説明

骨粗鬆症の治療法

骨粗鬆症の治療法および関連する方法を開示する。これらの方法は概して、治療を必要としている患者にトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)またはその類縁体の有効量を投与する段階を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する特許出願
本出願は、2009年3月30日提出の米国特許仮出願第61/164,856号の恩典および優先権を主張し、図面を含むその内容は全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般には疾患の治療法、特に骨粗鬆症および関連する障害の治療法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
骨粗鬆症は世界中で何百万もの人々を苦しめている健康上の大きな問題である。この病気は閉経後の女性に最も多く見られるが、50歳を超える男性のかなりの割合でも起こる。グルココルチコイドを使用している患者、および前立腺癌または乳癌のいずれかに対するホルモン除去療法を受けている患者では、骨損失および骨粗鬆症が特に著しい。骨粗鬆症患者において、骨密度(BMD)および骨量(BMC)の減少により骨の脆弱性および骨折の危険度が高まっている。骨粗鬆症は平均余命および生活の質に著しく影響をおよぼしうる。
【0004】
エストロゲン置換療法は、それが癌発生率の上昇に関連していることが判明するまでは、長い間閉経後の女性において骨粗鬆症を予防するための主なアプローチであった。例えば、Prentice et al., Am. J. Epidemiol., 170(1):12-23 (2009)(非特許文献1)参照。ビスホスホネートは1990年代半ばに初めて開発され、骨粗鬆症に対する主な薬学的手段になった。しかし、経口ビスホスホネートは吸収が悪く、食道の炎症を伴うことが多い。最近、デノスマブなどのRANKL標的指向抗体が、骨再吸収を低減させる際の有効な薬剤としていくらか有望視されている。例えば、McClung et al., N. Engl. J. Med., 354(8):821-31 (2006)(非特許文献2)参照。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Prentice et al., Am. J. Epidemiol., 170(1):12-23 (2009)
【非特許文献2】McClung et al., N. Engl. J. Med., 354(8):821-31 (2006)
【発明の概要】
【0006】
発明の概要
意外にも、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)が破骨細胞性骨再吸収の阻害、骨損失の低減、および骨粗鬆症の治療において有効であることが明らかにされている。したがって、第一の局面において、本発明は、患者の破骨細胞性骨再吸収を低減する方法であって、治療を必要としている患者に、以下の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の破骨細胞性骨再吸収を阻害する量を投与する段階を含む方法を提供する。
【0007】
第二の局面において、骨粗鬆症の治療法であって、治療を必要としている患者に、以下の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療上有効な量を投与する段階を含む方法が提供される。一つの態様において、この方法を、女性の閉経後骨粗鬆症(PMO)を治療または予防するために用いる。もう一つの態様において、この方法を、前立腺癌または乳癌のいずれかに対するホルモン除去療法を受けている患者における骨損失または骨格関連事象(骨折など)を治療する、予防する、またはその危険度もしくは発生率を低減するために用いる。さらにもう一つの態様において、この方法を、全身グルココルチコイド治療を開始または継続している男性および女性におけるグルココルチコイド誘導性骨粗鬆症(GIO)の予防および治療のために用いる。
【0008】
さらにもう一つの局面において、本発明は、ページェット病の治療法であって、治療を必要としている患者に、以下の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療上有効な量を投与することによる方法を提供する。
【0009】
加えて、本発明は、癌の骨転移を予防する、またはその開始を遅らせる方法であって、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の有効量を、癌(例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、リンパ腫または多発性骨髄腫)を有すると特定または診断されたが、骨転移は伴わない患者に投与し、それにより癌の骨転移を予防する、またはその開始を遅らせる段階を含む方法も提供する。
