説明

髄内釘及び髄内釘を使用した骨折部位の接合方法

【課題】 ラグスクリューの回旋による緩みを防止し安心して長期に亘って使用でき、ラグスクリューの到達深さとラグスクリューとセンタリングスリーブとの相対位置とを一定にし得る髄内釘及び髄内釘を使用した骨折部位の接合方法を提供すること。
【解決手段】 骨折した骨内腔に挿入されるネイルと、ネイルの傾斜貫通孔に挿嵌され、先端部のねじ込み用スクリューによって骨頭部にねじ込まれるラグスクリューと、ネイルとラグスクリューとの間に設けられ、内周面に係合構造、外周面に傾斜貫通孔に刻設されている雌ネジ部と螺合する雄ネジ部とテーパーロック構造を備えるセンタリングスリーブとを具備し、雌ネジ部及び雄ネジ部のネジ条数をねじ込み用スクリューのネジ条数のn倍とし、雌ネジ部及び雄ネジ部のネジピッチをねじ込み用スクリューのネジピッチの1/n倍に設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば大腿骨頸部骨折があった場合に大腿骨内腔に挿入して骨折部位の接合を図る髄内釘及び髄内釘を使用した骨折部位の接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、大腿骨の頸部に骨折があった場合には大腿骨の内腔に「髄内釘」と呼ばれている骨折部位専用の接合器具を挿入して該骨折部位の接合を図っている。従来の髄内釘は下記の特許文献1に示すように大腿骨内腔に挿入されるロッド状のネイルと、該ネイルの斜めに形成された貫通孔に挿嵌され、大腿骨の骨頭部にねじ込まれるラグスクリューと、該ラグスクリューを固定するためのセットスクリューとを具備することによって構成されていた。
【特許文献1】特開平11−137566号公報
【0003】
上記ラグスクリューは先端部に大腿骨の骨頭部にねじ込まれるねじ込み用スクリュー、その後方に周面に長手方向に延びる数本の溝が形成されているシャンク部を備えている。そして、上記セットスクリューの先端部を上記ラグスクリューのシャンク部に形成されている溝に当接させることによって上記骨頭部に対するラグスクリューの緩みを防止するようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の構成によると次のような問題があった。すなわち、上記髄内釘を装着している使用者が歩行等によって大腿骨を動かす動作を繰り返すと、経時的に上記セットスクリューが緩んでラグスクリューの溝に対するセットスクリューの先端部の当接状態が解除される場合がある。このような場合にはラグスクリューが回旋して緩みが発生し、この状態を放置すれば使用者が痛みを感じたり、或いは違和感を感じてしまうという問題があった。
又、当該骨折部位の剥離や骨折部位周辺の更なる損傷等を招くことになる。
又、従来の髄内釘ではラグスクリューの到達深さの設定が困難であり、ラグスクリューの到達深さに「ばらつき」が生じていた。
【0005】
本発明はこのような点に基づいてなされたものでその目的とするところは、ラグスクリューの回旋それによる緩みを防止して安心して長期に亘って使用することができると共に、ラグスクリューの到達深さ、とラグスクリューとセンタリングスリーブとの相対位置とを一定にし得る髄内釘及び髄内釘を使用した骨折部位の接合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するべく本願発明の請求項1による髄内釘は、骨折した骨内腔に挿嵌されるネイルと、上記ネイルに形成されている傾斜貫通孔に挿入され、先端部に設けられているねじ込み用スクリューによって骨頭部に対してねじ込まれるラグスクリューと、上記ネイルとラグスクリューとの間に設けられ、内周面に上記捩込み用スクリュー後方のシャンク部と係合してラグスクリュー単独での軸方向の摺動は許容するが、ラグスクリュー単独での軸回りの回転は規制する係合構造を有すると共に、外周面に上記傾斜貫通穴に刻設されている雌ネジ部と螺合する雄ネジ部と、該雄ネジ部の後部切上り部に設けられるテーパーロック構造とを備えるセンタリングスリーブと、を具備し、上記雌ネジ部及び雄ネジ部のネジ条数は上記ねじ込み用スクリューのネジ条数のn(nは2以上の自然数)倍であり、上記雌ネジ部及び雄ネジ部のネジピッチは上記ねじ込み用スクリューのネジピッチの1/n(nは2以上の自然数)倍に設定されていることを特徴とするものである。
又、請求項2による髄内釘は、請求項1に記載の髄内釘において、上記シャンク部の外周面は断面6角形状に形成されており、上記センタリングスリーブの内周面に設けられる係合構造は上記シャンク部の外周面と係合する断面6角形状の角穴によって形成されていることを特徴とするものである。
