重畳された騒音が到達することは言うまでもない。
【0054】
また、本発明の実施の形態においては、騒音源310から発せられる騒音を検知する騒音検知手段としての騒音検出器(マイク)320のほかに、制御音発生器(スピーカ)340から出力される制御音を検知する誤差検出器(エラーマイク)350を備えており、エラーマイク350により騒音と制御音との合成音を検知して制御音の誤差を補正することができるが、本発明の実施の形態における騒音低減装置にとって、エラーマイク350は必須の構成要素ではない。エラーマイク350は、通常、利用者の頭部の近傍に配設されるため、エラーマイク350を省略することにより、利用者の頭部近傍の座席の構成を簡略化することができる。したがって、利用者にとって心理的圧迫感のない、利便性に優れた低コストの騒音低減装置を実現することができる。
【0055】
以上の通り、本発明の実施の形態における騒音低減装置を使用することにより、座席間および座席内の少なくともいずれかにおいて、制御音出力手段から出力される制御音の指向性の範囲外に騒音検知手段の指向性を設定することが可能となる。したがって、騒音検知手段は制御音出力手段から出力される制御音を検知せず、騒音のみの検知を行うことができる。これにより、座席間および座席内において騒音検知の精度の向上を実現し、高品質の騒音低減装置を提供することができる。また、航空機や車両などの客室内において、利用者に効果的な低騒音環境を提供し、利便性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明による騒音低減装置は、騒音検知の精度の向上を実現し、高効率かつ高品質の騒音低減装置を提供することができる。したがって、航空機や列車、車など騒音を有する利用空間内での騒音低減装置および騒音低減システムとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態における騒音低減装置の設置環境を示す平面図
【図2】同騒音低減装置の設置環境の詳細を示す平面図
【図3】同騒音低減装置の基本構成を示すブロック図
【図4】同騒音低減装置の設置事例を示す正面図および平面図
【図5】同騒音低減装置の主要な構成を示す平面図
【図6】同騒音低減装置の主要な構成を示す平面図
【符号の説明】
【0058】
100 航空機
100a,A,B,C 客室
101a,101b 翼
102a,102b エンジン
103a,103b,103c 座席列
104 システム管理装置
105,402,502,602a,602b 座席
105a,105b,105c 通信回線
300,400,500,600a,600b 騒音低減装置
301,401,501 利用者
301b,501b 耳
310,NS1a,NS1b,NS1c,NS2a,NS2b,NS2c,NS2d,NS2e 騒音源
310N,340N,NS51〜NS58 騒音の主到達経路(騒音経路)
320 騒音検出器(マイク)
330,430,530 騒音制御器
331,335 A/D変換器
332 デジタルフィルタ
333 制御部
334 D/A変換器
340 制御音発生器(スピーカ)
350 誤差検出器(エラーマイク)
401a,501a 頭部
402aa,402ab,502bd,502be 肘かけ部
402b,502bc ヘッドレスト
420a,420b,450a,450b,520,620 マイク
440a,440b,540a〜540j,640a,640b,640i,640j スピーカ
502a,602aa,602ba シェル部
502aa 棚部
502b リクライニング部(座席部)
502ba 腰かけ部
502bb 背もたれ部
520D,620D (マイクの)指向方向
S1,S2,S3,S4 経路
α 拡がり角度
β (マイクの)指向角度
γ (スピーカの)指向角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの騒音源から発せられる騒音を検知する騒音検知手段と、前記騒音検知手段により検知された騒音を打ち消すための制御音信号を生成させる騒音制御手段と、前記騒音制御手段からの制御音信号に基づいて制御音を出力する制御音出力手段とを備え、前記騒音検知手段と前記制御音出力手段とを座席毎に所定数配設し、座席間および座席内の少なくともいずれかにおいて、前記制御音出力手段から出力される制御音の指向性の範囲外に前記騒音検知手段の指向性を設定することを特徴とする騒音低減装置。
【請求項2】
前記制御音出力手段から出力される制御音の指向性が、各座席に配設された複数の制御音出力手段から出力される制御音により合成される指向性であることを特徴とする請求項1に記載の騒音低減装置。
【請求項3】
前記制御音出力手段から出力される制御音の指向性が、各座席に所定数配設された制御音出力手段のうち選択された特定の制御音出力手段から出力される制御音の指向性であることを特徴とする請求項1に記載の騒音低減装置。
【請求項4】
前記制御音出力手段から出力される制御音の指向性に対して、各座席に所定数配設された各騒音検知手段の指向性を設定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の騒音低減装置。
【請求項5】
前記制御音出力手段から出力される制御音の指向性に対して、各座席に所定数配設された騒音検知手段のうち選択された特定の騒音検知手段の指向性を設定することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の騒音低減装置。
【請求項6】
前記騒音検知手段および前記制御音出力手段を、設置方向および指向特性の少なくともいずれかを変更可能に構成することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の騒音低減装置。
【請求項7】
前記座席が航空機または車両の客室に設置された座席であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の騒音低減装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−166581(P2009−166581A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−5336(P2008−5336)
【出願日】平成20年1月15日(2008.1.15)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】