【0010】
本発明は、骨転移を伴う癌を有する患者における骨損失または骨格関連事象(骨折など)を治療する、予防する、またはその危険度もしくは発生率を低減する方法であって、骨に転移した癌を有する患者を特定する段階、および式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療上有効な量を患者に投与する段階を含む方法をさらに提供する。
【0011】
さらにもう一つの局面において、本発明は、神経内分泌腫瘍を有する患者における骨損失または骨格関連事象(骨折など)を治療する、予防する、またはその危険度もしくは発生率を低減する方法であって、治療を必要としている患者に、以下の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療上有効な量を投与することによる方法を提供する。
【0012】
本発明は、骨転移を伴う癌の治療法であって、骨に転移した癌を有する患者を特定する段階、および式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療上有効な量を患者に投与する段階を含む方法をさらに提供する。
【0013】
もう一つの局面において、本発明は、破骨細胞性骨再吸収を低減する、骨粗鬆症を治療する、予防する、またはその発症を遅らせる、ページェット病を治療する、またはその発症を予防する、もしくは遅らせる、あるいは癌の骨転移を治療する、予防する、もしくはその開始を遅らせる、または骨転移を伴う癌を治療するのに有用な薬剤を製造するための、以下の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の使用を提供する。
【0014】
本発明の前述および他の利点および特徴、ならびに本発明が達成される様式は、以下の本発明の詳細な説明を、好ましい例示的態様を示す添付の実施例と共に考察することで、より容易に明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)による処理が破骨細胞の分化を阻害することを示すグラフである。
【図2】図2は、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)(「薬物」)がカテプシンK、NFAT2およびTRAP遺伝子発現を著しく阻害することを示す図である。
【図3】図3は、卵巣切除したラットにおけるトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)の1日単位(daily)での投与(「1日単位薬物」)が、卵巣切除した未処置ラットと比べて、骨密度の増大に関連することを示す棒グラフである。
【図4】図4は、卵巣切除したラットにおけるトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)処置(「1日単位薬物」)が、卵巣切除した未処置ラットと比べて、血清オステオカルシンの低減に著しく関連することを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、部分的には、化合物トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)が、哺乳動物において破骨細胞の成熟もしくは形成を阻害し、骨再吸収を低減し、骨損失を予防し、それにより骨密度を維持もしくは増大させることにおいて特に有効であるという発見に基づいている。
【0017】
したがって、第一の局面において、本発明は、患者の破骨細胞性骨再吸収を低減する方法であって、治療を必要としている患者を、式(I)のガリウム錯体またはその薬学的に許容される塩の破骨細胞性骨再吸収を阻害する量で治療する段階を含む方法を提供する

式中、R1は水素、ハロゲンもしくはスルホノ基SO3Mを意味し、ここでMは金属イオンであり、かつR2は水素を意味するか、またはR1はClであり、かつR2はIである。この方法は、破骨細胞性骨再吸収の低減および骨格関連事象(例えば、骨損失および/または骨密度の低減)などの関連症状の軽減を引き起こすことができる。すなわち、本発明は、ヒトを含む哺乳動物における破骨細胞性骨再吸収を低減し、骨損失を予防もしくは減速し、骨密度の低下を予防もしくは減速し、または骨格関連事象(例えば、骨折、骨損失など)を予防もしくはその発生率を低減するための薬剤を製造するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量の使用を目的とする。
【0018】
好ましい態様において、ガリウム錯体はトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)

またはその薬学的に許容される塩である。
【0019】
もう一つの局面において、本発明は、骨粗鬆症を治療する、予防する、またはその発症を遅らせる方法を提供する。この方法は、治療する、予防する、またはその発症を遅らせることを必要としている患者を、式(I)のガリウム錯体またはその薬学的に許容される塩の治療上有効な量で治療する段階を含む