又、請求項3による髄内釘は、請求項1又は請求項2に記載の髄内釘において、上記シャンク部の後端部には該シャンク部に挿嵌された上記センタリングスリーブのシャンク部からの脱落を防止する抜止めストッパーが設けられていることを特徴とするものである。
又、請求項4による髄内釘は、請求項1〜請求項3の何れかに記載の髄内釘において、上記シャンク部の後端部にはラグスクリューの到達深さを固定した状態でラグスクリューを締め付け固定することができるラグスクリューレンチの第1係止部に係止される第1係止受け部が設けられており、上記センタリングスリーブの後端部には上記ラグスクリューレンチの第2係止部に係止される第2係止受け部が設けられていることを特徴とするものである。
又、請求項5による髄内釘は、請求項1〜請求項4に記載の髄内釘において、上記ネイルには上記傾斜貫通孔の内周面に到達するネジ孔と、該ネジ孔に螺合するセットスクリューが設けられており、上記セットスクリューの先端部を上記センタリングスリーブの外周面に刻設されている雄ネジ部に当接させる当接位置を可変することによってセンタリングスリーブの取付位置を調節自在に構成したことを特徴とするものである。
又、本願発明の請求項6による髄内釘を使用した骨折部位の接合方法は、請求項1〜請求項4の何れかに記載の髄内釘を使用して骨折部位を接合する骨折部位の接合方法であって、骨折した骨内腔にネイルを挿入して骨幹部に固定するネイル挿入工程と、ラグスクリュー深さ設定リーマを使用してラグスクリューを挿嵌する所定深さのラグスクリュー用下穴を形成するラグスクリュー用下穴形成工程と、センタリングスリーブが装着されたラグスクリューを上記ラグスクリュー用下穴を案内にしながらラグスクリューレンチを使用して骨頭部にねじ込んで行き、所定の深さで締め付け固定するラグスクリュー設置工程と、を具備していることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
したがって、本発明による髄内釘によると、骨折した骨内腔に挿入されるネイルと、上記ネイルに形成されている傾斜貫通孔に挿嵌され、先端部に設けられているねじ込み用スクリューによって骨頭部に対してねじ込まれるラグスクリューと、上記ネイルとラグスクリューとの間に設けられ、内周面に上記ねじ込み用スクリュー後方のシャンク部と係合してラグスクリュー単独での軸方向の摺動は許容するが、ラグスクリュー単独での軸回りの回転は規制する係合構造を有すると共に、外周面に上記傾斜貫通穴に刻設されている雌ネジ部と螺合する雄ネジ部と、該雄ネジ部の後部切上り部に設けられるテーパーロック構造とを備えるセンタリングスリーブとを具備し、上記雌ネジ部及び雄ネジ部のネジ条数は上記捩込み用スクリューのネジ条数のn(nは2以上の自然数)倍であり、上記雌ネジ部及び雄ネジ部のネジピッチは上記捩込み用スクリューのネジピッチの1/n(nは2以上の自然数)倍に設定されているので、まず、センタリングスリーブの雄ねじ部と傾斜貫通孔の雌ねじ部との螺合構造によって、ラグスクリューの不用意な回旋それによる緩みの発生を防止することができる。つまり、センタリングスリーブの雄ねじ部と傾斜貫通孔の雌ねじ部との螺合構造によってセンタリングスリーブの位置は固定され、且つ、ラグスクリューはセンタリングスリーブに対してその回転を規制されているので、結局、ラグスクリューの不用意な回旋それによる緩みの発生を防止することができるものである。又、ラグスクリューのねじ込み用スクリューの移動量と傾斜貫通孔の雌ネジ部とセンタリングスリーブの雄ネジ部との螺合構造部における移動量が同じになるように構成されているので、ラグスクリューを無理なくねじ込むことができるものである。
又、上記シャンク部の外周面は断面6角形状に形成されており、上記センタリングスリーブの内周面に設けられる係合構造は上記シャンク部の外周面と係合する断面6角形状の角穴によって形成されている場合には、比較的簡単な構造によってラグスクリューとセンタリングスリーブとの係合状態が形成され、ラグスクリューはセンタリングスリーブに対して軸方向には自由に摺動できるが、軸回りには単独では回転できないようになる。
又、上記シャンク部の後端部に該シャンク部に挿嵌された上記センタリングスリーブのシャンク部からの脱落を防止する抜止めストッパーを設けた場合には、ラグスクリューからの不用意なセンタリングスリーブの脱落が防止されてラグスクリューとセンタリングスリーブの取り扱いが容易になる。
