説明

骨移植用縫合具

【課題】骨補填材と自家骨を容易に締結する。
【解決手段】少なくとも1本の生体親和性材料からなる縫合糸2と、該縫合糸2に少なくとも1つ設けられ、該縫合糸2より高い剛性を有する針状の硬質部3とを備える骨移植用縫合具1を提供する。本発明によれば、硬質部3を先頭にして骨補填材や自家骨の貫通孔に挿入することにより、柔らかい縫合糸2を容易に貫通孔内に案内して通すことができる。また、湿潤した自家骨に通すことにより縫合糸2がふやけてしまった後も挿入性を維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨移植用縫合具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、脊髄が圧迫されることで発症する病気を治療する手術として、脊髄を囲む脊柱管の後方部である椎弓を縦方向に切開し、その隙間に骨補填材を移植することにより、脊柱管を広げて脊髄を除圧する椎弓形成手術が知られている(例えば、非特許文献1参照。)。このときに、椎弓の切開面に設けた貫通孔と骨補填材の貫通孔とに縫合糸を通して結ぶことにより、骨補填材を椎弓に固定する方法が用いられている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】成尾整形外科病院webページ、はくざん通信、第36号、頸椎の手術2,[平成21年12月検索],インターネット<URL: http://www.naruoseikei.com/hakuzan/hakuzan36.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、椎弓および骨補填材に設けられた貫通孔は直径2mm程と小さく、特に椎弓おいては体内に存在し湿潤した状態であるため、貫通孔に柔らかい縫合糸を通す作業は困難である。さらに、椎弓の貫通孔に縫合糸を通すと縫合糸がふやけてしまい、その後に縫合糸を貫通孔に通す操作が一層困難になるという問題がある。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、骨補填材および自家骨に設けられた貫通孔に容易に縫合糸を通すことができる骨移植用縫合具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、少なくとも1本の生体親和性材料からなる縫合糸と、該縫合糸に少なくとも1つ設けられ、該縫合糸より高い剛性を有する針状の硬質部とを備える骨移植用縫合具を提供する。
本発明によれば、自家骨に設けた貫通孔と骨補填材の貫通孔とに縫合糸を通して縫合糸の両側を結ぶことにより、骨補填材を自家骨に固定して移植することができる。この場合に、縫合糸より剛性の高い硬質部を先頭にして貫通孔内に通すことにより、柔らかい縫合糸であっても容易に貫通孔内に案内して通すことができる。
【0007】
上記発明においては、前記縫合糸が、1本であってもよい。
このようにすることで、縫合糸の貫通孔への挿入性を向上することができる。
また、上記発明においては、前記縫合糸が、環状であってもよい。
このようにすることで、縫合糸を自家骨および骨補填材の貫通孔に通した後に、貫通孔から突出した縫合糸の一部を自家骨または骨補填材の角にかけることにより、手技をより簡便にすることができる。
【0008】
また、上記発明においては、前記縫合糸が、複数本であり、互いに異なる色であってもよく、互いに異なる径寸法を有していてもよい。
このようにすることで、手術部位に縫合糸が複数本存在していても、各縫合糸を容易に識別することができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記硬質部が、1つであってもよい。
また、上記発明においては、前記硬質部が、手術針であってもよい。
このようにすることで、より容易に縫合糸を自家骨および骨補填材の貫通孔に通すことができる。
また、上記発明においては、前記硬質部が、接着剤により前記縫合糸を部分的に硬化することにより形成されていてもよい。
このようにすることで、縫合糸の一部に容易に硬質部を形成することができる。
【0010】
また、上記発明においては、前記硬質部が、前記縫合糸の一部と他の部分とを互いに接合することにより形成されていてもよい。
このようにすることで、縫合糸の一部に容易に硬質部を形成することができる。
また、上記発明においては、前記硬質部は、その内部に前記縫合糸が長手方向に移動可能に挿入された筒状部材からなってもよい。
