説明

骨粗鬆症予防・治療剤及び健康食品

【課題】骨粗鬆症に予防・治療効果を有する天然由来の成分を含む新たな薬剤を提供する。
【解決手段】鶏血藤を有効成分とする骨粗鬆症予防・治療剤、及び骨粗鬆症用健康食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨粗鬆症予防・治療剤及び健康食品に関する。より詳細には鶏血藤を有効成分とする骨粗鬆症予防・治療剤及び健康食品に関する。
【背景技術】
【0002】
骨組織は、骨芽細胞により形成され、破骨細胞により破壊・吸収が絶え間なく繰り返される動的な組織である。
この骨吸収と骨形成のバランスが崩れて発生するのが骨粗鬆症であり、骨形成よりも骨吸収が過多に傾くことに起因している。骨粗鬆症に罹患すると、骨組織の石灰が減少して骨の緻密質が薄くなり、骨髄腔が広くなる。そして、症状が進むに連れて骨の強度が低下し、小さな衝撃でも骨折しやすくなる。
【0003】
骨粗鬆症の患者は、その症状自体よりも、骨の弱化に起因する各種骨折(特に大腿骨骨折や脊椎骨折)によって、生活や活動が長時間制限されたり、背骨の変形や腰痛、寝たきりの原因になる等、健康な生活を営むことができなくなるとう問題がある。
【0004】
骨の強度には「骨密度」と「骨質」の2つが関係している。「骨密度」とは骨に含まれるミネラルの量で、「骨質」とは骨の微細構造や骨の代謝の状態である。以前は骨量が減ることが骨粗鬆症を引き起こす原因として重視されていたが、骨密度がそれほど低くなくても骨折する場合があることから、最近では骨質も重視されるようになってきている。
【0005】
骨粗鬆症は、閉経による女性ホルモンの変化等のホルモンのアンバランスの他、栄養のアンバランス、運動不足、他の病気や病気の治療薬などによって骨の代謝に異常が生じ、骨密度が減ったり、骨質が悪くなることで発症することが知られている。
【0006】
また、骨粗鬆症は、原因によって大きく「原発性」と「続発性」に分けられる。
原発性骨粗鬆症は、病気や薬が原因で起こるのではなく、加齢などに関係して起こり、女性の閉経後や、加齢により発症するもので、骨粗鬆症の約9割を占めている。女性の場合、閉経期に入るとエストロゲンの分泌量が急速に減少するが、この際、インターロイキン−7(IL−7)によってBリンパ球が多量に生成され、骨随にB細胞前駆体が蓄積され、これによりインターロイキン−6(IL−6)の量が増加して、これが破骨細胞の活性を高める結果、骨量が減少してしまうことが知られている。
【0007】
続発性骨粗鬆症は、病気や薬などが原因で起こり、病気のために骨を作る栄養素やホルモンの不足が生じ、骨の代謝に様々な影響が出る。続発性骨粗鬆症の原因となる病気には糖尿病や副腎等の内分泌系の病気、胃切除、重い肝臓病、血液の病気、性腺機能低下症、関節リウマチ、慢性閉塞性肺疾患等がある。また、病気の治療に用いる薬(代表的なものはステロイド剤(副腎皮質ホルモン))の副作用で骨粗鬆症になる場合もある。
【0008】
上述したように、骨折を起こさない限り、骨粗鬆症には自覚症状がほとんど無いが、治療せずに放っておくと、骨量がどんどん減っていき、転倒などの軽い衝撃でも骨折を起こす危険性が高まる。
【0009】
特に、高齢になってからの骨折は、寝たきりの原因となる等、大きな社会問題にもなってきている。2004年の厚生労働省の調査によれば、寝たきり等で介護が必要となる原因の第3位は「骨折・転倒」(10.8%)であった。最近では、骨や筋肉等の運動機能が衰えた状態を「運動器不安定症」と呼んでいるが、骨粗鬆症はその原因の1つとされている。
【0010】
また、骨粗鬆症で背骨が変形し、背中が丸くなると、胃や肺、心臓などを圧迫し、他の病気を引き起こすこともあり得る。そのようになることを避けるためにも、高齢者や、骨粗鬆症を引き起こす要因を持っている場合には、骨粗鬆症を予防することが重要であり、また、骨粗鬆症と診断された場合には骨量の減少が進まないように治療を行うことが重要である。
【0011】
骨粗鬆症の予防・治療に有効とされる生薬からなる薬剤としては、例えば、熟地黄と骨砕補又はそれらの抽出物を有効成分とする薬剤(特許文献1)、鼠麹草を有効成分として含有する薬剤(特許文献2)、Jatropha macranthaを含有する薬剤(特許文献3)、レタスの種、沈香、イネ、乳香、白朮及び菟絲子を含む組成物(特許文献4)等が知られている。
【0012】
一方、「鶏血藤」は、従来、於血の治療に用いられることが知られている生薬である。その主成分はmilletol(C2950)と鉄であり、薬理作用は補血行血、舒筋活絡、降圧作用であると言われている。
臨床応用としては、補血と活血去風による循環状態の改善や鎮痛、風湿によるしびれ痛の改善、虚弱な老人や婦人の慢性の風湿の改善、老人の手足の萎縮、無力、しびれ、麻痺、眩暈の改善、月経不順、無月経による腹痛の改善に使用する。また、最近では、腫瘍の放射線治療による白血球減少に使用すると、速効性があり、白血球数が増加し、効果も持続すると言われている。
【0013】
また、漢方の世界では、更年期骨粗鬆症に対する治療法の一つの方薬として、補骨脂、杜仲、鍛牡蠣、鼈甲、仙霊脾、炙甘草等と組み合わせて鶏血藤を用いることがあるが、鶏血藤自体に骨粗鬆症を予防・治療する作用があることは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2005−330290号公報
【特許文献2】特許第3909391号公報
【特許文献3】特許第3916993号公報
【特許文献4】特許第4332659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記現状の中、本発明者は、新たな骨粗鬆症に予防・治療効果を有する天然由来の成分を見出すべく、各種生薬について検討したところ、鶏血藤と呼ばれる生薬が骨吸収抑制による骨量増加作用及び骨強化作用を有し、骨粗鬆症の予防・治療に有効であることを見出し、本発明を完成させた。
本発明の目的は、鶏血藤を有効成分とする骨粗鬆症の予防・治療剤及び鶏血藤を含む骨粗鬆症用健康食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、以下の骨粗鬆症予防・治療剤及び骨粗鬆症用健康食品が提供される。
1.鶏血藤を有効成分とする骨粗鬆症予防・治療剤。
2.前記鶏血藤が、鶏血藤の抽出物である上記1に記載の骨粗鬆症予防・治療剤。
