説明

骨代謝改善剤

【課題】優れた効果を有する骨代謝改善剤を提供すること。
【解決手段】コラーゲンまたはゼラチンを酵素で加水分解し、それらの酵素加水分解物を有効成分とする骨代謝改善剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は骨代謝改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
蛋白質は、カルシウムと同時に摂取することによりカルシウム代謝に作用する栄養因子の一つである。特に、骨基質の主要な構成成分の一つであるコラーゲンは、脊椎動物にもっとも多い蛋白質であり、骨、歯、軟骨、皮膚などの結合組織に多く存在し、骨芽細胞の分化にも働いている。そのため、コラーゲンもしくはコラーゲンを加熱変性させたゼラチンは、ヒトの変形性骨関節症や関節リウマチといった病状を緩和させる目的で利用されている。
【0003】
特開平10−203995号や特開平10−231250号には、骨粗鬆症の治療・予防剤として、I型コラーゲンや魚鱗粉末を有効成分とする抗骨粗鬆症剤が開示されており、特開平11−12192号には、コラーゲンまたはゼラチンの酵素分解物を有効成分とする骨粗鬆症予防・治療剤が開示されており、特開2005−343852号には、コラーゲンおよび/またはゼラチンを酵素で加水分解して得られるペプチドを有効成分とする骨靱性向上用素材が開示されている。
【特許文献1】特開平10−203995号
【特許文献2】特開平10−231250号
【特許文献3】特開平11−12192号
【特許文献4】特開2005−343852号
【非特許文献1】ジャパンフードサイエンス vol.44、No.1、29−34(2005)野村義宏「フィッシュコラーゲンの近況と機能性食品への利用」
【非特許文献2】Food Style 21 vol.10、No.9、44−46(2006) 野村義宏「コラーゲンと骨の健康維持」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述の通り、これまでも骨代謝を改善する物質または組成物は様々開発され、開示されてきたが、より優れた効果を有する骨代謝改善剤の開発が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、骨代謝改善剤に係る上記問題点に鑑み、機能性食品の一つであるコラーゲンに着目して鋭意研究を重ねた。その結果、コラーゲンまたはゼラチンを酵素で加水分解して得られる物質に、骨密度、骨灰化重量、および骨破断エネルギーを増加させて骨を丈夫にする骨代謝改善作用のあることを見いだし、本発明を完成するに到った。
【0006】
本発明は、骨代謝改善剤を提供するものであり、具体的には下記の構成を有するものである。
(1)コラーゲンの酵素加水分解物またはゼラチンの酵素加水分解物を有効成分とする骨代謝改善剤。
(2)酵素が、細菌またはカビ由来の蛋白加水分解酵素である、前記第1項に記載の骨代謝改善剤。
(3)酵素加水分解物の平均分子量が15kDa以下である、前記第1項または第2項に記載の骨代謝改善剤。
(4)骨密度、骨灰化重量、および骨破断エネルギーを増加させて骨を丈夫にする前記第1項から第3項の何れか1項に記載の骨代謝改善剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明の骨代謝改善剤には、骨密度、骨灰化重量、および骨破断エネルギーを増加させるなどの骨を丈夫にする骨代謝改善作用がある。本発明の骨代謝改善剤は、骨を丈夫にして骨強度の低下を抑制、改善し、高齢者や閉経女性の骨折の予防と生活の質の向上に資することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明で用いるコラーゲンまたはゼラチンは、牛や豚由来のものであっても、魚類の皮や鱗由来のものであっても良く、特に限定されるものではない。その中でも魚の鱗由来のコラーゲンまたはゼラチンは、味や臭いを悪くする脂肪分の含有割合が非常に少ないことから本発明において好ましく使用することができる。一方、牛や豚由来の原料あるいは魚類の皮は、味や臭いを悪くする脂肪分を比較的多く含むが、脱脂工程を有する製造方法により得られた牛や豚由来あるいは魚類の皮由来のコラーゲンまたはゼラチンも本発明に好ましく使用することができる。
【0009】
本発明において、コラーゲンまたはゼラチンの加水分解に用いる酵素は、動物由来、植物由来、微生物由来の何れのものであってもよい。本発明においては、比較的安価な価格で安定的に供給されている微生物由来の酵素が好ましく用いられ、より好ましくはBacillus subtilis由来の蛋白加水分解酵素やAspergillus melleus由来の蛋白加水分解酵素である。