このようにすることで、縫合糸を貫通孔に通す際に、縫合糸の挿入方向や挿入位置など応じて硬質部を移動させ、様々な術式に用いることができる。
【0011】
また、上記発明においては、前記硬質部は、一端が鉤状に形成された細線部材からなってもよい。
このようにすることで、細線部材の鉤状に形成された一端に縫合糸を引っ掛ける、または、一端から取り外すことにより、硬質部を容易に縫合糸に着脱することができる。
また、上記発明においては、前記硬質部が、約20mmの長さ寸法を有していてもよい。
このようにすることで、硬質部の長さ寸法を骨補填材の貫通孔の長さ寸法と略同一にし、骨補填材の貫通孔に硬質部をより通しやすくすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、骨補填材および自家骨に設けられた貫通孔に容易に縫合糸を通すことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る骨移植用縫合具を示す全体構成図である。
【図2】図1の骨移植用縫合具を用いて骨補填材を椎弓に固定する方法を説明する図である。
【図3】骨補填材の椎弓への固定が完了したときの状態を示す図である。
【図4】図1の骨移植用縫合具の変形例であり、1本の縫合糸の両端に硬質部を設けた例を示す図である。
【図5】図1の骨移植用縫合具のもう1つの変形例であり、2本の縫合糸の一端に硬質部を設けた例を示す図である。
【図6】図1の骨移植用縫合具のもう1つの変形例であり、1本の環状の縫合糸の一部に硬質部を設けた例を示す図である。
【図7】図1の骨移植用縫合具のもう1つの変形例であり、2本の縫合糸の端の位置をずらして硬質部を設けた例を示す図である。
【図8】図1の骨移植用縫合具のもう1つの変形例であり、環状の縫合糸に、ヘアピン状の細線部材からなる硬質部を設けた例を示す図である。
【図9】環状の縫合糸を用いて骨補填材を椎弓に固定する方法を説明する図である。
【図10】図1の骨移植用縫合具のもう1つの変形例であり、環状の縫合糸に、筒状の硬質部を設けた例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る骨移植用縫合具1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る骨移植用縫合具1は、図1に示されるように、1本の縫合糸2と、該縫合糸2の一端に設けられた硬質部3とを備えている。
【0015】
縫合糸2は、生体親和性の高い材質のもの、例えば、絹や、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレン、ポリブテステル、ポリグルタミン酸、ポリL−乳酸、ポリディオキサンまたはトリメソイルクロリドなどの合成繊維からなるものが用いられる。縫合糸2は、0.3〜0.6mm程度の直径寸法を有するものが用いられる。
【0016】
硬質部3は、接着剤を使用して縫合糸2の先端部分を硬化させることにより形成されている。接着剤としては、硬化した状態において、縫合糸2より高い剛性を有しかつ水に難溶性を示すもの、例えば、光硬化型樹脂や、エポキシ系、ポリウレタン系またはシリコーン系などの樹脂材料、または、シーリング剤やフィブリン糊などの生体由来材料が用いられる。このようにして形成された硬質部3は、縫合糸2の他の部分より高い剛性を有しつつ、十分に小さい直径寸法を有するので徒手で湾曲させることができる可撓性を有する。また、硬質部3は、使用される骨補填材の貫通孔の長さ寸法と同程度、例えば、椎弓形成手術に使用される場合には20mm程度の長さ寸法を有する。
【0017】
このように構成された骨移植用縫合具1の作用について、椎弓形成手術を例に挙げて以下に説明する。
本実施形態に係る骨移植用縫具1を用いて骨補填材Aを自家骨である椎弓Bの切開部位に固定して移植するには、図2に示されるように、椎弓Bの一部を縦方向に切開し、その各切開面Cに骨移植用縫合具1を通すための小さな貫通孔Dを穿孔しておく。
【0018】
硬質部3を、一方の椎弓Bの貫通孔Dに切開面Cと反対側の面から通し、次に骨補填材Aの貫通孔Eに通し、次に他方の椎弓Bの貫通孔Dに切開面C側から通す。このときに、貫通孔D,Eの長手方向に対して斜め方向から硬質部3を挿入するときは、硬質部3を徒手により湾曲した形状に癖付けし、その先端を挿入方向に向けながら貫通孔D,Eに挿入する。次に、図3に示されるように、椎弓Bの切開部に骨補填材Aを挿入し、椎弓Bの各貫通孔Dから延びた縫合糸2の両端を結ぶことにより、骨補填材Aを椎弓Bの切開部位に固定することができる。
