説明

高い保持能力を備える寛骨臼カップ

本発明は寛骨臼に関し、寛骨臼は実質的に半球形の関節腔(1c)を有する関節インサート(1)と、関節腔(1c)内に係入される球形ヘッド(2)とを含む。本発明によれば、保持手段(10a)が、関節インサート(1)の関節腔(1c)からの球形ヘッド(2)の軸方向の解放(4)に抗する。例えば、保持手段は、関節インサート(1)の逆テーパ区域(10a)の形態を取り得る。関節インサート(1)を一時的に加熱し且つ組立て後に殺菌を行うことによって、球形ヘッド(2)は工場内で関節インサート(1)内に取り付けられる。このようにして、脱臼の危険性を低減するために、関節インサート(1)内での球形ヘッド(2)保持能力は実質的に増大される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、股関節の天然の寛骨臼を置換する人工の寛骨臼に関する。
【背景技術】
【0002】
完全股関節人工器官(total hip prosthesis)は、玉継手を構成する2つの部分、即ち、患者の骨盤内に移植されることが意図される第一部分と、大腿骨内に移植されることが意図される第二部分とを含む。
【0003】
人工器官の第一部分は、大腿骨の髄管内に係入することが意図されるステムを概ね有し、その近位端部は、頚部によって、継手の雌部分内に係入することが意図される球形頭部に接続される。
【0004】
概ね寛骨臼(acetabulum)と呼ばれる人工器官の第二部分は、骨盤内に移植されなければならず、半球形の挿入カップを含むのが普通である。挿入カップは、骨盤骨の準備された杯状窩(cotyloid cavity)内に配置され、球形ヘッドを受け入れるよう設計される関節インサートが挿入カップ内に配置される。
【0005】
既知の装置では、単一移動性の寛骨臼と、二重移動性の寛骨臼と、可動カップを備える寛骨臼との間の区別を行い得る。
【0006】
単一移動性の寛骨臼では、ポリエチレン又はセラミックインサートが挿入カップ内に固定され、同軸で実質的に半球形の関節腔を有し、人工器官の第一部分の球形ヘッドの係合及び旋回を許容する。
【0007】
次に、人工器官の第一部分の球形ヘッドと関節インサートの関節腔との間で継手の回転運動が起こる。
【0008】
二重移動性の寛骨臼において、関節インサート自体は、挿入カップ内に回転可能に取り付けられ、それによって、挿入カップと関節インサートとの間の第一摺動表面と、関節インサートと球形ヘッドとの間の第二摺動表面とをもたらす。
【0009】
可動カップを備える寛骨臼において、セラミック製の関節インサートは、患者の骨盤の杯状窩内に直接的に回転可能に取り付けられるよう、球形の外表面を有する。代替的に、ポリエチレン製の関節インサートが金属カップ内に固定的に係入され、金属カップは、球形の外表面を有し、それ自体、患者の骨盤の杯状窩内に回転可能に取り付けられる。
【0010】
従って、股関節人工器官の使用中の主要な問題は、脱臼の危険性である。脱臼は、関節腔からの球形大腿骨頭の解放を意味する。
【0011】
脱臼の危険性を低減するための様々な手段が既に提案されている。
【0012】
例えば、二重移動性の寛骨臼は、脱臼の危険性を僅かに低減するという効果を有する。しかしながら、この低減は不十分である。
【0013】
ヘッドが半球よりも僅かに大きな球形キャップに亘って係合されるよう、脱臼の危険性を低減する追加的な手段が、関節インサートの関節腔の深さの増大の形態において提案されている。その場合には、実際には、力を用いてヘッドを関節腔内に係入させることが必要であり、これはプレス型の特殊工具を必要とする。
【0014】
従来、継手の雌部分の球形ヘッドは、交換可能な素子を形成し、交換可能な素子は、ネックの端部に取り付けられ、人工器官を移植するときに、異なる直径を備え且つネックが係合させられる異なる深さの座を備える一連のヘッドの中から適切なヘッドを単に選択することによって、開業医(practitioner)がヘッドの直径及びネックの長さを容易に採用することを可能にする。開業医によるヘッドの選択は、人工器官を受け入れる患者の特定の解剖学的特徴に従って必要的に行われる。
【0015】
従って、これはプレス型の工具を用いてヘッドを関節寛骨臼の関節腔内に力を用いて係入させなければならい者が開業医であることを意味する。この力を用いた係合の操作は、ヘッドの外表面及び関節インサートの内表面を損傷させる相当な危険性を提示するので、その場合には、関節表面は劣化され、よって、人工器官の寿命を減少させる。