Bacillus subtilis由来の蛋白加水分解酵素としては、例えば天野エンザイム(株)製のプロレザーFG−FやプロテアーゼN「アマノ」Gが挙げられ、Aspergillus melleus由来の蛋白加水分解酵素、例えば天野エンザイム(株)製のプロテアーゼP「アマノ」3Gが挙げられる。これらの蛋白加水分解酵素は、力価が高く、それを用いて得られる酵素加水分解物は苦味が少ないことから、本発明において特に好ましく用いられる。
【0010】
以下の説明および実施例において「%」は特段の断りが無い限り「重量%」を意味する。
本発明でのコラーゲンの酵素加水分解物またはゼラチンの酵素加水分解物の製造条件は特に限定されるものではないが、例えば、酸脱灰後に熱水抽出して酵素加水分解する方法や加圧による抽出後に酵素加水分解する方法などを挙げることができる。なかでも品質面で優れた酵素加水分解物が得られることから、本発明においては、酸脱灰後に熱水抽出して酵素加水分解する方法が好ましい。
酸脱灰後に熱水抽出して酵素分解する方法とは、具体的には、脱灰、水洗浄した湿潤又は乾燥粗コラーゲンに対し重量比で5〜20倍量の40〜100℃の温水ないし熱水を用い、1〜20時間かけてコラーゲンまたはゼラチンを抽出し、この抽出液に蛋白加水分解酵素を加え抽出されたコラーゲンまたはゼラチンを酵素加水分解する方法である。
なお、加圧による抽出後に酵素加水分解する方法には、蛋白加水分解物の収量が多いという利点がある。
【0011】
本発明で得られたコラーゲンの酵素加水分解物またはゼラチンの酵素加水分解物は精製工程を経ることで、より品質が向上する。当該精製工程には活性炭処理が好適である。本発明において好適に行われる活性炭処理については、活性炭の種類やその使用量をはじめ特に限定されるものではない。本発明において好ましい活性炭処理方法としては、粗コラーゲンに対して1〜5%の活性炭を、酵素加水分解物を含有する溶液に添加し、30〜60℃の温度範囲で15〜60分撹拌する工程を、1〜5回繰り返し行う方法を挙げることができる。
精製に使用した活性炭は、活性炭処理後の溶液に、市販の珪藻土を粗コラーゲンに対して1〜10%の割合となるように添加し、フイルタープレス等でろ過することにより取り除くことができる。なお、精製工程に使用する活性炭は市販品を用いることができる。
【0012】
精製されたコラーゲンの酵素加水分解物またはゼラチンの酵素加水分解物溶液は、濃縮工程や乾燥粉末化工程を経ることにより、粉末状の酵素加水分解物とするこができる。好適な濃縮工程には薄膜蒸発機などの真空濃縮装置が挙げられ、乾燥粉末化工程にはスプレードライヤーなどが挙げられる。
【0013】
本発明の骨代謝改善剤に使用するコラーゲンの酵素加水分解物またはゼラチンの酵素加水分解物の平均分子量は特に限定されるものではないが、GPC法による数平均分子量で15kDa以下であることが好ましく、より好ましくは0.5kDa〜5kDaの範囲であり、特により好ましくは0.5kDa〜1.5kDaの範囲である。上記範囲であれば溶解性が良好で、かつ体内で早く吸収され効果発現が早い。
【0014】
本発明の骨代謝改善剤は、コラーゲンの酵素加水分解物またはゼラチンの酵素加水分解物を有効成分とするものである。本発明の骨代謝改善剤は、コラーゲンの酵素加水分解物またはゼラチンの酵素加水分解物のみからなるものであってもよく、発明の効果を妨げない範囲であれば、使用目的に応じ、その他の成分を含有するものであっても良い。その他の成分としては、例えば、後述する賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、懸濁化剤、乳化剤、防腐剤、安定化剤、分散剤を挙げることができる。
【0015】
本発明の骨代謝改善剤は、そのまま経口摂取しても良いが、水やお湯、あるいは牛乳や味噌汁などに溶解して、またはヨーグルト等と混合すると容易に摂取できる。
【0016】
経口摂取する場合、本発明の骨代謝改善剤は、錠剤、コーティング錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤などの形状であっても良い。これらの剤型の調製は薬学的に許容される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、懸濁化剤、乳化剤、防腐剤、安定化剤、分散剤など、例えば、乳糖、白糖、澱粉、デキストリン、結晶セルロース、カオリン、炭酸カルシウム、タルク、ステアリン酸マグネシウムなどを用いて行われる。
【0017】
摂取量は各人の年齢、体重などに応じて異なるが、成人に対する一日の摂取量は、コラーゲンの酵素加水分解物またはゼラチンの酵素加水分解物として3〜10gであり、これを1回で、あるいは2〜3回に分けて摂取することが好ましい。
次に、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0018】
実施例1:コラーゲン酵素加水分解物の調製
