説明

骨形成促進用カルシウム製剤。

【課題】骨形成を十分に促進することができる骨形成促進用カルシウム製剤を提供する。
【解決手段】平均粒子径が0.05〜0.1μmの炭酸カルシウムを含有することを特徴とする骨形成促進用カルシウム製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨形成促進用カルシウム製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は、骨密度が低下して骨が脆くなる骨の老化病である。骨粗鬆症は、日常生活における大腿骨頚部骨折や脊髄骨圧迫骨折の危険性を高め、いわゆる寝たきり老人発生の原因にもなることから、高齢化社会の進む今日特に問題になっている。このような骨粗鬆症を予防するには、カルシウムを含有する食品やサプリメントを十分に摂取して骨形成を促進することが有効であると考えられている。
【0003】
しかしながら、カルシウムの摂取量に対する生体内への吸収率には限界があるため、単にカルシウムを摂取するだけでは骨形成の促進効果は十分に得られない。そこで、摂取されるカルシウムを微細な粒子にするなどの加工をすることで、カルシウムの吸収率の向上や骨形成の促進を図る方法がいくつか提案されている。
【0004】
例えば、粗砕し洗浄された牡蠣殻,帆立貝殻,あわび貝殻または珊瑚を、これら貝殻または珊瑚それぞれの有機質骨格構造の崩壊温度以下の温度に保持して均質に乾燥し、該乾燥物を縄折込式動作を示す円筒型遠心流動粉砕機により摩砕することを特徴とする活性吸収型カルシウム粉体の製造方法(特許文献1参照)、コウイカの骨又は甲羅を粒径分級平均値70μ以下に微粉化してこれを主材料とするカルシウム剤(特許文献2参照)、粒径が20〜650nmであり、(長径/短径)が1.5以下である粒子からなるカルシウム粉体(特許文献3参照)、などが提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法は、必ずしも満足できるものではなく、骨形成をさらに促進することができる骨形成促進用カルシウム製剤が求められている。
【0006】
【特許文献1】特開平5−155775号公報
【特許文献2】特開平8−59486号公報
【特許文献3】特開2007−332062号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、骨形成を十分に促進することができる骨形成促進用カルシウム製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、炭酸カルシウム粉末を微細化し、その平均粒子径を0.05〜0.1μmの範囲内にすることにより、上記課題を解決されることを見出し、その知見に基づいて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、平均粒子径が0.05〜0.1μmの炭酸カルシウムを含有することを特徴とする骨形成促進用カルシウム製剤、からなっている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の骨形成促進用カルシウム製剤は、骨組織カルシウム量の増加の促進に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の骨形成促進用カルシウム製剤の製造方法は特に限定されず、自体公知の方法を用いることができる。以下に、好ましい骨形成促進用カルシウム製剤の製造方法を例示する。例えば、水にグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルを加え、約45〜75℃で攪拌・溶解する。得られた溶液に炭酸カルシウム粉末を加えて炭酸カルシウム粉末を含有するスラリーを調製し、該スラリーを被粉砕物として湿式粉砕機により粉砕処理する。粉砕処理により微細化された炭酸カルシウムを含有する粉砕スラリーにデキストリンなどの賦形剤を加えて分散し、得られた分散液を乾燥することにより骨形成促進用カルシウム製剤を得る。
【0012】