又、上記シャンク部の後端部にラグスクリューの到達深さを固定した状態でラグスクリューを締め付け固定することができるラグスクリューレンチの第1係止部に係止される第1係止受け部を設け、上記センタリングスリーブの後端部に上記ラグスクリューレンチの第2係止部に係止される第2係止受け部を設けた場合には、ラグスクリューレンチとラグスクリュー及びセンタリングスリーブとの接続が可能になり、ラグスクリュー及びセンタリングスリーブを同時に回してラグスクリュー先端の捩込みスクリューを骨頭部の所定の到達深さに至らせて締め付け固定することが可能になる。
又、上記ネイルに上記傾斜貫通穴の内周面に到達するネジ孔と、該ネジ孔に螺合するセットスクリューを設け、上記セットスクリューの先端部を上記センタリングスリーブの外周面に刻設されている雄ネジ部に当接させる当接位置を可変することによってセンタリングスリーブの取付位置を調節自在に構成した場合には、上記テーパーロック構造によって一律的に定まるセンタリングスリーブの取付位置の他に骨折部位の個所や骨折状況あるいは骨折した骨の大、小等に応じてネイルとセンタリングスリーブあるいはラグスクリューとセンタリングスリーブの相対位置を可変することができる。
又、本発明による髄内釘を使用した骨折部位の接合方法によると、上記それぞれの髄内釘を使用しており、骨折した骨内腔にネイルを挿入して骨幹部に固定するネイル挿入工程と、ラグスクリュー深さ設定リーマを使用してラグスクリューを挿嵌する所定深さのラグスクリュー用下穴を形成するラグスクリュー用下穴形成工程と、センタリングスリーブが装着されたラグスクリューを上記ラグスクリュー用下穴を案内にしながらラグスクリューレンチを使用して骨頭部にねじ込んで行き、所定の深さで締め付け固定するラグスクリュー設置工程とを具備しているので、ラグスクリューの緩みが防止されて安心して長期に亘って髄内釘を使用することができる。又、ラグスクリューの到達深さを一定にすることができるから骨の大きさの違い等に応じてラグスクリューの到達深さを正確に調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図1乃至図6に示す第1の実施の形態を例にとって本発明の髄内釘及び髄内釘を使用した骨折部位の接合方法について具体的に説明する。最初に本発明の髄内釘1の構成について説明する。
尚、以下の説明では大腿骨Aの頸部Bに骨折があった場合を例にとって説明し、当該骨折が直接生じている部位を骨折部位C、大腿骨Aの内図1中、左上に延びている部位(尾てい骨と接続している部位)を骨頭部D、大腿骨Aの内図1中、右上から下方にかけて長く延びている部位を骨幹部E、骨幹部Eの内頸部Bを境にして上部を近位F、下部を遠位G、大腿骨A内部の中空になっている部分を骨内腔Hと定義して説明する。
【0009】
図1は本発明の実施の形態に係る髄内釘の使用状態を示す正面図、図2は同上、髄内釘を示す分解斜視図、図3は同上、ラグスクリュー及びセンタリングスリーブの取付け部位周辺を拡大して示す正断面図である。
本発明の髄内釘1はネイル3とラグスクリュー5とセンタリングスリーブ7とを備えることによって基本的に構成されている。又、本実施の形態ではこれに加えて上記センタリングスリーブ7の取付位置を調整するためのセットスクリュー9と、該セットスクリュー9が収容されている収容室11の開口13を塞ぐプラグ15と、上記ネイル3を固定するための固定スクリュー17とが設けられている。
【0010】
ネイル3は骨折した大腿骨Aにおける骨幹部Eの内部に形成されている骨内腔Hに対して上方から挿入される部材で上記2本の固定スクリュー17、17によって骨幹部Eの遠位Gに固定されるようになっている。
尚、上記固定スクリュー17、17はセルフタップ式のスクリューであり、自ら直接ネジを切って進み、固定できるようになっている。
ネイル3は骨幹部Eの近位Fに取り付けられる径の大きな近位大径部21と、骨幹部Eの遠位Gに取り付けられる径の小さな遠位小径部23と、上記近位大径部21と遠位小径部23との中間に設けられるテーパ状の中間部25とを備える一例としてチタン合金製のロッド状の部材である。
【0011】
近位大径部21には図1、図3中、右下から左上に向けて斜めに貫通する傾斜角θが約130°の傾斜貫通孔27が刻設されている。そして該傾斜貫通孔27の内周面には後述するセンタリングスリーブ7の外周面に刻設されている雄ネジ部31と螺合する雌ネジ部29が刻設されている。