【0016】
加えて、これはプレス型の比較的基本的な工具を使用して手術室内で開業医によって行われる手術であるので、関節寛骨臼の腔内にヘッドを係入させるための許容可能な力は必要的に限定され、これは同時に関節インサート内でのヘッドの保持能力も制限する。従って、この保持能力を増大する必要が依然としてある。
【0017】
文献DE4102510A1の教示は、寛骨臼の連続の形態の保持手段を提供することによって、ヘッドが関節インサート内に保持される力を増大することを開示しており、保持手段は、その腔の角度をその周縁の一部で180°を超えて増大させる。しかしながら、文献は、その結果としての、ヘッドを導入する困難性の解決策を記載していない。
【0018】
代替的に、関節インサートの腔の入口に形成される溝内に保持リングを適合させることによって、関節インサート内でのヘッドの保持力を増大することが提案されている。リングは、ポリエチレン製である。それは分割されてよく、或いは、文献WO88/07845A1に記載されるように、スナップ嵌め手段を有し得る。その横方向スリット又はそのスナップ嵌め手段の故に、並びに、ポリエチレンは比較的弾性材料であるので、リングを腔の入口内に導入するために、その直径を減少させることによって、リングを容易に変形可能であり、次に、リングがその初期的な直径を回復し且つ関節インサートの対応する溝内のその周縁と係合するよう、リングは弛緩させられる。その場合には、リングは、関節インサートからのヘッドの引き抜きに抗する。しかしながら、関節インサートからヘッドを引き抜く傾向を有する力である場合には、保持リングそれ自体が排出される危険性が依然としてある。これはリングの可撓性の故であり、それは横方向スリットの存在の結果である。結果的に、保持能力は依然として不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、ヘッドを関節インサート内に適合させるために開業医が手術室内で利用可能な全ての手段が十分な保持能力を許容せず、殺菌はこの保持能力に対して否定的な影響を有するようである、という考察に由来する。
【0020】
本発明によって取り扱われる問題は、殺菌がこの保持能力に対して有する否定的な影響を回避することによって、脱臼の如何なる危険性をも排除するよう、極めて増大された保持能力を備える寛骨臼を提供することによって、股関節人工器官の脱臼の危険性を実質的に低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
よって、これらの目的及び他の事柄を達成するために、本発明は、
− 収容面を備え、実質的に半球形の凹状の関節表面を備える関節腔が収容面内に開口する、関節インサートと、
− 関節インサートの関節腔内に係入し得る球形ヘッドと、
− 球形ヘッドが関節腔内に係入されるときに関節インサートの関節腔からの球形ヘッドの軸方向の解放に抗する保持手段とを含み、
− 関節インサート及び球形ヘッドから成る組立体が殺菌状態で防護外被内に包装され、
− 防護外被内で、球形ヘッドは関節インサートの関節腔内に係入され、保持手段によって保持される、
人工股関節寛骨臼を提案する。
【0022】
この構成は、工場内で製造するときに寛骨臼を組み立て、関節インサート内への球形ヘッドの適合を含む組立てステップの後に殺菌を行うことを可能にする。本発明によれば、2つの素子の少なくとも一方がポリエチレン又は他の均等なプラスチック材料で作製され、且つ、それが事前に殺菌ステップに晒されるならば、素子を次々に強制的に係合することを含む組立てステップは、2つの素子の少なくとも一方の機械的特性を減少することが分かった。よって、組み立て後に殺菌ステップを行うことは、素子の機械的特性に損傷を与えることを回避し、関節インサート内での球形ヘッドの保持能力を増大する。
【0023】
保持能力の増大を試験において実証することができ、その結果を後に本記載中に示す。
【0024】
実際には、これらの構成の故に、保持手段によって加えられる球形ヘッドを保持する力は、所定の力閾値よりも大きくあり得る。人工器官を形成する素子の所与の材料及び所与の幾何学的構成に関して、この力閾値は現時点で既知の装置によって得られる保持力よりも相当に大きい。
【0025】
第一実施態様によれば、関節腔及び保持手段内で、球形ヘッドは半球体よりも大きい球形キャップに亘って係合される。
【0026】
球形キャップは、190°よりも大きい角度だけ有利に延在し得る。
【0027】