本発明の骨形成促進用カルシウム製剤の原料として用いられる炭酸カルシウム粉末としては、食品として利用可能なものであれば特に制限はないが、例えばホタテ貝殻由来の炭酸カルシウム粉末であって、平均粒子径が1.0〜100μmのものが好ましく用いられる。このような炭酸カルシウム粉末としては、例えばリビカルH−1(理研ビタミン社製)などが商業的に製造・販売されており、本発明ではこれを用いることができる。
【0013】
上記炭酸カルシウム粉末を含有するスラリー100質量%中の炭酸カルシウム粉末、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルおよび水の含有量に特に制限はないが、例えば炭酸カルシウム粉末が通常約10〜30質量%、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルが通常約0.1〜1.0質量%、残余が水となるように調整するのが好ましい。また、該スラリーの粘度の調整あるいはpHの調整の目的で、該スラリーに適量の無水クエン酸、クエン酸三ナトリウムなどを添加してもよい。
【0014】
湿式粉砕機は、粉砕室内に充填されたガラスビーズ、ジルコニアビーズ等を分散メディアとして被粉砕物スラリーを微粉砕するものであり、例えばDYNO−MILL MULTI LAB(ウイリー・エ・バッコーフェン社製)、MINICER(アシザワファインテック社製)、サンドミル(新東工業社製)、或いはビーズミル(ファインテック社製)などが挙げられ、これらはワンパス方式または循環方式で使用することができる。湿式粉砕機に使用する分散メディアとしては、ジルコニア、アルミナ、チタニア、窒化珪素、スチール、ガラスなどの材質のビーズを使用することができる。このなかでも、ジルコニア製のビーズが耐久性、耐磨耗性の観点から好ましい。
【0015】
賦形剤を分散させるための装置としては特に限定されず、例えば、攪拌機、加熱用のジャケット及び邪魔板等を備えた通常の攪拌・混合槽を用いることができる。装備する攪拌機としては、例えばTKホモミクサー(プライミクス社製)またはクレアミックス(エムテクニック社製)などの高速回転式分散・乳化機が好ましく用いられる。該分散・乳化機の操作条件としては、例えば実験室用の小型機では、回転数約2000〜20000rpm、攪拌時間約5〜60分間を例示できる。
【0016】
上記分散液の乾燥方法としては、例えば、噴霧乾燥、ドラム乾燥、ベルト乾燥、真空乾燥あるいは真空凍結乾燥などが挙げられ、好ましくは噴霧乾燥である。噴霧乾燥装置としては特に制限は無く、噴射式噴霧乾燥装置または回転円盤式噴霧乾燥装置など、公知の装置を使用することができる。また、噴霧乾燥の操作条件としては、例えば分散液を加圧ノズル式噴霧乾燥装置に供給し、熱風入口温度約120〜200℃、好ましくは約140〜190℃、排気温度約70〜140℃、好ましくは約85〜100℃の条件下で噴霧乾燥し、乾燥物をサイクロンで捕集することにより、骨形成促進用カルシウム製剤を得ることができる。
【0017】
本発明の骨形成促進用カルシウム製剤に含有される炭酸カルシウムの平均粒子径は約0.05〜0.1μmが好ましく、約0.06〜0.09μmがより好ましい。該平均粒子径が0.1μmを超えると、骨形成促進の効果が十分に得られないため好ましくない。一方、該平均粒子径が0.05μm以下になると、炭酸カルシウム粒子が凝集し分散状態が保たれなくなるため好ましくない。
【0018】
本発明の骨形成促進用カルシウム製剤の好ましい実施態様の一例は、該製剤100質量%中、炭酸カルシウムを約4〜70質量%、好ましくは約10〜50質量%、賦形剤(例えば、デキストリンなど)を約20〜95質量%、好ましくは約40〜80質量%、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステルを約0.01〜5.0質量%、好ましくは約0.1〜1.0質量%含有する粉末である。
【0019】
本発明の骨形成促進用カルシウム製剤は、後述の試験例に示すように骨形成を促進させる作用を有するため、骨粗鬆の治療または予防に高い効果が期待できる。また、本発明の骨形成促進用カルシウム製剤は、安全性の高いものであり、使用制限なしに食品や飲料に添加して使用できる。
【0020】