又、近位大径部21には上記傾斜貫通孔27の内周面に到達するネジ孔33が軸方向に延びるように近位大径部21の中心下部に設けられている。このネジ孔33は上方からセットスクリュー9が挿入されて螺合するようになっており、該セットスクリュー9の先端部10を後述するセンタリングスリーブ7の外周面に刻設されている雄ネジ部31に当接させる当接位置を可変することによってセンタリングスリーブ7の取付位置を適宜調節できるようになっている。
【0012】
上記ネジ孔33の上部にはセットスクリュー9を挿入する場合に使用されるセットスクリュー9の締付け用工具35を受け入れるための収容室11が設けられている。又、該収容室11の内周面には雌ネジ部37が刻設されており、上記収容室11の上部の開口13を塞ぐプラグ15の雄ネジ部39と螺合するようになっている。この他、近位大径部21の上端部にはネイル3を骨内腔Hに挿入する場合に使用される打込み工具41の係合凸部42と係合する係合凹部43が形成されている。
【0013】
遠位小径部23は大腿骨Aの骨幹部Eの形状に合わせて、上記近位大径部21に対して僅かに傾斜した角度で設けられている。遠位小径部23の中心には上記傾斜貫通孔27の内周面から遠位23の下端にかけて貫通する貫通孔45が形成されており、遠位小径部23の外周面には長手方向に延びる3本の円弧状の浅溝47が等分配されている。
又、遠位小径部23の上記貫通孔45を横切るように上下2個の固定穴49、49が設けられている。そしてこれらの固定穴49、49には上記2本の固定スクリュー17、17が挿入されて上述したようにネイル3を遠位Gに固定できるようになっている。
【0014】
ラグスクリュー5は上記ネイル3に形成されている傾斜貫通孔27に挿嵌され、先端部に設けられている捩込み用スクリュー51によって骨頭部Dに対して捩じ込まれる一例としてチタン合金製の部材である。ねじ込み用スクリュー51はラグスクリュー5の設置部位に形成されるラグスクリュー用下穴53を案内として直接、骨頭部Dにネジを切りながら進むタップ様の作用を奏する部材である。
具体的には中心に貫通穴55が形成されている軸部57の外周面に螺線状の切込み刃59を形成することによってねじ込み用スクリュー51は構成されており、上記切込み刃59の刃先部には鋸歯状の歯部61が刻設されている。
【0015】
上記ねじ込み用スクリュー51の後方には上記軸部57から延長形状される外周面が一例として断面6角形状のシャンク部63が設けられている。シャンク部63の中心には上記軸部57の中心に形成されている貫通孔55がそのまま延びており、シャンク部63の後端部には抜止めストッパー65が設けられている。
抜止めストッパー65は上記シャンク部63に対して挿嵌される次に述べるセンタリングスリーブ7のシャンク部63からの脱落を防止する部材で、一例として断面6角形状の貫通する角穴67を有する一例としてチタン合金製のパイプ状の部材である。抜止めストッパー65の外周面の直径は上記シャンク部63の外周面の対向する2面間の距離よりも少なくとも大きくなるように設定されており、このように構成することによってセンタリングスリーブ7の内周面の後方端部が上記抜止めストッパー65の前方端部に当接してシャンク部63からのセンタリングスリーブ7の脱落を防止している。又、抜止めストッパー65はシャンク部63の後端部に設けられているシャンク部63の外形より一回り小さな断面6角形状の角棒状の係合軸部69に上記角穴67が嵌合し圧入されることによってシャンク部63に取り付けられるようになっている。又、上記角穴67は後述するラグスクリューレンチ77の第1係止部79に係止される第1係止受け部81になっている。
【0016】
センタリングスリーブ7は上記ラグスクリュー5のシャンク部63に外嵌めされる一例としてチタン合金製の円筒状の部材である。センタリングスリーブ7の内周面は上記ラグスクリュー5におけるシャンク部63の断面6角形状の外形と嵌合する断面6角形状の角穴によって形成されている。
そしてこのような形状のセンタリングスリーブ7の内周面とすることによってラグスクリュー5単独での軸方向の摺動は許容するが、ラグスクリュー5単独での軸回りの回転は規制する係合構造71が構成されている。
【0017】
又、センタリングスリーブ7の外周面には上記傾斜貫通穴27の雌ネジ部29と螺合する雄ネジ部31が設けられており、該雄ネジ部31の後部切上り部にはテーパーロック構造73が形成されている。
尚、上記テーパーロック構造73は上記雄ネジ部31とその後方に連なる大径部75との間に形成されているテーパ面によって構成されており、該テーパ面が上記傾斜貫通穴27の雌ネジ部29の端部に当接することによってセンタリングスリーブ7をネイル3に対して締め付け固定できるようになっている。