このようにして、ポリエチレン又は他の均等なプラスチック材料で作製され且つ関節表面内に保持区域アンダーカットを有する関節インサート自体によって保持手段を形成し得る。
【0028】
この場合、挿入カップ内に回転可能に取り付けられるために、並びに、それによって、二重移動性の寛骨臼を構成するために、関節インサートは、球形キャップの形状の外表面も有し得る。
【0029】
他の実施態様によれば、保持手段は、連続的な環状リングを含む。管状リングは、球冠の形状の保持表面を有し、球形ヘッドに対して遊びを伴って機能的に係合可能であり、且つ、連続的な環状リングの引抜け(withdrawal)を防止するために、関節インサートの対応する凹部又は関節インサートを取り囲む周辺カップの対応する凹部と機能的にインターロックし得る周辺固定突起を有する。
【0030】
連続的な環状リング内の横方向スリットの不存在は、大きな剛性を備えるリングをもたらし、球形ヘッドが関節インサートから引き抜かれる事態において、それはリング自体の引抜けの危険性を回避させる。
【0031】
この場合には、連続的な環状リングをポリエチレン又は他の均等なプラスチック材料で有利に作製し得る。
【0032】
第二実施態様では、保持手段を構成する環状リングの連続性の故に、並びに、球形キャップの190°よりも大きな角度の故に(球形ヘッドは球形キャップに亘って関節腔及び保持手段内に係入される)、関節インサート内での球形ヘッドの高い保持能力が達成される。
【0033】
本発明によれば、関節インサートの腔内に係入され且つ保持手段によって保持される球形ヘッドを備える本発明に従った人工股関節寛骨臼を製造するための組立て方法を利用可能にすることによって、この保持能力は更に一層増大され、当該方法は、寛骨臼の構成部品を殺菌するステップと、関節インサート及び保持手段内への球形ヘッドの適合を含む組立てステップとを有し、当該方法において、殺菌ステップは、組立てステップの後に行われる。
【0034】
関節インサート及び保持手段内への球形ヘッドの係入後に組み立てられるべき素子の機械的特性の低下を更に低減又は回避するために、組立てステップの間、保持手段が示差熱応力(differential thermal stress)に有利に晒されることが可能である。組み立てを容易化するために、それはその寸法を一時的に修正し、次に、組立て後、関節インサートからの球形ヘッドの引き抜けに抗するために、保持手段は室温に戻ることが許容される。
【0035】
第一実施態様によれば、この方法において、
− 保持手段は、ポリエチレン又は他の均等なプラスチック材料から成る関節インサート自体であり、
− 関節インサートの内径を増大し、それによって、球形ヘッドの軸方向の導入を容易化するために、示差熱応力は、関節インサートを加熱することを含む。
【0036】
他の実施態様によれば、この方法において、
− 保持手段は、ポリエチレン又は他の均等なプラスチック材料から成る連続的な環状リングであり、
− 環状リングの内径を減少し、それによって、関節インサート又は周辺カップの対応する凹部内への環状リングの周辺突起の係入を容易化するために、示差熱応力は、連続的な環状リングを冷却することを含む。
【0037】
本発明の他の目的、機能、及び、利点は、添付の図面を参照して行われる具体的な実施態様の以下の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の第一実施態様に従った人工股関節寛骨臼を示す斜視図である。
【図2】本発明の第一実施態様に従った人工股関節寛骨臼を示す正面図である。
【図3】本発明の第一実施態様に従った人工股関節寛骨臼を示す横断面図である。
【図4】図1乃至3中の実施態様からの球形ヘッドのような球形ヘッドを示す斜視図である。
【図5】図1乃至3中の実施態様からの球形ヘッドのような球形ヘッドを示す正面図である。
【図6】図1乃至3中の実施態様からの球形ヘッドのような球形ヘッドを示す横断面図である。
【図7】図1乃至3からの人工寛骨臼の関節インサートを示す斜視図である。
【図8】図1乃至3からの人工寛骨臼の関節インサートを示す正面図である。
【図9】図1乃至3からの人工寛骨臼の関節インサートを示す横断面図である。
【図10】使用場所に配置するために防護外被内に殺菌状態において包装された関節インサートと球形ヘッドとから成る組立てユニットを示す斜視図である。
【図11】使用場所に配置するために防護外被内に殺菌状態において包装された関節インサートと球形ヘッドとから成る組立てユニットを示す正面図である。