本発明の骨形成促進用カルシウム製剤を食品や飲料に添加して用いる場合、これらの形態に特に制限はなく、例えば該製剤の他に慣用の食品添加物を加えたジュース、コーヒー等の飲料、スープ等の液状食品、牛乳、カレー等の乳状又はペースト状食品、ゼリー、グミ等の半固形状食品、ガム、豆腐、サプリメント等の固形状食品、あるいは粉末状食品、マーガリン、マヨネーズ、ドレッシング等の油脂含有食品等が挙げられる。
【0021】
また、本発明の骨形成促進用カルシウム製剤そのものを経口用組成物として経口的に摂取することができる。経口用組成物の形態としては、錠剤、顆粒剤、細粒剤、丸剤、散剤、カプセル剤(硬カプセル剤及び軟カプセル剤を含む)、トローチ剤、チュアブル剤、液剤(ドリンク剤)などが挙げられる。
【0022】
本発明の骨形成促進用製剤または該製剤を添加した飲食品を摂取する場合、有効成分である炭酸カルシウムの成人(体重60kg)1日当たりの用量は、特に制限はないが、例えば、通常、約0.01〜100g、好ましくは約0.05〜10gの範囲である。この用量を、1回でまたは数回に分けて摂取するとよい。
【実施例】
【0023】
以下に本発明を実施例および試験例に基づいて、より具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
[実施例]
5000ml容ステンレス製容器に水1516mlおよびグリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムW−70;理研ビタミン社製)4gを入れ、70℃の温水浴中で攪拌機(スリーワンモーターFBL−600:HEIDON社、5cm径4枚羽根型攪拌翼1段装着)を用いて500rpm、約5分間攪拌・溶解した。得られた溶液に炭酸カルシウム粉末(商品名:リビカルH−1;理研ビタミン社製)400gおよびクエン酸三ナトリウム40gを加え、70℃の温水浴中で該攪拌機を用いて500rpm、約5分間攪拌・分散し、分散液を得た。得られた分散液に無水クエン酸10gを少量づつ加え、70℃の温水浴中で、該攪拌機で500rpm、約5分間攪拌・分散し、更に分散助剤として微結晶セルロース(商品名:セオラスSC−900;旭化成ケミカルズ社製)30gを加え、70℃の温水浴中で、該攪拌機を用いて500rpmで約5分間攪拌・分散し、炭酸カルシウムを含有するスラリー2000gを調整した。得られたスラリーの液性を、pHメーターを用いて測定した結果、pH7.24であった。
【0025】
上記スラリーを、湿式粉砕機(装置名:DYNO−MILL MULTI LAB;ウイリー・エ・バッコーフェン社製;粒径0.65mmのジルコニアメディア使用)に供給し、周速14.0m/sec、流速360cc/minの条件で、ワンパス方式により第1回目の粉砕処理を行い、粉砕スラリー900gを得た。
【0026】
第1回目の粉砕処理により得られた粉砕スラリーを、湿式粉砕機(装置名:MINICER;アシザワファインテック社製;粒径0.30mmのジルコニアメディア使用)に供給し、周速12.0m/sec、流速200cc/minの条件で、循環方式(循環サイクル10回)により第2回目の粉砕処理を行い、粉砕スラリー600gを得た。
【0027】
第2回目の粉砕処理により得られた粉砕スラリー600gに賦形剤としてデキストリン(商品名:パインデックス#2;松谷化学工業社製)148.7gを加え、TKホモミキサー(T.K.HOMOMIXER MARK II;プライミクス社製)を用いて10000rpmで10分間攪拌・分散した後、スプレードライヤー(型式:L−8i型;大川原化工機社製)で入口温度180℃、排気温度90℃にて乾燥・粉末化し、骨形成促進用カルシウム製剤(実施品)176gを得た。
【0028】
[比較例]
上記実施例と同様に炭酸カルシウム粉末を含有するスラリーを調整し、該スラリーを粉砕処理することなく実施例と同様に乾燥・粉末化し、骨形成促進用カルシウム製剤(比較品)290gを得た。
【0029】
[骨形成促進用カルシウム製剤の粒度分析]
上記実施例および比較例により得られた骨形成促進用カルシウム製剤(実施品および比較品)の粒度分析を、HOLIBA LA−950(製品名;堀場製作所社製)を用いてレーザー回折法により実施した。その結果求められた実施品および比較品の粒度分布のグラフをそれぞれ図1および図2に示す。なお、粒子の質量頻度(%)を示す縦軸のスケールが図1と図2のグラフで異なるため、粒度分布のピーク全体の面積が実施品のものと比較品のもので見掛け上異なるが、粒度分析の方法に両者の差異はない。