又、大径部75の端部周面にはU字溝が4つ等分配されており、該U字溝が後述するラグスクリューレンチ77の第2係止部83に係止される第2係止受け部85になっている。
【0018】
そして本発明の特徴的構成として、上記雌ネジ部29及び雄ネジ部31のネジ条数は上記ねじ込み用スクリュー51のネジ条数のn(nは2以上の自然数)倍であり、上記雌ネジ部29及び雄ネジ部31のネジピッチは上記ねじ込み用スクリュー51のネジピッチの1/n(nは2以上の自然数)倍に設定されている。
因みに本実施例では雌ネジ部29及び雄ネジ部31のネジ条数は3であり、ネジピッチは1mmに設定されている。一方、ねじ込み用スクリュー51のネジ条数は1であり、ネジピッチは3mmに設定されている。
【0019】
次に上記髄内釘1を使用することによって実行される本発明の骨折部位の接合方法について説明する。
図4は本発明の実施の形態に係る髄内釘を使用した骨折部位の接合方法におけるネイル挿入工程を示す説明図、図5は同上、ラグスクリュー用下穴形成工程を示す説明図、図6は同上、ラグスクリュー設置工程を示す説明図、図7は上記ラグスクリュー用下穴形成工程で使用するラグスクリュー深さ設定リーマを示す側面図、図8は上記ラグスクリュー設置工程で使用するラグスクリューレンチを示す側面図である。
本発明の髄内釘を使用した骨折部位の接合方法は(1)ネイル挿入工程と、(2)ラグスクリュー用下穴形成工程と、(3)ラグスクリュー設置工程とを備えることによって基本的に構成されている。以下、これらの工程を図面に基づいて具体的に説明する。
【0020】
(1)ネイル挿入工程(図4参照)
ネイル挿入工程は骨折した骨内腔Hにネイル3を挿入して骨幹部Eに固定する工程である。具体的には図4(a)に示すようにネイル用下穴形成ドリル87によってネイル用下穴89を骨幹部Eの近位Fの上面から骨内腔Hにかけて形成する。
次に図4(b)に示すように形成したネイル用下穴89にネイル3を遠位小径部23を下にして挿入し、打込み工具41を使用して近位大径部21の上端面が近位Fの上面から少し隠れる所定の深さまで打設する。
【0021】
そしてネイル3が所定の深さに打設されたら、ネイル3の遠位小径部23に形成されている固定穴49、49に向けて遠位Gの外方から固定スクリュー17を捩じ込んで行き、該固定スクリュー17によって図4(c)に示すようにネイル3を骨幹部Eの遠位Gに固定する。
尚、ネイル3が遠位Gに固定された状態では傾斜貫通孔27は図1、図3等に示すように右下から左上に向けて貫通する向きになっている。
そしてプラグ15をネイル3の近位部21の上部に取り付けて開口13を塞ぎ、プラグ15の上面がネイル用下穴89が形成された近位Fの周囲の上面とほぼ面一になる状態にする。
【0022】
(2)ラグスクリュー用下穴形成工程(図5、7参照)
ラグスクリュー用下穴形成工程はラグスクリュー深さ設定リーマ91を使用してラグスクリュー5を挿嵌する所定深さのラグスクリュー用下穴53を形成する工程である。
尚、本工程で使用するラグスクリュー深さ設定リーマ91は図7に示すように入れ子状に設けられている円筒状の内刃93及び外刃95と、ラグスクリュー5の到達深さ及びラグスクリュー5とセンタリングスリーブ7との相対位置を設定する固定ノブ97と、上記内刃93及び外刃95を同時に回転させる図示しない駆動装置とを備えることによって基本的に構成されている。
【0023】
本工程では先ず骨折部位C周辺を撮影したX線透視画像等に基づいてラグスクリュー5の到達深さとラグスクリュー5とセンタリングスリーブ7との相対位置を設定し、ラグスクリュー深さ設定リーマ91の固定ノブ97、内刃93及び外刃95の相対位置を決定し固定ノブ97を締めてその位置で固定する。
次に上記各相対位置が固定されたラグスクリュー深さ設定リーマ91を使用して図5(a)に示すように頸部Bの骨幹部E側の側面から掘削を開始し、傾斜貫通穴27の中心を貫いて内刃93の先端を骨頭部D内部の所定の到達深さに至らせる。
尚、このようにして形成されたラグスクリュー用下穴53は図5(b)に示すようにラグスクリュー5におけるねじ込み用スクリュー51用の小径の下穴とセンタリングスリーブ7挿入用の大径の下穴とが組み合わされた形状になっている。
【0024】
(3)ラグスクリュー設置工程(図6、8参照)
ラグスクリュー設置工程はセンタリングスリーブが装着されたラグスクリュー5を上記ラグスクリュー用下穴53を案内にしながらラグスクリューレンチ77を使用して骨頭部Dにねじ込んで行き、所定の深さで締め付け固定する工程である。