式中、R1は水素、ハロゲンもしくはスルホノ基SO3Mを意味し、ここでMは金属イオンであり、かつR2は水素を意味するか、またはR1はClであり、かつR2はIである。すなわち、本発明は、骨粗鬆症を治療する、予防する、またはその発症を遅らせるための薬剤を製造するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の有効量の使用を目的とする。
【0020】
好ましい態様において、ガリウム錯体はトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)

またはその薬学的に許容される塩である。
【0021】
したがって、本発明は、骨粗鬆症または骨減少症の治療法であって、治療を必要としている患者を、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)の治療上有効な量で治療する段階を含む方法を提供する。本発明は、そのような治療を必要としている患者(例えば、骨粗鬆症発生の傾向または高い危険度を有する患者)において、骨密度の低下を減速する、骨粗鬆症の発症を遅らせる、または骨密度を増大させる方法であって、患者を、骨密度の低下を減速する、骨密度を増大させる、骨量を増大させる、または骨粗鬆症の発症を遅らせるのに十分な量のトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)で治療する段階を含む方法も提供する。
【0022】
骨粗鬆症は一般に全身性骨損失または低骨密度によって特徴付けられる。本発明の方法は、閉経後骨粗鬆症、ステロイドもしくはグルココルチコイド誘導性骨粗鬆症、年齢関連骨粗鬆症、関節リウマチもしくは癌によって誘導される骨粗鬆症、骨軟化症、特発性骨粗鬆症、またはページェット病などの骨粗鬆症を含むが、それらに限定されるわけではない、任意の全身性骨損失または低骨密度を治療する、またはその発症を遅らせる際に有用である。
【0023】
本発明の様々な方法の様々な態様において、任意に治療または予防を必要としている患者を特定する段階を含むことができる。例えば、骨粗鬆症または骨減少症または低骨密度を有する患者を、当技術分野における任意の診断法または基準により、例えば、骨密度(BMD)を、例えば、二重エネルギーX線吸収測定法(DXAまたはDEXA)、血清マーカー、X線などを用いて測定することにより、診断することができる。
【0024】
同様に、骨粗鬆症または全身性もしくは局所骨損失を発生する危険度が高い患者の特定は、一般には当技術分野において公知である。例えば、骨損失および骨粗鬆症発生の可能性増大に典型的に関連する危険因子を有する患者を特定することができる。骨粗鬆症の公知の危険因子には、閉経後期;ステロイドもしくはグルココルチコイド使用:特に女性における年齢:関節リウマチ、骨軟化症、およびページェット病などの疾患;歯周病;骨折;ならびに人工器官周囲骨溶解が含まれるが、それらに限定されるわけではない。加えて、骨転移を伴う、または伴わない特定の型の癌(例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、多発性骨髄腫または神経内分泌腫瘍)を有する患者、および前立腺癌または乳癌のいずれかに対するホルモン除去療法を受けている患者はすべて、骨損失、骨折、骨格関連事象の頻度増大、および骨粗鬆症の危険度が高い。
【0025】
したがって、いくつかの態様において、そのような治療、予防または遅延を必要としている女性に、式(I)の化合物(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))を投与することにより、女性の閉経後骨粗鬆症(PMO)を治療する、またはその発症を予防する、もしくは遅らせるために、本発明の方法を用いる。他の態様において、骨粗鬆症患者の骨折、骨格関連事象の危険度もしくは発生率を低減するため、または骨損失を低減する、もしくは骨量を増大させるために、この方法を用いる。
【0026】
他の態様において、男性および女性、特に慢性疾患に対する全身グルココルチコイド治療(例えば、1日用量がプレドニソン7.5mg以上である)を開始または継続している患者におけるグルココルチコイド誘導性骨粗鬆症(GIO)または骨格関連事象を治療する、予防する、またはその発症を遅らせるために、この方法を用いる。この方法は、そのような治療、予防または遅延を必要としている患者に、式(I)の化合物(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))を投与する段階を含む。
【0027】
さらにいくつかの他の態様において、前立腺癌または乳癌のいずれかに対するホルモン除去療法を受けている患者に式(I)の化合物(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))を投与することにより、そのような患者における骨粗鬆症、特に骨損失または骨折または骨格関連事象を治療する、その発症を予防する、もしくは遅らせる、またはその危険度を低減するために、この方法を適用する。