3.前記鶏血藤の抽出物が、鶏血藤の水抽出物である上記2に記載の骨粗鬆症予防・治療剤。
4.鶏血藤又は鶏血藤の抽出物を含有する骨粗鬆症用健康食品。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、鶏血藤を有効成分とする骨粗鬆症の予防・治療剤及び骨粗鬆症用健康食品が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の鶏血藤を有効成分とする骨粗鬆症予防・治療剤(以下、本発明の薬剤という)は、鶏血藤を有効成分として含有することを特徴とする。投与し易いこと、製剤化し易いことから、鶏血藤が、鶏血藤の抽出物であることが好ましく、さらに簡便性、生体への安全性の観点から、水抽出物であることが好ましい。
【0019】
本発明で用いる「鶏血藤」は公知の生薬であり、例えば、マメ科に属する密花豆(Spatholobus suberectus Dunn)、光葉密花豆(S. harmandii Gagnep)、紅血藤(S. sinensis Chun et T,Chen)、香花崖豆藤(Millettia dielsiana Harms)、豊城崖豆藤(M. nitida Benth. var. hirsutissima Z. Wei)、崖豆藤(M. gentiliana Level)、美麗根崖豆藤(M. speciosa Champ.)、網絡崖豆藤(M. reticulata benth)、常春油麻藤(Mucuna sempervirens Hemsl.)、白花油麻藤(M. birdwoodiana Tutcher)、褐毛藜豆(M. castanea Merr)、巴豆藤(Craspedolobium schochii Harms)、マツブサ科に属する内南五味子(Kadsura interior A. C. Smith)、異型南五味子(K. heteroclita (Roxb.) Craib)、鉄箍散(Schisandra propinqua (Wall.) Baill. var. sinensis Oliv.)を包含する。
【0020】
鶏血藤は、後述する実施例で明らかな通り、優れた骨量増加効果及び骨強化作用を有する。
【0021】
本発明では、上記各種の植物からなる鶏血藤の乾燥した茎、つる、根をそのまま、若しくは切断、粉砕等したものを用いてもよいし、或いは、鶏血藤の乾燥した茎、つる、根と、適当な溶媒(例えば、水又は熱水)とを接触させ、得られた抽出物を用いることもできる。また、抽出物の形状も特に制限されず、液状、軟稠エキス状、粉末状、顆粒状等のものを用いることができる。
【0022】
本発明で用いる鶏血藤の抽出物は、例えば、次のようにして製造することができる。
鶏血藤の茎、つる、根の乾燥物を、水若しくは熱水、アルコール等の有機溶媒に接触させ、必要に応じて加熱することによって抽出する。
鶏血藤の抽出物中の鶏血藤成分濃度は、必要に応じて適宜調整すればよいが、例えば、鶏血藤の乾燥物200gを1Lの水に加え、加熱することで20%とすることができる。得られた20%抽出物を、さらに必要に応じて希釈して用いることができる。
鶏血藤の抽出物はさらに濃縮してエキス状としてもよいし、凍結乾燥して粉末又は顆粒等としてもよい。
【0023】
本発明の薬剤を経口投与する場合、その投与量は特に制限されないが、鶏血藤の茎、つる、根の乾燥物を用いる場合又は抽出物を用いる場合のいずれも、例えば、成人1日当たり、5〜20g程度である。
【0024】
本発明の薬剤を経口投与する場合の剤型としては、特に制限されず、シロップ剤、粉末、顆粒、錠剤、カプセル剤等の公知の経口投与剤型が挙げられる。
【0025】
本発明の薬剤を経口投与剤型とする場合、有効成分(鶏血藤又はその抽出物)以外に、通常用いられる充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、界面活性剤、希釈剤、賦形剤、香味剤等の種々の添加剤を含有させることができる。
【0026】
また、本発明の薬剤には、上記有効成分以外に、骨粗鬆症の予防・治療に有効な薬効成分を配合することもできる。
【0027】
鶏血藤の抽出物を静脈内投与等の非経口的に投与することも可能である。一日当たりの投与量は、投与される患者の年齢、体格、骨粗鬆症の進行状況等に合わせて適宜決定することができる。
【0028】
また、鶏血藤及びその抽出物は、骨粗鬆症の予防・治療を目的として摂取する健康食品(飲料を含む)に添加することができる。
本発明の健康食品の有効成分(鶏血藤又はその抽出物)の配合量は、使用目的(骨粗鬆症の予防・治療、健康維持等)に応じて適宜決定すればよい。
【0029】
本発明の健康食品の種類は特に限定されず、各種の形態、例えば、食品類、菓子類、酪農製品、スープ類、茶、ドリンク類、ビタミン剤、サプリメント等であり得る。
【実施例】
【0030】
[試験例]
下記試験により、鶏血藤及び鶏血藤抽出物が骨吸収抑制効果及び骨強化作用を有することを検証する。
【0031】
(1)鶏血藤抽出物の製造
200gの鶏血藤を1Lの水に加え(20%w/v)、95℃で3時間加熱し、固形分を除去したものを鶏血藤20%抽出物とした。以下の試験ではこれをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で適宜希釈して使用した。
尚、鶏血藤は、具体的には、密花豆(Spatholobus suberectus DUNN)の乾燥茎を用いた。
【0032】
(2)実験動物
32週令のSD系雌性ラットを、一週間予備飼育した後に、卵巣摘出手術を施し、低カルシウム食で2ヶ月間飼育することにより、骨粗鬆症モデルラット(8匹/群で2群)を作製した。
別に、卵巣を摘出しない疑似手術を施したシャムラット群(8匹)を作製した。
上記手術を行わないラットを、対照群(8匹)とした。
【0033】
(3)飼料
投与試験中に実験動物に摂取させる飼料として、下記表1に示す配合割合の飼料を用いた。実験動物には、この飼料を自由摂取させた。この飼料には、カルシウム源としては炭酸カルシウム剤を用い、ビタミンD 200IUを配合した。また、飼料中のカルシウム(Ca)量とリン(P)量は、飼料100g当たり300mgになるようにし、Ca:Pの重量比を1:1とした。
尚、飼料摂取量及び飼料効率には、各動物群の間で差は無かった。
【0034】
【表1】