尚、本工程で使用するラグスクリューレンチ77は図8に示すように先端部に一例として断面6角形状の凸部によって形成されている第1係止部79を備えた円筒状の内レンチ101と、先端部に一例として4枚の爪部によって形成されている第2係止部83を備えた円筒状の外レンチ103とが入れ子状に組み合わされている。
【0025】
更にラグスクリューレンチ77には上記第1係止部79の到達深さ及び第1係止部79と第2係止部83との相対位置を設定する固定ノブ105と、上記内レンチ101及び外レンチ103を同時に手動操作によって回転させるハンドル107とが設けられている。
本工程では上記第1係止部79をラグスクリュー5のシャンク部63の後端部に取り付けられている抜止めストッパー65における第1係止受け部81になっている角穴67に挿し込んで係合させる。そして上記第2係止部83をセンタリングスリーブ7の大径部75の後端部に形成されている第2係止受け部85に係合させ、上記ラグスクリュー用下穴形成工程において形成したラグスクリュー用下穴53を案内にしてねじ込み用スクリュー51側からラグスクリュー5及びセンタリングスリーブ7を挿入する。
次にハンドル107を握って図6(a)に示すように内レンチ101と外レンチ103を同時に回転させながら上記ラグスクリュー5及びセンタリングスリーブ7を押し込んで行く。
【0026】
ねじ込み用スクリュー51が骨頭部Dの所定の到達深さに到達した時、同時にセンタリングスリーブ7のテーパーロック構造73が傾斜貫通穴27に形成されている雌ネジ部29の後端部に当接した状態になってラグスクリュー5及びセンタリングスリーブ7の進行は停止される。
そして第1係止部79と第1係止受け部81との係止状態と、第2係止部83と第2係止受け部85との係止状態を解除してラグスクリューレンチ77を引き抜けば図6(b)に示すようにセンタリングスリーブ7が装着されたラグスクリュー5の設置が完了する。
【0027】
したがって、本発明の実施の形態に係る髄内釘1及び該髄内釘1を使用した骨折部位の接合方法によれば、まず、ラグスクリュー5の回旋それによる緩みの発生を防止することができる。又、その際、セットスクリュー9による固定は必ずしも必要ではない。すなわち、センタリングスリーブ7の雄ねじ部31と傾斜貫通孔27の雌ねじ部29の螺合構造によってセンタリングスリーブ7の位置は固定されることになる。又、ラグスクリュー5はセンタリングスリーブ7に対してその回転を規制される関係にあるので、結局、ラグスクリュー5の回旋それによる緩みの発生を防止することができるものである。
因みに、ラグスクリュー5は上記センタリングスリーブ7に対して軸方向に対しては移動可能に構成されているので、例えば、使用者に何等かの荷重が作用してそれがラグスクリュー5に軸方向に沿って作用しても、ラグスクリュー5が上記センタリングスリーブ7に対して軸方向に適宜移動することによりこれを吸収することができるものである。
又、上記ねじ込み用スクリュー51のネジ条数及びネジピッチと、上記雌ネジ部29及び雄ネジ部31のネジ条数及びネジピッチとの関係によって、ラグスクリュー5の移動量とセンタリングスリーブ7の雄ねじ部31と傾斜貫通孔27の雌ねじ部29の螺合構造部における移動量を同じにすることができ、それによって、ラグスクリュー5を無理なくねじ込むことができる。
又、ラグスクリュー深さ設定リーマ91とラグスクリューレンチ77の採用によってラグスクリュー5の到達深さと、ラグスクリュー5とセンタリングスリーブ7との相対位置とを一定に保つことができ、体格ないし骨折状況の違う種々の使用者に対応できるようになる。
【0028】
尚、本発明は上述した第1の実施の形態に限定されるものではない。
例えば、ねじ込み用スクリュー51のネジ条数及びネジピッチと、雌ネジ部29及び雄ネジ部31のネジ条数及びネジピッチは上述した関係を満たす範囲内で種々変更でき、一例としてねじ込み用スクリュー51のネジ条数を1、ネジピッチを2mm、雌ネジ部29と雄ネジ部31のネジ条数を2、ネジピッチを1mmにすることも可能である。
又、上記セットスクリュー9をセンタリングスリーブ7の固定手段として使用することも可能である。因みに、上記セットスクリュー9をセンタリングスリーブ7の固定手段として使用した場合にはセンタリングスリーブ7のネイル3に対する取付位置を調節することが可能となる。
【0029】