<酵素加水分解物Aの調製>
真鯛鱗を洗浄乾燥し、これを公知の方法により塩酸脱灰後、水洗して粗コラーゲンを得た。すなわち、洗浄乾燥鱗100g(水分15%)に0.6モル塩酸1,500mLを加え、2時間攪拌した。100メッシュ網にてろ過(脱灰溶液pH1.5)、固形分を1Lの水にて入れて15分間攪拌し、この水洗/ろ過処理を3回繰り返した。105℃で3hr乾燥させた絶乾鱗の粗コラーゲン量は50%、N:17.4%、残カルシウム:0.12%、残リン酸分:0.37%であった。
粗コラーゲンを15倍量(重量)の水に懸濁し、これにBacillus subtilis由来の蛋白加水分解酵素、天野エンザイム(株)製のプロレザーFG−Fを粗コラーゲンに対し2.0%の割合となるように添加して50℃で3時間加水分解し、活性炭「二村化学(株)製 太閤S」を粗コラーゲンに対して0.4%加え、40℃×30分間攪拌処理して脱臭脱色した。その溶液を室温まで冷却後珪藻土ろ過し、濃縮、粉末化してコラーゲン酵素加水分解物を得た。このコラーゲン酵素加水分解物のGPC法により求めた数平均分子量は1110であった。
【0019】
<酵素加水分解物Bの調製>
スズキ目の魚鱗を洗浄乾燥し、これを前述の「酵素加水分解物Aの調製」の方法に準じて塩酸脱灰後、水洗して粗コラーゲンを得た。この粗コラーゲンを20倍量(重量)の水に懸濁し、これにBacillus subtilis由来の蛋白加水分解酵素、天野エンザイム(株)製のプロテアーゼN「アマノ」Gを粗コラーゲンに対し1.0%の割合となるよう添加して55℃で3時間加水分解し、「酵素加水分解物Aの調製」の活性炭処理に準じて脱臭脱色を行い、濃縮、粉末化してコラーゲン酵素加水分解物を得た。このコラーゲン酵素加水分解物のGPC法により求めた数平均分子量は1010であった。
【0020】
実施例2:骨代謝改善効果の確認
SD系雌ラット(6週齢、1群6〜7匹)27匹に卵巣摘出手術を施し、カルシウムを0.01%、リンを0.3%含む低カルシウム食で28日間飼育し、骨粗鬆症モデルラットを作製した。その後、この骨粗鬆症モデルラットを、カルシウムおよびリンを0.3%含み、蛋白質源としてはカゼインのみを用いた飼料を与えた群をP0群(対照群)とし、飼料中の蛋白質の一部を酵素加水分解物Bと代替した試験群3群の計4群に分け、35日間飼育した。試験群は、飼料中の酵素加水分解物Bを、0.5g/kg・bwt/day(kg・bwtはラット体重kg、以下同様)摂取する群をP0.5群、1.0g/kg・bwt/day摂取する群をP1.0群、2.0g/kg・bwt/day摂取する群をP2.0群とした。
【0021】
各飼料中に含まれる粗タンパク質、炭水化物、脂質、カルシウム、リンなどはすべての飼料で一定になるように調整した。飼料および脱イオン蒸留水は共に自由摂取させた。どのラットも飼料は投与量のほとんどすべてを摂取し、食べ残りや飼料の散らかしはほとんどなかった。
【0022】
飼育期間中の体重増加量と飼料摂取量は、4群間において有意な差は見られなかった。飼育終了後に後肢骨格筋、大腿骨、脛骨、腰椎を摘出し、DXA法(ALOKA社製 DCS-600R)による骨密度測定および骨破断特性装置(飯尾電気製 DYN-1255)による骨強度測定を行った。その結果(平均値±標準偏差)を表1に示した。
【0023】
【表1】

*:P0群との有意差(p<0.05)
**:P0群との有意差およびP0.5群との有意差(p<0.05 )
【0024】
表1の結果から、コラーゲン酵素加水分解物は、ラット脛骨の骨密度と大腿骨灰化重量および大腿骨破断エネルギーを統計的に有意に増加させ、骨代謝の改善作用を有することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の骨代謝改善剤は、骨を丈夫にして骨強度の低下を抑制、改善することよって高齢者や閉経女性の骨折の予防と寝たきりになるのを防ぎ、生活の質の向上に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンの酵素加水分解物またはゼラチンの酵素加水分解物を有効成分とする骨代謝改善剤。
【請求項2】
酵素が、細菌またはカビ由来の蛋白加水分解酵素である、請求項1に記載の骨代謝改善剤。
【請求項3】
酵素加水分解物の平均分子量が15kDa以下である、請求項1または2に記載の骨代謝改善剤。
【請求項4】
骨密度、骨灰化重量、および骨破断エネルギーを増加させて骨を丈夫にする請求項1から3の何れか1項に記載の骨代謝改善剤。

【公開番号】特開2008−231065(P2008−231065A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75731(P2007−75731)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【Fターム(参考)】