【0035】
(4)鶏血藤の骨吸収抑制効果の検討
骨粗鬆症モデルラット群には、1ヶ月間、3%又は8%鶏血藤抽出物をそれぞれ毎日1mLずつゾンデにて経口投与し、上記表1の飼料を自由摂取させた。シャムラット群及び対照群には、1ヶ月間、それぞれ毎日、グルコース0.04g及びアルブミン0.04gを含む1mLのPBS溶液をゾンデにて経口投与し、上記表1の飼料を自由摂取させた。
上記投与終了後、各群のラットの大腿骨を摘出し、骨塩量測定装置で骨塩量を測定し、破断特性測定装置で骨強度を測定した。結果を下記表2及び3に示す。
【0036】
【表2】

【0037】
【表3】

【0038】
表2からわかるように、大腿骨の骨塩量は、対照群に比べ、鶏血藤投与群で統計的に有意に高い値を示した。この結果から、鶏血藤には骨吸収抑制による骨量増加作用があることがわかる。
【0039】
さらに、表3からわかるように、大腿骨破断力は、対照群に比べ、鶏血藤投与群で統計的に有意に高い値を示した。この結果から、鶏血藤には骨強化作用があることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明によれば、新たな有効成分を含有する骨粗鬆症予防・治療剤が提供される。
本発明によれば、新たな有効成分を含有する骨粗鬆症予防・治療に有効な健康食品が提供される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鶏血藤を有効成分とする骨粗鬆症予防・治療剤。
【請求項2】
前記鶏血藤が、鶏血藤の抽出物である請求項1に記載の骨粗鬆症予防・治療剤。
【請求項3】
前記鶏血藤の抽出物が、鶏血藤の水抽出物である請求項2に記載の骨粗鬆症予防・治療剤。
【請求項4】
鶏血藤又は鶏血藤の抽出物を含有する骨粗鬆症用健康食品。


【公開番号】特開2012−1455(P2012−1455A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135830(P2010−135830)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(508365850)有限会社漢方歯科医学研究所 (2)
【Fターム(参考)】