図9は上記セットスクリュー9を使用することによって実行される本発明の第2の実施の形態に係る髄内釘を使用した骨折部位の接合方法におけるセットスクリュー設置工程を示す説明図である。即ち、本発明の他の実施形態に係る髄内釘を使用した骨折部位の接合方法では、上記(1)ネイル挿入工程と、(2)ラグスクリュー用下穴形成工程と、(3)ラグスクリュー設置工程に加えて、(4)セットスクリュー設置工程を備えている。そして(1)ネイル挿入工程と、(2)ラグスクリュー用下穴形成工程と、(3)ラグスクリュー設置工程については上記実施の形態と概ね同様であるのでここでの説明は省略し、ここでは(4)セットスクリュー設置工程に絞って説明する。
【0030】
(4)セットスクリュー設置工程(図9参照)
セットスクリュー設置工程はネイル3に対するセンタリングスリーブ7の取付位置を調節したい場合にセンタリングスリーブ7の外周面に刻設されている雄ネジ部31にセットスクリュー9の先端部10を当接させてセンタリングスリーブ7を任意の位置に固定する工程である。
先ず、本工程を実施するに先立ってセンタリングスリーブ7のネイル3に対する取付位置を所望の位置に調節しておく。続いて図9(a)に示すように収容室11の上部開口13から締付け工具35を入れてセットスクリュー9を締め付けて行く。
【0031】
セットスクリュー9はネイル3に形成されているネジ孔33に螺合しながら下方に向けて移動し、その先端部10が上記センタリングスリーブ7の雄ネジ部31に当接することによってセンタリングスリーブ7の固定が実行される。
次に、締付け工具35を収容室11から取り出し、プラグ15を収容室11の開口13に嵌めれば図9(b)に示すようにセットスクリュー9の設置が完了する。
そして、このような構成の本実施の形態によっても上記実施の形態と同様の作用効果が奏される。又、センタリングスリーブ7の雄ねじ部31と傾斜貫通孔27の雌ねじ部29の螺合構造によってセンタリングスリーブ7の位置は固定されることになり、それによってラグスクリュー5の回旋を防止することはできるが、上記セットスクリュー9による作用によってその固定がさらに強固なものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は骨折部位の接合に使用される髄内釘の製造、使用分野等において利用でき、特に取り付けが容易で、術後のラグスクリューの緩みが少なく、使用者の骨折状況や体格の違いに対応したい場合に利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示す図で、髄内釘の使用状態を示す正面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態を示す図で、髄内釘を示す分解斜視図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態を示す図で、ラグスクリュー及びセンタリングスリーブの取付け部位周辺を拡大して示す正断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態を示す図で、髄内釘を使用した骨折部位の接合方法におけるネイル挿入工程を示す説明図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態を示す図で、髄内釘を使用した骨折部位の接合方法におけるラグスクリュー用下穴形成工程を示す説明図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態を示す図で、髄内釘を使用した骨折部位の接合方法におけるラグスクリュー設置工程を示す説明図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態を示す図で、ラグスクリュー用下穴形成工程で使用するラグスクリュー深さ設定リーマを示す側面図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態を示す図で、ラグスクリュー設置工程で使用するラグスクリューレンチを示す側面図である。
【図9】本発明の第2の実施の形態を示す図で、髄内釘を使用した骨折部位の接合方法におけるセットスクリュー設置工程を示す説明図である。
【符号の説明】
【0034】
1 髄内釘、3 ネイル、5 ラグスクリュー、7 センタリングスリーブ、9 セットスクリュー、10 先端部、11 収容室、13 開口、15 プラグ、17 固定スクリュー、21 近位大径部、23 遠位小径部、25 中間部、
27 傾斜貫通穴、29 雌ネジ部、31 雄ネジ部、33 ネジ孔、35 締付け用工具、37 雌ネジ部、39 雄ネジ部、41 打込み工具、42 係合凸部、43 係合凹部、45 貫通孔、47 浅溝、49 固定穴、51 捩込み用スクリュー、53 ラグスクリュー用下穴、55 貫通孔、57 軸部、