【図12】使用場所に配置するために防護外被内に殺菌状態において包装された関節インサートと球形ヘッドとから成る組立てユニットを示す横断面図である。
【図13】本発明の第二実施態様に従った人工股関節寛骨臼を示す斜視図である。
【図14】本発明の第二実施態様に従った人工股関節寛骨臼を示す正面図である。
【図15】本発明の第二実施態様に従った人工股関節寛骨臼を示す横断面図である。
【図16】本発明の第三実施態様に従った可動カップ型の人工寛骨臼を示す斜視図である。
【図17】本発明の第三実施態様に従った可動カップ型の人工寛骨臼を示す正面図である。
【図18】本発明の第三実施態様に従った可動カップ型の人工寛骨臼を示す横断面図である。
【図19】本発明の第四実施態様に従った可動カップ型の人工股関節寛骨臼を示す斜視図である。
【図20】本発明の第四実施態様に従った可動カップ型の人工股関節寛骨臼を示す正面図である。
【図21】本発明の第四実施態様に従った可動カップ型の人工股関節寛骨臼を示す横断面図である。
【図22】連続的な環状リングを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
図1乃至12を参照すると、それらは本発明の第一実施態様に従った二重移動性の人工の寛骨臼(acetabulum)の構造を例示している。
【0040】
完全な組立て後、人工の寛骨臼は、図1乃至3に例示されるようである。人工の寛骨臼は、関節インサート1と、球形ヘッド2と、挿入カップ3とを含む。
【0041】
挿入カップ3は、金属製である。挿入カップ3は、凸状の外側固定面3aを有し、外側固定面3aは、実質的に半球形であり、患者の骨盤内の杯状窩(cotyloid cavity)内に固定されるよう設計される。図1及び2中により明瞭に見ることができるように、外側固定面3aは、骨盤の杯状窩内でのその固定を容易化する突起3bを有利に有する。挿入カップ3は、球形の内側収容面3cを有し、内側収容面3cは、関節インサート1を収容する関節表面を構成するよう鏡面磨きされる。関節インサート1は、ポリエチレン又は他の均等なプラスチック材料で作製される。関節インサート1が挿入カップ3内で旋回するのを許容するために、関節インサート1は、挿入カップ3の内側収容面3c内に係入する球形の外側面1aを有する。関節インサート1は、収容面1bを有し、実質的に半球形の凹状の関節表面1dを備える関節腔1cが収容面1b内に開口している。
【0042】
球形ヘッド2は、関節インサート1の関節腔1c内に係入され、球形ヘッド2は、矢印4によって例示される引抜き力の効果の下のその軸方向解放に抗する保持手段によって、関節腔1c内に保持される。
【0043】
この実施態様において、保持手段は、関節インサート1自体によって形成され、関節インサート1は、この目的のために、190°よりも大きい角度Aだけ延在する関節表面1dを有する。190°よりも大きい角度Aの値の故に、関節表面1dは、アンダーカット区域10aを有し、アンダーカット区域10aは、収容面1bに向かって狭い。これは関節インサート1の開口の直径D1が球形ヘッド2の直径D2よりも小さく、従って、高い値より上の引抜き力4の効果の下でのみ球形ヘッド2を関節腔1cから解放し得るという結果を有する。
【0044】
球形ヘッド2は、球形の外側関節表面2aを有し、よって、外側関節表面2aは、角度Aだけ延在し、半球よりも大きい球形キャップ2bに亘って関節腔1c内に係入される。
【0045】
球形ヘッド2をセラミック又は金属で作製し得る。コストの観点から、金属が好ましい。金属は、例えば、ステンレス鋼又はチタンであり得る。同じことが挿入カップ3にも当て嵌まる。
【0046】
球形ヘッド2は、力を伴って股関節人工器官の第一部分のネック端部を収容する切頭円錐形の凹部2cを有する。
【0047】
図4乃至6は、寛骨臼の他の素子から隔離された球形ヘッド2の構造をより明らかに示している。同じ素子は、図1乃至3におけると同じ参照番号によって示されている。
【0048】
図7乃至9は、寛骨臼の他の素子から隔離された関節インサート1の構造をより明らかに示している。同じ素子は、図1乃至3におけると同じ参照番号によって示されている。
【0049】
図9は、関節表面1dと、線OX及びOYによって示されるコーンによって制限される球形キャップ2bに対応する関節表面の部分とをより明らかに示しており、コーンの頂点は、球形ヘッド2及び関節表面1dの中心Oにある。この球形キャップ2bは半球よりも大きく、角度A又は図3において球形ヘッド2が関節インサート内に係入される角度だけ延在している。コーンOX−OYとの交点に対して直角に、関節表面1dの後には直径D1の円錐形区画1eが続き、次に、収容面1bと接合する斜縁部が続く。