【0028】
さらにいくつかの他の態様において、癌(例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、リンパ腫、多発性骨髄腫または神経内分泌腫瘍)に関連する、骨粗鬆症または低骨密度または骨損失または骨折などの骨格関連事象を治療する、その発症を予防する、もしくは遅らせる、またはその危険度を低減するために、この方法を適用する。特に、本発明において用いる化合物を、骨転移を伴う、または伴わない癌(例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、多発性骨髄腫または神経内分泌腫瘍)を有すると特定された患者に投与し、それにより骨粗鬆症、特に骨損失、低骨密度、骨折、または骨格関連事象(例えば、重度骨痛、病的骨折、脊髄圧迫)を治療する、その発症を予防する、もしくは遅らせる、またはその危険度を低減することができる。特に、神経内分泌腫瘍は異常な副甲状腺ホルモンレベルを引き起こすことが多く、したがって低骨密度、骨損失、骨粗鬆症または骨格関連事象を随伴することが多い。したがって、具体的態様において、本発明は、神経内分泌腫瘍を有する患者における低骨密度、骨損失、骨粗鬆症または骨格関連事象(骨折など)を治療する、予防する、またはその危険度もしくは発生率を低減する方法を提供する。
【0029】
加えて、本発明は、例えば、歯周病、骨折、人工器官周囲骨溶解に関連する、任意の限局性骨損失を治療する、またはその発症を遅らせる際にも有用である。
【0030】
さらにもう一つの態様において、治療を必要としている患者に、以下の式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療上有効な量を投与することにより、ページェット病を治療または予防するために、本発明を用いる。
【0031】
さらに、破骨細胞および骨再吸収の阻害は、腫瘍細胞の骨への移動および骨における腫瘍成長の予防または阻害をもたらしうる。したがって、本発明は、癌(例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、リンパ腫または多発性骨髄腫)の骨転移を予防する、またはその開始を遅らせる方法であって、癌(例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、リンパ腫または多発性骨髄腫)を有すると特定または診断されたが、骨転移を伴わない患者に、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の有効量を投与し、それにより癌骨転移を予防する、もしくはその開始を遅らせ、かつ/または骨転移のない生存を延長する段階を含む方法も提供する。一つの態様において、この方法は、癌(例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、リンパ腫、多発性骨髄腫)を有するが、骨転移を伴わない患者を特定する段階をさらに含む。
【0032】
加えて、骨転移を伴う癌の治療法であって、骨に転移した癌(例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、リンパ腫または多発性骨髄腫)を有する患者を特定する段階、および患者に式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療上有効な量を投与する段階を含む方法も提供される。
【0033】
本発明の方法に従い、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の治療上有効な量を単剤として単独で用いることもでき、または1つもしくは複数の他の薬剤(例えば、抗癌剤および抗骨粗鬆症剤)との組み合わせで用いることもできる。例えば、本発明の化合物を、追加のカルシウムおよび/またはビタミンDの投与も受けている患者に投与してもよい。
【0034】
本明細書において用いられる「・・・により・・・を治療すること」なる語句は、化合物を患者に投与すること、または患者の内部で化合物の生成を引き起こすことのいずれかを意味する。
【0035】
本発明に従い、破骨細胞性骨再吸収を低減するため、および骨粗鬆症、低骨密度または骨折などの骨格関連事象を治療または予防するために有用な薬剤を製造するための、式(I)の化合物を有する化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の使用が提供される。
【0036】