【0019】
このように、本実施形態によれば、縫合糸2の一部を硬化して剛性の高い硬質部3を形成することにより、柔らかい縫合糸2を容易に貫通孔D,E内に案内して通すことができる。また、一度椎弓Bの貫通孔D内を通ることにより縫合糸2がふやけてしまっても、硬質部3の剛性は保たれるので、その後も容易に貫通孔D,E内に縫合糸2を通すことができる。さらに、接着剤として生体由来材料を用いた場合には、硬質部3を切除することなくそのまま体内に残すことにより、手術をより簡便にすることができる。また、貫通孔D,Eへの挿入方向や貫通孔D,Eの形状に沿うように適宜硬質部3を徒手で変形させることにより、硬質部3を容易に所望の方向へ操作することができる。
【0020】
なお、上記実施形態においては、硬質部3が、縫合糸2の一端を接着剤で硬化することにより形成されていることとしたが、これに代えて、手術針であってもよい。
このようにしても、縫合糸2を貫通孔D,Eに容易に通すことができる。
【0021】
また、上記実施形態においては、1本の縫合糸2の一端に1つの硬質部3が設けられていることとしたが、縫合糸2および硬質部3の数は用途に応じて適宜変更することができる。例えば、図4に示されるように、1本の縫合糸2の両端に硬質部3が設けられていてもよい。
このようにすることで、縫合糸2を異なる方向から貫通孔D,Eに通すことが可能になる。したがって、例えば、先に骨補填材Aの貫通孔Eに一方の硬質部3を通して骨補填材Aの両側に1つずつ硬質部3を配置してから、各硬質部3を椎弓Bの各貫通孔Dに切開面C側から通すなど、多様な術式に用いることができる。
【0022】
また、図5に示されるように、複数本(図示する例では2本)の縫合糸2の端部を束ねた状態で接着することにより、複数本の縫合糸2の一端に1つの硬質部3が設けられていてもよい。また、図6に示されるように、1本の環状の縫合糸2の一部を折って束ねた状態で接着することにより、環状の縫合糸2に1つの硬質部3が設けられていてもよい。このようにすることで、縫合糸2が1本のときと同様の手順で容易に複数本の縫合糸2を貫通孔D,Eに通すことができる。
なお、両端が切れている1本の縫合糸2の両端を束ねた状態で接着して硬質部3を形成することにより、縫合糸2を環状に形成してもよい。
【0023】
また、図5に示されるように、複数本の縫合糸2を備える場合、各縫合糸2の色または直径を互いに異ならせることが好ましい。また、図6に示されるように、1本の縫合糸を環状に形成して用いる場合、その長手方向の略中心位置から色または直径を異ならせることが好ましい。このようにすることで、貫通孔D,Eに複数本の縫合糸2を通した後に、硬質部3を切除したり縫合糸2を途中位置で切断したりしてそれまで1つにまとめられていた縫合糸2を複数にばらし、各縫合糸2の両端を結ぶ場合に、各縫合糸2を色または太さから容易に識別することができる。
【0024】
また、縫合糸2の複数の端部を束ねた状態で接着する場合には、例えば、図7に示されるように、1本の縫合糸2の端部の位置をもう1本の縫合糸2の端部の位置からずらした状態で接着してもよい。このようにすることで、硬質部3のより径寸法の小さい部分が先に貫通孔D,Eに挿入されるので、端部の位置を揃えて接着した場合と比べてさらに容易に複数本の縫合糸2を貫通孔D,Eに通すことができる。
【0025】
また、上記実施形態においては、縫合糸2の一部を接着剤により硬化させて硬質部3を形成することとしたが、これに代えて、縫合糸2の一部分と他の部分とを互いに接合させることにより硬質部3を形成することとしてもよい。例えば、縫合糸2が合成繊維などの熱可塑性材料からなる場合には、縫合糸2の複数の端部を束ねた状態で加熱して融着させることにより、これらを接合させてもよい。
このようにしても、縫合糸2の一部に他の部分より剛性の高い硬質部3を簡便な方法で形成することができる。
【0026】
また、上記実施形態においては、硬質部3が、図8に示されるように、一端が鉤状に屈曲してヘアピン状に形成された金属などの細線部材から構成されていてもよい。
このようにすることで、縫合糸2を鉤状に形成された部分に引っ掛ける、または、鉤状に形成された部分から取り外すだけで容易に硬質部3を縫合糸2に着脱することができる。また、細線部材の直径や材料を適切に選択することにより、接着剤で硬化して硬質部3を形成した場合と同様に、硬質部3を徒手で容易に湾曲させることができる。