59 切込み刃、61 歯部、63 シャンク部、65 抜止めストッパー、67 角穴、69 係合軸部、71 係合構造、73 テーパーロック構造、75 大径部、77 ラグスクリューレンチ、79 第1係止部、81 第1係止受け部、83 第2係止部、85 第2係止受け部、87 ネイル用下穴形成ドリル、89 ネイル用下穴、91 ラグスクリュー深さ設定リーマ、93 内刃、95 外刃、97 固定ノブ、101 内レンチ、103 外レンチ、105 固定ノブ、107 ハンドル、A 大腿骨、B 頸部、C 骨折部位、D 骨頭部、E 骨幹部、F 近位、G 遠位、H 骨内腔、θ 傾斜角



【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨折した骨内腔に挿入されるネイルと、
上記ネイルに形成されている傾斜貫通孔に挿嵌され、先端部に設けられているねじ込み用スクリューによって骨頭部に対してねじ込まれるラグスクリューと、
上記ネイルとラグスクリューとの間に設けられ、内周面に上記ねじ込み用スクリュー後方のシャンク部と係合してラグスクリュー単独での軸方向の摺動は許容するが、ラグスクリュー単独での軸回りの回転は規制する係合構造を有すると共に、外周面に上記傾斜貫通孔に刻設されている雌ネジ部と螺合する雄ネジ部と、該雄ネジ部の後部切上り部に設けられるテーパーロック構造とを備えるセンタリングスリーブと、を具備し、
上記雌ネジ部及び雄ネジ部のネジ条数は上記ねじ込み用スクリューのネジ条数のn(nは2以上の自然数)倍であり、上記雌ネジ部及び雄ネジ部のネジピッチは上記ねじ込み用スクリューのネジピッチの1/n(nは2以上の自然数)倍に設定されていることを特徴とする髄内釘。
【請求項2】
請求項1に記載の髄内釘において、
上記シャンク部の外周面は断面6角形状に形成されており、上記センタリングスリーブの内周面に設けられる係合構造は上記シャンク部の外周面と係合する断面6角形状の角穴によって形成されていることを特徴とする髄内釘。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の髄内釘において、
上記シャンク部の後端部には該シャンク部に挿嵌された上記センタリングスリーブのシャンク部からの脱落を防止する抜止めストッパーが設けられていることを特徴とする髄内釘。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れかに記載の髄内釘において、
上記シャンク部の後端部にはラグスクリューの到達深さを固定した状態でラグスクリューを締め付け固定することができるラグスクリューレンチの第1係止部に係止される第1係止受け部が設けられており、
上記センタリングスリーブの後端部には上記ラグスクリューレンチの第2係止部に係止される第2係止受け部が設けられていることを特徴とする髄内釘。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れかに記載の髄内釘において、
上記ネイルには上記傾斜貫通孔の内周面に到達するネジ孔と、該ネジ孔に螺合するセットスクリューが設けられており、上記セットスクリューの先端部を上記センタリングスリーブの外周面に刻設されている雄ネジ部に当接させることにより上記センタリングスリーブの取付位置を固定するように構成したことを特徴とする髄内釘。
【請求項6】
請求項1〜請求項4に記載の髄内釘を使用して骨折部位を接合する骨折部位の接合方法であって、
骨折した骨内腔にネイルを挿入して骨幹部に固定するネイル挿入工程と、
ラグスクリュー深さ設定リーマを使用してラグスクリューを挿嵌する所定深さのラグスクリュー用下穴を形成するラグスクリュー用下穴形成工程と、
センタリングスリーブが装着されたラグスクリューを上記ラグスクリュー用下穴を案内にしながらラグスクリューレンチを使用して骨頭部にねじ込んで行き、所定の深さで締め付け固定するラグスクリュー設置工程と、
を具備したことを特徴とする髄内釘を使用した骨折部位の接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−112594(P2009−112594A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−290249(P2007−290249)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(597101579)株式会社ホリックス (6)
【Fターム(参考)】