式(I)の薬学的化合物を、皮内、筋肉内もしくは静脈内注射、または経口投与もしくは任意の他の適当な手段により、患者の全体重に基づく体重1kgあたり0.01mgから1000mgの量で投与することができる。活性成分をあらかじめ決められた間隔で、例えば、1日に4回投与してもよい。前述の用量範囲は例示にすぎず、本発明の範囲を限定する意図はないことが理解されるべきである。活性化合物の治療上有効な量は、当業者には明らかであろうとおり、用いる化合物の活性、患者体内での活性化合物の安定性、軽減する状態の重症度、治療する患者の全体重、投与経路、体による活性化合物の吸収、分布、および排出の容易さ、治療する患者の年齢および感受性などを含むが、それらに限定されるわけではない、因子によって変動しうる。投与の量は、経時的に様々な因子が変化するのに合わせて調節することができる。
【0037】
例えば、化合物トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)を、封入ゼラチンカプセル剤または圧縮錠剤の形で経口送達することができる。カプセル剤および錠剤は、結合剤、賦形剤、滑沢剤、および甘味料または着香料などの適当な薬学的に許容される担体と共に、任意の通常の技術により調製することができる。
【0038】
適当な経口製剤は、懸濁剤、シロップ剤、チューインガム、カシェ剤、エリキシル剤などの剤形であってもよい。望まれる場合には、特別な剤形の香味、味、色、および形状を改変するための通常の物質を含むこともできる。加えて、嚥下不可能な患者における経腸栄養管による簡便な投与のために、活性化合物をオリーブ油、トウモロコシ油およびベニバナ油などの許容される親油性植物油媒体に溶解することもできる。例えば、緩衝化溶液または懸濁液中の注射用剤形は一般に当技術分野において公知である。
【0039】
本発明のもう一つの局面に従い、容器内に式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩(例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III))の単位剤形;および任意に本発明の方法においてキットを用いるための説明書を含む、薬学的キットが提供される。当業者には明らかであろうとおり、単位剤形中の治療化合物の量は、本発明の方法において患者に用いる用量によって決定される。キットにおいて、例えば、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)は錠剤もしくはカプセル剤または任意の他の適当な剤形中に、例えば、単位剤形あたり0.01mgから約3000mgの量でありうる。
【実施例】
【0040】
実施例
1. 破骨細胞に対するトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)のインビトロ効果
マウス骨髄細胞を、2匹の1〜2ヶ月齢マウス(C57BL/6)の大腿骨および脛骨から流し出し、100mmの皿内の培地(10%熱不活化ウシ胎仔血清、100国際単位/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン、および2mM L-グルタミンを補充したアルファMEM)に蒔き、5%CO2中、37℃で終夜インキュベートした。翌日、非接着細胞をペレット化し、200,000細胞/cm2の密度で播種した。次いで、破骨細胞前駆体をsRANKL(30ng/ml)およびM-CSF(30ng/ml)存在下で培養し、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)またはGaNO3もしくはDMSO(対照として)のいずれかで処理した。第3日に培地を交換して、第6日に成熟破骨細胞を得た。トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)による処理のために、DMSO中にトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)を溶解することにより調製した薬物保存溶液を細胞培養中に加えて、最終濃度0.2nM、2nM、0.02μM、0.2μM、2μM、20μM、50μM、または100μMとした。処理終了時に、破骨細胞調製物をSigmaの白血球酸ホスファターゼキットを用いてTRAP活性用に染色し、TRAP染色多核細胞を計数した。具体的には、TRAP染色を行い、各ウェルの5つの領域を撮影した。4つ以上の核を有する細胞の数を計数した。図1は、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)による処理が破骨細胞前駆体の多核細胞への融合を著しく阻害し、したがって、破骨細胞分化/生成を阻害することを示している(3つの試料の平均±SD;DMSOおよびGaNO3(3.9μM、39μM)に比べてp<0.05)。
【0041】
破骨細胞マーカー遺伝子(TRAP、カテプシンKおよびNFAT2)の遺伝子発現分析のためにRNAも単離した。全RNAをDMSOまたはトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)で処理した破骨細胞から抽出し、mRNAをリアルタイムRT-PCRを用いて測定した。mRNAの相対レベルをβ-アクチンに対して規準化し、次いでDMSO処理した細胞の刺激の倍率で表した。図2は、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)(「薬物」)がカテプシンK、NFAT2およびTRAP遺伝子発現を著しく阻害することを示している。