【0050】
本発明によれば、関節インサート1及び球形ヘッド2は工場で組み立てられ、次に、図10乃至12に例示されるように、殺菌されて防護外被5内に包装される。挿入カップ3は、別個に包装される。
【0051】
寛骨臼を使用するために、開業医は、治療されるべき患者に形成される杯状窩の形態に適した挿入カップ3を選択し、関節インサート1と、球形ヘッド2であって、その凹部2cが治療されるべき患者の解剖学的特徴の機能に応じて人工器官の第一部分の長さを調節するのに適した球形ヘッド2とを選択し、患者の骨盤内に形成される杯状窩内に挿入カップ3を配置し、そして、球形ヘッド2を関節インサート1内に力で嵌入させる必要を伴わずに、股関節人工器官の他の素子を組み立てる。
【0052】
図13乃至15に例示されるような本発明の人工股関節寛骨臼の第二実施態様を今や記載する。
【0053】
この実施態様も、球形ヘッド2を収容し且つ保持する関節インサート1を有する。関節インサート1は、回転を伴って中間インサート6内に係入され、中間インサート6自体は、挿入カップ3内に固定的に係入される。
【0054】
この実施態様では、球形ヘッド2、関節インサート1、及び、中間インサート6をセラミックで作製し得る。挿入カップ3は、金属、例えば、ステンレス鋼又はチタン製である。
【0055】
球形ヘッド2は、図1乃至12における実施態様中のヘッド2と同じ形状を有する。
【0056】
関節インサート1が関節表面1dと、関節腔1cと、球形ヘッド2を係入する収容面1bと、球形の外側表面1aとを再び有する点で、関節インサート1は、図1乃至12中の先行する実施態様中の関節インサートに類似する。
【0057】
この第二実施態様における相違は、本質的には、保持手段の構造にある。
【0058】
この場合、保持手段は、連続的な環状リング10bを含み、連続的な環状リング10bは、球形ヘッド2に対して遊び10dを伴って機能的に係合し得る球冠の形状の保持表面10cを有し、関節インサート1の対応する凹部1fと機能的にインターロックし得る周辺的な固定突起10eを有する。
【0059】
実際には、連続的な環状リング10bは、関節インサート1の関節腔1cの入口に形成される対応する形状の座内に係入される。周辺突起10eは、例えば、連続的な環状リング10bの周辺リブを含み、周辺リブは、関節インサート1の対応する環状溝内に係入する。連続的な環状リング10bが関節インサート1内に配置されるとき、その保持表面10cは、球形ヘッド2を関節インサート1の関節腔1cの内側に保持するアンダーカット区域を構成する。
【0060】
図1乃至12中の実施態様におけるように、人工器官が移植されるとき、開業医が球形ヘッド2を力で関節インサート1内に嵌入する必要がないよう、関節インサート1及び球形ヘッド2は、連続的な環状リング10bを所定位置に備えた状態で、防護外被内で組み立てられ且つ殺菌された状態で出荷される。
【0061】
図16乃至18に例示されるような本発明に従った人工器官股関節寛骨臼の第三実施態様を今や記載する。この実施態様も、先行する実施態様におけるヘッドと同じ球形ヘッド2と、関節インサート1と、カップ3とを有する。第一の相違は、患者の杯状窩内に係入し且つ旋回し得る摺動表面を構成するために、カップ3が可動カップであり、その外側面3aが球形であり且つ滑らかであるという事実にある。
【0062】
この実施態様において、関節インサート1の関節表面1dは、半球形である。関節インサート1は、ポリエチレン又は他の均等なプラスチック材で作製され、カップ3内に固定的に係入される。再び、保持手段は、図13乃至15中の実施態様における環状リングと類似する連続的な環状リング10bであり、球形ヘッド2に対して遊び10dを伴って機能的に係合し得る球冠の形状の保持表面10cを備え、周辺固定突起10eを有する。
【0063】
この場合、周辺突起10eは、カップ3の腔内に形成される凹部3f内にある。よって、連続的な環状リング10bは、カップ3によって保持される。球冠の形状のその保持表面10cは、関節表面1dのアンダーカット区域を構成し、それは関節インサート1からの球形ヘッド2の引き抜きに抗する。
【0064】
図19乃至21は、本発明に従った人工器官股関節寛骨臼の第四実施態様を例示している。再び、この実施態様は、先行する実施態様における球形ヘッドと同じ球形ヘッド2を有する。関節インサート1はセラミック製であり、実質的に半球形の関節表面1dを有する。患者の骨盤内の杯状窩内で旋回し得る関節表面を構成するよう、セラミック製の関節インサート1の外表面1aは球形である。