【0030】
続いて、得られた粒度分布に基づいて実施品および比較品の平均粒子径を求めた。具体的には、粒度分布の質量頻度を粒子径の小さい方から積算していき、積算値50%となる粒度(粒子径)を平均粒子径とした。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
[骨形成促進効果の試験例]
以下に、本発明の骨形成促進用カルシウム製剤による骨形成促進効果の試験例について説明する。
【0033】
〈試験方法〉
上記実施例および比較例により得られた骨形成促進用カルシウム製剤(実施品および比較品)を各々精製蒸留水に懸濁し、炭酸カルシウム量が6mg/mlの懸濁液を調製した。成長期の被験ラット(5週齢;雄)15匹をA群(n=5)、B群(n=5)およびC群(n=5)とに無作為に割り付け、A群を実施品投与群、B群を比較品投与群、C群を対照群とした。A群には実施品に対応する懸濁液を、B群には比較品に対応する懸濁液を、C群には対照として精製蒸留水を、各々被験ラットに1日1回(投与量:被験ラット体重100g当たり上記懸濁液1ml)、14日間経口投与した。最終投与の24時間後、各群について骨組織カルシウム量(mg/g)を測定した。
【0034】
〈骨組織カルシウム量の測定方法〉
ラットから大腿骨を摘出しその筋肉組織を除去して骨組織を得た。該骨組織を約10℃の0.25Mショ糖溶液に移し、該溶液中で該骨組織から骨髄を除去し、さらに該骨組織を骨幹部と骨幹端部のものとに分離した。得られた骨幹部および骨幹端部の骨組織を80℃の乾燥機内のシャーレ上で8時間乾燥し、乾燥した骨組織の重量を各々測定した。乾燥した骨組織を試験管に入れ、これに濃硝酸を加えて120℃で約16時間加熱分解し、得られた溶液をカルシウム測定試料とした。このカルシウム測定試料中のカルシウム重量を、カルシウム測定用キット(製品名:カルシウムテスト和光;和光純薬社製)を用いて測定し、測定されたカルシウム重量(mg)、上記乾燥した骨組織の重量(g)および下記数式に基づいて骨組織カルシウム量(mg/g)を算出した。
【0035】
【数1】

【0036】
〈結果〉
実施品投与群と対照品投与群に、骨幹部および骨幹端部骨組織カルシウム量(mg/g)を集計し、各群の被験ラット5匹の骨組織カルシウム量の平均値および標準誤差を算出した。結果を表2に示した。
集計された各群のデータに基づき、対応のあるt検定(paired t−test)を行った結果、以下の4群の対比に有意差が認められた。
実施品投与群(骨幹部)vs比較品投与群(骨幹部) : 危険率1%
実施品投与群(骨幹端部)vs比較品投与群(骨幹端部) : 危険率1%
実施品投与群(骨幹部)vs対照群(骨幹部) : 危険率1%
実施品投与群(骨幹端部)vs対照群(骨幹端部) : 危険率1%
この結果は、本発明の骨形成促進用カルシウム製剤が骨組織カルシウム量の増加の促進に特に有用であることを示すものである。
【0037】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】骨形成促進用カルシウム製剤(実施品)の粒度分布を示すグラフ
【図2】骨形成促進用カルシウム製剤(比較品)の粒度分布を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.05〜0.1μmの炭酸カルシウムを含有することを特徴とする骨形成促進用カルシウム製剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−209058(P2009−209058A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51492(P2008−51492)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(390010674)理研ビタミン株式会社 (236)
【Fターム(参考)】