【0042】
結論として、トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)は破骨細胞分化/成熟を阻害する際に非常に有効である。
【0043】
2. トリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)のインビボ効果
Sprague-Dawley雌ラット(100〜125グラム、約12週齡)をTaconic(Hudson, New York)から購入した。これらをそれぞれ8匹の5群に分けた。4群は卵巣切除し、1群は偽手術した。ラットを以下の様式で処置した:第1群の卵巣切除したラットに、各週の第1日から第5日まで、15mg/kgトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)を経口投与した(「1日単位」);第2群の卵巣切除したラットを、各週の第1日に、75mg/kgトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)で処置した(「週単位」);第3群の卵巣切除したラットを、各週の第1日に、38mg/kgGa(NO3)3で処置した(「週単位」);第4群の卵巣切除したラットを、媒体のみ(0.1%カルボキシメチルセルロース)で処置した;第5群のラットを偽手術し、媒体のみ(0.1%カルボキシメチルセルロース)を投与した。実験終了時(化合物の初回投与の32日後)に、動物を麻酔した。脛骨について、領域の骨密度(BMD)および骨量(BMC)を、X線pixiMUSマウス濃度計を用い、二重エネルギーX線吸収測定により測定した。図3に示すとおり、卵巣切除したラットへのトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)の1日単位での投与(「1日単位薬物」)は、卵巣切除した未処置ラット(「媒体」)に比べて、骨密度増大に関連していた。
【0044】
ラットから血液を採取し、室温で少なくとも30分間放置した後、200×gで10分間遠心分離して、血清を分離した。血清を、オステオカルシンを含む血清マーカーの測定に用いた。オステオカルシンをELISAで測定した。オステオカルシンは骨リモデリングの過程で骨芽細胞によってのみ産生される。これは骨細胞外基質の最も豊富な非膠原タンパク質である。Weinreb, M., Shinar, D. & Rodan, G.A. J. Bone Miner. Res. 5, 831-842 (1990)参照。オステオカルシン欠乏マウスは高い骨量および機能的な質が改善された骨を示すことが明らかにされている。Ducy et al., Nature. 382, 448-452 (1996)。したがって、オステオカルシンは骨形成の負の調節物質であり、血清オステオカルシンの低減は骨量増大につながりうる。図4に示すとおり、卵巣切除したラットのトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)による処置(「1日単位薬物」)は、媒体のみで処置した卵巣切除ラット(「媒体」)に比べて、血清オステオカルシンの低減に著しく関連していた。したがって、これはトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)が骨粗鬆症治療のために有用であることをさらに確認するものである。
【0045】
3. 骨モデルにおけるトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)の定量的効果
セクション2に記載のとおりに誘導したマウス骨髄細胞を16穴BD BioCoat(商標) Osteologic(商標) Discsに蒔き、培地プラスsRANKL(30ng/ml)およびM-CSF(30ng/ml)中200,000細胞/cm2の密度で播種する。細胞を様々な濃度のトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)(0.0002、0.002、0.02、0.2、2、20μM)で処理する。顕微鏡により、SPOT Advancedソフトウェアを用いて、再吸収領域を定量するために、同様の培地交換を2日に1回8日まで実施する。
【0046】
本明細書において言及するすべての出版物および特許出願は、本発明が属する分野の技術者のレベルを示している。すべての出版物および特許出願は、それぞれ個々の出版物または特許出願が参照により本明細書に組み入れられると具体的かつ個別に示されているのと同程度に、参照により本明細書に組み入れられる。出版物および特許出願の単なる言及は必ずしも、それらが本出願の先行技術であるとの容認をなすものではない。