【0065】
この実施態様において、保持手段は、再び、ポリエチレン又は他の均等なプラスチック材料で作製される連続的な環状リング10bによって形成され、関節表面1dのアンダーカット区域を構成する球冠の形状の保持表面10cを備え、関節インサート1の対応する凹部1fと機能的に係止する周辺固定突起を備える。このようにして、セラミック製の可動カップを備える寛骨臼が得られる。
【0066】
図22は、斜視図において、環状リング10bの連続性を例示しており、環状リング10bは、図13乃至21中の実施態様において使用されるリングに類似している。
【0067】
既述の全ての実施態様において、保持手段は、ポリエチレン又は均等なプラスチック材料で作製される構成部品であり、球形ヘッド2を関節インサート1内に嵌入するとき、この構成部品は変形されなければならない。例えば、ポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等を使用することが可能である。
【0068】
関節インサート1を拡張し、それによって、球形ヘッド2の挿入を容易化するために、図1乃至3中の実施態様では、関節インサート1の口を変形することが必要である。
【0069】
他の実施態様では、関節インサート1又は周辺カップ3内への連続的な環状リングの係入を容易化するために、連続的な環状リング10bを収縮することが必要である。
【0070】
この目的のために、保持手段は示差熱応力(differential thermal stress)に晒され、それは保持手段の寸法を一時的に変更し、よって、その組立てを容易化する。組立て後、保持手段は室温に戻ることが許容され、保持手段はその元の形状を回復し、次に、関節インサート1からの球形ヘッド2の引き抜きに抗する。
【0071】
関節インサート1自体が保持手段10aを構成し且つポリエチレンで作成される図1乃至3中の実施態様において、その内径を一時的に増大し、それによって、球形ヘッド2の軸方向の導入を容易化するために、示差熱応力は関節インサート1の加熱に存する。
【0072】
連続的な環状リング10bの形態の保持手段の場合、その外径を一時的に減少し、それによって、関節インサート1又は周辺カップ3のそれぞれの対応する凹部1f又は3f内へのリングの周辺突起10eの係合を促進するために、示差熱応力は、連続的な環状リング10bの冷却に存する。
【0073】
本発明によれば、上記に定められるような組立てステップは、球形ヘッド2と関節インサート1とから成るユニットの殺菌のステップの前に行われる。
【0074】
殺菌ステップは、ガンマ線の照射による殺菌のステップを含み得る。
【0075】
本発明によれば、殺菌前の組立体は、関節インサート内の球形ヘッドの保持能力が実質的に増大されることを可能にし、それが脱臼の危険性を低減することが分かった。
【0076】
この保持能力の増大は、以下の条件の下で、関節インサート内に係入されるヘッドに対して比較牽引試験を実行することによって実証された。
− 28mmの寸法のステンレス鋼から成るヘッド。
− 4mmの長さのアンダーカット保持区域と、48、54又は62mmの外径を備える、ポリエチレンから成る関節インサート。
− ヘッドと関節インサートとの間に加えられる軸方向の牽引力。
【0077】
以下の表は、殺菌後に関節インサート内に導入されたヘッド又は殺菌前に関節インサート内に導入されたヘッドの2つの場合の各々における、関節インサートの3つの外径に関する、関節インサートからの球形ヘッドの解放をもたらす力の限界値を示している。
【0078】
【表1】

【0079】
本発明は明示的に記載した実施態様に限定されず、その代わり、本発明は付属の請求項の範囲内に含められる様々な変更及び一般化を含む。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
収容面を備え、実質的に半球形の凹状の関節表面を備える関節腔が前記収容面内に開口する、関節インサートと、
該関節インサートの前記関節腔内に係入し得る球形ヘッドと、
前記球形ヘッドが前記関節腔内に係入されるときに前記関節インサートの前記関節腔からの前記球形ヘッドの軸方向の解放に抗する保持手段とを含み、
前記関節インサート及び前記球形ヘッドから成る組立体が殺菌状態において防護外被内に包装され、