【0027】
なお、この場合、縫合糸2は、両端が切断されていてもよいが、環状であることが好ましい。このようにすることで、縫合糸2がその長手方向に引っ張られても、硬質部3から抜けてしまうことがないので、作業中に硬質部3から縫合糸2が外れてしまう煩わしさを解消することができる。
【0028】
また、このようにして環状の縫合糸2を用いる場合、縫合糸2を椎弓Bおよび骨補填材Aの貫通孔D,Eに通して硬質部3を縫合糸2から取り外した後、縫合糸2の貫通孔Dから突出したループ状の部分を、図9に示されるように、骨補填材Aの角にかける。これにより、縫合糸2をハサミ等で2本に切ったり結んだりすることなく、より簡便に骨補填材Aを椎弓Bに固定することができる。
【0029】
また、上記実施形態においては、硬質部3が、図10に示されるように、筒状部材からなり、その内部に縫合糸2が移動可能に貫通して挿入されていてもよい。この場合、硬質部3は、縫合糸2より高い剛性を有しつつ、貫通孔のD,Eの形状に沿って湾曲可能な可撓性を有する材料、例えば、シリコーンなどからなることが好ましい。また、この場合、図10には環状の縫合糸2を用いた例が示されているが、複数本の縫合糸2が束ねられた状態で硬質部3に挿入されてもよい。また、硬質部3に挿入された複数本の縫合糸2は、結んだり接着したりすることにより互いに接続されて端が閉じた状態でもよく、互いに切り離されて端が開いた状態でもよい。
【0030】
このように構成された骨移植用縫合具1を用いて骨補填材Aを椎弓Bに固定するには、例えば、硬質部3を、縫合糸2の一端側に寄せた状態で、切開した一方の椎弓Bの貫通孔Dに切開面C側から挿入して縫合糸2を貫通孔Dに通し、縫合糸2をそのままの位置に保持したまま硬質部3のみを先ほど貫通した貫通孔Dに逆方向に貫通させる。次に、硬質部3を、縫合糸2の他端側に移動させ、骨補填材Aの貫通孔Eに通し、続けて、椎弓Bのもう一方の貫通孔Dに切開面C側から通す。このように、硬質部3の位置を任意に移動可能にすることにより、多様な術式に用いることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 骨移植用縫合具
2 縫合糸
3 硬質部
A 骨補填材
B 椎弓
C 切開面
D 椎弓の貫通孔
E 骨補填材の貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1本の生体親和性材料からなる縫合糸と、
該縫合糸に少なくとも1つ設けられ、該縫合糸より高い剛性を有する針状の硬質部とを備える骨移植用縫合具。
【請求項2】
前記縫合糸が、1本である請求項1に記載の骨移植用縫合具。
【請求項3】
前記縫合糸が、環状である請求項1に記載の骨移植用縫合具。
【請求項4】
前記縫合糸が、複数本であり、互いに異なる色である請求項1に記載の骨移植用縫合具。
【請求項5】
前記縫合糸が、複数本であり、互いに異なる径寸法を有する請求項1に記載の骨移植用縫合具。
【請求項6】
前記硬質部が、1つである請求項1に記載の骨移植用縫合具。
【請求項7】
前記硬質部が、手術針である請求項1に記載の骨移植用縫合具。
【請求項8】
前記硬質部が、接着剤により前記縫合糸を部分的に硬化することにより形成されている請求項1に記載の骨移植用縫合具。
【請求項9】
前記硬質部が、前記縫合糸の一部と他の部分とを互いに接合することにより形成されている請求項1に記載の骨移植用縫合具。
【請求項10】
前記硬質部は、その内部に前記縫合糸が長手方向に移動可能に挿入された筒状部材からなる請求項1に記載の骨移植用縫合具。
【請求項11】
前記硬質部は、一端が鉤状に形成された細線部材からなる請求項1に記載の骨移植用縫合具。
【請求項12】
前記硬質部が、約20cmの長さ寸法を有する請求項1に記載の骨移植用縫合具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−136092(P2011−136092A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298968(P2009−298968)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(304050912)オリンパステルモバイオマテリアル株式会社 (99)
【Fターム(参考)】