【0047】
前述の発明を、理解を明確にするために、例示および実施例によって幾分詳細に記載してきたが、添付の特許請求の範囲内で特定の変更および改変を行いうることが明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者における破骨細胞性骨再吸収を低減するための薬剤を製造するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用

式中、R1は水素、ハロゲンもしくはスルホノ基SO3Mを意味し、ここでMは金属イオンであり、かつR2は水素を意味するか、またはR1はClであり、かつR2はIである。
【請求項2】
骨粗鬆症を治療または予防するための薬剤を製造するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用

式中、R1は水素、ハロゲンもしくはスルホノ基SO3Mを意味し、ここでMは金属イオンであり、かつR2は水素を意味するか、またはR1はClであり、かつR2はIである。
【請求項3】
前記薬剤が、女性の閉経後骨粗鬆症(PMO)を治療または予防するために有用である、請求項2記載の使用。
【請求項4】
前記薬剤が、骨粗鬆症の患者における骨折などの骨格関連事象の危険度もしくは発生率を低減するため、骨損失を低減するため、または骨量を増大するために有用である、請求項2〜3のいずれか一項記載の使用。
【請求項5】
前記薬剤が、男性および女性におけるグルココルチコイド誘導性骨粗鬆症(GIO)を治療または予防するために有用である、請求項2〜4のいずれか一項記載の使用。
【請求項6】
前記薬剤が、前立腺癌または乳癌のいずれかに対するホルモン除去療法を受けている、癌を有する患者における骨粗鬆症、低骨密度、骨損失、または骨折などの骨格関連事象を治療もしくは予防する、またはその危険度を低減するために有用である、請求項1または2記載の使用。
【請求項7】
前記薬剤が、歯周病、骨折、または人工器官周囲骨溶解に関連する、任意の限局性骨損失を治療する、またはその発症を遅らせるために有用である、請求項1または2記載の使用。
【請求項8】
ページェット病を治療または予防するための薬剤を製造するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用

式中、R1は水素、ハロゲンもしくはスルホノ基SO3Mを意味し、ここでMは金属イオンであり、かつR2は水素を意味するか、またはR1はClであり、かつR2はIである。
【請求項9】
癌(例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、リンパ腫または多発性骨髄腫)の骨転移を予防する、またはその開始を遅らせるための薬剤を製造するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用

式中、R1は水素、ハロゲンもしくはスルホノ基SO3Mを意味し、ここでMは金属イオンであり、かつR2は水素を意味するか、またはR1はClであり、かつR2はIである。
【請求項10】
癌(例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、リンパ腫、多発性骨髄腫または神経内分泌腫瘍)に関連する低骨密度、骨損失、骨粗鬆症、または骨格関連事象(骨折など)を治療もしくは予防する、またはその危険度を低減するために有用な薬剤を製造するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用

式中、R1は水素、ハロゲンもしくはスルホノ基SO3Mを意味し、ここでMは金属イオンであり、かつR2は水素を意味するか、またはR1はClであり、かつR2はIである。
【請求項11】
骨転移を伴う癌(例えば、肺癌、乳癌、前立腺癌、リンパ腫または多発性骨髄腫)を治療するために有用な薬剤を製造するための、式(I)の化合物またはその薬学的に許容される塩の使用

式中、R1は水素、ハロゲンもしくはスルホノ基SO3Mを意味し、ここでMは金属イオンであり、かつR2は水素を意味するか、またはR1はClであり、かつR2はIである。
【請求項12】
前記化合物がトリス(8-キノリノラト)ガリウム(III)である、請求項1〜11のいずれか一項記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−522789(P2012−522789A)
【公表日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503634(P2012−503634)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/029285
【国際公開番号】WO2010/114861
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(509023584)ニッキ ファーマ インク. (7)
【Fターム(参考)】