前記防護外被内で、前記球形ヘッドは、前記関節インサートの前記関節腔内に係入され、前記保持手段によって保持されることを特徴とする、
人工股関節寛骨臼。
【請求項2】
前記保持手段によって加えられ且つ前記前記球形ヘッドを保持する前記力は、所定の力の閾値よりも大きいことを特徴とする、請求項1に記載の人工股関節寛骨臼。
【請求項3】
前記関節腔及び前記保持手段において、前記球形ヘッドは、前記半球体よりも大きい球形キャップに亘って係合されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の人工股関節寛骨臼。
【請求項4】
前記球形キャップは、190°よりも大きい角度だけ延在することを特徴とする、請求項3に記載の人工股関節寛骨臼。
【請求項5】
前記保持手段は、前記関節インサート自体によって形成され、前記関節インサートは、ポリエチレン又は他の均等なプラスチック材料で作製され、前記関節表面内にアンダーカットされる保持区域を有することを特徴とする、請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の人工股関節寛骨臼。
【請求項6】
挿入カップ内に回転可能に取り付けられために、並びに、それによって、二重移動性の寛骨臼を構成するために、前記関節インサートは、球形キャップの形状の外表面を有することを特徴とする、請求項5に記載の人工股関節寛骨臼。
【請求項7】
前記保持手段は、連続的な環状リングを含み、該環状リングは、前記球形ヘッドに対して遊びを伴って機能的に係合し得る球冠の形状の保持表面を有し、且つ、前記連続的な環状リングからの引き抜きを防止するために、前記関節インサートの対応する凹部又は前記関節インサートを取り囲む周辺カップの対応する凹部と機能的にインターロックし得る周辺固定突起を有することを特徴とする、請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の人工股関節寛骨臼。
【請求項8】
前記連続的な環状リングは、ポリエチレン又は他の均等なプラスチック材料で作製されることを特徴とする、請求項7に記載の人工股関節寛骨臼。
【請求項9】
関節インサートの腔内に係入され且つ保持手段によって保持される球形ヘッドを備える請求項1乃至8のうちのいずれか1項に記載の人工股関節寛骨臼を製造するための組み立ての方法であって、当該方法は、前記寛骨臼の前記構成部品を殺菌するステップと、前記球形ヘッドを前記関節インサート及び前記保持手段内に適合させる組立てステップとを含み、前記殺菌するステップは、前記組立てステップの後に行われることを特徴とする、方法。
【請求項10】
前記組立てステップの間、前記保持手段は、示差熱応力に晒され、それは、組立てを容易にするために、前記保持手段の寸法を一時的に変更し、次に、組立て後、前記保持手段は、前記関節インサートからの前記球形ヘッドの引き抜きに抗するよう、室温に戻ることが許容されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記保持手段は、前記関節インサート自体であり、前記関節インサートは、ポリエチレン又は他の均等なプラスチック材料で作製され、前記示差熱応力は、前記関節インサートの内径を増大し、それによって、前記球形ヘッドの軸方向の導入を容易化するために、前記関節インサートを加熱することを含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記保持手段は、ポリエチレン又は他の均等なプラスチック材料で作製される連続的な環状リングであり、前記示差熱応力は、前記連続的な環状リングの内径を減少し、それによって、前記関節インサートの前記対応する凹部又は前記周辺カップの前記対応する凹部内への前記リングの前記周辺突起の係入を容易化するために、前記連続的な環状リングを冷却することを含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate


【公表番号】特表2013−507166(P2013−507166A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532710(P2012−532710)
【出願日】平成22年10月12日(2010.10.12)
【国際出願番号】PCT/IB2010/054603
【国際公開番号】WO2011/045737
【国際公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(509191757)
【Fターム(参考)】